特許第6209511号(P6209511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209511
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】コンテンツを提供するシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   G01N27/62 E
【請求項の数】14
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2014-512374(P2014-512374)
(86)(22)【出願日】2013年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2013002833
(87)【国際公開番号】WO2013161315
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100141(P2012-100141)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−287531(JP,A)
【文献】 特開2007−148476(JP,A)
【文献】 再公表特許第2012/029312(JP,A1)
【文献】 特表2005−513481(JP,A)
【文献】 特開2008−076403(JP,A)
【文献】 特開2005−208725(JP,A)
【文献】 特開2011−054181(JP,A)
【文献】 特表2012−519926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、前記スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報に関連付されたコンテンツを提供するシステムであって、
複数のコンテキスト情報、複数のストック済みのスペクトラムデータ、および前記複数のコンテキスト情報に対する前記複数のストック済みのスペクトラムデータの第1のランク付けスコアを含むデータベースと、
前記得られたスペクトラムデータに対する前記ストック済みのスペクトラムデータの第2のスコアを算出する照合ユニットと、
前記照合ユニットにおいて算出された前記第2のスコアが高い前記ストック済みのスペクトラムデータに対する前記第1のランク付けスコアの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、前記算出された前記第2のスコアおよび前記第1のランク付けスコアを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データを出力するユニットとを有するシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記出力データに含まれるコンテンツの中からクライアントに選択されたコンテンツの情報を取得するユニットと、
前記得られたスペクトラムデータを、前記選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対して前記第1のランク付けスコアとともに前記データベースに加える更新ユニットとを有する、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記データベースは、前記ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含み、
前記照合ユニットは、前記得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量の第2のランク付けを行い、前記第2のランク付けの高い特徴量から前記第2のスコアを算出する機能を含む、システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記検索要求は、前記得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含み、
前記照合ユニットは、前記得られたスペクトラムデータの特徴量および前記ストック済みのスペクトラムデータの特徴量の少なくともいずれかを前記周辺情報により補正する機能、または前記ストック済みのスペクトラムデータの中から照合対象となるスペクトラムデータを選択する機能を含む、システム。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記検索要求は、前記得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含み、
前記データベースは、前記複数のコンテキスト情報を前記環境条件の少なくともいずれかに対してランク付けする情報を含み、
前記出力するユニットは、前記環境条件に対するランクを含む前記総合評価の高い順番で、コンテキスト情報に関連付されたコンテンツがクライアントに選択されるように前記出力データを生成するユニットを含む、システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記スペクトラムデータは、測定対象の粒子をイオン化し、非対称な電界を印加した間隙の間を空気とともに通過させ、印加する電界の条件を変化することにより通過するイオン電流の変化を測定したデータである、システム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記コンテキスト情報は化学物質関連情報を含む、システム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記センサーが搭載された端末から前記検索要求を受信するユニットを有し、
前記出力するユニットは、前記検索要求の要求元の前記端末に前記出力データを送信するユニットを含む、システム。
【請求項9】
コンテンツ供給装置が、センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、前記スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報に関連付されたコンテンツを提供することを含む方法であって、
前記コンテンツ供給装置は、複数のコンテキスト情報、複数のストック済みのスペクトラムデータ、および前記複数のコンテキスト情報に対する前記複数のストック済みのスペクトラムデータの第1のランク付けスコアを含むデータベースを有し、
前記コンテンツを提供することは、
前記得られたスペクトラムデータに対する前記ストック済みのスペクトラムデータの第2のスコアを算出することと、
算出された前記第2のスコアが高い前記ストック済みのスペクトラムデータに対する前記第1のランク付けスコアの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、前記算出された前記第2のスコアおよび前記第1のランク付けスコアを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データをランク出力することとを有する、方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記コンテンツを提供することは、さらに、
前記出力データに含まれるコンテンツの中からクライアントに選択されたコンテンツの情報を取得することと、
前記得られたスペクトラムデータを、前記選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対して前記第1のランク付けスコアとともに前記データベースに加えることとを有する、方法。
【請求項11】
請求項9または10において、
前記データベースは、前記ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含み、
前記第2のスコアを算出することは、前記得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量の第2のランク付けを行い、前記第2のランクの高い特徴量から前記第2のスコアを算出することを含む、方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記検索要求は、前記得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含み、
前記第2のスコアを算出することは、前記周辺情報により前記得られたスペクトラムデータの特徴量および前記ストック済みのスペクトラムデータの特徴量の少なくともいずれかを補正すること、または前記ストック済みのスペクトラムデータの中から照合対象となるスペクトラムデータを選択することを含む、方法。
【請求項13】
請求項9ないし11のいずれかにおいて、
