特許第6209448号(P6209448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209448
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高解像度網膜結像方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/15 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   A61B3/14 C
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-554868(P2013-554868)
(86)(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公表番号】特表2014-506513(P2014-506513A)
(43)【公表日】2014年3月17日
(86)【国際出願番号】EP2012052933
(87)【国際公開番号】WO2012113790
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】1151440
(32)【優先日】2011年2月22日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504053298
【氏名又は名称】イマジン・アイズ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】レベック、ザビエル
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/082791(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/052497(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0070292(US,A1)
【文献】 特開2003−102689(JP,A)
【文献】 特開2006−006362(JP,A)
【文献】 特開2007−014569(JP,A)
【文献】 特開2007−330582(JP,A)
【文献】 特表2004−500195(JP,A)
【文献】 特表2004−538076(JP,A)
【文献】 国際公開第03/092485(WO,A1)
【文献】 特開2007−296209(JP,A)
【文献】 特開2010−279681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の眼の網膜を照明する光線を発光する少なくとも1つの発光源と、
網膜を結像する結像経路であって、検出面(121)を備える検出装置(12)と、結像光学系(L1,L5,L6)とを備える結像経路と、
網膜で後方散乱された一連の光線を受けるよう意図された解析面(151)で光学的欠点を測定する装置(15)と、前記解析面を結像経路の前記結像光学系の入射空間における面と光学的に共役にする手段とを備える解析経路と、
前記解析経路および前記結像経路に共通な修正装置(14)であって、修正面(141)を備えるとともに、前記修正面において、前記発光源から発生して網膜で後方散乱された光線を、光学的欠点を測定する装置により測定された光学的欠点に応じて修正するよう意図された修正装置(14)と、
前記修正面に近接または一致する平面に位置する光遮断系(20)であって、前記結像経路と前記解析経路の両方において、前記発光源から生じる光線の角膜表面による迷光反射を少なくとも部分的に遮断するよう寸法決めされた光遮断系(20)と、
を備えることを特徴とする網膜結像装置。
【請求項2】
前記修正面は、結像経路の結像光学系の入射空間における面と共役であることを特徴とする請求項1に記載の網膜結像装置。
【請求項3】
前記結像経路の結像光学系の入射空間における面は、前記結像光学系の入射瞳面であることを特徴とする請求項2に記載の網膜結像装置。
【請求項4】
遮断系は、不透明ディスクの形をとり、結像光学系の入射空間中に投影されるその直径は、d=tanθ×R/2(Rは角膜の曲率半径、θは発光源の角直径)により与えられる値d以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項5】
遮断系は、前記結像光学系の光軸に中心合わせされることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項6】
修正装置は可変ミラーを備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項7】
光学的欠点を測定する装置(15)は、シャックハルトマン型アナライザであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項8】
眼に対して空間に結像装置を位置決めする系(43,44,45,46)をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項9】
当該網膜結像装置はフルフィールド型であり、網膜の所与のフィールドを照明する結像用第1光源(LSr)と、光学的欠点を測定する前記装置で光学的欠点を解析する目的で網膜を照明する解析用第2光源(LSa)とを備え、検出装置はマトリクス検出器を備え、遮断系は、前記結像用第1光源(LSr)および前記解析用第2光源(LSa)から発生する光線の角膜表面による迷光反射を少なくとも部分的に遮断するよう寸法決めされることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の網膜結像装置。
【請求項10】
被験者の眼の網膜を照明するために、発光源を用いて少なくとも1つの光線を発光するステップと、
結像経路を規定する結像光学系を用いて、検出装置(12)の検出面(121)上に網膜の少なくとも1つの像を形成するステップと、
