(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至8の何れか1項に記載の方法において、前記経路長逸脱(d)を判定する前記ステップは、前記経路長逸脱(d)と前記差(D)との間に線形の関係を仮定することにより、実行されることを特徴とする方法。
【発明の概要】
【0007】
従って、キュベットの経路長逸脱について補正する改善された方法を提供することが本発明概念の目的である。
【0008】
この補正を実装する装置を提供することが、本発明概念の更なる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明概念の第1の態様によれば、試料の経路長逸脱を判定する方法が提供される。方法は、試料を複数の波数における電磁放射に曝露させるステップと、複数の波数における試料中における電磁吸収を判定するステップと、吸収帯域の第1吸収レベルと関連付けられた第1波数及び吸収帯域の第2吸収レベルと関連付けられた第2波数を判定するステップであって、第2波数は、第1波数とは異なっている、ステップと、第1波数と第2波数との間の差を判定するステップと、差に基づいて経路長逸脱を判定するステップと、を有する。
【0010】
放射装置は、試料を電磁放射に曝露させるように構成されてもよく、この電磁放射は、透過の後に、検出器によって検出されてもよい。検出器は、受け取った異なる波数を有する電磁放射の強度を検出するように構成されてもよい。経路長とは、又は試料経路長とは、電磁放射が試料を通過する距離を意味している。経路長は、試料を通じて送られる電磁放射の方向に対して平行な方向における試料の厚さと見なされてもよい。試料が試料キュベット内において維持されている場合に、試料経路長は、内側キュベット長の延在範囲と一致することになる。内側キュベット長の延在範囲は、通常、キュベットの内側壁の間の長さの延在範囲と見なされる。従って、キュベット経路長及び試料経路長という用語は、相互交換可能に使用されてもよい。当然のことながら、内側キュベット長の延在範囲は、その内側壁に沿って変化しうることから、試料経路長も、相応して変化しうる。非限定的な例においては、通常のキュベットの経路長は、30マイクロメートル〜60マイクロメートルという延在範囲を有する。
【0011】
経路長逸脱とは、経路長の公称値又は基準値からの逸脱を意味している。例えば、経路長の基準値は、特定の時点における経路長であってもよい。非限定的な例においては、本発明の方法によって判定される通常の経路長逸脱は、1〜5マイクロメートルである。経路長逸脱が判定されたら、経路長の基準値に対して経路長逸脱を加算又は減算することより、経路長を判定しうることを理解されたい。一代替実施形態によれば、本発明の方法は、経路長を差に関係付けることにより、試料の経路長の絶対値を判定するべく使用されてもよいことに留意されたい。
【0012】
第1及び第2波数は、基準液体の、又は基準液体の少なくとも1つの成分の、電磁放射吸収帯域に対応してもよい。好ましくは、この液体は、波数の明確に定義された範囲内において大きな吸収を示す。基準液体の例は、水及び鉱物油を含む。波数の観点において電磁放射に関するスペクトル情報を表現する代わりに、波長又は周波数を使用してもよいことは、明らかである。更には、複数の波数は、波数の個別の集合体であってもよく、或いは、この代わりに、波数の連続的な組であってもよい。好ましくは、電磁放射は、多色であってもよいが、単色放射も同様に想定可能である。又、試料中における電磁吸収を判定する代わりに、電磁強度又は透過も、同様に判定されうることを理解されたい。
【0013】
本発明概念によれば、試料の経路長逸脱は、第1波数と第2波数との間の差に基づいて判定されてもよく、これは、本方法が適用可能である際には、米国特許第5,933,792号明細書において規定されている方法が、冗長になりうることを意味している。更に詳しくは、経路長逸脱を補正するために水とプロパノールの混合物などの標準化試料を利用するニーズは、存在しない。従って、本発明概念は、標準化試料を分光計に導入するのが困難である際に、有利でありうる。これは、分光計がインラインプロセスの一部であると共にアクセスするのが困難である際に、発生しうる。
【0014】
更には、計測されたスペクトルの特徴的なパターンを基準パターンと比較するニーズも存在しない。従って、キュベットの経路長逸脱について補正する改善された方法が提供される。従って、計測された強度と経路長との間の関係を表すベール−ランベルトの法則に鑑み、強度逸脱、或いは、この代わりに、吸収度逸脱も、本発明概念によって補正されうる。
【0015】
特定の状況においては、特定の波数範囲内における大きな吸収に起因し、特定の化学官能基の強度を計測することが困難又は不可能である場合がある。それにも拘らず、本発明の方法によれば、この範囲の幅を依然として判定してもよく、次いで、その幅を経路長逸脱に関係付けてもよい。従って、強度信号が実質的に飽和しうる大きな吸収が存在する波数領域においても(或いは、計測が実行される方式に応じたノイズフロア未満においても)、経路長逸脱をある程度の精度で判定しうる。
