(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209352
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】精製アルコール中の酸化物を低減する方法及びアルコール精製装置
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20170925BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20170925BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20170925BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20170925BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20170925BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20170925BHJP
C07C 31/10 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C07C29/76
B01D19/00 F
B01D19/00 H
B01D61/00
B01D61/36
B01D61/58
B01D71/02
C07C31/10
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-76665(P2013-76665)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2014-201524(P2014-201524A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年11月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【審査官】
安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−023439(JP,A)
【文献】
特開2011−083750(JP,A)
【文献】
特開2012−067090(JP,A)
【文献】
特開平06−262002(JP,A)
【文献】
特開2004−196779(JP,A)
【文献】
特開平10−165165(JP,A)
【文献】
特開2002−219356(JP,A)
【文献】
特開平11−104473(JP,A)
【文献】
特開平07−080205(JP,A)
【文献】
特開2004−105797(JP,A)
【文献】
特開平06−072923(JP,A)
【文献】
特開平04−327549(JP,A)
【文献】
特開平07−155744(JP,A)
【文献】
別冊化学工業26−9 プロセス フローシート〈1〉,株式会社化学工業社,1982年,85頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイス製造で使用されたアルコール含有液から溶存酸素を除去する工程と、
前記溶存酸素が除去された前記アルコール含有液を、ゼオライトを材質とする脱水膜を用いて浸透気化または蒸気透過により脱水する工程と、
を有し、
前記浸透気化または蒸気透過により脱水する工程は熱処理を行なう工程である、精製アルコール中の酸化物を低減する方法。
【請求項2】
前記溶存酸素を除去する工程は、脱気モジュールに前記アルコール含有液を通液する工程、前記アルコール含有液に不活性ガスを通気して前記溶存酸素を前記不活性ガスで置換する工程、及び、水素を吸蔵した金属触媒に前記アルコール含有液を接触させる工程の中から選ばれた1以上の工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱水する工程に用いられる機器内の空間を不活性ガスによって置換する工程をさらに有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱水する工程に供給される前記アルコール含有液中の溶存酸素濃度を、大気下での前記アルコール含有溶液における飽和酸素濃度を100%として、8%以下とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
半導体デバイス製造で使用されたアルコール含有液から溶存酸素を除去する溶存酸素除去手段と、
前記溶存酸素除去手段から排出される前記アルコール含有液を浸透気化または蒸気透過により熱処理を行なって脱水する、ゼオライトを材質とする脱水膜と、
を有する、アルコール精製装置。
【請求項6】
前記溶存酸素除去手段は、前記アルコール含有液を貯えるタンクと、前記タンク内の前記アルコール含有液に不活性ガスを通気する通気手段と、を備え、前記溶存酸素が前記不活性ガスによって置換される、請求項5に記載のアルコール精製装置。
【請求項7】
前記溶存酸素除去手段は、脱気モジュール、及び、水素を吸蔵した金属触媒の少なくとも一方を備える、請求項5または6に記載のアルコール精製装置。
【請求項8】
