(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0004】
有機材料を利用する光電子デバイスは、幾つもの理由から、次第に望ましいものとなりつつある。そのようなデバイスを作製するために使用される材料の多くは比較的安価であるため、有機光電子デバイスは無機デバイスを上回るコスト優位性の可能性を有する。加えて、柔軟性等の有機材料の固有の特性により、該材料は、フレキシブル基板上での製作等の特定用途によく適したものとなり得る。有機光電子デバイスの例は、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池及び有機光検出器を含む。OLEDについて、有機材料は従来の材料を上回る性能の利点を有し得る。例えば、有機発光層が光を放出する波長は、概して、適切なドーパントで容易に調整され得る。
【0005】
OLEDはデバイス全体に電圧が印加されると光を放出する薄い有機膜を利用する。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明及びバックライティング等の用途において使用するためのますます興味深い技術となりつつある。数種のOLED材料及び構成は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、特許文献1、特許文献2及び特許文献3において記述されている。
【0006】
リン光性発光分子の1つの用途は、フルカラーディスプレイである。そのようなディスプレイの業界標準は、「飽和(saturated)」色と称される特定の色を放出するように適合された画素を必要とする。特に、これらの標準は、飽和した赤色、緑色及び青色画素を必要とする。色は、当技術分野において周知のCIE座標を使用して測定することができる。
【0007】
緑色発光分子の一例は、下記の構造:
【化1】
を有する、Ir(ppy)
3と表示されるトリス(2−フェニルピリジン)イリジウムである。
【0008】
この図面及び本明細書における後出の図面中で、本発明者らは、窒素から金属(ここではIr)への配位結合を直線として描写する。
【0009】
本明細書において使用される場合、用語「有機」は、有機光電子デバイスを製作するために使用され得るポリマー材料及び小分子有機材料を含む。「小分子」は、ポリマーでない任意の有機材料を指し、且つ「小分子」は実際にはかなり大型であってよい。小分子は、幾つかの状況において繰り返し単位を含み得る。例えば、長鎖アルキル基を置換基として使用することは、「小分子」クラスから分子を排除しない。小分子は、例えばポリマー骨格上のペンダント基として、又は該骨格の一部として、ポリマーに組み込まれてもよい。小分子は、コア部分上に構築された一連の化学的シェルからなるデンドリマーのコア部分として役立つこともできる。デンドリマーのコア部分は、蛍光性又はリン光性小分子発光体であってよい。デンドリマーは「小分子」であってよく、OLEDの分野において現在使用されているデンドリマーはすべて小分子であると考えられている。
【0010】
本明細書において使用される場合、「頂部」は基板から最遠部を意味するのに対し、「底部」は基板の最近部を意味する。第一層が第二層「の上に配置されている」と記述される場合、第一層のほうが基板から遠くに配置されている。第一層が第二層「と接触している」ことが指定されているのでない限り、第一層と第二層との間に他の層があってもよい。例えば、間に種々の有機層があるとしても、カソードはアノード「の上に配置されている」と記述され得る。
【0011】
本明細書において使用される場合、「溶液プロセス可能な」は、溶液又は懸濁液形態のいずれかの液体媒質に溶解、分散若しくは輸送することができ、及び/又は該媒質から堆積することができるという意味である。
【0012】
配位子は、該配位子が発光材料の光活性特性に直接寄与していると考えられる場合、「光活性」と称され得る。配位子は、該配位子が発光材料の光活性特性に寄与していないと考えられる場合には「補助」と称され得るが、補助配位子は、光活性配位子の特性を変化させることができる。
【0013】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の「最高被占分子軌道」(HOMO)又は「最低空分子軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位に近ければ、第二のHOMO又はLUMOエネルギー準位「よりも大きい」又は「よりも高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位と比べて負のエネルギーとして測定されるため、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有するIP(あまり負でないIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有する電子親和力(EA)(あまり負でないEA)に相当する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、材料のLUMOエネルギー準位は、同じ材料のHOMOエネルギー準位よりも高い。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりもそのような図の頂部に近いように思われる。
【0014】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の仕事関数がより高い絶対値を有するならば、第一の仕事関数は第二の仕事関数「よりも大きい」又は「よりも高い」。仕事関数は概して真空準位と比べて負数として測定されるため、これは「より高い」仕事関数が更に負であることを意味する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、「より高い」仕事関数は、真空準位から下向きの方向に遠く離れているものとして例証される。故に、HOMO及びLUMOエネルギー準位の定義は、仕事関数とは異なる慣例に準ずる。
【0015】
OLEDについての更なる詳細及び上述した定義は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる特許文献4において見ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
概して、OLEDは、アノード及びカソードの間に配置され、それらと電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が印加されると、アノードが正孔を注入し、カソードが電子を有機層(複数可)に注入する。注入された正孔及び電子は、逆帯電した電極にそれぞれ移動する。電子及び正孔が同じ分子上に局在する場合、励起エネルギー状態を有する局在電子正孔対である「励起子」が形成される。光は、励起子が緩和した際に、光電子放出機構を介して放出される。幾つかの事例において、励起子はエキシマー又はエキサイプレックス上に局在し得る。熱緩和等の無輻射機構が発生する場合もあるが、概して望ましくないとみなされている。
【0040】
初期のOLEDは、例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第4,769,292号において開示されている通り、その一重項状態から光を放出する発光分子(「蛍光」)を使用していた。蛍光発光は、概して、10ナノ秒未満の時間枠で発生する。
【0041】
ごく最近では、三重項状態から光を放出する発光材料(「リン光」)を有するOLEDが実証されている。参照によりその全体が組み込まれる、Baldoら、「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」、395巻、151〜154、1998;(「Baldo−I」)及びBaldoら、「Very high−efficiency green organic light emitting devices based on electrophosphorescence」、Appl.Phys.Lett.、75巻、3号、4〜6(1999)(「Baldo−II」)。リン光については、参照により組み込まれる米国特許第7,279,704号5〜6段において更に詳細に記述されている。