【0016】
本発明概念の更なる利点は、例えば、基準流体などの試料の個々のスペクトルに基づいて経路長逸脱を検出する方法が提供されるという点にある。
【0017】
本発明概念の更に別の利点は、標準化試料を取り扱う技術分野の専門家に対するニーズが存在しないという点にある。又、本発明の方法は、あまり標準化されていない動作環境において適用されてもよい。例えば、分光計の許容される動作温度の組に対する相対的に弱い要件が存在してもよい。
【0018】
任意選択により、経路長逸脱は、複数の吸収レベル及び複数の関連付けられた波数を判定することにより、判定されてもよい。
【0019】
一実施形態によれば、電磁放射は、赤外放射である。この場合には、分析対象のスペクトル領域は、赤外スペクトルに関し、即ち、それぞれ、700ナノメートル〜1ミリメートルの範囲の波長に対応する約14000cm
−1〜10cm
−1の範囲の波数に関する。具体的には、3〜10マイクロメートルの波長を有する中間赤外放射が使用されてもよい。赤外放射を使用する利点は、赤外分光法が単純であると共に確実であるという点にある。更には、大部分の有機成分は、スペクトルの赤外部分を吸収する。
【0020】
一実施形態によれば、吸収は、フーリエ変換分光法によって判定される。IR分光法の場合には、フーリエ変換赤外(Fourier Transform InfraRed:FTIR)分光計が使用されてもよい。代替実施形態によれば、吸収は、分散分光法などのその他のタイプの分光法によって判定される。
【0021】
一実施形態によれば、第1及び第2吸収レベルは、同一である。第1及び第2吸収レベルは、なんらかの既定の精度レベルまで、同一であってもよい。
【0022】
一実施形態によれば、第1及び第2波数は、水の電磁放射吸収帯域のスロープ上における位置に対応している。ここで、試料は、好ましくは、液体形態の水を有してもよい。一例においては、試料の全体が水から構成されている。別の例においては、試料の一部分のみが水を有する。使用される水の吸収帯域は、波数1640cm
−1においてセンタリングされたスペクトル帯域であってもよく、この波数は、水のO−H曲げ振動に関係している。
【0023】
但し、水のその他の吸収帯域も想定可能である。第1及び第2波長は、水帯域の端点に対応してもよい。この実施形態の利点は、水は、本発明の方法が適用されうる通常の動作環境において容易にアクセス可能であるという点にある。例えば、ミルク及びワインなどの液体を計測するための中間赤外分光法を使用する際には、水は、一般に、基準計測を実行する際にキュベット内に導入される。この点が、分光計の標準化のために必要とされる余分な成分である非常に特別なタイプの液体を通常は有すると共に較正対象の装置のユーザーからは容易にアクセス不能でありうる従来技術における上述の標準化試料の導入とは対照的である。従って、潜在的なキュベットの経路長逸脱が、水のスペクトルからの情報にのみ基づいて補正されうる。この実施形態の別の利点は、水が、純粋であり、或いは、少なくとも容易に純化されうるという点にある。
【0024】
一実施形態によれば、方法は、第3吸収レベルと関連付けられた第3波数及び第4吸収レベルと関連付けられた第4波数を判定することにより、バックグラウンドスペクトルを推定するステップを更に有する。第3及び第4吸収レベルは、水平方向の軸が波数であると共に垂直方向の軸が強度であるプロットの最大値において又はその近傍において配置されうる。推定されたバックグラウンドスペクトルは、既定の基準の組が充足された場合には、真のバックグラウンドスペクトルに十分に近接しているものと見なされてもよい。バックグラウンドスペクトルにより、例えば、単一ビームスペクトルなどの未加工の補正前の検出器のスペクトルを正規化してもよい。
【0025】
一代替実施形態によれば、バックグラウンドスペクトルは、空気計測を使用することにより、即ち、キュベットが空気のみを有する計測を使用することにより、判定されてもよい。この場合には、試料は、スペクトル分析の際に存在しておらず、且つ、単一ビームスペクトルは、試料キュベット、キュベット内の空気、ミラーの反射、電磁供給源の放出スペクトル、検出器の感度などに関する情報のみを有する。この場合には、ビームスプリッタ、静止ミラー、及び可動ミラーを有するマイケルソン干渉計が利用されてもよい。
【0026】
一実施形態によれば、推定ステップは、判定された第3及び第4波数並びに第3及び第4吸収レベルを使用することにより、次数Nの多項式としてバックグラウンドスペクトルを表現するステップを有する。Nは、任意の自然整数であってもよい。一意性を目的として、次数Nの多項式の場合には、N+1個の定数を規定する必要がある。この結果、n=0,1,2,...,Nにおいて数値のN+1個のペア(k
n,A
n)を規定する必要があり、ここで、A
nは、波数k
