【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は複合材料の製造方法を提供し、該方法は次の工程を含む:
(a)ビスマス及びニッケルの塩又はビスマス及びコバルトの塩、好ましくはビスマス及びニッケルの塩を含有する第一の水溶液を製造する工程;
(b)モリブデン化合物、場合によっては、及びバインダーを含有する第二の水溶液を製造する工程;
(c)前記第一の水溶液を前記第二の水溶液に添加する工程であって、その際、第一の懸濁液を形成させる、工程;
(d)前記第一の懸濁液に第二の懸濁液を添加する工程であって、その際、該第二の懸濁液が、0.1〜10ml/gの範囲の細孔容積及び3〜20μmの範囲の粒度を有するSiO
2を含有する、工程;及び
(e)200〜600℃の範囲の温度で第三の懸濁液を噴霧か焼して、ビスマス−モリブデン−ニッケル−混合酸化物又はビスマス−モリブデン−コバルト−混合酸化物、好ましくは、ビスマス−モリブデン−ニッケル−混合酸化物を含有する複合材料を得る、工程。
【0007】
本願において、“ビスマス−モリブデン−コバルト−混合酸化物”及び“ビスマス−モリブデン−ニッケル−混合酸化物”という語は、ビスマス、モリブデン及びコバルト、又はビスマス、モリブデン及びニッケルを、酸化金属として含む混合酸化物を意味している。
【0008】
さらに好ましい実施形態において、上記の工程(a)における第一の水溶液は、マグネシウムの塩又は鉄の塩、又はそれら塩の両方を追加的に含有することができる。
【0009】
さらに好ましい実施形態において、上記の第一の水溶液はカリウム化合物を含有することができる。さらに別の実施形態において、上記の第一の水溶液は、カリウム化合物とセシウム化合物の両方、又はカリウム及びセシウムを含有する化合物を含有することができる。
【0010】
上記の第一の水溶液は、40〜60℃の温度で、好ましくは撹拌下で、投入する金属塩をできる限り少ない量で脱塩水に溶解させることによって好ましく製造される。
【0011】
さらに好ましい一実施形態において、上記の第一の水溶液は、最初に、40〜60℃の範囲の温度で撹拌しながら水が提供され、そして最初に、ニッケル塩、引き続いてビスマス塩を添加することよって製造される。その第一の水溶液がカリウム化合物を含有する場合、添加の順は、好ましくは次のとおりである:ニッケル塩の添加、カリウム化合物の添加、そして引き続いてビスマス塩の添加。その第一の水溶液を製造する際に鉄塩も投入する場合、その鉄塩の添加は、好ましくはニッケル塩の添加の前に行われる。また、その第一の水溶液にマグネシウム塩も投入する場合、そのマグネシウム塩の添加は、好ましくはニッケル塩の添加後か、又はカリウム化合物の添加前か、又はビスマス化合物の添加前に行われる。
【0012】
特に好ましくは、鉄塩、ニッケル塩又はマグネシウム塩として、それらの金属の水溶性の塩が使用される。とりわけ好ましくは、それらの金属塩のうちの硝酸塩が使用される。就中好ましい本発明の実施形態において、該第一の水溶液を製造するために金属硝酸塩−水和物が使用される。鉄塩としては、好ましくは、硝酸鉄無水和物、ニッケル塩としては、好ましくイソノナン酸は、硝酸ニッケル六水和物、そして、マグネシウム塩としては、好ましくは硝酸マグネシウム六水和物が使用される。あるいはまた、もしくは追加的に、ニッケル塩の使用に加えて、上記の第一の水溶液を製造するのに、コバルト塩、好ましくは、水溶性のコバルト塩、例えば、硝酸コバルト六水和物を使用することもできる。そのコバルト塩は、成分の添加の順に関して、ニッケル塩と同じ順で添加される。
【0013】