【0042】
図1は、有機発光デバイス100を示す。図は必ずしも一定の縮尺ではない。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子ブロッキング層130、発光層135、正孔ブロッキング層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、カソード160、及びバリア層170を含み得る。カソード160は、第一の導電層162及び第二の導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、記述されている層を順に堆積させることによって製作され得る。これらの種々の層の特性及び機能並びに材料例は、参照により組み込まれるUS7,279,704、6〜10段において更に詳細に記述されている。
【0043】
これらの層のそれぞれについて、更なる例が利用可能である。例えば、フレキシブル及び透明基板−アノードの組合せは、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第5、844、363号において開示されている。p−ドープされた正孔輸送層の例は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許出願公開第2003/0230980号において開示されている通りの、50:1のモル比でm−MTDATAにF
4−TCNQをドープしたものである。発光材料及びホスト材料の例は、参照によりその全体が組み込まれるThompsonらの米国特許第6,303,238号において開示されている。n−ドープされた電子輸送層の例は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許出願公開第2003/0230980号において開示されている通りの、1:1のモル比でBPhenにLiをドープしたものである。参照によりその全体が組み込まれる米国特許第5,703,436号及び同第5,707,745号は、上を覆う透明の、導電性の、スパッタリング蒸着したITO層を持つMg:Ag等の金属の薄層を有する複合カソードを含むカソードの例を開示している。ブロッキング層の理論及び使用は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第6,097,147号及び米国特許出願公開第2003/0230980号において更に詳細に記述されている。注入層の例は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許出願公開第2004/0174116号において提供されている。保護層についての記述は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許出願公開第2004/0174116号において見ることができる。
【0044】
図2は、反転させたOLED200を示す。デバイスは、基板210、カソード215、発光層220、正孔輸送層225、及びアノード230を含む。デバイス200は、記述されている層を順に堆積させることによって製作され得る。最も一般的なOLED構成はアノードの上に配置されたカソードを有し、デバイス200はアノード230の下に配置されたカソード215を有するため、デバイス200は「反転させた」OLEDと称されることがある。デバイス100に関して記述されたものと同様の材料を、デバイス200の対応する層において使用してよい。
図2は、幾つかの層が如何にしてデバイス100の構造から省略され得るかの一例を提供するものである。
【0045】
図1及び2において例証されている単純な層構造は、非限定的な例として提供されるものであり、本発明の実施形態は多種多様な他の構造に関連して使用され得ることが理解される。記述されている特定の材料及び構造は、事実上例示的なものであり、他の材料及び構造を使用してよい。機能的なOLEDは、記述されている種々の層を様々な手法で組み合わせることによって実現され得るか、又は層は、設計、性能及びコスト要因に基づき、全面的に省略され得る。具体的には記述されていない他の層も含まれ得る。具体的に記述されているもの以外の材料を使用してよい。本明細書において提供されている例の多くは、単一材料を含むものとして種々の層を記述しているが、ホスト及びドーパントの混合物等の材料の組合せ、又はより一般的には混合物を使用してよいことが理解される。また、層は種々の副層を有してもよい。本明細書における種々の層に与えられている名称は、厳しく限定することを意図するものではない。例えば、デバイス200において、正孔輸送層225は正孔を輸送し、正孔を発光層220に注入し、正孔輸送層又は正孔注入層として記述され得る。一実施形態において、OLEDは、カソード及びアノードの間に配置された「有機層」を有するものとして記述され得る。有機層は単層を含んでいてよく、又は、例えば
図1及び2に関して記述されている通りの異なる有機材料の多層を更に含んでいてよい。
【0046】
参照によりその全体が組み込まれるFriendらの米国特許第5,247,190号において開示されているもののようなポリマー材料で構成されるOLED(PLED)等、具体的には記述されていない構造及び材料を使用してもよい。更なる例として、単一の有機層を有するOLEDが使用され得る。OLEDは、例えば、参照によりその全体が組み込まれるForrestらの米国特許第5,707,745号において記述されている通り、積み重ねられてよい。OLED構造は、
図1及び2において例証されている単純な層構造から逸脱してよい。例えば、基板は、参照によりその全体が組み込まれる、Forrestらの米国特許第6,091,195号において記述されている通りのメサ構造及び/又はBulovicらの米国特許第5,834,893号において記述されている通りのくぼみ構造等、アウトカップリングを改良するための角度のついた反射面を含み得る。
【0047】
別段の規定がない限り、種々の実施形態の層のいずれも、任意の適切な方法によって堆積され得る。有機層について、好ましい方法は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第6,013,982号及び同第6,087,196号において記述されているもの等の熱蒸着、インクジェット、参照によりその全体が組み込まれるForrestらの米国特許第6,337,102号において記述されているもの等の有機気相堆積(OVPD)、並びに参照によりその全体が組み込まれる米国特許第7,431,968号において記述されているもの等の有機気相ジェットプリンティング(OVJP)による堆積を含む。他の適切な堆積法は、スピンコーティング及び他の溶液ベースのプロセスを含む。溶液ベースのプロセスは、好ましくは、窒素又は不活性雰囲気中で行われる。他の層について、好ましい方法は熱蒸着を含む。好ましいパターニング法は、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第6,294,398号及び同第6,468,819号において記述されているもの等のマスク、冷間圧接を経由する堆積、並びにインクジェット及びOVJD等の堆積法の幾つかに関連するパターニングを含む。他の方法を使用してもよい。堆積する材料は、特定の堆積法と適合するように修正され得る。例えば、分枝鎖状又は非分枝鎖状であり、且つ好ましくは少なくとも3個の炭素を含有するアルキル及びアリール基等の置換基は、溶液プロセシングを受ける能力を増強するために、小分子において使用され得る。20個以上の炭素を有する置換基を使用してよく、3〜20個の炭素が好ましい範囲である。非対称構造を持つ材料は、対称構造を有するものよりも良好な溶液プロセス性を有し得、これは、非対称材料のほうが再結晶する傾向が低くなり得るからである。溶液プロセシングを受ける小分子の能力を増強するために、デンドリマー置換基が使用され得る。
【0048】