網膜で後方散乱された光線の光学的欠点を所与の解析面において解析することにより光学的欠点を測定するステップであって、前記解析面は、解析経路を規定する光学的共役系を用いて眼の面(17)と共役にされているステップと、
所与の修正面において、前記発光源から発生する光線を測定された光学的欠点に応じて修正するステップと、
光束を遮断する遮断系を用いて、前記結像経路と前記解析経路の両方において、前記発光源から発生する光線の角膜表面による迷光反射を少なくとも部分的に遮断するステップであって、光束を遮断する前記遮断系は、修正面に近接または一致する面に配置されるステップと、
を備えることを特徴とする網膜結像方法。
【請求項11】
修正面は、眼の前記面と共役であることを特徴とする請求項10に記載の網膜結像方法。
【請求項12】
眼の前記面は、角膜表面によって形成される前記発光源の像平面と実質的に一致していることを特徴とする請求項11に記載の網膜結像方法。
【請求項13】
眼の前記面は、結像系の入射瞳面と実質的に一致していることを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載の網膜結像方法。
【請求項14】
前記発光源から発生するビームは、眼の角膜の頂点を経由して眼に入射することを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の網膜結像方法。
【請求項15】
眼に対して空間に前記結像光学系を位置決めするステップをさらに備えることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の網膜結像方法。
【請求項16】
網膜の所与のフィールドを照明するために結像用第1光線を発光するステップと、光学的欠点を解析する目的で網膜を照明する第2光線を発光するステップと、前記遮断系を用いて結像光線および解析光線の角膜表面による反射を少なくとも部分的に遮断するステップとをさらに備えることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載のフルフィールド型網膜結像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞規模の結像に適合する解像度を有し、且つ適応光学系の使用に基づく網膜結像方法/装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、網膜疾患の発症とその診断との間で数年が経過している。これは、通常、疾患の気づかれない進行が不可逆性損傷の形成を引き起こす前に、網膜疾患の臨床症状が明らかにならないためである。これは、例えば加齢性黄斑変性症(AMD)や緑内障などの、網膜の神経線維を攻撃し、患者に失明を引き起こす可能性がある病気でも事情は同じであり、このような病気は、通常、患者の神経線維の半分がすでに取り返しがつかないほど壊れたときに診断される。しかしながら、網膜疾患は、網膜を細胞規模で結像可能である場合、発症後第1週で診断可能である。これは、網膜疾患が初期には微視的な網膜構造に影響を及ぼすためである。3つの最も一般的な網膜疾患(AMD、緑内障、糖尿病性網膜症、これらは最も深刻な疾患である)の影響を受ける微細構造は、光受容体である。光受容体は、光を検出し2〜5μmのサイズを有する光受容細胞である錐体光受容体、人体における最小の血管である網膜の微細血管(直径約6μm)、および約10μmの直径を有する神経線維束を含む。
【0003】
多くの研究所が、網膜結像を細胞レベルの解像度で実行可能とするさまざまな技術を研究している。これらのさまざまな技術は、異なる網膜照射系および/または網膜検出系を採用しているが、全て適応光学系を用いている。適応光学系は、解像度を高めるために、眼と結像系の光学的欠点の測定と、網膜から来て検出系に入射する光線の補正とを可能とする。
【0004】
これらの技術のうち、補償光学走査型レーザ検眼鏡(AOSLO:adaptive optics scanning laser opthalmoscopy)技術について説明する。
【0005】
AOSLOアセンブリは、例えばA.Roorda等による論文("Adaptive optics scanning laser ophthalmoscopy", Optics express 405, Vol. 10, N°9, 2002)に記載されている。AOSLOアセンブリは、主に、網膜を照明するための系と、検出装置と、走査系と、入射光波を修正するための面を備える修正系と、入射光線の光学的欠点を解析するための面を備える光学的欠点測定系とを備える。照明系は、例えば、点光源を形成するために光ファイバに結合されたレーザダイオードと、点光源からの照明ビームの形成を可能とする光学レンズとを備える。照明ビームは、例えば一連のミラーによって修正系、例えば可変ミラー、に送られ、その後、被験者の眼の上を垂直および水平に走査するために走査系に送られる。照明ビームは、このようにして準点ビーム(quasi-point beam)を形成するために焦点合わせされて網膜上を走査され、網膜により後方散乱した光は、可変ミラーおよび検出装置に送られるために、リターンで同様の光学走査を受ける。検出装置は、例えば、共焦点検出孔および検出器(光電子増倍管またはアバランシェフォトダイオードであってよい)から成る。一連の光学素子は、網膜の面と検出面(検出器の共焦点検出孔の面である)とを光学的に共役にするのを可能とする。光学的欠点を測定するための系は、例えば、シャックハルトマン(Shack-Hartmann)型のアナライザから成る。これは、網膜により後方散乱した光を受け、照明ビームおよび後方散乱ビームを修正するために可変ミラーを制御する。照明系は、結像用ビームを出射する第1光源と、光学的欠点解析用ビームを出射する第2光源とを備えてもよい。後者の光源は結像光源と分離されている。あるいは、これら2つの光源は組み合わされており、同じ網膜照明ビームが結像と解析に用いられてもよい。
【0006】