上記のビスマス塩は、好ましくは、60℃に加熱した際に液化するものである。40〜60℃の温度で溶融するビスマス塩を投入するのは、ビスマス化合物が一般には水中で溶解しにくい化合物であり、強酸にすることによってでしか溶液にできないからである。それ故、本発明によれば、上記の第一の水溶液を製造するためには、その高い水和水含有量により、40〜60℃の温度において、いわゆる水性溶融物と呼ばれる形態にあるビスマスの水和物塩を使用することが特に好ましい。そのため、本発明においては、上記の第一の水溶液を製造するのに使用される金属塩は全てが、それらの化合物の水和物塩であることも好ましい。このように、第一の水溶液を製造するためには、溶解させるのに必ずしも水が必要というわけではないが、使用される水和物金属塩は、40〜60℃の温度で撹拌しながら、順次、水性の溶融物に液化することができる。このように、使用されるビスマス塩のいずれも、さらに加工処理することもできる。完全な溶液にするために、場合によっては、−好ましくは硝酸により−酸性にすることもできる。従来技術において、ビスマス含有溶液を製造する場合、所望の量のビスマスを存在させるためには、常に、化学量論量よりも多いビスマスを使用しなければならなかった。
【0014】
本発明によれば、カリウム化合物として全ての水溶性のカリウム化合物、又はカリウム塩を使用することができる。しかしながら、本発明によれば、カリウム化合物として、硝酸カリウム又は水酸化カリウム、より好ましくは、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
【0015】
上記の第一の水溶液におけるビスマス塩の量は、その第一の水溶液の水を含む全重量に対して、好ましくは3〜9重量%の範囲、より好ましくは4〜8重量%の範囲、そして最も好ましくは5〜7重量%の範囲にある。
【0016】
第一の水溶液におけるニッケル塩の量又はコバルト塩の量、あるいはそれらの全量は、その第一の水溶液の水を含む全重量に対して、好ましくは35〜60重量%、より好ましくは40〜55重量%、そして最も好ましくは45〜50重量%の範囲にある。
【0017】
上記の第一の水溶液における鉄塩の量は、その第一の水溶液の水を含む全重量に対して、好ましくは0〜40重量%の範囲、より好ましくは1〜35重量%の範囲、さらに好ましくは、5〜30重量%の範囲、そして最も好ましくは15〜25重量%の範囲にある。その第一の水溶液が鉄塩を含有する場合、本発明の方法では、鉄を鉄酸化物の形態でも含有する混合酸化物が形成される。
【0018】
上記の第一の水溶液におけるマグネシウム塩の量は、その第一の水溶液の水を含む全重量に対して、好ましくは0〜25重量%の範囲、より好ましくは1〜20重量%の範囲、さらに好ましくは、5〜17重量%の範囲、そして最も好ましくは10〜14重量%の範囲である。その第一の水溶液がマグネシウム塩を含有する場合、本発明の方法では、マグネシウムをマグネシウム酸化物の形態でも含有する混合酸化物が形成される。
【0019】
上記の第一の水溶液におけるカリウム化合物の量は、その第一の水溶液の水を含む全重量に対して、好ましくは0〜0.1重量%の範囲、より好ましくは0.005〜0.08重量%の範囲、さらに好ましくは、0.02〜0.06重量%の範囲、そして最も好ましくは0.03〜0.05重量%の範囲である。
【0020】
本発明の方法の工程(b)では、モリブデン化合物、場合によっては、及びバインダーを含有する第二の水溶液が、水溶性のモリブデン化合物を提供し、そして引き続いて水に溶解させることによって好ましく製造される。追加的にバインダーを使用する場合には、最初にモリブデン化合物を、次いでバインダーを提供し、そして引き続いて水中に溶解させる。
【0021】
モリブデン化合物としては、考慮し得る水溶性のモリブデン化合物のいずれも使用できるが、該モリブデン化合物はモリブデン酸塩であることが好ましい。特に好ましくは、該モリブデン化合物は、ヘプタモリブデン酸塩、より好ましくはヘプタモリブデン酸塩アンモニウム、そして最も好ましくはヘプタモリブデン酸塩アンモニウム四水和物である。
【0022】
上記の第二の水溶液を製造するために任意に使用されるバインダーは、好ましくは、SiO