前記脱水膜に供給される前記アルコール含有液中の溶存酸素濃度を、大気下での前記アルコール含有溶液における飽和酸素濃度を100%として、8%以下とする、請求項5乃至7のいずれか1項に記載のアルコール精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの精製に関し、特に、アルコール中に含まれるケトン類やアルデヒド類などの酸化物を低減する方法と、アルコール精製装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類は、化学工業用の洗浄剤や溶剤、合成原料として多量に用いられている。特に、半導体デバイスの製造工程では、洗浄及び乾燥等の用途で多量のIPAが使用されている。例えば、半導体デバイスに対して純水洗浄を行った後にその水分除去を行うためのIPA蒸発乾燥法は、水分除去を行う工程として効果的であるが、その反面、揮発性が高く高純度が要求されるIPAを使用するため、結果として半導体デバイスの製造原価が高くなる、という問題点を有する。したがって、半導体デバイス製造工程で使用した廃IPAを回収し再利用することが、経費節減及び環境負荷の改善の面で望まれている。半導体デバイスの製造工程で排出されるIPA中には、製造工程や材料、装置に由来する不純物が含まれており、IPAを回収して再利用するためには、これらの不純物を高度に除去し、半導体デバイス製造工程用として購入したときと同程度にまでIPAを精製する必要がある。不純物の成分としては、主に、水分、イオン性不純物、金属、微粒子が挙げられる。
【0003】
市販のIPAではその用途(例えば、半導体デバイス製造工程用)などに応じてグレードが設定されており、グレードごとに、各不純物についての規格値が定められている。例えば、半導体グレード(半導体デバイス製造工程用に適したグレード)とされているIPAでは、その中に含まれる金属量が0.1ppb以下とされており、また、アセトンについては10ppm以下とされている。アセトンは、IPAの酸化によって生じ得る不純物である。IPAを半導体デバイスの洗浄に直接利用するような場合、IPAに不純物として含まれるアセトンの影響が懸念されており、特に、半導体デバイス製造工程などから廃IPAを回収して再利用する際には、IPA中のアセトンの量を管理することが必要となる。また、IPA以外のアルコール類に関しても、その酸化によってケトン類やアルデヒド類が生じるので、用途に応じて、ケトン類やアルデヒド類の量を管理することが必要になると考えられる。なお、現状では、半導体グレードなどのIPAにおいては溶存酸素量についての管理はなされていない。
【0004】
汚染され不純物を含むようになったアルコールの精製方法としては、蒸留法が知られている。しかしながら、蒸留法のみを使用してアルコールを所定の純度まで精製しようとすると大がかりな蒸留設備が必要となって設備費や設置面積が大きくなり、多大なエネルギーが必要であることから、エネルギーコストも上昇し、経済面で好ましくない。
【0005】
アルコールに含まれる可能性がある不純物ごとに、以下に示すように、アルコールからそれらの不純物を除去する方法が提案されている。
【0006】
例えば、アルコール中の水分を効率的に除去する方法としては、特許文献1には、浸透気化法を用いてアルコール中の水分濃度を一定レベル以下とした上で、ゼオライトなどの吸着剤を用いて水分を吸着除去する方法が示されている。特許文献2には、陰イオン交換膜を蒸気透過(Vapor permeation:VP)法での分離膜として用いてアルコールから水分を分離し、さらに蒸留によってアルコールを精製することが示されている。
【0007】
浸透気化(Pervaporation:PV)法は、分離処理の対象となる成分(例えば水分)と親和性のある分離膜を用い、対象成分を含む混合液(例えば不純物としての水分を含むアルコール)を分離膜の供給側に流し、分離膜の透過側を減圧にしたり不活性ガスを流すことで、分離膜における各成分の透過速度差により分離を行うものである。膜に接する流体が気相の場合の分離は蒸気透過法、接触する流体が液体の場合は浸透気化法と呼ばれている。蒸気透過法による場合には、気相状態でアルコールを膜に接触させるために、その前段に、アルコールを気化させる工程が設けられる。浸透気化法においても、分離膜の透過側で効率よくアルコールを回収するためにはアルコールの蒸気圧を高める必要があり、加熱が必要となる。
【0008】
特許文献1では分離膜としてポリイミド系分離膜あるいはセルロース系分離膜が用いられているが、アルコールからの脱水用の分離膜としては、ゼオライト膜も広く用いられている。ゼオライト膜は、きわめて強い吸湿性を有し、水分子などの極性分子の吸着に関してはその分子種の分圧がきわめて低い場合においても分離性能が高く、また、目的物であるアルコールのロスが少ない、という特徴を有する。
【0009】
イオン性不純物を除去する方法としては、特許文献3や非特許文献1に示されるように、イオン交換樹脂を用いた方法が知られている。イオン交換樹脂による処理は、蒸留装置を用いるよりもエネルギーや設備費が小さくて簡便であり、かつ純度の高いアルコールを得ることができる。イオン交換樹脂を用いる方法ではアルコール含有液をイオン交換樹脂層に通液するが、特許文献4では、イオン交換樹脂層の代わりにイオン交換膜を用いることとして、フィルタとイオン交換膜とを組み合わせ、金属イオンなどのカチオン性不純物と微粒子とを除去する方法が提案されている。
【0010】
特許文献5は、浸透気化法によって水分を除去されたアルコールに対し、さらに、蒸留を行って金属分を除去し、精密濾過膜を通過させて不溶性の微粒子を除去することを開示している。
【0011】
