(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固体潤滑剤は、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、及び、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種の粒子を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動部材。
前記フッ素化合物が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種である、請求項5に記載の摺動部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体潤滑剤を含有する摺動層を設けると、部材の摺動性能が高くなるが、通常の金属めっき層よりも軟質のため摺動層が摩耗するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、摺動部材において、摺動層の摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る摺動部材は、基材と、基材の少なくとも一部に配置され、固体潤滑剤及び固体潤滑剤よりも硬い硬質粒子を含む摺動層を備える。
【0007】
この摺動部材では、基材上に固体潤滑剤と固体潤滑剤よりも硬い硬質粒子を含む摺動層が配置される。ここでは、摺動層が固体潤滑剤を含むため、摺動層の摺動性能を維持できる。また、摺動層が硬質粒子を含むため、固体潤滑剤だけを含む場合に比べて摺動層が硬質になる。このため、摺動層の摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑制することができる。
【0008】
基材は、ステンレスを含む鉄、アルミニウム、チタン、複数の金属を重ねたクラッド材、黄銅及びこれらの合金からなる金属群から選択された少なくとも一種であってもよい。この場合には、基材が金属製であり、かつ摺動層によって比較的耐食性能を高めることができるので、摺動部材を屋外で使用できる。
【0009】
摺動部材は、基材と摺動層との間に配置され、基材と摺動層との密着性を高める中間層をさらに備えてもよい。摺動層及び中間層は、ニッケル、銅、すず、及び亜鉛からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含むめっき層である。この場合には、中間層を設けることによって摺動層が基材から剥がれにくくなる。また、摺動層及び中間層がめっきしやすい異なる種類の金属を含むめっき層で構成されるため、摺動層および中間層を容易に形成できる。
【0010】
摺動部材は、基材と摺動層との間に配置され、基材と摺動層との密着性を高める中間層をさらに備えてもよい。摺動層及び中間層は、ニッケル、銅、すず、及び亜鉛からなる群から選択された同種の金属を含むめっき層である。この場合には、中間層を設けることによって摺動層が基材から剥がれにくくなる。また、摺動層及び中間層がめっきしやすい少なくとも同種の金属を含むめっき層が用いられるので、摺動めっき層と中間めっき層との密着性を高めることができる。
【0011】
中間めっき層は、摺動めっき層に含有される固体潤滑剤より少ない量の固体潤滑剤を含んでもよい。この場合には、中間めっき層にも摺動めっき層よりも少ない量の固体潤滑剤が含まれるので、全体としての摺動性能がさらに高くなるとともに、摺動めっき層と中間めっき
層との密着性がさらに向上する。
【0012】
固体潤滑剤は、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、及び、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種の粒子を含んでもよい。
【0013】
固体潤滑剤は、フッ素化合物の粒子を含んでもよい。この場合には、フッ素化合物の粒子を含むフッ素化合物を含有するめっき被膜を形成できるので、摺動めっき層の摺動性能を高くできる。
【0014】
フッ素化合物の粒子の含有率が30容量パーセント以上70容量パーセント以下であってもよい。この場合には、摺動めっき層におけるフッ素化合物の割合が多くなるため、摺動めっき層の摺動性能が高くなる。しかも、摺動めっき層と基材との間に中間めっき層が配置されるので、含有率を大きくして摺動性能を高めても、基材と摺動めっき層との密着性を高めることができる。
【0015】
フッ素化合物が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種であってもよい。
【0016】
硬質粒子は、ナノダイヤ、ZrO
2、SiC(シリコンカーバイト)、Al
2O
3(アルミナ)、BN(ボロンナイトライド)からなる群から選択された少なくとも一種であってもよい。
【0017】
めっき層は、電気めっき処理によって形成されていてもよい。この場合には、電流値を変化させることによって、摺動めっき層及び中間めっき層の膜厚、並びに、摺動めっき層及び中間めっき層中の固体潤滑剤および硬質粒子の含有量を高精度に制御できる。
【0018】
上記摺動部材を用いた自転車用部品であってもよい。この場合には、自転車用部品の摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑えることができる。
【0019】
