(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、I相成分(同相成分)及びQ相成分(直交成分)のベースバンド信号でキャリア信号を直交変調して、変調信号を発生させる信号発生装置が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
信号発生装置が備える直交変調器は乗算器(ミキサ)を含んでおり、
図7のスペクトラム図に示すように、所望の変調信号101の周波数成分に加えて、キャリア信号が乗算器を介して変調信号にリークすることによるキャリアリーク102が発生する。また、I相成分の信号とQ相成分の信号との直交性にずれが生じた場合には、イメージ信号103が発生する。なお、所望の変調信号101のレベルLdに対するイメージ信号のレベルLiの比Li/Ldは、イメージ抑圧比と呼ばれる。キャリアリークやイメージ信号が発生すると、変調信号を復調する場合に完全な元のデータ信号が得られないという問題が生じる。
【0004】
そこで、キャリアリークやイメージ抑圧比を低減する調整方法が従来から提案されている。従来のキャリアリークの調整方法においては、例えばI相成分の信号とQ相成分の信号にそれぞれ加算するIオフセットやQオフセットなどの調整パラメータと測定電圧との関係を示すカーブが
図8(a),(b)の点線で示すようなものであると仮定し、以下のような処理が行われていた。
【0005】
例えば
図8(a)に示すように、初期状態のQオフセットによるキャリアリーク(図中の●印)と、初期状態のQオフセットに対してプラス側の変化量とマイナス側の変化量を加えた2点のQオフセットによるキャリアリーク(図中の□印、△印)とを測定する。そして、これら3点の測定値を用いて、Qオフセットの単位変化量当たりのキャリアリークの変化量を求めることにより、キャリアリークの値が最小となるQオフセットを推定する。
【0006】
次に、推定されたQオフセットを固定してIオフセットを変化させ、最もキャリアリークが小さくなるIオフセットを推定する。さらに、推定されたIオフセットを固定して、同様にQオフセットの推定値を求める。以上の処理を、Iオフセットの推定値とQオフセットの推定値が変わらなくなるまで繰り返すことにより、Iオフセット及びQオフセットの調整が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の調整方法では、キャリア信号の1つのキャリア周波数に対する調整で上述のような数回の繰り返しが発生する。また、3点の測定値の大小関係が
図8(b)に示すようなものである場合には、最も小さいキャリアリークを与えるQオフセット(□印)と、初期状態のQオフセット(●印)とが最適点(×印)を跨いでいるか否かを判定しにくい場合があり、調整時間が大きくなっていた。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、キャリアリークとイメージ抑圧比に関する調整時間を大幅に短縮できる信号調整システム及び信号調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の信号調整システムは、互いに直交するI波形データ及びQ波形データを出力する波形データ発生部と、前記I波形データ及びQ波形データをそれぞれI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号に変換するD/A変換器と、所望のキャリア周波数のキャリア信号を出力する局部発振器と、前記キャリア信号をI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号で直交変調して変調信号として出力する直交変調器と、を備え、前記変調信号の信号レベルを調整するための信号調整システムであって、前記波形データ発生部と前記D/A変換器との間に配置され、前記I波形データ及びQ波形データにゲイン、オフセット、及び移相量を与えるIQ調整部と、前記直交変調器から出力された変調信号のキャリアリーク又はイメージ抑圧比の測定値を出力する電力測定装置と、前記IQ調整部を制御する調整制御装置と、を備え、前記調整制御装置は、前記ゲイン、前記オフセット、及び前記移相量のそれぞれの設定値について、異なる3つの設定値に対応するキャリアリーク又はイメージ抑圧比の3つの前記測定値を前記電力測定装置から順次取得する測定値取得部と、前記測定値取得部により取得された前記測定値を電圧値に変換する対数真数変換部と、前記設定値を横軸、前記電圧値を縦軸とする座標上において、前記3つの設定値のうち中央値により得られた電圧値と、他の2つの設定値により得られた2つの電圧値のそれぞれとを外挿する2つの1次関数の傾きを算出する傾き算出部と、前記傾き算出部により求められた2つの前記傾きのうち、絶対値が大きい傾きを決定する傾き決定部と、前記2つの1次関数のうち、前記傾き決定部により決定された傾きを有する1次関数において、前記電圧値の外挿値が所定の閾値以下になる前記ゲイン、前記オフセット、及び前記移相量の調整値を算出する調整値算出部と、前記調整値算出部により算出された前記調整値を前記IQ調整部に設定する調整値設定部と、を含む構成である。