本発明の実施形態に従って製作されたデバイスは、バリア層を更に含んでいてよい。バリア層の1つの目的は、電極及び有機層を、水分、蒸気及び/又はガス等を含む環境における有害な種への損傷性暴露から保護することである。バリア層は、基板、電極の上、下若しくは隣に、又はエッジを含むデバイスの任意の他の部分の上に堆積し得る。バリア層は、単層又は多層を含んでいてよい。バリア層は、種々の公知の化学気相堆積技術によって形成され得、単相を有する組成物及び多相を有する組成物を含み得る。任意の適切な材料又は材料の組合せをバリア層に使用してよい。バリア層は、無機若しくは有機化合物又は両方を組み込み得る。好ましいバリア層は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,968,146号、PCT特許出願第PCT/US2007/023098号及び同第PCT/US2009/042829号において記述されている通りの、ポリマー材料及び非ポリマー材料の混合物を含む。「混合物」とみなされるためには、バリア層を構成する前記のポリマー及び非ポリマー材料は、同じ反応条件下で及び/又は同時に堆積されるべきである。ポリマー材料対非ポリマー材料の重量比は、95:5から5:95の範囲内となり得る。ポリマー材料及び非ポリマー材料は、同じ前駆体材料から作成され得る。一例において、ポリマー材料及び非ポリマー材料の混合物は、ポリマーケイ素及び無機ケイ素から本質的になる。
【0049】
本発明の実施形態に従って製作されたデバイスは、フラットパネルディスプレイ、コンピュータモニター、医療モニター、テレビ、掲示板、屋内若しくは屋外照明及び/又は信号送信用のライト、色調節可能又は色温度調節可能光源、ヘッドアップディスプレイ、完全透明ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンター、電話、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダー、ファインダー、マイクロディスプレイ、車、大面積壁、劇場又はスタジアムのスクリーン、或いは看板を含む多種多様な消費者製品に組み込まれ得る。パッシブマトリックス及びアクティブマトリックスを含む種々の制御機構を使用して、本発明に従って製作されたデバイスを制御することができる。デバイスの多くは、摂氏18度から摂氏30度、より好ましくは室温(摂氏20〜25度)等、ヒトに快適な温度範囲内での使用が主に意図されているが、この範囲外の温度、例えば、−40℃〜+85℃以上で用いることができる。
【0050】
本明細書において記述されている材料及び構造は、OLED以外のデバイスにおける用途を有し得る。例えば、有機太陽電池及び有機光検出器等の他の光電子デバイスが、該材料及び構造を用い得る。より一般的には、有機トランジスタ等の有機デバイスが、該材料及び構造を用い得る。
【0051】
ハロ、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリルキル、複素環式基、アリール、芳香族基及びヘテロアリールの用語は当技術分野において公知であり、参照により本明細書に組み込まれるUS7,279,704の31〜32段において定義されている。
【0052】
上記に述べたように、OVJP及び同様の技術が、OLED層、並びに他の要素及び素子を堆積するためにしばしば用いられている。OVJPの従来の手法によって得ることが可能な形成要素のサイズ及び間隔は、ノズルから基板への材料の輸送が拡散によって支配される過程であるために、通常、プリントヘッドと基板との間の間隔に比例している。したがって、審美的に好ましいピクセル密度を実現するうえで充分に小さいピッチで形成要素を印刷するには、プリントヘッドは例えば約10μm以下に比較的近接させる必要がある。米国特許第8,293,329号明細書、同第7,431,968号明細書、同第7,744,957号明細書、同第7,404,862号明細書、同第7,897,210号明細書、及び同第7,879,401号明細書に述べられるように、このような小さい距離を、OLEDの製造において一般的な大型の基板全体にわたって維持することは困難である。更に、OVJPにおいて有機分子を輸送するためには大量のキャリアガスが必要とされる場合がある。これをノズル−基板の間隙から効率的に除去することは困難な場合があり、圧力の上昇、拡散の増大、隣接するノズル間のクロストーク、及び堆積された形成要素のぼやけによるピクセル鮮明度の損失が引き起こされる。
【0053】
米国特許第7,879,401号明細書は、2個の円筒状ノズル間にポンプ加圧された開口部を含む、排気を利用したノズルアレイについて述べている。この構成及びこれと同様の構成は、これらの問題点の幾つかを軽減又は解消しうるものであるが、依然、比較的小さいノズル−基板間隔が必要とされる場合があり、また、望ましくないオーバースプレーを生じうる。
【0054】
本発明の各実施形態は、濃縮された有機材料の平行ビームを発生することが可能なノズル・アンド・スキマー機構を提供するものである。これにより、印刷解像度を低下させることなく基板とノズルアレイとの間の距離を大きくすることが可能となる。これにより、キャリアガスに対して有機材料の流束を集中させることによってオーバースプレーを低減することも可能である。
【0055】
本発明の各実施形態は、シャドーマスクを使用せずに堆積することが可能なパターン化された有機薄膜の解像度を高める装置を含みうる。こうした装置は、キャリアガス中に同伴され、ノズルから射出されて近くの基板上に堆積する有機蒸気の平行化効果を高めることができる。一部の実施形態では、有機蒸気のビームは幅50μm未満とすることでマイクロ印刷用途に適したものとすることができる。1つの実施形態では、装置は、複数の連続した同軸の開口部を有してもよい。これらの開口部のサイズ及び形状は、射出される材料のビームを発生させ、成形するために必要とされる種々の機能を行うように構成することができる。場合により、複数の素子を1個のダイでモノリシックに一体形成することで複数の形成要素を基板上に並列して印刷することが可能である。本明細書において開示されるビームの高い平行化効果により、例えば100μm以上のような素子と基板との間の比較的大きな作動距離においても高解像度の印刷が可能となる。本明細書に開示される素子は、1mm
2よりも小さくすることができ、フォトリソグラフィー及び/又は同様のプロセスを用いて製造することができる。
【0056】
一般的に、本明細書に開示される装置は、上記に述べた効果を実現するために1以上のノズル及び1以上のスキマーを有している。スキマーと組み合わされたノズルは、質量分析器などの分析機器に使用されており、平行化され、集中させられた検体のビームを四重極フィルター内に発生させる。このようなスキマーは一般的には巨視的な寸法のものであり、蒸気相との反応を最小に抑えるために不活性材料でコーティングされた金属で形成することができる。このようなスキマーの設計の例は、http://www.beamdynamicsinc.com/skimmer_specs.htmで入手可能なビーム・ダイナミクス社(Beam Dynamics, Inc.)の「Molecular Beam Skimmers」に述べられている。従来の質量分析の用途及びシステムの例は、米国特許第5,793,039号明細書及び同第6,703,610号明細書に示されている。例えば、米国特許第5,793,039号明細書の図には、質量分析用途における粒子のビームの形成が示されている。これらのシステムにおいて与えられているスキマーシステムは、少なくとも一部の実施形態において基板をノズル及びスキマーの近くに配置することが可能であることにおいて、本明細書に開示されるものとは基本的に異なるものである。更に、一部の好ましい実施形態では、本明細書に開示されるシステムは、互いに隣接したパターンを印刷することが可能な複数のノズルを有してよく、これらのノズルは、例えばシリコン又は他の微細加工可能な材料の1個のブロックとしてモノリシックに一体形成することができる。一般的には、本明細書に開示される装置は、蒸気をノズルから横方向に押そうとする衝撃波面の形成を防止しうる、キャリアガスの一部をノズル−基板間隙から「逸らせる」ためのスキマー機構の使用、及び、高解像度の有機材料のパターン化された線を堆積するために並列に配置された複数の、かつ/又はモノリシックに一体形成されたスキマーノズルの使用など、幾つかの関連した特徴を有しうる。
