(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アンビルロールの前記ロール表面を構成する前記硬質材のヤング率に対する、前記切断刃を構成する硬質材のヤング率の比が、1.3以上である、請求項4に記載のロータリーカッタ。
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアンビルロールの前記ロール表面上のワークに、ダイカットロールの切断刃を押し付けて前記ワークを切断する切断工程を有する、ワークの切断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークの切断に用いられるロータリーカッタは、切断刃の刃先のチッピングを十分に抑制して更なる長寿命化を図ることが求められている。ここで、アンビルロールの耐摩耗性向上の観点からは、高い硬さを有する硬質材料を用いることが有効である。一方で、アンビルロールの硬さが高くなると切断刃の刃先のチッピングが発生し易くなる傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、一つの側面において、耐摩耗性を有しつつ刃先のチッピングを抑制することが可能なアンビルロールを提供することを目的とする。本発明は、別の側面において、耐摩耗性を有するアンビルロールを備えつつ刃先のチッピングを抑制できるロータリーカッタを提供することを目的とする。本発明は、さらに別の側面において、アンビルロールの摩耗を抑制しつつ刃先のチッピングを抑制できるワークの切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一つの側面において、超硬合金及びサーメットの少なくとも一方を含む硬質材で構成されるロール表面を備え、硬質材のヤング率が300〜400GPaであるアンビルロールを提供する。
【0008】
上述のアンビルロールは、硬質材で構成されるロール表面を備えることから、耐摩耗性に優れる。また、上記硬質材は、300〜400GPaのヤング率を有する。ロール表面がこのような硬質材で構成されることによって、ワークの切断時に切断刃がロール表面およびワークに継続的又は断続的に接触しても、切断刃のチッピングの発生を抑制することができる。
【0009】
上記硬質材のビッカース硬さ(Hv)は800以上であってもよい。これによって、耐摩耗性を一層高くすることができる。上記硬質材の破壊靱性値は10MPa・m
1/2以上であってもよい。これによって、アンビルロールの耐久性を十分に高くすることができる。
【0010】
本発明は、別の側面において、切断刃を有するダイカットロールと、ロール表面が切断刃に対向するように配置される上記アンビルロールと、備える、ロータリーカッタを提供する。
【0011】
上述のロータリーカッタに備えられるアンビルロールは硬質材で構成されるロール表面を有することから耐摩耗性に優れる。また、アンビルロールのロール表面を構成する硬質材は、300〜400GPaのヤング率を有する。ロール表面がこのような硬質材で構成されることによって、ワークの切断時にダイカットロールの切断刃がワーク、又はワーク及びアンビルロールのロール表面に継続的又は断続的に接触しても、切断刃のチッピングの発生を抑制することができる。
【0012】
上記ロータリーカッタにおいて、アンビルロールのロール表面を構成する硬質材のヤング率に対する、切断刃を構成する硬質材のヤング率の比が、1.3以上であってもよい。
【0013】
本発明は、さらに別の側面において、上述のアンビルロールのロール表面上のワークに、ダイカットロールの切断刃を押し付けてワークを切断する切断工程を有する、ワークの切断方法を提供する。このアンビルロールは硬質材で構成されるロール表面を備えることから、耐摩耗性に優れる。また、上記切断工程においてダイカットロールの切断刃がアンビルロールのロール表面に継続的又は断続的に接触しても、切断刃の刃先のチッピングの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、一つの側面において、耐摩耗性を有しつつ切断刃の刃先のチッピングを抑制することが可能なアンビルロールを提供することができる。本発明は、別の側面において、耐摩耗性を有するアンビルロールを備えつつ切断刃の刃先のチッピングを抑制できるロータリーカッタを提供することができる。本発明は、さらに別の側面において、アンビルロールの摩耗を抑制しつつ切断刃の刃先のチッピングを抑制できるワークの切断方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