適応光学系に連結される光コヒーレンストモグラフィー(OCT:Optical Coherence Tomography)型のアセンブリも知られている。このようなシステム(系)は、例えば、R. Zawadzki("Adaptive-optics optical coherence tomography for high resolution and high speed 3D retinal in vivo imaging", Optics Express 8532, Vol.13, No.21, 2005)により説明されている。OCTは、低コヒーレンス干渉計の使用に基づいている。この結像技術は、生体内において数ミクロンの解像度で組織の断面像を生成することを可能とする。OCTアセンブリは、AOSLOアセンブリに似た配置から成るが、OCTアセンブリでは、検出系がOCTに特有であり、特に干渉計、例えばファイバ干渉計(マイケルソン型干渉計等)から成る。検出面は、ファイバへの入力点を含む面であり、この面は、光学的共役系によって眼の網膜と共役である。眼科におけるOCTの一つの利点は、他の分散した組織を通じて生体内組織を撮像するその能力に由来する。AOSLOと比較して、OCT技術は、取得速度を損ねて、網膜を通る縦断面図の取得を可能とする。
【0007】
3つ目の周知の技術は、フルフィールド、すなわち「フラッド(flood)」、網膜結像である。これは、例えば、H. Hofer等の"Improvements in retinal image quality with dynamic correction of the eye's aberrations", Optics Express, Vol.8, Issue11, pp. 631-643, 2001や、A.Roordaの"Adaptive Optics Ophthalmoscopy", Journal of Refractive Surgery Vol.16 2000に記載されている。OCT系やAOSLO系と比較して、フラッド型網膜結像装置で網膜を調査可能な深さは制限されるが、この装置はフルフィールドモードでの動作の利点を有する。すなわち、網膜の機械的な走査が無くなり、且つ全像の取得時間が非常に短くなる。これにより、それらの生成がより単純となり、低コストとなり、取得時間における像の変形(網膜の移動により発生する変形)に対し感度が低くなる。
【0008】
従来のフルフィールド網膜結像アセンブリが図1に示されている。このアセンブリは、通常の場合、網膜を結像するための第1照明光源LSと、光学的欠点の解析用の第2照明光源LSとを有する照明部11を備える。またこのアセンブリは、例えばCCDカメラなどのマルチ検出器(またはマトリクス検出器)取得装置を含む検出部12を備える。検出部12の検出面121は、この例では一連の対物レンズL,L,Lおよびビームスプリッタを含む像形成光学系(または結像系)によって結像される眼10の網膜と光学的に共役となるよう意図されている。結像系は、検出器とともに、結像経路を形成する。要求される網膜のフィールドは、結像光源LSから生じたビームにより照明され、対物レンズL,L,LおよびビームスプリッタBSによって網膜に伝達されるよう意図されている。例えば可変ミラー等の修正装置14は、網膜で後方散乱された光線を修正するための面141を備え、光学的欠点測定系15により制御される。この修正装置14は、眼に起因するおよび結像系の光学系に起因する光学的欠点の全てまたは一部を修正し、これにより検出部12に形成される網膜の像の品質を高めることを可能とする。光学的欠点測定系は、解析面において一回の測定で入射光波の光学的欠点を見つけ出すことを可能とする。本明細書では以下、「光学的欠点」という表現は、網膜と解析面との間で光線が受ける全てのインターフェアレンス(interference)を意味すると理解される。これらの欠点は、特に、眼の光学系により発生する欠点だけでなく、解析経路と共有される結像系の一部により発生する欠点も含む。光学的欠点測定系15は、有利には、マイクロレンズのアレイから形成される解析面151と、前記マイクロレンズの焦点面に配置されたマトリクス検出器とを備えるシャックハルトマン型アナライザである。光学的欠点測定系15は、照明点光源LSから生じ、二次的な点光源を形成するために一連の対物レンズL,LおよびビームスプリッタBS,BSによって網膜に焦点合わせされ、その後解析系に向かって後方散乱される波を受ける。この系では、光学的欠点アナライザの解析面および修正装置の修正面は、結像系の入射空間のプリセット(preset)面、すなわち眼のプリセット面と一致するよう意図された実平面、例えば眼の瞳孔面(pupillary plane)、と光学的に共役である。結像系の入射瞳は、有利には結像系の入射空間における同じプリセット面に位置する。解析経路は、このように、光学的欠点測定系15と、解析面を結像系の入射空間における前記プリセット面と共役にする手段とから形成される。結像系の入射瞳は、例えば修正装置の物理的な瞳の像である。この物理的な瞳は、例えばダイアフラムにより形成され、修正装置の有効領域(useful area)を規定する。一般的に、光学系においては、「入射瞳」という表現は、光学系内への光線の入射または伝搬を制限する最小の開口を意味すると理解される。この開口は、物理的なダイアフラム(光学系の瞳が考慮されている)が光線の入射を制限する場合には実在し、あるいは、この開口が光学系内に位置し且つ例えばダイアフラムにより形成される光学系の物理的な瞳の像である場合にはバーチャルである。従って、網膜の結像系の入射瞳が眼の瞳孔面、あるいはその近傍に位置する面に位置する場合、前記入射瞳は、バーチャルであり、前記光学結像系内に位置する物理的なダイアフラムの像である。図1に示されるように、高解像度システムでは、解析経路と結像経路に共通する光学経路を最大化することが求められる。これは、これら2つの経路間の光学的欠点の差分を最小化するため、および解析経路に位置する(結像経路には存在しない)光学的欠点が修正において考慮されるのを防ぐため、および結像経路に位置する(解析経路には存在しない)光学的欠点を見逃さないためである。
【0009】
