(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学プラントは、マイクロスケールの空間内での混合、化学反応、分離などを利用した生産設備であり、大型タンク等を用いた従来のバッチ方式のプラントと比較して多くの有利点を備える。例えば、第1に複数の流体の混合や化学反応を短時間且つ微量の試料で行えることである。
【0003】
第2に、装置が小型であるため実験室レベルで生成物の製造技術を確立できればナンバリングアップを行うことで容易に量産用の設備化ができることである。第3に、爆発などの危険を伴う反応にも適用可能であること、多品種少量生産を必要とする化合物の生成などにも素早く適応できることである。
【0004】
また第4に、需要量に合わせた生産量の調整が容易にできることなどである。このため、化学工業や医薬品工業の分野では、流体の混合または反応を行い材料や製品を製造するための好適な装置として注目され、近年、その研究開発が盛んに行われている。
【0005】
マイクロ化学装置は、材料供給、マイクロミキサ、熱交換、マイクロリアクタ、精製・分離で構成され、これらの各装置を接続する配管、及び制御装置などを主構成要素とする。このうちマイクロミキサ、マイクロリアクタおよび精製分離装置は、それぞれ流路幅が数μm〜数mm程度のオーダーである微小な流路を有する。そして、この流路に導かれた複数種類の流体を互いに接触させ、一定の温度・圧力操作下で、混合あるいは分離または化学反応を生起するものである。
【0006】
一般の気液反応システムでは、気液のいずれかを連続相あるいは分散相として接触させる。たとえばバッチ式の撹拌槽ではスパージャーによる気体分散と気液の撹拌混合により、気液接触効率をあげて反応させる。連続式の棚断塔あるいは充填塔では液相への気槽分散接触などにより反応させる。またスプレーにより液体を気槽中に分散させ反応させる方法もある。
【0007】
槽内あるいは流路内の流れ状態は2相流、エマルジョン流、スラグ流、気泡流、噴霧流などいずれかの流れになる。いずれの状態であっても気体は基本的に容積を大きく占有するが、それに見合った装置容積を確保することにより反応に必要な時間の確保が可能となる。また装置に圧力を加えて気相容積を小さくする方法も採られる。
【0008】
これら一般の気液反応システムは、反応速度の速い系であっても、反応速度の遅い系であっても適応できる。しかし基本的に装置は大型化するので、大量のバルク生産には向いていても、多品種少量が主体的なファインケミカルでは必ずしも効率的とは言い難い。またバッチ式釜では気液接触の不均一により、反応収率が上がらないなどの制約あるいは課題がある。
【0009】
マイクロリアクタシステムは、原料流体は微小な配管によって移送され、微小空間で反応が行われるが、原料の一方が気体あるいは気化状態であると、流路内の流れ状態は2相流、エマルジョン流、スラグ流などいずれかの混相流になる。その結果気液の接触に不均一化がおこるという問題がある。これら気液の接触不均一化により結果として高い反応率を得ることができない。言い換えると、マイクロリアクタシステムでは、気体を扱うのが容易ではないという難しさを有する。
【0010】
このような問題に対して特許文献1では、筒状の反応容器中に径が1μm〜1mm程度の微粒子を充填し、そこに気体原料と液体原料を通過させることで、反応生成物を得る気液反応装置が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照しながら本発明に係るマイクロリアクタシステムの構成を説明する。なお、以下の説明はあくまで本発明の一実施形態を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、実施形態を改変することができる。
【0026】
(実施の形態1)
図1には本実施形態に係るマイクロリアクタシステム1の構成を示す。本実施形態に係るマイクロリアクタシステム1は、気体原料7cをキャリア溶剤6c中に溶解させた気体溶解液23cを送出する気体溶解手段10と、気体溶解液23cを液体原料8cと混合し原料混合液26cを作製するミキサ部12mと、原料混合液26cを反応させ反応生成物19を得るリアクタ部12rを有する。また、これらに伴って、ポンプ、センサおよび恒温槽を有していてもよい。なお、タンク類や配管類と共に括弧で表す符号は、その中に貯留される物質若しくは流れる物質を指す。
【0027】
本発明は、マイクロリアクタシステムでは扱いにくいとされている気体原料7cと液体原料8cの反応をスムースに行うために、気体原料7cをキャリア溶剤6cに溶解させて気体溶解液23cとし、その気体溶解液23cと液体原料8cを液液反応で反応させる点が特徴である。
【0028】
