特許第6209327号(P6209327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209327
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】定電位電解式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20170925BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G01N27/404 341K
   G01N27/404 341J
   G01N27/416 311G
   G01N27/416 311K
   G01N27/416 311L
   G01N27/416 331
   G01N27/416 316
   G01N27/416 323
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-251964(P2012-251964)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-98679(P2014-98679A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】上杉 慎治
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/024076(WO,A1)
【文献】 特開平06−330366(JP,A)
【文献】 特開昭61−117103(JP,A)
【文献】 特開昭60−051610(JP,A)
【文献】 特開昭61−028856(JP,A)
【文献】 米国特許第05518602(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液室を形成するケーシングに、少なくとも作用極と対極とが設けられており、作用極と対極とが電解液を介して導通状態とされる定電位電解式ガスセンサにおいて、
前記電解液が、硫酸よりなり、
前記対極が、ガス透過性疎水隔膜上に形成された、粒径が75μm以下であって比表面積が2〜200m2 /gである酸化イリジウムの微粒子が焼成されてなる、厚みが10〜500μmの電極触媒層よりなるものであることを特徴とする定電位電解式ガスセンサ。
【請求項2】
検知対象ガスが、酸素ガス、二酸化窒素ガス、三フッ化窒素ガス、塩素ガス、フッ素ガス、ヨウ素ガス、三フッ化塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素ガス、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、酢酸ガスおよび硝酸ガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項1に記載の定電位電解式ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電位電解式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定電位電解式ガスセンサとしては、酸素ガスを検知対象ガスとし、例えば電解液を収容するケーシングを備え、当該ケーシングに形成された窓に、検知対象ガスを含む検査対象ガスの透過が可能なガス透過性疎水隔膜が張設されており、ケーシングの内部に、当該ガス透過性疎水隔膜における電解液側に形成された作用極と、この作用極と一定の距離を離間させて配置された対極とを有するものなどが知られている。この定電位電解式ガスセンサは、例えばポテンショスタットによって作用極の電位が酸素の還元反応が起こる一定の電位に制御されることにより、検査対象ガス中の酸素ガスの濃度に対応して作用極と対極との間に流れる電解電流を検出するように構成されている。
このような定電位電解式ガスセンサにおいて、対極は、通気性と撥水性を有するフッ素樹脂製の多孔質膜などよりなるガス透過性疎水隔膜の一面上の中央位置に、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)などの電解液に対して不溶性の貴金属の微粒子、またはこれらの貴金属の微粒子の混合物や合金の微粒子などがバインダと共に焼成されてなる電極触媒層が形成されて構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、白金などの貴金属により形成された対極を備えた定電位電解式ガスセンサにおいては、検査対象ガス中の酸素ガス(検知対象ガス)が作用極において還元され、それに伴って対極に電流が流れて水の電気分解が生じることとなるが、対極に電圧が印加されることによって当該対極を構成する金属微粒子が酸化されて徐々に腐食するため、以下のような弊害が生じる、という問題がある。