2含有のバインダーである。このバインダーは、好ましくは、400ppm未満、より好ましくは300ppm未満、そして最も好ましくは250ppm未満のナトリウムの含有量を有する。バインダーがSiO
2含有のバインダーである場合、そのSiO
2は、好ましくは140〜220m
2/g、より好ましくは160〜200m
2/g、そして最も好ましくは180〜190m
2/gのBET表面積を有する。この場合、そのSiO
2の密度は、好ましくは1.00〜1.40g/cm
3の範囲、より好ましくは1.15〜1.30g/cm
3、そして最も好ましくは1.20〜1.25g/cm
3の範囲にある。
【0023】
上記の第二の水溶液中のモリブデン化合物の量は、その第二の水溶液の水を含む全重量に対し、5〜40重量%の範囲、より好ましくは10〜35重量%の範囲、そして最も好ましくは18〜26重量%の範囲にある。
【0024】
上記の第二の水溶液中のバインダーの量は、その第二の水溶液の水を含む全重量に対し、0〜20重量%の範囲、より好ましくは1〜17重量%の範囲、さらに好ましくは、4〜13の範囲、そして最も好ましくは6〜11重量%の範囲にある。
【0025】
本発明の方法の工程(c)において前記の第一の水溶液の上記の第二の水溶液への添加は、該第二の水溶液を撹拌器を使って素早く撹拌し、そして該第一の水溶液をゆっくりとその第二の水溶液に滴下するか又はポンプで送り込むことによって遂行される。その際、沈殿物が形成されるため、それによって工程(c)では第一の懸濁液が形成されるのがさらに好ましい。
【0026】
さらに、上記の第一の懸濁液の形成とは別に、第二の懸濁液が製造され、該第二の懸濁液は、水中のSiO
2を含有していて、そのSiO
2は、0.1〜10ml/g、より好ましくは0.5〜5ml/g、そして最も好ましくは1〜3ml/gの細孔容積、及び、3〜20μmの範囲、より好ましくは5〜15μm、そして最も好ましくは8〜11μmの範囲の平均粒度を有する。該第二の懸濁液を製造するのに使用されるSiO
2は、250g/100g〜400g/100gの範囲、より好ましくは300g/100g〜350g/100gの吸油量を有するのがさらに好ましい。
【0027】
上記の第二の懸濁液中のSiO
2の量は、その懸濁液の水を含む全重量に対し、1〜20重量%の範囲、より好ましくは2〜10重量%の範囲、そして最も好ましくは3〜7重量%の範囲である。
【0028】
本発明の方法の工程(d)においては、好ましくは前記の第一の懸濁液を撹拌しながら第二の懸濁液がその第一の懸濁液に加えられる。
【0029】
本発明の方法において、第二の懸濁液の量は、前記第一の懸濁液中に使用されるモリブデン化合物の重量と、前記第二の懸濁液のSiO
2の重量比が、5〜25の範囲、より好ましくは10〜20の範囲、そして最も好ましくは12〜16の範囲になるように選択されるのが好ましい。
【0030】
同様に、該第一の懸濁液中で使用されるニッケル塩又はコバルト塩と、該第二の懸濁液中のSiO
2の重量比は、5〜25の範囲、より好ましくは10〜20の範囲、そして最も好ましくは11〜15の範囲である。
【0031】
前記第二の懸濁液を該第一の懸濁液に添加することに加えて、工程(d)では、その第一の懸濁液に沈降剤を添加することもできる。その沈降剤は、好ましくは、カチオン性のポリマーであり、この場合、カチオン性のポリアクリルアミド誘導体が好ましい。添加される沈降剤の量は、モリブデン化合物の沈降剤に対する重量比が、1.3×10
2〜1.3×10
4の範囲、より好ましくは0.3×10
3〜0.3×10
4の範囲、そして最も好ましくは1.1×10
3〜1.7×10
3の範囲になるように選択されるのが好ましい。
【0032】
本発明の方法の工程(d)における該第一及び第二の懸濁液の統合により、第三の懸濁液が生成され、これは、引き続く本発明の方法の工程(e)において200〜600℃、より好ましくは300〜550℃、そしてさらに好ましくは450〜520℃の範囲の温度で噴霧か焼される。その際に複合材料が生じ、これは、ビスマス−モリブデン−ニッケル−混合酸化物又はビスマス−モリブデン−コバルト混合酸化物を含有する。