nにおける吸収度である。更なる一代替実施形態によれば、推定ステップは、バックグラウンドスペクトルを1つの変数の数学関数として表現するステップを有する。
【0027】
一実施形態によれば、経路長逸脱を判定するステップは、経路長逸脱と2つの波数の間の差Dとの間に線形関係を仮定することにより、実装されている。この仮定により、それぞれ、スロープ及び切片を表す、例えば、a及びbなどの、2つのパラメータが定められなければならない。線形の関係は、少なくとも波数及び経路長の特定の範囲において、ほぼ真であるものと仮定される。この範囲内においては、パラメータa及びbは一定である。パラメータa及びbは、特定の分光計について、一度だけ、定められうる。例えば、a及びbは、差Dを米国特許第5,993,792号明細書の方法から確立された経路長と相関させることにより、判定されてもよい。或いは、この代わりに、a及びbは、時間に伴って変化してもよい。例えば、a及びbは、分光計の較正が実行されるたびに、継続的に更新されてもよい。
【0028】
一実施形態によれば、判定された経路長逸脱は、試料中の空気の検出に使用されている。空気は、計測が実施される吸収帯域と関連付けられた材料の濃度を事実上希釈する気泡の形態でありうる。この実施形態の利点は、経路長が空気の存在下において相対的に小さく表れることから、試料中の空気の徴候は、実際に経路長の増大を生成する試料を保持するキュベットの正常な損耗とは異なっているという点にある。従って、見かけの経路長逸脱は、試料又はキュベット中の空気の明瞭な通知であり、従って、空気が除去されうる。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、試料の経路長逸脱を判定する装置が提供される。装置は、試料を複数の波数における電磁放射に曝露させるように構成された放射装置と、計測装置と、を有する。計測装置は、複数の波数における試料中における電磁吸収を判定し、吸収帯域の第1吸収レベルと関連付けられた第1波数及び吸収帯域の第2吸収レベルと関連付けられた第2波数を判定し、ここで、第2波数は、第1波数とは異なっており、第1波数と第2波数との間の差を判定し、且つ、差に基づいて経路長逸脱を判定するように、構成されている。
【0030】
本発明の第2の態様の詳細及び利点は、その大部分が、本発明の第1の態様のものに類似しており、従って、上述の内容を参照されたい。更には、一実施形態によれば、試料は、装置内に配置されることに留意されたい。別の実施形態によれば、試料は、装置の外部に配置されている。
【0031】
一般に、請求項において使用されているすべての用語は、そうではない旨が本明細書において明示的に定義されていない限り、当技術分野におけるその通常の意味に従って解釈する必要がある。「1つの(a)/1つの(an)/その[要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど]」に対するすべての参照は、そうではない旨が明示的に記述されていない限り、前記要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つのインスタンスを参照するものとして開放的に解釈する必要がある。
【0032】
本発明の上述の、並びに、更なる目的、特徴、及び利点については、同一の参照符号が類似した要素について使用されている添付図面を参照した本発明の好適な実施形態に関する以下の例示用の且つ非限定的な詳細な説明を通じて、更に十分に理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、吸収分光法の環境において、
図1及び
図2を参照し、本発明の装置100の一実施形態について説明することとする。装置100は、放射装置200と、干渉計測構成300と、検出器400と、計測装置500と、を有する。又、分析対象の試料構成600も、装置100内において配置されるように構成されている。
【0035】
放射装置200は、
図1及び
図2において文字Rによって示されている方向において多色赤外放射を放出するべく構成された放射供給源210を有する。
【0036】
干渉計測構成300は、当業者には周知のフーリエ変換分光法を実装するのに必要な機器を有する。例えば、干渉計測構成300は、赤外放射をコリメートするコリメータと、例えば、ミラー及びレンズなどの光学コンポーネントのような干渉計内に含まれる更なる機器と、を有する。
【0037】
検出器400は、試料構成600を透過した到来赤外放射を検出するべく構成されており、後述の内容を更に参照されたい。
【0038】
計測装置500は、検出された赤外放射に関する未加工のデータを収集する検出器400に接続されたコンピュータ510を有する。この接続により、計測装置500は、波数軸に沿って等距離において位置決めされた個別の数のチャネル内の透過率を判定するように構成されている。コンピュータ510は、収集されたデータを処理するプロセッサ、適切な演算ソフトウェア、並びに、当業者には周知の更なる機器を有する。更には、コンピュータ510は、収集されたデータ及び処理されたデータをメモリ内に保存するように構成されている。本実施形態によれば、検出器400からの未処理データを波数の関数としての強度に関するデータに変換するべく、フーリエ変換アルゴリズムを使用するルーチンが使用されている。更には、コンピュータ510は、2次元プロットの観点においてグラフィカルにデータを提示するように構成されており、以下の