気体原料7cは、気体原料タンク7に貯蔵され、キャリア溶剤6cはキャリア溶剤タンク6に、また液体原料8cは液体原料タンク8にそれぞれ貯留されている。それぞれのタンクからは配管21、22、25が次の工程となる場所までそれぞれを移送する。
【0029】
気体溶解手段10の詳細は
図2で説明するが、気体溶解手段10では、気体原料7cをキャリア溶剤6cに溶解させた気体溶解液23cが生成される。そして、気体溶解液23cを送出するための配管23とポンプ34p(
図2で説明する)を有する。
【0030】
気体溶解手段10から気体溶解液23cが移送される配管23は、ミキサ部12mの第1原料液流入口121に連通されている。また、液体原料タンク8は、配管25およびポンプ25pを介して、ミキサ部12mの第2原料液流入口122と連通されている。
【0031】
ミキサ部12mは、第1原料液(気体溶解液23c)と第2原料液(液体原料25c)を混合するための混合器である。なお、ここで液体原料25cは液体原料8cと同一物である。ミキサ部12mの内部構造は、特に限定されるものではない。単に原料液が流入する流入口に微小空間が連通されており、その微小空間から原料混合液26cを排出する排出口が設けられているような簡単な構造であってもよい。
【0032】
リアクタ部12rは、ミキサ部12mと配管26で連通されている。すなわち、ミキサ部12mの排出口123とリアクタ部12rの流入口124は連通されている。リアクタ部12rは、ミキサ部12mで混合した原料混合液26cを反応させるための反応部である。内部構造は、特に限定されるものではない。単に原料混合液26cを流すための流路が形成されているだけでもよい。
【0033】
恒温槽17は、少なくともリアクタ部12rを包み、リアクタ部12r全体を所定の温度に維持する。この恒温槽17によって所定温度に維持されたリアクタ部12r中で気体溶解液23cと液体原料25cの混合液である原料混合液26cは所定の反応を行い、反応生成物19を生成する。
【0034】
なお、恒温槽17は、ミキサ部12mを含んで所定の温度に維持するように構成してもよい。ミキサ部12mとリアクタ部12rが一体として形成されている場合は、これらをまとめてマイクロリアクタユニット12と呼んでも良い。また、マイクロリアクタユニット12には恒温槽17が含まれていても良い。また、気体溶解液23cと液体原料25cを反応させる部分を主反応部50と呼ぶ。
【0035】
リアクタ部12rの排出口125は、キャリア溶剤分離手段16に配管27で連通されていてもよい。キャリア溶剤6cは、基本的に気体原料7cを液体原料25cに会合させるために利用したものであり、反応生成物19中にはまだそのまま残留している。
【0036】
すなわち、反応生成物19とは、反応によって得たい最終生成物20にキャリア溶剤6cが混在しているものである。反応生成物19は、キャリア溶剤分離手段16を通過させることによって、キャリア溶剤6cが分離され最終生成物20となる。
【0037】
キャリア溶剤分離手段16の具体的な構成は特に限定されるものではない。むしろ、キャリア溶剤6cの種類と最終生成物20によって最適な方法でキャリア溶剤6cを分離させてよい。つまり、キャリア溶剤分離手段16は、精製手段といってもよい。
【0038】
精製分離されたキャリア溶剤6cは、キャリア溶剤タンク6へ戻されて、キャリア溶剤6cとして再利用することもできる。これにより新たな追加溶剤が少なくなり、使用する溶剤量を減らせることができる。キャリア溶剤6cをそのまま次の工程若しくは反応生成物19をそのまま製品とすることができる場合は、キャリア溶剤分離手段16を連結させる必要はない。
【0039】
図2には、気体溶解手段10のより具体的な構成を示す。気体溶解手段10は、気体原料7cをキャリア溶剤6cに溶解させた気体溶解液23cの配管23と、その配管23から気体溶解液23cの一部を分岐させる枝管36と、気体原料7cと枝管36中の気体溶解液23cを混合する循環ミキサ部31と、キャリア溶剤6cを貯留しておくバッファタンク32と、循環ミキサ部31からの排出液をバッファタンク32内の溶液内に放出する配管33と、バッファタンク32中の溶液を取り出す配管34を含む。
【0040】
気体溶解手段10では、バッファタンク32中に貯留したキャリア溶剤6c中に気体原料7cを移送するだけでなく、バッファタンク32中の溶液の一部を再び気体原料7cと会合させ溶解させるために、循環ミキサ部31が配置される。
【0041】