自転車用部品はフロントスプロケットであってもよい。この場合には、フロントスプロケットの摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑えることができる。
【0020】
自転車用部品はリアスプロケットであってもよい。この場合には、リアスプロケットの摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑えることができる。
【0021】
自転車用部品はチェーンであってもよい。この場合には、チェーンの摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑えることができる。
【0022】
上記摺動部材を用いた釣り具用部品であってもよい。この場合には、釣り具用部品の摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、摺動層が固体潤滑剤を含むため、摺動層の摺動性能を維持できる。また、摺動層が硬質粒子を含むため、固体潤滑剤だけを含む場合に比べて摺動層が硬質になる。このため、摺動層の摺動性能を維持して摺動層の摩耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1において、本発明の複数の実施形態が採用された自転車は、マウンテンバイクと呼ばれる不整地走行が可能なものである。自転車は、ダイヤモンド形のフレーム体2とサスペンション機能を有するフロントフォーク3とを有するフレーム1と、ハンドル部4と、駆動部5と、前輪6と、後輪7と、フロントブレーキ装置9f及びリアブレーキ装置9rとを備える。
【0026】
フレーム1のフレーム体2は、パイプを溶接して製作されたものである。フレーム体2には、サドル13や駆動部5を含む各部が取り付けられる。フロントフォーク3は、フレーム体2の前部に斜めに傾いた軸回りに揺動自在に装着される。
【0027】
ハンドル部4は、フロントフォーク3の上部に固定されたハンドルステム14と、ハンドルステム14に固定されたハンドルバー15とを有する。ハンドルバー15の両端には、フロントブレーキ装置9f及びリアブレーキ装置9rを操作するためのブレーキレバー16が装着される。左右のブレーキレバー16にはフロント外装変速装置18f及びリア外装変速装置18rを変速操作するための変速レバー(図示せず)が一体又は別体で設けられる。
【0028】
駆動部5は、フレーム体2の下部のハンガー部に設けられたクランク組立体20と、クランク組立体20に掛け渡されたチェーン17と、フロント外装変速装置18f及びリア外装変速装置18rとを有する。フロント外装変速装置18f及びリア外装変速装置18rは、フレーム1の中間部及び後部に装着されたフロントディレーラ19f及びリアディレーラ19rを夫々有する。フロントディレーラ19fは、クランク組立体20に設けられた、例えば3枚のフロントスプロケットのいずれかにチェーン17を案内する。リアディレーラ19rは、後輪7のハブに装着されたリアスプロケット組立体11の、例えば9枚のリアスプロケットのいずれかにチェーン17を案内する。
【0029】
<第1実施形態>
図2に示すように、本発明の第1実施形態が採用されたクランク組立体20は、クランク部21と、本発明の第1実施形態による第1フロントスプロケット22、第2フロントスプロケット23、及び、第3フロントスプロケット24を備える。クランク部21は、フロントスプロケット22,23,24の回転中心軸に関して径方向に沿って延びるクランクアーム25と、クランクアーム25と一体形成されるスプロケット取付部26と、を有する。クランクアーム25は、先端にペダル取付部25aを有し、基端にクランク軸取付部25bを有する。スプロケット取付部26は、クランク軸取付部25bを中心として放射状に延びる複数(例えば4つ)の取付アーム26aと、それぞれの取付アーム26aの先端部に設けられるスプロケット固定部26bと、を有する。スプロケット固定部26bには、第1フロントスプロケット22の固定用の図示しないねじ部材(例えばボルト部材)が貫通する貫通孔26cが形成される。第1実施形態では、ねじ部材は、第1フロントスプロケット22にねじ込まれる。なお、ねじ部材は、ナットに螺合して第1フロントスプロケットを固定するようにしてもよい。第1〜第3フロントスプロケット22〜24は、自転車用部品の一例である。
【0030】
第1フロントスプロケット22は、最も歯数が多く、例えば歯数は「42」である。第1フロントスプロケット22は、図示しないクランク軸に取り付けたときに、フロントスプロケット22,23,24の回転中心軸に関する軸方向において、最もフレーム1(
図1参照)から離れた外側に配置される。第2フロントスプロケット23は、第1フロントスプロケット22よりもフレーム1に近い内側に配置される。第2フロントスプロケット23の歯数は、例えば「32」である。第3フロントスプロケット24は、軸方向において第2フロントスプロケット23よりもフレーム1に近い内側に配置される。第3フロントスプロケット24の歯数は、例えば歯数が「24」である。
【0031】
第1フロントスプロケット22、第2フロントスプロケット23、及び第3フロントスプロケット24は、第1摺動部材22a、第2摺動部材23a、及び第3摺動部材24aを夫々有する。第1摺動部材22a、第2摺動部材23a、及び第3摺動部材24aは、チェーン17(