図5〜
図7を参照されたい。
【0039】
放射装置200、干渉計測構成300、検出器400、及び計測装置500は、以下においては、FTIR分光計と呼称するか、或いは、単に干渉計と呼称することとする。更に、以下においては、このFTIR分光計の強度逸脱を補正する方法についても説明することとする。
【0040】
試料構成600は、干渉計測構成300と検出器400との間に配置される。更には、試料構成600は、赤外放射を透過させることによってスペクトル分析される液体試料を保持するように構成されている。例えば、液体試料は、ミルク又はワインであってもよい。本実施形態においては、液体試料は、基準流体として機能すると共にキュベットの経路長逸脱の補正を実行するべく使用される水610を有しており、後述する内容を更に参照されたい。水試料610は、部分的にフッ化カルシウムから製造されたキュベット620内に配置されている。キュベット620の外側表面は、矩形の平行六面体として成形されている。キュベット620は、内側壁630と、ウィンドウ要素640と、スペーサ650と、空洞660と、試料610を保持する試料空間622と、を有しており、
図2の断面平面図を参照されたい。内側壁630及びウィンドウ要素640は、試料610を通じて送られる赤外放射にとって透明であることが明らかである。スペーサ650は、透明である必要はないことに留意されたい。例えば、スペーサ650は、プラスチックから製造されてもよい。試料空間622の容積は、スペーサ650の延在範囲を変化させることにより、変化させてもよい。実際には、スペーサ650がキュベット620の経路長を生成している。更には、試料610を試料空間622に導入する入口670と、試料610を空間622から除去する出口680と、が存在している。本実施形態によれば、試料610は、計測の際には、
図2の矢印によって示されているように、試料空間622を介して、入口670から出口680まで流れることにより、運動状態において維持されている。但し、一代替実施形態によれば、試料610は、計測の際に試料空間622内において静止状態において維持されている。試料610は、室温を有する環境内に配置される。試料の温度は、スペクトル分析の際に、実質的に固定されている。
【0041】
試料空間622内において赤外放射によってカバーされている距離は、経路長と呼称される。放射は、試料610を
図1及び
図2の方向Rにおいてキュベット620の側部エッジとの関係において直角に透過することから、経路長Lは、ウィンドウ要素640の間において、キュベット620の内側長さの延在範囲と一致している。キュベット620が磨滅した場合に、経路長Lは、変化(増大)することになる。
【0042】
実際に、水試料610と接触するウィンドウ要素640がフッ化カルシウムから製造されている場合には、これらのウィンドウ要素640は、時間と共に分解されることになる。又、その耐用期間において、キュベット620は、その他の化学物質によっても劣化しうる。例えば、ウィンドウ要素640の厚さT(
図2を参照されたい)は、時間に伴って相対的に小さくなる。この結果、経路長Lは、時間に伴って増大することになり、これにより、経路長逸脱をもたらす。更には、タイプの異なる装置100内に配置されたキュベットは、一般に、異なる経路長を有することにも留意されたい。例えば、キュベットがある時点において実質的に類似していた場合にも、キュベットを様々な程度に分解させた結果として、異なる経路長がもたらされうる。更には、スペーサ650の延在範囲も、異なるキュベット620の間において変化し、これにより、変化する経路長をもたらしうる。従って、異なる装置100の特性を相対的に類似したものにするために、経路長の変動を補償する必要がある。
【0043】
以下、
図3及び
図4のブロックダイアグラム及び
図5〜
図7のプロットを参照し、FTIR分光計の強度逸脱を補正する方法について説明することとする。
図5〜
図7は、特定のキュベットを使用したスペクトル分析に関係した一例における様々なスペクトルを示している。又、更に以下において理解されるように、経路長逸脱の補正は、強度逸脱の補正を意味している。本例示用の実施形態によれば、方法は、キュベット経路長の逸脱を検出するために水のスペクトルを利用している。但し、好ましくは、試料間の任意の濃度の変化に起因した強度の変動が本発明による経路長逸脱の補正において考慮されうるように、吸収帯域を生成するその試料中の材料の濃度が計測の間において一定であるか又は少なくとも既知である場合には、試料中のその他の吸収帯域が利用されうることを理解されたい。水試料に関する計測を使用して分光計が補正された後に、分光計は、ミルクやワインなどのその他の液体試料に関する計測に使用されてもよい。