前記検索要求は、前記得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含み、
前記データベースは、前記複数のコンテキスト情報を前記環境条件の少なくともいずれかに対してランク付けする情報を含み、
前記出力することは、前記環境条件に対するランクを含む前記総合評価の高い順番で、コンテキスト情報に関連付されたコンテンツがクライアントに選択されるように前記出力データを生成することを含む、方法。
【請求項14】
前記1ないし8のいずれかのシステムとしてコンピュータを動作させる命令を有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の波形成分を含むデータなどのスペクトラムデータに対するコンテンツを提供するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高感度に化学物質を検出、分析する技術として、近年、フィールド非対称性イオン移動度分光計(FAIMS)と呼ばれる装置がある。この装置では、センサーに印加する直流電圧と交流電圧を変化させることにより、イオン化された化学物質の移動度の変化を、微細な構成のフィルタによって検出し、その検出結果の差異により化学物質に関連するデータを出力できる。
【0003】
国際公開WO2006/013396号公報には、複数の電極を有する少なくとも1つのイオンチャネルの形状のイオンフィルタを有するイオン移動度分光計について記載されている。このイオン移動度分光計では、導電層に印加される時間変化する電位により、充填剤はイオン種を選択的に入れることができる。電位は、駆動電界成分および横電界成分を有し、好ましい実施形態において、電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。デバイスは、ドリフトガスフローがなくても用いることができる。さらに、この文献には、分光計の種々の用途であるようなマイクロスケール分光計を製作するための微細加工技術について記載されている。
【発明の概要】
【0004】
コンテキストアウェアネス(Context Awareness)と称される技術が提唱されている。コンテキストアウェアネスは幾つかの意味または定義を含むが、その1つは、膨大な量に及ぶ世の中の事象を、様々なタイプのセンサーから情報や画像情報などを用いて人間が意識せずとも、水面下でコンピュータが能動的にデータを収集・処理し、情報化する技術およびそれらの概念である。近年、コンテキストアウェアネスの具体的な実現方法が求められている。
【0005】
本発明の一態様は、センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報を含むコンテンツを提供するシステムである。このシステムは、複数のコンテキスト情報(コンテキスト情報セット)、複数のストック済みのスペクトラムデータ、および複数のコンテキスト情報に対する複数のストック済みのスペクトラムデータの第1のランク付けスコアを含むデータベースと、得られたスペクトラムデータに対するストック済みのスペクトラムデータの第2のスコアを算出する照合ユニットと、照合ユニットにおいて算出された第2のスコアが高いストック済みのスペクトラムデータに対する第1のランク付けスコアの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、算出された第2のスコアおよび第1のランク付けスコアを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データを出力するユニット(出力ユニット)とを有する。
【0006】
このシステムにより、多様な要因が反映されたデータであるスペクトラムデータ(スペクトロスコピックデータ)を解析し、ストック済みのスペクトラムデータのスコアを計算し、ストック済みのスペクトラムデータのコンテキスト情報に対するランクで、高い順番にスペクトラムデータに関連するコンテキスト情報に関連付けられたコンテンツを順番にユーザに提供できる。
【0007】
センサーは、画像センサー、音声センサー、接触センサー、分析装置、たとえば、クロマトグラフィー、質量分析器、イオン移動度センサー、分光分析装置(赤外分光、ラマン分光、近赤外分光、NMR)、生体情報モニタ、たとえば心電図モニタ、呼気検出器、脳波検出器、MRI、CTなどのスペクトラムデータを出力するセンサーであればよく、センサーは1つであっても複数であってもよく、さらにセンサーのタイプは1種類であっても複数種類であってもよい。また、センサーにより得られるスペクトラムデータのドメインタイプは時間、周波数、波長、電圧などに限定されず、複数であってもよい。
【0008】
コンテキスト情報は、これらのセンサーにより収集される広範囲な情報を含み、たとえば、センサーにより直接または間接的に感知される情報あるいは感知されるべき情報、センサーで取得した情報(データ)に対して適当な処理、たとえば、認識処理や縮約処理を行った情報などが含まれる。コンテキスト情報は、たとえば、画像認識された情報、音声認識された情報、分析装置により認識された化学物質に関連する情報、生体情報などであってもよく、複数のタイプの異なる情報を含んでいてもよい。
【0009】
コンテキスト情報に関連付けられたコンテンツは、コンテキスト情報が含まれるコンテンツ、コンテキスト情報と密接に関連したコンテンツ、コンテキスト情報をバッググランドとしたコンテンツなどであってもよい。コンテンツは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)で感じられるもの、たとえば、テキスト、画像、音、匂い、仮想現実などであってもよく、分野は、科学、政治、文化、医療、衣食住に関わる情報など多種多様なものであってもよい。出力対象となるコンテンツは、ユーザー(クライアント)が限定してもよく、限定しなくてもよい。
【0010】
このシステムは、出力データに含まれるコンテンツの中からクライアント(ユーザ、視聴者、検索要求元、端末側、端末所有者)に選択されたコンテンツの情報を取得するユニットと、得られたスペクトラムデータを、選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対して第1のランク付けスコアとともにデータベースに加える更新ユニットとを有することが望ましい。新たに得られたスペクトラムデータをランク付けした後にデータベースに加えることにより、新たに得られたスペクトラムデータの評価を、次のスペクトラムデータを検索する際に反映できる。データベースにおけるスペクトラムデータとコンテキスト情報とのランキングは、バリアブルであってもよく、0−100(1−0、オンオフ)であってもよい。オンオフの場合は、コンテキスト情報と結びついたストック済みのスペクトラムデータ(ゴールデンデータ)が更新される場合がある。
【0011】
データベースは、ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含むことが望ましく、照合ユニットは、得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量を第2のランク付けを行い、第2のランク付けの高い特徴量から第2のスコアを算出する機能を含むことが望ましい。得られたスペクトラムデータとストック済みのスペクトラムデータとを、特徴量に基づいて比較し、スコアを算出できる。
【0012】
検索要求が、得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含む場合は、照合ユニットは、得られたスペクトラムデータの特徴量およびストック済みのスペクトラムデータの特徴量の少なくともいずれかを、周辺情報により補正する機能、またはストック済みのスペクトラムデータの中から照合対象となるスペクトラムデータを選択する機能を含むことが望ましい。周辺情報を用いてスペクトラムデータの特徴値を補正(補償)することにより照合の精度を向上できる。また、周辺情報、たとえば、稼働中のアプリケーションや画像情報などを用いて照合する対象を限定することにより、照合の精度を向上できる。
【0013】
また、データベースが複数のコンテキスト情報を環境条件の少なくともいずれかに対してランク付けする情報を含み場合は、システムの出力するユニットは、環境条件に対するランクを含む総合評価の高い順番で、コンテキスト情報に関連付されたコンテンツがクライアントに選択されるようにする出力データを生成するユニットを含むことが望ましい。環境条件は、温度、湿度、気圧、天候、その他の気象条件、室内外における位置、端末で作動しているアプリケーション、また、それらから想定される周囲の条件などの何れかまたは複数の情報を含む。これらの情報を含む総合評価に基づいて、高次のコンテキスト情報を選択することにより、クライアントが所望するコンテンツにいっそう近いコンテンツを提供できる。
【0014】