図1参照)にかみ合う、それぞれのスプロケットのスプロケット歯を構成する。スプロケット歯は、径方向においてスプロケットの最も外側に設けられ、クランク部21のスプロケット取付部26に固定される径方向の内側の第1取付部22c(第2フロントスプロケット23の第2取付部及び第3フロントスプロケット24の第3取付部は図示せず)よりも薄肉に形成される。第1実施形態では、第1摺動部材22aと第1取付部22cは一体形成される。なお、第2摺動部材23aと第2取付部及び第3摺動部材24aと第3取付部も一体で形成される。したがって、スプロケット歯と径方向内側の部分との間に第1段差部22b、第2段差部23b、及び第3段差部24bが第1〜第3フロントスプロケット22〜24に夫々形成される。第1摺動部材22a、第2摺動部材23a及び第3摺動部材24aは、第1段差部22b、第2段差部23b、及び第3段差部24bから径方向外側に夫々設けられる。
【0032】
図3に示すように、第1フロントスプロケット22の第1摺動部材22aは、スプロケット歯を構成する基材30と、摺動めっき層32と、基材30と摺動めっき層32との間に配置され、基材30と摺動めっき層32との密着性を高める中間めっき層34と、を備える。摺動めっき層30は、摺動層の一例である。基材30は、ステンレスを含む鉄、アルミニウム、チタン、黄銅を含む銅、例えばアルミニウムとステンレス等の複数の金属を重ねたクラッド材及びこれらの合金からなる金属群から選択された少なくとも一種である。第1実施形態では、基材30は、第1フロントスプロケット22のその他の部分も含めてアルミニウム合金製である。摺動めっき層32及び中間めっき層34は、ニッケル、銅、すず、及び亜鉛からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含むめっき層である。摺動めっき層32及び中間めっき層34は、ニッケル、銅、すず、及び亜鉛からなる群から選択された同種の金属を含む。第1実施形態では、摺動めっき層32は、ニッケルを含む。
【0033】
摺動めっき層32は、
図3のA部に拡大して示すように、固体潤滑剤32a及び固体潤滑剤32aよりも硬い硬質粒子32bを含む。固体潤滑剤32aは、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、及び、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種の粒子を含む。第1実施形態では、固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体を含むフッ化化合物の粒子を有する。第1実施形態では、フッ素化合物としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が選ばれる。したがって、第1実施形態では、摺動めっき層32は、フッ素化合物の粒子を含有するニッケルめっき層を有する。第1実施形態における固体潤滑剤32aとしてのフッ素化合物の粒子の含有率は、摺動めっき層32全体の30容量パーセント以上70容量パーセント以下である。この実施形態では、含有率は、40容量パーセント以上50容量パーセント以下である。
【0034】
硬質粒子32bは、ナノダイヤ、ZrO
2(酸化ジルコニウム)、SiC(シリコンカーバイト)、Al
2O
3(アルミナ)、BN(ボロンナイトライド)からなる群から選択された少なくとも一種である。この実施形態では、硬質粒子32bは、ZrO
2(酸化ジルコニウム)が選ばれる。硬質粒子32bの含有率は、摺動めっき層32全体の5容量パーセントから20容量パーセントである。この実施形態では、含有率は、5容量パーセント以上10容量パーセント以下である。
【0035】
中間めっき層34は、第1実施形態では、第1中間めっき層34aと第2中間めっき層34bと有する。第1中間めっき層34aは、基材30の外表面に形成される。第1実施形態では、第1中間めっき層34aは、例えば、亜鉛を含む。第2中間めっき層34bは、第1中間めっき層34aと摺動めっき層32との間に形成される。第2中間めっき層
34bは、例えば、ニッケルを含む。したがって、第1実施形態では、摺動めっき層32と第2中間めっき層34bが同種の金属(ニッケル)を含む。第1中間めっき層34a及び第2中間めっき層34bは、固体潤滑剤を含まない。摺動めっき層32と中間めっき層34の膜厚の合計は、2
μm以上20
μm以下であり、摺動めっき層32の膜厚は、1
μm以上15
μm以下である。中間めっき層34の膜厚は、1
μm以上5
μm以下である。また、中間めっき層34の膜厚は、摺動めっき層32の膜厚の50パーセント以下であるのが好ましい。第1実施形態では、中間めっき層34の膜厚は摺動めっき層32の膜厚の10パーセント以上30パーセント以下である。摺動めっき層32及び中間めっき層34は、電気めっき処理によって形成される。これによって、摺動めっき層32及び中間めっき層34の膜厚制御が容易になる。
【0036】
第2フロントスプロケット23の第2摺動部材23a及び第3フロントスプロケット24の第3摺動部材24aは、第1フロントスプロケット22の第1摺動部材22aと同様な構成である。
【0037】