そして特許文献6には、上述したような各種の方法を組み合わせ、半導体デバイス製造工程から回収したIPAを精製して再び半導体デバイス製造工程に供給するようにした再生システムと、そのような再生システムにおける精製方法が開示されており、水分除去部を複数個設け、水分除去を反復遂行して廃化学薬品に含まれた水分含有量が化学薬品の原料水準になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−276801号公報
【特許文献2】特開平6−69175号公報
【特許文献3】特開2009−57286号公報
【特許文献4】特開2005−263729号公報
【特許文献5】特開平9−57069号公報
【特許文献6】特開平11−57304号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Partha V. Buragohain, William N. Gill, and Steven M. Cramer; "Novel Resin-Based Ultrapurification System for Reprocessing IPA in the Semiconductor Industry," Ind. Eng. Chem. Res., 1996, 35(9), pp. 3149-3154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、IPAなどのアルコールを精製する方法として各種の方法が知られており、これらの方法によれば、アルコール中の水分、イオン性不純物、金属、微粒子を低減しあるいは除去することが可能である。しかしながらこれらの方法では、アルコール自体に由来する酸化物、例えばIPA由来のアセトンを低減し、あるいはそのような酸化物の発生を抑制することについては考慮されていない。
【0015】
本発明の目的は、IPAに代表されるアルコールを精製する際に、アルコールに由来する酸化物を低減する方法を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、IPAに代表されるアルコールを精製するアルコール精製装置であって、アルコールに由来する酸化物を低減できるアルコール精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、アルコール自体に由来する酸化物の量について検討したところ、アルコール含有液を熱処理する工程が存在すると酸化物の量が増大することを見出し、また、熱処理する工程の前段でアルコール含有液中の溶存酸素を除去することで酸化物の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち本発明の精製アルコール中の酸化物を低減する方法は、アルコール含有液を熱処理する熱処理工程を含むアルコール精製方法を実施する際に、アルコール含有液から溶存酸素を除去する工程を設け、溶存酸素が除去されたアルコール含有液を熱処理工程に供給することを特徴とする。
【0019】
本発明のアルコール精製装置は、アルコール含有液を熱処理して精製アルコールを得る熱処理手段を備えるアルコール精製装置において、アルコール含有液から溶存酸素を除去する溶存酸素除去手段を備え、溶存酸素除去手段から排出されるアルコール含有液が熱処理手段に供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルコール含有液を熱処理して精製アルコールを得る工程の前段で、アルコール含有液に含まれる溶存酸素を除去することにより、熱処理工程でのアルコール自体の酸化を抑制することができ、精製アルコール中に含まれるアルコール由来の酸化物の量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【
図4】本発明の第4の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【
図5】本発明の第5の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示す本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置21は、例えば半導体デバイス製造工程などの各種の工程から排出されて不純物を含んでいるアルコールを回収して精製するために好ましく用いられるものである。
図1に示した例では、精製対象のアルコールがIPA(イソプロピルアルコール)であり、半導体デバイス製造装置12で使用されて不純物を含むようになったIPAが排出され、回収されている。半導体デバイス製造装置12では、IPAは、例えば、大気下で行われる洗浄工程に使用され、その結果、半導体デバイス製造装置12から回収されるIPAは溶存酸素を含むこととなる。また、半導体デバイス製造装置12から回収されるIPAは回収タンク31までの配管系で大気と接触し、その結果、回収されるIPAは溶存酸素を含むことになる。アルコール精製装置21は、回収されたIPAを精製し、精製したIPAを供給タンク11を介して再び半導体デバイス製造装置12に供給する。供給タンク11には、運転開始時に必要となったり運転中に不足した分を補うために、補充用アルコールが供給されるようになっている。
【0023】