【0057】
大気圧中でパターン化された液滴のフィルムを印刷する場合には、堆積ノズルの基板からの作動距離を大きくするための別の技術を使用することもできる。米国特許第7,938,079号明細書、同第7,485,345号明細書、同第7,987,813号明細書、同第8,132,744号明細書、及び同第8,272,579号明細書、並びに米国特許出願公開第2009/0252874号明細書、及び同第2009/0090298号明細書に述べられるように、このような技術では、通常、大気圧中でエアロゾル流の周囲に保護流を用いる。これらの技術では、高解像度の印刷が維持されるものの、エアロゾルと保護流を組み合わせた構成は、真空中での処理には適しておらず、真空蒸着される小分子の有機薄膜には適当な堆積技術とは言えない。このことは、粒子は、粒子が浮遊させられる流体の流線に追従することを表す無次元のストークス数Sを考慮することによって説明することができる。Sは、流体が粒子に加えることが可能な加速度に対する、流体の流線に追従する粒子が行う加速の比として物理的に解釈される。
【0058】
P.リウ(P. Liu)らによって述べられるように、概ね球形の粒子では、粒子の質量m
p、粒子の直径Dp、流れの粘性U、及び粘性μとして、これは、
【数1】
によって与えられる(P. Liu et al., “Generating Particle Beams of Controlled Dimensions and Divergence: 1. Theory of Particle Motion in Aerodynamic Lenses and Nozzle Expansions” Aerosol Science and Technology, 22:3, 293−313)。特性値長Lは形成要素のサイズであり、係数C
Sは、希薄化による粒子と周囲の流体との間の界面における滑り境界条件に相当する。粒子のクヌーセン数は、Kn
p =λ
1/
Dpである。
【数2】
【0059】
D.J.レーダー(Rader)により述べられるように、係数Aは、Kn
Pに弱く依存しており、1.2〜1.6の間で変化する(D. J. Rader, “Momentum Slip Correction Factor for Small Particles in Nine Common Gases” J. Aerosol Sci. Vol. 21 No. 2 pp. 161−168 1990.)。1000Paで300m/sのHe噴射流中、幅10μmの形成要素を印刷する質量500g/N
Aの1nmの粒子では、S=1である。したがって、印刷の対象とする長さのスケールにおいて、初期の粒子の運動量と、キャリアガスから粒子に伝達される運動量は概ね等しい。キャリアガスの流線は基板と交差することはできず、基板から逸れるように曲がる。したがって、基板の近くにおけるキャリアガスの流線の摂動運動により、基板に向かう有機材料の流束は顕著に乱れることになる。特定の場合では、ノズルオリフィスを基板の近くに配置することにより、形成要素のサイズに対する望ましくない影響を低減又は最小化することができる。しかしながら、これは製造規模の許容誤差では直ぐに機能しなくなる怖れがある。
【0060】
これに対して、エアロゾル印刷の場合では、10μmの形成要素でS>10である。このことは、基板の近くにおける流れの摂動が、基板に向かう液滴の流れを乱すことはなく、パターンの印刷を乱さないことを示唆している。溶媒は一般的にOLEDの動作に悪影響を及ぼすため、小さい分子を溶媒の液滴中に分散させることは一般的にできない。更に、巨大分子及びナノ粒子は、PVDによって処理することはしばしば困難である。OVJP装置によって堆積される粒子は小さくなければならないため、保護流の技術はこの場合は用いることはできない。したがって、従来のキャリアガス噴射流は、有機材料を基板に向ける方法としては適当とは言えない。エアロゾル印刷におけるように、保護流を小さい分子を基板に向けるために使用することはできない。低い圧力における有機蒸気の拡散は、ミクロンスケールの粒子と比較して極めて速い。拡散輸送に対する対流輸送の比であるペクレ数は、上記に述べた有機蒸気噴射流ではPe=0.15であり、印刷される形成要素の長さのスケールを超えて拡散が支配的であることを示唆している。したがって、有機蒸気は保護流を通過して速やかに拡散するが、拡散はエアロゾル噴射流では無視できるほど小さい。
【0061】
特定の場合では、バーチャルインパクターを使用してガス出力及びガスに基づく堆積システムの少なくともいずれかを与えることができる。バーチャルインパクターの1つの例が、http://www.tsi.com/uploadedFiles/
Site
Root/Products/Literature/Application
Notes/ITI−051.pdf.において入手可能なティー・エス・アイ社(TSI)のHow a Virtual Impactor Worksに述べられている。このような構成では、エアロゾルは加速ノズルを通り、回収プローブの方向に向けられる。この時点で、流れの大部分は回収プローブから90°逸らされる。慣性の小さい小さな粒子(例えばミクロンのスケール)は、流れの流線に追従し、主流によって径方向に運び去られる。より慣性の大きい大きな粒子は、流線から逸れ、副流とともに回収プローブに沿ってその前進経路を軸方向に動き続ける。本明細書に述べられる実施形態と異なり、OVJPでは、圧縮されたガス流(>1atm)中のミクロンスケールの液滴ではなく、加熱及び希薄化されたガス流(<1atm)中の有機分子を用いて印刷を行うためにスキマーを使用する場合がある。バーチャルインパクターは、比較的小さな圧力低下によって引き起こされる流れの流線を飛び越えるだけの充分な運動量を有する粒子に頼ったものである。これは大きなストークス数によって特徴付けられるシステムである。ノズル・アンド・スキマーでは、ガスの膨張を引き起こすために大きな圧力低下を利用する。分別は、軽い成分を重い成分よりも速やかに噴射流の中心から外側に移動させる分子運動に頼っている。簡単に述べると、スキマーが空間フィルターとして機能し、平行分子ビームを発生させるのに対して、バーチャルインパクターは平行化されていないガス出力を有する分別装置である。
【0062】
図3は、本発明の1つの実施形態に基づく例示的な装置を示している。幅aのノズルが、流入する1以上のガスの混合物を加速する。例えば、高質量及び低質量のガスの混合物を使用することが可能であり、その場合、高分子質量のものは1以上の有機分子であり、より低分子質量のものは1以上の無機キャリアガスである。スキマー構造はノズルと同軸に配置され、幅sの開口部、及びノズルオリフィスの平面に対して角度θをなして形成された円錐体を有している。スキマーは、通常、有機分子をより多く含む噴射流の中央部分を分離して分子ビームを形成することができる。キャリアガスを通常より多く含む噴射流の周縁部は、はねのけられ、基板から遠ざかる方向に向けられるか又は輸送される。
【0063】
有機材料の平行ビームがいったん得られたならば、分子は一般的に基板に衝突して吸着するまで軌道を変化させてはならない。プリントヘッドと基板との間の領域の圧力は、有機分子の平均自由経路λ
2が、迷走キャリアガス分子と衝突せずに基板に達するためには約P=10Pa以下でなければならない。W.G.ビンセンティ(W.G. Vincenti)及びC.H.クルーガー(C.H. Kruger)により述べられるように、ガス混合物中の副成分の平均自由経路は、
【数3】
により与えられる(ただし、m
1は分子量であり、d
1は主成分の分子直径であり、m
2及びd
2はそれぞれ副成分の分子量及び分子直径であり、Tはガス温度であり、k