このような構成の第1摺動部材22a、第2摺動部材23a、及び第3摺動部材24aでは、基材30上に摺動めっき層32を直接形成するのではなく、基材30と摺動めっき層32との密着性を高めるための中間めっき層34を基材30と摺動めっき層32との間に配置する。このため、摺動めっき層32の摺動性能を高めても、摺動めっき層32と中間めっき層34との密着性及び中間めっき層34と基材30との密着性が高くなり、摺動めっき層32が剥がれにくくなる。また、摺動めっき層32に硬質粒子32bが含まれるため、固体潤滑剤32aを摺動めっき層32に含めても、固体潤滑剤32aだけを含む場合に比べて摺動めっき層32が硬質になる。このため、摺動めっき層32の摺動性能を維持して摺動めっき層32の摩耗を抑制することができる。
【0038】
また、基材30が軽量なアルミニウム製であり、比較的耐食性能を高めることができる素材であるので、第1摺動部材22a〜第3摺動部材24aの軽量化を図りつつ屋外での使用に耐えることができる。また、チェーン17との摺動抵抗が小さくなり、動力伝達効率を向上させることができる。さらに、摺動めっき層32に硬質粒子32bが含まれるため、チェーン17との接触による第1〜第3フロントスプロケット22〜24の摩耗を低減できる。
【0039】
<第1実施形態の変形例>
図4において、変形例では、中間めっき層34’の第2中間めっき層34b’が第1実施形態と異なる。第1実施形態では、第2中間めっき層34bは、固体潤滑剤を含まなかったが、
図4のA部に拡大して示すように、第2中間めっき層34b’は、摺動めっき層32に含有される固体潤滑剤32aよりも少ない量の固体潤滑剤32a’を含む。例えば、固体潤滑剤32a’の含有率は、第2中間めっき層34b’全体の5容量パーセント以上30容量パーセント未満である。この変形例では、
固体潤滑剤32a’の含有率は、10容量パーセント以上20容量パーセント以下である。変形例では、固体潤滑剤32a’は、固体潤滑剤32aと同様なフッ化化合物である。このような構成であっても上記作用効果を奏することができる。なお、固体潤滑剤の種類は、第1実施形態で採用されたフッ素化合物に限定されず、第1実施形態で例示した群の少なくとも一種を選択できる。
【0040】
次に、第1実施形態による摺動部材の製造方法について、第1フロントスプロケット22を例に
図5を参照して説明する。
【0041】
基材となる第1フロントスプロケット22において、好ましくは第1摺動部材22aとなる部分以外をマスキングする。そして、ステップS1では、第1摺動部材22aとなる部分を、脱脂洗浄剤を用いて脱脂処理して表面を清浄な状態にする。ステップS2では、第1フロントスプロケット22の第1摺動部材22aの表面に形成される酸化アルミニウム被膜を除去する。ステップS3では、中間めっき層34を形成する。第1実施形態では、ステップS3の中間めっき層形成処理では、第1中間めっき層34aを基材30上に形成し、さらに第2中間めっき層34bを第1中間めっき層34a上に形成する。ここで、第1中間めっき層34aは、電気めっき処理によって、亜鉛(Zn)めっきされ、第2中間めっき層34bは、電気めっき処理によって、ニッケルめっきされる。なお、変形例では、第2中間めっき層
34b’は、電気めっき処理によって、固体潤滑
剤としてのフッ素化合物を含むニッケルめっきされる。ただし、第2中間めっき層34b
’のフッ素化合物の容積パーセントは、摺動めっき層32よりも少ない。中間めっき層34を形成すると、その上に、電気めっき処理によって、摺動めっき層32が形成される。摺動めっき層32は、電気めっき処理によって、固体潤滑
剤32aとしてのフッ素化合物の粒子及び硬質粒子32bとしてのAl
2O
3の粒子を含んでニッケルめっきされる。これらの中間めっき層34及び摺動めっき層32の膜厚は、電気めっき処理によって、上述した値に制御される。
【0042】
<第2実施形態>
図6及び
図7に示すように、本発明の第2実施形態が採用されたクランク組立体120は、クランク部121と、本発明の第2実施形態による第1フロントスプロケット122及び第2フロントスプロケット123を備える。第1フロントスプロケット122及び第2フロントスプロケット123は、自転車用部品の一例である。クランク部121は、フロントスプロケット122,123の回転中心軸に関して径方向に沿って延びるクランクアーム125と、クランクアーム125と一体形成されるスプロケット取付部126(と、を有する。クランクアーム125は、先端にペダル取付部125aを有し、基端にクランク軸取付部125bを有する。スプロケット取付部126は、クランク軸取付部125bを中心として放射状に延びる複数(例えば4つ)の取付アーム126aと、それぞれの取付アーム126aの先端部に凹んで設けられるスプロケット固定部126b(
図6の左上が26bとなっています)と、を有する。スプロケット固定部126bには、第1フロントスプロケット122にねじ込まれる固定用のねじ部材(例えばボルト部材)127(
図7参照)が貫通する貫通孔126cが形成される。
【0043】
第1フロントスプロケット122は、最も歯数が多い。第1フロントスプロケット122は、図示しないクランク軸に取り付けたときに、フロントスプロケット122,123の回転中心軸に関する軸方向において、最もフレーム1(
図1参照)から離れた外側に配置される。第2フロントスプロケット123は、第1フロントスプロケット122よりも歯数が少なく、軸方向において第1フロントスプロケット122のフレーム1に近い内側に配置される。
【0044】
第1フロントスプロケット122及び第2フロントスプロケット123は、第1摺動部材122a及び第2摺動部材123a(
図7参照)を夫々有する。第1摺動部材122a及び第2摺動部材123aは、チェーン17(