スペクトラムデータ(スペクトスコピックデータ)の典型的なものは、2次元または3次元以上の多次元の測定データである。典型的なスペクトラムデータの1つは、測定対象の粒子をイオン化し、非対称な電界を印加した間隙の間を空気とともに通過させ、印加する電界の条件を変化することにより通過するイオン電流の変化を測定したデータである。イオン移動度センサーにより得られるコンテキスト情報に含まれる典型的な情報は、匂い(臭い)などの化学物質関連情報である。
【0015】
このシステムは端末などのモバイル機器に搭載されるものであってもよく、コンピュータネットワークを介して端末と接続されるサーバーやデータセンターなどの固定または半固定されたシステムであってもよい。サーバーを用いたシステムは、センサーが搭載された端末から検索要求を受信するユニットを有し、出力するユニットは、検索要求の要求元の端末に対し、コンテンツを順番に出力するためのデータを送信するユニットを含む。出力するユニットは、クライアントに選択されたコンテンツをクライアントの端末に出力するためのデータを出力するユニットを含んでいてもよい。
【0016】
本発明の他の1つの形態は、上述したシステムとしてコンピュータを動作させるプログラム(プログラム製品)である。
【0017】
また、本発明のさらに異なる他の形態の1つは、コンテンツ供給装置、たとえば、コンピュータが、センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報に関連付されたコンテンツを提供することを含む方法である。コンテンツ供給装置は、複数のコンテキスト情報、複数のストック済みのスペクトラムデータ、および複数のコンテキスト情報に対する複数のストック済みのスペクトラムデータの第1のランク付けスコアを含むデータベースを有する。また、コンテンツを提供することは、以下のステップを含む。
・得られたスペクトラムデータに対するストック済みのスペクトラムデータの第2のスコアを算出すること(スコア算出プロセス)。
・算出された第2のスコアが高いストック済みのスペクトラムデータに対する第1のランク付けスコアの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、算出された第2のスコアおよび第1のランク付けスコアを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データを出力すること(垂直ランキングプロセス、第1のランキングプロセス)。
【0018】
コンテンツを提供することは、さらに、以下のステップを含むことが望ましい。
・出力データに含まれるコンテンツの中からクライアントに選択されたコンテンツの情報を取得すること。
・得られたスペクトラムデータを、選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対して第1のランク付けスコアとともに前記データベースに加えること(再ランキングプロセス)。
【0019】
データベースは、ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含み、スコア算出プロセスは、得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量の第2のランク付けを行い、ランクの高い特徴量から第2のスコアを算出すること(水平ランキングプロセス、第2のランキングプロセス)を含むことが望ましい。
【0020】
検索要求は、得られたスペクトラムデータが取得されたときの環境条件を含む周辺情報を含みことが望ましい。また、スコア算出プロセスは、周辺情報により得られたスペクトラムデータの特徴量およびストック済みのスペクトラムデータの特徴量の少なくともいずれかを補正すること、またはストック済みのスペクトラムデータの中から照合対象となるスペクトラムデータを選択することを含むことが望ましい。
【0021】
さらに、データベースに複数のコンテキスト情報を環境条件の少なくともいずれかに対してランク付けする情報を予め設け、出力すること(垂直ランキングプロセス)は、環境条件に対するランクを含む総合評価の高い順番で、コンテキスト情報に関連付されたコンテンツがクライアントに選択されるように、出力データを生成することを含むことが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】化学物質分析システムを表すブロック図。
図2】OLPの構成を示すブロック図。
図3】FAIMS装置の測定データの例を示す図。
図4】分析方法(分析処理)の概要を示すジェネラルフローチャート。
図5】ピーク特性処理の詳細を表すフローチャート。
図6】ピーク波形の分離処理の詳細を表すフローチャート。
図7図6で示される、ピーク波形の分離処理の例を示す図。
図8】ピーク特性の連続性検出処理の詳細を表すフローチャート。
図9】化学物質ピークのグルーピング処理の詳細を表すフローチャート。
図10】リアクタントのピークグルーピング処理の詳細を表すフローチャート。
図11】対象化学物質のピークグルーピング処理の詳細を表すフローチャート。
図12】対象化学物質の基礎データベース作成処理の詳細を表すフローチャート。
図13】化学物質の基礎データベースの構成を示す図。
図14】水平ランキング処理の詳細を表すフローチャート。
図15】水平ランキングテーブル。
図16】イオン電流補正処理を表すフローチャート。
図17】イオン移動度の計算処理を表すフローチャート。
図18】センサーデバイスの実証モデルデータ例。
図19】センサーデバイスの伝達特性例。
図20】化学物質測定結果データベース(一次(基礎)および2次)の例。
図21】化学物質の同定処理を表すフローチャート。
図22】化学物質の特徴データ行列の例。
図23】参照対象の化学物質の特徴データ行列の例。
図24】特徴データ行列の対応関係図(1)。
図25】特徴データ行列の対応関係図(2)。
図26】ゴールデンデータのデータベース構成。
図27】垂直ランキング処理説明図。
図28】データベースの更新処理。
図29】イオン移動度特性の抽出例。
図30】イオン移動度特性(正イオン電流)。
図31】イオン移動度特性(負イオン電流)。
図32】化学物質の同定処理の説明図。
図33】第2の実施例によるジェネラルフロー。
図34】第3の実施例によるジェネラルフロー。
図35】第4の実施例によるジェネラルフロー。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、イオン移動度センサーの1つであるFAIMSをセンサーとして備えた装置を例にさらに詳しく説明する。FAIMS(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry)では、Vd電圧(Dispersion Voltage、電界電圧(Vd)、交流)とVc電圧(Compensation Voltage、補償電圧、直流)の2つの変量に応じて変化するイオン電流を検出することが可能である。検出されたイオン電流の波形(スペクトラムデータ、スペクトロスコピックデータ)SDは化学物質固有の波形が含まれるので、化学物質の特定を行うことが可能である。得られるデータSDは、イオン電流の値を含めると3次元のデータとなる。また、化学物質は、その特性に応じて、たとえばVd電圧を固定化した場合に、Vc電圧を変えることにより、測定対象の化学物質のイオン移動度の特性によりイオン電流値はピークを形成し、それが複数個になることもありうる。
【0024】
FAIMS(FAIMS装置、FAIMSセンサー)で得られるデータSDは、2次元データをパラメータとしてピーク(波形)を含むイオン電流が含まれ、全体としては3次元データとなる。さらに1つの化学物質から得られるデータSDでも、複数のピークが含まれる。このため、ガスクロマトグラフィーなどの他の分析装置と同様に、分析技術の習熟が必要であり、分析結果から単純に結論を出すことが難しい。
【0025】
また、FAIMSでは、通常の空気が存在する環境の下で測定する場合が多く、予測しない他の化学物質が混在することもあり得る。この場合、混在する他の化学物質の影響で、目的とする化学物質が本来示すべき特性が得られず、測定結果を誤って判断することが起こりえる。他の化学物質の混在だけでなく、その他の環境条件、例えば、温度、湿度、気圧、流量等の影響も避けられない。
【0026】
以下においては、FAIMSから得られる2次元データSD、または多次元データSDを、センサーから得られるスペクトラムデータの典型例として本発明を説明する。データSDにはイオン電流の特性が含まれる。特性の1つは、データSDに含まれるピークであり、ある次元のパラメータの近隣のデータ間の相関からピークは特定され得る。それらのピークの中の特定のピークを派生させる共通の要因の1つは、化学物質の特定のグループであると想定できる。グループ化された化学物資の特性、具体的にはイオン移動度の測定値を検出するのに用いたセンサーに固有の特性があればその影響を補正し、さらに温度、湿度等のセンサーに依存しない環境条件等の影響も補正することにより、それらの影響を排除できる可能性があり、特定の化学物質本来の特性を見出し得る可能性がある。