【0011】
この構成により、キャリアリークとイメージ抑圧比に関する調整時間を大幅に短縮することができる。
【0012】
また、本発明の請求項2の信号調整システムにおいては、前記IQ調整部は、前記調整制御装置により設定される前記ゲインとしてのIゲインを前記I波形データに乗算して出力する第1の乗算器と、前記調整制御装置により設定される前記ゲインとしてのQゲインを前記Q波形データに乗算して出力する第2の乗算器と、前記第2の乗算器からの出力と、前記第2の乗算器からの出力に対して前記調整制御装置により設定される前記移相量を与える移相信号とを乗算して出力する第3の乗算器と、前記第1の乗算器からの出力と、前記第1の乗算器からの出力に対して前記調整制御装置により設定される前記移相量を与える移相信号とを乗算して出力する第4の乗算器と、前記第1の乗算器からの出力と、前記第3の乗算器からの出力とを加算して出力する第1の加算器と、前記第2の乗算器からの出力と、前記第4の乗算器からの出力とを加算して出力する第2の加算器と、前記第1の加算器からの出力に、前記調整制御装置により設定される前記オフセットとしてのIオフセットを加算して前記D/A変換器に出力する第3の加算器と、前記第2の加算器からの出力に、前記調整制御装置により設定される前記オフセットとしてのQオフセットを加算して前記D/A変換器に出力する第4の加算器と、を含む構成であってもよい。
【0013】
また、本発明の請求項3の信号調整システムにおいては、前記信号発生装置は、前記調整値算出部により算出された前記調整値を前記キャリア信号のキャリア周波数に対応付けて記憶する記憶部と、所望のキャリア周波数に対応する前記調整値を前記記憶部から読み出して、読み出した当該調整値を前記IQ調整部に設定する制御部と、を備える構成である。
【0014】
この構成により、信号発生装置から調整制御装置と電力測定装置が切り離された後も、信号発生装置はキャリアリークが低減された変調信号を出力することができる。
【0015】
また、本発明の請求項4の信号調整方法は、上記のいずれかの信号調整システムを用いる信号調整方法であって、前記ゲイン、前記オフセット、及び前記移相量のそれぞれの設定値について、異なる3つの設定値に対応するキャリアリーク又はイメージ抑圧比の3つの前記測定値を前記電力測定装置から順次取得する測定値取得ステップと、前記測定値取得ステップで取得された前記測定値を電圧値に変換する対数真数変換ステップと、前記設定値を横軸、前記電圧値を縦軸とする座標上において、前記3つの設定値のうち中央値により得られた電圧値と、他の2つの設定値により得られた2つの電圧値のそれぞれとを外挿する2つの1次関数の傾きを算出する傾き算出ステップと、前記傾き算出ステップで求められた2つの前記傾きのうち、絶対値が大きい傾きを決定する傾き決定ステップと、前記2つの1次関数のうち、前記傾き決定ステップで決定された傾きを有する1次関数において、前記電圧値の外挿値が所定の閾値以下になる前記ゲイン、前記オフセット、及び前記移相量の調整値を算出する調整値算出ステップと、前記調整値算出ステップで算出された前記調整値を前記IQ調整部に設定する調整値設定ステップと、を含む構成である。
【0016】
この構成により、キャリアリークとイメージ抑圧比に関する調整時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、キャリアリークとイメージ抑圧比に関する調整時間を大幅に短縮できる信号調整システム及び信号調整方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る信号調整システム及び信号調整方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る信号調整システム1は、信号発生装置10と、電力測定装置としてのスペクトラムアナライザ(SA)30と、調整制御装置40と、を備える。なお、調整制御装置40は、信号発生装置10内に搭載されていてもよい。
【0021】
信号発生装置10は、波形データ発生部11と、IQ調整部12と、D/A変換器(DAC)13と、ローパスフィルタ(LPF)14と、局部発振器15と、直交変調器16と、増幅器17と、表示部18と、操作部19と、記憶部20と、制御部21と、を備える。
【0022】
波形データ発生部11は、直交変調器16から出力される変調信号のベースバンド信号として、互いに直交するI相成分(同相成分)及びQ相成分(直交成分)のベースバンドの波形データ(ディジタル値)を出力するようになっている。なお、以降では、I相成分のベースバンドの波形データを「I波形データ」、Q相成分のベースバンドの波形データを「Q波形データ」ともいう。
