(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記画像表示装置は、通常状態における前記各生体状態の変化を表示可能であると共に、前記判定出力手段からの指令により、前記覚醒誘導又は休憩を促す刺激を付与する際には、複数の画像を交互に表示して視覚的刺激を付与するように設定されている請求項2記載の運転支援装置。
前記画像表示装置に設定されている視覚的刺激を付与する際の画像は、前記各生体状態に対応して3〜10種類設定されていると共に、その種類毎に、2〜4画像が交互表示されるように設定されている請求項3記載の運転支援装置。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回る場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する請求項6記載の運転支援装置。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記機能調整信号の分布率が前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合、又は、前記活動調整信号の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する請求項6記載の運転支援装置。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定値以上の場合に、前記運転者が高揚状態か否かを判定する手段を有し、
前記高揚状態と判定された後、該高揚状態が終了したと判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力する請求項5記載の運転支援装置。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回る場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する請求項15記載のコンピュータプログラム。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記機能調整信号の分布率が前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合、又は、前記活動調整信号の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する請求項15記載のコンピュータプログラム。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定値以上の場合に、前記運転者が高揚状態か否かを判定する手順を実行し
前記高揚状態と判定された後、該高揚状態が終了したと判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力する請求項14記載のコンピュータプログラム。
背部体表脈波の分析により得られる指標の変動と、その指標変動に対応して出現する生体状態との一般化した確率表が予めコンピュータである運転支援装置の記憶部に記憶されており、
前記判定出力手順は、前記背部体表脈波の分析により得られた前記運転者の指標の変動を、前記記憶部にアクセスして読み込んだ前記確率表に照らし、前記各生体状態を判定する請求項13〜20のいずれか1に記載のコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示された技術は、覚醒低下に至って一旦音刺激を付与すると、その後は、5秒から3分の範囲の音刺激を、予め定めた間隔で、好ましくは1分提示して1分休止するというように断続的に付与して覚醒誘導するものである。しかし、特許文献1では、このように、予め定められた一定パターンの音刺激を付与するものであり、それが数分から数十分継続する場合には、人はそれに慣れ、必ずしも覚醒を促す刺激としては効かず、逆に、覚醒低下を招く要因になることも考えられる。
【0006】
また、特許文献1の技術は、脳波を測定して上記した覚醒リズムを検出しているものであり、工場などにおける作業中の居眠りを防止する装置としては実用できても、自動車などの運転者の覚醒状態を維持する装置としては不向きである。これに対し、本出願人による特許文献2及び3に示した手段は、運転者の背部の体表面に生じる振動である脈波(背部体表脈波(Aortic Pulse Wave(APW)))を非拘束で検出でき、運転中の生体情報を得る手段として優れている。しかし、特許文献2及び3に示した技術は、運転者の入眠予兆現象、切迫睡眠現象等を検出することを目的としている。このうち、切迫睡眠現象は、入眠時直前から数分前のタイミングで出現する現象で、多くの場合、強い眠気として自覚できる兆候であるが、特許文献2及び3は、これらの現象をより正確に検出しようとする構成であるため、その検出タイミングは、その現象が顕著に現れるタイミングとなるように設定されている。従って、切迫睡眠現象を検出した時点で警告を作動させても、その時点では運転者が既に強い眠気を感じており、警告の手法によっては、覚醒誘導させることが困難な場合があった。
【0007】
本発明は、上記した点に鑑みなされたものであり、切迫睡眠現象時のような強い眠気を自覚する前の所定のタイミングで刺激を付与することで覚醒誘導し、運転者の生体状態をより運転に適した状態で維持でき、しかも、運転者の生体状態を非拘束で測定できる運転支援装置及びコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の運転支援装置は、生体信号測定装置により測定した運転者の生体信号である背部体表脈波を分析し、前記運転者の生体状態を判定する生体状態判定手段を備えた運転支援装置であって、
聴覚、視覚又は嗅覚的な刺激の少なくとも
一つを含む刺激を前記運転者に付与する刺激付与手段を有し、
前記生体状態判定手段は、
前記背部体表脈波の分析により得られる指標から、疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下に伴って出現する生体状態を判定し、その判定結果に応じて前記刺激付与手段を駆動させる指令を出力する判定出力手段を有し、
前記判定出力手段は、前記運転者を覚醒誘導するため、疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下に伴って出現する警告レベルと判定される生体状態を検出したタイミング、及び、この警告レベルの生体状態の出現前に出現する覚醒度の低下に関連した関連兆候を検出したタイミングの双方で、前記刺激付与手段を駆動させる指令を出力する構成であることを特徴とする。
【0009】
前記判定出力手段は、前記警告レベルの生体状態の検出タイミングと前記関連兆候の検出タイミングとの時間差が所定時間以内と判定した場合に、前記運転者に休憩を促すための刺激を、前記刺激付与手段に指令する構成であることが好ましい。前記刺激付与手段が、聴覚的な刺激を付与する音出力装置と、視覚的な刺激を付与する画像表示装置との両者を併有してなることが好ましい。前記画像表示装置は、通常状態における前記各生体状態の変化を表示可能であると共に、前記判定出力手段からの指令により、前記覚醒誘導又は休憩を促す刺激を付与する際には、複数の画像を交互に表示して視覚的刺激を付与するように設定されていることが好ましい。前記画像表示装置に設定されている視覚的刺激を付与する際の画像は、前記各生体状態に対応して3〜10種類設定されていると共に、その種類毎に、2〜4画像が交互表示されるように設定されていることが好ましい。
【0010】
前記判定出力手段は、
前記生体信号測定装置から得られた背部体表脈波の時系列波形におけるゼロクロス点を用いて周波数の時系列波形を求めるゼロクロス検出手段と、
前記生体信号測定装置から得られた背部体表脈波の時系列波形におけるピーク点を用いて周波数の時系列波形を求めるピーク検出手段と、
前記ゼロクロス検出手段により求められた前記周波数の時系列波形をスライド計算して周波数の傾き時系列波形を求めるゼロクロス傾き時系列波形演算手段と、
前記ピーク検出手段により求められた前記周波数の時系列波形をスライド計算して周波数の傾き時系列波形を求めるピーク傾き時系列波形演算手段と
を有し、
前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の指標に基づき、前記覚醒度の低下に伴って出現する各種生体状態を判定する構成であることが好ましい。
前記判定出力手段は、
前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形又は前記ピーク傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形をそれぞれ周波数分析して、0.001〜0.0027Hzの範囲の機能調整信号、0.002〜0.0052Hzの範囲の疲労受容信号及び0.004〜0.007Hzの活動調整信号に相当する各周波数成分を抜き出し、これらの周波数成分のそれぞれの分布率の変動を求める分布率演算手段を有し、前記分布率演算手段により求められる各周波数成分の分布率から、前記覚醒度の低下に伴って出現する各種生体状態を判定する構成であることが好ましい。
【0011】
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回る場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する構成であることが好ましい。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率と、前記ピーク傾き時系列波形演算手段を用いて得られる各周波数成分の分布率とを、対応する周波数成分の分布率同士で比較した場合に、両者が乖離する傾向を示す場合に、交感神経機能の活性度と副交感神経機能の活性度の乖離によって出現する前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する構成であることが好ましい。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記機能調整信号の分布率が前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合、又は、前記活動調整信号の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定する構成であることが好ましい。
前記判定出力手段は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手段から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定値以上の場合に、前記運転者が高揚状態か否かを判定する手段を有し、
前記高揚状態と判定された後、該高揚状態が終了したと判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力する構成であることが好ましい。
前記判定出力手段は、さらに、入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出する手段を有し、
前記高揚状態と判定された後、前記入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出した場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力する構成であることが好ましい。
さらに、前記運転者の主観的な疲労を感じたタイミングを特定する主観疲労特定手段を有すると共に、
前記判定出力手段は、前記主観疲労特定手段により特定される主観的な疲労を感じたタイミングと、前記刺激付与手段による刺激の出力タイミングとの時間差が所定の範囲内か否かを判定する手段を有し、
前記時間差が所定の範囲内と判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力する構成であることが好ましい。
前記主観疲労特定手段は、前記運転者が主観的に疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下を感じた際に操作される入力手段であることが好ましい。
背部体表脈波の分析により得られる指標の変動と、その指標変動に対応して出現する生体状態との一般化した確率表が予め記憶部に記憶されており、
前記判定出力手段は、前記背部体表脈波の分析により得られた前記運転者の指標の変動を、前記記憶部にアクセスして読み込んだ前記確率表に照らし、前記各生体状態を判定する構成であることが好ましい。前記確率表において、所定の生体状態に関する最高確率値の出現条件に前記指標変動が相当するか否かを判定し、相当する場合に当該生体状態と判定する構成であることが好ましい。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムは、運転支援装置としてのコンピュータに、
生体信号測定装置により測定した運転者の生体信号である背部体表脈波を分析し、前記運転者の生体状態を判定する生体状態判定手順を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記生体状態判定手順として、
