(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明する、発明を実施するための形態は、実際の製品として要望されている色々な課題を解決しており、特に車両の吸入空気量を計測する計測装置として使用するために望ましい色々な課題を解決し、色々な効果を奏している。以下の実施形態で、同一の参照符号は、図番が異なっていても同一の構成を示しており、同じ作用効果を成す。既に説明済みの構成について、図に参照符号のみを付し、説明を省略する場合がある。
【0011】
--実施形態1--
<内燃機関制御システムに本発明の流量センサを使用した一実施の形態>
図1は、電子燃料噴射方式の内燃機関制御システムに、本発明に係る流量センサを使用した一実施の形態を示す、システム図である。エンジンシリンダ112とエンジンピストン114を備える内燃機関110の動作に基づき、吸入空気が被計測気体30としてエアクリーナ122から吸入され、主通路124である例えば吸気ボディ、スロットルボディ126、吸気マニホールド128を介してエンジンシリンダ112の燃焼室に導かれる。燃焼室に導かれる吸入空気である被計測気体30の流量は本発明に係る流量センサ300で計測される。計測された流量に基づいて燃料噴射弁152より燃料が供給され、吸入空気である被計測気体30と共に混合気の状態で燃焼室に導かれる。流量センサ300は、典型的には、被計測気体との間で熱伝達を行うことにより副通路を流れる被計測気体の状態を計測する熱式流量センサである。
【0012】
なお、本実施形態では、燃料噴射弁152は内燃機関の吸気ポートに設けられ、吸気ポートに噴射された燃料が吸入空気である被計測気体30と共に混合気を形成する。混合気は、吸気弁116を介して燃焼室に導かれ、燃焼して機械エネルギーを発生する。
【0013】
近年、多くの車では排気浄化や燃費向上に優れた方式として、内燃機関のシリンダヘッドに燃料噴射弁152を取り付け、燃料噴射弁152から各燃焼室に燃料を直接噴射する方式が採用されている。本発明の流量センサ300は、
図1に示す内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射する方式だけでなく、各燃焼室に燃料を直接噴射する方式にも同様に使用できる。両方式とも流量センサ300の使用方法を含めた制御パラメータの計測方法および燃料供給量や点火時期を含めた内燃機関の制御方法の基本概念は略同じであり、両方式の代表例として吸気ポートに燃料を噴射する方式を
図1に示す。
【0014】
燃焼室に導かれた燃料および空気は、燃料と空気の混合状態を成しており、点火プラグ154の火花着火により、爆発的に燃焼し、機械エネルギーを発生する。燃焼後の気体は排気弁118から排気管に導かれ、排気24として排気管から車外に排出される。燃焼室に導かれる吸入空気である被計測気体30の流量は、アクセルペダルの操作に基づいてその開度が変化するスロットルバルブ132により制御される。燃焼室に導かれる吸入空気の流量に基づいて燃料供給量が制御される。運転者はスロットルバルブ132の開度を制御して燃焼室に導かれる吸入空気の流量を制御することにより、内燃機関が発生する機械エネルギーを制御することができる。
【0015】
エアクリーナ122から取り込まれ主通路124を流れる吸入空気である被計測気体30の流量および温度が、流量センサ300により計測される。流量センサ300から吸入空気の流量および温度を表す電気信号が制御装置200に入力される。また、スロットルバルブ132の開度を計測するスロットル角度センサ144の出力が制御装置200に入力される。さらに内燃機関のエンジンピストン114や吸気弁116や排気弁118の位置や状態、さらに内燃機関の回転速度を計測するために、回転角度センサ146の出力が、制御装置200に入力される。排気24の状態から燃料量と空気量との混合比の状態を計測するために、酸素センサ148の出力が制御装置200に入力される。
【0016】
制御装置200は、流量センサ300の出力である吸入空気の流量、および回転角度センサ146の出力に基づき計測された内燃機関の回転速度、に基づいて燃料噴射量や点火時期を演算する。これら演算結果に基づいて、燃料噴射弁152から供給される燃料量、また点火プラグ154により点火される点火時期が制御される。燃料供給量や点火時期は、実際にはさらに流量センサ300で計測される吸気温度やスロットル角度の変化状態、エンジン回転速度の変化状態、酸素センサ148で計測された空燃比の状態に基づいて、きめ細かく制御されている。制御装置200はさらに内燃機関のアイドル運転状態において、スロットルバルブ132をバイパスする空気量をアイドルエアコントロールバルブ156により制御し、アイドル運転状態での内燃機関の回転速度を制御する。
【0017】
<流量センサ300の全体構成>
図2および
図3は、流量センサ300の外観を示す図であり、
図2(A)は流量センサ300の左側面図、
図2(B)は正面図、
図3(A)は右側面図、
図3(B)は背面図である。
流量センサ300は、ハウジング302と表カバー303と裏カバー304とから構成される筐体301を備えている。ハウジング302と表カバー303、およびハウジング302と裏カバー304とは、レーザ照射により溶着されている。溶着に関する構造及び方法については後述する。ハウジング302は、流量センサ300を主通路124である吸気ボディに固定するためのフランジ312と、外部機器との電気的な接続を行うための外部端子を有する外部接続部305と、流量等を計測するための計測部310を備えている。
【0018】
計測部310の内部には、副通路を作るための副通路溝が設けられている。さらに計測部310の内部には、主通路124を流れる被計測気体30の流量を計測するための流量検出部436(
図4(B)等参照)や主通路124を流れる被計測気体30の温度を計測するための温度検出部452(
図4(B)等参照)を備える回路パッケージ400(
図4(B)等参照)が設けられている。
【0019】
流量センサ300の計測部310はフランジ312から主通路124の中心方向に向かって長く延びる形状を成している。計測部310の先端部には吸入空気などの被計測気体30の一部を副通路に取り込むための入口350と副通路から被計測気体30を主通路124に戻すための出口352が設けられている。計測部310は主通路124の外壁から中央に向かう軸に沿って長く延びる形状を成しているが、幅は、
図2(A)および
図3(A)に記載の如く、狭い形状を成している。即ち流量センサ300の計測部310は、側面の幅が薄く正面が略長方形の形状を成している。これにより、流量センサ300は十分な長さの副通路を備えることができ、被計測気体30に対しては流体抵抗を小さい値に抑えることができる。
【0020】
流量センサ300の入口350が、フランジ312から主通路124の中心方向に向かって延びる計測部310の先端側に設けられているので、主通路124の内壁面近傍ではなく、内壁面から離れた中央部に近い部分を流れる気体を副通路に取り込むことができる。このため流量センサ300は主通路124の内壁面から離れた部分の気体の流量や温度を測定することができ、熱などの影響による計測精度の低下を抑制できる。主通路124の内壁面近傍では、主通路124の温度の影響を受け易く、気体の本来の温度に対して被計測気体30の温度が異なる状態となり、主通路124内の主気体の平均的な状態と異なることになる。特に主通路124がエンジンの吸気ボディである場合は、エンジンからの熱の影響を受け、高温に維持されていることが多い。このため主通路124の内壁面近傍の気体は、主通路124内を流れる気体の本来の気温に対して高いことが多く、計測精度を低下させる要因となる。