対極を構成する金属微粒子に腐食が生じ、微粒子表面に酸化被膜が形成されることに起因して、微粒子サイズが大きくなり、また微粒子同士の接触抵抗が大きくなるために、対極の導電性が低下する。そのため、対極において水の電気分解を生じさせるためには、より大きな電圧を印加することが必要となり、よって対極の電位を高くすることが必要となる。従って、ポテンションスタットとして高電圧の印加できるものを用いなければならないことから、定電位電解式ガスセンサが電力消費量が大きなものとなり、特に、定電位電解式ガスセンサを電池駆動の可搬型検知器に用いた場合には、電池交換を頻繁に行わなくてはならなくなる。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/024076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、所期のガス検知を長期間にわたって低い電圧で安定的に行うことのできる定電位電解式ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の定電位電解式ガスセンサは、電解液室を形成するケーシングに、少なくとも作用極と対極とが設けられており、作用極と対極とが電解液を介して導通状態とされる定電位電解式ガスセンサにおいて、
前記電解液が、硫酸よりなり、
前記対極が、ガス透過性疎水隔膜上に形成された、粒径が75μm以下であって比表面積が2〜200m2 /gである酸化イリジウムの微粒子が焼成されてなる、厚みが10〜500μmの電極触媒層よりなるものであることを特徴とする。
【0007】
本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、検知対象ガスが、酸素ガス、二酸化窒素ガス、三フッ化窒素ガス、塩素ガス、フッ素ガス、ヨウ素ガス、三フッ化塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素ガス、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、酢酸ガスおよび硝酸ガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、対極の電極材料として用いられている酸化イリジウムが、電解液に対する不溶性を有すると共に、対極の電極材料として用いた場合に高い導電性が発現され、しかも、対極の導電性を長期間にわたって一定に維持することができるものである。そのため、作用極および対極の各々において電気化学反応を生じさせるために必要とされる電圧(過電圧)が、長期間にわたってほぼ一定となり、よって、所期のガス検知を長期間にわたって低い電圧で安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の定電位電解式ガスセンサの構成の一例の概略を示す説明図である。
図2】実験例1において得られた、対極に印加された電圧と、経過日数との関係を示すグラブである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の定電位電解式ガスセンサの構成の一例を示す説明図である。
この定電位電解式ガスセンサ10は、一端(図1における左端)に、検査対象ガスをガス検知電極に対する供給量を制限して導入するためのガス供給制御手段を構成するピンホール12を有すると共に、他端(図1における右端)に、ガス排出用貫通孔13を有する筒状のケーシング11を備えている。このケーシング11には、一端側内面に、ピンホール12を内面側から塞ぐように一端側ガス透過性疎水隔膜15が張設されており、また他端側内面には、ガス排出用貫通孔13を内面側から塞ぐように他端側ガス透過性疎水隔膜16が張設されており、これにより、硫酸よりなる電解液Lが収容される電解液室が形成されている。
また、ケーシング11内には、電解液Lが充填されていると共に、ガス検知電極を構成する作用極21、対極22および参照極23が、電解液L中に浸漬された状態で配設され、これらの3つの電極が電解液Lを介して導通状態とされている。具体的には、作用極21は、一端側ガス透過性疎水隔膜15の接液側の面(内面)に設けられており、対極22は、他端側ガス透過性疎水隔膜16の接液側の面(内面)に設けられており、参照極23は、作用極21および対極22の各々と離間した位置においてこれらと対向するように設けられている。
【0011】
また、定電位電解式ガスセンサ10においては、作用極21、対極22および参照極23は、各々、リード線31によって、例えばポテンショスタットよりなる制御手段30に接続されている。なお、制御手段30としてポテンショスタットを用いる場合には、作用極21にポテンショスタットの作用極用のリード線を接続し、対極22にポテンショスタットの対極用のリード線を接続し、また参照極23にポテンショスタットの参照極用のリード線を接続する。
この制御手段30は、作用極21と参照極23との間に一定の電位差が生じると共に作用極21の電位が還元反応が起こる電位(還元可能電位)となるよう、作用極21に所定の大きさの電圧を印加するものである。
【0012】
ケーシング11は、例えばポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリテトラフルオロエチレン等の樹脂などよりなるものである。
また、ケーシング11におけるガス供給制御手段を構成するピンホール12の内径の大きさは、ピンホール12が均一な内径を有するものである場合において、実用上、1.0〜200μmであり、またピンホール12の長さは、例えば0.1mm以上である。
【0013】