しかしながら、図1に記載されたようなフルフィールド網膜結像装置は、角膜からの寄生反射(parasitic reflection)によりその解像度が制限されると考えられる。特に、寄生反射、すなわち結像光源から発生したビームの角膜による反射は、瞳孔面において連続バックグラウンド(continuous background)を有効光信号に加え、それによりノイズを検出系にもたらす。このノイズは、信号対雑音比の低下の一因となり、その結果、像品質の劣化をもたらす。この角膜反射が瞳孔面近傍の、従って結像面から遠く離れた面で起こるという事実のために、この反射は、比較的均一に分布した光束を検出器全体にわたってもたらす。この寄生光束(parasitic flux)は、取得された像の信号対雑音比を低下させる追加的な光子雑音を発生させる。一例として、角膜の反射率は以下の式で与えられる:(n−1)/(n+1)。ここで、nは角膜上の涙液膜の屈折率であり、すなわち約1.3である。従って、反射率は1.7%である。しかしながら、眼に伝達された光束に対する有効信号を含む回収光束の比は、1/50000から1/100000の間である。従って、像の品質を最適化するためには、この角膜反射に関係する寄生光束(parasitic flux)を最小化する必要がある。
【0010】
角膜反射を阻止する方法の問題は、当業者がすでに解決しようと試みている問題である。とりわけ、環状ビームを用いて眼瞳孔(ocular pupil)の周辺を照明することにより像を形成することが提案されている(例えば、眼底を画像化するカメラの分野の米国特許第3594071号明細書を参照)。この構成では、結像系の入射瞳は眼瞳孔の中央を中心としており、角膜反射は結像を妨げない。また、網膜の頂点が照明されるのを防ぐために解析経路用に軸外照明を計画することも可能であり、それにより、網膜面のフィルタリングホール(filtering hole)に連結され、角膜反射を阻止することが可能となる。
【0011】
しかしながら、これらのアプローチはどちらも、網膜の光受容体層の高解像度結像のために採用することはできない。これは、錐体(光受容体)を良好なコントラストで結像するために、スタイルズ‐クロフォード効果を考慮して結像系を最適化する必要があるからである。スタイルズ‐クロフォード効果は、例えばA. Roordaにより"Adaptive Optics Ophthalmoscopy", Journal of Refractive Surgery, Vol. 16, 2000.に記載されている。錐体光受容体の幾何学形状に関係するこの効果は、これらの光受容体の反射率が網膜を照明する光線の入射角に依存することを意味している。従って、結像系を最適化するために、光受容体への光線の迎え角をできるだけ小さくすることが好ましい。従来技術で用いられるような環状照明は、光受容体への光線の高入射角を意味しており、スタイルズ-クロフォード効果の利用を妨げる。対称的に、最適化されたスタイルズ-クロフォード効果は、光受容体層への光線の入射角を最小化するために、照明が実質的に角膜の頂点に中心合わせされることを要求する。従って、網膜の高解像度結像は、照明が眼の光軸に中心合わせされることを要求する。さらに、解析経路用の軸外照明は、それがスタイルズ-クロフォード効果を最適化しないという事実は別として、角膜反射を阻止するために空間フィルタリングが網膜の面と共役な面で実行されることを要求する。その結果、このフィルタリングが結像経路と解析経路の共通部分で実行され、この共通部分を最大化することが望まれた場合に、網膜の結像フィールドが制限されるというリスクがある。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0258045号は、角膜の頂点から発生する寄生反射の一部を取り除くために、高解像度結像経路にドリルミラー(drilled mirror)が配置された眼科画像装置を記載している。しかしながら、この文献に開示されたようなシステムは、解析経路の寄生反射が原因で、波面アナライザにより実行される光学的欠点の測定に必然的に誤差をもたらし、この誤差により像品質が損なわれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一つの目的は、機能不全や性能の損失を引き起こすことなく、結像面と眼の瞳孔面の像に近接した面の両方において、角膜反射の影響を取り除くまたは大幅に低減する網膜結像装置を提供することである。とりわけ、本発明の一つの目的は、高解像度網膜カメラにおいて適応光学系の新規な特徴(すなわち光学的欠点の修正)を考慮に入れることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様によれば、本発明は、
被験者の眼の網膜を照明する光線を発光する少なくとも1つの発光源と、
網膜を結像する結像経路であって、検出面を備える検出装置と、結像光学系とを備える結像経路と、
網膜で後方散乱された一連の光線を受けるよう意図された解析面で光学的欠点を測定する装置と、前記解析面を結像経路の結像光学系の入射空間におけるプリセット面と光学的に共役にする手段とを備える解析経路と、
前記解析経路および前記結像経路に共通な修正装置であって、修正面を備えるとともに、前記修正面において、前記発光源から発生して網膜で後方散乱された光線を、測定装置により測定された光学的欠点に応じて修正するよう意図された修正装置と、
前記修正面に近接または一致する平面、あるいは解析経路および結像経路に共通な光路上に位置する前記修正面の像平面に位置する光遮断系であって、前記発光源から生じる光線の角膜表面による反射を少なくとも部分的に遮断するよう寸法決めされた光遮断系と、
を備える網膜結像装置に関する。
【0015】
本出願人は、修正面または修正面と共役な面(この共役面が解析経路と結像経路に共通な光路上にある場合)に遮断系を配置することにより、系(システム)の性能を低下させることなく、結像経路と解析経路の両方において反射の影響を大幅に減らすことができ、それどころか、両経路に関して良好な信号対雑音比が得られるために系の性能が改善されることを実証した。
【0016】
有利には、修正面は、それ自身が結像経路の結像光学系の入射空間においてプリセット面と共役であり、前記プリセット面は、例えば結像系の入射瞳の面である。
【0017】