前記背部体表脈波の分析により得られる指標から、疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下に伴って出現する生体状態を判定し、その判定結果に応じて、聴覚、視覚又は嗅覚的な刺激の少なくとも
一つを含む刺激を前記運転者に付与する刺激付与手段を駆動させる指令を出力する判定出力手順を実行させる構成であり、
前記判定出力手順が、前記運転者を覚醒誘導するため、疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下に伴って出現する警告レベルと判定される生体状態を検出したタイミング、及び、この警告レベルの生体状態の出現前に出現する覚醒度の低下に関連した関連兆候を検出したタイミングの双方で、前記刺激付与手段を駆動させる指令を出力することを特徴とする。
【0013】
前記判定出力手順は、前記警告レベルの生体状態の検出タイミングと前記関連兆候の検出タイミングとの時間差が所定時間以内と判定した場合に、前記運転者に休憩を促すための刺激を、前記刺激付与手段に指令することが好ましい。
前記判定出力手順は、
前記生体信号測定装置から得られた背部体表脈波の時系列波形におけるゼロクロス点を用いて周波数の時系列波形を求めるゼロクロス検出手順と、
前記生体信号測定装置から得られた背部体表脈波の時系列波形におけるピーク点を用いて周波数の時系列波形を求めるピーク検出手順と、
前記ゼロクロス検出手順により求められた前記周波数の時系列波形をスライド計算して周波数の傾き時系列波形を求めるゼロクロス傾き時系列波形演算手順と、
前記ピーク検出手順により求められた前記周波数の時系列波形をスライド計算して周波数の傾き時系列波形を求めるピーク傾き時系列波形演算手順と
を実行し、
前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の指標に基づき、前記覚醒度の低下に伴って出現する各種生体状態を判定することが好ましい。
前記判定出力手順は、
前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形又は前記ピーク傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形をそれぞれ周波数分析して、0.001〜0.0027Hzの範囲の機能調整信号、0.002〜0.0052Hzの範囲の疲労受容信号及び0.004〜0.007Hzの活動調整信号に相当する各周波数成分を抜き出し、これらの周波数成分のそれぞれの分布率の変動を求める分布率演算手順を実行し、前記分布率演算手順により求められる各周波数成分の分布率から、前記覚醒度の低下に伴って出現する各種生体状態を判定することが好ましい。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回る場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定することが好ましい。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率と、前記ピーク傾き時系列波形演算手順を用いて得られる各周波数成分の分布率とを、対応する周波数成分の分布率同士で比較した場合に、両者が乖離する傾向を示す場合に、交感神経機能の活性度と副交感神経機能の活性度の乖離によって出現する前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定することが好ましい。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、前記機能調整信号の分布率が前記活動調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合、又は、前記活動調整信号の分布率が前記機能調整信号に相当する周波数成分の分布率を上回った状態が所定時間以上継続する場合に、前記覚醒度の低下に関連する関連兆候と判定することが好ましい。
前記判定出力手順は、前記ゼロクロス傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形及び前記ピーク傾き時系列波形演算手順から得られる傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定値以上の場合に、前記運転者が高揚状態か否かを判定する手順を実行し
前記高揚状態と判定された後、該高揚状態が終了したと判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力することが好ましい。
前記判定出力手順は、さらに、入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出する手順を実行し、
前記高揚状態と判定された後、前記入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出した場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力することが好ましい。
前記判定出力手順は、前記運転者の主観的な疲労を感じたタイミングを特定する主観疲労特定手段により特定される主観的な疲労を感じたタイミングと、前記刺激付与手段による刺激の出力タイミングとの時間差が所定の範囲内か否かを判定する手順を実行し、
前記時間差が所定の範囲内と判定された場合に、前記運転者に休憩を促す指令を前記刺激付与手段に出力することが好ましい。
背部体表脈波の分析により得られる指標の変動と、その指標変動に対応して出現する生体状態との一般化した確率表が予めコンピュータである運転支援装置の記憶部に記憶されており、
前記判定出力手順は、前記背部体表脈波の分析により得られた前記運転者の指標の変動を、前記記憶部にアクセスして読み込んだ前記確率表に照らし、前記各生体状態を判定することが好ましい。前記確率表において、所定の生体状態に関する最高確率値の出現条件に前記指標変動が相当するか否かを判定し、相当する場合に当該生体状態と判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、背部体表脈波の分析により得られる指標により、疲労、注意力の低下又は眠気を含む前記覚醒度の低下に伴って出現する警告レベルと判定される生体状態を検出したタイミングだけでなく、この警告レベルと判定される生体状態の出現前に出現する当該生体状態に関連した関連兆候を検出したタイミングでも逐次、刺激付与手段を駆動させる指令を出力する構成である。すなわち、本発明は、覚醒度の低下に伴って出現する各生体状態が警告レベルのとき、例えば、覚醒度が低下して眠気が増してきている中で切迫睡眠現象が検出されたタイミングのように、従来より警告を発していたタイミングで刺激を付与することに加え、切迫睡眠現象に至る前において、覚醒度の低下に関連した関連兆候を検出したタイミング、例えば、運転者がまだ切迫睡眠現象に至る前の状態と推定される中で、分析により得られた指標が疲労度の上昇期あるいは同一生体状態の継続期を示す場合等において刺激を付与するものである。従って、運転者の覚醒度が所定以上の場合において警告としての刺激を付与するため、運転者をより高い覚醒度の状態に誘導し、覚醒状態の持続を促すことができる。また、本発明の関連兆候を検出するタイミング、すなわち、疲労度の上昇期や同一生体状態の継続期等を検出するタイミングは、一定パターンで出現するのではなく、ランダムなタイミングで出現するため、それに応じて付与される刺激もランダムなタイミングで出力されることになり、交感神経機能を相対的に優位にして集中しやすい状態を作り出しやすく、覚醒状態をより長く持続させることができる。
【0015】
また、本発明は、運転者が高揚状態に至っているか否かを判定する構成とすることが好ましい。ここでいう高揚状態とは、所定時間以上の運転によって疲労が蓄積していく中で、βエンドルフィンの作用等によって高揚した状態になることを意味し、このような状態になった後は、その後急激な疲労を招来して入眠予兆現象、さらには切迫睡眠現象を発現する可能性が高い。そこで、高揚状態か否かを判定すると共に、その状態が終了したと判定されるタイミングを判定し、あるいは、その後、さらに入眠予兆現象を発現したタイミングを判定して切迫睡眠現象が近いことを警告し、加えて
覚低状態の延長である切迫睡眠現象も警告する構成とすることが好ましく、それにより、運転者が所定以上の疲労度に至る前(運転者自らがいわゆる過労と感じる程度の疲労に至る前)に休憩を促す告知を行うことができる。
【0016】
また本発明は、運転者が主観的に疲労を感じたタイミングを特定する主観疲労特定手段を有する構成とすることが好ましい。上記した刺激付与手段による刺激の出力タイミングは、交感神経機能と副交感神経機能との活性度の関係を考慮して判定するものであり、運転者が運転開始時に疲労を感じていないような健康状態が優れている場合には、覚醒度の低下を自覚的に意識する主観的な疲労感を生じるタイミングとほとんど一致しないのが通常である。一致する場合には、疲労度の上昇期及び同一生体状態の継続期の判定が、実際には覚醒度の低下した状況下での判定になっており、結果的に、眠気発生の確率が高い状態になっており、眠気現象の検出タイミングと一致することになる。従って、これらのタイミングの一致度が高くなってきた場合には、その運転者が相当程度疲労をしている(運転者自らが過労と感じる程度の疲労に近い状態)と判断できる。そのため、両者の時間差が所定の範囲内となった場合に運転者に休憩を促す指令を刺激付与手段に出力する構成とすることが好ましく、それにより、運転者により確実に休憩を促すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。本発明において採取する生体信号情報は、背部体表脈波(APW)であり、
図1〜
図3に示した生体信号測定装置(以下、「背部体表脈波測定装置」)1により測定される。背部体表脈波(APW)は、人の上体背部から検出される心臓と大動脈の運動から生じる圧力振動であり、心室の収縮期及び拡張期の情報と、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾性情報及び血圧による弾性情報を含んでいる。そして、心拍変動に伴う信号波形は交感神経系及び副交感神経系の神経活動情報(交感神経の代償作用を含んだ副交感神経系の活動情報)を含み、大動脈の揺動に伴う信号波形には交感神経活動の情報を含んでいる。
【0019】
ここで、背部体表脈波測定装置1の概略構成を、
図2及び
図3に基づいて説明する。背部体表脈波測定装置1は、これらの図に示したように、コアパッド11、スペーサパッド12、センサ13、フロントフィルム14、リアフィルム15を有して構成される。
【0020】
コアパッド11は、例えば板状に成形され、脊柱に対応する部位を挟んで対称位置に、縦長の貫通孔11a,11aが2つ形成されている。コアパッド11は、板状に形成されたポリプロピレンのビーズ発泡体から構成することが好ましい。コアパッド11をビーズ発泡体から構成する場合、発泡倍率は25〜50倍の範囲で、厚さがビーズの平均直径以下に形成されていることが好ましい。例えば、30倍発泡のビーズの平均直径が4〜6mm程度の場合では、コアパッド11の厚さは3〜5mm程度にスライスカットする。
【0021】
スペーサパッド12は、コアパッド11の貫通孔11a,11a内に装填される。スペーサパッド12は、三次元立体編物から形成することが好ましい。三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報、特開2003−182427号公報等に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。三次元立体編物が人の背によって押圧されることにより、三次元立体編物の連結糸が圧縮され、連結糸に張力が生じ、生体信号に伴う人の筋肉を介した体表面の振動が伝播される。また、コアパッド11よりも、三次元立体編物からなるスペーサパッド12の方が厚いものを用いることが好ましい。これにより、フロントフィルム14及びリアフィルム15の周縁部を貫通孔11a,11aの周縁部に貼着すると、三次元立体編物からなるスペーサパッド12が厚み方向に押圧されるため、フロントフィルム14及びリアフィルム15の反力による張力が発生し、該フロントフィルム14及びリアフィルム15に固体振動(膜振動)が生じやすくなる。一方、三次元立体編物からなるスペーサパッド12にも予備圧縮が生じ、三次元立体編物の厚み方向の形態を保持する連結糸にも反力による張力が生じて弦振動が生じやすくなる。
【0022】
センサ13は、上記したフロントフィルム14及びリアフィルム15を積層する前に、いずれか一方のスペーサパッド12に固着して配設される。スペーサパッド12を構成する三次元立体編物は上記したように一対のグランド編地と連結糸とから構成されるが、各連結糸の弦振動がグランド編地との節点を介してフロントフィルム14及びリアフィルム15に伝達されるため、センサ13はスペーサパッド12の表面(グランド編地の表面)に固着することが好ましい。センサ13としては、マイクロフォンセンサ、中でも、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態の運転支援装置60の構成について