【0027】
具体的には、ある特定のVd電圧に対し、Vc電圧を変化させた場合に現れるイオン電流のピークに対し、近隣のVd電圧の場合のピークとの相関を調べ、それらが同じ化学物質から派生しているのか否かを判定し、測定結果に表れるピークを、派生させる化学物質毎にグループ化することが可能である。近隣のイオン電流のピークの相関は、ピークの現れる場所、ピークの幅、ピーク値だけでなく、イオン化された物質の理論上の特性等を考慮して判断される。さらに、測定系に存在する物質のイオン化エネルギー値を参照して、測定された化学物質の特性(測定値)から、測定に用いたFAIMSセンサーの特性に依存する部分を補正することにより、より正確なイオン電流値を求める。
【0028】
さらに、FAIMSセンサーの特性に依存しない、温度、湿度、圧力、流量、等の環境条件の影響も補正して、より正確なイオン電流値を算出する。これにより、対象の化学物質の特定(同定)を、より高い精度で行うことができる。また、測定対象の化学物質の特定時に参照するリファレンスデータに対しても、測定対象と同じ環境条件に対する補償処理を施し、測定結果が信頼に足る場合には、その結果の一部、あるいは全部をリファレンスデータの一部あるいは全部と入れ替えることにより、リファレンスデータの更新処理を行う。
【0029】
図1は、化学物質を分析および解析して結果を出力するシステムを表すブロック図である。システム1は、典型的には、ノート型のパーソナルコンピュータ10を中心としたシステム1として実現される。パーソナルコンピュータ(PC)10は、CPU11と、適当なメモリ12と、ハードディスクなどのストレージ13と、ユーザインタフェースを提供するローカルな入出力インタフェース14と、例えば、無線LAN15、有線LAN16を介して下界(外部)の機器とデータ交換するための通信インタフェース(トランシーバ)17と、これらを接続するバスシステム18とを備えている。ローカル入出力インタフェース14には、キーボード21などの入力機器と、液晶ディスプレイ22などの画像出力機器と、スピーカ23などの音響出力機器と、マイクロホン24などの音響情報を取得するための機器が接続されている。システム1は、これらの入出力デバイスをふくんでいてもよく、入出力デバイスを接続するためのインタフェースが用意されているものであってもよい。
【0030】
バス18には、さらに、センサー61から得られた測定データの解析機能を含むデバイス(臭覚プロセッサ、OLP、OLfaction Processor)40が接続されている。OLP40は、1つの集積化されたデバイス(半導体チップ)または複数の集積化されたチップ(チップセット)として提供することができる。
【0031】
PC10は、さらにセンサーコントローラデバイス50を備えている。センサーコントローラデバイス50は、OLP40により制御され、OLP40に対して各種のデータを供給する機能を果たす。センサーコントローラデバイス50は、各種のセンサーと接続され、データを取得(サンプリング)するためのセンサーインタフェース51と、いくつかのセンサーの測定条件を変えることができるセンサードライバ・コントローラユニット(SDCU)52とを備えている。
【0032】
典型的なセンサー61は、空気中の物質(化学物質)を検出するセンサーであり、非対称電界イオン移動度スペクトロメータ(FAIMS)または微分型電気移動度スペクトロメータ(DMS)が知られている。この種のスペクトロメータ(センサー、以降においては総称してDMS)は、高圧−低圧に変化する非対称電界に、イオン化した流体サンプル(例、ガス、液体又は蒸気)を入力し、イオンの電界移動度に基づいてそれらをフィルタリングした結果を出力する。DMS61の測定条件は、SDCU52により制御される。
【0033】
DMS61の一例は、国際公開WO2006/013396または国際公開WO2006/013890に記載されたイオン移動度分析装置である。これらはモノリシックな、またはマイクロマシン型のコンパクトな質量分析装置であり、十分に携帯できるものである。センサーインタフェース51には、さらに、温度、湿度、などの環境情報(環境条件)を測定するための複数のセンサー群(環境情報センサー群)70が接続されている。環境条件測定用のセンサー群70は、温度センサー71、湿度センサー72、圧力センサー73、エアーフローセンサー74を含む。さらに、センサーインタフェース51は、エアーポンプ75を制御する機能を含む。エアーポンプ75は、必須の構成ではない。エアーポンプ75は、アプリケーションの要求、外界条件などにより上記の環境条件測定用のセンサー群70および/または臭覚センサーであるDMS61に強制的に外気を供給することを可能としている。62は化学物質を含むガスを臭覚センサーDMS61へ送り込む口であり、下界の状況により単独で、あるいはエアーポンプ75の助けを借りて化学物質を臭覚センサー61へ送り込む。
【0034】
OLP40を含むシステムのもっとも小さい単位は、デバイス(集積回路チップ)40そのものである。OLP40を含むシステムは、PC10であっても良く、さらにはOLP40を搭載した水質検査装置、微小な麻薬物質の検出が可能な麻薬検出装置や、患者の呼気から疾患の罹患状態を調べる健康モニタ装置などであっても良い。
【0035】
OLP40は、解析機能を備えており、外気あるいは周辺の空気のにおい(匂い、芳香、臭い)の要因となる化学物質をリアルタイムで検出(解析)することができるデバイスあるいは装置である。においの情報は、健康および安全にかかわる多くのアプリケーションで重要な役割を果たす。OLP40は、においの情報を出力する機能(臭覚機能)をポータブルな家電装置やPC10に搭載することを可能としている。
【0036】
においの要因は、周囲の空気に含まれる化合物、ガスなどの化学物質である。以下において、化学物質とは、化合物、分子および元素を含み、成分あるいは組成物に限らず、生成物も含む。それらにおいの要因は、水晶センサー(QCM、Quartz Crystal Microbalance)、電気化学的なセンサー、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、光センサー、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析装置などのセンサーにより検出できる。これらのセンサーは、化学物質の存在により変化(変動)する量(物理量)を検出できるものである。これらのセンサーの多くは、かさばっていて複雑であり、日常で使用されるアプリケーションに使用することは容易ではない。さらに、これらのセンサーの幾つかは、少量のガスまたはその他の特定の化学物質にのみ鋭敏であったり、感度が温度と湿度に応じて変わるなどの制限もある。
【0037】
近年、上述したようにコンパクトで携帯が可能で、においの要因を検出できる分析装置が検討されている。イオン移動度(Ion Mobility)および光学(赤外線、NMR)を使用した分析デバイスは、単一チップに纏められた小さなセンサーを提供可能であり、家庭における健康および安全管理のような種々様々のアプリケーションに使用できる可能性がある。
【0038】
これらの分析装置(センサー)は、特定の成分(化学物質)に敏感なセンサーと比較すると汎用性が高く、分析可能な範囲内では、ほとんどすべての成分の有無および強度(濃度)を同じ程度の精度で検出できる。しかしながら、分析装置は化学物質の存在を示唆する大量のデータを出力する。そのため、センサーの出力データをPC10のCPU11で処理しようとするとCPU11の処理能力が過大でないと、臭覚を実現しようとするために他のアプリケーションを実現できなくなったり、処理能力が著しく制限されたりする可能性がある。OLP40は、そのような不便さに対しても解を提供できるものである。すなわち、図1に示したようなPC10をベースとするシステム1に限らず、ワンチップ化されたOLP40を搭載することにより、家電や携帯電話などの極めてハンディーな電子端末、ホームセキュリティ用の機器などに、経済的に臭覚機能を搭載することが可能となる。また、センサーはイオン移動度センサーに限定されず、上述したように、スペクトラムデータを出力するタイプであればよい。
【0039】
上述したフィールド非対称質量分析計(FAIMS、Field Asymmetric waveform Ion Mobility Spectrometry、またはDIMS、Differential Ion Mobility Spectrometry)のようなMEMSセンサーを、OLP40とともに用いることにより、高価なCPUまたはDSPが不要で、大きな機械的な部品も不要で、さらに、複雑なコントロール回路類も解析回路類も不要な、低コストの、においを記録、認識できるシステム1を提供できる。