Bはボルツマン定数である)(W.G. Vincenti and C.H. Kruger Introduction to Physical Gas Dynamics Kreiger, Malabar, Fl 1975)。保護された噴射流は通常は有機蒸気を基板に運ばないため、OVJPは異なるアプローチからの利益を得ることができる。エアロゾル印刷について考察した原理は、非圧縮性の流体に適用されるものである。圧縮性流体中の異なる質量の粒子は、特に流体が膨張しつつある状態では挙動が異なる。
【0064】
この差異に対処するため、本発明の実施形態では、一体形成されたノズル・アンド・スキマー機構を使用することができる。本発明の実施形態に基づくノズル機構の1つの例が、一体形成されたノズル・アンド・スキマー構造300の断面図を示す
図3に示されている。この構造は、半導体、金属などの本明細書に更に詳細に述べられる様々な材料から形成することができる。ノズル310とスキマー320とは、1個のダイでモノリシックに一体形成することが可能であり、本明細書に更に詳細に述べるように、複数のノズル/スキマーの組み合わせを1以上のこうしたダイで一体形成することができる。
図3に示される例示的な実施形態では、ノズルとスキマーとは、微細加工されたダイにモノリシックに一体形成される。エッチングされたキャビティは真っ直ぐな側壁を有し、例えばページ内に約400μm延びうる。キャリアガス及び有機蒸気は、入口ビア330からノズル310の入口キャビティの上流に供給されうる。次いでガスは、ノズル開口部を通過するために収縮する際に加速され、排気キャビティ340に入って膨張する際に更に加速する。スキマーは、ノズルからの噴射流の平行化された中心部分を分離して、これをプリントヘッドの下の自由分子流の領域(より低い圧力)内から基板390上に通過させる。スキマーによって分離された部分は、噴射流の残りの部分と比較して有機材料を多く含んでいる。ノズル開口部の幅はa、スキマーオリフィスの幅はs、それらの間の間隔はDである。スキマーのスイープ角はθである。図に示されるように、プリントヘッドの下面と基板支持体380との間の距離はd
gであり、基板までの距離はgである。本明細書に開示される例示的な実施形態では、はっきりと断らない限りは、スキマーは一定の幅w=300μmを有するものと仮定することができる。
【0065】
一部の実施形態では、装置は、スキマーの底面から距離d
gの位置に配置された基板支持体380を有しうる。材料が堆積される基板390は、基板支持体上に配置することができる。したがって、適当な距離gを特定の基板について選択することができる。特定の場合では、使用される特定の基板に基づいて距離gを調節することができるように基板支持体の位置を調節可能とすることができる。同様に、不規則又は非平面状の基板では、ノズルブロックと基板との間に一定の距離gを維持するために、基板支持体、ノズルブロック、及び基板自体の少なくともいずれかを、装置の動作中に調節してもよい。
【0066】
一部の実施形態では、1以上の更なるスキマーを、各スキマーのオリフィスがノズル開口部の軸に沿って整列するようにしてスキマー320の下に配置することができる。複数のスキマーの使用は、ノズルダイから射出されるビームの更なる平行化を可能とするものであり、更なる複雑化及び材料の使用効率の低下を代償として、本明細書に開示されるスキマー効果を更に高めることを可能とする。各スキマーは、スキマー320と、オリフィス及び開口部の少なくともいずれかが同じ形状を有してもよく、又は例えば、射出される材料のビームにおいて特定の効果を得るために、オリフィス及び開口部の少なくともいずれかに異なる形状を用いてもよい。
【0067】
一般的には、特定の用途に応じて、一体形成されたノズル・アンド・スキマーの構造において様々な寸法の範囲を用いることができる。本明細書において更に詳細に述べるように、以下の範囲が、一般的なOVJP及び同様の用途での使用に適しうる。
a 5〜50μm
D 100〜800μm
s 5〜100μm
θ 0〜60°、又はより好ましくは30〜50°
d
g 10〜1500μm
【0068】
無論、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に述べられ、図示される特定の実施形態以外の同様の又は異なる寸法を用いることも可能である点は理解されるであろう。
【0069】
本明細書に開示される一体形成されたノズル・アンド・スキマーの構成において、異なる形態を用いることもできる。例えば、ノズル開口部がスキマーオリフィスと同じか又はほぼ同じ形状を有するように、特定のノズル/スキマーのペアのノズル開口部とスキマーオリフィスとを一致させることができる。一部の実施形態では、ノズル開口部を長方形とするか、スキマーオリフィスを長方形とするか、又はその両方とすることができる。すなわち、材料の流れの方向にノズルの断面で見た場合に、それぞれが長方形の形状を有するようにしてもよい。
【0070】
図3に示される構造は、例えば、本明細書に更に詳細に述べるようにエッチングプロセスにより製造することができる。これに代えるか又はこれに加えて、図に示される構造の一部又は全体を、エッチング又は他の何らかの方法により複数の別体の要素を製造した後、それらを互いに永久的に接合して1個のダイを形成することによって製造することもできる。例えば、各要素を拡散接合プロセスを使用して接合してノズルダイを形成することができる。
【0071】
図3に関して図示及び説明されるノズル機構は、複数のノズルとスキマーのペアを使用し、単一の装置において反復することができる。一部の実施形態では、1個のダイが複数のユニット、場合により最大で100又は数百のユニットを含みうる。一部の実施形態では、複数のノズルとスキマーのペアを、1個のダイの内部に直線状、矩形、又は格子パターンなどの規則的なパターンで配置することにより、大規模な堆積を行うことが可能である。複数のノズルの使用により、異なる色のサブピクセルの繰り返しパターンを堆積する必要のあるフルカラーディスプレイ用などのパターン化フィルムの比較的速やかな堆積も可能となる。同様に、本発明の実施形態に基づく装置は、ノズルダイと基板又は基板ホルダーとを互いに対して横方向に動かすことを可能とするベルト又は他のコンベヤーシステムなどのラスター(走査)機構を有してもよい。これにより、1個の基板上に平行な線又は構造を堆積する必要がある場合などに、更なる堆積及びパターン化の構成が可能となる。矩形のノズル開口部が用いられる場合のような一部の実施形態では、ダイと基板との間の相対運動は、ノズル開口部の最も長い寸法に対して平行、且つ基板の平面に対して平行とすることで基板上への効率的な堆積が可能となる。
【0072】
複数のノズルとスキマーを1個のダイ内にモノリシックに一体形成してもよく、又は複数のノズルとスキマーを別々に製造し、1個の装置として構成することもできる。ダイ又は他の構造内の各ノズルは、
図3に示されるような少なくとも1個の入口ビアと流体連通してよい。各ノズルが別々の異なる入力ビアを有してもよく、又は複数のノズルが1以上の入口ビアを共有してもよい。同様に、各ノズルは、
図3に示されるような1以上の排気キャビティ及び排気ビアの少なくともいずれかと流体連通してもよい。別々の排気ビアを各ノズルに対して設けてもよく、又は1以上のノズルが1以上の排気ビアを共有してもよい。本明細書に更に詳細に述べるように、様々なエッチング及び拡散接合プロセスを使用して、
図3に示される一連の構造を有するノズルダイを製造することができる。これに代えて、又はこれに加えて、各ノズル及び各スキマーは、別々に製造した後、1個の装置として一体形成することで上記に述べたような格子などの所望の出力パターンを形成することもできる。
【0073】
1つの実施形態では、ノズルダイは、プリンター又は他の堆積システムなどの別の装置において互換可能であるか、又は交換可能であるか、又はその両方である要素とすることができる。例えば、ノズルダイを受容するようにハウジングを構成することができる。ノズルダイがハウジング内に配置される場合、ノズルダイ内部の異なるビアを、適当な入力源及び出力源の少なくともいずれかと流体連通させることが可能である。例えば、ノズルダイ内の1以上の入力ビアを、1以上の材料源、キャリアガス源などと流体連通させることができる。これに代えるか又はこれに加えて、ノズルダイは、ハウジングによって与えられるキャリアガス源、圧力源などと流体連通される有機材料源を有してもよい。このような構成により、1個のハウジングによって、ハウジングをほとんど又はまったく改変することなく複数の種類の材料を印刷することが可能となる。これに代えるか又はこれに加えて、ノズルダイとは別の互換可能且つ交換可能な有機材料源を受容するようにハウジングを構成することもできる。この構成では、種々の有機材料源とノズル機構とを1個のハウジング内で一致させることで、1個の装置から高い汎用性を得ることができる。