【0021】
主通路124の内壁面近傍では流体抵抗が大きく、主通路124の平均的な流速に比べ、流速が遅くなる。このため主通路124の内壁面近傍の気体を被計測気体30として副通路に取り込むと、主通路124内の平均的な流速に対する計測流速の低下が計測誤差につながる恐れがある。
図2及び
図3に示す流量センサ300では、フランジ312から主通路124の中央に向かって延びる薄くて長い計測部310の先端部に入口350が設けられているので、主通路124の内壁面近傍の流速低下に関係する計測誤差を低減できる。また、
図2及び
図3に示す流量センサ300では、フランジ312から主通路124の中央に向かって延びる計測部310の先端部に入口350が設けられているだけでなく、副通路の出口352も計測部310の先端部に設けられているので、さらに計測誤差を低減することができる。
【0022】
(ハウジング302の構造)
熱式の流量センサ300から表カバー303および裏カバー304を取り外したハウジング302の状態を
図4および
図5に示す。
図4(A)はハウジング302の左側面図であり、
図4(B)はハウジング302の正面図であり、
図5(A)はハウジング302の右側面図であり、
図5(B)はハウジング302の背面図である。
ハウジング302はフランジ312から計測部310が主通路124の中心方向に延びる構造を成しており、その先端側に副通路を形成するための副通路溝306、307が設けられている。副通路溝306の先端には副通路の入口350を形成するための入口溝351が形成され、副通路溝307の先端には副通路の出口352を形成するための出口溝353が形成されている。入口溝351が、ハウジング302の先端部に設けられているので、主通路124の内壁面から離れた部分の気体を、言い換えると主通路124の中央部分に近い部分を流れている気体を被計測気体30として入口350から取り込むことができる。
【0023】
ハウジング302の厚さ方向の中間部における計測部310には、基底部311が形成され、基底部311の表面側には、表側副通路外側壁391、表側副通路内側壁392および表側上部側壁393が形成されている(
図4(B)参照)。表側副通路外側壁391および表側副通路内側壁392と表カバー303とにより、被計測気体30の出口溝353と、被計測気体30を主通路124に排気する副通路溝306が形成される。また、基底部311の裏面側には、裏側副通路外側壁394、裏側副通路内側壁395および裏側上部側壁396が形成されている(
図5(B)参照)。裏側副通路外側壁394および裏側副通路内側壁395と裏カバー304とにより、被計測気体30を主通路124から取り込む入口溝351と、被計測気体30を入口溝351から流量検出部436に案内する副通路溝307が形成される。表側副通路外側壁391と裏側副通路外側壁394とは、渦巻き状の湾曲部を有し、被計測気体30を案内する。
【0024】
流量検出部436には、流量検出素子602(
図9参照)が含まれており、流量検出部436および温度検出部452は、回路パッケージ400としてハウジング302にインサート成形により一体化されている。回路パッケージ400は、ハウジング302に一体化される前に、予め、樹脂により一次モールド成形されている。一次モールド成形された回路パッケージ400の構造を説明する。
【0025】
(回路パッケージ400の構造)
図9は、
図4(B)のIX−IX線断面の一部を示す図である。
半導体素子で構成される流量検出素子602は、主通路124から取り込まれて、副通路を流れる被計測気体30との間で熱伝達を行うことにより、被計測気体30の流量を計測する素子である。
被計測気体30の流量を計測する流量検出素子602には、流量検出素子の流量検出領域(熱伝達面)437にダイヤフラムが形成されるように裏面に空隙674が形成されている。ダイヤフラム672の表面には、被計測気体30と熱のやり取りを行い、これによって流量を計測するための素子が設けられている。
【0026】
ここで、被計測気体30との熱のやり取りとは別に、ダイヤフラム672を介して素子間で熱が伝わると、正確に流量を計測することが困難となる。このためダイヤフラム672は熱抵抗を大きくする必要があり、ダイヤフラム672ができるだけ薄く作られている。
【0027】
また、回路パッケージ400は、リードに相当する第2プレート536に、連通通路を形成するための第1のプレート532が配置されている。第1プレート532には、チップ状の流量検出素子602およびLSIとして作られている処理部604が搭載されている。流量検出素子602の各端子と処理部604とがアルミパッドを介してワイヤ542で電気的に接続されている。さらに、処理部604は、アルミパッドを介してワイヤ543で第2プレート536に接続されている。さらに、第2プレート536には、端子接続部320(
図4(B)参照)と電気的に接続するための複数の接続端子412が設けられている。このような構成により、接続端子412は、処理部604を介して流量検出素子602に電気的に接続された構造となる。
【0028】
流量検出素子602は、ダイヤフラム672の熱伝達面437が露出するように、第1樹脂モールド工程により成形された回路パッケージ400の第1樹脂に埋設されて固定されている。ダイヤフラム672の表面には図示しない抵抗等の素子が設けられている。この素子は、素子表面の熱伝達面437を介して被計測気体30と互いに熱の伝達を行う。
【0029】
空隙674を外部に通気する通気通路676が形成されるように、流量検出素子602の、ダイヤフラム672の周りの領域(すなわち、流量検出素子602の上記素子が設けられている部分の周囲)、側面全周、および裏面が、第1樹脂モールド工程で使用された熱硬化性樹脂で覆われている。
ダイヤフラム672は各素子間の熱伝達を抑制するために非常に薄く作られていて、流量検出素子602の裏面に空隙674を成形することにより薄肉化が図られている。この空隙674を密閉すると温度変化により、ダイヤフラム672の裏面に形成されている空隙674の圧力が温度に基づき変化する。空隙674とダイヤフラム672の表面との圧力差が大きくなると、ダイヤフラム672が圧力を受けて歪を生じ、高精度の計測が困難となる。このため、プレート532には外部に開口する開口438に繋がる孔520と、空隙674に連通する孔521と、孔520、521を介して空隙674と外部とを繋ぐ通気通路676が設けられている。
【0030】
プレート532の上には流量検出素子602および処理部604として動作するLSIが設けられている。これらの下側には、流量検出素子602および処理部604を搭載したプレート532を支えるためのリードフレーム536が設けられている。従って、このリードフレーム536を利用することにより、構造がよりシンプルとなる。
【0031】
ハウジング302における回路パッケージ400の周囲は空洞部382とされている。