有利には、遮断系は、不透明ディスクの形をとり、結像光学系の入射空間中に投影されるその直径は、d=tanθ×R/2(Rは角膜の曲率半径、θは発光源の角直径(angular diameter))により与えられる値d以上である。
【0018】
有利には、遮断系は、前記結像光学系の光軸に中心合わせされる。この構成は、特に角膜の中心が眼の瞳に中心合わせされているときに最も有利である。眼の瞳を結像光学系の入射瞳に中心合わせしようとされる。
【0019】
一実施形態では、修正装置は可変ミラーを備える。あるいは、液晶バルブが用いられてもよい。
【0020】
一実施形態では、光学的欠点を測定する装置は、シャックハルトマン型アナライザである。
【0021】
有利には、眼に対して空間に結像装置を位置決めする系をさらに備える。この位置決め系は、遮断系が、角膜表面により形成される結像光源の像に確実に中心合わせされることを可能とする。
【0022】
例えば、網膜結像装置はフルフィールド型であり、網膜の所与のフィールドを照明する結像用第1光源と、光学的欠点を測定する前記装置で光学的欠点を解析する目的で網膜を照明する解析用第2光源とを備え、検出装置はマトリクス検出器を備え、遮断系は、前記光源から発生する光線の角膜表面による反射を少なくとも部分的に遮断するよう寸法決めされる。
【0023】
第2の態様によれば、本発明は、
被験者の眼の網膜を照明するために、発光源を用いて少なくとも1つの光線を発光するステップと、
結像経路を規定する結像光学系を用いて、検出装置の検出面上に網膜の少なくとも1つの像を形成するステップと、
網膜で後方散乱された光線の光学的欠点を所与の解析面において解析することにより光学的欠点を測定するステップであって、前記解析面は、解析経路を規定する光学的共役系を用いて眼のプリセット面と共役にされているステップと、
所与の修正面において、前記発光源から発生する光線を測定された光学的欠点に応じて修正するステップと、
光束を遮断する系を用いて、前記発光源から発生する光線の角膜表面による反射を少なくとも部分的に遮断するステップであって、前記系は、修正面に近接する面、または解析経路および結像経路に共通な経路上に位置する修正面と共役な面に配置されるステップと、
を備える網膜結像方法に関する。
【0024】
有利には、修正面は、眼の前記プリセット面と共役であり、眼の前記プリセット面は、角膜表面によって形成される前記結像光源の像平面と実質的に一致しており、これにより、結像光源から発生して角膜表面で反射した光線を遮断するのに要求される遮断ゾーンのサイズを最小化することが可能となる。
【0025】
有利には、眼の前記プリセット面は、結像系の入射瞳の面である。
【0026】
有利には、網膜を照明する前記光源から生じるビームは、眼の角膜の頂点を経由して眼に入射し、これにより、スタイルズ-クロフォード効果を最適化することが可能となる。
【0027】
有利には、本網膜結像方法は、眼に対して空間に結像系を位置決めするステップをさらに備える。
【0028】
変形例として、本網膜結像方法は、フルフィールド型の方法であり、網膜の所与のフィールドを照明するために結像用第1光線を発光するステップと、光学的欠点を解析するために網膜を照明する第2光線を発光するステップと、前記遮断系を用いて前記結像光線および解析光線の角膜表面による反射を少なくとも部分的に遮断するステップとをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本願発明の他の利点および特徴は、以下の図を用いて説明された記載を読むことによって明らかとなるであろう。
図1】(説明済)従来技術のフルフィールド型網膜結像系を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るフルフィールド型結像系を示す図である。
図3】角膜表面により形成される結像光源の像のサイズの計算を概略的に説明する図である。
図4】本発明の一実施形態で使用されるアライメント系を概略的に説明する図である。
図5A図4の系により実行されるアライメント手順の例を概略的に示す図である。
図5B図4の系により実行されるアライメント手順の例を概略的に示す図である。
図6】従来技術の系と、本発明に係る2つの実施例の系に関して、周波数の関数として計算されたMTFの比較を示す曲線の図である。
図7A】従来技術に係るフルフィールド型網膜結像系を用いて、850nmで測定された網膜画像を示す図である。
図7B】本発明に係るフルフィールド型網膜結像系を用いて、850nmで測定された網膜画像を示す図である。
【0030】
一貫性をとるために、様々な図において同一の構成要素は同じ符号で参照されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図2は、本発明の一実施形態に係る高解像度網膜結像装置を示す。図2には、本発明を理解するために必要な装置の構成要素のみが図示されている。この結像装置は、照明部11を備える。照明部11は、検出部12によって被験者の眼10の網膜の像を形成するために、被験者の眼10の網膜を照明することを意図されている光線を出射する第1光源LSを備える。この光源により、眼の網膜の所与のフィールドθ、典型的には「フルフィールド」像に対して4°×4°、を照明することが可能となる。有利には、網膜を照明する光源LSは、典型的には750nmから1100nmの近赤外のスペクトル帯で放射する。この波長範囲は、被験者により大きな眼の快適性を与え、網膜の層中により深く進入する。一変形例として、網膜を照明する光源LSは、網膜のカラー画像を生成するために可視光を出射してもよい。例えば緑内障診断の関係で神経線維の束を可視化するために、典型的には350nmから500nmの青色または近紫外の波長が用いられてもよい。光源LSは、例えばLEDまたはフィルタを備えるランプである。照明部11はまた、網膜を照明する第2光源LSを備える。この光源は、結像系の光学的欠点を解析するために用いられること目的としている。照明光源LSは点光源であり、被験者の眼の網膜上に二次的な点光源を形成することを可能とする。典型的には、光学的欠点解析用の照明を提供する光源LSの波長は、約750nmである。