【0074】
図4は、本発明の1つの実施形態に基づく例示的なプリントヘッドダイの側面図を示している。上記に述べたように、1以上のプリントヘッドをモノリシックに一体形成することができる。
図4に示されるダイは、例えば、陽極接合により接合されたケイ素及びホウケイ酸ガラス層を有しうる。この接合によって2層間の界面を封止し、ガスが流れるためのキャビティ410、420を形成することができる。プリントヘッドは、例えば両側に深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)を行うことによって製造時にパターン形成することができる。他の適当な製造手法としては、微細電子放電加工、集束イオンビームミリング、レーザーアブレーション、電鋳、インプリントリソグラフィー、型成形、キャスティング、及びダイヤモンドミリングが挙げられる。
図3に示されるノズルは、エッチングされた入口キャビティをエッチングされた排気キャビティから分離する非エッチング構造によって与えることができる。同様に、
図3に示されるスキマーは、エッチングされた排気キャビティ420とプリントヘッドの外部との間の領域を形成する非エッチング領域によって与えることができる。キャビティは例えば、ガラスと接合されたSi面をエッチングすることによって形成することができる。ビアは、加熱ガス供給マニホールド内に締め付けられたプリントヘッドを示した
図5に示されるような装置を使用することなどにより、蒸気をキャビティに加え、且つ除去することができるようにSi層の裏側をエッチングすることによって形成することができる。プリントヘッド430は、例えば、接合されたガラスとシリコンで形成された微細加工されたダイであってよく、これをOリングシール510によってマニホールドに嵌合することができる。ネジ520又は同様の連結要素によって定位置に固定された締め付けプレートによって、ダイ及びOリングに圧力を加えることができる。マニホールドには、1以上の管によって、キャリアガス及び有機蒸気混合物をダイの上部に供給するためのポートを形成することができる。マニホールドは、ダイの中間部からの排気ガスをチャンバ内に導入することなく捕捉するためのキャビティを有してもよい。ダイによって発生させられた分子ビームは、マニホールドの底部から突出している様子が示されている下部から出射される。ビームは基板に衝突し、有機分子が基板表面に吸着する。ダイと基板を互いに対して動かすことにより、印刷されたパターンを生成することができる。
【0075】
本明細書に開示される実施形態は連続的流量状態で動作する。流体流の示強性は、ノズルの上流の流れ場全体にわたってよく規定されている。有機蒸気とキャリアガスとは、熱力学的平衡状態にある。流れは、ノズルの狭窄部を通って音速に加速した後、出口を通って膨張する際に更に加速する。有機蒸気の分子はキャリアガスとの衝突により前方に押されるため、流れのバルク速度となる。
【0076】
一般的に、材料の平行化された噴射流を得るためには、流れのバルク速度が有機分子の熱速度よりも大きいことが好ましい。したがって、有機分子をノズルの軸と平行に超熱速度(hyperthermal velocity)にまで加速することができる。噴射流は膨張し続けながら、Kn〜1の移行的流量状態に入り、有機分子とキャリアガスとの衝突の頻度が小さくなる。キャリアガス粒子は、600Kにおいてノズル中心線に直交する分子速度C┴
RMS=sqrt(k
bT/m
1)=1100m/sで運動する。ノズル中心線に平行な噴射流のバルク速度Uは同じオーダーである。しかしながら、逆に、有機c┴
RMS=sqrt(k
bT/m
2)=100m/sでは、噴射流は、有機分子をノズルに沿ってUの相当な部分にまで加速する。
【0077】
特定の場合では、「段差状」スキマーを使用することが有効な場合もある。
図6は、本発明の1つの実施形態に基づき、接合に先立ってダイにエッチングすることが可能な、例示的なノズル610、スキマー620、及び隣接した排気キャビティ602、604の斜視図を示している。スキマー620は、スキマーの壁が図に示されるような不均一な厚さを有するように1以上の「段差」625を有しうる。
図7は、本明細書に述べられる種々の寸法を有するノズル・アンド・スキマー構造の拡大図を示している。
図6及び7に示される構造は、異なる深さにエッチングされた2個の領域を生じる2段階のエッチングプロセスによって製造することができる。例えば、より深いエッチングを用いることで排気キャビティ及び他の構造を形成することができる。より浅いエッチングを用いることでノズルオリフィスの基部及びスキマーを支持する段差状構造を形成することができる。
【0078】
図6及び7に示される多層構造は1以上の利点をもたらしうるものであり、したがって一部の実施形態において好ましいものとなりうる。例えば、階段状スキマー構造は、1個の比較的深いエッチングを複数のより浅いエッチングに置き換えることにより、製造時に使用されるマスキング構造の摩耗を低減することができる。別の例として、ノズルから出射するガス噴射流と排気キャビティの床部との間の抵抗を、ノズルオリフィスとキャビティの床部との間に設けられる更なる間隔611によって低減させることができる。更に、スキマーの全体の機械的強度を高めることができる。
【0079】
図8は、本発明の1つの実施形態に基づく別のスキマーの構成の概略図を示している。このような構成では、スキマーは一様でないスイープ角を有しうる。すなわち、スイープ角は、測定する位置によって異なりうる。例えば、スキマーは、スイープ角が、スキマー出口の近くのより小さい角度からスキマーオリフィスの近く、すなわちノズルの近くのより大きな角度へと、スキマー角が不連続的すなわち「段差状」に変化することなく連続に変化する湾曲形状を有してよい。他の構成では、一様でないスイープ角を有するスキマーは、スキマーの異なる部分が異なるスイープ角を有するように、それぞれが一定又は均一なスイープ角を有する異なる部分を有しうる。様々な異なるスイープ角、及びスイープ角の組み合わせを用いることができる。例えば、ノズルの近くにおいてスイープ角を少なくとも70°とするか、スキマー出口の近くにおいてスイープ角を50°よりも小さくするか、又はその両方とすることが好ましい場合がある。連続的なスイープ角を有する構成、及びスキマーの異なる部分において異なるスイープ角を有する部分化された構成を有する構成の両方において、異なる角度をスキマーの異なる部分で使用することができる。鋭角(90°に近い)スキマー角は、ノズルから流入するガス噴射流をそれほど妨げないが、得られるスキマー出口は比較的狭いため、基板の近くではスキマーの壁と分子ビームとの間により大きな干渉が生じ、これにより印刷解像度が低下しうる。これに対して、広く開いた角度(0°に近い)では、スキマーはこれらの干渉を減少させるばかりでなく、ノズルの近くで流入するガス噴射流をより大きく妨害する。したがって、ノズルの近くの大きな角度から基板の近くの小さい角度へと変化する湾曲した壁を有するスキマーを設計することでビームの妨害及びスキマーの壁との干渉が同時に最小化され、利点を得ることができる。
【0080】
ノズルの中心線に沿った有機材料の加速により、幾つかの有用な効果を得ることができる。第1に、これによりビームの平行化効果が与えられる。有機蒸気は、基板に直交する方向よりも基板に向かう方向に最大で10倍の速さで動きうるため、ビームの発散を6°程度に小さくすることができる。第2に、有機材料はビームの中心の内部又は比較的その近くに留まる傾向があるため、ビームの中心を選びとることでキャリアガス中の含量に対してビームの有機材料の含量を選択的に高めることができる。
【0081】