図4(B)に図示されるように回路パッケージ400は、回路パッケージ400の表裏面側に形成されたハウジング302の固定部376により固定されている。固定部376は各側壁391〜396の高さより低く形成されている。回路パッケージ400の固定部376で覆われた部分以外の部分は、空洞部382に露出されている。空洞部382に露出されている回路パッケージ400の面積は、固定部376の面積より大きい。これにより、回路パッケージ400は、固定部376を介して伝達されるハウジング302の熱の影響を受け難くなっている。
【0032】
ハウジング302の流量検出部436の近傍、固定部376の一側端には、各側壁391〜396の高さより低いスリット372が形成されている。スリット372は、回路パッケージ400に形成された開口438(
図9参照)と流量検出部436とをつなぎ、被計測気体30を通気するためのものである。
【0033】
(外部との接続構造)
回路パッケージ400をハウジング302にインサート成形する二次モールド成形の際、端子接続部320がハウジング302に一体成形される。回路パッケージ400の接続端子412と外部接続部305の外部端子内端361とは、二次モールド成形の後、配線を溶接や半田付けなどで接合される。
【0034】
この一実施の形態ではハウジング302に副通路を形成するための副通路溝306、307を設けている。表・裏カバー303、304をハウジング302の表面及び裏面に配置し、副通路溝306、307の近傍に配置した各側壁391〜396の上面に、表カバー303および裏カバー304をレーザにより溶着することにより副通路が完成する構成としている。また、ハウジング302の両面に表カバー303と裏カバー304を設けることでハウジング302の両面の副通路を完成させることができる。
【0035】
ハウジング302の各側壁391〜396は、表・裏カバー303、304とレーザ照射により溶着されるが、スリット372は溶着されず、表カバー303の裏面と0.1mm程度の隙間が空いた状態となっている。
なお、
図4(B)には、スリット372の中央部と、回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部の間との2箇所に高さ制御用凸部450が図示されているが、後述する如く、高さ制御用凸部450は表・裏カバー303、304に形成することもできる。高さ制御用凸部450については、後述する。
【0036】
図6は、
図4(B)のVI−VI線拡大断面図であり、回路パッケージ400の計測用流路面430が副通路溝の内部に配置されている状態を示す部分拡大図である。
図6の左部分が裏側の副通路溝307の終端部であり、右側部分が表側の副通路溝306の始端部分である。
上述した通り、回路パッケージ400の周囲は、空洞部382となっている。入口350から取り込まれ、裏側の副通路溝307を流れた被計測気体30は、
図6の左側から導かれる。被計測気体30の一部は、回路パッケージ400の空洞部382の上流側を介して、回路パッケージ400の計測用流路面430の表面と表カバー303に設けられた絞り部356との間の上部側流路を流れる。また、被計測気体30の残りは、回路パッケージ400の計測用流路面430とは反対側の面と裏カバー304との間の下部側流路の方を流れる。被計測気体30中に含まれる質量の小さい空気の一部は、計測用流路面430の表面と表カバー303の間の絞り部356の間の上部側流路を流れる。質量の大きい異物は慣性力によって急激な進路変更が困難なため、計測用流路面430とは反対側の面と裏カバー304との間の下部側流路を流れる。
【0037】
上・下部側流路を流れた被計測気体30は、回路パッケージ400の空洞部382の下流側を介して表側の副通路溝306の方に移り表側の副通路溝306を流れ、出口352から主通路124に排出される。スリット372を介して回路パッケージ400の開口438と流量検出部436との間を流通する被計測気体30も、空洞部382の下流側において合流し、表側の副通路溝306を流れ、出口352から主通路124に排出される。
【0038】
(表カバー303と裏カバー304の構造)
図7は、表カバーの外観を示す図であり、
図7(A)は左側面図、
図7(B)は正面図、
図7(C)は平面図である。また、
図8は、裏カバーの外観を示す図であり、
図8(A)は左側面図、
図8(B)は正面図、
図8(C)は平面図である。
図2および
図3において、表カバー303および裏カバー304はハウジング302の副通路溝306、307を塞ぐことにより、副通路を形成する。また、表カバー303には、表側副通路外側壁391と表側副通路内側壁392とにより挟まれる部分の回路パッケージ400に対面する位置に絞り部356が設けられている。絞り部356は、上部側流路の絞りの機能を有しており、流路の上流側に対向する側が流路の下流側に対向する側よりも緩やかな傾斜面とされた三角形状を有する。絞り部356は、この形状により、被計測気体30に生じている渦を減少させ、層流に生じさせる作用をする。
【0039】
また、表カバー303内側面には絞り部356に隣接して突起部380が形成され、裏カバー304には、突起部381が形成されており、ハウジング302との溶着の際に、回路パッケージ400の先端側の空洞部382の隙間を埋めると同時に回路パッケージ400の先端部を覆う。
表カバー303および裏カバー304には、保護部322が成形されている。
図2や
図3に示すように、被計測気体30の温度検出部452への入口343の表側側面に表カバー303に設けられた表側の保護部322が配置され、また入口343の裏側側面に、裏カバー304に設けられた裏側の保護部322が配置されている。保護部322は、生産中および搬送時において、温度検出部452が他の部材に接触、衝突すること等により機械的な損傷を受けるのを防止する。
また、表カバー303及び裏カバー304には、レーザ溶着時の初期の位置合わせ用に挿入孔326が設けられている。この挿入孔326を基準に、
図4(B)及び
図5(B)で示したハウジング302に形成した突き出しピン324にセットすることで初期の位置合わせが可能となる。
【0040】
<カバーとハウジングとの溶着>
本発明の流量センサ300の主な特徴の一つは、ハウジング302と表カバー303、およびハウジング302と裏カバー304とをレーザ照射により溶着して筐体301を構成する点にある。
以下に、レーザ照射により、ハウジング302と表カバー303、およびハウジング302と裏カバー304とを溶着する方法について説明する。
【0041】
ハウジング302、表カバー303、裏カバー304には、例えば、耐熱性が高い結晶性樹脂であるポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)を主材料として用いる。
レーザ溶着は、光透過樹脂と光吸収樹脂を重ね合わせた状態で、光透過樹脂を介して接合部へレーザ照射して光吸収樹脂を溶融させ、さらに、光透過樹脂まで溶融させ、互いの樹脂同士を接合する方法である。レーザ溶着に用いる光源は、半導体レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザを含めた800nm〜1100nmの赤外領域の波長を有するレーザがコスト面では有効であるが、樹脂の吸収に応じて、その他の波長を有するレーザを用いても良い。