このような波長は、被験者にとって快適であり、また結像波長に可能な限り近い。光源LSの波長は、光学的欠点の測定と網膜の結像との間の光学距離を分離するという理由から、光源LSの波長と異なることが好ましい。光源LSは、例えば、レーザダイオードまたはスーパー発光ダイオード(SLED:super light-emitting diode)である。一組のスプリッタ板BS、BSは、光源LSおよびLSから出射された光線を被験者の眼10に送ることができる。一連の光学素子L,L,Lは、照明光源から共線ビームを形成するために用いられる。このビームは眼の瞳に入射する。網膜の像は、特にこの実施例では符号L,L,Lが付された一連の光学素子、可変ミラーおよび一連のビームスプリッタを備える結像系を用いて、例えば電荷結合素子(CCD)等のイメージングカメラを備える検出部12の検出面121上に形成される。検出面は、この実施例では、イメージングカメラのセンサー素子の面である。バダル型システム(badal type system)18および19は、眼17のプリセット面と解析および修正面との瞳孔共役を確保しつつ、被験者の屈折異常を補償することを可能とする。結像系は、結像系の入射空間の実平面に位置する入射瞳を有する。この面は、被験者の眼の検査の間に、例えば瞳孔面などの眼のプリセット面17と一致するよう意図されている。入射瞳は、特に錐体の可視化に関して十分に高い理論的解像度を得ることができるよう十分に大きい。典型的には、それは約5mm〜7mmある。図2では、符号「r」が付された面は、網膜の面と光学的に共役な面に相当するのに対し、符号「p」が付された面は、前記プリセット面17と光学的に共役な面に相当する。網膜結像装置はさらに、光学的欠点を解析するための装置15を備える。光線が網膜と検出器との間で受けるインターフェアレンス(interference)の全てを可能な限り解析することが重要である。光学的欠点を解析するための装置は、例えばシャックハルトマン型のアナライザ(HASO(登録商標)32-eye Imagine Eyes(登録商標))であり、これはマイクロレンズのアレイから形成される解析面と、マイクロレンズの焦点面に位置する検出器とを備える。解析面は、有利には、光学的共役化手段を用いることにより、結像系の入射瞳の面17と光学的に共役である。この手段は特に、光学素子L,L,L,L、可変ミラーおよび一連のビームスプリッタを備える。従って、特に検出器12と、検出器の検出面上に網膜の像を形成するよう意図された結像系とを備える結像経路を規定することができる。また、特に光学的欠点を測定する装置15と、解析面を結像系の入射瞳の面17と光学的に共役にする手段とを備える解析経路を規定することができる。可変ミラーは、両方の経路に共通な光学経路上に位置している。コンピュータ(図示せず)は、系の光学的欠点の測定を可能とし、修正装置14に修正制御信号を送る。修正装置14としては、例えばmirao52-e Imagine Eyes(登録商標)といった可変ミラーが用いられる。有利には、可変ミラーの面もまた、結像系の入射瞳の面17と光学的に共役である。図2においてBS,BS,BSで参照される一連のビームスプリッタは、照明光源LSおよびLSから発生し、網膜で後方散乱した光線を可変ミラー14に導き、その後それぞれ検出器12およびアナライザ15に導くことを可能とする。これらの光線はそれぞれ、結像ビームおよび解析ビームを形成する。変形例として、本結像装置の入射瞳17は、可変ミラーにおける瞳の像である。
【0032】
図2に示された実施例において、ここでは遮断(blocking)ドット20で形成される遮断系(blocking system)は、修正装置14の修正面またはその近傍に位置しており、結像系の光軸に中心合わせされている。光軸は、通常、結像系の入射瞳の中心をフィールドの中心につなぐ軸と定義される。このドットは、結像および解析光源から発生したビームの角膜からの反射を阻止することが可能となるよう寸法決めされる。
【0033】
修正面(または後者の像)は、特定の特性を有する面である。特に、瞳の部分的な遮断が光学的欠点を解析するビームおよび結像ビームに同じように影響を及ぼすのは、この面においてである。もっと正確に言えば、解析ビームが遮断系により遮断されるため、光学的欠点測定系により見えない修正装置(例えば可変ミラー)の一部は、制御することができない。言い換えると、修正要素によりこの部分に適用される修正は、制御されない。それ故、照明ゾーンの角直径が何であっても、修正要素におけるこの制御されていない部分が、網膜を照明し、網膜の像を作り出すのに役立つビームと相互に作用しないことが重要である。上記の制約を確実に満たす「遮断(blocking)」面は、修正要素自身の修正面(またはそのすぐ近くの面)あるいは後者と共役な面である(この共役面が結像系および光学的欠点測定系に共通の部分に位置する場合)。
【0034】
有利には、修正面は、被験者の網膜の結像の間に角膜表面により形成される照明光源の像平面と実質的に共役となるように配置される。この面は眼の瞳孔面の非常に近くに位置しており、それにより、結局、解析面および修正面が実質的に眼の瞳孔と実質的に光学的に共役である、光学的欠点を測定および修正する系を得ることが可能となることが分かる。これは、網膜で後方散乱した光束に開口効果を生じることなく、軸上だけでなく結像フィールドにおいても光学的欠点の良好な修正を得るために有利な配置であることが分かる。
【0035】
あるいは、角膜表面により形成される結像光源と解析光源の像平面が一致しない場合、または2つの像平面間の中間位置に位置しない場合、反射率を最小化することが望まれるそれら光源の像平面に応じて、修正面は、角膜表面により形成される解析光源の像平面と共役となるように配置されることも可能である。
【0036】
遮断系の「遮断(blocking)」直径、図2の実施例ではスポット20の直径は、角膜により形成される光源の像の平面と遮断系の平面との間の拡大係数を乗じて、網膜を照明する光源の角膜により形成される像のサイズと少なくとも同じ大きさとなるよう計算されてよい。解析光源が準点光源(quasi-point source)であるため、角膜表面により形成されるその像のサイズは、網膜を照明する光源のそれよりも小さく、そして遮断系が結像光源から生じるビームの角膜からの反射をブロックするよう寸法決めされているので、解析光源から生じるビームの反射もまたブロックされる。