【0023】
I波形データ及びQ波形データが対応する通信規格としては、例えば、セルラ(LTE、LTE−A、W−CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV−DO、TD−SCDMA等)、WLAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びディジタル放送(DVB−H、ISDB−T等)が挙げられる。
【0024】
例えば、波形データ発生部11は、様々な通信規格に対応したI波形データ及びQ波形データを個別の波形ファイルとして記憶しており、操作部19により選択された通信規格に対応した波形ファイルからI波形データ及びQ波形データを展開して、後段のIQ調整部12に出力するようになっている。あるいは、波形データ発生部11は、操作部19により選択された通信規格に対応したI波形データ及びQ波形データを、DSP(Digital Signal Processor)により逐次生成して出力するものであってもよい。
【0025】
IQ調整部12は、波形データ発生部11とD/A変換器13との間に配置され、I波形データ及びQ波形データにゲイン、オフセット、及び移相量を与えることにより、直交変調器16から出力される変調信号の信号レベルを調整するものである。IQ調整部12は、例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)で構成される。
【0026】
IQ調整部12は、第1の乗算器25aと、第2の乗算器25bと、第3の乗算器25cと、第4の乗算器25dと、第1の加算器26aと、第2の加算器26bと、第3の加算器26cと、第4の加算器26dと、を含む。
【0027】
第1の乗算器25aは、上記ゲインとしてのIゲインをI波形データに乗算して出力するようになっている。ここで、Iゲインは、I波形データの振幅を調整するための調整パラメータであり、調整制御装置40により設定される。第2の乗算器25bは、上記ゲインとしてのQゲインをQ波形データに乗算して出力するようになっている。ここで、Qゲインは、Q波形データの振幅を調整するための調整パラメータであり、調整制御装置40により設定される。なお、IゲインとQゲインは、どちらか一方のみが調整され、他方が固定されてもよい。
【0028】
第3の乗算器25cは、第2の乗算器25bからの出力と、第2の乗算器25bからの出力に対して上記移相量を与える移相信号とを乗算して出力するようになっている。第4の乗算器25dは、第1の乗算器25aからの出力と、第1の乗算器25aからの出力に対して上記移相量を与える移相信号とを乗算して出力するようになっている。移相量は、I波形データとQ波形データの間の直交性を補正するための調整パラメータであり、調整制御装置40により設定され、移相信号として調整制御装置40から第3の乗算器25c及び第4の乗算器25dに出力される。
【0029】
第1の加算器26aは、第1の乗算器25aからの出力と、第3の乗算器25cからの出力とを加算して出力するようになっている。第2の加算器26bは、第2の乗算器25bからの出力と、第4の乗算器25dからの出力とを加算して出力するようになっている。
【0030】
第3の加算器26cは、第1の加算器26aからの出力に、上記オフセットとしてのIオフセットを加算してDAC13に出力するようになっている。Iオフセットは、I波形データの中心レベルを調整するための調整パラメータであり、調整制御装置40により設定される。第4の加算器26dは、第2の加算器26bからの出力に、上記オフセットとしてのQオフセットを加算してDAC13に出力するようになっている。Qオフセットは、Q波形データの中心レベルを調整するための調整パラメータであり、調整制御装置40により設定される。
【0031】
DAC13は、ディジタル信号であるI波形データ及びQ波形データをそれぞれアナログ信号としてのI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号に変換するようになっている。
【0032】
LPF(ローパスフィルタ)14は、DAC13から出力されたI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号の出力信号の高周波成分を除去するようになっている。
【0033】
局部発振器15は、例えばPLL回路により構成されており、制御部21又は調整制御装置40からの制御信号に基づいた所望のキャリア周波数のキャリア信号を直交変調器16に出力するようになっている。例えば、局部発振器15は、1GHz〜6GHzの周波数範囲で2.5MHzのステップでキャリア信号を出力する。なお、局部発振器15の発振周波数のステップは2.5MHzのみならず、例えば1Hz単位で可変可能である。
【0034】