【0033】
本発明によれば、その“噴霧か焼”とは、所与の温度に範囲に予熱されたか焼反応器又はか焼炉中へ懸濁液を噴霧することと解される。このようにして、液体は蒸発し、そして、複合材料が生じる。か焼炉又はか焼反応器としては、例えば、ドイツ国出願公開第10 2008 017 311号明細書中で混合酸化物を製造するのに使用されているようなものが使用される。
【0034】
噴霧か焼の後、任意に、250〜450℃の範囲、より好ましくは300〜400℃の範囲の温度で、か焼炉中でさらにもう一回か焼を遂行することもできる。
【0035】
本発明はまた、ビスマス−モリブデン−ニッケル混合酸化物、又はビスマス−モリブデン−コバルト混合酸化物、及びSiO
2を含有する複合材料にも関し、その際、そのSiO
2は、0.1〜10ml/gの範囲の細孔容積、及び、3〜20μmの範囲の平均粒度を有する。上述した、本発明の方法に関連して工程(d)において与えられた、上記の第二の懸濁液に投入されるSiO
2の好ましいパラメーター範囲は、本発明の複合材料中に含有されるSiO
2にもまた好ましい。つまり、複合材料中に含有されるSiO
2は、本発明の方法において、上記の第二の懸濁液中に投入されたSiO
2である。
【0036】
したがって、本発明はまた、本発明の方法によって製造された複合材料にも関する。
【0037】
本発明の方法の工程(d)においてSiO
2を投入することによって、あるいは、所与の細孔容積及び所与の平均粒度を有するSiO
2を存在させることによって、複合材料が所定の細孔容積を有するという利点があり、このことは、該材料から製造された触媒の高い活性及び選択性にとって重要である。
【0038】
本発明の複合材料のBET表面積は、好ましくは、20〜60m
2/gの範囲、より好ましくは30〜50m
2/gの範囲、そして最も好ましくは35〜45m
2/gの範囲である。
【0039】
本発明の複合材料の細孔容積は、好ましくは、0.08〜0.24cm
3/gの範囲、そしてより好ましくは0.12〜0.20cm
3/gの範囲にある。
【0040】
本発明の複合材料の全粒子の90%(d
90)は、好ましくは125μm未満の粒度を有する。本発明の複合材料の全粒子の50%(d
50)は、好ましくは50μm未満の粒度を有し、他方、全粒子の10%(d
10)は、7μm未満の粒度を有する。
【0041】
本発明はまた、本発明の複合材料の、ウォッシュコート懸濁液の製造のための使用にも関する。
【0042】
換言すると、本発明はまた、本発明の複合材料を含有するウォッシュコート懸濁液にも関する。
【0043】
本発明のウォッシュコート懸濁液を製造するために、本発明の複合材料を脱塩水中のスラリーにする。引き続いて、そのようにして製造されたウォッシュコート懸濁液は、該複合材料の粒子の粒度が、確実に1〜100μmの範囲になるように、好ましくは、Ultra−Turrax処理に供する。引き続いて、必要に応じて無機及び/又は有機の細孔形成剤、バインダー及び接着剤を添加することができる。これらの更なる成分が使用される場合、それらの成分を添加した後に、代わりにUltraturraxで粉砕することもできる。
【0044】
本発明のウォッシュコート懸濁液中の複合材料の量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、1〜50重量%の範囲、より好ましくは5〜40重量%の範囲、そして最も好ましくは10〜35重量%の範囲である。
【0045】
ウォッシュコート懸濁液を製造するためのバインダーとして、上記の複合材料の製造方法で使用されるのと同じバインダーを使用することができる。本発明のウォッシュコート懸濁液中のバインダーの量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、1〜15重量%の範囲、より好ましくは3〜12重量%の範囲、そして最も好ましくは5〜10重量%にある。