図1は、本実施形態のロータリーカッタの概略図である。
図1のロータリーカッタ100は、アンビルロール10とダイカットロール20とを備える。アンビルロール10及びダイカットロール20は、それぞれ軸15及び軸25を備える。アンビルロール10とダイカットロール20は、軸15と軸25が互いに平行になるように配置されている。
【0018】
アンビルロール10は、略円筒形状を有する母材14と、母材14の外周面を覆う表面層13と、を有する。母材14と表面層13は、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。表面層13は超硬合金及びサーメットの少なくとも一方を含む硬質材で構成される。すなわち、アンビルロール10のロール表面12(外周面)は上記硬質材で構成される。
【0019】
表面層13における硬質材に含まれる超硬合金としては、WC−Co系合金、WC−TiC−Co系合金、WC−TaC−Co系合金、WC−TiC−TaC−Co系合金、WC−Ni系合金、WC−Ni−Cr系合金等が挙げられる。これらのうち、硬さ及び強度を十分に高くする観点から、硬質材はWC−Co系合金であってもよい。一方、チッピングを十分に抑制する観点から、硬質材はWC−Ni系合金であってもよい。
【0020】
硬質材に含まれるサーメットとしては、金属成分としてMo、Ni及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、セラミックス成分として炭化物及び窒化物の少なくとも一方を含むものが挙げられる。炭化物としては、例えばTiCが挙げられる。窒化物としては、例えばTiNが挙げられる。サーメットに含まれる金属は、Mo、Ni及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む合金であってもよい。サーメットに含まれるセラミックスは、炭化物及び窒化物の少なくとも一方を含む固溶体であってもよい。
【0021】
アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材のヤング率は300〜400GPaである。このようなヤング率を有する硬質材で表面層13が構成されるアンビルロール10は、耐摩耗性に優れつつ切断刃26の刃先のチッピングを抑制することができる。したがって、ロータリーカッタ用のアンビルロールとして好適に用いることができる。硬質材のヤング率は、耐摩耗性を一層高くする観点から、310GPa以上であってもよいし、320GPa以上であってもよい。硬質材のヤング率は、チッピングを十分に抑制する観点から、380GPa未満であってもよいし、350GPa未満であってもよい。
【0022】
本開示におけるヤング率は、縦×横×長さ=3×4×40(mm)の四角柱状に加工した測定用試料を用いて、JIS R 1601に示される三点曲げ試験によって測定することができる。なお、三点曲げ試験によるヤング率の測定精度を確認するため、ナノインデンテーション法によるヤング率の測定を併用してもよい。
【0023】
アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材のビッカース硬さ(Hv)は、例えば800以上であってもよく、1000以上であってもよい。ビッカース硬さ(Hv)を十分に高くすることによってアンビルロール10の耐摩耗性を十分に高くすることができる。本開示におけるビッカース硬さは、ビッカース硬さ試験機を用いて行う。
【0024】
アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材のロックウェル硬さ(HRA)は、83.4以上であってもよく、85以上であってもよい。本開示におけるロックウェル硬さ(HRA)は、市販のロックウェル硬さ試験機を用いて測定することができる。なお、本開示においては、ビッカース硬さとロックウェル硬さを纏めて「硬さ」という。
【0025】
アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材の破壊靱性値は、10MPa・m
1/2以上であってもよく、12MPa・m
1/2以上であってもよい。これによって、アンビルロール10の耐久性を十分に高くすることができる。破壊靱性値は、市販の測定装置を用いて、JIS R1607:2010の圧子圧入法(IF法)に準じて測定することができる。