【0040】
図2に、OLP40の機能をブロック図により示している。OLP40は、センサーコントローラデバイス50を介してセンサー61からのデータSD、および、温度湿度などの環境情報を含む周辺情報PIとを受信する入力インタフェース41と、センサーコントローラデバイス50を介してセンサー61の測定条件を制御するコンディショナー42と、得られたデータおよび情報を解析してコンテンツを提供する検索ユニット(解析ユニット)40sとを含む。周辺情報PIには、センサーコントローラデバイス50を介して得られた情報の他に、CPU11などから得られるアプリケーション情報、マイクロホン24から得られる音響情報、不図示のカメラから得られる画像情報、GPSから得られる位置情報などを含めることが可能である。この検索ユニット40sが提供するコンテンツは、化学物質情報をコンテキスト情報としてそれを含むコンテンツ、コンテキスト情報に関連するコンテンツ、コンテキスト情報から想定されるコンテンツなど様々である。
【0041】
化学物質に関するコンテンツ(情報)には、化学物質そのものの名前、性質などが含まれる。化学物質に関連するコンテンツ(情報)には化学物質を含む製品の名前、性質、属性などが含まれる。化学物質から想定されるコンテンツ(情報)には、化学物質が直接または間接的に要因となる事象、化学物質が直接または間接的な結果となる事象などが含まれる。たとえば、爆弾、テロ、火災、その他の災害または脅威となる現象、様々な病気、障害、育成状況、天候、などの様々な生物学的、物理学的、化学的、および社会的な現象が含まれる。検索ユニット40sは、これらのコンテキスト情報を含むまたは関連するコンテンツをデータベースで持っていてもよく、PC10の機能を用いてネットワーク上に供給されているコンテンツから選択してもよい。
【0042】
OLP40の検索ユニット40sは、入力インタフェース41を介して得られたスペクトラムデータASDおよび周辺情報PIを処理して特徴点(特徴量)を抽出する前処理ユニット43と、複数のコンテキスト情報Cx、および複数のコンテキスト情報Cxに対しそれぞれランク付けされた複数のストック済みのデータ(スペクトラムデータ)SSD(本例においてはそれぞれのデータの特徴量)を含むデータベース44を有する。データベース44は、さらに、コンテキスト情報Cxに対しそれぞれランク付けされた周辺情報PIを含んでいてもよい。周辺情報PIは、温度、湿度などの周辺情報PIに含まれる環境条件の一部の情報であってもよく、全てを含むものであってもよい。
【0043】
データベース44の一部あるいは全部は、ストレージ13に格納されていてもよい。OLP40は、さらに、得られたスペクトラムデータASDに対するストック済みのスペクトラムデータSSDのスコアScを算出する照合ユニット45と、スコアScおよびランクを含む総合評価Rsの高い順番で表示されるように、コンテキスト情報Cxを含む、または関連付されたコンテンツCCを出力する出力ユニット46とを有する。出力ユニット46は、出力ユニット46はコンテンツCCそのものではなく、コンテンツCCのタイトルを上記により定められた順番で、CPU11を介してディスプレイ22に表示する。ユーザ(クライアント)はディスプレイ22に表示されたタイトルTdから所望のものを選択して、コンテンツCCをディスプレイ22に表示する機能(機能ユニット)46aを含む。この例において、ディスプレイ22に表示されるタイトルTdが、評価の高い順番にコンテンツCCを出力するためのデータに対応する。
【0044】
すなわち、出力ユニット46は、照合ユニット45において算出されたスコアが高いストック済みのスペクトラムデータSSD(以降においてはゴールデンデータとして参照される)に対するランク付けの高いコンテキスト情報Cxに関連付されたコンテンツCCが、算出されたスコアおよびランクを含む総合評価Rsの高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データTdを出力する第1のユニット(機能ユニット)46aを含む。さらに、出力ユニット46は、周辺情報PIに含まれる環境条件に対するランクを含む総合評価Rsの高い順番で、コンテキスト情報Cxに関連付されたコンテンツCCがクライアントに選択されるようにタイトルが並んで表示されるデータ(出力データ)Tdを生成する第2のユニット(機能ユニット)46bを含んでいてもよい。
【0045】
OLP40は、出力ユニット46により出力されたコンテンツCCの中(コンテンツCCのタイトルTdの中)から選択されたコンテンツCCの情報を取得するもモニタリングユニット47と、得られたスペクトラムデータASDを、選択されたコンテンツCCに含まれるコンテキスト情報Cxに対してランク付けてデータベース44に加える更新ユニット48とを含む。
【0046】
データベース44は、さらに、ストック済みのスペクトラムデータSSDの特徴量CAvを含む。以下においては、特徴量CAvがゴールデンデータとして参照されることがある。照合ユニット45は、得られたスペクトラムデータASDの特徴量およびストック済みのスペクトラムデータSSDに含まれる特徴量CAvに基づきスコアScを算出する機能(機能ユニット)45aを含む。この算出する機能45aは、得られたスペクトラムデータASDに含まれる特徴量のランク付けを行い、ランクの高い特徴量からスコアScを算出する水平ランキング機能を含む。
【0047】
照合ユニット45は、得られたスペクトラムデータASDの特徴量およびストック済みのスペクトラムデータSSDの特徴量の少なくともいずれかを周辺情報PIにより補正する機能(機能ユニット)45bと、ストック済みのスペクトラムデータSSDの中から照合対象となるスペクトラムデータを周辺情報PIに基づき選択する機能(機能ユニット)45cとを含む。
【0048】
以下では、主にOLP40で行う解析処理(分析処理)をフローチャートにより示している。この処理は、OLP40とCPU11の分担処理で行うことも可能である。
【0049】
図3に、化学物質の典型的なFAIMSの出力データ(測定データ)ASDの例を示す。データASDは、Vd電圧をステップ状に変化させながら、Vc電圧を変えた場合のイオン電流の値として得られるスペクトラムデータ(スペクトロスコピックデータ)である。この図3では、最初の固定化されたVd電圧に対する、Vc電圧とイオン電流が、3次元表示のもっとも奥のラインに表されている。その後、Vd電圧を少しずつ増加させながら、同様に測定していき、三次元表示の奥から徐々に前の方へ出力が得られている。この例では、特定のVd電圧に対して、少なくとも3個のピークが表れていることが分かる。
【0050】
FAIMSセンサー61では、Vd電圧(Dispersion Voltage、MHz程度の周波数、たとえば、1から20MHz程度の周波数で、適当なデューティーサイクル(たとえば30%程度)のサイクリックに変化する交流またはパルスなどの交流電圧値)と、Vc電圧(Compensation Voltage、直流電圧値)の2つの変量に応じて変化するイオン電流を検出することにより、化学物質の特定を行うことが可能である。たとえば、一定の電界電圧Vdに対して補償電圧Vcを変化させることによりイオン電流の2次元のスペクトルが得られる。さらに、電界電圧Vdを変化させることにより3次元のスペクトルが得られる。電界電圧Vdは、たとえば、約1,000V/cmから約30,000V/cmまでの範囲、あるいはそれ以上の範囲を変化させる。一定の補償電圧Vcに対して電界電圧Vdを変化させて2次元のデータを取得し、さらに補償電圧Vcを変化させて3次元のデータを取得してもよい。いずれの場合もイオン電流を得るためのパラメータ(電界電圧Vdおよび補償電圧Vc)は2次元のスペクトルデータSDとなる。
【0051】
化学物質は、その特性に応じて、たとえば電界電圧Vdを固定化した場合に、複数のピークを形成することがある。たとえば化学物質(Dimethyl−Sulfoxide 、(CHSO)の場合、特定のVd電圧に対し、Vc電圧を変化させたとき、化学物質のイオン移動度の特性により、イオン電流に3個のピークが得られる。
【0052】
図4は、プロセッサ(OLP)40の解析機能(解析ユニット、検索ユニット)40sにより、DMS(FAIMS)61の測定データを処理する全体処理フローを表す。これらの処理はコンピュータ上で稼働するプログラム(プログラム製品)として提供することが可能であり、適当な記録媒体に記録して提供することができ、インタネットなどのコンピュータネットワークを介して提供することも可能である。また、後述するように、プロセッサ40で全てを行う代わりに、ネットワークを介して、複数の端末やサーバーにより、その処理を分散・分担させて解析することも可能である。
【0053】