図1参照)にかみ合う、それぞれのスプロケットのスプロケット歯を構成する。第1摺動部材122aは、径方向の最も外側に設けられる。第1フロントスプロケット122は、第1摺動部材122aと一体回転可能に装着される第1取付部122cをさらに有する。したがって、第2実施形態では、第1摺動部材122aは、クランク部121のスプロケット取付部126に固定される径方向の内側の第1取付部122cと別体で形成される。第1摺動部材122aは、金属製(例えば、チタン製)の部材であり、第1取付部122cは、合成樹脂製(例えば、炭素繊維強化樹脂製)の部材である。第2実施形態の第1フロントスプロケット122は、
図7に太線で示すように、金属製の部分である第1摺動部材122aの表面に、
図8に示す摺動めっき層132及び中間めっき層134が形成される。なお、摺動めっき層132及び中間めっき層134を第1摺動部材122aに部分的(例えば、スプロケット歯の形成部分)だけに設けてもよい。
図7に示すように、第1取付部122cは、複数枚のカーボン繊維のプリプレグを金型に入れて成型された外側部材122d及び外側部材122dと対向して配置された内側部材122eを有する。外側部材122dと同様に内側部材122eは、複数枚のカーボン繊維のプリプレグを金型に入れて成型される。内側部材122eは、第2フロントスプロケット123に対向して配置される。また、第1取付部122cは、ねじ部材127に螺合するナット部材122gがインサート成形等の適宜の成形方法で一体形成された合成樹脂製(例えば、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂などの合成樹脂製)のナット取付部122fを有する。第1摺動部材122a、外側部材122d、内側部材122e、及びナット取付部122fは、例えば、接着剤或いは一体成型によって固定される。
【0045】
図7に太線で示すように、第2フロントスプロケット123の第2摺動部材123aは、第2取付部123cとの境界部分にある第2段差部123bから径方向外側に設けられる。したがって、第1実施形態と同様に第2フロントスプロケット123は第2摺動部材
123aと第2取付部123cとが一体で形成される。
【0046】
図8に示すように、第2実施形態の第1フロントスプロケット122の第1摺動部材122aは、スプロケット歯を構成する基材130と、固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを含む摺動めっき層132と、基材130と摺動めっき層132との間に配置され、基材130と摺動めっき層132との密着性を高める中間めっき層134と、を備える。基材130は、第1実施形態と同様な金属及びその合金からなる金属群から選択された少なくとも一種である。第2実施形態では、基材130は、例えばチタン合金製である。摺動めっき層132及び中間めっき層134は、第1実施形態と同様な金属からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含むめっき層である。第2実施形態では、摺動めっき層132は、ニッケルを含む。摺動めっき層132は、
図8のA部に拡大して示すように、更に固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを含む。固体潤滑剤32aは、第1実施形態と同じ群から選択された少なくとも一種の粒子を含む。第2実施形態では、フッ素化合物としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が選ばれる。したがって、第2実施形態では、摺動めっき層132は、フッ素化合物の粒子を含有するニッケルめっき層を有する。第2実施形態における固体潤滑剤32aとしてのフッ素化合物の粒子の含有率は、摺動めっき層132の30容量パーセント以上70容量パーセント以下である。第2実施形態では、含有率は、40容量パーセント以上50容量パーセント以下である。また硬質粒子32bは、第1実施形態と同じ群から選択された少なくとも一種の粒子を含む。第2実施形態では、第1実施形態と同様にZrO
2が選ばれる。硬質粒子32bの含有量は、第1実施形態と同様である。
【0047】
中間めっき層134は、第2実施形態では、第1中間めっき層134aと第2中間めっき層134bと有する。第1中間めっき層134aは、基材130の外表面に形成される。
第2実施形態では、第1中間めっき層134aは、例えば、亜鉛を含む。第2中間めっき層134bは、第1中間めっき層134aと摺動めっき層132との間に形成される。第2中間めっき層
134bは、例えば、ニッケルを含む。したがって、第2実施形態では、摺動めっき層132と第2中間めっき層134bが同種の金属(ニッケル)を含む。第1中間めっき層134a及び第2中間めっき層134bは、固体潤滑剤を含まない。摺動めっき層132と中間めっき層134の膜厚の合計は、2
μm以上20
μm以下であり、摺動めっき層132の膜厚は、1
μm以上15
μm以下である。中間めっき層134の膜厚は、1
μm以上5
μm以下である。また、中間めっき層134の膜厚は、摺動めっき層132の膜厚の50パーセント以下であるのが好ましい。第2実施形態では、中間めっき層134の膜厚は摺動めっき層132の膜厚の10パーセント以上30パーセント以下である。摺動めっき層132及び中間めっき層134は、電気めっき処理によって形成される。これによって、摺動めっき層132及び中間めっき層134の膜厚制御が容易になる。