図4に基づいて説明する。運転支援装置60は、生体状態判定手段61と刺激付与手段62とを有している。生体状態判定手段61は、ゼロクロス検出手段611、ピーク検出手段612、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613、ピーク傾き時系列波形演算手段614、分布率演算手段615、判定出力手段616等を有して構成され、それらによって背部体表脈波測定装置1のセンサ13から得られる背部体表脈波(APW)を分析して判定の指標となる各種時系列波形などを得る。運転支援装置60は、コンピュータから構成され、このコンピュータの記憶部に、ゼロクロス検出手段611として機能するゼロクロス検出手順を実行させ、ピーク検出手段612として機能するピーク検出手順を実行させ、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613として機能するゼロクロス傾き時系列波形演算手順を実行させ、ピーク傾き時系列波形演算手段614として機能するピーク傾き時系列波形演算手順を実行させ、分布率演算手段615として機能する分布率演算手順を実行させ、判定出力手段616として機能する判定出力手順を実行させるコンピュータプログラムが設定されている。なお、コンピュータプログラムは、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体へ記憶させて提供することもできるし、通信回線を通じて伝送することも可能である。
【0024】
運転支援装置60は、上記した記憶部に加えて、刺激付与手段62が附属している。本実施形態の刺激付与手段62は、聴覚的な刺激を付与する音出力装置(スピーカを含む音を出力するための機構部分)621と、視覚的な刺激を付与する画像表示装置(ディスプレイを含む画像を表示するための機構部分)622との両者を備えている。画像表示装置622に表示させる刺激は、警告メッセージ、絵柄等任意であるが、絵柄(例えばアニメーション画像)を複数種類準備しておき、それらが交互に表示されるようにすると、視覚を通じて脳神経を活性しやすいため好ましい。また、この刺激は、運転という単調作業時の警告発令であり、単調作業からのエスケープを目的とし、作業に複雑系を加える覚醒誘導するものである。従って、付与される刺激はこの目的を達し得るものであればよく、強すぎる場合には却って運転に支障を来す。そこで、画像表示装置622に設定されている画像は、各生体状態に対応して、例えば、
図5(a)〜(f)に示したように、気分の表示、疲労度合の表示、疲労予測の表示、注意喚起の表示、光刺激/音声刺激を付与する際の表示、切迫睡眠現象などの警告レベルのときの刺激を付与する表示等、3〜10種類の範囲で設定されていることが好ましい。また、その種類毎に、必要に応じて、2〜4つの異なる画像を有し、気分のレベル、疲労のレベルなどによって、異なる画像が表示されるように設定することが好ましい。また、刺激を付与する必要のある場合、
図5(e)の光刺激/音声刺激を付与する際の表示、
図5(f)の警告レベルのときの刺激を付与する表示では、2〜4つの画像が交互に表示されるように設定して刺激を付与することが好ましい。なお、刺激付与手段62はこれに限定されるものではないことはもちろんであり、聴覚又は視覚のいずれか一方のみを刺激するものであってもよいし、また、聴覚又は視覚に加え、あるいは、それらに代えて嗅覚的な刺激を与えるものであってもよい。
【0025】
ゼロクロス検出手段611は、背部体表脈波測定装置1のセンサ13から得られる背部体表脈波(APW)の時系列波形(以下、「原波形」というが、ここでいう原波形には、体動等の分析に使用しない成分をフィルタリング処理した後の波形の場合も含む)において、正から負に切り替わる地点(以下、「ゼロクロス地点」という)を用いて周波数の時系列波形を求める。ゼロクロス地点を求めたならば、それを例えば5秒毎に切り分け、その5秒間に含まれる時系列波形のゼロクロス地点間の時間間隔の逆数を個別周波数fとして求め、その5秒間における個別周波数fの平均値を当該5秒間の周波数Fの値として採用する。そして、この5秒毎に得られる周波数Fを時系列にプロットすることにより、周波数の変動の時系列波形を求める。
【0026】
ピーク検出手段612は、まず、背部体表脈波測定装置1のセンサ13から得られる背部体表脈波(APW)の上記原波形を平滑化微分して極大値(ピーク)を用いて求める。例えば、SavitzkyとGolayによる平滑化微分法により極大値を求める。次に、例えば5秒ごとに極大値を切り分け、その5秒間に含まれる時系列波形の極大値(波形の山側頂部)間の時間間隔の逆数を個別周波数fとして求め、その5秒間における個別周波数fの平均値を当該5秒間の周波数Fの値として採用する。そして、この5秒毎に得られる周波数Fを時系列にプロットすることにより、周波数の変動の時系列波形を求める。
【0027】
ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613は、ゼロクロス検出手段611により求められた周波数の変動の時系列波形から、所定のオーバーラップ時間で所定の時間幅の時間窓を設定し、時間窓毎に最小二乗法により周波数の傾きを求め、その傾き時を時系列の波形を出力する。この計算(移動計算)を順次繰り返し、APWの周波数の傾きの時系列変化を周波数の傾き時系列波形として出力する。
【0028】
ピーク傾き時系列波形演算手段614は、ピーク検出手段612により求められた周波数の変動の時系列波形から、所定のオーバーラップ時間で所定の時間幅の時間窓を設定し、時間窓毎に最小二乗法により周波数の傾きを求め、その傾きを時系列の波形を出力する。この計算(移動計算)を順次繰り返し、APWの周波数の傾きの時系列変化を周波数の傾き時系列波形として出力する。
【0029】
背部体表脈波(APW)は、中枢系である心臓の制御の様子を主として含む生体信号、すなわち、動脈の交感神経支配の様子、並びに、交感神経系と副交感神経系の出現情報を含む生体信号であり、この生体信号のゼロクロス傾き時系列波形演算手段613による傾き時系列波形を絶対値処理した波形は、心臓の制御の状態により関連しており、交感神経の出現状態を反映している。ピーク傾き時系列波形演算手段614によるものは、心拍変動により関連しており、交感神経による代償作用が加味された副交感神経系の動態を捉えている。なお、ピーク傾き時系列波形演算手段614による傾き時系列波形を絶対値処理したものは、指尖容積脈波のウェーブレット解析による副交感神経の動態(この副交感神経の動態は交感代償作用が加味されたものである)に比較的近似している。そのため、ゼロクロス検出手段611及びゼロクロス傾き時系列波形演算手段613を用いたものは、自律神経系の制御で対処されるストレスへの適応の結果となる体調を表す指標に用いることができると考えられる。ゼロクロス検出手段611及びゼロクロス傾き時系列波形演算手段613を用いたものは、心臓の制御の状態への関連が高いため、心拍変動の切痕の情報も含んでおり、指尖容積脈波では得られない、心拍成分の0.5次成分である0.5Hz近傍の周波数成分も情報として得られる。従って、APWを用いて生体状態を判定するに当たって、ゼロクロス検出手段611及びゼロクロス傾き時系列波形演算手段613を用いて得られたデータを基本とすることが好ましい。
【0030】
分布率演算手段615は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)又は前記ピーク傾き時系列波形演算手段614から得られる傾き時系列波形(ピーク傾き時系列波形)をそれぞれ周波数分析して、0.001〜0.0027Hzの範囲の機能調整信号、0.002〜0.0052Hzの範囲の疲労受容信号及び0.004〜0.007Hzの活動調整信号に相当する各周波数成分を抜き出し、これらの周波数成分のそれぞれの分布率の時間的変動を求める。すなわち、ULF帯域(極低周波帯域)からVLF帯域(超低周波帯域)に属する機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号の3つの信号に相当する周波数成分のパワースペクトルの値の合計を100とした際の各周波成分の割合を時系列に求めたものである。
【0031】
これは本出願人による次のような知見に基づく。すなわち、本出願人による特開2011−167362号公報や特開2012−95779号公報に記載されているように、人の恒常性はゆらぎで維持され、その周波数帯域はULF帯域とVLF帯域にあるとされている。一方、心疾患の一つである心房細動において、心・循環系のゆらぎの特性が切り替わるところは、0.0033Hzと言われており、0.0033Hz近傍のゆらぎの変化を捉えることで、恒常性維持に関する情報が得られる。また、0.0033Hz近傍以下と0.0053Hz近傍の周波数帯は、主に体温調節に関連するもので、0.01〜0.04Hzの周波数帯は自律神経の制御に関連するものと言われている。そして、実際に、生体信号に内在するこれら低周波のゆらぎを算出する周波数傾き時系列波形を求め、それを周波数解析したところ、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hz、0.0033Hz近傍の0.0035Hzを中心とする周波数帯のゆらぎと、さらにこれらこの2つ以外に、0.0053Hzを中心とする周波数帯のゆらぎがあることが確認できた。
【0032】
0.0035Hzの信号(疲労受容信号)は、外部より入力されるストレスに適応して恒常性を維持するためのゆらぎで、これを通常の活動状態における疲労の進行度合いを示す信号であり、0.0053Hzの信号(活動調整信号)は、活動時における内分泌系ホルモンの制御による影響の度合いが出現する信号であり、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hzの信号(機能調整信号)は、体の変調や機能低下を制御する信号としてあり、これら3つの周波数帯の信号が、相互に関わり合って体温調節機能として作用している。そこで、これらの信号のパワースペクトルの時系列変化、分布率を用いることで人の状態を判定することができる。
【0033】
本実施形態では、0.0017Hzを機能調整信号とし、0.0035Hzを疲労受容信号とし、0.0053Hzを活動調整信号とした。なお、機能調整信号は0.001〜0.0027Hzの範囲、疲労受容信号は0.002〜0.0052Hzの範囲、活動調整信号の周波数が0.004〜0.007Hzの範囲で調整することができる。
【0034】
判定出力手段616は、上記背部体表脈波の分析により得られる各指標を用いて、疲労、注意力の低下又は眠気を含む覚醒度の低下に伴って出現する警告レベルと判定される生体状態を検出したタイミング、及び、この警告レベルの生体状態の出現前に出現する覚醒度の低下に関連した関連兆候を検出したタイミングの双方で、刺激付与手段62を駆動させる指令を出力する。
【0035】
覚醒度の低下に伴って出現する各生体状態が警告レベルと判定されるタイミングとは、例えば、覚醒度が著しく低下して切迫睡眠現象や入眠予兆現象が検出されたタイミングなどをいう。切迫睡眠現象か否かは、本出願人による特開2012−239480号に開示されているように、0.0017Hzの分布率が急低下し、かつ0.0053Hzの分布率が急上昇する変化を示す時点、あるいは、本出願人が特願2012−274104において提案しているパワー値の傾き時系列波形(本実施形態では、ゼロクロス傾き時系列波形又はピーク傾き時系列)において、予め設定した振幅以上になった後、振幅が所定以下となった時点として特定できる。後者は、より詳細には、ゼロクロス検出法を用いた周波数傾き時系列波形において、入眠予兆現象を示す波形が出現した後、波形が収束傾向を示し、その後、より長周期の大きな変動ゆらぎを示すポイントである。例えば、ゼロクロス検出法を用いた周波数傾き時系列波形を平滑化微分し、正の傾きから負の傾きに切り替わるポイントをピークとして検出し、負の傾きから正の傾きに切り替わるポイントをボトムとして検出し、両者間の振幅値を計算する。次に、このような振幅値が複数存在するか否かを求め、複数存在する場合に、1データ前の振幅値との大きさを比較し、その大きさの比が所定数分の1以下であり、かつ、平滑化微分波形の値が所定の計算ポイント以上連続して所定の範囲に収まって収束の傾向を示し、その後、より長周期の大きな変動ゆらぎを伴う場合に切迫睡眠現象と判定する。
上記のように、背部体表脈波(APW)のゼロクロス傾き時系列波形は、交感神経の出現状態を反映しており、ピーク傾き時系列波形は、副交感神経系の動態を捉えている。そして、切迫睡眠現象は、入眠予兆現象後に現れる眠気を伴った現象で、主観眠気とも良く一致する。従って、切迫睡眠現象を捉えるにあたっては、ゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形の両方のデータを加味して判定することがより好ましい。具体的には、ゼロクロス傾き時系列波形におけるゆらぎが小さくなり、かつ、そのゆらぎが小さくなった時間帯においてピーク傾き時系列波形におけるゆらぎが拡大傾向を示した場合に、切迫睡眠現象と判定することが好ましい。ゼロクロス傾き時系列波形のゆらぎが小さくなるのは、交感神経機能が低下したためで、ピーク傾き時系列波形におけるゆらぎが拡大傾向を示すのは副交感神経機能が活性化するためであり、これらによって眠気が増大していく現象を示す。なお、ゼロクロス傾き時系列波形のゆらぎが一定になったか否かは、例えば、判定時間帯の振幅及び周期が、その前の所定の時間帯の振幅及び周期との関係で、所定の範囲内になっているか否かにより判定できる(なお、上記の収束傾向を示すか否かによる判定は、このゆらぎが一定になった場合の一例に相当する)。また、ピーク傾き時系列波形が拡大傾向を示したか否かは、例えば、判定時間帯の振幅が、その前の所定の時間帯の振幅との関係で、所定倍以上になっているか否かにより判定できる。