解析処理(検索処理)は、対象物質特性測定処理(ターゲットケミカル測定処理、Measure Target Chemicals)80、ピーク特性検出処理(Peak Characterization)100、ピーク分類処理(Peak Classification)200、対象ケミカル統合化処理(Group Chemical Objects)300、対象ケミカルの一次(基礎)データベース作成処理(Create “Primary” Chemical database)400、水平ランキング処理(Horizontal Ranking)500、相対イオン電流計算処理(Calculate relative Ion current)600、環境条件補償処理(Compensation of environmental condition)700、対象ケミカルの同定処理(Identification of Chemical compound)800、データベース更新処理900とを含む。
【0054】
対象物質特性測定処理80、ピーク特性検出処理100、ピーク分類処理200、対象ケミカル(検出対象となる化学物質)を統合する処理300、対象ケミカル(検出対象となる化学物質)の基礎(一次)データベース作成処理400は、前処理ユニット43が通常実行する。水平ランキング処理500、相対イオン電流計算処理600、環境条件補償処理700は照合ユニット45が通常実行する。垂直ランキングプロセスを含む化学物質同定処理800は出力ユニット46が実行する。データベース更新処理900は更新ユニット48が実行する。
【0055】
図4に示したフローは、処理の概念を説明するためのものであり、厳密には必ずしもこの順番に処理されるものではない。例えば、処理500、600,700、800の部分は、例えば必ずしも処理500が完全に終了してから処理600が開始されるのではなく、繰り返し処理の中で統合されて順次処理される。同定処理800が終了すると、その結果が例えば図1の画像出力機器22上に表示される。ユーザは、未知の化学物質を測定している場合でも、または既知の、既に判明している化学物質を測定している場合でも、ユーザがその結果に満足すると、その結果を承認することになる。この場合、データベースの更新処理900が行われ、一連の操作が終了する。一方、ユーザが満足できる結果が得られない場合には、一般には測定系に不具合がないか、見直しを行ったりして、データを破棄して再度測定を行うことになる。(処理830)
【0056】
ピーク特性検出処理(Peak Characterization)100は、DMS61により測定されたデータの中に現れるイオン電流のピーク特性を測定する処理である。
【0057】
図5にピーク特性検出処理100のさらに詳細なフローを示す。このフローでは、1つの固定化されたVd電圧に対して、補償電圧Vcが変化した場合に、イオン電流の特性にピークが存在するのか否か、存在する場合に幾つ存在するのか、また存在する場合のピークの特性などを検出する処理である。
【0058】
処理101はこの処理フローのエントリーポイントである。処理102では、ピーク分離処理を行うための基準(Peak Separation rule table)を設定する。ピーク分離処理を行うための基準(基準特性)110は、ノイズ等と区別するための域値(Threshold)、ノイズ除去するためのフィルタ処理(平滑化処理)の形式指定(Filter Type)、ピーク特性の背後に現れるベースラインの特性(Baseline type)、ピーク分離に用いられる、カーブフィットの特性(Fit Type)などを含む。基準特性110は、アプリケーションに応じて、あるいはユーザの指定により特有の値が選択されるが、特に指定がない場合にはデフォルトの値が選択される。
【0059】
域値(Threshold)は、一般に測定結果に含まれる微細なノイズ成分と、特定の化学物質に起因するピークの識別を行うための域値を指定する。この域値が小さいと、微細なノイズもピークと判断して、不要な処理が行われることになる。一方、域値を大きくすると、不要なノイズは除去できるが、微細ながら必要なピークを見逃すことになる。これらの値はアプリケーションに応じて、経験上設定される。
【0060】
フィルタ処理の形式指定(Filter Type)は、ノイズを除去するための平滑化フィルタ処理の形式を指定する。具体的には、フィルタの次数や係数の指定を行う。
【0061】
ベースラインの特性(Baseline type)は、ピークが存在しない場合に本来表れるべきであり、ピークによって隠されているベースラインの特性を指定する。一般には、ピークがない場合には平坦(直線)になることが多いが、その場合でも一定の傾斜を持つことがある。本発明では、ベースライン特性を直線だけでなく多項式で近似できる。
【0062】
カーブフィットの特性(Fit Type)は、複数のピークが存在するときに必要な、ピークカーブのフィッティングを行うための特性の指定を行う。一般的には、ガウシアン特性が良く用いられるが、他の特性、例えばローレンツ特性なども指定可能である。
【0063】
処理103では、測定データASDとして、正極性のイオン電流測定結果(PosIon)および負極性のイオン電流測定結果(NegIon)とを取得し、その他の周辺情報PIとして環境条件のデータを取得する。FAIMS61では、同時に正極性のイオン電流と負極性のイオン電流が測定可能なものもあり、その場合の処理を表している。これらの値は、その後の処理において用いられる。
【0064】
処理104は、測定された電界電圧Vdの値の数だけの処理を行うためのループ処理である。処理104の中の判断文、「Matrix Rows==true」は、対応する一つの電界電圧Vdの値に対して、正極性と負極性のイオン電流の測定が行われ、そのデータが値(Matrix)の中に存在することを意味する。この1つの電界電圧Vdの値に対応する測定値に対して、ステップ105からステップ108までの処理が行われる。
【0065】
処理105では、そのイオン電流の測定値に対して、まず前値との差分をとり、前の局所的な最小値との差分が域値を超えるものに対してピークが存在すると仮定し、ピークの中心位置(position、補償電圧Vcの値)と、ピークが存在するベースの開始位置(Base start、同じく補償電圧Vcの値)、ベースの終了位置(Base end、同じく補償電圧Vcの値)が決定される。この処理は、「0」を含むピークの数だけ行われる。つまり、ピークが存在しない場合もあるし、複数存在する場合もある。
【0066】
処理106では、まずイオン電流の測定値に対して平滑化フィルタ処理を行い、処理105で検出/特定された各々のピークに対して、もっともピーク値の高いピークから順次、ベースラインの補正処理を行い、さらにガウシアン特性、スプライン近似などの方法によりピークフィッティング処理を行う。これらの処理により、複数のピークが重なり合った場合にも、ピークを分離処理することが可能となる。これらの処理に関しては、サブルーチンのピーク分離処理(Peak Separation)111として、別途図6を用いて説明する。
【0067】
処理107では、処理106で得られた複数のピークに対して、ユニークな番号を付し、またそのピークの特性(ピーク位置、ピーク値、ピーク幅などの特性)を求める。
【0068】
処理108では、処理107で得られたピーク特性のデータベースを最新の値に更新する。処理109は、処理100の終了ポイントである。
【0069】
図6にピーク分離処理(Peak Separation)111の詳細を示す。同図において、処理151はエントリーポイント、処理152は、ピーク分離処理をするための各種条件を設定するルーチンである。ピーク分離の基準(Peak separation Rule table)160をロードする。これらの基準160は、用いるアルゴリズムのタイプ、エラー最小の判定法、ピーク位置のトレースの有無、ピーク値の域値などである。
【0070】
処理153では、最初にすべてのピーク候補の位置のデータを取得する。処理154は、それ以下の処理をピークの候補の数だけ繰り返すための分岐である。処理は、もっともピーク値が大きいものから順次行われる。処理155では、ピークフィッティングの前処理を行う。具体的には、ピーク位置、ピーク幅、ピーク高などを求める。処理156では、ピークの背後に存在するはずの、ベースラインの位置を確定させる。ピークの傾斜特性と、ピーク外のベースラインの傾斜から、ピーク開始位置とピーク終了位置を求める。
【0071】
処理157では、例えばガウシアンカーブを用いたフィッティング処理を行う。フィッティング処理は、ピークが一つのガウシアン特性で近似できると仮定して、ピークを近似するガウシアン特性と、同じく近似したベースラインの値を加算した値が、実際のデータとの差分が最も小さくなるように、ピーク位置、ピーク幅、等のパラメータを変動させながら、二乗平均誤差あるいは誤差の絶対の累積値が最小になるように行う。次にこのピークが2つのガウシアン特性(2つのピーク)で近似できると仮定して、同様にピークフィッティング処理を行う。この処理は、元の波形とフィッティングされた波形の誤差が、フィッティングの域値を下回るまで、ガウシアン特性の数を増やしながら行われる。