【0048】
図9に示すように、第2実施形態の第2フロントスプロケット123の第2摺動部材123aは、
図9のA部に拡大して示す固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを有する摺動めっき層132は同じであるが、第1フロントスプロケット122の第1摺動部材122aと中間めっき層134’が異なる。すなわち、中間めっき層134’が亜鉛だけの一種の金属めっき層で構成される。中間めっき層134’の膜厚は、第1フロントスプロケット122の第1摺動部材122aと同じである。中間めっき層134’には、固体潤滑剤が含まれていないが、固体潤滑剤が含まれてもよい。
【0049】
このような構成の第1摺動部材122a及び第2摺動部材123aでは、基材130上に摺動めっき層132を直接形成するのではなく、基材130と摺動めっき層132との密着性を高めるための中間めっき層134(又は134’)を基材130と摺動めっき層132との間に配置する。このため、固体潤滑剤32aの含有率を増やして摺動めっき層132の摺動性能を高めても、摺動めっき層132と中間めっき層134(又は134’)との密着性及び中間めっき層134(又は134’)と基材130との密着性が高くなり、摺動めっき層132がさらに剥がれにくくなる。また、摺動めっき層132に硬質粒子32bが含まれるため、固体潤滑剤32aを摺動めっき層132に含めても、固体潤滑剤32aだけを含む場合に比べて摺動めっき層132が硬質になる。このため、摺動めっき層132の摺動性能を維持して摺動めっき層132の摩耗を抑制することができる。
【0050】
また、基材130が軽量で耐食性が高いチタン製であるので、第1摺動部材122a及び第2摺動部材123aの軽量化を図りつつ屋外での使用に耐えることができる。
【0051】
<第3実施形態>
図10及び
図11に示すように、本発明の第3実施形態が採用されたリアスプロケット組立体11は、それぞれ歯数が異なる第1リアスプロケット41から第9リアスプロケット49の例えば9個のリアスプロケットを有する。第1リアスプロケット41から第9リアスプロケット49は、自転車用部品の一例である。第1リアスプロケット41の歯数は例えば「11」であり歯数が最も少ない。第9リアスプロケット49の歯数は例えば「32」であり歯数が最も多い。第2リアスプロケット42から第8リアスプロケット48までの歯数はその間の適宜の歯数に設定される。第1リアスプロケット41から第9リアスプロケット49は、図示しない後輪のリアハブに一体的に回転可能に取り付けられる。
図11に、リアスプロケットの一例として第3リアスプロケット43を示す。第3リアスプロケット43は、スプロケット歯を構成する摺動部材43aと、摺動部材43aの内周側に配置されリアハブに取り付けられる取付部43bと、を有する。その他のリアスプロケットも同様に摺動部材と取付部とを有する。摺動部材43aは、スプロケット歯を構成し最も径方向外側に設けられる。摺動部材43aと取付部43bとの境界部分を
図11に破線で示す。
【0052】
摺動部材43aは、
図12に示すように、基材230と、
図12のA部に拡大して示す固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを含む摺動めっき層232と、基材230と摺動めっき層232の間に配置され、基材230と摺動めっき層232との密着性を高める中間めっき層234と、を有する。基材230は、第1実施形態で例示した金属群から選択された少なくとも一種であり、第3実施形態では、基材230は、ステンレスを含む鉄が選ばれる。摺動めっき層232は、第1実施形態で例示された複数の金属群から選択された少なくとも一種の金属であり、第3実施形態では、固体潤滑剤32aが分散共析されたニッケルが選ばれる。固体潤滑剤32aは、第1実施形態で例示された複数の物質からなる群から選択された一種であり、第3実施形態では、第1実施形態と同様にフッ素化合物としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が選ばれる。硬質粒子32bは、第1実施形態で例示された複数の物質からなる群から選択された一種であり、第3実施形態では、第1実施形態と同様にZrO
2が選ばれる。中間めっき層234は、第1実施形態で例示された複数の金属群から選択された少なくとも一種の金属であり、第3実施形態では、ニッケルが選ばれる。第3実施形態では、中間めっき層234には、固体潤滑剤は含まれない。なお、摺動めっき層及び中間めっき層の膜厚及び固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bの割合などのその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0053】
このような構成の第3実施形態によるリアスプロケット組立体11では、上記作用効果に加えて、リアスプロケット組立体11の耐食性を向上させることができる。
【0054】
<第3実施形態の変形例>
第3実施形態では、
摺動部材43aの基材230がステンレスを含む鉄製であったが、
図13に示す変形例では、
摺動部材43a’の基材230’が鉄製ではなく、複数種の金属を積層したクラッド材製である。第3実施形態の変形例では、例えば、基材230’にステンレスの間にアルミニウムを挟んで積層したクラッド材を用いる。