気体原料タンク7中の気体原料7cは配管21を介して循環ミキサ部31に移送される。配管21は循環ミキサ部31の気体流入口311に連通されている。循環ミキサ部31のもう一つの流入口は液体流入口312であり、この液体流入口312は、気体溶解手段10自体の排出配管である配管23の途中から分岐した枝管36と連通されている。気体溶解手段10の排出配管である配管23には気体溶解液23cが流れている。したがって、循環ミキサ部31は、気体溶解液23cと、気体原料7cを混合し、気体原料7cを気体溶解液23c中に溶解していると言える。
【0042】
循環ミキサ部31の排出口313には配管33が接続され、バッファタンク32に貯留されたキャリア溶液(気体溶解液)中に循環ミキサ部31によって得られた混合物を放出する。この循環ミキサ部31の混合物は、気体溶解液23c中に気体原料7cが溶解したもの、若しくは気体溶解液23cと気体原料7cの混合物である。
【0043】
ここでは、この混合物を1次混合物33cと呼ぶ。この1次混合物33cは、バッファタンク32中の液体中に放出される。バッファタンク32は、最初はキャリア溶剤6cが貯留されているが、循環ミキサ部31からの1次混合物33cが供給されると、徐々に気体溶解液23cの濃度が上がっていく。したがって、バッファタンク32中の液体は、気体溶解液23cと言ってよい。
【0044】
バッファタンク32には、気体溶解液23cの排出手段が設けられる。より具体的には、配管34とポンプ34pである。配管34の端部は、バッファタンク32の液底側に配置されている。ポンプ34pが稼働すると、バッファタンク32中の気体溶解液23cは、配管34を通って、気体溶解手段10の排出配管である配管23に連通する。なお、配管34と配管23の間には、バルブ37が設けられていてもよい。
【0045】
また、配管34の途中には、循環ミキサ部31の液体流入口312と連通された枝管36が設けられる。これによって、バッファタンク32の気体溶解液23cの一部が循環ミキサ部31に帰還され、再度気体原料7cと会合し、気体原料7cを溶解若しくは気体原料7cと混合される。
【0046】
すなわち、バッファタンク32中の気体溶解液23cは、循環しながら何度も気体原料7cと混合・溶解されるので、気体原料7cを十分に含む溶液となる。なお、循環ミキサ部31は、マイクロリアクタユニット12と同じ構造のものを用いることができる。また、循環ミキサ部31は、恒温槽31Tで覆われていてもよい。気体原料7cを気体溶解液23cに溶解させるためには、温度制御が必要だからである。また、バッファタンク32も溶解を安定にさせるため、外部の冷却装置(図示せず)により必要な温度に冷却されることもある。
【0047】
なお、本明細書を通じて、「気体原料をキャリア溶剤に溶解させる」とは、気体溶解液から気体原料とキャリア溶剤が分離可能な状態であって、かつ気体溶解液が気泡を含まない状態になることをいう。
【0048】
また、バッファタンク32の内部(もしくは外部)には、水位計46と溶存ガス測定器47が配置されていてもよい。バッファタンク32中の気体溶解液23cの量を知るためと、気体溶解液23c中の気体原料7cの濃度を調べるためである。バッファタンク32中の気体溶解液23cは、徐々に減っていくので、キャリア溶剤6cを供給しながら、気体原料7cをも供給し、常に気体原料7cが必要な濃度溶解している気体溶解液23cを貯留しておく必要があるからである。
【0049】
以上のマイクロリアクタシステム1についてその動作を説明する。それぞれのバルブやポンプは、図示しない制御装置に接続されているとする。
図1を再度参照して、気体原料7cとキャリア溶剤6cおよび液体原料8cはそれぞれ、気体原料タンク7、キャリア溶剤タンク6、液体原料タンク8に貯留される。そして、
図2を参照して、バッファタンク32中に所定量のキャリア溶剤6cが、配管22のバルブ38を開くことで移送される。バッファタンク32中にどれくらいのキャリア溶剤6cが貯留したかは、水位計46によって知ることができる。
【0050】
次に、バルブ37を閉じて、ポンプ34pを稼働させる。これによって、バッファタンク32中のキャリア溶剤6cは、枝管36を介して循環し続ける。また、気体原料タンク7のバルブ39を開けて、気体原料7cを循環ミキサ部31に送る。循環ミキサ部31が可動部分を有する場合は、可動部分も駆動させる。このような動作によって、循環ミキサ部31は気体溶解液23cを生成し、バッファタンク32中の気体溶解液23cの濃度は上昇する。
【0051】
気体溶解液23cの濃度が所定の濃度になったら、バルブ37を開き、気体溶解液23cを送り出す。
【0052】
図1を再び参照し、気体溶解手段10からの気体溶解液23cは、ミキサ部12mの第1原料液流入口121に向かって移送される。次に、液体原料タンク8中の液体原料8cはポンプ25pを稼働させることで、ミキサ部12mの第2原料液流入口122に向かって移送させる。なお、液体原料8cは液体原料25cと呼びかえるが、本実施の形態では同一のものである。