【0044】
方法(ボックス700)は、水試料610を放射装置200からの多色赤外放射に対して曝露させるステップ(ボックス710)を有する。放射は、
図1及び
図2の波形の線によって示されている。検出器400は、干渉計測構成300、水試料610、並びに、キュベット620を透過した到来赤外放射を検出し、これにより、計測装置500を利用し、1000cm
−1〜5000cm
−1の範囲の波数における強度を判定する(ボックス720)。更に詳しくは、この範囲内の等距離に分散した波数k
nの個別の組の強度レベルが判定され、ここで、n=1,2...,Nである。詳細には、式k
n=1000+4000・(n−1)/(N−1)が波数の分散について使用されてもよい。例えば、N=2000であるが、その他のNの値も同様に想定可能である。好ましくは、波数k
nは、等しく離隔しており、その理由は、フーリエ変換アルゴリズムが使用されるからである。強度データ及び波数データは、コンピュータ510のメモリ内に保存される。
【0045】
図5には、結果的に得られるlog
10変換された強度レベルI
nが、波数k
nに照らしてプロットされている。log変換された強度レベルは、相互交換可能に、強度レベルと呼称することとする。垂直方向軸が強度であり且つ水平方向スペクトル軸が対応する波数である2次元プロットにおける補間曲線として明示された
図5のスペクトルは、単一ビームスペクトルと呼称される。或いは、これに代わるグラフィカルな提示法によれば、プロットは、散布図であってもよい。
【0046】
スペクトル軸は、望ましい程度の精度に較正済みであるか又は補正済みであるものと仮定されている。具体的には、分光計のスペクトル軸は、標準化試料を欠いた方法により、較正されてもよい。
【0047】
次に、バックグラウンドと、放射装置200から送出される赤外放射の光路内に存在する妨害と、に起因し、単一ビームスペクトルを補正する必要がある。例えば、供給源210、干渉計測構成300、検出器400、及びキュベット620の特性が、バックグラウンドスペクトルに対して影響を及ぼしうる。
【0048】
次に、
図4及び
図5〜
図7を参照し、バックグラウンド補正されたスペクトルを判定する方法(ボックス800)について本実施形態に従って更に詳細に説明する。
【0049】
上述のように、単一ビームスペクトルが判定されたら(ボックス810)、I
nのスペクトル的に不活性な領域内において、
図5の曲線の全体を通じて3つの領域を判定する(ボックス820)。スペクトル的に不活性な領域とは、この環境においては、水の存在に起因した吸収が小さいか又は本質的に存在していない領域を意味している。3つの不活性領域は、
図6においては、濃くなったエリアによって示されている。曲線に沿って3つの地点を判定する方法は、コンピュータ510内において、サブルーチンにより、自動的に実装され、且つ、これらの地点は、そのメモリ内に保存される。これらの3つの領域内の地点には、
図6においては、それぞれ、水平方向及び垂直方向軸上の不活性領域内の地点の場所に対応した数値のペア(k’,I’)、(k’’,I’’)、及び(k’’’,I’’’)によってラベルが付与されている。k’、I’、k’’、I’’、k’’’、及びI’’’は、いくつの地点がそれぞれの領域内において選択されているのかに応じて、スカラー又はベクトルであってもよい。波数k’、k’’、及びk’’’は、組k
nから選択され、且つ、強度I’、I’’、及びI’’’は、組I
nから選択されており、ここで、n=1,...,Nである。本実施形態によれば、地点を表すべく、
図6の個々の濃くなったエリア内の任意のペア(k’,I’)、(k’’,I’’)、及び(k’’’,I’’’)が使用されてもよい。但し、代替実施形態によれば、ペアは、それらが特定の基準を充足した場合にのみ、受け入れ可能である。これらの基準のうちの1つは、地点(k’,I’)、(k’’,I’’)、及び(k’’’,I’’’)が、地点を接続する補間曲線の極大値Inに十分に近接した状態で配置されなければならない、というものであってもよい。
【0050】
本例においては、それぞれの領域から、1つの地点のみが選択されている。一代替実施形態によれば、バックグラウンドスペクトルの推定のために、それぞれのスペクトル的に不活性な領域内の複数の地点が使用されている。非限定的な一例においては、20個の地点がそれぞれの領域内において使用されている。複数の地点は、例えば、最小二乗法などの最良フィット近似法によってバックグラウンドスペクトルを判定するべく、使用されてもよい。
【0051】
波数kの関数としてのバックグラウンド強度により、連続的な関数B(k)の観点においてバックグラウンドスペクトルを推定するべく、以下の式が得られる。
B(k)=α+β・k+γ・k
2
【0052】