【0042】
また、レーザ光源の強度分布は、ガウシアン、トップハット、リング型など付属するレンズによって様々な強度分布にすることが可能であるが、トップハット、リング型を用いた方が均一に溶着できる。レーザ照射する際には、レーザ光源もしくは製品を物理的にステージで移動させて溶着しても良いし、ガルバノミラーを用いてレーザ光自身を制御して照射しても良い。
【0043】
まず、レーザ溶着の概要について説明する。
初めに、ハウジング302を所定の位置にセットし、ハウジング302上に形成した突き出しピン324上に、カバー303、304に形成した挿入孔326を基準に、位置合わせの調整を行い、カバー303、304をハウジング上に精度良く配置する。その後、ハウジング302にカバー303、304が密着するように、ガラスやアクリル樹脂などの透明な加圧材でカバー303、304を加圧する。加圧力は、0.1MPa以上としておくことが望ましい。この状態で、レーザ照射をして、レーザ溶着する。
【0044】
流量センサ300のハウジング302の構造は、上述したように複雑であるために、反りが比較的に大きく、結果的にカバー303、304を加圧しても一部の溶着箇所は隙間が大きくなる。その対策として、各箇所で異なるレーザ速度もしくは異なるパワーで複数回照射し、カバー303、304の溶着箇所を沈み込ませることで、均一なレーザ溶着が可能なことを見出した。
本発明の流量センサ300のレーザ溶着部390(
図10参照)は、長さが20cm以上と大きい。このため、材料が例え熱伝導率の低い熱可塑性樹脂であったとしても、ある箇所をレーザ照射している最中に他の離れた溶着部分は沈み込まないと考えられた。しかし、実際には、例えば20cmを10s以内で溶着した場合において、レーザ照射している部分のみならず他の部分まで含め表・裏カバー303、304全体が沈み込んだ。しかも、沈み込み量はサンプル毎に異なるものであった。これによって、流量センサ300の特性がばらつくという新たな課題が生じた。
【0045】
そこで、特性変化に及ぼす表・裏カバー303、304の沈み込みの感度を調査した結果、特に、流量検出部436と表カバー303の絞り部356の距離が最も大きく影響することがわかった。
【0046】
以下に、表・裏カバー303、304とハウジング302とを、効率的に接合することができ、かつ、流量センサ300の特性のばらつきを抑制することができる溶着の構造および方法を提供する。
図10は、表カバー303とハウジング302とをレーザを照射して溶着(以下、レーザ溶着という)するレーザ溶着部390及び高さ制御用凸部450の配置構造を説明するための平面図の一例である。なお、以下においては、表カバー303とハウジング302とのレーザ溶着の場合で説明するが、裏カバー304とハウジング302とのレーザ溶着についても同様である。
ハウジング302に設けられた表側副通路外側壁391、表側副通路内側壁392および表側上部側壁393の各上面が表カバー303とのレーザ溶着部390となる。
表カバー303もしくはハウジング302のいずれかに高さ制御用凸部450が設けられている。
図10に図示の例では、高さ制御用凸部450は、スリット372の中央部、および回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間の2箇所に設けられている。流量検出部436と表カバー303の絞り部356との間における沈み込みを防止し、流量検出部436と絞り部356との間隔を一定値に確保するためには、高さ制御用凸部450を、このように、少なくとも流量検出部436の対向する側方の両側に設けることが望ましい。
【0047】
図11は、
図10のXI
A−XI
B線断面図であり、
図11(A)はレーザ溶着前の断面図、
図11(B)はレーザ溶着後の断面図である。
図11(A)では、高さ制御用凸部450を、表カバー303に設けた構造として例示している。
表カバー303の内面に設けられた高さ制御用凸部450の高さH2は、レーザ溶着前において、ハウジング302の表側副通路内側壁392の高さH1よりも小さい。表側副通路内側壁392の高さH1と高さ制御用凸部450の高さH2との差(H1−H2)は、例えば、50μmm〜100μm程度に設定しておくことが望ましい。
なお、以下の説明においては、表側副通路内側壁392を、単に側壁392といい、表カバー303を単にカバー303という。
【0048】
図11(A)に図示された状態で、基底部311に設けられた側壁392の上面に加圧されたカバー303にレーザ光Lを照射し、側壁392の上部とカバー303とを溶着した状態を
図11(B)に図示する。
側壁392の上面に接するカバー303の領域に向けて、レーザ光Lを複数回、照射することで、ハウジング302の側壁392の上部側が溶融し、カバー303側に潜り込む。カバー303に形成された高さ制御用凸部450の下面がハウジング302の基底部311の上面に密着する。
なお、高さ制御用凸部450を形成した場合でも、レーザ光Lを照射し続けることにより、レーザ溶着部390は沈み込み続ける。そのため、高さ制御用凸部450は、副通路の内部に設け、流量検出部436と絞り部356との間隙により形成される流路の高さのばらつきを低減するようにする必要がある。
【0049】
図11(B)では、レーザ照射時に、カバー303の高さ制御用凸部450の下面がハウジング302に密着している状態で図示されている。しかし、カバー303やハウジング302の表面粗さや表面のうねり等により、カバー303を加圧した状態でも、ハウジング302の側壁392の上面とカバー303内面とは一部のみしか密着しておらず、他の箇所では隙間が発生している。このような隙間がある場合、レーザ光Lを複数回照射すると、ハウジング302およびカバー303を構成する樹脂にレーザ溶着部の幅方向に突出する樹脂ばり398が発生する。
【0050】
このとき、レーザ溶着部390の幅の中央部では、
図11(B)に図示されるように、ハウジング302の側壁392の樹脂が、カバー303の樹脂に潜り込む状態となる。側壁392の潜り込み境界面397の基底部311の上面からの最高高さH3は、高さ制御用凸部450の高さH2よりも大きい。
つまり、レーザ光Lを複数回照射すると、高さ制御用凸部450の高さH2よりも溶着箇所の吸収樹脂である側壁392の潜り込み境界面397の基底部311の上面からの最高高さH3の方が大きい状態となっている。
したがって、高さ制御用凸部450を設けることにより、副通路の高さが所定値に制御可能となり、流量センサ300の特性変化が安定化される。これと共に、カバー303の樹脂とハウジング302の樹脂の相溶性が向上し、ハウジング302の樹脂がカバー303の樹脂へ潜り込み、これにより、溶着強度が増大する。また、ハウジング302の樹脂がカバー303の樹脂に潜り込むことにより、亀裂の進展を抑制する経路長が長くなるため、強度が向上し、レーザ溶着部390の信頼性も向上する。
【0051】