本明細書に開示されるスキマーは、基板に向かう方向のキャリアガスの大部分の運動を妨害する一方で、噴射流の中心に向かう方向のキャリアガス流の流線の摂動を低減又は最小化することができる。噴射流は、スキマーの下流で更に膨張して自由分子流となる。この時点で、キャリアガスは、有機蒸気と強く相互作用するだけの充分な密度を有していない。有機蒸気は、連続流及び移行領域内において噴射流によって運動量が与えられた状態で基板に向かう方向に弾道軌道を辿るため、オーバースプレーを低減又は最小化することができる。スキマーは、例えば堆積ゾーンからはねのけられる排気流中に分子が同伴される際に一部の有機分子が基板に到達することを妨害することができる。したがって、更に下記に詳しく述べるように、印刷解像度と材料の利用効率との間にはトレードオフがある。
【実施例】
【0083】
本発明の実施形態の動作及び利点を説明するため、二次元の直接シミュレーションを行うモンテカルロアルゴリズム(Bird 1994)を用いて印刷線の厚さプロファイルのモデル化を行った。シミュレーションを行うため、質量500g/mol及び衝突直径1nmの希釈有機蒸気が、リザーバ温度600KでHeキャリアガス中に同伴されるものと仮定する。プリントヘッドの構造も温度600Kであり、基板は300Kである。スキマー排気圧は100Paに維持する。図中、印刷される形成要素は、ページの平面に対して垂直な軸を有する線と仮定する。計算された厚さは規格化し、印刷方向を横断する方向に、ノズルの中心線からの距離の関数としてプロットする。
【0084】
図9は、各寸法が
図3に関して述べたものと同じ寸法を示すものとして、θ=45°、a=10μm、s=20μm、g=100μm、及びD=200μmのノズル・アンド・スキマーにより印刷した形成要素の厚さプロファイル(実線)を示したものである。この厚さプロファイルは、θ=0°、a=10μm、g=100μm、及びD=0μmのスキミングしていないノズルビーム(点線)と比較されている。入口圧は32,000Paである。シミュレートした堆積厚さは、陰を付けたプロファイルの最も右側の領域において10倍に拡大することにより、スキミングした場合とスキミングしていない場合においてノズル中心線から遠い位置に堆積された材料の量の小さい絶対差を強調している。スキマーの存在により、印刷される形成要素の半値全幅は約20μm減少していることが見出された。スキマーにより、印刷される形成要素の周囲の長距離のオーバースプレーも低減されている。例えば、この実施形態の特定の寸法は、スキマーが、ノズル中心線から80μmの距離に堆積される材料の量を一桁減少させることを可能とするものである。
【0085】
図10は、ノズルの平面に対するスキマーの角度(スイープ)が、堆積される線のプロファイルにどのように影響するかを示している。図に示されるすべての場合で、a=10μm、s=20μm、g=100μm、及びD=200μmであり、入口圧は32,000Paである。形成要素は、θ=0°の場合(破線)に、最小の半値全幅、最も平坦なピーク、及び最も傾きの大きな側壁部を有する、最もシャープに形成された外観を有している。θ=45°の場合(実線)では、より幅の広い、より丸みを帯びたプロファイルとなり、θ=30°の場合(点線)では、これらの2つの中間である。角度の浅いスキマーによる高い解像度への見かけの傾向にもよらず、下記で定量化するように、より鋭角でスイープされたスキマーは、角度の浅いスキマーと比較して遠位場オーバースプレーをより少なくすることができることが見出された。遠位場オーバースプレーとは、ノズルを通過する有機材料のうち、シミュレートされる堆積ゾーンに着地せず、スキマー排気によって除去もされない部分のことを指す。したがって、スキマーのスイープ角の選択は、素子が使用される特定の用途に応じて決まりうる。本明細書で使用するところの、「利用効率」とは、ノズルを通過する有機材料のうち、ノズル中心線から150μmの範囲に延びるシミュレートされる堆積ゾーン内に着地する部分のことを指す。利用比は、ノズルオリフィスとスキマーオリフィスとの間の間隔と比較してスキマーのスイープ角には影響されにくい。
【表1】
【0086】
図11は、種々の入口圧でノズル/スキマーペアにより印刷した形成要素の厚さプロファイルを示している。すべての場合で、θ=45°、a=10μm、s=20μm、g=100μm、及びD=200μmである。入口圧を、8,000Pa(破線)から32,000Pa(実線)及び64,000Pa(点線)に変化させる。印刷される形成要素は、圧力の上昇とともによりシャープに形成されることが見出され、ノズルとスキマーとの間に大きな圧力低下を維持することの重要性を示している。動作時には、これは、効果的な動作を行うための最小の流速につながりうる。
【0087】
図12は、種々のノズル幅aで、本明細書に開示される結合されたノズル/スキマーペアにより印刷した形成要素の厚さプロファイルを示している。すべての場合で、θ=45°、s=20μm、g=100μm、及びD=200μmである。入口圧は32,000Paに維持した。狭い(a=4μm)幅のノズル(破線)は、周囲のオーバースプレーの大きな尾部を有する幅の広い、丸みを帯びたプロファイルを生じることが見出された。より大きな(a=10μm(実線)及びa=30μm(点線))ノズルは、よりシャープに形成された形成要素を生じた。
【0088】
図13は、ノズル開口部とスキマーオリフィスとの間の種々の間隔幅lで、本明細書に開示される結合されたノズル/スキマーペアにより印刷した形成要素の厚さプロファイルを示している。すべての場合で、θ=45°、a=10μm、s=20μm、及びg=100μmである。入口圧は32,000Paに維持した。間隔を、D=100μm(点線)からD=200μm(実線)及びD=400μm(破線)にまで変化させた。Dの値が大きいほど、側面がよりシャープに形成され、オーバースプレーの少ない、幅の狭いプロファイルが得られることが見出された。しかしながら、これよりも望ましいレベルのオーバースプレーを与える構成では、下記表2に示されるように材料利用効率も低下しうる。一般的にDを大きくすると材料の利用効率は低下するが、遠位場オーバースプレーは低減されることが見出された。
【表2】
【0089】
図14は、プリントヘッドと基板との間の種々の間隔gで、本明細書に開示される結合されたノズル/スキマーペアにより印刷した形成要素の厚さプロファイルを示している。すべての場合で、θ=45°、a=10μm、s=20μm、及びD=200μmである。入口圧は32,000Paに維持した。間隔を、g=50μm(破線)、g=100μm(実線)、及びg=200μm(点線)の間で変化させた。一般的にgの値が小さいほどシャープな堆積プロファイルが得られることが見出された。しかしながら、スキマー構造による許容可能なプロファイルが、最大で100μmの間隔で得られるのに対して、裸のノズルではノズル幅程度の間隔が通常は必要とされる。
【0090】
これらのデータから、必要とされる解像度、形成要素の間隔、及び実現可能なノズルの作動距離に基づいてOVJPプロセスと共に使用するためのスキマー・アンド・ノズルの寸法を指定することが可能である。
関連するパラメータは以下のものである。
【0091】
a:一般的に大きなノズルほど、鋭さの小さいピークを有する噴射流プルームを発生する。これにより、スキマーはより平行化されたビームを集めて、より拘束された真っ直ぐな壁を有する形成要素を印刷することが可能である。これに対して、ノズルを通る流速はa
3のスケールを有するため、排気キャビティ内の低い圧力を維持するために充分なキャリアガスを排気することは直ぐに困難又は不可能となりうる。
図12に示されるように、a=10μmは、テレビ又はモニターなどの大型のディスプレイで必要とされる解像度で印刷するために適当な値であると考えられる。
【0092】