【0037】
図3は、角直径の平行光源の場合に、角膜表面により形成される光源の像のサイズがどのように計算されるかを概略的に示す。ビーム31,32,33は、それぞれ、フィールドエッジビーム(31,33)とフィールド中心ビーム(32)である。像の直径は、d=tanθ×R/2、Rは角膜の曲率半径(平均でR=7.8mm)、で与えられる。従って、網膜上で5×5°のフィールドを結像する網膜カメラの場合、網膜上の照明光源の像のサイズは、前述の式により、d=0.340mmである。この場合、ドットのサイズは、それ故、結像光学系の入射空間(または眼の出射空間)におけるその像が少なくとも0.340mmとなるように設定される。この場合、5mmの入射瞳とすれば、ブロックされる瞳のパーセンテージは、約(0.340/5)=0.5%と計算される。これは、以下で分かるように、像の品質に殆ど影響を及ぼさない。有利には、光学系の制作および/またはアライメントの間に生成されるエラーを補償するために、若干大きなドットが選択される。例えば、結像系の入射空間のドットの像は、場合により、少なくとも0.5mmに等しい直径を有する。この場合、ブロックされるパーセンテージは1%に増加する。
【0038】
図2の実施例では、ドットは遮断系によって与えられている。このドットは、例えば、平らな平行側面を有する透明ストリップ中に組み込まれてもよい。他の系も明らかに可能であり、例えば、ドリルミラー(drilled mirror)が修正面と共役な面を配置することもできる。遮断領域(blocking area)は、原則としては円形であるが、ゼロ以外の入射角で動作するミラーに配置される場合には、長円形とすることもできる。その場合、長円形の特性は、それが光軸に垂直な面上に投影されるときに円形の遮断領域を得るように計算される。
【0039】
図2の実施例では、遮断ドットは結像系の光軸に中心合わせされる。この位置は好適である。角膜の頂点は一般的に眼の瞳に中心合わせされ、眼は光学系の入射瞳に中心合わせされるからである。
【0040】
有利には、本発明に係る網膜結像装置は、図2(43,44,45,46)または図4に示されるような、眼に対して結像系を空間的に位置決めするための系を備える。遮断系がその最大効果を有するためには、眼の出射空間である結像光学系の入射空間に投影される遮断系の像が、角膜表面により形成される照明光源の像を覆うように、結像装置が測定される眼の前に配置されることが重要である。それ故、この調節の実行を可能とする位置決め系を有することは、網膜結像系にとって有利である。位置決め系(図4)は、例えば眼を視覚化するためのカメラに連結されたアライメント光源43,44を備え、対物レンズ45および例えばマトリクス検出器などの検出器46を備える。アライメント光源は、例えば、全部で2,3,または4個であってよい。それらは、眼10の角膜表面40により結像される。眼を視覚化するためのカメラ45,46を用いて、これらの像の位置を観察することにより、装置を位置決めすることが可能となる。
【0041】
有利には、位置決め系は、場合により、角膜反射が遮断系によりブロックされるように、操作者または電動系に連結された画像処理ソフトウェアパッケージが結像装置を位置決めすることを可能とする。この操作が操作者によりジョイスティックを介して行われる場合、眼の瞳の像は、例えば遮断領域の中心を表す小さな十字と重ね合わされてもよい。この場合、操作者は、機器と被験者の眼との間の距離を調節することにより、アライメント光源に関連する角膜反射の像をクリア且つシャープにするとともに、機器と被験者の眼の相対位置を横方向に調節することにより、これらの像を十字の両側に配置する責任がある。
【0042】
図5Aおよび図5Bは、十字(符号53)がアライメント光源52の像(この例では全部で4個)に対して中心に合わされていない第1の実施例(図5A)と、アライメントが修正された第2の実施例(図5B)を示す。これらの実施例では、符号50は、虹彩(iris)のエッジを示し、符号51は眼の瞳のエッジを示す。
【0043】
本出願人は、さらに、MTFにおいて遮断領域の影響が無視してよいことを実証した。MTFシミュレーションは、Zemax(著作権)ソフトウェアパッケージを用いて遮断系有りおよび無しで実行された。その結果は図6に図示されている。この図では、曲線61は、遮断無しで計算されたMTFを示す。曲線62は、修正面に配置された中心遮断ドット有りで計算されたMTFを示す。角膜表面により形成される結像光源の像の平面上に投影される、中心遮断ドットの像の直径は、0.5mmであった。曲線63は、修正面上に位置する遮断ドット有りで計算されたMTFを示す。角膜表面により形成される結像光源の像の平面上に投影される、遮断ドットの像の直径は、1mmであった。これらの計算結果は、中心遮断無しの完全なMTF曲線と比較して、中心遮断領域を有するという事実は、特に低い空間周波数においてカットオフ周波数の約半分までMTFの僅かな降下を生じさせ、高い空間周波数においてカットオフ周波数まで僅かな増加を生じさせることを実証した。しかしながら、瞳孔面における直径0.5mmの遮断領域に関し、上方または下方への変動は完全に無視してよい(1%未満の変動)。さらに、より大きな遮断領域が有りの場合でさえも、高い空間周波数(カットオフ周波数の半分より上)に対し、MTFは完全な遮断無しのMTFを僅かに上回るだけである。MTFの降下は、MTFがすでに40%を上回るときの空間周波数に影響を与えるだけであり、これは結像に悪影響を与えない。このMTFの降下により影響される空間周波数に対し、コントラストはすでに非常に良好であるからである。
【0044】
本出願人はさらに、カメラにより形成された像からの光束の損失(これは、パーセンテージにおいて、入射瞳の直径に対する結像系の入射空間中に投影される遮断系の遮断直径の比の二乗に等しい)は、0.5mmの直径および5mmの直径を有する入射瞳の場合、1%を超えないことを実証した。対称的に、信号対雑音比は、角膜反射の除去がノイズを実質的に低下させるので、大幅に改善する。