【0046】
無機の細孔形成剤としては、特に、SiO
2が使用され、これは、本発明の方法の工程(d)において複合材料を製造するのに第二の水性懸濁液中で使用されるものと同じである。本発明のウォッシュコート懸濁液中の無機の細孔形成剤の量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、0.1〜3重量%の範囲、より好ましくは0.5〜2重量%の範囲、そして最も好ましくは0.6〜1重量%の範囲にある。
【0047】
有機の細孔形成剤としては、炭素含有量の高い、いかなる有機の細孔形成剤も使用可能である。そのため、有機の細孔形成剤として、例えば、ヤシ殻粉を使用することができる。本発明のウォッシュコート懸濁液中のその有機の細孔形成剤の量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、0.5〜10重量%の範囲、より好ましくは1〜5重量%の範囲、そして最も好ましくは2〜3重量%の範囲にある。
【0048】
接着剤としては、好ましくは、無機の接着促進剤、例えば、シランが使用される。そのシランは、好ましくは、アルキルアルコキシシラン、例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメとキシシランである。本発明のウォッシュコート懸濁液中のその接着剤の量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、0.1〜3重量%の範囲、より好ましくは、0.2〜2重量%の範囲、そして最も好ましくは、0.3〜1重量%の範囲にある。
【0049】
上記のUltraturrax処理は、好ましくは、6000〜12000回転/分で1〜5分間行われる。
【0050】
本発明のウォッシュコート懸濁液中には、任意に、アルカリ化合物、特に、カリウム化合物又はセシウム化合物、例えば、水酸化カリウム、水酸化セシウム、硝酸カリウム又は硝酸セシウムも使用できる。本発明のウォッシュコート懸濁液中のそのアルカリ金属/複数種のアルカリ金属の全量は、そのウォッシュコート懸濁液の全重量に対し、好ましくは、0.05〜0.1重量%の範囲である。アルカリ金属として、カリウムもセシウムも使用することがさらに好ましい。その場合、カリウムのセシウムに対する原子比率は、1〜10の範囲、より好ましくは、2〜8の範囲、そして最も好ましくは、3〜6の範囲である。
【0051】
本発明はまた、被覆された触媒を製造する方法にも関し、該方法は次の工程を含む:
(a)本発明のウォッシュコート懸濁液の製造に従って、複合材料の水性懸濁液を製造する工程;
(b)工程(a)で製造された水性懸濁液で担体を被覆する工程;及び
(c)該被覆された担体を、500〜700℃、好ましくは550〜650℃、より好ましくは590〜620℃の範囲、そして最も好ましくは約610℃の温度でか焼する工程。
【0052】
本発明の方法の工程(c)における上記のか焼は、好ましくは、1〜5時間、より好ましくは2〜4時間、そして最も好ましくは約3時間の期間にわたって遂行される。
【0053】
本発明によれば、その担体の被覆は、循環運動に供された担体のバルク(Schuettung)に対し、工程(a)で製造された水性懸濁液を噴霧するように遂行するのが好ましい。
【0054】
“被覆された触媒”という語は、担体及び触媒活性材料を有するシェルを含む触媒と解される。その場合、その担体の表面上には追加的な層が施用され、該層中に触媒活性材料が存在する。それ故、この層は、担体の周りにシェルとして構築される追加的な材料層を形成する、すなわち、担体自体がそのシェルを構成するのではなく、触媒活性材料そのもの、又は触媒活性材料を含むマトリックス材料によってシェルが形成される。
【0055】