図13Aに拡大して示す固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを有する摺動めっき層232および中間めっき層234は、第3実施形態と同様である。
【0055】
<第4実施形態>
図14及び
図15に示すように、本発明の第4実施形態が採用された自転車用部品としてのチェーン17は、一対の外側リンクプレート350と、一対の外側リンクプレート350と交互に配置された一対の内側リンクプレート351と、両リンクプレート350,351を連結する連結ピン352と、一対の内側リンクプレート351の内側に配置され連結ピン352の軸回りに回転自在なローラ353とを有する。
【0056】
外側リンクプレート350及び内側リンクプレート351は、例えば厚みが0.8mm〜1.0mm程度のステンレスを含む鋼板を、打ち抜き加工により両端を円形のひょうたん形に形成した板状部材である。外側リンクプレート350及び内側リンクプレート351の両端部には、連結ピン352が貫通可能な連結孔350b,351bがそれぞれ形成される。外側リンクプレート350、内側リンクプレート351、連結ピン352、及びローラ353は、
図12に示すリアスプロケット43と同様な構成の摺動部材350a,351a,352a,353aをそれぞれ有する。摺動部材350a,351a,352a,353aは、
図14及び
図15に太線で示す領域に設けられる。ここで、摺動部材350a,351a,352a,353aは、
図12に示すように、基材230と、
図12のA部に拡大して示す固体潤滑剤32aを含む摺動めっき層232と、基材230と摺動めっき層232との間に配置され、基材230と摺動めっき層232との密着性を高める中間めっき層234と、を有する。なお、摺動めっき層232及び中間めっき層234の膜厚及び固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bの割合などのその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0057】
このような構成のチェーン17では、上記作用効果に加えてクランク組立体20とリアスプロケット組立体11との間の摺動抵抗を低減でき、回転伝達効率をさらに向上させることができる。また、チェーン17の耐食性を高めることもできる。
【0058】
<第5実施形態>
上記第1実施形態から第
4実施形態では、自転車用部品を例に本発明を説明したが、第5実施形態以降では、釣り具用部品を例に本発明を説明する。
【0059】
図16に示すように、第5実施形態を採用した釣り糸ガイド454は、釣り竿452の外周面に固定される部材である。釣り糸ガイド454は、釣り具用部品の一例である。釣り糸ガイド454は、釣り竿452の外周面に固定される固定部455と、固定部455より起立する脚部456と、脚部456の頭端に形成された釣り竿452の軸方向に沿って貫通する貫通孔457aを有するガイドフレーム457と、貫通孔457aにはめ込まれ釣り糸Lが挿通可能なガイドリング458と、を有する。
【0060】
ガイドリング458は、釣り糸が内部を挿通可能なリング部材である。ガイドリング458は、摺動部材458aを有する。
図17に示すように、摺動部材458aは、環状の基材430と、
図17のA部に拡大して示す固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを有する摺動めっき層432と、基材430と摺動めっき層432との間に配置され、基材430と摺動めっき層432との密着性を高める中間めっき層434と、を有する。基材430は、例えばステンレス(SUS)などの硬質金属製の環状部材である。摺動めっき層432及び中間めっき層434は、基材430の全周を覆うように形成される。基材430は、
図12に示す第3実施形態と同様な構成である。なお、摺動めっき層432及び中間めっき層434の膜厚並びに固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bの割合などのその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0061】
このような構成の釣り糸ガイド454では、上記作用効果に加えて釣り糸との摺動抵抗が小さくなり、ライントラブルを減少させることができる。しかも釣り糸Lとの接触が頻繁に生じても、ガイドリング458が磨耗しにくくなる。
【0062】
<第6実施形態>
図18及び
図19に示すように、第6実施形態を採用した釣り具用部品としてのピニオンギア560は、両軸受リール、電動リール、スピニングリールなどの釣り用リールに用いられる。ピニオンギア560は、摺動部材560aを有する。摺動部材560aは、スプール軸16が中心を貫通する段付きの貫通孔560bを有する筒状部材である。摺動部材560aは、図示しないリール本体に軸受を介して両端が回転自在かつ軸方向移動可能に支持される。摺動部材560aは、クラッチ係合部560cと、ギア部560dと、くびれ部560eと、を有する。クラッチ係合部560cは、図示しないクラッチピンが係合する溝である。ギア部560dは、ハンドルに連動して回転可能な図示しない駆動ギアが噛み合うギア歯を有する。くびれ部560eは、図示しないクラッチ機構を動作させるクラッチ制御機構に係合する。ピニオンギア560は、クラッチ係合部がクラッチピンに係合するオン位置と、クラッチ係合部がクラッチピンから離脱するオフ位置とに移動する。これらの構成は、公知であるため詳細な説明を省略する。