アルコール精製装置21では、半導体デバイス製造装置12から回収したIPAをアルコール含有液として一時的に保持する回収タンク31と、回収タンク31の出口に設けられてアルコール含有液を送液するポンプ32とが設けられ、このポンプ32の出口に対し、脱気モジュール34と脱水膜35と蒸留手段36とがこの順で直列に接続し、蒸留手段36から留出成分として精製アルコールが得られるようになっている。蒸留手段36からの精製アルコールは、不図示の冷却器によって冷却され、配管を介して供給タンク11に戻される。また、アルコール精製装置21の立ち上げ運転時にアルコール精製装置21の系内(例えば、脱水膜35を格納する容器内や蒸留手段36の内部、配管内など)を不活性ガス(例えば、窒素ガスあるいはアルゴンガス)で置換するために、不活性ガスを供給する不活性ガス源33が設けられている。不活性ガス源33からの不活性ガスは、アルコール精製装置21の立ち上げ運転時に、ポンプ32と脱気モジュール34とを接続する配管から系内に供給される。
【0024】
このアルコール精製装置21において回収タンク31のIPA中から除去すべき対象としては、主に水分、カチオン・アニオンのイオン成分、微粒子が挙げられ、さらには、IPAに由来する酸化物(アセトンなど)が挙げられる。
【0025】
脱気モジュール34は、回収タンク31から脱水膜35に供給されるアルコール含有液から溶存酸素を除去するものである。本明細書において「アルコール含有液から溶存酸素を除去する」とは、アルコール含有液に溶存している酸素(O
2)の一部または全部をそのアルコール含有液から取り除くことを意味し、したがって、溶存酸素を除去した結果、アルコール含有液中に溶存している酸素の濃度が低下することになる。脱気モジュール34では、脱気膜が設けられており、脱気膜の一方の表面に沿ってアルコール含有液が流れ、他方の表面は減圧下となるようにすることによって、アルコール含有液から溶存酸素が除去される。脱気膜としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)を用いることができる。耐アルコール性、低溶出性などの観点から、脱気モジュール34内の脱気膜にはフッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
脱水膜35は、溶存酸素が除去されたアルコール含有液に対して浸透気化(PV)あるいは蒸気透過(VP)による膜脱水を行ってアルコールを濃縮するものである。脱水膜35は、例えば、透水性膜モジュールとして構成されるものであり、膜としてはポリイミド系、セルロース系、ポリビニルアルコール系等の高分子系もしくはゼオライト等の無機系の素材からなる膜を用いることができる。機械的強度、脱水性能、耐熱性などの観点から、ゼオライトを素材とする膜を脱水膜35として用いることが好ましい。
【0027】
しかしながら、脱水膜35は、一般的に、高温、高圧下で運転されるため、その膜素材から不純物が溶出してしまうおそれがある。そこで、脱水膜35の後段に蒸留手段36を設け、脱水膜35によって脱水された液に対して蒸留操作を実行する。この蒸留操作は、アルコールと水とを蒸留分離することを目的とするものではなく、微粒子や塩、シリカ及び金属性の不純物をアルコールから分離するためのものである。
【0028】
蒸留手段36は、例えば、単段の蒸留装置によって構成される。蒸留操作によって蒸留装置内などで不純物が蓄積するが、これらの不純物は排出しない限り蒸留装置内に蓄積されたままであるので、装置内で不純物が濃縮される。装置内の不純物の濃度が高くなるにつれ、飛沫同伴などにより、精製アルコールにおいても基準値を超えるような不純物が検出されるおそれがある。このような後段側への不純物の流出を防ぐために、蒸留手段36には、不純物が濃縮された液の一部を定期的にあるいは一定量ごとに外部に排出する手段を設けることが好ましい。さらに、このようにして蒸留手段36から排出され高濃度に不純物を含む液を、後段に設けられた別の蒸留装置でさらに蒸留してアルコールを回収し、この回収されたアルコールを回収タンク31に返送することで、アルコールの回収率の向上を図ることもできる。
【0029】
本実施形態のアルコール精製装置21において、脱水膜35及び蒸留手段36は、いずれも、精製アルコールを得るためにアルコール含有液に対する熱処理を行うものである。本実施形態では、脱水膜35による処理を行う前に、アルコール含有液から溶存酸素を除去しているので、脱水膜35や蒸留手段36による工程においてアルコール含有液が加熱されても、溶存酸素によるアルコール自体の酸化が起こりにくくなり、精製アルコール中に含まれるアルコール由来の酸化物(アセトンなど)の量を低減することができる。
【0030】
図2は本発明の第2の実施形態のアルコール精製装置22を示している。第1の実施形態のアルコール精製装置では、脱気モジュールを用いてアルコール含有液中の溶存酸素の除去を行っていたが、本実施形態のアルコール精製装置22は、アルコール含有液に対して不活性ガスを通気すること、すなわちバブリングにより、アルコール含有液中の溶存酸素を不活性ガスに置換し、溶存酸素を除去するようにしている。また、アルコール精製装置22では、装置立ち上げ時に系内を不活性ガスで置換するようにはしていない。したがって、
図2に示すアルコール精製装置22は、
図1に示すアルコール精製装置21と比べ、不活性ガス源33及び脱気モジュール34が設けられておらず、その代わり、回収タンク31に対して不活性ガスを供給する不活性ガス源37が設けられている。この不活性ガスは、例えば、回収タンク31の底部に設けられたノズルからアルコール含有液中に気泡の形態で放出される。ポンプ32の出口は脱水膜35の入口に直接接続している。不活性ガス源37から供給される不活性ガスとしては、コストの観点から窒素ガスを用いることが好ましい。