【0053】
ミキサ部12mでは、気体溶解液23cと液体原料25cとが混合され、原料混合液26cとなる。ここで、気体溶解液23cと液体原料25cは共に液体であるので、ポンプ34pとポンプ25pによる流量の細かな調整によって、非常に精密な比率で混合を行うことができる。
【0054】
ミキサ部12mとリアクタ部12rは配管26で連通されている。したがって、原料混合液26cは直接リアクタ部12rに流入する。ミキサ部12mおよびリアクタ部12rは、恒温槽17によって、所定の温度に保たれているので、原料混合液26cは、反応し、反応生成物19となる。この時、リアクタ部12rの流路中には気体原料7cによる気泡は存在しないので、所定の時間で確実に反応を進めることができる。もし気泡が存在するようであれば、リアクタ部12rの2次側(出口側)に圧力調整弁を設けて、少し加圧することにより発泡を防ぐこともできる。
【0055】
反応生成物19は、リアクタ部12rから排出されると、そのまま貯留されてもよい。また、キャリア溶剤分離手段16に流れ、キャリア溶剤6cを分離し、最終生成物20としてもよい。
【0056】
なお、マイクロリアクタシステム1において、少なくともマイクロリアクタユニット12の部分、すなわちミキサ部12mの流入口121、122より下流で、リアクタ部12rの排出口125までは、微小配管、微小空間によって構成される。
【0057】
(実施の形態2)
図3に本実施の形態に係るマイクロリアクタシステム2の構成を示す。マイクロリアクタシステム2では、液体原料が2種類ある場合を示す。それぞれ第1液体原料8cと第2液体原料9cである。そして、マイクロリアクタシステム2では、この2種の液体原料を第1マイクロリアクタユニット11を使って混合する。
【0058】
液体原料同士を混合反応させる部分を、前反応部51と呼ぶ。前反応部51では、液体原料同士が反応しなくてもよい。このように、本発明に係るマイクロリアクタシステム2では、複数の液体原料同士を混合させ、液体原料として使用することもできる。たとえば、第2液体原料9cを触媒原料が溶解された液体原料とすることもできる。
【0059】
第1液体原料8cは第1液体原料タンク8に貯留され、第2液体原料9cは第2液体原料タンク9に貯留されているものとする。それぞれのタンクは、配管41及び42によって、第1マイクロリアクタユニット11に連通されている。配管41、42にはそれぞれポンプ41p、42pが設けられている。
【0060】
第1マイクロリアクタユニット11は、実施の形態1で説明したマイクロリアクタユニット12と同じものである。前反応部51における第1マイクロリアクタユニット11のミキサ部を符号11mで、リアクタ部を符号11rで表す。また恒温槽を符号18で表す。
【0061】
一方、主反応部50におけるマイクロリアクタユニット12は、実施の形態1で説明したマイクロリアクタユニット12と同じものである。リアクタ部11rの排出口115は、第2マイクロリアクタユニット12の第2原料として第2原料液流入口122と連通される。また、第2マイクロリアクタユニット12の排出口125は、キャリア溶剤分離手段16に連通されている。また、気体溶解手段10については実施の形態1と全く同じである。
【0062】
以下に本実施の形態に係るマイクロリアクタシステム2の動作について説明する。キャリア溶剤6c、気体原料7cはそれぞれ気体溶解手段10において、気体溶解液23cに調製され第1原料として第1原料液流入口121に移送されるのは、実施の形態1の場合と同様である。
【0063】
第1液体原料8cと第2液体原料9cは、配管41、42を介して、前反応部51である第1マイクロリアクタユニット11の第1原料液流入口111と第2原料液流入口112に流入される。2種類の液体原料は、第1マイクロリアクタユニット11で、反応してもよいし、単に混合するだけでもよい。リアクタ部11rの排出口115からは、液体原料25cとなり、第2原料として第2マイクロリアクタユニット12のミキサ部12mの第2原料液流入口122に移送される。
【0064】
したがって、気体溶解手段10からは、気体溶解液23cが主反応部50のミキサ部12mの第1原料液流入口121に移送され、前反応部51(第1マイクロリアクタユニット11)からは液体原料25cが第2原料液流入口122に移送される。その後の工程については、実施の形態1の場合と全く同じである。
【0065】
以上のように本実施の形態に係るマイクロリアクタシステム2では、複数の液体原料を使用する例を示した。本実施の形態で示したのは、2種類の液体原料であるが、特に2種類に限定する必要はなく、3種類以上の液体原料を混合若しくは反応させてもよい。もちろん、混合若しくは反応のために、さらにマイクロリアクタユニットを利用してもよい。