【0063】
摺動部材560aは、
図20に示すように、基材530と、
図20のA部に拡大して示す固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bを含む摺動めっき層532と、基材530と摺動めっき層532の間に配置され、基材530と摺動めっき層532との密着性を高める中間めっき層534と、を有する。ここで摺動部材560aにおいて、
図18に太線で示す場所、及び
図19において網掛けした場所に摺動めっき層532及び中間めっき層534が形成される。したがって、第6実施形態では、摺動部材560aのうち、ギア部560dには、摺動めっき層532及び中間めっき層534設けられていない。これは、ピニオンギア560の製造過程の途中ではこれらのめっき層は形成されるが、製造の最終段階でギア部560dを切削加工によって形成するためである。なお、ギア部を形成してからめっき処理を行って、ギア部にも摺動めっき層及び中間めっき層を設けてもよい。
【0064】
図20に示すように、基材530は、第1実施形態で例示された金属群から選ばれた一種の金属製である。第6実施形態では、黄銅が選ばれる。なお、基材530がステンレス製であってもよい。黄銅は、強度が高い高力黄銅である。摺動めっき層532は、第1実施形態で例示された複数の金属群から選択された少なくとも一種の金属であり、第6実施形態では、固体潤滑剤32aが分散共析されたニッケルが選ばれる。固体潤滑剤は、第1実施形態で例示された複数の物質からなる群から選択された一種であり、第6実施形態では、第1実施形態と同様にフッ素化合物としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が選ばれる。硬質粒子32bは、第1実施形態で例示された複数の物質からなる群から選択された一種であり、第6実施形態では、第1実施形態と同様にZrO
2が選ばれる。中間めっき層534は、第1実施形態で例示された複数の金属群から選択された少なくとも一種の金属であり、第
6実施形態では、銅が選ばれる。第6実施形態では、中間めっき層534には、固体潤滑剤は含まれない。なお、摺動めっき層532及び中間めっき層534の膜厚並びに固体潤滑剤32a及び硬質粒子32bの割合などのその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0065】
このような構成の第6実施形態によるピニオンギアでは、上記作用効果に加えて軸受によって支持される両端を含んで摺動めっき層が形成されるため、回転効率が向上する。また、オン位置とオフ位置とへの軸方向への移動のときの摺動抵抗が小さくなり、クラッチのオンオフをスムーズに行える。
【0066】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0067】
(a)上記実施形態では、固体潤滑剤としてフッ素化合物としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が選ばれるが、本発明はこれに限定されない。固体潤滑剤は、上記した、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、及び、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群から選択された少なくとも一種の粒子を含めばよい。
【0068】
(b)上記実施形態では、摺動めっき層としてニッケルめっき層を例示したが、本発明はこれに限定されない。摺動めっき層は、ニッケル、銅、すず、及び亜鉛からなる群から選択された金属を含んでもよい。
【0069】
(c)上記実施形態では、自転車用部品として、クランク組立体のスプロケット、リアスプロケット組立体のスプロケット、自転車用のチェーンを例示し、釣り具用部品として、釣り糸ガイド及びピニオンギアを例示したが本発明はこれに限定されない。本発明に係る摺動部材を有する自転車用部品は、例えば、ブレーキ装置とブレーキ操作装置又は変速装置と変速操作装置などを連結可能な制御ケーブルであってもよい。また、ブレーキレバー16のレバー部分、内装又は外装変速装置の摺動部分に本発明に係る摺動部材を用いてもよい。さらに、釣り具用部品としては、糸巻用のスプール又はドラグ調整用のねじ部分、或いは、釣り針に摺動部材を用いてもよい。
【0070】
(d)上記実施形態では、硬質粒子32bとしてZrO
2を例示したが、本発明はこれに限定されない。硬質粒子32
bは、ナノダイヤ、ZrO
2、SiC(シリコンカーバイト)、Al
2O
3(アルミナ)、BN(ボロンナイトライド)からなる群から選択された少なくとも一種であればよい。
【0071】
(e)上記実施形態では、摺動層をめっき層としたが、本発明はこれに限定されない。摺動層は、めっき層以外の層であってもよい。たとえば、イオンプレイティング等の薄膜形成処理によって摺動層を形成してもよい。
【0072】
(f)上記実施形態では、中間層を設けたが、
図21に示すように、中間めっき層を設けずに基材630上に固体潤滑剤32a及び硬質粒子32aを含む摺動層632を直接形成してもよい。
【0073】
(g)上述の各実施形態で示した、基材、中間めっき層、摺動めっき層の各組み合わせは、他の実施形態にも適用できる。