【0045】
信号対雑音比において得られる増加によって、像の品質向上を評価することができる。実験的に、角膜反射の存在下において検出器により受信される全信号は、眼の瞳孔面に配置された5mmの入射瞳を備え、且つ角膜の頂点に中心合わせされた照明ビームで照明される4×4°の(結像)フィールドを実行するフルフィールド結像系の場合、以下の成分に分解される。
−検出器により検出される信号の42.3%は、角膜反射に起因する。この信号は、有益な情報を含んでいないが、検出雑音を加える。
−検出器により検出される信号の50.7%は、光受容体層の上方および下方に位置する網膜層に起因する。この信号は、有益な情報を含んでいないが、検出雑音を加える。
−検出器により検出される信号の7%は、結像をしようとする光受容体層に起因する。この信号は、有益な信号である。
【0046】
が検出器により検出される全信号である場合、信号対雑音比は以下の関係により表される(検出器の読出雑音を無視している。検出器の読出雑音は、全信号の検出雑音(少なくとも5から10倍高い)に対して無視してよい。)。
【数1】
【0047】
遮断領域の追加を考慮して、同様の計算が実行される。瞳孔面上に投影される遮断領域の像の直径は、0.5mmである。遮断領域は、入射瞳の1%に相当しており、光受容体層から来る有益な信号と、光受容体層の両側に位置する網膜層から生じる信号において、1%の降下を生じさせる。角膜反射の抑制と、瞳の1%を遮る中心遮断のために、この新たな構成における全受信信号Tは減少し、T=0.57×Tである。この新たな構成では、検出器により受信される全信号T2は、今度は以下のように分解される。
−検出器により検出される信号の87.8%は、光受容体層の上方および下方に位置する網膜層に起因する。この信号は、有益な情報を含んでいないが、検出雑音を加える。
−検出器により検出される信号の12.2%は、結像をしようとする光受容体層に起因する。この信号は、有益な信号である。
【0048】
次に、新たな信号対雑音比SNRは以下の関係により表される。
【数2】
【0049】
中心遮断領域の付加に関連する増加は、それ故、30%を上回る。
【0050】
図7Aおよび図7Bに示される2つのRAW(処理も平均化もなされていない)画像は、遮断系に起因する取得される像品質の改善を評価することを可能とする。
【0051】
第1の画像(7A)は、遮断系を備えていない、高解像度フルフィールド結像カメラで生成されたものである。網膜を照明する光束は、角膜の頂点を経由して入射し、光学的欠点の測定を可能とする照明は、この照明光源に関する角膜反射が測定を妨げないように、軸外で注入された。解析光源および照明光源は連続してトリガーされ、光学的欠点を測定する系は解析照明光源と同期されたのに対し、網膜の像を形成する検出器は、網膜を照明する光源でトリガーされた。
【0052】
第2の画像(7B)は、第1の画像を取得するのに用いられたのと全く同じ系で生成されたものであるが、修正系の面のすぐ近くの面(すなわち瞳孔面)に遮断ドットが追加された。眼の空間に投影されるこの遮断領域の直径は、1mmであった。さらに、解析光源は、再び中心合わせされ、角膜の頂点を経由して入射され、この信号に対して得られるスタイルズ-クロフォード効果の最適化が可能となった。この信号に関する角膜反射は、遮断系によりブロックされ、光学的欠点の測定を妨げなかった。
【0053】
著しい向上が図7Bに認められる。
【0054】
この研修は角膜反射に焦点を合わせていることに留意されたい。角膜は、網膜を照明する際に避けることが絶対に不可能なジオプトリー(diopter)である。しかしながら、同様の推論が結像光学経路と照明光学経路に共通する任意のジオプトリーに当てはまる。有利には、本発明に係る網膜結像方法は、キャリブレーション段階を備える。このキャリブレーション段階の間に、修正装置の制御を可能とする制御ループソフトウェアプログラムは、アクチュエータのそれぞれが一つずつ作動される際に光学的欠点測定系が修正系の反応の変化を測定する方法を「学習」する。収束速度と最終的な修正品質の理由で、中心遮断領域を備えずに制御ループのこのキャリブレーションを実行することは有利である。変形例として、被験者の眼に代えて人工眼球を用いてキャリブレーションが実行されてもよい。この場合、中心遮断領域が必然的に装着される。別の変形例としては、例えば図2の実施例の場合のように、適応光学系をキャリブレートするために特定のキャリブレーション経路が用いられてもよい。キャリブレーション経路は、光学系Lの焦点に配置された内部光源LSと、キャリブレーション光源から発生したキャリブレーションビームを可変ミラー14に伝達し、その後、光学的欠点測定装置15に伝達することを可能とするビームスプリッタBSとを備える。この場合、内部光源LSと光学的欠点測定系との間の光路は、修正系と遮断系の両方を通過する必要がある。もちろん、遮断系が修正系の修正面上またはそのすぐ近くに配置されるとき、この制約は満たされる。これは、遮断系をこの特定の位置に配置するもう一つの理由である。
【0055】
いくつかの詳細な実施形態を通じて説明されているが、本発明に係る網膜結像装置および方法は、当業者にとって明らかなさまざまな変形、修正および改良を包含しており、これらのさまざまな変形、修正および改良は、以下の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲の一部を形成していることを理解されたい。
【0056】
特に、本発明は、結像経路における角膜反射を低減することの重要性のために特に適用可能な網膜結像装置の実施例をとることにより説明されたが、適応光学系を用いるAOSLO系またはOCT系、あるいはより一般的には、解析経路およびそれほどではないにせよ結像経路における角膜反射の低減が画像品質の向上に必要な適応光学系を用いる任意の網膜画像装置に適用されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B