その担体は不活性材料からなるものが好ましい。それは多孔質であっても非多孔質であっても良い。しかしながら、非多孔質の担体が好ましい。担体は、規則的な形態、又は不規則的な形態、例えば、球、タブレット、円筒、充実円筒、空洞円筒、環、星又はその他の形態を有する粒子からなり、そして、その寸法において、例えば、径、長さ又は幅が、1〜10mmの範囲、好ましくは3〜9mmの寸法を有するのが好ましい。本発明によれば、球、すなわち、例えば、3〜8mmの径を有する球状の粒子が好ましい。担体の材料は、いずれの非多孔質及び多孔質の物質でも良いが、好ましくは非多孔質の物質を含む。この場合、材料の例として、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、層状シリケート、及びナノ材料、例えば、カーボンナノチューブ又はカーボンナノ繊維、セラミック、例えば、ステアタイトである。好ましい担体材料はステアタイトであり、さらに好ましくはステアタイト球である。
【0056】
上記の複合材を含有する懸濁液の施用又は噴霧の間、該担体を循環運動に供することにより、担体の全側面を均一に噴霧できるようにするのが特に好ましい。その循環運動は、原則的に、いかなる公知の機械的な撹拌装置、例えば、コーティングドラム(Dragiertrommel)によって行うことができる。しかしながら、本発明によれば、担体の循環運動は、プロセスガスを使って遂行するのが好ましく、例えば、流動床、過流層中で、又はInnojet−Aircoaterのコーティングチャンバー中で遂行される。その場合、プロセスガスが吹き込むことによって担体は移動する。この場合、処理の制御された滑り層中に担体が保持されるようにそのプロセスガスを導入するのが好ましい。その際、そのプロセスガスは加熱され、それによって、溶媒を速に蒸発させるのが好ましい。このように、前駆体化合物を、担体の上記の画定されたシェル中に存在させる。上記の噴霧の間の噴霧速度は、溶媒の蒸発速度と該前駆体化合物の担体への供給速度との間のバランスが達成されるように選択するのが好ましい。これにより、シェルにおいて所望のシェル(塗膜)の厚さが調整される。それ故、噴霧速度に依存して、シェルの厚さを限りなく調整し、かつ最適化することができ、例えば、2mmの厚さにすることができる。しかしながら、200μm未満の厚さを有する非常に薄いシェルも同様に可能である。
【0057】
ウォッシュコート懸濁液を噴霧する際の噴霧速度が一定であり、そして、被覆される担体形成体に対し、100g当たり0.5〜6g/分、より好ましくは、被覆される担体に対し100g当たり1〜4g/分の範囲、さらに好ましくは被覆される担体に対し100g当たり1〜3g/分の懸濁液の質量流の範囲が特に好ましい。言い換えると、噴霧する懸濁液の重量の、担体のバルクの重量に対する比率は、0.005〜0.06、より好ましくは0.01〜0.04、そしてさらに好ましくは0.01〜0.03の範囲にある。所与の範囲を超える質量流量の比率は、触媒製造時に相当量の噴霧損失を招き、そしてそれ故、著しい金銭的損失を招く一方で、質量流量の比率が所与の範囲を下回ると、触媒製造時に費やされる時間が非常に長くなり、製造が非効率的になる。
【0058】
流動床装置が使用される場合、その流動床中で担体が楕円状又はトロイダル状(ドーナツ形状)に移動するのが好ましい。そのような流動床において担体をどのように移動させるかという考えを与えるために、“楕円状の運動”の場合、流動床において該担体が、大きさが変化するその長軸及び単軸を有する楕円軌道上の垂直面で移動するように遂行する。“トロイダル状の運動”の場合、流動床中、大きさが変化するその長軸及び単軸を有する楕円軌道上の垂直面で、かつ、大きさが変化する径を有する円形軌道上の水平面で担体は移動する。平均すると、“楕円状の運動”の場合、担体は楕円軌道上の水平面で移動し、トロイダル軌道上の“トロイダル状の運動”の場合、つまり、担体は、垂直の楕円状断面のトーラス面をらせん状に逸れる。
【0059】