一端側ガス透過性疎水隔膜15および他端側ガス透過性疎水隔膜16は、通気性と撥水性を有し、検知対象ガスを含む検査対象ガスおよび対極22において電気化学反応によって発生する生成ガス(酸素ガス)などのガスを透過し、電解液Lを透過しないものである。
一端側ガス透過性疎水隔膜15および他端側ガス透過性疎水隔膜16としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
【0014】
一端側ガス透過性疎水隔膜15および他端側ガス透過性疎水隔膜16を構成する多孔質膜は、ガーレー数が3〜3000秒であるものが好ましく、厚みおよび空隙率などの具体的構成は、ガーレー数が前記数値範囲内となるよう設定することができる。
具体的に、一端側ガス透過性疎水隔膜15および他端側ガス透過性疎水隔膜16を構成する多孔質膜としては、空隙率が10〜70%であって厚みが0.01〜1mmであるものが好ましい。
【0015】
そして、ガス検知電極を構成する3つの電極のうちの対極22においては、電極材料として酸化イリジウムが用いられ、酸化イリジウムにより形成されたものであることが必要とされる。
【0016】
対極22には、酸化イリジウムと共に、電解液Lに対して不溶性である、酸化イリジウム以外の導電性非金属(以下、「特定導電性非金属」ともいう。)、および後述の対極22の製造過程において用いられるバインダなどが含有されていてもよい。
特定導電性非金属の具体例としては、例えばチャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。
特定導電性非金属として用いられるカーボンブラックの粒径は、100μm以下であることが好ましい。
また、特定導電性非金属としては、カーボンブラックの他、例えばグラファイト(黒鉛)、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを用いることもできる。
【0017】
対極22に特定導電性非金属が含有される場合においては、特定導電性非金属の含有割合は、酸化イリジウム100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。
【0018】
対極22は、具体的には他端側ガス透過性疎水隔膜16の一面上の全面に、酸化イリジウムの微粒子、または酸化イリジウムの微粒子と特定導電性非金属の微粒子との混合物が、バインダと共に焼成されてなる電極触媒層よりなるものである。
対極22を構成する電極触媒層の製造過程において用いられる酸化イリジウムの微粒子は、粒径が75μm(200メッシュ)以下であることが好ましく、また比表面積が2〜200m2 /gであることが好ましい。
【0019】
また、対極22を構成する電極触媒層の製造工程において、バインダとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パー フルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)−プロリルビニルエーテル]共重合などの電解液Lに対して不溶性のものを用いることができる。
【0020】
また、焼成条件は、焼成温度が80〜350℃であることが好ましく、また焼成時間が5分間〜1時間であることが好ましい。
【0021】
対極22を構成する電極触媒層の厚みは、10〜500μmであることが好ましく、更に好ましくは50〜300μmである。
また、対極22を構成する電極触媒層の他端側ガス透過性疎水隔膜16の一面における形成面積は、酸化イリジウムが電極材料として用いた場合に高い導電性が発現され、その導電性を長期間にわたって一定に維持することのできるものであることから、小さくすることが可能である。例えば、対極22の形成面が円形状である場合には、その直径が2〜15mmである。
【0022】
作用極21は、例えば、一端側ガス透過性疎水隔膜15の一面上の全面に、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)などの電解液Lに対して不溶性の貴金属の微粒子、またはこれらの貴金属の微粒子の混合物や合金の微粒子などがバインダと共に焼成されてなる、例えば50〜300μmの厚みを有する電極触媒層よりなるものである。
【0023】
参照極23は、例えば、作用極と同様の構成を有するものである。
すなわち、参照極23は、ガス透過性疎水隔膜の一面上の全面に、電解液Lに対して不溶性の貴金属の微粒子、またはこれらの貴金属の微粒子の混合物や合金の微粒子などがバインダと共に焼成されてなる、例えば50〜300μmの厚みを有する電極触媒層よりなるものである。
また、参照極23を構成する電極触媒層としては、酸化イリジウムの微粒子がバインダと共に焼成されてなるものを用いることもできる。参照極23が酸化イリジウムにより形成されたものである場合には、被検査ガスが如何なる組成のものであっても高い電位安定性が得られる可能性がある。
なお、ガス透過性疎水隔膜としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
【0024】