【0072】
このような処理により、2つ以上のピークが重なり合ったデータに対しても、ピークを分離してそれぞれのピークを正しく特定することができる。
【0073】
図7に、このような処理の例を示す。この例では、2つのピークが、傾斜を持ったベースライン上で、重なり合っている。このような条件でも、ガウシアンカーブの数を増やしながら、ピークフィッティングを繰り返すことにより、2つのガウシアンカーブで近似することができ、重なり合った2つのピークが正しく分離されていることが明らかである。この様にして、重なり合った複数のピークを分離して、大きなピークの背後に隠れているピークを見つけることができる。またこの処理により、後で述べる半値幅(FWHM)の様に、重なりあった状態では検出できない値も求めることができる。
【0074】
処理158では、処理157のフィッティングで得られた結果が、他のそれまでの結果と矛盾しないかの検証を行い、問題ない場合にはその結果を真の結果として判断する。処理158を終了したら、次のピーク候補を処理するために処理154へ戻る。このような手順で、ピーク値の高いものから順次、最後のピーク候補まで、フィッティング処理を行う。処理159は、処理111の終了ポイントである。
【0075】
図8にピーク相関関係分析処理(Peak Relation Analysis)200の詳細フローを示す。処理201は処理200のエントリーポイントである。処理202では、ピークを分類するための基準(ルール)210を取り込む。具体的には、域値、平滑フィルタのタイプ、ベースラインタイプ、フィッティングの関数などであり、実際には前の処理100で用いられた各種パラメータあるいは条件である。これらのパラメータの一部は、処理200の中でも直接的に用いられるし、一部は前の処理100の結果を判定するときの条件として用いられる。
【0076】
処理203では、以下の処理204、205、206で形成されるループ処理の前処理を行っている。具体的には、最初のVd電圧(通常は測定したVd電圧の中でもっとも低い電圧)に対するイオン電流の測定結果(スペクトラム)から、その中に存在するすべてのピークに対して、トラッキングするための窓(ウィンドウ)を割り当てる。具体的には、各ピークの位置を窓の位置とし、高さと前後の幅を持たせる。(ピーク中心のVc電圧に対しプラスマイナスΔの電圧値を持たせる。)
【0077】
処理204は、イオン電流の測定結果を収納するマトリクスの中の、最初の電界電圧Vdの値に対する測定結果の行(Row)から、最後の電界電圧Vdの値に対する測定結果の行までの繰り返し処理を行うための分岐である。繰り返し行う処理内容は、処理205に示す処理と、処理206に示す処理である。
【0078】
処理205では、処理203で設定した初期値、あるいはひとつ前のループで設定したピークの窓に対して、今回処理するデータの中のピークがどれだけ移動しているかを調べる。新しいピーク位置が、窓の枠内に収まっていれば、それを新たな窓位置にする。ピークは、新たに発生することも、消滅することもあり得る。新たに発生したピークに対しては、新たに窓を設定し、ピークが消滅した場合には、窓も消滅させる。処理206では、あらかじめ設けておいた、各行のピークと、窓の対応関係を表す表を更新する。
【0079】
処理207では、すべての行に対する処理を終了した後に、電界電圧Vdの変化量(この値は、測定を開始する前にあらかじめ選択しておく)に対して、イオン移動度の変化が適正でない(イオン移動度の差分の変化が前の値よりも大きすぎる)場合に、ピーク群を無効と判定する。
【0080】
処理208では、上述した処理により、最終的に決定したピークのデータベースを更新する。処理209は、処理200の終了ポイントである。
【0081】
図9に、化学物質統合化処理(Group Chemical Objects)300の詳細フローチャートを示す。この処理300では、検出対象となるケミカル(物質)を示す情報を統合する処理を行う。処理301は、処理300のエントリーポイントである。
【0082】
処理302は、化学物質統合化処理するための基準(ルール)310を取り込む。具体的には、イオン化する段階で現れる水などのリアクタントイオン(Reactant Ion)とイオン化された対象の試料(Product Ion)のピーク特性に関する理論上のルールである。これらの理論上のルールに関しては、例えば「G.A.Eiceman, Z.Karpas著、Ion Mobility Spectrometry, CRC出版」や、「Alexandre A, Shvartsburg著、Differential Ion Mobility Spectrometry, CRC出版」などに詳述されており、ここではその詳細は述べないが、以下に簡単に説明する。通常の空気中には、窒素(N)、酸素(O)と水(HO)が含まれているが、そこへ微小な化学物質(仮にMとする)が混入し、さらにイオン化された場合、その組成は一般に以下のように変化する。
(HO)+M+N⇔MH(HO)+N+HO⇔M(HO)+N+HO
【0083】
上の式は、イオン化された分子の変遷を表しているが、その成分量まではあらわしていない。最初の項は、リアクタントイオン、次の項はモノマー(Monomer)、最後の項はディマー(Dimer)を表している。最初に、イオンは水分と結び付きやすく、水の分子3個と結合して水イオンとなる。この状態で電界強度が高くなると、水の分子1個が、化学物質Mに置き換わり、モノマーと呼ばれる、Mの分子1個と、水の分子2個からなるイオンを形成する。さらに電界が高くなると、ディマーと呼ばれる、Mの分子2個と、水の分子1個からなるイオンを形成する。今の場合、リアクタントは水である。
【0084】
処理303では、すべてのVd電圧に対するイオン電流測定データ(Spectrum)に対して、リアクタントイオンによるピークを特定する。この処理の詳細は、サブルーチン330として、図10に別途詳細を示し、後で説明する。
【0085】
処理304では、E/N特性(エネルギー対密度の特性)を計算し、各ピークのエネルギー分布を求める。処理305では、すべてのイオン電流測定データ(Spectrum)から、各ピーク間の相関を求める。
【0086】
処理306では、イオン化された対象の試料(Product Ion)のモノマー(Monomer)、ディマー(Dimer)、トリマー(Trimer)、および、環境中に含まれる水、窒素、酸素等が、リアクタントとして作用するRIP(Reactant Ion Peak)の相互の関係を調べ、それらのピークの相関関係を決定する。この処理に関しては、サブルーチン350として、図11に別途詳細を示し、後に説明する。
【0087】
処理307では、処理306で決定された複数のピーク相関から、イオン化された対象の試料(Product Ion)から派生して生じたピークを決定する(grouping)。また、孤立した、他のピークとの関連のないピークも決定する。処理308では、上述した処理で決定した各種ピークの相関関係が、お互いに矛盾しないか検証し、もし問題があればその相関は否定される。処理309は、処理300の終了ポイントである。
【0088】
図10は、リアクタントイオンによるピーク(RIP)を特定する処理の詳細を示す。処理331はスタートポイントであり、処理332では、イオンの特性に関する各種基準345をロードする。具体的には、イオン化処理の方法、イオン化のエネルギー、エアーの流量、湿度、およびセンサーそのもののパラメータである。
【0089】
処理333では、イオン化の方法にしたがい、分岐する。放射線、コロナによるイオン化の場合には、処理334以下の処理を行い、紫外線などの直接イオン化を行う場合には、処理339、340へ分岐する。しかし、本発明では、紫外線等によるイオン化の方式については議論しない。
【0090】
処理334では、RIPの極性を決める。すなわち、正極性のイオン電流特性に関してRIPを求めるのか、それとも負極性のイオン電流特性に関してRIPを求めるのかを決める。(RIPは両方の極性に対して存在する。)処理335では、平均のイオン化エネルギーを計算する。
【0091】
処理336では、RIPの候補となるピークのリストを作る。RIPは、センサデバイスの特性として通常の環境で使われる限り、電界電圧Vdが0Vから増加させた場合、ピーク位置の補償電圧Vcはマイナスになることが判明している。また、同様に、センサデバイスの特性として、電界電圧Vdがその最大値の50%を超える場合には、イオンが他の分子へ転嫁し、RIPのピークは消滅することが判明している。そのため、多くのRIPの候補の中から、ピーク位置の補償電圧Vcがマイナスでないものを除外し、同様に電界電圧Vdが50%を超えるものも除外する。
【0092】