【0036】
入眠予兆現象は、交感神経機能の亢進を伴う現象であるため、周波数傾き時系列波形において、基本的には、振幅の大きな波が複数連続して出現することにより判定される。例えば、上記の特願2012−274104において提案しているように、ゼロクロス検出法を用いた周波数傾き時系列波形を平滑化微分し、正の傾きから負の傾きに切り替わるポイントをピークとして検出し、負の傾きから正の傾きに切り替わるポイントをボトムとして検出し、両者間の振幅値を計算する。次に、このような振幅値が複数存在するか否かを求め、複数存在する場合に、1データ前の振幅値との大きさを比較し、その大きさの比が所定倍数以上で、かつ、1データ前の振幅値を求めた時刻から所定時間以上経過している場合に入眠予兆現象と判定する。
【0037】
上記した切迫睡眠現象と判定されるタイミングあるいは入眠予兆現象と判定されるタイミングは、疲労度が増し、注意力が低下し、あるいは眠気が増すといった覚醒度の低下を伴う生体状態を顕著に示す現象であり、これらの現象を捉えて運転者に警告としての刺激を付与する必要がある。これは、それ以上放置した場合には入眠に至ってしまう可能性が非常に高いからであるが、この警告レベルの判定があった場合のみ刺激を付与するだけでは、必ずしも運転者を覚醒状態に誘導できない可能性がある。そこで、本発明は、この警告レベルと判定される前のタイミングにおいても、刺激を付与して運転者を覚醒誘導し、覚醒状態の持続を促すことを特徴とする。すなわち、警告レベルと判定される前に出現する覚醒度の低下に関連した関連兆候を検出したタイミングでも刺激付与手段62を駆動する指令を出力する。覚醒度の低下に関連した関連兆候とは、例えば、覚醒状態と覚低状態の端境期において、あるいはそれより以前の覚醒状態において、覚醒度の低下方向に指標が変動することである。具体的には、運転者がまだ切迫睡眠現象や入眠予兆現象に至る前の状態と推定される中で、疲労度の上昇期、同一生体状態の継続期あるいは交感神経の一時的な亢進期等と判定された場合に逐次、刺激付与手段62を駆動させる指令を出力する。これにより、運転者には刺激が必要かつランダムなタイミングで付与されることになり、覚醒状態をより長く持続させることができる。
【0038】
「疲労度の上昇期」には、生体に負のフィードバックがかかるが、疲労度が高い場合は覚醒中枢の中での対応が難しくなり、睡眠中枢に移行することが多くなる。そこで、本実施形態では、このような単調作業のなかで生じる眠気ないし疲労感に対し、五感を刺激することによって単調作業の中にいわば複雑さを付与し、それにより、覚醒中枢のなかで恒常性維持機能を促すものである。
【0039】
「同一生体状態の継続期」とは、例えば、交感神経機能の亢進状態が所定時間以上継続したり、逆に、副交感神経機能の亢進状態が所定時間以上継続したりして、生体ゆらぎが小さくなっている状態が継続している期間をいう。このような同一生体状態が所定時間以上継続していると、例えば2分以上継続しているような場合には、覚醒度の低下がそれほど大きくなくそのときには疲労を自覚していなくても、近い将来、覚醒度の大きな低下を招来する可能性がある。この点「疲労度の上昇期」も同様であり、何らの刺激も付与しなければ疲労が早期に現れる可能性がある。また、交感神経の一時的な亢進は、入眠予兆現象の出現の直前に現れることが多い。
【0040】
「疲労度の上昇期」及び「同一生体状態の継続期」を含め、本実施形態において運転者の生体状態は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)又は前記ピーク傾き時系列波形演算手段614から得られる傾き時系列波形(ピーク傾き時系列波形)の少なくとも一方を用いて判定される。ここでいう、ゼロクロス傾き時系列波形又はピーク傾き時系列波形を用いる場合とは、これらの各傾き時系列波形を直接の判定対象とする場合だけでなく、これらの各傾き時系列波形を周波数分析したものを判定対象とする場合、さらに、周波数分析したものを分布率演算手段615により、上記した各周波数成分の分布率時系列波形としたものを対象とする場合のいずれも含む。
【0041】
本実施形態では、疲労度の上昇期か否かは、ゼロクロス傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、活動調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0053Hz)の分布率が機能調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0017Hz)の分布率に対して所定以上となっている場合、好ましくは、活動調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0053Hz)の分布率が機能調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0017Hz)の分布率を上回る場合に、疲労度の上昇期と判定する。上記のように、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613による傾き時系列波形は、心臓の制御の状態により関連し、交感神経の出現状態を反映しているからである。また、機能調整信号は状態変化時に上昇する信号であり、活動調整信号は体温調整の活性度合いを示すため、活動調整信号の分布率が機能調整信号の分布率を上回るということは状態変化の中で活性していることを示し、内分泌が盛んになり、その活性度が上昇して、1/fの生体ゆらぎに崩れが生じるからである。
【0042】
また、ゼロクロス傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率と、ピーク傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率とを、対応する周波数成分の分布率同士で比較した場合に、両者が乖離する傾向を示す場合にも疲労度の上昇期と判定する。ゼロクロス傾き時系列波形は交感神経機能への関連性が高く、ピーク傾き時系列波形は副交感神経機能への関連性が高い指標であるため、両者が乖離する場合には、交感神経機能の活性度と副交感神経機能の活性度が乖離し、疲労度が上昇するからである。どの程度乖離した場合に、疲労度の上昇状態と判定するかは、多数の被験者のデータを統計的に処理して決定することができる。また、個人毎に設定するようにしてもよい。
【0043】
「同一生体状態の継続期」か否かは、交感神経機能の亢進状態又は副交感神経機能の亢進状態が所定時間以上継続するか否かで判定する。このうち、交感神経機能の亢進状態は、例えば、ゼロクロス傾き時系列波形を用いて得られる各周波数成分の分布率において、機能調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0017Hz)の分布率が活動調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0053Hz)の分布率を上回った状態が所定時間以上継続するか否かにより判定する。副交感神経機能の亢進状態か否かは、例えば、活動調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0053Hz)の分布率が機能調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0017Hz)の分布率を上回った状態が所定時間以上継続するか否かにより判定する。このような状態が所定時間以上継続するということは、生体ゆらぎが次第に小さくなって1/fが崩れることにつながる。継続時間の設定は、上記と同様に、多数の被験者のデータを統計的に処理して決定することができるし、個人毎に設定するようにしてもよい。一般に、2分間以上亢進状態が継続する場合には、その後、交感神経機能と副交感神経機能の乖離が大きくなる傾向があるため、2分〜5分の範囲で継続時間を設定して警告を付与し、活性化して1/fゆらぎを維持できるようにすることが好ましい。
【0044】
判定出力手段616は、上記のように「疲労度の上昇期」及び「同一生体状態の継続期」を、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)又は前記ピーク傾き時系列波形演算手段614から得られる傾き時系列波形(ピーク傾き時系列波形)の少なくとも一方を用いて判定し、刺激付与手段62を駆動させる信号を出力する。このとき、疲労度の上昇期の判定では、活動調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0053Hz)の分布率が機能調整信号に相当する周波数成分(本実施形態では、0.0017Hz)の分布率に対してどの程度高くなっているかを判定し、同一生体状態の継続期の判定では、機能調整信号又は活動調整信号のいずれかの分布率が他方に対してどの程度高くなっているかを判定し、それらの程度を複数段階(例えば3段階)に分け、それによって、刺激付与手段62が出力する刺激の種類(例えば、音量、音声内容、画像の種類など)を変化させるように設定することが好ましい。
【0045】
判定出力手段616は、さらに、
高揚状態を検出する手段が設定されている。高揚状態は、上記したように、所定時間以上の運転によって疲労が蓄積していく中で、βエンドルフィンの等の脳内物質の作用によって高揚した状態になることを意味する。これは、人が長時間のランニングで体験することがあるいわゆる「ランナーズハイ」に近似した状態と推測され、疲労が蓄積しているにも拘わらず、脳内物質によってそれによる苦痛が軽減され、長く継続して快調に運転できるような感覚である。すなわち、上記したように、交感神経機能の亢進状態が所定時間以上継続すると、交感神経機能と副交感神経機能の乖離が大きくなる傾向がある。そこで、そのような時点で警告を付与するのであるが、警告を付与して1/fゆらぎを維持するようにした場合に、その活性度合いが非常に大きくなる場合がある。これは、特に、ゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定値以上となって推移している場合に見られる。そこで、いずれかの傾き時系列波形、好ましく交感神経機能との関連性が高いゼロクロス傾き時系列波形の振幅が所定以上となっている場合に、高揚状態と判定する。本実施形態の判定出力手段616は、高揚状態を検出した際、引き続き、交感神経機能の亢進状態が継続することから、上記と同様に、刺激を付与し、覚醒状態をできるだけ持続させるようにする。
【0046】
一方、このような高揚状態が継続している間は自覚していないだけで、実際には、運転者は肉体的、精神的な疲労が相当程度進行している。従って、この高揚状態が終了した場合には、一気に疲労度が上昇する。そこで、高揚状態を検出した後、当該高揚状態が終了したと判定した場合には、刺激付与手段62を、運転者に休憩することを促すように作動させるように設定されていることが好ましい。なお、高揚状態の終了は、高揚状態において所定以上の振幅で推移していたゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形の少なくとも一方の振幅が所定以下となったことをもって判定する。
【0047】
刺激付与手段62を、運転者に休憩することを促すように作動させる態様としては、例えば、刺激付与手段62を構成する音出力装置621を通じて、通常の警告よりも大音量の警告で休憩を促したり、最寄りのサービスエリアで必ず休憩する旨の音声を繰り返し流したりする指令を出力したり、画像表示装置622にその旨のメッセージを表示したり、あるいは、通常の刺激時に表示される複数の画像(アニメーション画像など)を交互に表示する時間間隔を短くして休憩をとるタイミングであることを知らせたりするように設定できる。また、ナビゲーション装置の画像に、最寄りのサービスエリアを表示させ、当該サービスエリアへのルートガイドを行わせるようにすることもできる。さらに、運行管理者のコンピュータなどに通信網を通じて通知し、運行管理者が通信網を通じて運転者に休憩を促すメッセージを直接指令できるようにしてもよい。
【0048】