【0026】
ロール表面12を構成する硬質材のヤング率、硬さ及び破壊靱性値は、表面層13の組成及び気孔率等によって調節することができる。例えば、硬質材において硬質相(例えばWC)に対するバインダ相(例えばCo)の割合が大きくなると、ヤング率及び硬さが小さくなる傾向、及び破壊靱性値が大きくなる傾向にある。また、硬質材において気孔率が大きくなると、ヤング率が小さくなる傾向にある。
【0027】
例えば、WC−Co系超硬合金の場合、気孔率は、4〜15体積%であってもよいし、5〜10.5体積%であってもよい。気孔率が大きくなり過ぎると強度が低くなる傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると、刃のチッピングが発生し易くなる傾向にある。硬質材の気孔率は、表面層13の断面をラップ研磨して得られた研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡で観察し、画像を画像解析して求めることができる。
【0028】
図2は、WC−Co系超硬合金における金属成分(Co)の含有量とヤング率の関係を示す図である。
図3は、WC−Ni系超硬合金における金属成分(Ni)の含有量とヤング率の関係を示す図である。
【0029】
図2及び
図3に示すとおり、硬質材における金属成分の含有量を変えることによって、ヤング率を調節することができる。例えば、硬質材が超硬合金の場合、バインダ相の含有量は50〜73体積%程度であってもよい。このように、バインダ相の含有量を一般的な組成よりも多くすることで、ヤング率の調節を容易にすることができる。ただし、硬質材の組成は上述の例に限定されず、組成とともに硬質材中の気孔率を調節してヤング率を所定の範囲に調節してもよい。硬質材がサーメットの場合も、ヤング率が300〜400GPaとなるように調整されたものを用いることできる。
【0030】
図1に戻り、表面層13の厚さは特に限定されず、例えば、1〜10mmであってもよい。表面層13は膜状であってもよい。また、別の幾つかの実施形態では、アンビルロール10の母材14と表面層13は、一つの部材で構成されていてもよい。この場合、母材14と表面層13は硬質材で構成される。
【0031】
アンビルロール10の母材14及び軸15の材質は限定されず、例えば、合金鋼(熱間工具鋼、冷間工具鋼、耐熱鋼、高張力鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、又はマンガンモリブデン鋼)、或いは工具鋼(炭素工具鋼、合金工具鋼、ダイス鋼又はハイス鋼)であってもよい。
【0032】
アンビルロール10の表面層13は、粉末冶金的な手法で形成することができる。例えば、所定の組成を有する粉末を加圧成形して焼結し円筒型の表面層13を形成してもよい。その後、加熱した表面層13に母材14を挿入する、所謂焼き嵌めによってアンビルロール10を得ることができる。アンビルロール10の製造方法はこれに限定されず、冷やしばめ、又は圧入等の方法であってもよいし、溶射法又はコールドスプレー法によって母材14を硬質材料で被覆して表面層13を形成してもよい。また、硬質材料をガス化して母材14上に蒸着させて表面層13を形成してもよいし、液体をコーティングしてメッキのように析出させて表面層13を形成してもよい。
【0033】
アンビルロール10とダイカットロール20は、ダイカットロール20のロール表面24とアンビルロール10のロール表面12とが対向するように配置される。ダイカットロール20のロール表面24の中央部21には切断刃26が設けられている。切断刃26は、超硬合金又はセラミックス等の硬質材で構成される。切断刃26の寿命の観点から、切断刃26を構成する硬質材の硬さはアンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材の硬さよりも大きいことが好ましい。切断刃26のビッカース硬さ(HV)は、例えば、1200以上であってもよいし、1400以上であってもよい。
【0034】
切断刃26の刃先のチッピングを一層抑制する観点から、アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材のヤング率に対する、切断刃26を構成する硬質材のヤング率の比は、例えば1.3以上であってもよく、1.5以上であってもよい。アンビルロール10及び切断刃26の耐久性向上の観点から、アンビルロール10のロール表面12を構成する硬質材のロックウェル硬さ(HRA)に対する、切断刃26を構成する硬質材のロックウェル硬さ(HRA)の比は、1.0〜1.2であってもよく、1.0〜1.1であってもよい。