【0066】
(実施の形態3)
図4には本実施の形態に係るマイクロリアクタシステム3の構成を示す。マイクロリアクタシステム3とマイクロリアクタシステム2(
図3)との相違点は、主反応部50がナンバリングアップされている点である。すなわち、
図4では、主反応部50にマイクロリアクタユニット12(12m、12r)、13(13m、13r)のペアが配置されている。なお、マイクロリアクタシステム2と同じ部分は説明を省略する。
【0067】
ナンバリングアップに際しては、気体溶解手段10からの配管23と前反応部51(第1マイクロリアクタユニット11)からの配管25のそれぞれに分配配管43および44が設けられる。気体溶解手段10からの配管23は、分配配管43に連通され、第1マイクロリアクタユニット11からの配管25は、分配配管44に連通されている。
【0068】
そして、マイクロリアクタユニット12と13はそれぞれ、分配配管43および44から気体溶解液23cと液体原料25cを得る。そして、マイクロリアクタユニット12、13の出力配管125、135はそれぞれ集合配管45に連通する。集合配管45からはキャリア溶剤分離手段16に連通される。
【0069】
マイクロリアクタシステム3の動作はマイクロリアクタシステム2の場合と同様である。だたし、主反応部50におけるマイクロリアクタユニットの数が増えているので生産量が増加する。なお、ここではマイクロリアクタユニット12、13の2ユニット使用する例を示したが、2ユニットに限定されるものではなく、所望の数だけ用意することで、生産量は比例的に増加する。
【0070】
またここでは主反応部50のナンバリングアップを例示したが、液体原料8cと9cを混合する前反応部51をナンバリングアップしてもよい。また、ここでは、液体原料が2種類の場合を示したが、実施の形態1で示した1種類の液体原料の場合でも、主反応部50のナンバリングアップが可能であることはいうまでもない。
【0071】
<実際の使用例>
本発明に係るマイクロリアクタシステムを用いた化合物の合成における極めて有用な実例について以下に説明する。合成された化合物は、ポリマーに添加すると成形時に変色しにくく、添加物質がブリードアウトせず、また環境ホルモン汚染もしない、絶縁性に優れた難燃化剤として知られるアルケニルリン化合物である。
【0072】
この物質および合成方法の詳細は、特開2010−202718号公報あるいはWO2009/051025A1公報に記載されている。その合成反応の骨子は、液体原料として亜リン酸エステル類(水素化ホスホン酸エステル、水素化ホスフィン酸エステル、水素化ホスフィンオキシド)が選ばれ、気体原料としてアルキン類(アセチレンなど)が好適に利用され、これらを反応させるというものである。
【0073】
図5に、Ni系触媒によるアルケニルリン化合物合成のバッチ試験例を示す。反応槽81は、恒温槽80中に保持されている。反応槽81は、蓋82で密閉されている。蓋82には、材料投入ライン83と気体原料を入れる通気管84と、脱ガス用ライン85と、撹拌羽86を駆動するシャフト87が貫通設置されている。シャフト87はモータ88に連結されており、反応槽81の内容物を撹拌することができる。
【0074】
このように準備された試験装置に、液体原料としてジフェニルホスフィンオキシド(「OX−2」と記した。)およびNi系触媒(「Ni−触媒」と記した。)の必要量を溶剤トルエン中に溶解させ反応槽81に投入した。撹拌しながら恒温槽80で反応槽81を所定温度に調整後、気体原料としてアセチレンガスを通気管84より入れて、溶剤トルエン中に溶解させた。ジフェニルホスフィンオキシドとアセチレンが所定時間反応して反応生成物ジフェニルビニルホスフィンオキシド(「V4」と記した。)が得られた。反応温度は0〜50℃、反応時間は20〜30分、反応収率は40〜60%であった。
【0075】
この反応は、基本的にバッチ法においては、非常に収率が低い。そのため、アルケニルリン化合物は、優れた材料であるにも関わらず、商業ベースで供給することが容易ではなかった。ここで、商業ベースとは年間1トン以上の生産が行える規模を意味するものとする。
【0076】
アルケニルリン化合物の代表的反応を反応式(1)に示す。
【0078】
なお、上記の式において、R1、R2、R3はアルキル基を表す。また、左辺第2項は、3重結合を有するアルキン類を表す。「Cat.」は触媒を表す。触媒とは [HNiL
n]
+X
−(H:ヒドリド、Ni:ニッケル、L:配位子、X
−:NO
3 などのアニオン)で示されるNi系触媒で、カチオン性ニッケルヒドリド錯体が好適に利用できる。また、Pはリン、Oは酸素、Hは水素を表す。また、キャリア溶剤は、上式(1)では省略されている。