なお、樹脂ばり398が、高さ制御用凸部450の側面に密着する位置にあると、樹脂ばり398の進展のストッパとなってしまい、溶着部の高さに影響がでる。このため、高さ制御用凸部450は、樹脂ばり398が密着しないような位置に設ける必要がある。上記一実施の形態の構造において検討した結果、ハウジング302の側壁392の幅をAとすると、80μm程度の沈み込みが起こった場合、樹脂ばり398の突出し高さは0.3A〜0.35Aとなっていた。したがって、沈み込みを50μm〜100μmmとする場合には、ハウジング302の側壁392と高さ制御用凸部450との距離Bは、0.4A以上としておくと良い。
【0052】
<実施形態1の効果>
本発明の一実施の形態によれば、下記の効果を奏する。
(1)ハウジング302の表・裏面に、流量検出部436への副通路を構成するための側壁391〜396を形成し、各側壁391〜396の上面と表・裏カバー303、304とをレーザ溶着により溶着した。このため、接着剤による場合の硬化時間や、接着剤の使用コストを削減し、また、接着剤のはみ出し面積の検討や、接着剤の量の制御をする必要が無くなり、組付けの能率化および低コスト化を図ることができる。
【0053】
(2)ハウジング302または表・裏カバー303、304の一方に、溶着時におけるハウジングまたはカバーの沈み込みを抑制するための高さ制御用凸部450を設けた。高さ制御用凸部450の高さH2は、レーザ溶着前において、ハウジング302の側壁392の高さH1よりも小さい。レーザ光Lを複数回照射した場合、高さ制御用凸部450の高さH2よりも溶着箇所の吸収樹脂である側壁392の潜り込み境界面397の基底部311の上面からの最高高さH3の方が大きい状態となっている。この状態で、高さ制御用凸部450の下面がハウジング302に密着する。これにより、カバー303の沈み込みが抑制され、流量検出のばらつきを小さくすることができる。
【0054】
(3)高さ制御用凸部450を、流量センサ300において、流量センサ300の特性変化に最も大きく影響する流量検出部436近傍に設けた。このため、簡単な構造で、検出性能の確保を図ることができる。
【0055】
(4)高さ制御用凸部450を、レーザ溶着時に、レーザ溶着部390から幅方向、すなわち、側壁392を横切る方向に突出して形成される樹脂ばり398が進展しても密着しない位置に設けた。このため、高さ制御用凸部450が樹脂ばり398の進展のストッパとなることがなく、カバー303の沈み込みに影響することはない。
【0056】
--実施形態2--
図12は、本発明の実施形態2であり、高さ制御用凸部450の配置構造を示す平面図である。
図12に図示された実施形態2の流量センサ300では、高さ制御用凸部450は、流量検出部436の近傍に、3箇所設けられている。すなわち、高さ制御用凸部450は、スリット372の両側、および回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間の3箇所に設けられている。高さ制御用凸部450を、流量検出部436を囲うように3箇所設けることで、カバー303の絞り部356と流量検出部436との隙間寸法の安定性を一層向上することができる。
実施形態2においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
実施形態2における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
--実施形態3--
図13は、本発明の実施形態3であり、高さ制御用凸部の配置構造を示す平面図である。
図13に図示された実施形態3の流量センサ300では、高さ制御用凸部450は、流量検出部436の近傍に、3箇所設けられている。すなわち、高さ制御用凸部450は、スリット372の両側に隣接する表側副通路外側壁391、および回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間の3箇所に設けられている。
実施形態3では、スリット372の両側に形成された一対の高さ制御用凸部450の距離が、実施形態2に示されたスリット372の両側に形成された一対の高さ制御用凸部450の距離よりも大きいので、カバー303の絞り部356と流量検出部436との隙間寸法の安定性がより向上する。
実施形態3における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態3においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0058】
--実施形態4--
図14は、本発明の実施形態4であり、高さ制御用凸部450の配置構造を示す平面図である。
図14に示す実施形態4では、回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間に設けられた高さ制御用凸部450の他、表側副通路外側壁391の内面に沿って、副通路溝306内に複数個設けられた高さ制御用凸部450を備えている。
本発明の流量センサ300は構造が複雑であり、ハウジング302に使用する材料によっては、副通路溝306の出口352や副通路溝307の入口350に対応する部分の反りが他の箇所に比べて、大きくなる傾向になる。つまり、ハウジング302の側壁392の高さH1と高さ制御用凸部450の高さH2の差(H1−H2)が場所によって大きく変化する。
【0059】
そのような場合、比較的平面度の良い流量検出部436の近辺に比べ、高さ制御用凸部450の高さH2を場所毎に変えた方が良い場合もある。つまり、
図14において、出口溝353の近辺に形成した高さ制御用凸部450aの高さH2を、流量検出部436の近辺の高さ制御用凸部450の高さH2より低くする。このように表・裏カバー303、304の各場所の反りの程度に応じて、高さ制御用凸部450、450aの高さH2を異なるものとして、レーザ溶着部390における沈み込み量を調整して副通路の高さの均一化を図ることができる。
なお、
図14では、表側副通路外側壁391の内面に沿って、副通路溝306内に形成した高さ制御用凸部450のうち、最も出口溝353に近いものを、他と異なる高さの高さ制御用凸部450aとして例示した。しかし、出口溝353に近い複数個を、他と異なる高さの高さ制御用凸部450aとしてもよい。
実施形態4における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態4においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0060】
--実施形態5--
図15は、本発明の実施形態5であり、高さ制御用凸部450の配置構造を示す平面図である。
図15に示す実施形態5では、高さ制御用凸部450は、回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間の他、表側副通路外側壁391および表側副通路内側壁392に沿って、副通路溝306内に連続的に設けられている。連続的に形成された高さ制御用凸部450は、実施形態1〜4において示した、回路パッケージ400の下端部と表側副通路内側壁392の上端部との間に形成した部分を含んでいる。
実施形態5においても、高さ制御用凸部450の高さH2を、漸次、低減または増加するように変化させてもよい。
実施形態5における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
なお、ハウジング302の裏面側においても、実施形態1〜5に示した表面側における高さ制御用凸部450の配置構造を適用することが可能である。