このような構成を有する定電位電解式ガスセンサ10は、参照極23の電位状態を基準として、作用極21に所定の電圧が印加(通電が開始)されて作用極21と参照極23との間に一定の電位差が生じた状態とされることによりガス検知状態とされる。そして、ガス検知状態において、検知対象空間における環境雰囲気の空気などの被検査ガスが、ケーシング11のピンホール12を介して導入され、一端側ガス透過性疎水隔膜15を透過して作用極21に供給されることにより、その検査対象ガス中の検知対象ガスが作用極21において還元される。そして、作用極21において還元反応が生じることに伴って、作用極21と対極22との間に電解電流が流れ、対極22には電圧が印加されて酸化反応(例えば水の電気分解)が生じる。このようにして、作用極21および対極22の各々において電気化学反応が起こることに起因して作用極21および対極22の両電極間に生ずる電解電流値が測定され、その測定された電解電流値に応じた検査対象ガス中の検知対象ガスの濃度が検出される。
また、この定電位電解式ガスセンサ10においては、対極22において酸化反応によって発生する生成ガス(酸素ガス)は、他端側ガス透過性疎水隔膜16を透過し、更にガス排出用貫通孔13を流通することによって外部に排出される。
【0025】
この定電位電解式ガスセンサ10においては、対極22の電極材料として用いられている酸化イリジウムが、電解液Lに対する不溶性を有すると共に、後述の実験例からも明らかなように、対極22の電極材料として用いた場合に白金と同等の高い導電性を発現させることができ、しかも、対極22の導電性を長期間にわたって一定に維持することができるものである。そのため、作用極21において還元反応を生じさせると共に対極22において酸化反応を生じさせるために必要とされる電圧(過電圧)が、長期間にわたってほぼ一定となり、よって、所期のガス検知を低い電圧で長期間にわたって安定的に行うことができる。
このように、定電位電解式ガスセンサ10は、長期間にわたって低い電圧でガス検知を行うことができ、電力消費量が小さいものであることから、例えば電池駆動の可搬型検知器に係るガスセンサとして好適に用いることができる。
電池駆動式の可搬型検知器において、定電位電解式ガスセンサ10を用いた場合には、貴金属により形成された対極を備えた従来公知の定電位電解式ガスセンサを用いた場合のように、電池交換を頻繁に行う必要がない。
【0026】
この定電位電解式ガスセンサ10においては、作用極21において還元反応を生じさせ、対極22において酸化反応が生じることによって酸素ガスを生成させることのできるガスを検知対象ガスとすることができる。
検知対象ガスの好適な具体例としては、例えば酸素ガス、二酸化窒素ガス、三フッ化窒素ガス、塩素ガス、フッ素ガス、ヨウ素ガス、三フッ化塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素ガス、フッ化水素ガス、塩化水素ガス(塩酸ガス)、酢酸ガスまたは硝酸ガスが挙げられる。
【0027】
以上において、本発明の定電位電解式ガスセンサを具体的な一例を用いて説明したが、本願発明はこれに限定されるものではなく、対極が酸化イリジウムにより形成されたものであれば、その他の構成部材としては種々のものを用いることができる。
【0028】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0029】
〔実験例1〕
(実験用ガスセンサの作製)
図1の定電位電解式ガスセンサ10において、制御手段30に代えてガルバノスタット装置が用いられてなること、ガス供給制御手段を構成するピンホール12に代えて、当該ピンホール12よりも大径の内径を有する孔を設けたこと以外は当該定電位電解式ガスセンサ10と同様の構成を有する実験用の酸素ガスセンサ(以下、「実験用酸素ガスセンサ(1)」ともいう。)を2つ作製した。
この実験用酸素ガスセンサ(1)において、参照極(23)は、ガス透過性疎水隔膜の一面上の全面に形成された電極触媒層よりなるものである。
ここに、実験用酸素ガスセンサ(1)においては、ガス検知電極に対して検査対象ガスを供給するための孔として、ピンホール12よりも大径の内径を有する孔を設けたことにより、作用極(21)と対極(22)との間に流す電流値が1mAであっても、作用極で酸素還元反応が進行させることが可能な構成となった。なお、実験用酸素ガスセンサ(1)において、ガス検知電極に対して検査対象ガスを供給するための孔の内径が小径である場合には、作用極(21)と対極(22)との間に流れる1mAの電流に対して作用極(21)に対する酸素ガスの供給が追い付かないために、作用極(21)では水の電気分解による水素発生反応が生じてしまう。すなわち、作用極において酸素還元反応を進行させることができなくなる。
【0030】
実験用酸素ガスセンサ(1)においては、ケーシング(11)として、電解液室の容積が3mL であり、一端に、内径2mm、長さ1mの孔を有すると共に、他端に、内径2mm、長さ1mmのガス排出用貫通孔(13)を有する円筒状のものを用いた。
また、電解液(L)としては、濃度50%の硫酸を用いた。
また、一端側ガス透過性疎水隔膜(15)および他端側ガス透過性疎水隔膜(16)としては、空隙率が30%、厚みが0.2mm、外径が6mmであってガーレー数が300秒である、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)よりなる円板状の多孔質膜を用いた。また参照極(23)に係るガス透過性疎水隔膜としては、空隙率が30%、厚みが0.2mm、外径が6mmであってガーレー数が300秒である、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)よりなる円板状の多孔質膜を用いた。