【0035】
ダイカットロール20は、ロール表面24(外周面)に切断刃26が設けられている。ダイカットロール20は、両端部に中央部21よりも一回り大きい外径を有する外縁部22を有する。ダイカットロール20は、外縁部22がアンビルロール10のロール表面12と接触しながらP2の方向に回転する。一方、外縁部22よりも内側の中央部21は、外縁部22よりも小さい外径を有することから、中央部21におけるロール表面24とアンビルロール10のロール表面12の間には隙間が生じている。
【0036】
アンビルロール10が矢印P1方向に回転するとともにダイカットロール20が矢印P2方向に回転することによって、中央部21のロール表面24とロール表面12との間を帯状のワーク40(被切断部材)が通過する。ここで、ロール表面24に切断刃26が設けられているため、ワーク40がロール表面24とロール表面12との間を通過する際、ワーク40が切断刃26によって切断される。切断刃26によって、帯状のワーク40は所定の形状に切り抜かれる。このような切り抜き加工によって、切断部材42が製造される。切断部材42の形状は特に限定されず、切断刃26の形状に応じて帯状のワーク40を種々の形状に切り抜くことができる。切断部材42が切り抜かれたワーク40には、切断部材42の形状に対応する切り抜き部44が形成される。
【0037】
ロータリーカッタ100によるワーク40の切断は、切り抜き加工に限定されない。別の幾つかの実施形態では、帯状のワーク40を短冊状に切断する加工であってもよい。この場合は、切断部材は短冊状の形状を有する。
【0038】
アンビルロール10は、軸15を回転中心として、例えば図示されていない軸受に回転可能に支持されている。ダイカットロール20も、軸25を回転中心として、例えば図示されていない軸受に回転可能に支持されている。アンビルロール10及びダイカットロール20を回転駆動する機構は特に限定されない。例えば、軸15又は軸25の一端は回転モータに連結されていてもよい。軸15及び軸25の他端同士は、軸15及び軸25が互いに逆方向に回転するようにギア連結されていてもよい。モータには、軸15及び軸25の回転速度を調節する制御部が接続されていてもよい。
【0039】
図4は、アンビルロール10及びダイカットロール20をそれぞれ径方向に沿って切断したときの断面を模式的に示すロータリーカッタ100の断面図である。ワーク40は、アンビルロール10とダイカットロール20の間を通過して矢印P3の方向に移動する。ワーク40はアンビルロール10とダイカットロール20の間を通過する際に、ダイカットロール20のロール表面24に設けられた切断刃26によってワーク40に切り込みが入る。アンビルロール10とダイカットロール20の回転、及びワーク40の移動に伴って切り込みが進展してワーク40の切り抜き加工(切断加工)がなされる。
【0040】
図5は、切断刃26を通るようにダイカットロール20を軸方向に沿って切断したときの切断刃26及びその近傍を拡大して示す拡大断面図である。本実施形態では、切断刃26の刃先26aにおけるチッピングを抑制することができる。切断刃26は、ダイカットロール20のロール本体27と一体的に形成されていてもよい。この場合、切断刃26とロール本体27は同じ材質で形成される。このようなダイカットロール20は、粉末冶金的な手法で製造することができる。
【0041】
切断刃26は、ロール本体27とは別部材としてロール本体27に取り付けられてもよい。また、別の幾つかの実施形態では、アンビルロール10と同様に、母材と切断刃を有する表面層とを別々に作製し、略円筒形状の表面層に母材を焼きばめ、冷やしばめ、又は圧入等の方法によって、ロール本体27を製造してもよい。ロール本体27は、例えば工具鋼等の鉄系材料で構成されていてもよい。
【0042】
ロータリーカッタ100は、耐摩耗性を有するアンビルロール10を備えつつ、刃先26aのチッピングを抑制することができる。ロータリーカッタ100におけるアンビルロール10は、耐摩耗性を有しつつ刃先26aのチッピングを抑制することができる。
【0043】