また、本実施形態の判定出力手段616では、入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出する手段を有することが好ましい。判定出力手段616によって、高揚状態が検出された後、さらに、この入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を検出した場合には、疲労度が所定以上に至っており、過労の直前状態である。そこで、判定出力手段616に高揚状態と入眠予兆現象又は切迫睡眠現象を所定時間内に検出されるか否かを判定し、刺激付与手段62を、運転者に休憩することを促すように作動させるように設定されていることが好ましい。この場合、上記の高揚状態が終了したという時期よりさらに確実に休憩を促す必要がるため、刺激付与手段62の作動を上記よりもさらに強力に、例えば、音量をさらに上げたり、画像切替頻度をさらに上げたりすることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態は、運転者の主観的な疲労を感じたタイミングを特定する主観疲労特定手段63を有する。主観疲労特定手段63は、例えば、運転者が主観的に所定以上の疲労又は眠気を感じた際に操作される入力手段から構成することができる。入力手段としては、例えば、運転席のハンドルなどに装備した入力ボタン、刺激付与手段62を構成する画像表示装置622の表示画面自体(画面タッチ式の入力手段)、あるいは、運転者が「疲れた」、「眠たい」といった音声を発し、この音声がそのまま情報として入力される音声入力手段等が挙げられる。
【0050】
上記した刺激付与手段62による刺激の出力タイミングは、交感神経機能と副交感神経機能との活性度の関係を考慮して判定するものであり、このタイミングは、必ずしも運転者が主観的に疲労を感じたときと一致するわけではない。しかし、運転者が主観的に疲労を感じるタイミングと、刺激付与手段62の出力タイミングの一致度が高くなった場合には、その運転者が相当程度疲労をしている(運転者自らが過労と感じる程度の疲労に近い状態)と判断できる。そこで、判定出力手段616は、刺激付与手段62による刺激の出力タイミングと主観疲労特定手段63の入力タイミングとが、所定の範囲内となったか否かを判定する機能を有することが好ましい。そして、両者の時間差が所定の範囲内と判定された場合にも、上記と同様に、刺激付与手段62を、運転者に休憩することを促すように作動させることが好ましい。
【0051】
別言すると、刺激付与手段62による刺激の出力タイミングは、上記のように覚醒状態において、又は覚醒状態と覚低状態の端境期において、疲労度の上昇期、同一生体状態の継続期あるいは交感神経の一時的な亢進期となった時点である。その一方、運転者が、主観疲労特定手段63を操作して入力する主観的に疲労を感じるタイミングは、覚醒度の低下を招いていることが多い状況下である。従って、両者のタイミングは一致しないのが通常である。しかし、疲労度の上昇や同一生体状態の継続という現象は、覚醒度の低下を招いた後も生じるものであり、その場合には、覚低走行状態や自覚眠気といった主観的な疲労と一致する現れとして検出される。そこで、本実施形態のような主観疲労特定手段63を備え、疲労度の上昇期及び同一生体状態の継続期と判定されたタイミング(すなわち、刺激付与手段62の出力タイミング)と、主観疲労特定手段63の入力タイミングとの時間差を比較することで、疲労度の上昇期及び同一生体状態の継続期の判定が覚醒状態のときか否か判断可能である。両者の時間差の設定は必ずしも限定されるものではないが、1分以内になってきた場合には、両者の一致度が高くなり、覚醒度が低下してきたと判定することが好ましい。但し、この一致度が高くなったと単発で判定されるだけの場合には、その後、覚醒状態に戻ったことを意味するので、この一致度が高くなったとの判定が、所定時間以内に複数回なされた場合に、運転者に休憩を促す指令を発する構成とすることが好ましい。
【0052】
一方、切迫睡眠現象のような強い眠気を伴う警告レベルに相当する生体状態は、通常、主観的に強い眠気を感じたタイミングと一致する。従って、切迫睡眠現象のような警告レベルに相当する生体状態の検出タイミングと、上記の関連兆候の検出タイミングとは、一致しないのが通常である。従って、本発明においては、上記した主観疲労特定手段63の有無に拘わらず、警告レベルに相当する生体状態の検出タイミングと、関連兆候の検出タイミングとの時間差が所定時間以内と判定された場合には、上記の場合と同様に、運転者に休憩を促すための刺激を、刺激付与手段62に指令する構成とすることが好ましい。
【0053】
上記したように、本発明は、切迫睡眠現象のような強い眠気を伴う警告レベルに相当する生体状態に至る前の段階において、覚醒度の低下に関連する関連兆候を検出し、刺激を付与するものである。従って、警告レベルに相当する生体状態(上記のように主観に一致することの多い生体状態)をより確実に検出できるように設定されていることが好ましい。切迫睡眠現象等は、上記のように検出可能であるが、それに代え、あるいはそれらに組み合わせて次のような手法を用いることが好ましい。
【0054】
すなわち、背部体表脈波の分析により得られる指標の変動と、その指標変動に対応して出現する生体状態との一般化した確率表を予め運転支援装置60を構成するコンピュータの記憶部に記憶させておく。そして、判定出力手段616は、背部体表脈波の分析により得られた運転者の指標の変動を、記憶部にアクセスして読み込んだ確率表に照らし、各生体状態を判定する構成とする。
【0055】
例えば、背部体表脈波の分析により得られる指標としては、上記したゼロクロス傾き時系列波形を用いることができる。このゼロクロス傾き時系列波形の振幅と、覚醒状態や切迫睡眠現象の状態といった各生体状態との関係を、予め複数データを取得し、一般化した確率表を作成する。一般化した確率表は、例えばベイズ推定を利用して作成できる。
図6は、ベイズ推定を用いて作成した一般化した確率表の一例である。
【0056】
この確率表は、被験者20名の覚醒状態と切迫睡眠現象を発現したタイミングにおけるゼロクロス傾き時系列波形の振幅を比較して作成した。
図7及び
図8は、被験者のうち20歳代の男性被験者A,B2名のデータを代表例としてピックアップしたものである。なお、切迫睡眠現象を生じさせるため、運転支援装置60の刺激付与手段62は駆動しないように設定して実験を行った。覚醒状態は、脳波のα波若しくはβ波の含有率が高い場合において、被験者のコメントから最も覚醒していたと推定されるタイミングとした。切迫睡眠現象の発現時は、脳波のθ波の含有率が増加から一定に切り替わるタイミングか、又はθ波の含有率が覚醒状態よりも10%程度増加したタイミングであって、被験者のコメントから入眠の直前であったと推定されるタイミングとした。
【0057】
図9は、覚醒状態のタイミングと切迫睡眠現象の発現タイミングとにおけるゼロクロス傾き時系列波形の振幅同士を比較した検定結果であり、切迫睡眠現象の発現タイミングの振幅が、覚醒状態のタイミングの振幅よりも有意に小さいことがわかる。そこでこの振幅を4段階に区分し、ベイズ推定を利用して作成した一般化した確率表が上記の
図6である。この結果から、振幅D=5×10
−4以下において、切迫睡眠現象の発現が最高確率値になっている。そこで、実際に得られた判定対象のゼロクロス傾き時系列波形において、振幅が5×10
−4以下となっている場合には、判定出力手段616は、この確率表に照らし、切迫睡眠現象の発現時と判定するように設定される。従って、この切迫睡眠現象の発現時と判定されない時間帯においては、上記した関連兆候を検出したならば、その度に刺激付与手段62を駆動させる指令を出力するように設定できる。なお、上記した例では、覚醒状態との関係で切迫睡眠現象を捉えているが、これに限らず、入眠予兆などの他の生体状態の判定に用いることももちろん可能である。また、
図6に示した確率表はあくまで一例であり、例えば、この確率表に示している振幅の範囲をより細かな区分にしてそのそれぞれについて確率を求めることで、判定対象の生体状態における最高確率値の生じたタイミングをより正確に判定することが可能となる。
【0058】
なお、
図10は、2×2クロス表から、被験者の生体状態とゼロクロス周波数傾き時系列波形の振幅との間に関連があるかどうか検討したものであり、この結果から被験者の生体状態と振幅との間に関連があることがわかる。
【0059】
(実験例)
上記実施形態に係る背部体表脈波測定装置1を運転席のシートバックに組み込んだ乗用車により走行実験を行った。実験に用いた乗用車に搭載した運転支援装置60は、判定出力手段616が、刺激付与手段62を駆動させる信号を出力しない状態、すなわち、疲労の上昇状態や交感神経機能の亢進状態の所定以上の継続状態でない通常の状態について、ゼロクロス傾き時系列波形及び/又はピーク傾き時系列波形を参照し、そこにおける機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号の分布率の値などから、最も快適な状態から刺激を付与する必要のある前の状態までを6段階(「判定結果」において縦軸の数値で示した判定レベル1〜6)に分けて判定し、疲労の上昇期、同一生体状態の継続期で刺激を付与する必要のある状態、及び、自覚眠気や覚醒走行状態等の眠気情報(入眠予兆現象、切迫睡眠現象も含む)が検出された場合を判定レベル7〜11として判定するように設定している。また、この判定結果は、判定出力手段616が、ダッシュボートに付設したディスプレイ(次述の刺激付与手段62の画像表示装置622と兼用)に時系列波形として表示させることができるように設定されている。
【0060】
また、刺激付与手段62は、ダッシュボートに付設したスピーカ付きのディスプレイであり(すなわち、音出力装置621と画像表示装置622とを兼用した装置)、上記した3段階の判定結果に従って、異なる音声、画像を表示できるように設定されている。また、実験例1、実験例3〜5の車両の画像表示装置622は、タッチパネルの入力手段を兼ねており、主観的に「疲れた」、「眠たい」、「ボーッとしている」等と感じた場合に、それに対応する表示ボタンをおすと、運転者の主観が入力されるようになっている。
【0061】
(実験例1)
被験者は50歳代の健康な男性である。
図11は、2013年2月16日に行った実車走行実験の結果の一部を示した図である。
図11の(a)は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)を示した図であり、(b)は(a)の平滑化微分波形を示した図であり、(c)は、分布率演算手段615によって解析されたゼロクロス傾き時系列波形の分布率の時系列波形を示した図であり、(d)は、ディスプレイに表示された判定結果の時系列波形を示した図である。また、(d)の判定結果中で示された黒色の三角印「眠気チェック」は被験者が眠気を感じてタッチパネルのボタンを押したタイミングである。
【0062】
(a)より、ゼロクロス傾き時系列波形が120〜133分付近にかけて振幅が小さくなった周期が長くなる収束傾向を示し、その後、徐々に振幅が大きくなって周期が短くなる拡散傾向を示していることがわかる。これは、(d)の判定結果に表れており、127〜136分付近にかけて判定レベル6となる状態が断続して覚醒度が低下していることがわかる。(c)の分布率では、127分付近と133分付近で活動調整信号0.0053Hzの分布率が機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回り、疲労度の上昇期と判定されている。その結果、127分付近、133〜136分付近において刺激付与手段62が駆動され刺激が付与されている。この刺激の付与により、覚醒誘導され、137〜142分にかけて判定レベルが1〜3の間となっている。136〜144分付近では、機能調整信号0.0017Hzの分布率及び活動調整信号0.0053Hzの分布率がほぼ一定となっているため、142〜143分付近で判定レベル4に低下しているがその時点で刺激が付与され、それによって覚醒誘導され、その後は高い覚醒状態が持続されている。140分過ぎからは、(a)よりゼロクロス傾き時系列波形の振幅が大きくなっており、この時点は高揚状態と判定される。
【0063】
本実験例によれば、疲労度の上昇期、同一生体状態の継続期において、刺激付与手段62を作動させて刺激を付与することにより、覚醒誘導を図ることができ、その結果、高揚状態に誘導させることもできることがわかる。
【0064】
(実験例2)
図12は、実験例1と同じ被験者が2012年8月18日行った走行実験を解析した事例である。この実験の際は、刺激付与手段62を備えておらず、疲労度の上昇期や同一生体状態の継続期において、何らの刺激も付与されていない。
(a)より、8〜13分にかけてゼロクロス傾き時系列波形の振幅が小さくなって周期が長くなる収束傾向を示し、27分過ぎにおいて振幅が大きくなっている。これは、23〜25分付近で覚低状態に陥り、その後入眠予兆現象が発現したものと判定できる。(c)より、30〜32分付近において機能調整信号0.0017Hzの分布率が急低下し、活動調整信号0.0053Hzの分布率が上昇していることからも、この付近で入眠予兆現象が発現したものと判定される。
上記のことから、(d)の判定結果では、初期は判定レベル1〜3で推移しているものの、18分頃から徐々に下がる傾向となり、22〜33分付近では判定レベル4〜6が大幅に増加している。そして、33分付近で自ら眠気チェックボタンを押しており、強い眠気が発生したことがわかる。
【0065】
すなわち、この事例は、本発明のように、疲労度の上昇期、同一生体状態の継続期等において、刺激付与手段62を作動させて刺激を付与しない場合には、覚醒度が上昇せずに覚低状態に移行し、さらには入眠予兆現象を発現してしまうことがわかる。