実施形態5においても、実施形態4と同様の効果を奏する。
【0061】
--実施形態6--
図16は、本発明の実施形態6であり、高さ制御用凸部450の配置構造を示す平面図である。
図16に示す実施形態6は、ハウジング302の裏面側における高さ制御用凸部の配置構造を示す。
図16に図示された流量センサ300では、高さ制御用凸部450は、裏側副通路外側壁394および裏側副通路内側壁395の内面に沿って、副通路溝307内に連続的に設けられている。連続的に形成された高さ制御用凸部450は、回路パッケージ400の下端部と裏側副通路内側壁395の上端部との間の領域も通過して形成されている。複数の高さ制御用凸部450を離間して設けるようにしてもよい。
実施形態6における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態6においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0062】
--実施形態7--
図17は、本発明の実施形態7を示し、ハウジングとカバーとのレーザ溶着に関する図であり、
図17(A)は溶着前の断面図、
図17(B)は溶着後の断面図である。
実施形態1に示す流量センサ300では、高さ制御用凸部450を表・裏カバー303、304に形成する構造であった。これに対し、実施形態7に示す流量センサ300では、高さ制御用凸部450をハウジング302に形成した構造とされている。
レーザ溶着の場合、表・裏カバー303、304は、その透過率が高いことが望ましい。
しかしながら、高さ制御用凸部450を有する表・裏カバー303、304を成形する構造は、高さ制御用凸部450周縁部における樹脂の流動が悪くなり、レーザ溶着に相当する部分の表裏カバー303、304の透過率が悪くなることもある。また、ばらつきも発生しやすい。例えば、PBTやPPSのような比較的透過率が低い材料の場合、そのようなことが顕著に起こる。
【0063】
そのような場合、
図17(A)、(B)に実施形態7として示したように、表・裏カバー303、304は平坦な構造とし、高さ制御用凸部450をハウジング302に設けることが有効となる。これにより、表・裏カバー303、304の成形時における透過率の低減を抑制することができる。
実施形態7においても、側壁392の上面に接するカバー303の領域に向けて、レーザ光Lを複数回、照射することで、
図17(B)に図示するように、ハウジング302の側壁392の上部側が溶融し、カバー303側に潜り込む。また、ハウジング302の基底部311に形成された高さ制御用凸部450の上面がカバー303の内面に密着する。
よって、実施形態7においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
実施形態7における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
--実施形態8--
図18は、本発明の実施形態8を示すものであり、ハウジングとカバーとのレーザ溶着に関する図であり、
図18(A)は溶着前の断面図、
図18(B)は溶着後の断面図である。
図18に図示された実施形態8においても、実施形態7と同様、流量センサ300は、高さ制御用凸部450をハウジング302に形成した構造とされている。実施形態8と実施形態7との相違点は、実施形態8では、表・裏カバー303、304に側壁392および高さ制御用凸部450を収容する凹部308を設けた点である。なお、以下では、表・裏カバー303、304を代表して、カバー303として説明する。
実施形態8では、カバー303の内面に、凹部308が形成されている。凹部308は、側壁392および高さ制御用凸部450を収容する面積を有し、レーザ光Lの照射前では、凹部308の底面に側壁392の上面が接触している。高さ制御用凸部450の上面は、凹部308の底面から離間している。
図18では、側壁392および高さ制御用凸部450は、側面が傾斜面とされているが、側面は傾斜面でなくてもよい。
【0065】
実施形態8においても、側壁392の上面に接する領域のカバー303に向けて、レーザ光Lを複数回、照射することで、
図18(B)に図示するように、ハウジング302の側壁392の上部側が溶融し、カバー303の凹部308の底部側に潜り込む。また、ハウジング302の基底部311に形成された高さ制御用凸部450の上面がカバー303の凹部308の底面に密着する。カバー303の凹部308の深さは、カバー303として必要とされる機械的強度を考慮して決定する。カバー303の凹部308が形成された部分の厚さは、樹脂材にも依存するが、例えば0.5mm-0.8mm程度とする。
【0066】
実施形態8では、レーザ光Lが照射されるカバー303の領域の厚さが凹部308の深さの分、薄くなるので、その部分における透過率を、その周囲よりも大きくすることができる。
側壁392の高さH1と高さ制御用凸部450の高さH2との関係、および側壁392の幅Aと、側壁392と高さ制御用凸部450との距離Bとの関係は実施形態1と同様である。
【0067】
なお、上記一実施の形態では、凹部308をカバー303の内面、換言すれば、ハウジング302に対面する側に設けた構造として例示した。しかし、凹部308をカバー303の外面、換言すれば、レーザ光Lの照射面側に設けたり、カバー303の内面および外面の両面に設けるようにしたりしてもよい。
実施形態8における他の構成は、実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態8においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0068】
[レーザ溶着部の外観検査]
カバー303とハウジング302の各側壁391〜396とが確実にレーザ溶着されているか否かを外観検査により確認する方法について説明する。
ハウジング302の各側壁391〜396の上面と表・裏カバー303、304とをレーザ溶着した後、溶着した部分をカメラで撮像し、画像処理により、各側壁391〜396の上面とカバー303とが溶着されているか否かを判断する。表・裏カバー303、304は光透過性樹脂により形成され、ハウジング302は光吸収性樹脂により形成されているので、レーザ溶着が正常に行われた部分の輝度は低くなる。側壁392の上面とカバー303との間に隙間が有れば、その部分の輝度は高くなる。レーザ溶着が正常に行われた場合、レーザ溶着部390の全長に亘るコントラストはほぼ一様である。しかし、レーザ溶着不良個所があると、レーザ溶着部390の全長において、コントラストが一様でなくなるので、溶着不良個所を検出することができる。
【0069】
この外観検査に必要な表・裏カバー303、304の透過率を検討した結果、例えば、PBT樹脂を用いた場合、表・裏カバー303、304の透過率は、450〜1100nmの波長域での平均の透過率が32〜33%以上であればよいことが判った。種々の誤差を考慮しても、平均の透過率が35%以上であれば十分である。
【0070】
平均の透過率に対応する他の指標として、JISZ8729に規格化されている物体の色を数値化するL*a*b*表色系によることもできる。