θ:スキマー自体の好ましいスイープ角は、通常、スキマーの上流の流れの流線の摂動を最小化することと、スキマー壁との相互作用によるスキマーの下流のビームの散乱を最小化することとの妥協点である。前者の要求条件には大きなスイープが有利であるが、後者では小さいスイープが有利である。特定の構成では60°のスイープが最適と考えられる(Bird, 1976)。プリントヘッドにおけるスキマーの使用は、更なる制約条件を与える。分子ビームが基板にぶつかる前に発散する程度は、スキマーオリフィスsと基板との間の距離によって決まる。これは、スキマーの基部の膜が基板に触れることができないことから、高度にスイープされたスキマーでは基板から更に離れている。45°よりも大きいスイープでは、スキマーからのビームの平行化効果は、開口部と基板との距離がより大きいことにより打ち消された。スキマーの存在により、
図10に見られるように、45°から0°へのスイープで、より平行化された積層プロファイルが得られた。キャリアガスの流れ場の摂動が大きいことにより、浅いスイープ角では長距離のオーバースプレーが若干増大した。最適又は好ましい単一のスキマーシステムを製造するためには、スキマーの高さをスイープ角に沿って最適化する必要が生じる場合がある。更に、異なるスイープ角を有する一連の複合スキマーを使用することにより、このトレードオフを更に低減させることができる。最終的には、θがノズルの近くにおいて効果的に大きく、基板の近くで徐々に小さくなる湾曲したスキマープロファイルが望ましいが、こうした設計はより複雑であり製造コストがかかる。
【0093】
入口圧:キャリアガスはチョーク流れ条件でノズルオリフィスから出射されるが、これは噴射流の速度がいずれも場合もほぼ音速であることを意味する。したがって、基板に向けられる有機蒸気のビームの差は、キャリアガス噴射流の速度ではなく、主として密度によるものとなる。8,000Paの低い入口圧では、キャリアガス噴射流は、比較的拡散し、有機蒸気に大きな運動量を与えることはない。その結果、有機蒸気のビームの方向付けは弱くなり、印刷される形成要素の形状は不明瞭となる。32,000及び64,000Paのより高い入口圧では、より密度の高い噴射流がより大きな運動量を有機蒸気に与えるため、より強く方向付けされたビームが発生する。一般的には、64,000Pa以上の入口圧力で動作させても効果は薄れるようである。より強く方向付けされたビームの効果もまた、スキマーに作用する機械的応力、排気される排気ガスの体積、及び、特定の用途において大気圧で供給有機蒸気を製造することの困難性に対して、比較検討されなければならない。
【0094】
g:より小さいプリントヘッドと基板との間隔は、高解像度の形成要素を印刷するうえでより有利である。
図9に示されるように、スキマーを使用しない場合、印刷される形成要素のサイズはgのオーダーであり、大幅に広いオーバースプレーの尾部によって囲まれている。従来の工業用途では、通常必要とされるgの公差は、望ましい形成要素のサイズよりも大幅に緩い。
図14に示されるように、スキマーは、gよりも小さい形成要素を印刷し、gの大きさに対する印刷される形成要素の感度を低下させる手段を与えるものである。スキマーは、gに対する形状要素の幅の依存性を低下させるものであるが、依存性はそれでも存在し、gが大きい場合には形成要素は幅が広くなり、より拡散する傾向がある。
図14に示されるように、間隔が小さくなるほどより形状が明瞭な形成要素が一般的に形成される。
【0095】
D:ノズルとスキマーとの間の間隔が大きいほど、キャリアガスはより大きな下向きの速度を有機蒸気に与えることが可能である。より大きな有機分子をバルク噴射速度に加速するためには複数回の分子衝突が必要であることから、大きな加速ゾーンが有効である。ビームの発散性は、有機分子のバルク流の方向に直交する有機分子の熱速度によって決まるため、高速のビームほど発散性は小さい。更に、スキマーをノズルから遠ざかる方向に動かすことで、スキマーが、全体としてより幅の広いガス噴射流からより平行化された部分を分離することが可能となる。より大きな排気キャビティによって排気ガスがより効率的に排気されるために、スキマーによる流れの流線の摂動も小さくなる。しかしながら、上記に示したように、この改善も材料利用効率の低下とやはり関連を有しうる。ビームを形成するためにより遠くに配置されたスキマーによってノズルからスキミングされる噴射流の部分は全体としてより小さいため、より多くの有機蒸気が排気中に残る。a=10μmのノズル及びs=30μmでは、D=200μmが解像度と材料利用度とのバランスを取るうえで妥当な値である。
【0096】
最後の関連パラメータは、スキマー排気における圧力である。高いスキマー排気圧が存在すると、排気圧が、オリフィスを通る噴射流の膨張を引き起こし、スキマーがノズルとして機能することによって性能が低下する傾向があり、望ましくない。キャリアガス中における有機蒸気の比較的長い平均自由経路及び高い拡散性のため、排気圧は、ノズルによって発生した噴射流の膨張を制限するうえでほとんど効果がない。本明細書に述べたシミュレーションは、スキマーの出口圧は低いほど良いことを示唆している。したがって、シミュレーションは、スキマー排気を能動的にポンピングすることによって実用上実現可能な値である100Paの排気圧で行った。
【0097】
上昇流(upstream)及び下降流(downstream)の圧力に対する要求条件を用いて、大型のパネルディスプレイ及び同様の装置に使用されるような高解像度の大型パネルOLEDの製造において有用な特定のノズル寸法で求められる流速を決定することができる。2枚の平行なプレート間の流れは、上昇流及び下降流の圧力P
1及びP
2の関数として式1により与えられる。これは、厚さ30μmのSi膜を通して幅a=10μmで深さd=400μmにカットされた開口部を有する矩形スリットノズルの場合を近似したものである。
【0098】
【数4】
【0099】
上記の条件及び600KのHe供給ガスを仮定すると、ノズル1個当たり1.25sccmの流量が必要である。aに対する3乗依存性のため、この値は、より狭い(a=4μm)ノズルでは大幅に低下する。その場合、ノズル1個当たりで必要とされるのはわずか0.08SCCMである。逆に、a=30μmのようにより大きなノズルとした場合、32,000Paの圧力差を維持するためには40sccmを上回る流量が必要とされる。
【0100】
スキマーから流れを排気することが、プリントヘッドの設計の最も重要な側面である。余分なキャリアガスをスキマー周辺から除去することができる速度によって、ノズル開口部のサイズ及び入口圧が規定される。キャリアガスの排気は、プリントヘッドから除去されるためには、2つの流量状態で流れなければならない。第1に、キャリアガスの排気は、自由分子流として出口ビアを通過しなければならない。ビアを通るガス質量流量Qは、式2により与えられる。この後、ガス流は、高真空排気につながる巨視的なプリナムを通過しなければならない。
【0101】
【数5】
【0102】
厚さt=100μmのSiにエッチングすることが可能な半径r=200μmの2個のビアを仮定すると、各ビアを通じて1.25sccmを流すためには、約50Paの圧力差が必要となる。
図3の正方形のビアの近似として円形のビアを用いている点に注意されたい。
【0103】
ノズル及びプリントヘッドダイからの流れを受け入れるプリナムは、そのより長い固有の寸法のため連続的流量状態として扱うことができる。その場合、流れに対する伝導率は式3により与えられる。
【0104】
【数6】
【0105】
半径r=1cm、及び長さD=40cmの排気プリナムを仮定すると、10個の10μmノズルのアレイによって発生される12.5sccmの排気ガスを輸送するためには12Paの圧力差が必要とされることになる。予想されるスキマー排気圧は65Paである。しかしながら、実際のシステムにおいて実現可能な最小のスキマー排気圧は、例えばプリナムにおける分子効果、及びプリナムにダイを結合する構造内における損失のため、より高くなりうる。
【0106】
本明細書において述べられる異なる実施形態は、あくまで例としてのものに過ぎず、発明の範囲を限定することを目的としたものではない点は理解される。例えば、本明細書に述べられる材料及び構造の多くは、発明の趣旨から逸脱することなく他の材料及び構造に置き換えることができる。したがって、特許請求される本発明は、当業者には明らかであるように、本明細書に述べられる特定の実施例及び好ましい実施形態からの変形を含みうる。発明がなぜ機能するかに関しての様々な理論は、限定を目的としたものではない点は理解される。