本実施形態によれば、推定されたバックグラウンドスペクトルは、log変換されていることに留意されたい。従って、バックグラウンドスペクトルは、3つの係数α、β、及びγの判定を要する二次多項式によってシミュレートされる。係数は、B(k’)=I’、B(k’’)=I’’、及びB(k’’’)=I’’’を要件とすることにより、判定される。
図6には、関数B(k)の観点において付与された結果的に得られる推定されたバックグラウンドスペクトル(ボックス830)が単一ビームスペクトルとの関連においてプロットされている。関数B(k)と関係する情報は、コンピュータ510のメモリ内に保存される。
【0053】
多項式は、その他の曲線フィット近似法を使用することによって判定されてもよいことに留意されたい。例えば、最良フィット近似法が使用されてもよい。更には、異なる次数の多項式が使用されてもよい。又、異なる数の領域が使用されてもよい。
【0054】
従って、連続関数B(k)は、関係B
n=B(k
n)に従って、n=1,...Nにおいて地点の組(k
n,B
n)を割り当てており、ここで、B
nは、波数k
nにおける推定されたバックグラウンドスペクトルを表している。
【0055】
次に、推定されたバックグラウンドスペクトルが条件の既定の組に従って十分に正確であることを保証するべく、試験ルーチンがコンピュータ510によって実行される(ボックス835)。条件が充足されない場合には、推定されたバックグラウンドスペクトルを見出す手順が再度反復されてもよい。例えば、異なるタイプの多項式次数が使用されてもよい。
【0056】
次いで、コンピュータ510内のサブルーチンによって差C
n=I
n−B
nを形成することにより、バックグラウンド補正されたスペクトルが最終的に判定される(ボックス840)。
図7には、個別の関数C
nが波数k
nに照らしてプロットされている。C
k’=C
k’’=C
k’’’=0であり、これは、吸収度が、これらの波数においてゼロであると推定されると解釈されうることに留意されたい。関数C
nに関係した情報は、コンピュータ510のメモリ内に保存される。
【0057】
代替実施形態によれば、バックグラウンド補正されたスペクトルを判定するその他の方法が使用されてもよい。例えば、個別の組I
nの代わりに単一のビームスペクトルを表すべく、連続補間関数I
sb(k)が使用されてもよい。n=1,...,Nにおける数値のペア(k
n,I
n)により、波数kの観点における単一のビームスペクトルの関数I
sb(k)を判定してもよい。I
sb(k)は、コンピュータ510内のサブルーチンによって判定されてもよく、且つ、そのメモリ内に保存されてもよい。一例においては、関数I
sb(k)は、区分的線形補間関数であり、且つ、すべての地点(k
n,I
n)を通過している。別の例においては、関数I
sb(k)は、データセット(k
n,I
n)を使用した最良フィット法から判定される滑らかな関数である。後者の場合には、関数は、既定の精度レベルに従って地点(k
n,I
n)に十分に近接した状態でI
sb(k)を通過する必要がある。同様に、I
sb(k)を判定するその他の方法が想定可能であることを理解されたい。関数I
sb(k)を使用することにより、バックグラウンド補正されたスペクトルは、連続関数C(k)=I
sb(k)−B(k)として表現されてもよい。
【0058】
バックグラウンド補正されたスペクトルが判定されたら、波数1640cm
−1を中心としてセンタリングされた水帯域を見出すべく、コンピュータ510によってサブルーチンが起動される(ボックス730)。このステップにおいては、バックグラウンド補正されたデータが分析される。或いは、この代わりに、サブルーチンは、例えば、バックグラウンド補正されたスペクトルの視覚的な検査によって実行されるものなどのように、手動であってもよい。
図7においては、水帯域は、波数1640cm
−1を中心として位置した谷として識別されている。この水帯域は、水のO−H曲げ振動に関係している。水帯域の場所に関する情報は、コンピュータ510のメモリ内に保存される。
【0059】
任意選択により、バックグラウンド補正されたスペクトルは、温度、空気の湿度、及び空気の圧力などの外部的な値に起因した変動を考慮することにより、更に補正されてもよい。一例においては、これらの値のうちの少なくとも1つの値の変動は、試料に関する1つ又は複数の計測の際に誘発され、且つ、補正される必要がある。別の例においては、第1の外部的な値において得られたスペクトルは、第2の外部的な値において有効なスペクトルに変換されている。
【0060】
ベール−ランバートの法則によれば、log変換された強度は、水の濃度のみならず、試料経路長に対しても線形で比例している。更に詳しくは、適切な条件下における吸収度A=log
10(I
0/I)は、関係A=ε・c・Lをほぼ充足しており、ここで、εは、モル吸収率であり、cは、このような監視対象の吸収を生成する試料中の材料の濃度であり、且つ、Lは、経路長である。ここで、I