カバー303の樹脂材を、L*a*b*表色系にしたがって、明度L*、彩度C*=[(a*)
2+(b*)
2]
1/2 を測定して判断する。表・裏カバー303、304におけるレーザ溶着する部分の色彩が、明度L*<75および彩度C*<10であれば、450〜1100nmの波長域での平均の透過率が35%以上と同等であることが確認された。
実施形態1〜8において、表・裏カバー303、304として、上記の透過率、明度L*および彩度C*の樹脂材を用いれば、画像処理による外観検査を行うことができる。
【0071】
結晶性樹脂は、通常、透過率が低いので、表・裏カバー303、304の樹脂材の透過率を改善するために、透明な非結晶性の熱可塑性樹脂をアロイ材として用いると有効である。色はナチュラル色としておくこと必要がある。透明な非結晶性の熱可塑性樹脂を用いることにより、特に、
図18に示す構造を採用することにより、レーザ溶着部390における溶着状態を外観検査できるのみならず、高さ制御用凸部450と表・裏カバー303、304の密着も外観検査可能となる。
しかし、高さ制御用凸部450と表・裏カバー303、304との密着力が小さい場合、外観検査に必要なコントラスト(他の箇所との白黒の差)が得にくくなる場合もある。
以下に、レーザ溶着部におけるコントラストを大きくする実施形態を示す。
【0072】
--実施形態9--
図19は、本発明の実施形態9であり、レーザ照射によるハウジングと表カバーとの溶着後の断面図である。
図19に示す実施形態9では、カバー303のレーザ光Lの照射面側に微細凹凸460が形成されている点で、実施形態8と相違する。
微細凹凸460は、側壁392と高さ制御用凸部450とを収容する凹部308とほぼ同じ位置かつほぼ同じ面積には形成されていない。つまり、カバー303における側壁392の上面から高さ制御用凸部450の上面までの領域には、微細凹凸460は形成されていない。カバー303の微細凹凸460が形成されている部分では、レーザ光Lが反射するので、微細凹凸460が形成されていない領域とのコントラストを大きくすることができる。
実施形態9における他の構成は、実施形態8と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態9においても、実施形態8と同様の効果を奏する。
【0073】
--実施形態10--
図20は、本発明の実施形態10であり、ハウジングと表カバーとのレーザ溶着後の断面図である。
図20に示す実施形態10では、カバー303の内面、換言すれば、ハウジング302との対面側にも微細凹凸461が形成されている点で、実施形態9と相違する。
微細凹凸461は、凹部308の外側のみでなく、凹部308の底面にも形成されている。
但し、凹部308内では、レーザ溶着に支障が生じないように、側壁392の上面および高さ制御用凸部450の上面に対応する部分には微細凹凸461は形成されていない。実施形態10によれば、側壁392の上面および高さ制御用凸部450の上面と、それらの周囲とのコントラスト差をさらに向上することができる。
【0074】
なお、レーザ溶着前に、レーザ溶着側のカバー303の凹部308の底面に微細凹凸461を形成すると、カバー303の透過率が低下する。また、レーザ光Lは、微細凹凸461で散乱する。しかし、凹部308内において、側壁392と高さ制御用凸部450とは離間しており、レーザ照射時に散乱する部分と溶着部との間は隙間のみであるため、レーザ光Lの散乱による影響は少なく、光損失は問題とはならない。また、溶着により、カバー303の樹脂材とハウジング302の樹脂材とは溶融し、相溶する。このため、溶着後における屈折率差がなくなり、レーザ溶着部390に相当する部分のカバー303の透過率は、溶着前と大差はない。
【0075】
実施形態10における他の構成は、実施形態9と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。実施形態10においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0076】
--実施形態11--
図21は、本発明の実施形態11であり、表カバーのレーザ溶着部390以外の部分に設けられた微細な凹凸を説明するための平面図である。
図21は、
図19に示す微細凹凸460を、凹部308に対応する領域を除くカバー303の表面の全面に形成したものである。このようにすることで、外観検査時におけるコントラスト差を増加するだけでなく、搬送時などに発生する傷なども目立ち難くすることができる。
【0077】
図20に示すように、カバー303の表面に微細凹凸460を形成すると共に、カバー303の内面に微細凹凸461を形成してもよい。
【0078】
微細凹凸460、461は、金型にシボを成形し、射出成形する際に形成しても良いし、別途、カバー303にブラスト処理などをかけて形成しても良い。微細凹凸460、461は、表面粗さRa0.6−3.0μm程度であることが望ましい。
【0079】
--実施形態12--
図22は、本発明の実施形態12であり、ハウジングと表カバーとのレーザ溶着後の断面図である。
図22に示す実施形態12は、カバー303の表面における微細凹凸460が形成されていない領域内で、高さ制御用凸部450の上面に対応する部分に凹部309を設けた点で実施形態11と相違する。
高さ制御用凸部450の上面に対応する部分に凹部309を設けることにより、この部分のカバー303の厚さが薄くなり、この部分における透過率がレーザ溶着部390の部分よりも大きくなる。これにより、高さ制御用凸部450とレーザ密着部とのコントラストが大きくなる。
【0080】
一括で画像検査する場合、レーザ溶着部390と、高さ制御用凸部450とカバー303との密着部のコントラストを小さくする方が良い場合もある。また、使用する樹脂によっては、高さ制御用凸部450とカバー303との密着部のみ、周囲とのコントラストを大きくしたい場合もある。そのような場合、
図22に示したように、高さ制御用凸部450とカバー303との密着部に相当する部分のレーザ照射側に凹部309を設けると良い。
実施形態12における他の構成は、実施形態10と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態12においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0081】
<樹脂材料>
次に、ハウジング302および表・裏カバー303、304の樹脂材料に関して説明する。
流量センサ300では、長期的な使用で、ハウジング302や表・裏カバー303、304の変形が発生し、通路の特性が変化し、流量検出のばらつきが大きくなる。表・裏カバー303、304とハウジング302とは溶着されているため、変形に関しては、剛性の大きいハウジング302の影響が大きい。このため、ハウジング302に含有させるアロイ材の耐熱性を、表・裏カバー303、304より高くする必要がある。
つまり、下記の条件を満たすことが望ましい。
ハウジング302に含有するアロイ材のガラス転移温度≧表・裏カバー303、304に含有するアロイ材のガラス転移温度
【0082】
弾性率についても同様であり、下記の条件を満たすことが望ましい。
ハウジング302を構成する熱可塑性樹脂の弾性率>表・裏カバー303、304を構成する熱可塑性樹脂の弾性率