【0031】
回収タンク31内のアルコール含有液の中に不活性ガスを吹き込むと、回収タンク31の上部から、気化したアルコールを含む気体が放出される。この気体からアルコールを回収し、回収タンク31に返送するための設備を設けることによって、アルコールのロスを低減させることができる。
【0032】
図3は本発明の第3の実施形態のアルコール精製装置を示している。
図3に示したアルコール精製装置23は、
図1に示すアルコール精製装置21と同様のものであるが、さらに、第2の実施形態と同様に回収タンク31内のアルコール含有液に対して不活性ガスを通気するための不活性ガス源37を設けたものである。特に、回収されたアルコール中の溶存酸素濃度が高い場合には、このように、アルコール含有液への不活性ガスの通気と脱気モジュール34による処理とを適切に組み合わせることによって、溶存酸素を適切に除去しつつ、アルコールの回収コストを低減させることができる。
【0033】
図4は、本発明の第4の実施形態のアルコール精製装置を示している。
図4に示したアルコール精製装置24は、
図1に示したアルコール精製装置21において、脱気モジュール34に替えて水素吸蔵金属触媒38を設けたものである。水素吸蔵金属触媒38は、水素吸蔵金属からなる触媒であって、圧力や温度を利用して比較的簡単に水素を吸蔵し、また可逆的に水素を放出することもできるものである。溶存酸素を含むアルコール含有液を水素吸蔵金属触媒38と接触させることによって、水素吸蔵金属触媒38の表面では、アルコール含有液中の溶存酸素と水素吸蔵金属触媒に吸蔵されている水素とが、
2H
2+O
2→2H
2O
にしたがって反応する。これによって、アルコール含有液中の溶存酸素が除去される。
【0034】
水素吸蔵合金触媒38を構成する水素吸蔵金属としては、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などが挙げられるが、中でも白金族金属を用いることが好ましく、特に、触媒活性が高い白金またはパラジウム、若しくは白金とパラジウムとの合金が好ましい。
【0035】
水素吸蔵金属触媒38の形態は特に限定されるものではないが、例えば、活性炭やイオン交換樹脂などの担体に水素吸蔵合金を担持させたものが好ましく、これを容器内に充填して使用する。特に、陰イオン交換樹脂、もしくは繊維状またはモノリス状のイオン交換体に水素吸蔵合金を担持させたものを使用するのが好ましい。
【0036】
水素吸蔵金属触媒38に水素を吸蔵させる方法としては、水素吸蔵金属触媒38に水素ガスを接触させたり、あるいは、水素を含む水やアルコールなどを通液する方法などがある。
【0037】
図5は、本発明の第5の実施形態のアルコール精製装置を示している。上述の各実施形態では、半導体デバイス製造装置からIPAをアルコール含有液として回収して精製し、再び半導体デバイス製造装置に供給する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図5に示したアルコール精製装置25は、半導体デバイス製造装置よりは不純物(特に水分)に対する制約が緩い一般的なアルコール使用装置13からアルコールを回収して精製し、精製アルコールを再びアルコール使用装置13に供給する際に用いられるものであって、精製アルコール中のアルコール由来の酸化物(アセトンなど)を低減するようにしたものである。アルコール精製装置25は、
図1に示すアルコール精製装置21から脱水膜35を取り除いた構成を有し、脱気モジュール34の出口が蒸留手段36の入口に直接接続している。
図1に示したものと同様に、アルコールは供給タンク11からアルコール使用装置13に供給され、アルコール精製装置25からの精製アルコールが供給タンク11に送られるようになっている。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
図1に示した構成のうち、アルコール精製装置21の部分を組み立てた。脱気モジュール34としては、DIC株式会社製SEPAREL PF−F(PTFE製)を用いた。また脱水膜35としては、A型ゼオライトを素材とする膜を使用し、蒸気透過法による脱水処理を行った。
【0040】
アルコール含有液中の酸素(DO)分率(溶存酸素濃度)は、ハックウルトラ社製Orbisphere 3600を用いて測定し、水分濃度の測定にはカールフィッシャー水分濃度計(平沼産業株式会社製)を用いた。また、IPA由来の酸化物であるアセトン濃度は、株式会社日立製作所製U−3010吸光光度計により測定した。なおアセトンのブランク液としては株式会社トクヤマの電子工業用イソプロピルアルコール(アセトン濃度<5ppm)を用いた。
【0041】
あらかじめ不活性ガス源33からアルコール精製装置21内を窒素を供給し、窒素で置換することによって系内の酸素を排除した。続いて回収タンク31に、水分濃度が0.01重量%未満、アセトン濃度が5ppm未満であるIPAをアルコール含有液として供給し、脱水膜35出口での液速度が2kg/時間となるようにポンプ32によって送液量を調整した。その際、脱水膜35の入口における溶存酸素濃度を測定したところ、IPAにおける大気下での飽和酸素濃度を100%として、0.5%であった。以下の説明においても溶存酸素濃度(%)は、IPAにおける大気下での飽和酸素濃度を100%とした場合の分率で表されている。また、蒸留手段36の出口すなわち精製アルコールにおけるアセトン濃度を測定したところ<5ppmであった。
【0042】
[実施例2]
脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の水分濃度を2.0重量%とし、溶存酸素濃度を5.0%としたことを除いて、実施例1と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ5ppm未満であり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0043】
[実施例3]
脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の水分濃度を10.0重量%としたことを除いて、実施例1と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ5ppm未満であり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0044】
[実施例4]
脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の溶存酸素濃度を4.0%としたことを除いて、実施例3と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ5ppm未満であり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0045】
[実施例5]
脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の溶存酸素濃度を8.0%としたことを除いて、実施例3と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ5ppm未満であり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0046】
[参考例1]
運転開始時にアルコール精製装置の系内を窒素ガスで置換することの効果を調べた。
【0047】
運転開始にあたりアルコール精製装置21内の窒素ガス置換をせずに大気雰囲気下としたことを除き、実施例3と同様の条件にて試験を行った。そして、運転開始6時間後の時点において、脱水膜35の出口におけるアセトン濃度を測定したところ180ppmであった。脱水膜35の出口での水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0048】
脱水膜35の出口におけるアセトン濃度が180ppmと高い値を示したが、これは、脱水膜35を格納する容器内などに運転開始時に残存していた酸素によってアルコールの一部が酸化されたものと考えられる。運転を継続することによってアルコールにより系内の酸素が押し出されるので、脱水膜35の出口のアセトン濃度は次第に低下する。このことから、運転開始後の早期の段階からアセトン濃度の低い精製アルコールを得るためには、運転開始に当たりアルコール精製装置の系内を不活性ガスで置換することが極めて有効であることが分かった。
【0049】
[比較例1]
脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の溶存酸素濃度を22.7%としたことを除いて、実施例3と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ45ppmであり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
[比較例2]
脱気モジュール34を設けず、大気中の酸素によって飽和させたアルコール含有液を用いることにより、脱水膜35の入口におけるアルコール含有液中の溶存酸素濃度を100.0%としたことを除いて、実施例3と同様の条件にて試験を行った。蒸留手段36の出口におけるアセトン濃度を測定したところ160ppmであり、水分濃度は0.1重量%未満であった。
【0050】
以上の実施例1〜5、参考例1、比較例1,2の結果をまとめて表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1より、脱気モジュール34を用いるなどして脱水膜35の入口における溶存酸素濃度を8%以下とすることにより、精製アルコール中のアセトン濃度を十分に低い値とすることができることが分かる。
【0053】
[参考例2]
IPA中の溶存酸素量とIPAに対して熱処理を行った後のIPA中のアセトン濃度との関係を調べた。
【0054】
大気下において、バッチ式耐圧反応容器(内容量200ml)内に、水分濃度が0.01重量%未満、アセトン濃度が5ppm未満であるIPAをアルコール含有液として50ml投入したのち密閉し、加熱反応器内で所定の加熱温度にて6時間加熱し、冷却後、IPA中のアセトン濃度を測定した。加熱温度を90℃、110℃、120℃、130℃の各々とした場合の実験を行った。結果を表2に示す。
【0055】
表2から、加熱温度が増加するとともに、IPA中に生成するアセトン濃度も増加することが分かる。IPAの沸点は82.4℃であるが、沸点をやや上回る程度の温度において、反応容器内に酸素が存在するとアセトンが生成することが分かる。
【0056】
【表2】
【符号の説明】
【0057】
11 供給タンク
12 半導体デバイス製造装置
13 アルコール使用装置
21〜25 アルコール精製装置
31 回収タンク
32 ポンプ
33,37 不活性ガス源
34 脱気モジュール
35 脱水膜
36 蒸留手段
28 水素吸蔵金属触媒