0は、基準セルを通じた電磁放射の強度であり、且つ、Iは、試料を透過した後の電磁放射の強度である。水の濃度cは、(水試料中において)一定であることから、強度は、経路長に線形で相関している。この線形の相関は、吸収を生成する試料中の材料濃度が試料の間において且つ計測の間において一定に留まっている場合に、本発明による方法において監視される任意の吸収帯域について存在することを理解されたい。水の場合には、波数1640cm
−1において水帯域の強度を計測することが困難であるか、或いは、場合によっては、不可能であり、その理由は、通常使用されているキュベットの経路長における水の吸収が大きく、且つ、従って、信号が、飽和状態となるか、或いは、少なくとも飽和に近接した状態となるからである。
【0061】
それにも拘らず、本発明者は、経路長の変化が、関連する吸収帯域(本実施形態においては、水吸収帯域)の強度に影響を及ぼすのみならず、その幅に対しても影響を及ぼすことを見出した。実際に、更に詳細に後述するように、吸収(ここでは、水吸収)帯域の幅と経路長逸脱との間の関係が確立されうる。
【0062】
水帯域の幅を判定するべく、バックグラウンド補正された強度の固定値C
Dが判定される。例えば、C
Dは、コンピュータ510のメモリ内に保存されているデータベースから取得されてもよい(ボックス740)。更に詳しくは、水帯域の幅は、強度C
Dにおいて判定されることを要する。値は、線C=C
Dが、谷の最小値から既定の距離において水帯域と交差するように選択される。谷の最小値には、通常、幅の十分に正確な判定を妨げうる大量のノイズが存在する(
図7においては、観察されない)。既定の距離は、要件の組から定められてもよい。或いは、この代わりに、既定の距離は、コンピュータ510のメモリ内に保存されている固定数値のリストから選択されてもよい。本例においては、値C
D=−2が選択され、且つ、
図7には、線C=C
Dがプロットされている。
【0063】
線C=C
Dは、波数k
L及びk
Rにおいてバックグラウンド補正された強度C
nと交差しており、
図7を参照されたい。左側及び右側波数k
L及びk
Rが判定され(ボックス750)、且つ、その後に、差D=k
R−k
Lを形成することにより、水帯域幅が判定される(ボックス760)。判定は、コンピュータ510内において実装されているサブルーチンにより、確立される。k
L、k
R、及びDに関する情報は、コンピュータ510のメモリ内に保存される。現時点において検討されている例においては、
図7において付与されているスペクトルにより、k
L=1594.70cm
−1、k
R=1695.82cm
−1、及びD=101.12cm
−1であると確立されている。
【0064】
連続線C=C
Dは、通常は、特定の個別のC
n値と交差せず、従って、当業者に周知の近似法を採用する必要があることに留意されたい。例えば、線C=C
Dが、k
mとk
m+1との間に位置する波数の値においてC
mとC
m+1との間に位置する強度を略通過している場合には、k
mとk
m+1との間の波数における強度値は、C
line(k
m)=C
m及びC
line(k
m+1)=C
m+1を充足するまっすぐな線C
line(k)によって近似されてもよい。逆に、連続関数C(k)が、バックグラウンド補正されたスペクトルを表すべく使用されている場合には、線C=C
DがC(k)と交差するkの値は、一意である。
【0065】
次に、水帯域幅の公称値D
nomが判定される。例えば、D
nomは、コンピュータ内に保存されているデータベースから取得されてもよい(ボックス770)。公称値D
nomは、複数のキュベットの平均水帯域幅を算出することにより、定められてもよい。本例においては、D
nom=105.31cm
−1であるものと判明している。但し、任意のその他の公称値が使用されてもよいことに留意されたい。公称値は、基準値と見なされてもよい。従って、判定された水帯域幅Dは、公称値D
nomよりも小さい。従って、現在検討中のキュベットを使用することによって得られるスペクトルの強度は、補正する必要がある。更に詳しくは、スペクトルが、公称水帯域幅D
nomに対応した経路長を有するキュベットから得られるスペクトルに似るように、バックグラウンド補正された強度C
nに対して、1超である強度補正係数Qを乗算する必要がある。
【0066】
上述のように、キュベットの経路長逸脱が、ほぼ線形で水帯域Dの幅に関係していることが経験的に確立されうる。更に詳しくは、商D/Dnomによって公称値DnomからのDの逸脱を表すことにより、以下の関係がほぼ当て嵌まることが確立されてもよく、
a・(D/D
nom−1)=1/Q−1
ここで、公称経路長からの逸脱は、逆数係数1/Q(以下を参照されたい)によって表され、且つ、aは、無次元定数である。実際に、Qは、次式として結果的に表現されうる強度補正係数を表している。
Q=1/(a・(D/D
nom−1)+1)
【0067】