【0079】
より具体的に、液体原料として選ばれる亜リン酸エステル類は、水素化ホスホン酸エステルとして、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジベンジル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジオクチルが挙げられる。
【0080】
また、水素化ホスフィン酸エステルとして、フェニルホスフィン酸エチル、フェニルホスフィン酸イソプロピル、フェニルホスフィン酸n−ブチル、フェニルホスフィン酸t−ブチル、フェニルホスフィン酸ヘキシル、フェニルホスフィン酸オクチル、フェニルホスフィン酸フェニル、メチルホスフィン酸エチル、エチルホスフィン酸エチル、シクロヘキシルホスフィン酸エチル、ジフェニルホスフィンオキシド、ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、ジメチルホスフィンオキシド、ジエチルホスフィンオキシド、ジブチルホスフィンオキシド、ジイソプロピルホスフィンオキシド、フェニルエチルホスフィンオキシド、t−ブチルフェニルホスフィンオキシド、オクチルフェニルホスフィンオキシド、(Rp)−メンチルフェニルホスフィナート、(Sp)−メンチルフェニルホスフィナートが挙げられる。
【0081】
また、水素化ホスフィンオキシドとして、ジフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0082】
また、気体原料としてのアルキン類として、アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン類の気体が挙げられる。
【0083】
また、気体原料を溶解するキャリア溶剤としては、炭化水素系の溶剤として、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンが挙げられる。
【0084】
また、エステル系のキャリア溶剤としては、アニソール、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチルが挙げられ、ケトン類のキャリア溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、炭酸エチルメチルが挙げられ、アミド系のキャリア溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0085】
また、エーテル系のキャリア溶剤としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、tーブタノールが挙げられる。
【実施例】
【0086】
使用したマイクロリアクタシステムは、実施の形態で説明したマイクロリアクタシステム1、2および3(
図1、
図3および
図4)を用いた。なお、気体溶解手段10については、
図2で示した構成を使用した。マイクロリアクタシステム1の装置仕様を表1に示す。なお、括弧内の数字は、図面の符号を表す。
【0087】
【表1】
【0088】
マイクロリアクタシステム2の装置仕様を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
また、マイクロリアクタシステム3の仕様を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
(実施例0)
マイクロリアクタによるビニルリン化合物(ジフェニルビニルホスフィンオキシド V4)の合成試験の実施はマイクロリアクタシステム1(
図1)の形態で行った。第1液体原料(8c)としてジフェニルホスフィンオキシドおよびNi系の触媒をキャリア溶剤(6c)であるトルエンに必要量溶解させたものを用意した。気体原料(7c)としては、アセチレンを用いた。
図2で説明した気体溶解手段10を用いてアセチレンをキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に溶解条件を充分溶解させ、気体溶解液(第1原料液)23cとした。
【0093】
第1液体原料25cと第1原料液23c(アセチレン)を反応させた。第1液体原料(ジフェニルホスフィンオキシドとNi系触媒)25cおよび気体溶解液(第1原料液)23cのそれぞれの組成、流量ならびに温度、圧力の操作条件および反応結果である反応進行率は表4に示した値であった。
【0094】