ロータリーカッタ100を用いて帯状のワーク40を切断する切断方法は、アンビルロール10のロール表面12上のワーク40に、ダイカットロール20の切断刃26を押し付けてワーク40を切断する切断工程を有する。ワーク40としては、不織布、布、紙、プラスチック、樹脂、カーボン、及び金属箔等の薄板状又は箔状のものが例示できる。この切断方法は、上述のロータリーカッタ100の説明内容に基づいて行うことができる。
【0044】
上述の切断方法によれば、アンビルロール10の耐摩耗性を維持しつつ刃先26aのチッピングを抑制することができる。したがって、安定的にワーク40の切断加工及び切断部材42の製造を安定的に継続して行うことができる。
【0045】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、アンビルロールは、表面層と母材との間に任意の中間層を備えていてもよい。また、ダイカットロールは、アンビルロールと同様に表面層と母材とを有していてもよいし、中間層を有していてもよい。
【実施例】
【0046】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
WC粉末とCo粉末を高速で基材に衝突させる溶射法によって、基材上にWC−20体積%Co系(CIS 019D(超硬工具協会規格)分類にてVM−50に相当する。)の超硬合金で構成される表面層(厚み:1.5mm)を作製した。
【0048】
表面層の密度、気孔率(ポア量)、ヤング率、ビッカース硬さ及び破壊靱性値の測定を行った。ヤング率は、市販の三点曲げ試験器(島津製作所製、商品名:オートグラフ材料試験機)を用いて測定した。ビッカース硬さは、市販の測定装置(株式会社AKASHI製、商品名:MODEL AVK No.230959)を用いて測定した。破壊靱性値は、同装置を用いて、JIS R1607:2010の圧子圧入法(IF法)に準じて測定した。気孔率は、表面層の断面をラップ研磨して得られた研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像を画像解析して求めた。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1〜4)
比較例1は、超硬合金(WC−20体積%Co系合金)の焼結体である。この超硬合金のヤング率及び物性値を表1に示す。比較例1の超硬合金は、気孔をほぼ含んでいなかった。比較例2〜4は、焼結法によって作製したWC−20体積%Co系の超硬合金である。比較例2〜4については、超硬合金の製造時に飛散する有機物の材料中への混入量を調節して、意図的に気孔を包含させた。各超硬合金の気孔率、ヤング率及びその他の物性を測定した結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すとおり、気孔率の最も大きい実施例1の表面層は、ヤング率が最も低かったが、ビッカース硬さは比較例1と同等であった。
図6は、気孔率とヤング率の関係を示すグラフである。
図6に示す結果から、WC−20体積%Co系超硬合金の場合、気孔率を5〜10.5%の範囲にすれば、ヤング率が300〜400GPaの範囲内になると考えられる。
【0052】
(実施例2)
回転軸を有する円柱状の鉄系の母材の外周面上に、実施例1と同様の溶射法によって表面層(WC−20体積%Co系の超硬合金)を形成した。表面層の厚さは約1mm、気孔率は約9体積%であった。
【0053】
回転軸を有するロール本体の中央部の表面上に、所定の形状を有する切断刃を有するダイカットロールを製造した。切断刃は、超硬合金材(CIS 019D分類でVF−40種材)を用いて形成した。アンビルロールのロール表面及び切断刃を構成する硬質材の物性を、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。表2に示す切断刃のロックウェル硬さは、ビッカース硬さ(Hv)に換算すると約1450である。
【0054】
上述のアンビルロールとダイカットロールを用いて
図1に示すようなロータリーカッタを作製した。このロータリーカッタを用いて、チッピング評価試験として、不織布製のワークの切断加工を断続的に行った。なお、断続的な可動は、初期チッピングを起こしやすい使用条件である。また、この評価試験では、初期から高付加条件としてロータリーカッタを稼働した。通常の切断加工の場合、初期の荷重は最大でも100kgfであるが、本評価試験では初期から荷重を1500kgfとした。そして、切断加工が終わった後の切断刃の刃先におけるチッピングの有無を目視で確認した。結果は表2に示すとおりであった。