aの値は、経験的に判定されてもよい。本例においては、a=1.5である。本例においては、これは、水帯域幅Dに対して線形で相関している強度補正係数Qの逆数値であり、且つ、更には、Qは、経路長逸脱と関係していることを強調しておきたい。更に詳細には、Qと経路長との間の関係は、以下におけるように表現されてもよい。経路長逸脱が、dによって表記され、且つ、公称値L
nomからの逸脱を表している場合には、関係L
current=L
nom+dが見出される。公称値L
nomは、複数のキュベットにおける平均経路長の算出から、定められてもよいが、公称値を定めるその他の方法も同様に想定可能である。L
currentは、分光計によって計測される現時点の経路長である。公称値からの逸脱が存在していない場合には、即ち、d=0である場合には、L
current=L
nomであることに留意されたい。ベール−ランバートの法則によれば、公称経路長L
nomによって計測されるスペクトルの強度は、A
nom=ε・c・L
nomである。更には、現時点の経路長L
currentによって計測されるスペクトルの強度は、A
current=ε・c・L
current=ε・c・(L
nom+d)である。従って、これは、A
nom/A
current=L
nom/L
currentに、或いは、等価的に、A
nom=A
current・L
nom/(L
nom+d)に、準拠している。スペクトルを公称経路長に対応した強度に、即ち、A
nomに、変換して戻すには、スペクトルに係数Q=L
nom/(L
nom+d)を乗算しなければならない。
【0068】
従って、上述の式に基づいて2つの異なる方法で逆Q係数を表現することにより、経路長逸脱dと水帯域幅Dとの間に線形の関係が見出される。この関係を検証する1つの方法は、異なる経路長を有する複数のキュベットの水帯域幅を計測し、且つ、次いで、標準化試料を使用した方法によって予測されるように、これらを経路長に対して相関させるというものである。関係を確立するべく、最良フィット近似法が利用されてもよい。例えば、線形回帰が使用されてもよい。ほぼ線形の関係における誤差は、0.1パーセント程度と低いものであってもよく、これは、食品産業におけるスペクトル分析の大きな数値の場合に、十分に正確である。
【0069】
繰り返しになるが、本例においては、強度補正係数Qは、先程付与されたa、D、及びD
nomの観点におけるQの等式を使用することにより、算出されてもよい(ボックス780)。従って、この式から、わずかに異なる経路長において収集されたスペクトルが公称経路長との関係において正規化されてもよい。D=D
nomである場合には、補正係数は、Q=1になり、且つ、補正は不要であることに留意されたい。本例においては、補正係数は、Q=1/(1.5・(101.12/105.31−1)+1)≒1.063となる。
【0070】
次いで、この強度相関係数Qは、例えば、スペクトル分析がミルク又はワインに対して実行される際などに、検討対象のキュベットを伴って計測される後続の強度スペクトルに対して適用される。強度相関係数Qは、基準の組が充足された際に、再計算されてもよい。1つのこのような基準は、特定の時間インターバルが経過したというものであってもよい。Qは、規則的な時間インターバルにおいて再計算されてもよい。通常の時間インターバルは、1時間〜3時間の間のどこかであってもよいが、その他の時間インターバルも同様に想定可能であることは明らかである。以前に算出された係数は、再計算されたQによって置換される。別の基準は、分光計の較正が、分光計のいくつかの制御パラメータがパラメータの受け入れ可能な範囲外となることに起因して不確実なものになるというものであってもよい。
【0071】
強度補正係数は、その他の手段によって算出されてもよいことを理解されたい。従って、経路長補正と、従って、強度補正は、キュベットの現時点の状態を反映するべく、継続的に更新される。Qの継続的な更新に起因し、キュベット内に含まれるフッ化カルシウムの劣化は、基本的に、分光計のユーザーによって気付かれない状態において残されることになる。
【0072】
更には、分光計からの観点において、異なるキュベットは、補正により、その経路長の差とは無関係に、同一の状態となる。
【0073】
ところで、上述の方法は、試料を、特に、現在検討対象である水などの液体試料を、有するキュベット内に存在している空気を検出するべく使用されうることに留意されたい。小さな気泡がキュベット内に存在している際には、水は、希釈されたかのように表れ、これは、水帯域の経路長及び幅が相対的に小さく表れることを意味している。従って、閾値よりも小さな水帯域幅は、キュベット内の空気の標識でありうる。実際に、キュベット内の空気の徴候は、キュベットの正常な損耗とは異なっており、その理由は、キュベットの損耗は、水帯域幅の増大によって特徴付けられるからである。
【0074】
以上、主には、いくつかの実施形態を参照し、本発明について説明した。但し、当業者には容易に理解されるように、以上において開示されているもの以外のその他の実施形態も、同様に、添付の特許請求項によって定義される本発明の範囲内において可能である。