直交変調器16は、局部発振器15から入力されたキャリア信号を、LPF14を通過したI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号で直交変調して変調信号として出力するようになっており、移相器16aと、乗算器16b,16cと、加算器16dと、を備える。
【0035】
局部発振器15からのキャリア信号は、直接乗算器16bへ入力されるとともに、移相器16aで位相が90°移相された後、乗算器16cへ入力される。また、乗算器16b,16cには、それぞれLPF14を通過したI波形アナログ信号及びQ波形アナログ信号が入力される。
【0036】
乗算器16bは、キャリア信号とI波形アナログ信号とを乗算して加算器16dへ出力する。乗算器16cは、90°移相されたキャリア信号とQ波形アナログ信号とを乗算して加算器16dへ出力する。加算器16dは、各乗算器16b,16cからの出力を加算して変調信号として出力する。直交変調器16から出力された変調信号は、増幅器17で増幅される。
【0037】
表示部18は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、制御部21からの制御信号に応じて各種表示内容を表示するようになっている。この表示内容には、複数の通信規格や、複数の波形データの一覧などが含まれる。
【0038】
操作部19は、ユーザによる操作入力を行うためのものであり、キーボード、タッチパネル、又はマウスのような入力デバイスを含んで構成される。あるいは、操作部19は、ボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象が表示部18に表示される構成であってもよい。例えば、ユーザは、操作部19を用いて、信号発生装置10から出力される変調信号の通信規格を複数の通信規格の中から選択することができる。また、操作部19により、局部発振器15からの出力信号の周波数を設定することなども可能である。
【0039】
記憶部20は、後述する調整値算出部45により算出された調整値を、局部発振器15から出力されるキャリア信号のキャリア周波数に対応付けて記憶するようになっている。
【0040】
制御部21は、例えばCPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータで構成され、信号発生装置10を構成する上記各部の動作を制御する。また、調整制御装置40による各調整パラメータの調整が全て完了した後には、制御部21は、所望のキャリア周波数に対応する調整値を記憶部20から読み出して、読み出した調整値をIQ調整部12に設定するようになっていてもよい。これにより、信号発生装置10から調整制御装置40とSA30が切り離された後も、信号発生装置10はキャリアリークが低減された変調信号を出力することができる。
【0041】
SA30は、直交変調器16から出力された変調信号のキャリアリーク及びイメージ抑圧比を測定する。また、SA30は、調整制御装置40からの制御信号に応じて、変調信号(キャリア信号)の測定値[dBm]、キャリアリークの測定値[dBm]、又はイメージ抑圧比の測定値[dBm]を出力するようになっている。
【0042】
調整制御装置40は、IQ調整部12を制御するものであり、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むパーソナルコンピュータ(PC)で構成され、所定のプログラムを実行することにより、測定値取得部41と、対数真数変換部42と、傾き算出部43と、傾き決定部44と、調整値算出部45と、調整値設定部46と、をソフトウェア的に構成するようになっている。
【0043】
測定値取得部41は、各調整パラメータ、すなわち、Iゲイン又はQゲインの少なくとも一方、移相量、Iオフセット、及びQオフセットのそれぞれの設定値について、異なる3つの設定値に対応する3つの測定値をSA30から順次取得するようになっている。
【0044】
具体的には、変調信号のイメージ抑圧比を低減する際には、測定値取得部41は、Iゲイン又はQゲインの少なくとも一方と移相量のそれぞれの設定値について、異なる3つの設定値に対応する3つのイメージ抑圧比の測定値をSA30から順次取得する。変調信号のキャリアリークを低減する際には、測定値取得部41は、Iオフセット及びQオフセットのそれぞれの設定値について、異なる3つの設定値に対応する3つのキャリアリークの測定値をSA30から順次取得する。
【0045】
なお、測定値取得部41は、取得した測定値のいずれかが所定の閾値未満であった場合には、その測定値に対応する各調整パラメータの値をIQ調整部12に設定してもよい。
【0046】
対数真数変換部42は、下記の式(1)に従って、測定値取得部41により取得された測定値P[dBm]を電圧値V[V]に変換するようになっている。
【数1】
【0047】