そして、作用極(21)としては、白金黒がFEPよりなるバインダと共に、焼成温度320℃の条件で焼成されてなる、厚み0.2mm、外径6mmの円板状の電極触媒層を用いた。
また、対極(22)としては、粒径75μm以下、比表面積15.0±5.0m2 /gの酸化イリジウム微粒子100質量部がFEPよりなるバインダと共に焼成温度320℃の条件で焼成されてなる、厚み0.2mm、外径6mmの円板状の電極触媒層を用いた。
また、参照極(22)としては、白金黒がFEPよりなるバインダと共に、焼成温度2300℃の条件で焼成されてなる、厚み0.2mm、外径6mmの円板状の電極触媒層を用いた。
作用極(21)、対極(22)および参照極(23)を構成する電極触媒層は、一端側ガス透過性疎水隔膜(15)、他端側ガス透過性疎水隔膜(16)および参照極に係るガス透過性疎水膜の一面の全面に形成されており、当該一面における電極触媒層の担持率は100%である。
また、作用極(21)、対極(22)および参照極(23)は、各々、白金製のリード線31によってガルバノスタット装置に電気的に接続されている。ここに、実験用酸素ガスセンサ(1)においては、作用極(21)にガルバノスタット装置の対極用リード線を接続し、対極(22)にガルバノスタット装置の作用極用のリード線を接続し、また参照極(23)にガルバノスタット装置の参照極用のリード線を接続した。このようにして、実験用酸素ガスセンサ(1)を、参照極用のリード線に接続された参照極(23)を基準とし、作用極用のリード線に接続された対極(22)の電圧を測定することができるような構成とした。
【0031】
(比較実験用ガスセンサの作製)
実験用酸素ガスセンサ(1)において、対極(21)として、白金黒がFEPよりなるバインダと共に、焼成温度320℃の条件で焼成されてなる、厚み0.2mm、外径6mmの円板状の電極触媒層を用いたこと以外は当該実験用酸素ガスセンサ(1)と同様の構成を有する比較実験用の酸素ガスセンサ(以下、「比較用酸素ガスセンサ(1)」ともいう。)を2つ作製した。
【0032】
作製した2つの実験用酸素ガスセンサ(1)および2つの比較用酸素ガスセンサ(1)において、各々、温度25℃、湿度30%RHの環境条件下にて、ガルバノスタット装置によって作用極(21)と対極(22)との間に1mAの電流を流し、作用極(21)において下記の反応式(1)で示される還元反応を生じさせ、対極(22)において下記の反応式(2)で示される酸化反応を生じさせるために必要とされる電圧(対極に印加された電圧)を、45日間にわたって測定した。結果を図2に示す。図2においては、2つの実験用酸素ガスセンサ(1)の測定値を、それぞれ白三角プロットおよび黒三角プロットで示し、また、2つの比較用酸素ガスセンサ(1)の測定値を、それぞれ白円プロットおよび黒円プロットで示す。
これらの実験用酸素ガスセンサ(1)および比較用酸素ガスセンサ(1)においては、45日間にわたる測定中、作用極(21)にはピンホール(12)および一端側ガス透過性疎水隔膜(15)を介して空気が供給されており、供給された空気中の酸素ガスが反応式(1)で示される還元反応によって還元された。また、対極(22)においては、反応式(2)で示される酸化反応によって酸素ガスが発生し、その酸素ガスは他端側ガス透過性疎水隔膜(16)およびガス排出用貫通孔(13)を介して外部に排出された。
【0033】
反応式(1)O2 +4H+ +4e- →2H2
反応式(2)2H2 O→O2 +4H+ +4e-
【0034】
以上の結果から、酸化イリジウムにより形成された対極(以下、「酸化イリジウム対極」ともいう。)を有する実験用酸素ガスセンサ(1)においては、初期(測定開始直後)の過電圧が、白金により形成された対極(以下、「白金対極」ともいう。)を有する比較用酸素ガスセンサ(1)と同等であり、よって酸化イリジウムが高い導電性を有するものであり、酸化イリジウム対極に白金対極と同等の導電性が得られることが確認された。
また、実験用酸素ガスセンサ(1)においては、図2の白三角プロットに係る曲線(a)および黒三角プロットに係る曲線(b)で示されているように、過電圧が長期間にわたってほぼ一定となり、よって酸化イリジウム対極の導電性が長期間にわたって一定に維持される結果、ガス検知を長期間にわたって略同一の電圧で安定的に行えることが確認された。
一方、比較用酸素ガスセンサ(1)においては、図2の白円プロットに係る曲線(c)および黒円プロットに係る曲線(d)で示されているように、過電圧が、初期期間(具体的には、測定開始から10日の間)において経時的に大きくなり、ガス検知を行うために大きな電圧の印加が必要とされることが確認された。
【符号の説明】
【0035】
10 定電位電解式ガスセンサ
11 ケーシング
12 ピンホール
13 ガス排出用貫通孔
15 一端側ガス透過性疎水隔膜
16 他端側ガス透過性疎水隔膜
21 作用極
22 対極
23 参照極
30 制御手段
31 リード線
L 電解液
図1
図2