主反応部50のリアクタ部12rの排出口125における反応流体中に発泡状況(混相流)は見られず、反応進行率は91%の高い値を示した。この反応を単にマイクロリアクタシステムで行おうとすると、すでに説明したように、液体で得られるジフェニルホスフィンオキシドと気体であるアセチレンは溶解が充分でないと、マイクロリアクタシステム内では混相流になるため扱いにくく、反応収率は不安定で高い収率を実現することはできなかった。気体の事前溶解により反応は安定し、収率も大きくアップした。マイクロリアクタによる反応時間は1分以内と、非常に短く、また反応収率も90%台が得られたことから、バッチに置き換わる方法としてマイクロリアクタによる実用可能性が見えた。
【0095】
【表4】
【0096】
(実施例1)
第1液体原料(8c)として亜リン酸ジメチルにキャリア溶剤(6c)であるトルエンを混合したものを用意した。第2液体原料(9c)として、Ni系の触媒をキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に必要量溶解させたものを用意した。気体原料(7c)としては、アセチレンを用いた。
図2で説明した気体溶解手段10を用いてアセチレンをキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に十分溶解させ、気体溶解液(第1原料液)23cとした。
【0097】
マイクロリアクタシステム2を用いて第1液体原料と第2液体原料を混合し第2原料液(25c)を得た。この第2原料液25cに、第1原料液23c(アセチレン)を反応させた。第1液体原料(亜リン酸ジメチル)8c、第2液体原料(Ni系触媒)9cおよび気体溶解液(第1原料液)23cのそれぞれの流量は表5に示した量であった。なお、それぞれA液、B液、C液である。
【0098】
その結果ジメチルビニルホスホネイト(V1)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産125kgを得ることができた。これは年間生産換算で1.5トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム2は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。これは、十分商業ベースとしての生産量を確保できるといえた。
【0099】
(実施例2)
実施例1の材料をマイクロリアクタシステム3を用いて反応させた。各材料の流量は表5に示したとおりであった。その結果ジメチルビニルホスホネイト(V1)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産1044kgを得ることができた。これは年間生産換算で12.5トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム3は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。
【0100】
(実施例3)
第1液体原料(8c)として亜リン酸ジエチルにキャリア溶剤(6c)であるトルエンを混合したものを用意した。第2液体原料(9c)として、Ni系の触媒をキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に必要量溶解させたものを用意した。気体原料(7c)としては、アセチレンを用いた。
図2で説明した気体溶解手段10を用いてアセチレンをキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に十分溶解させ、気体溶解液(第1原料液)23cとした。
【0101】
マイクロリアクタシステム2を用いて第1液体原料と第2液体原料を混合し第2原料液(25c)を得た。この第2原料液25cに、第1原料液23c(アセチレン)を反応させた。第1液体原料(亜リン酸ジエチル)8c、第2液体原料(Ni系触媒)9cおよび気体溶解液(第1原料液)23cのそれぞれの流量は表5に示した量であった。なお、それぞれA液、B液、C液である。
【0102】
その結果ジエチルビニルホスホネイト(V2)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産118kgを得ることができた。これは年間生産換算で1.4トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム2は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。これは、十分商業ベースとしての生産量を確保できるといえた。
【0103】
(実施例4)
実施例3の材料をマイクロリアクタシステム3を用いて反応させた。各材料の流量は表5に示したとおりであった。その結果ジエチルビニルホスホネイト(V2)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産986kgを得ることができた。これは年間生産換算で11.8トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム3は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。