【0066】
(実験例3)
被験者は30歳代の男性であるが、実験の際に体調がすぐれず相当な疲労を感じていたとのことである。
図13は、この被験者の実験データを示したものである。但し、実験例2の使用車両には、主観特定のための入力手段が付設されていないため、
図13(a)に言葉で示した主観(注意力低下状態、覚低状態、眠気状態等)を示している。これは、実験終了後、被験者の自己申告によるものである。
【0067】
16分付近までは、(c)より、機能調整信号0.0017Hzの分布率が高く推移しており、また、(a),(b)のゼロクロス傾き時系列波形も適度の振幅のあるゆらぎがあり、比較的リラックスした状態で運転していることがわかる。16分30秒付近で、判定結果において覚低状態を予測する判定レベル10が出力され、それに応じた刺激が出力されている。このとき、(c)に示したように、活動調整信号0.0053Hzの分布率が上昇し、機能調整信号0.0017Hzの分布率が急激に下降し、その後、(c)では、機能調整信号0.0017Hzの分布率が小さくなって、かつ、活動調整信号0.0053Hzの分布率も低下したままほぼ一定の値で20分付近まで推移している。(a),(b)のゼロクロス傾き時系列波形も振幅が比較的小さくなっている。このことから上記した16分30秒付近の刺激は、覚低状態を予測する判定(慢然注意予報)に対応して出力されたものと推定される。
【0068】
図13(a),(b)のゼロクロス傾き時系列波形の振幅は、19〜20分付近で小さくなった後、その後21分過ぎから25分にかけて急激に大きくなり、(c)では、活動調整信号0.0053Hzの分布率の急上昇と機能調整信号0.0017Hzの急低下が生じるという大きな変化がある。これに対応して、(d)に示したように、21分付近、22分付近において、判定レベル11に相当する刺激が出力されている。これは被験者の覚醒度が低下し、眠気が増したための警告である。その後、さらに、(a),(b)のゼロクロス傾き時系列波形の振幅が大きくなり、分布率の変化も大きくなって活動調整信号0.0053Hzの分布率が相対的に大きく、機能調整信号0.0017Hzの分布率が相対的に小さいため、リラックスできない状態が継続している。つまり、相当な眠気に抵抗している状態であり、24分30秒付近、25分30秒付近、27分付近において、それぞれ刺激が断続的に付与されている。
【0069】
この被験者は(a)の主観に表示されているように、28分付近まで眠気が増大し自ら運転継続が困難と判断し、また、上記した断続的な警告が付与されたため、その時点で運転を休止した。
【0070】
この結果から、16分30秒の刺激警告は、主観である覚低状態を感じた18分の時点と1分30秒の差があり、まだ若干の違いはあるといえるが、21分付近、22分付近の刺激警告のタイミングは、眠気を感じた時間帯とほぼ一致している。その後も主観的には眠気を感じ続けているため、24分30秒付近、25分30秒付近、27分付近の刺激も主観とほぼ一致している。
【0071】
これらのことから、主観のタイミングと刺激の出力タイミングの一致度が所定時間以内になった場合、本実験例からは1分以内にいたって、それが複数回出現するような場合には、強度な刺激を付与して運転を休止させるようにすることが好ましいことがわかる。
【0072】
(実験例4)
実験例4は実験例1と同じ50歳代の健康な男性のデータである。
図14〜
図16は、2013年2月14日、東広島市から福井県まで走行した際の運転支援装置60における解析結果を示した図である。各図の(a)は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)を示した図であり、(b)は(a)の平滑化微分波形を示した図であり、(c)は、分布率演算手段615によって解析されたゼロクロス傾き時系列波形の分布率の時系列波形を示した図であり、(d)は、ディスプレイに表示された判定結果の時系列波形を示した図である。
【0073】
まず、
図14(a)から、5〜75分の間は、ゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形共に、適宜の振幅及び周期で推移しており、内分泌系の適度に活性で、1/fの生体ゆらぎも維持されており、それにより眠気をあまり感じることなく、覚醒状態を維持していると判定できるが、これは、刺激付与手段62の刺激によるものである。
【0074】
具体的に
図14(c)によりその時間帯の状態をより詳細に考察すると、26分前後で、活動調整信号0.0053Hzが機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回り、疲労の上昇状態が生じている。判定結果では、その時点付近で、すなわち、22〜27分で判定レベル7の判定がなされ、それに応じた刺激が3回付与されている。
【0075】
27分〜35分付近、36分〜48分付近までは、機能調整信号0.0017Hzが活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態が継続している。その間、判定結果では、判定レベル7〜8と判定される状態が複数回断続的に出力され、それに応じた刺激が断続的に付与されている。50分〜55分付近では、活動調整信号0.0053Hzが機能調整信号0.0017Hzを上回る傾向となっており、判定レベル8の刺激が断続的に付与されている。65分〜73分付近では、機能調整信号0.0017Hzが活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態が継続しており、68分付近、71分付近で判定レベル8の判定がなされ、それに応じた刺激が付与されている。75分付近では、活動調整信号0.0053Hzが機能調整信号0.0017Hzを上回る傾向となっており、判定レベル8の判定がなされ、それに応じた刺激が付与されている。
【0076】
すなわち、活動調整信号0.0053Hzが機能調整信号0.0017Hzを上回る傾向となっているときは、疲労度が上昇しているため、刺激を付与することによって覚醒状態に誘導され、機能調整信号0.0017Hzが活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態では、両者が乖離しないように交感神経機能の亢進状態が適宜に継続するように、すなわち覚醒状態を維持するように刺激が付与されている。この結果として、
図14(a)に示したように、5〜75分の間は、ゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形共に、適宜の振幅及び周期で推移しており、内分泌系の適度に活性で、1/fの生体ゆらぎも維持されており、それにより眠気をあまり感じることなく、覚醒状態が維持されている。
【0077】
図15(a)の90〜105分、110分〜120分にかけては、ゼロクロス傾き時系列波形の振幅が急激に増大し、その後、120〜145分まで振幅が増大した状態で継続している。この振幅が予め設定された所定値以上であるため、判定出力手段616はこれらのタイミングを高揚状態と判定している。これを
図15(c)のゼロクロス傾き時系列波形の分布率に照らすと、85分付近、95分付近において活動調整信号0.0053Hzが機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回り、疲労の上昇状態が生じている。判定結果でみると、85分付近において判定レベル7の刺激が付与されている。一方、85〜94分の間、96分〜145分の間は、機能調整信号0.0017Hzが活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態となっており、この間では、107分、120分、125分、132分、135分、137分、143分と判定レベル7〜8に対応した刺激が付与されている。この刺激により、交感神経機能の亢進状態が継続し、すなわち覚醒状態が比較的長時間持続されている。
【0078】
図15(a)から150〜160分付近では、ゼロクロス傾き時系列波形の振幅が小さくなっており、これが予め設定された所定値以下であるため、高揚状態を終了したと判定される。そのため、156分、158付近において、判定レベル7の刺激が付与され、覚醒状態に導こうとしている。しかし、
図16(a)に示したように、ゼロクロス傾き時系列波形が、165分以降、振幅が急激に増大している。これは、それ以前の振幅と比較した場合に、高揚状態と判定される場合よりも、より大きな比率で増大しており、入眠予兆現象と判定される。
図16(c)では175分過ぎに、機能調整信号0.0017Hzの急激な上昇と、活動調整信号0.0053Hzの急激な低下があり、その後、機能調整信号0.0017Hzの分布率が、活動調整信号0.0053Hzの分布率を大きく上回っている。この点からも175分過ぎに入眠予兆現象が生じていると判定できる。
【0079】
判定結果を見ると、
図16(d)に示したように、165〜175分前後において、判定レベル8の刺激が連続的ないし断続的に付与されている。これは、高揚状態が終了して、さらに入眠予兆現象を検出したために、運転者に強く休憩を促すべく、刺激付与手段62が連続駆動したものである。
【0080】
実験例4より、疲労度の上昇状態と判定された場合、同一生体状態が所定時間以上継続している状態と判定された場合に刺激を付与する構成とした場合、必要なタイミングでランダムに刺激が付与されるため、運転者の活動にリズムを付けることができ、運転者は覚醒状態を長く維持できることがわかった。また、高揚状態に至った場合も、その状態を維持するように刺激でき、眠気が訪れにくい。その一方、それでも長時間の活動により眠気が訪れるが、その際、すなわち入眠予兆現象を検出した際には、より強い警告で休憩を促すことができる。
【0081】
(実験例5)
図17〜
図19は、2013年2月16日、福井県から東広島市への復路におけるデータである。なお、上記の実験例1は、この実験例4の中で、120〜150分のデータを、刺激付与手段62によって覚醒誘導された典型事例として取り上げて詳細に分析したものである。
図17(d)から、20分前後、30分前後に判定レベル7に相当する刺激が出力されている。これは、
図17(c)に示されているように、疲労度の上昇を示す活動調整信号0.0053Hzの分布率を機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回ったタイミングであり、覚醒誘導するのに機能している。
【0082】
図17(d)及び
図18(d)において、35〜45分、48分〜59分、73〜90分において、判定レベル7〜8の刺激が付与されている。これらは、
図17(c)及び
図18(c)に示すように、機能調整信号0.0017Hzの分布率が継続して活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回っており、交感神経機能の亢進状態となっている覚醒状態を持続させるための刺激として機能している。
【0083】
図18(d)において、93〜105分において、判定レベル7〜8の刺激が付与されているが、これは、
図18(c)に示したように、疲労度の上昇を示す活動調整信号0.0053Hzの分布率を機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回ったタイミングであり、覚醒誘導するのに機能している。110〜118分の間は、機能調整信号0.0017Hzの分布率が活動調整信号0.0053Hzを上回っており、覚醒維持のための刺激となっている。127〜136分にかけては疲労度の上昇による覚醒誘導のための刺激が付与され、142〜148分にかけては覚醒維持のための刺激が付与されている。なお、
図18(a)のゼロクロス傾き時系列波形では、140〜154分にかけて振幅値が所定以上で推移しており、この時点は高揚状態と判定される。155〜160分の間で刺激が付与されているが、これは、高揚状態の終了に伴うもので、
図18(c)から明らかなように、154〜156分で疲労度の上昇を示す活動調整信号0.0053Hzの分布率の上昇が見られる。
【0084】
その後、
図19(c),(d)から、疲労度の上昇となる173〜176分、185〜192分付近で刺激が付与され、交感神経機能の亢進状態の継続時間帯となっている180〜185分、200分付近において、刺激が付与されている。これにより、覚醒状態の維持が図られている。従って、約170分以降は、所定のタイミングでありながら、ランダムに付与される刺激により、内分泌系の適度に活性で、1/fの生体ゆらぎも維持され、その結果として、ゼロクロス傾き時系列波形及びピーク傾き時系列波形共に、適宜の振幅及び周期で推移し、眠気をあまり感じることなく、覚醒状態を維持している。
【0085】
(実験例6)
実験例6は、実験例4,5と同じ被験者が、2013年2月25日、東広島市西条から島根県トラック協会までの実車走行実験の結果であり、
図20〜
図25に示す。なお、被験者に簡易脳波計を装着し、脳波についても測定した。
図20〜
図22の(a)は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)を示した図であり、
図20〜
図22の(b)は、分布率演算手段615によって解析されたゼロクロス傾き時系列波形の分布率の時系列波形を示した図であり、