図2(a)は、本実施形態における信号調整システム1について、縦軸をキャリアリークの測定値P[dBm]、横軸をQオフセットの設定値として示すグラフである。一方、
図2(b)は、
図2(a)のキャリアリークの測定値P[dBm]を式(1)により電圧値[V]に変換して示すグラフである。
【0048】
これらのグラフから、
図2(a)のQオフセットの最適値に向かうカーブは、縦軸のQオフセットを対数から真数に変換すると、
図2(b)に示すような2つの1次関数に近似できることが分かった。他の調整パラメータである、Iゲイン、Qゲイン、移相量、及びIオフセットの設定値についても、Qオフセットと同様に、イメージ抑圧比又はキャリアリークの電圧値[V]を2つの1次関数に近似することができる。
【0049】
傾き算出部43は、調整パラメータの設定値を横軸、イメージ抑圧比又はキャリアリークの電圧値を縦軸とする座標上において、各調整パラメータの3つの設定値のうち中央値Refにより得られた電圧値Ref_Vと、他の2つの設定値により得られた2つの電圧値のそれぞれとを外挿する2つの1次関数の傾きを算出するようになっている。
【0050】
傾き決定部44は、傾き算出部43により求められた2つの傾きのうち、絶対値が大きい傾きを決定するようになっている。なお、2つの傾きが等しい場合には、傾き決定部44はその傾きを絶対値が大きい傾きとして決定する。
【0051】
図3,4は、ある調整パラメータについて、3つの設定値に対する電圧値(図中の○印)をプロットしたグラフである。
図3(a)においては、設定値の初期値Refが0(ゼロ)であり、更にこの初期値Refに対してプラス側の変化量とマイナス側の変化量を加えた2つの設定値が示されている。この例では、マイナス側の設定値により得られる電圧値と、初期値Refにより得られる電圧値Ref_Vとを外挿する1次関数の傾きの絶対値の方が、プラス側の設定値により得られる電圧値と、初期値Refの設定値により得られる電圧値とを外挿する1次関数の傾きの絶対値よりも大きくなっている。
【0052】
例えば、
図3(a)の例において、傾き決定部44により決定された傾きaを有する1次関数の式をy=ax+bとおくと、イメージ抑圧比又はキャリアリークの電圧値の最小値を与える調整パラメータの設定値を、この1次関数のx軸切片として算出することができる。このx軸切片は、下記の式(2)のように表される。
x=−(Ref_V−a×Ref)/a (2)
【0053】
なお、
図3(b)に示すように、イメージ抑圧比又はキャリアリークの電圧値がゼロではない所定の閾値Vth以下であればよい場合には、この条件を満たす調整パラメータの設定値(以下、これをVth=0の場合も含めて「調整値」ともいう)は下記の式(3)のように表される。
x=−(Ref_V−a×Ref−Vth以下の電圧値)/a (3)
【0054】
図3の例ではRefが0(ゼロ)であるため、式(2),(3)から得られる調整値は、それぞれx=−Ref_V/a、x=−(Ref_V−Vth以下の電圧値)/aとなる。
【0055】
このようにして、調整値算出部45は、傾き算出部43により得られた2つの1次関数のうち、傾き決定部44により決定された傾きを有する1次関数において、電圧値の外挿値が所定の閾値以下になる、Iゲイン又はQゲインの少なくとも一方、移相量、Iオフセット、及びQオフセットの調整値を算出するようになっている。
【0056】
図4においては、設定値の初期値Refが0(ゼロ)以外の値であり、更にこの初期値Refに対してプラス側の変化量とマイナス側の変化量を加えた2つの設定値が示されている。例えば、あるキャリア周波数において決定された調整パラメータの調整値を、他のキャリア周波数での設定値の初期値として引き継いだ場合などは、設定値の初期値Refが0(ゼロ)以外の値になり得る。この場合でも、調整値算出部45は、上記の式(2),(3)を用いて、調整値を決定することができる。
【0057】
調整値設定部46は、調整値算出部45により算出された、Iゲイン又はQゲインの少なくとも一方、移相量、Iオフセット、及びQオフセットの調整値をIQ調整部12に順次設定するようになっている。
【0058】
以下、本実施形態の信号調整システム1を用いた信号調整方法について、
図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0059】
まず、調整制御装置40は、キャリア信号のキャリア周波数fの初期値f0を信号発生装置10の局部発振器15に設定する(ステップS1)。
【0060】
次に、調整制御装置40は、信号発生装置10の制御部21に制御信号を出力して、信号発生装置10から変調信号を出力させる(ステップS2)。
【0061】
次に、測定値取得部41は、現時点での各調整パラメータの設定値により得られた変調信号のイメージ抑圧比の測定値をSA30から読み込み、当該測定値が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する(ステップS3)。肯定判断の場合にはステップS4に進む。否定判断の場合にはステップS6に進み、現時点での各調整パラメータの設定値は変更されない。なお、ステップS4の処理の詳細については後述する。