【0083】
表・裏カバー303、304においても、ハウジング302に比べ影響は小さいが、長期的な使用により、特性が変動する。特に、流量検出部436に対向して配置される表カバー303は、裏カバー304よりも特性変動に影響する割合が大きい。ここでは、結晶化度が高い高分子材料は、剛性、強度、耐熱性が高いことに着目し、表カバー303と裏カバー304とは、結晶化度に関して下記の条件を満足するようにした。
表カバー303の結晶化度>裏カバー304の結晶化度
上記において、結晶化度とは、高分子が規則正しく配列する結晶状態と、高分子が糸玉状になったり絡まったりして存在する非晶状態とに分かれている状態において、結晶部分の割合を結晶化度と呼び、(結晶化度)=(結晶領域部分)÷(結晶領域部分と非晶領域部分との和)と定義される。
【0084】
また、表カバー303と裏カバー304とは、ガラス転移温度に関して下記の条件を満足することが望ましい。
表カバー303に含まれるアロイ材のガラス転移温度>裏カバー304に含まれるアロイ材のガラス転移温度
【0085】
高分子材料に、無機物、例えばガラスファイバー、ガラスフレーク、特殊形状のガラスなどを添加すると成形時および経年変化における寸法安定性を向上することができる。無機物の添加量は、通常、20%〜50%程度である。しかし、ガラス材等の無機物の添加量が増加すると、レーザ光Lの透過性が悪化する。従って、寸法安定性とレーザの透過性を考慮して、表・裏カバー303、304に添加する無機物の添加量は、20〜30%程度とするとよい。
【0086】
通常、ハウジング302の樹脂材には、レーザ溶着のためにカーボンブラックなど着色材を混入する。このため、ハウジング302の樹脂材については、変色、透過率、色彩に関して考慮する必要がない。しかし、ハウジング302は、表・裏カバー303、304よりも長期使用における変形が少ないことが必要である。
そこで、ハウジング302と表・裏カバー303、304とは無機物の添加割合に関し、下記の条件を満足することが望ましい。
ハウジング302を構成する熱可塑性樹脂への無機物の添加割合≧カバー303、304を構成する熱可塑性樹脂への無機物の添加割合
【0087】
長期使用による変形の抑制の観点では、結晶性の熱可塑性樹脂は、成形時の金型温度が低いほど、結晶化度が低く、かつ、透過率が高い。そのため、表・裏カバー303、304の樹脂材には、透過率や色彩の条件を満たすような低い金型温度とすると良い。一方、結晶化度が高いほど寸法安定性は向上するため、ハウジング302の樹脂材は結晶化度が高いことが望ましい。
従って、ハウジング302と表・裏カバー303、304とは結晶化度に関して、下記の条件を満足することが望ましい。
ハウジング302を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度>カバー303、304を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度
【0088】
表・裏カバー303、304やハウジング302を形成する結晶性樹脂には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定材、界面活性剤、滑材、結晶化核材、難燃剤などを添加しても良い。但し、表・裏カバー303、304には、可能な限り透過率の低下に影響する材料は含有しないことが望ましい。一方で、ハウジング302には、レーザ光Lを吸収する着色剤、例えば、カーボンブラックなどを含有しておくことが望ましい。
【0089】
表・裏カバー303、304とハウジング302とをレーザ溶着するうえで、表・裏カバー303、304の樹脂材およびハウジング302の樹脂材には、離型材成分を含まないことが望ましい。
【0090】
表・裏カバー303、304を構成する結晶性樹脂に添加する非結晶性樹脂としてのアロイ材としては、例えば、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタアクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)などがある。
【0091】
ハウジング302を構成する樹脂に添加する非結晶性樹脂としてのアロイ材としては、表・裏カバー303、304に添加するアロイ材の他、よりガラス転移温度が大きい変性ポリフェニレンエーテル(mPPE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)などを挙げることができる。
【0092】
表・裏カバー303、304に添加する非結晶性樹脂としてのアロイ材は、少なくとも1種類を加えることが望ましいが、1種類のみならず、それに加えて、それ以外の結晶性を含むアロイ材を含有させても良い。また、ハウジング302についても同様である。
【0093】
以上説明した通り、上記各実施形態では、ハウジング302の表裏面に、流量検出部436への副通路を構成するための側壁391〜396を形成し、各側壁391〜396の上面と表・裏カバー303、304とをレーザ溶着により溶着した。また、ハウジング302または表・裏カバー303、304の一方に、溶着時におけるハウジングまたはカバーの沈み込みを抑制するための高さ制御用凸部450を設けた。
このため、本発明の各実施形態によれば、接着剤による接合の場合の接着剤の硬化時間や、接着剤の使用コストを削減し、接合の効率化および低コスト化を図ることができ、また、これと共に、カバー303の沈み込みを抑制し、流量検出のばらつきを小さくすることができる。
【0094】
なお、上記下記実施形態では、表・裏カバー303、304とハウジング302とをレーザにより溶着する場合として例示した。しかし、本発明は、レーザ溶着だけでなく、熱溶着、振動溶着、超音波溶着等他の溶着の場合にも適用することが可能である。
【0095】
また、本発明は、熱式の流量センサ300以外の製品の用途にも使用でき、熱可塑性樹脂全般のレーザ溶着に適用することができる。熱可塑性樹脂としては、上記に示した以外に、ポリエチレン(PE)、ポリプロプレン(PP)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。
また、上記した熱可塑性樹脂は、アロイ材としての非結晶性の熱可塑性樹脂としても用いることができる。アロイ材と共に、ガラスファイバーなどの無機物等の特殊な添加剤を含んだ熱可塑性樹脂も対象となる。また、主材料として、熱可塑性樹脂のみならず、透過率が比較的高いエポキシ系やアクリル系などの熱硬化樹脂を用いることができる。
【0096】
上記実施形態1〜12の一部を、本発明の趣旨の範囲内で変形して適用することが可能である。また、上記実施形態1〜12の一部を相互に組み合わせてもよい。
要は、ハウジングに設けられた側壁の上面にカバーを溶着した流量センサにおいて、少なくともハウジング内に収容された流量検出部の周囲における側壁の近傍に、溶着時におけるカバーの沈み込みを抑制するための高さ制御用凸部を、ハウジングまたはカバーの一方に設けたものであればよい。
【0097】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2013年第235867号(2013年11月14日出願)