【0104】
(実施例5)
第1液体原料(8c)として亜リン酸ジフェニルにキャリア溶剤(6c)であるトルエンを混合したものを用意した。第2液体原料(9c)として、Ni系の触媒をキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に必要量溶解させたものを用意した。気体原料(7c)としては、アセチレンを用いた。
図2で説明した気体溶解手段10を用いてアセチレンをキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に十分溶解させ、気体溶解液(第1原料液)23cとした。
【0105】
マイクロリアクタシステム2を用いて第1液体原料(8c)と第2液体原料(9c)を混合し第2原料液(25c)を得た。この第2原料液25cに、第1原料液23c(アセチレン)を反応させた。第1液体原料(亜リン酸ジフェニル)8c、および第2液体原料(Ni系触媒)9cおよび気体溶解液(第1原料液)23cのそれぞれの流量は表5に示した量であった。なお、それぞれA液、B液、C液である。
【0106】
その結果ジフェニルビニルホスホネイト(V3)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産114kgを得ることができた。これは年間生産換算で1.3トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム2は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。これは、十分商業ベースとしての生産量を確保できるといえた。
【0107】
(実施例6)
実施例5の材料をマイクロリアクタシステム3を用いて反応させた。各材料の流量は表5に示したとおりであった。その結果ジフェニルビニルホスホネイト(V3)が得られた。反応進行率は95%以上であり、月産953kgを得ることができた。これは年間生産換算で11.4トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム3は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。
【0108】
(実施例7)
第1液体原料(8c)としてジフェニルホスフィンオキシドをキャリア溶剤(6c)であるトルエンに溶解させたものを用意した。第2液体原料(9c)として、Ni系の触媒をキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に必要量溶解させたものを用意した。気体原料(7c)としては、アセチレンを用いた。
図2で説明した気体溶解手段10を用いてアセチレンをキャリア溶剤(6c)であるトルエン中に十分溶解させ、気体溶解液(第1原料液)23cとした。
【0109】
マイクロリアクタシステム2を用いて第1液体原料8cと第2液体原料9cを混合し第2原料液(25c)を得た。この第2原料液25cに、第1原料液23c(アセチレン)を反応させた。第1液体原料(ジフェニルホスフィンオキシド)8c、第2液体原料(Ni系触媒)9cおよび気体溶解液(第一原料液)23cのそれぞれの流量はそれぞれ表5に示した量であった。なお、それぞれA液、B液、C液である。
【0110】
その結果ジフェニルビニルホスフィンオキシド(V4)が得られた。反応進行率は99.9%であり、月産261kgを得ることができた。これは年間生産換算で3.1トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム2は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。これは、十分商業ベースとしての生産量を確保できるといえた。
【0111】
(実施例8)
実施例7の材料をマイクロリアクタシステム3を用いて反応させた。各材料の流量は表5に示したとおりであった。その結果ジフェニルビニルホスフィンオキシド(V4)が得られた。反応進行率は99.5〜100%であり、月産2174kgを得ることができた。これは年間生産換算で26.0トンに相当する量であった。マイクロリアクタシステム3は原料を供給すれば、連続運転が可能であるため、年間生産換算量は実現可能な量である。
【0112】
【表5】
A液;第1液体原料(亜リン酸エステル類)、B液;第2液体原料(Ni系触媒)
C液;気体溶解液(アセチレン)