【0055】
(実施例3)
回転軸を有する円柱状の鉄系の母材の外周面上に、WC−60体積%Co系の超硬合金の焼結体で構成される表面層を形成し、アンビルロールを得た。アンビルロールのロール表面の物性を実施例2と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。表面層をこのようにして形成したこと以外は実施例2と同様にして、
図1に示すようなロータリーカッタを作製し、チッピング評価試験を行った。結果は、表2に示すとおりであった。
【0056】
(比較例5)
回転軸を有する円柱状の鉄系の母材の外周面上に、超硬合金材であるWC−30体積%Co(CIS 019D分類でVM−50種に相当する)の焼結体を用いて円筒を形成し、アンビルロールを得た。このようにして得られたアンビルロールのロール表面の物性を実施例2と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。表2に示すアンビルロールのロックウェル硬さ(HRA)は、ビッカース硬さ(Hv)に換算すると約1200である。表面層の気孔率はほぼ0%であった。
【0057】
回転軸を有するロール本体の中央部の表面上に、実施例2と同じ形状を有する切断刃を形成してダイカットロールを製造した。切断刃は、超硬合金材(CIS 019D分類でVF−40種に相当する。)を用いて形成した。切断刃の物性を実施例2と同様にして測定した。表2に示す切断刃のロックウェル硬さ(HRA)は、ビッカース硬さ(Hv)に換算すると約1700である。
【0058】
このようなアンビルロール及びダイカットロールを用いて、実施例2と同様のロータリーカッタを作製し、切断加工後の刃先におけるチッピングの有無を確認した。結果は表2に示すとおりであった。
【0059】
(比較例6)
比較例5で作製したアンビルロールと、実施例2で作製したダイカットロールとを用いて実施例2と同様のロータリーカッタを作製し、切断加工後の刃先におけるチッピングの有無を確認した。結果は表2に示すとおりであった。
【0060】
(比較例7)
回転軸を有する円柱状の鉄系の母材の外周面上に、超硬合金材(CIS 019D分類でVM−50種に相当する。]を用いて表面層を形成し、アンビルロールを得た。表面層は、WC−30体積%Co系の超硬合金で構成されていた。アンビルロールのロール表面の物性を実施例2と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。表2に示すアンビルロールのロックウェル硬さ(HRA)は、ビッカース硬さ(Hv)に換算すると約1050である。表面層の気孔率はほぼ0%であった。
【0061】
このアンビルロールと、実施例2で作製したダイカットロールとを用いて実施例2と同様のロータリーカッタを作製し、切断加工後の刃先におけるチッピングの有無を確認した。結果は表2に示すとおりであった。
【0062】
【表2】
【0063】
表2には、アンビルロールのロール表面を構成する硬質材のヤング率に対する、切断刃を構成する硬質材のヤング率の比を示している。また、表2には、アンビルロールのロール表面を構成する硬質材のロックウェル硬さに対する、切断刃を構成する硬質材のロックウェル硬さの比も示している。実施例2,3のロータリーカッタは、比較例5〜7よりも、チッピングの発生を十分に抑制できることが確認された。
【0064】
(比較例8)
市販されている超硬合金のビッカース硬さとヤング率の関係を
図7に示す。
図7には超硬合金における硬質相の粒子の大きさ及び用途毎にプロットの種類を変えて示している。
図7に示されるデータの中には、一般耐摩耗用(CIS 019D分類で、「VF−10」,「VF−20」,「VF−30」,「VF−40」に相当する。)の超硬合金のデータも含まれている(黒塗りの三角形のプロット)。また、耐摩耗及び耐衝撃用(CIS 019D分類で「VC−40」,「VC−50」,「VC−60」に相当する。)の超硬合金のデータも含まれている(×印のプロット)。
図7にプロットされたデータのヤング率はいずれも400GPaを超えていた。
【解決手段】ロータリーカッタ100は、切断刃26を有するダイカットロール20と、ロール表面12が切断刃26に対向するように配置されるアンビルロール10とを備える。アンビルロール10のロール表面12は、超硬合金及びサーメットの少なくとも一方を含む硬質材で構成される。硬質材のヤング率は300〜400GPaである。