さらに、被覆された触媒を製造する本発明の方法で使用される担体は、噴霧の間、例えば、加熱されたプロセスガスによって加熱される。ここで、そのプロセスガスは、30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、そして最も好ましくは50〜100℃の温度を有する。上記の外側シェルが低減されたシェルの厚さを有することを確実にするために、上述の上限は守られるべきである。
【0060】
プロセスガスとしては空気が好ましく使用されるが、例えば、窒素、CO
2、ヘリウム、ネオン、アルゴンのような不活性ガス、及びそれらの混合物もまた使用できる。
【0061】
本発明の方法において、ウォッシュコート懸濁液の噴霧は、スプレーノズルを使って該懸濁液を噴霧することによって好ましく達成される。この場合、環状ノズルが好ましく使用され、これは、その対称面が、装置の底部の面に対して平行な噴霧雲を噴霧する。その噴霧雲の360°広がりにより、中心に落ちてくる担体を、溶媒で特に均一に噴霧することができる。その際、環状噴霧ノズル、すなわち、噴霧口が、担体を循環させる装置内に完全に埋設されているのが好ましい。
【0062】
触媒を製造する工程(c)によって、被覆された触媒は、特に好ましくは、約610℃で約3時間、空気中で活性化される。その後で、その触媒を使用することができる。
【0063】
本発明はまた、担体及びその上の触媒活性のシェルを含む被覆された触媒にも関し、その際、該触媒活性のシェルは、ビスマス−モリブデン−ニッケル混合酸化物又はビスマス−モリブデン−コバルト混合酸化物、及びSiO
2を含有し、その際、該SiO
2は、0.1〜10ml/gの範囲の細孔容積及び3〜20μmの範囲の平均粒度を有する。上記の複合材料を製造する方法の工程(d)に関連して述べた、SiO
2の好ましいパラメーターが使用されるのが、ここでも好ましい。本発明の被覆された触媒は、本発明の被覆された触媒を製造する方法に従って製造されたものであるか、又はそれによって得られるものであることが好ましい。
【0064】
本発明の被覆された触媒の場合、触媒活性のシェルの割合は、その被覆された触媒の全重量に対し、15〜45重量%の範囲、より好ましくは20〜40重量%の範囲にあるのが好ましい。
【0065】
本発明の被覆された触媒のシェルの厚さは、好ましくは、100〜1500μmの範囲、より好ましくは300〜1000μm、そしてさらに好ましくは500〜900μmである。さらに、本発明の被覆された触媒の触媒活性のシェルの多孔率は、40%超、より好ましくは50%超である。さらに、その触媒活性のシェルの細孔容積は、好ましくは、0.45〜0.75m
3/g、より好ましくは0.5〜0.7m
3/g、そして最も好ましくは0.55〜0.67m
3/gである。その被覆された触媒のシェルにおける平均細孔径は、好ましくは150〜210nmの範囲、より好ましくは160〜200nm、そして最も好ましくは170〜190nmである。この場合、その測定は、DIN 66133(Hgポロシメトリー)に準拠して行われる。本発明の被覆された触媒のBET表面積は、好ましくは10〜60m
2/gの範囲、より好ましくは20〜50m
2/g、そして最も好ましくは20〜40m
2/gの範囲にある。BET表面積は、DIN 66132に準拠した窒素の吸収による1ポイント法によって測定される。
【0066】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による被覆された触媒か、又は本発明の被覆された触媒を製造する方法の工程に従って製造された被覆された触媒の、オレフィンからのα,β−不飽和アルデヒドの製造、特に、プロペンからのアクロレインの製造における使用にも関する。
【0067】
換言すると、本発明はまた、本発明の被覆された触媒の使用下におけるオレフィンからα,β−不飽和アルデヒドを製造する方法か、又はプロペンからアクロレインを製造する方法にも関する。
【0068】
本発明を図面及び例に基づいてより詳細に説明するが、本願の特許請求の範囲を制限するものではない。