図20〜
図22(c)は、ディスプレイに表示された判定結果の時系列波形を示した図であり、
図20〜
図22の(d)はα波の時系列波形を示した図であり、
図20〜
図22の(e)はθ波の時系列波形を示した図である。
図23〜
図25の(a)は、
図20〜
図22の(a)のデータにピーク傾き時系列波形を併せて示したものであり、
図23〜
図25の(f)〜(g)は、
図20〜
図22の(d)〜(e)と同じデータである。
図23〜
図25の(b)は、ゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めた0.0017Hzの分布率であり、
図23〜
図25の(c)は、ゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めた0.0035Hzの分布率であり、
図23〜
図25の(d)は、ゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めた0.0053Hzの分布率である。
【0086】
図20(b),(c)より、70分付近の刺激は、活動調整信号0.0053Hzが上昇していることから疲労度の上昇タイミングにおいて覚醒誘導を果たすための刺激である。
図20(b),(c)から、70分付近を除いた5〜68分、73〜80分における刺激は、交感神経機能の亢進状態の維持、すなわち覚醒状態の維持のために付与された刺激と判断できる。但し、
図23(b)〜(d)を参照すると、27分付近、45分付近、72分付近では、機能調整信号0.0017Hz、疲労受容信号0.0035Hz、活動調整信号0.0053Hzのゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めた各分布率のうちのいずれか少なくとも一つにおいて乖離する傾向のある時間帯である。従って、これらの時間帯では、交感神経機能の活性度と副交感神経機能の活性度の乖離による疲労度の上昇状態と判定でき、それに応じて覚醒誘導するために刺激が付与されたものと捉えられる。
【0087】
図21(b),(c)より、80〜83分付近では、活動調整信号0.0053Hzの分布率の上昇が見られ、対応した刺激が付与されている。一方、
図24(b),(e)より、83〜85分付近では、ゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めた0.0017Hzの分布率の乖離が見られ、それに対応した刺激が付与されている。90分前後は、
図21(b),(c)より、交感神経機能の亢進状態の継続判定による刺激が付与されている。97分付近は活動調整信号0.0053Hzの上昇による刺激が、98〜103分付近では交感神経機能の亢進状態の継続判定による刺激が付与され、108〜114分付近は活動調整信号0.0053Hzの上昇の上昇による刺激が付与され、122〜129分付近は交感神経機能の亢進状態の継続判定による刺激が付与され、130〜132分付近は活動調整信号0.0053Hzの上昇による刺激が付与されている。135〜143分付近では、交感神経機能の亢進状態の継続判定による刺激が付与され、その後、
図21(a)からわかるように、ゼロクロス傾き時系列波形の振幅が所定以上となって高揚状態になっている。これは、135〜143付近の刺激がきっかけとなったものと考えられ、高揚状態が155分過ぎまで継続している。その後、
図22(a)より、160分付近で急激に振幅が小さくなり、高揚状態が終了したものと判定され、刺激が付与されている。160〜168分付近、175〜180付近では、ゼロクロス傾き時系列波形の振幅が急激に増大し、かつ、各周波数成分の分布率におけるゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めたもの同士の間での乖離が大きくなっており、入眠予兆現象が出現したものと判定される。そのため、これらの時間帯では、判定レベル7〜8の刺激が断続的に付与され、休憩を促している。
【0088】
実験例6より、各周波数成分の分布率におけるゼロクロス傾き時系列波形とピーク傾き時系列波形から求めたもの同士の間での乖離を併せて判定することで、疲労度の上昇タイミングをより適切に特定でき、必要なタイミングでの刺激をより適切に付与できることがわかる。その結果、実験例1及び4と同様に、適切なタイミングでランダムな刺激が付与され、それがリズム感となって覚醒度の高い状態での運転を継続させることができる。
【0089】
(実験例7〜12)
図26〜
図29は、50歳代の男性被験者Bの解析データ(実験例7〜10)を示したものであり、
図30〜
図31は、50歳代の男性被験者Aの解析データ(実験例11〜12)を示したものである。なお、各図の(a)は、ゼロクロス傾き時系列波形演算手段613から得られる傾き時系列波形(ゼロクロス傾き時系列波形)を示した図であり、(b)は(a)の平滑化微分波形を示した図であり、(c)は、分布率演算手段615によって解析されたゼロクロス傾き時系列波形の分布率の時系列波形を示した図であり、(d)は、ディスプレイに表示された判定結果の時系列波形を示した図である。また、(d)の判定結果中で示された黒色の三角印「眠気チェック」は被験者が眠気を感じてタッチパネルのボタンを押したタイミングである。
【0090】
図26の実験例7では、23分付近までは、ゼロクロス傾き時系列波形は中程度の振幅で揺らいでおり、また(d)の判定結果もレベル1〜4付近で推移しているため、ある程度元気な状態であることがわかる。但し、14〜16分付近で、活動調整信号0.0053Hzの分布率が機能調整信号0.0017Hzの分布率を上回っているため、15分30秒付近で、レベル7に相当する刺激が付与されている。この刺激が付与される前は、レベル4付近の状態と判定されることが多かったが、この刺激が付与された後は、レベル1付近の判定が増加しており、刺激によって覚醒度が上がっていることがわかる。
【0091】
23分付近ではレベル11の判定により刺激が付与されている。これは、機能調整信号0.0017Hzの分布率が活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態が継続したためであり、その後、判定レベル1の状態が増加し、覚醒誘導されている。但し、25分付近と27分付近で被験者が「眠気チェック」のボタンを押している。しかし、これは、刺激の付与タイミングと2分以上の差があり、主観とは不一致であることから、疲労感がまだ少ない状態であると言える。
【0092】
28分付近では、機能調整信号0.0017Hzの分布率が大きく低下し、活動調整信号0.0053Hzの分布率が上昇したことから、レベル8の判定がなされて刺激が付与され、覚醒度が上昇している。そして、33〜40分付近では、機能調整信号0.0017Hzの分布率が活動調整信号0.0053Hzの分布率を上回った状態が継続しており、レベル7に相当する刺激が断続的に付与されている。この刺激の断続的な付与により、被験者の覚醒度の平均的なレベルが35〜40分にかけて非常に高くなっている((d)参照)。
【0093】
この被験者のように、健康で体調が良好の場合、主観的な疲労を感じた回数は極めて少なく、刺激が快適な運転の助けとして活用され、ほとんど疲れを感じることなく運転できていることがわかる。
【0094】
図27の実験例8では、判定レベル6が多く疲労レベルが比較的高いが、上記と同様に判定レベル7〜8の刺激が断続的に付与されている。被験者は33〜34分付近で眠気チェックのボタンを押しており、34分付近の刺激のタイミングと一致しており、強い眠気のある状態と判定できる。その後、35〜42分にかけてそのことに対応して断続的な刺激を付与し、覚醒誘導している。
【0095】
図28の実験例9では、17分付近までは覚醒度が高いが、その後の覚醒度の低下により、19〜22分にかけて断続的な刺激が付与され、覚醒度を高めている。その後も、ランダムなタイミングで刺激が付与されているため、判定レベル1〜2に相当する高い覚醒度が維持されている。
【0096】
図29の実験例10も実験例9と同様に、前半は比較的覚醒度が高いが、27分付近から覚醒度が低下している。これに対応してそれ以降断続的に刺激が付与されており、結果的に判定レベル1〜2の高い覚醒度が持続されている。
【0097】
図30の実験例11では、その判定結果からわかるように、16〜18分付近、20〜24分付近、28分付近、31分付近、38〜46分付近、52〜58分付近、63〜66分付近の刺激によって、その後、判定レベルが上がり、覚醒誘導がなされている。16分付近では眠気チェックのボタンが押され、マイクロスリープが生じたことが申告されているが、その前後の刺激により、その後、覚醒度が上がっている。
【0098】
図31の実験例12では、判定レベル6が多く、疲労レベルが高いと考えられるが、その分、判定レベル7〜8の刺激が断続的に付与されている。その結果、65分過ぎでは、覚醒度が上昇しており、それと共に刺激が付与されなくなっている。
【0099】
(実験例13)
図32〜
図36は、上記した運転支援装置60の判定出力手段616によって求められた職業運転手(トラック運転手)延べ400人分のデータ(白色印で表示)をプロットしたものである。各図の(a)は、ゼロクロス傾き時系列波形、分布率等において交感神経の亢進度合いが所定以上となった回数を計測時間との関係でプロットしたデータであり、(b)は、ゼロクロス傾き時系列波形を絶対値処理し、その面積を時間毎に積分して算出した値を疲労レベルとして計測時間との関係でプロットしたデータであり、(c)は、ゼロクロス傾き時系列波形、分布率等において覚醒度が所定以下の値となった回数を計測時間との関係でプロットしたデータである。なお、(b)の白色印がプロットされた範囲にひかれている曲線は、図の左側の曲線から順に、運行前より疲労が存在していると判定されるケースに相当する境界位置、運転開始後3時間後より疲労が増大するケースに相当する境界位置、運転開始後6時間後より疲労が増大するケースに相当する境界位置、運転開始後9時間後より疲労が増大するケースに相当する境界位置、疲労感が少ない状態で運転を継続できるケースの境界位置を示す。
【0100】
このように多人数のデータを集めることで、計測時間(運転時間)との関係で、交感神経の亢進度合い、疲労レベル、覚醒度の低下度合いがどの位置にプロットされるかにより、当該集団の中でそれぞれの状態が高いか低いかといった判定を行うことが可能となる。従って、運転支援装置60の記憶部にこれらのデータを基本データとして記憶させておき、新たに測定した被験者のデータが、計測時間との関係でどの位置にプロットされるかによって、当該被験者のそのデータを測定した際の生体状態を判定できる。
【0101】
また、
図32には、被験者Bが2月14日に東広島市から福井方面に運転を行った際の解析結果を黒丸印で示し、
図33には、翌2月15日に運転を行った際の解析結果を黒丸印で示している。2月14日は、体調が優れ、計測時間中に高揚状態が生じた場合のデータであり、翌2月15日は、前日の高揚状態の反動に伴う疲労感が残るものの、体調が良好で覚醒度が高い状態でのデータである。
【0102】
図34は、被験者Bが2月16日に福井方面から東広島市方面に戻る際の解析結果を黒丸印で示したものであり、
図35は翌2月17日の解析結果を黒丸印で示したものである。2月16日は、出張による疲れが残った状態であるが、途中、高揚状態が生じた場合のデータであり、2月14日〜15日のデータと比較して、覚醒度の低下度合いの出現数が多い。2月17日のデータは、前日の高揚状態の反動によって自覚的には疲労感が残っているが、回復傾向にあって、交感神経の亢進度合い、疲労感、覚醒度の低下度合いがいずれも低くなっている。
【0103】
図36は、被験者Hのデータを、上記と同様に400名の職業運転手のデータ上にプロットしたものである。この図からは、交感神経の亢進度合いが比較的高い一方、疲労感、覚醒度の低下度合いが低いという判定ができる。
【0104】
しかし、この被験者Hのデータを、
図32〜
図35で示した被験者Bのデータと比較した場合、
図36の被験者Hの黒丸印のプロット位置は、
図35の被験者Bの2月17日の黒丸印のプロット位置にもっとも近似している。被験者Bの2月17日は、「前日の高揚状態の反動によって自覚的には疲労感が残っているが、回復傾向にあって、交感神経の亢進度合い、疲労感、覚醒度の低下度合いがいずれも低くなっている状態」ときのデータであり、逆に言えば、このようなデータが現れた場合には、数時間前(すなわち2月16日のデータ)に、「高揚状態が生じたことがあった」と定義できる。従って、被験者Hの
図36のデータは計測時間が約3時間であるが、それより以前に、「高揚状態」に相当する生体状態が生じていたことが推定できる。もちろん、これはあくまで一例であり、実際には、被験者Bのような各状態別のデータを多数用意して記憶部に記憶させておくことで、検討対象のデータがどのパターンに近似するかを判定してその状態をより正確に特定できると共に、その状態の数時間前がどのような状態であったかをより正確に推定できる。
【0105】
(実験例14)