【0062】
ステップS5において調整制御装置40は、イメージ抑圧比に関する全ての調整パラメータ(Qゲイン(又はIゲイン)、移相量)についての調整がステップS4の処理によって完了したか否かを判断する。肯定判断の場合にはステップS6に進む。否定判断の場合にはステップS3に戻る。
【0063】
ステップS6において測定値取得部41は、現時点での各調整パラメータの設定値により得られた変調信号のキャリアリークの測定値をSA30から読み込み、当該測定値が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する。肯定判断の場合にはステップS7に進む。否定判断の場合にはステップS9に進み、現時点での各調整パラメータの設定値は変更されない。なお、ステップS7の処理の詳細については後述する。
【0064】
ステップS8において調整制御装置40は、キャリアリークに関する全ての調整パラメータ(Iオフセット、Qオフセット)についての調整がステップS7の処理によって完了したか否かを判断する。肯定判断の場合にはステップS9に進む。否定判断の場合にはステップS6に戻る。
【0065】
次に、調整制御装置40は、全てのキャリア周波数についての調整が完了したか否かを判断する(ステップS9)。肯定判断の場合には処理を終了する。否定判断の場合にはステップS10に進む。
【0066】
ステップS10において調整制御装置40は、キャリア周波数fを所定のステップΔfだけ増加させて、信号発生装置10の局部発振器15に設定し、ステップS2に戻る。
【0067】
以下、
図6のフローチャートを参照しながら、
図5のステップS4,S7における信号調整処理について説明する。
【0068】
測定値取得部41は、Qゲイン(又はIゲイン)、移相量、Iオフセット、及びQオフセット(調整パラメータ)のうち、調整が完了していない1つの調整パラメータの設定値を変化させながら3つの測定値PをSA30から順次取得する(ステップS11)。
【0069】
例えば、ステップS11の直前の処理がステップS3であった場合には、Iゲイン、Qゲイン、又は移相量のいずれかについて、異なる3つの設定値が設定される。一方、ステップS11の直前の処理がステップS6であった場合には、Iオフセット又はQオフセットのいずれかについて、異なる3つの設定値が設定される。
【0070】
次に、対数真数変換部42は、ステップS11で取得された測定値P[dBm]を式(1)により電圧値V[V]に変換する(ステップS12)。
【0071】
次に、傾き算出部43は、調整パラメータの設定値を横軸、電圧値を縦軸とする座標上において、調整対象の調整パラメータの3つの設定値のうち中央値(初期値)により得られた電圧値と、他の2つの設定値により得られた2つの電圧値のそれぞれとを外挿する2つの1次関数の傾きを算出する(ステップS13)。
【0072】
次に、傾き決定部44は、ステップS13で求められた2つの傾きのうち、絶対値が大きい傾きを決定する(ステップS14)。
【0073】
次に、調整値算出部45は、ステップS14で決定された傾きを有する1次関数において、電圧値の外挿値が所定の閾値以下になる調整値を算出する(ステップS15)。
【0074】
次に、調整値設定部46は、ステップS15で算出された調整値をIQ調整部12に設定する(ステップS16)。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る信号調整システム1は、調整パラメータの設定値を横軸、キャリアリーク又はイメージ抑圧比の電圧値を縦軸とする座標上において、3つの設定値のうち中央値により得られた電圧値と、他の2つの設定値により得られた2つの電圧値のそれぞれとを外挿する2つの1次関数の傾きを算出する。そして、2つの傾きのうち絶対値が大きい傾きを有する1次関数を利用して、最適な調整パラメータの調整値をほぼ1回の調整処理で導出することが可能である。
【0076】
結果として、信号調整システム1は、従来よりもキャリアリークとイメージ抑圧比の調整時間を大幅に短縮できる。特に、信号発生装置10が使用するキャリア周波数が広範囲にわたる場合や、複数の信号発生装置を備えた測定装置などに本実施形態に係る信号調整システム1を適用した場合には、調整時間の短縮効果はより顕著となる。
【0077】
また、本実施形態に係る信号調整システム1の信号発生装置10は、調整値算出部45により算出された調整値をキャリア信号のキャリア周波数に対応付けて記憶し、必要に応じて記憶した調整値をIQ調整部12に設定する構成になっている。この構成により、信号発生装置10から調整制御装置40とSA30が切り離された後も、信号発生装置10はキャリアリークが低減された変調信号を出力することができる。