次に、脳波との関連性、及び、眠気予兆現象(入眠予兆現象及び切迫睡眠現象を含む)と高揚状態の判別を検証する実験を行った。実験はインフォームコンセントを得た非喫煙者である50歳代男性において、自動車テストコース走行中の脳波・APW・主観評価の計測を行った。主観評価は事前に、「覚醒度合い」、「眠気の有無」、「リラックス度合い」について、変化が生じたときに自己申告するように指示した。実験結果を
図37〜
図40に示す。
【0106】
図37は被験者Aの走行結果であり、計測時間は180分である。実験走行では、60〜65分の間に眠気が生じたという申告結果であった。APWのゼロクロス傾き時系列波形を示す
図37(a)の同時間帯では振幅の減少と周期の長周期化が生じている。また、43.5〜61.8分の時間帯では振幅と周期に乱れが生じている。一方、
図37(b)ではこの時間帯の直後に0.0053Hzが優位となり、0.0017Hzは大きく減少した。
図37(c)のθ波は40分強までは安定的に推移し、40〜70分強では増加傾向を示す。
図37(d)のα波は、70分強までは増加傾向を示す。従って、脳波の変動の仕方から考えると、この時間帯の被験者は、リラックス状態にある中で、眠気が生じていたと考えられるが、α波とθ波が相反する変動の仕方を示していないため、θ波の増大があるものの、入眠に至っているものと考えられる。なお、
図37(c)〜(e)の脳波のデータが欠けている箇所はアーチファクトが生じたものである。以上のことから、APWのゼロクロス傾き時系列波形における振幅の減少と周期の長周期化が眠気の発生の予兆を示す可能性があることがわかる。
【0107】
また、
図37(a)の131.7〜160分の実線で囲まれた時間帯は、覚醒度が上昇し、高揚状態であったことが申告されている。
図37(a)では、実線で示す時間帯において振幅がAからBへ増大(A=0.000289、B=0.001291)しており、周期はCからDに長周期化(C=4.5分間からD=5.7分間)した。すなわち、0.0037Hzから0.0029Hzに変化したことになる。一方、
図37(b)におけるAPWのゼロクロス分布率では、0.0035Hzが減少傾向で、0.0017Hzが上昇傾向で、0.0053Hzは安定していた。
図37(c)のθ波は、この時間帯は減少傾向で、160分以降は安定的に推移した。
図37(d)のα波は、θ波に連動して推移した。従って131.7〜150分の時間帯は、リラックスして、若干の眠気はあるものの、
図37(e)の矢印で示すようにβ波が高く、眠気に抵抗して覚醒を維持していた可能性が推察される。
【0108】
図38は、APWのゼロクロス分布率(0.0017Hz)と簡易脳波計によるθ波パワースペクトルを比較した結果である。分布率の0.0017Hzは、40〜70分、95〜120分、130〜150分に増加している。θ波も同様に同じ時間帯に増加している。これらのことから、分布率の0.0017Hzとθ波は同様の傾向を示したことがわかる。以上のことから、振幅と周期の変化によって、眠気が発生する予兆と高揚状態を捉え得る可能性が示唆される。
【0109】
ここで、これらを判別するためにゼロクロス傾き時系列波形に対し、高速フーリエ変換(以下、FFTと呼ぶ)を行った。そして、この結果に対し、定量化点数法を用いて2つの状態を判別することにした。
図39(a)は被験者Aの眠気の予兆現象を捉えた時間帯に対してFFT(両軸対数表示)を行った結果を示す。解析区間43.5〜61.8分である。低周波側(
図39(a)範囲(1))、中周波帯(
図39(a)範囲(2))、高周波側(
図39(a)範囲(3))に交感神経活動の亢進を示す波形が見られた。
図39(a)の結果に対し、人の状態の定量化点数法を用いた結果、3点であった。
【0110】
図39(b)は被験者Aの高揚状態を捉えた時間帯に対してFFT(両軸対数表示)を行った結果を示す。解析区間131.7〜150分である。高周波側(
図39(b)範囲(3))に交感神経活動の亢進を示す波形が見られた。
図39(b)の結果に対し、人の状態の定量化点数法を用いた結果、7点であった。
【0111】
以上のことから、振幅の変動が生じ、大小振幅波形が入り混じる眠気予兆現象と高揚状態は定量化点数法を用いることで判別できる可能性があると考えられる。そこで、他の条件に対し、同様の解析を行った。
図40は眠気予兆現象が出現した時間帯の定量化点数と高揚状態が出現した時間帯の定量化点数の平均値を示す。これに対し等分散を仮定した2標本の平均値の差の検定を行った結果、p=6.47×10
−12とp<0.05であり、眠気予兆現象と高揚状態の定量化点数には有意な差があることが示唆された。以上のことから、眠気予兆現象と高揚状態はゼロクロス傾き時系列波形において大小振幅が入り混じりかつ周波数の長周期化により捕捉することができ、定量化点数によって、これらの2つの状態を判別できることがわかった。
【0112】
ここで、
図41(a)はゼロクロス傾き時系列波形の振幅、
図41(b)は周波数に対してベイズ推定を用いた眠気の発生率を算出した結果である。これより、振幅が小さい範囲1〜3、もしくは大きい範囲7〜10 において、眠気が発生し、周波数が低い範囲1〜3、もしくは高い範囲7〜10において眠気が発生することが推定された。定量化点数についても同様にベイズ推定を用いた。
図41(c)は高揚状態である確率の結果を示し、
図41(d)は眠気予兆現象である確率の結果を示す。
図41(c)及び(d)を比較すると、定量化点数が低いと眠気予兆である可能性が高く、定量化点数が高いと高揚状態である可能性が高いことがわかった。
【0113】
(実験例15)
ベイズ推定を利用した眠気の推定の有用性を検証するため、静的状態及び実車走行状態と条件を異ならせ、さらなる実験を行った。
【0114】
(静的状態における実験)
背部体表脈波測定装置1によりAPWを測定すると同時に末梢循環系の情報を捉えるためにフィンガークリッププローブ(SR−5C、コニカミノルタ)を用い指尖容積脈波の計測を行った。生体データは200Hzで記録する。被験者は26歳から40歳(平均年齢:28.6、SD:4.5)までの健常な男性12名である。背部体表脈波測定装置1を装着した自動車用シートに60分間座り、5 分毎に眠気の度合いをVisual Analog Scale(VAS)で評価した。評価には、100mmの直線の左端に「非常に目が覚めている」、右端に「非常に眠い」と記された記録用紙を用い、被験者に直線上の自分自身の状態と一致する位置に垂直線を引くことを義務付けた。
【0115】
実験結果の代表例として被験者Aの眠気評価を
図42(a)に、指尖容積脈波のパワー値傾き時系列を
図42(b)に、APWの周波数傾き時系列を
図42(c)に示す。
図42(a)の線枠で示すように、測定開始から10分後に最も眠気が強くなっている。指尖容積脈波のパワー値傾き時系列波形は
図42(b)の線枠で示すように振幅が大きく、長周期となっており、入眠予兆現象と考えられる。一方、APWの周波数傾き時系列波形は、
図42(c)の線枠で示すように測定開始後10分から20分に大きな長周期の振幅が観察された。
図42(b),(c)の点線枠部を高速フーリエ変換した結果を
図42(d),(e)に示す。卓越周波数は一致していることが分かる。これらの結果より、指尖容積脈波とAPWの傾き時系列波形は、眠気が発生したときに、大振幅、長周期化することがわかる。これより、APWの周波数傾き時系列波形の振幅と周期から眠気の有無が推定できると考えられる。
【0116】
次いで、被験者12名分の結果にベイズ推定法を用い、APWの周波数傾き時系列波形の振幅特性から眠気状態にあるときの確率を求めた。ここで、ベイズ推定法は、あるデータの原因が複数あるとき、それぞれの原因である確率を下記式(1)より求めるものである。本実験に置き換えると、データDがAPWの周波数傾き時系列の振幅、原因H1が覚?状態、原因H2が眠気状態となる。覚醒状態と眠気状態は同じ確率で発生するとした(P(H
1)=P(H
2)=1/2)。被験者の状態の判別は、VASの値を被験者毎に最大値を1として正規化し、0.75以下を覚醒状態、0.76以上を眠気状態とした。
【0118】
ベイズ推定により得られた結果を表1に示す。表1の1列目はAPWの周波数傾き時系列の振幅の範囲、2列目は覚醒状態の振幅の範囲内のデータ数、3列目は眠気状態の振幅の範囲内のデータ数、4列目は式(1)より求めた振幅毎の眠気確率である。APWの周波数傾き時系列の振幅が大きい範囲では眠気確率が高いことが分かる。また、振幅が小さい範囲でも眠気確率は高い。したがって、APW周波数傾き時系列の振幅が小さい5.95×10
−5〜2.42×10
−4の範囲と、振幅が大きい1.88×10
−3〜2.24×10
−3の範囲にあるとき、眠気確率は高く、眠気の推定に有用であると考えられる。
【0120】
(実車走行状態における実験)
表1のベイズ推定の確率表を用い、実車走行実験で眠気推定の検証を行った。但し、安静状態で行った静的実験に比べると、運転状態では心拍数が増加する傾向にあり、心拍変動も大きくなると考えられる。そのため、静的実験で捉えた閾値を変更する必要があり、静的実験の振幅の変化よりも大きな変化を捉える必要がある。また、実車でのAPWの採取には、上記の背部体表脈波測定装置1を用いたが、振幅を機械判定する都合上からも振幅の分割幅を大きく設定した。新たに作成した確率表を表2に示す。表1で眠気確率が高いと推定された条件を含む振幅5.95×10
−5〜4.96×10
−4 と1.81×10
−3〜2.24×10
−3の範囲にあるときの推定状態を眠気状態、これ以外の振幅4.96×10
−4 〜1.81×10
−3の範囲を覚醒状態とした。推定状態と被験者の実際の状態を比較した。
【0122】
本実験に参加した被験者は58歳の健康な男性であった。背部体表脈波測定装置1をシートに装着した自動車でテストコースを40〜100分間運転した。これを6回行った。被験者は眠気を感じるたびに車内に設置した時間記録用のボタンを押した。ベイズ推定によって得られた推定状態と実際の眠気の発生箇所の代表例を
図43に示す。左の縦軸は推定状態を表しており、右の縦軸は被験者の状態を表している。眠気状態と推定されるとき、被験者は眠気を感じている。全6回の走行中、眠気状態と推定される箇所が33箇所あり、そのうち21箇所で被験者は眠気を感じていた。また、推定状態と実際の被験者の状態との関連を調べた結果を2×2クロステーブルで表したものを表3に示す。χ二乗検定の結果、P=1.5×10
−4<0.05となり、APWの周波数傾き時系列の振幅から眠気を推定できると判断できる。
【0124】
これらのことから、ベイズ推定法を用いることで、APWの周波数傾き時系列波形が小振幅および大振幅になるとき、眠気を感じている確率が高いことが分かった。従って、推定した確率を用いることで、車両走行時のドライバーの眠気を推定できる。
【0125】
(実験例16)
刺激付与手段62における、聴覚的な刺激を付与する音出力装置(スピーカを含む音を出力するための機構部分)621よる音刺激と、視覚的な刺激を付与する画像表示装置(ディスプレイを含む画像を表示するための機構部分)622による動画刺激の有効性に関する実験を行った。画像表示装置622はダッシュボードの被験者から見やすい位置に設置し、各生体状態に対応して、
図5(a)〜(f)に示したような画像が表示されるように設定した。背部体表脈波測定装置1を運転席にセットし、58歳の健康な男性被験者がテストコースを120分間運転して実験した。被験者は眠気を感じる度に申告し、観察者がその時の時間を記録した。
【0126】
まず、実験例15の表2を利用したベイズ推定によって得られた推定状態と実際の眠気発生箇所と刺激の呈示箇所を
図44に示す。左の縦軸はベイズ推定によって得られた推定状態を表しており、右の縦軸は被験者の状態を表している。三角印は刺激付与手段62による刺激の呈示箇所を表している。この走行で被験者は65分から90分の間に4回「覚醒度が下がった」と述べた。推定状態は、63分から88分の間で頻繁に眠気状態となっており、ベイズ推定により眠気を推定できている。
【0127】
また、被験者は90分以降に眠気を申告しなかった。これに対し、刺激呈示回数は80分以降増加している。被験者の眠気と刺激呈示回数の関連を調べるため、実験開始から眠気を感じ始めた65分までを覚醒水準が低下していく状態、65分から120分までを覚醒水準が上昇していく状態とし、5分間当たりの刺激呈示回数との関係を2×2クロステーブルで表4に示す。
【0129】
フィッシャーの直接確率検定の結果、P=0.033<0.05となり、刺激呈示回数が覚醒水準の上昇に関連している可能性があり、音刺激と動画刺激が被験者を覚醒状態に誘導したことが推定できる。
【0130】
なお、上記した例は、いずれも、車載のコンピュータである運転支援装置60の設定された判定出力手段616及びその記憶部に記憶されたデータを用いて解析を行っているが、これらの判定プログラムや各データは、運行管理者のコンピュータに設定し、上記と同様な解析を行うことができることはもちろんである。この場合、解析対象のデータを、車載の運転支援装置60から通信回線(無線等)を介して運行管理者のコンピュータに送信し、運行管理者のコンピュータにおいてもリアルタイムに解析できるようにしてもよいし、また、運転業務終了後に、運転支援装置60に記憶されているデータを取り出し、運行管理者のコンピュータにおいて事後解析するようにしてもよい。運行管理者は、このようなデータを収集することで、運転者毎に、運転時の状況を把握できると共に、より適切な運転をするためのアドバイスの付与などにも活用できる。