処理337では、さらにRIPの候補の中から、電界電圧Vdを増加させた場合に減少しないものを除外する。電界電圧Vdを増加させた場合、RIPはリアクタントとしての性質から、徐々にイオンが他の(目的とする)化学物質のモノマー、ディマー、さらにはトリマーへ奪われていくので、ピークのイオン電流が減少することが知られている。従って、さらにRIPの候補の中から、電界電圧Vdを増加させた場合に減少しないものを除外する。
【0093】
さらに、処理338では、下記の2つの条件に適応するか否かでさらにRIPのピーク候補を絞り込む。
(1)最初の条件は、RIPのピーク値が減少するとともに、新たに他の(目的とする)化学物質のモノマー、ディマー、等が発生するので、RIPのピーク値の減少にともなって、ピークの個数が増加するか否かを検査する。
(2)二番目の条件は、RIPのピーク値が減少するとともに、RIPが獲得していた電荷が、他の(目的とする)化学物質のモノマー、ディマー、等に移るが増加するので、RIPの候補、およびそれに対応するモノマー、ディマー、さらにはトリマーのエネルギー量を算出し、それらが一定の値に保たれるかを計算する。
【0094】
処理341では、最終的に残ったRIPの候補に対して、ピークの属性を“RIP”とし、さらにグループIDを、RIPを意味する“0”とする。処理342は、この処理の終了ポイントである。
【0095】
図11は、対象とする化学物質のモノマー、ディマー等の複数のピークの相関を特定する処理の詳細を示す。これらの処理により、ピーク特性が、特定の化学物質毎にグループ化される。処理351はスタートポイントであり、処理352では、イオンの特性に関する各種基準365をロードする。具体的には、イオン化処理の方法、イオン化のエネルギー、エアーの流量、湿度、およびセンサーそのもののパラメータである。
【0096】
処理353では、イオン化の方法にしたがい、分岐する。放射線、コロナによるイオン化の場合には、処理354以下の処理を行い、紫外線などの直接イオン化を行う場合には、処理358、359へ分岐する。しかし、本発明では、紫外線等によるイオン化の方式については議論しない。
【0097】
処理354では、対象とする化学物質のピークの極性を決める。すなわち、正極性のイオン電流特性に関してピークを求めるのか、それとも負極性のイオン電流特性に関してピークを求めるのかを決める。(ピークは両方の極性に対して存在しうる。)
【0098】
処理355では、モノマーの候補となるピークのリストを作る。モノマーは、センサーデバイスの特性として通常の環境で使われる限り、電界電圧Vdが0から増加させた場合、ピーク位置の補償電圧Vcはマイナスになることが判明している。また、同様に、センサーデバイスの特性として、電界電圧Vdがその最大値の50%を超える場合には、ディマー等へ転嫁し、ピークは消滅することが判明している。そのため、多くのモノマーの候補の中から、ピーク位置の補償電圧Vcがマイナスでないものを除外し、同様に電界電圧Vdが50%を超えるものも除外する。また、すでにRIPと判明しているものも除外する。同様に、ディマーの候補となるピークのリストも作成する。ディマーに対する判別条件は、電界電圧Vdが正、かつ補償電圧Vcが正である。
【0099】
処理356では、モノマーの候補、ディマーの候補の中から、モノマーとディマーとしての相関があるピークを特定する。具体的には、モノマー候補のピーク値が減少するにつれディマー候補のピーク値が増加する、あるいは逆に、モノマー候補のピーク値が増加するにつれディマー候補のピーク値が減少する場合に、これらのピークに相関があるとして、共通のグループIDを割り当てる。
【0100】
さらに、処理357では、共通のグループIDが割り当てられなかったピークに対して、ユニークなグループIDを割り当て、ピークの属性を“独立(Independent)”とする。
【0101】
処理360では、モノマー、あるいはディマーと判断されたピークに対し、ピークの属性をそれぞれ“モノマー(Monomer)”と“ディマー(Dimer)”と設定する。処理361はこの処理の終了ポイントである。
【0102】
図12に、対象とする化学物質の基礎データベース44の作成のフローを示す。処理401はスタートポイントであり、まず処理402にて、それまでの測定結果、および測定結果から求めた各種特性410(ピーク特性、グルーピング結果など)を読み込む。さらに、処理403にて、各種測定条件411(ユーザ指定のパラメータ、日時、センサー素子特性、温度、湿度、流量、流圧など)を読み込む。これらの値は、データベースの主要な項目となる。処理404ではこれらのデータを用いて、対象の化学物質の基礎データベースを作成する。さらに処理405にて作成した基礎データベースを、各種化学物質のデータを蓄えるデータベース420へ記憶する。この処理は、電気回線等で直接結合された記憶装置(HDD)、あるいは電気的に接続されたサーバーを介して行うことも、またインタネット回線等を用いて遠隔地に設置されたデータベースへアクセスすることでも可能である。
【0103】
図13に、そのような基礎データベース44の例を示す。図13に示した表450では、23個の項目からベータベースが形成されているが、それに限定されるものではなく、その他の項目が含まれていても問題ない。図13の例では本発明の説明に欠かせない典型的なものを挙げている。なお、説明を簡単にするために、このデータベースの各項目に、対応する値が格納されているように表現しているが、実際には多くの項目は、直接的にデータが入るのではなく、ポインタが格納され、ポインタで示される場所に、実際の値、あるいは複数のベクトル値、あるいは他次元のテーブル(マトリクス)が格納されている。この中で、「*」マークが付されているものは、この時点では値が求められていない未知のデータであるが、のちに述べる処理において計算され、値が確定する。
【0104】
また「**」が付されているものは、対象とするコンテキスト情報、本例では化学物質が判明している場合には、処理406においてデータベースから読みだされてその値が用いられるものである。対象とするコンテキスト(化学物質)が判明していない場合には、のちに述べる処理において、対象の化学物質の特定、あるいは同定処理が行われ、確定したのちにデータベース44から読みだされ、その値が用いられる。
【0105】
図13の最初の行は、アプリケーションプロファイルを表す。これは、ユーザが最初に選択するパラメータであり、どのような分野でその化学物質の測定を行うのかを指定する。この値は、例えば化学物質の特定処理のときに、参照比較する化学物質の優先順位(アプリケーションに応じて複数存在する)の決定等に用いられ、対象とする分野に応じて最適な順番に比較処理が行われ、結果として特定処理の高速化が図れる。具体的には、(一般的な)臭覚処理分野、健康関連分野、安全セキュリティ分野、化学・科学分野等が上げられる。
【0106】
図13の2行目から7行目までは、アプリケーションプロファイルに固有の値が用いられる。2行目は、プロファイル内のランキングの値(垂直ランキング値)である。その値は当初は初期値となり、同一プロファイル内で化学物質の特定処理が繰り返されるたびに更新されていく。実際には、この値は別途用意される垂直ランキングテーブルに保存されており、この値はそのコピーである。図13の3行目は、規則性に基づいた化学物質の分岐ツリーである。4行目は、のちに説明するデータベースの生成の関係(どのデータベースから生成されたか)を表す。5行目は、化学物質ファミリー及びAMU(原子質量単位)に基づく分類ツリーを表す。6行目は、化学分析の学習処理が、ユーザによる指示が行われる指導的な学習処理かそうでないかを表す。7行目は、個々のアプリケーションプロファイル固有のデータベースを示すポインタである。
【0107】
図13の8行目から11行目までは、センサーに依存しないデータが格納される。センサーの種類、測定方式、製造メーカなど条件に非依存のデータの8行目は化学物質名が格納される。実際には化学物質の名称が直接格納されるのではなく、別に設けられた、カテゴリー毎に分類された化学物質の一覧テーブルの中の、どの化学物質に相当するのかを示すポインタ値が格納される。この値は、対象の化学物質が判明している場合にはユーザの指定により始めからデータが設定されるが、不明の場合には、のちの処理で判明するまでは、不明(Unknown)となっている。9行目はイオン移動度を表す。このデータも、この時点では値が求められていないが、後の処理で算出されて格納される。この値は、検出されたピーク特性に対して計算されるので、2次元の測定ポイントに対して算出され、全体としては3次元のデータになる。10行目はキャリブレーション(較正)用のデータである。また、11行目は、温度、湿度、流量、気圧などの環境条件の伝達特性のモデルを定義するデータへのポインタである。
【0108】
12行目から23行目まではセンサーに依存するデータが格納される。センサーの種類、測定方式、製造メーカなどの条件に依存するデータの12行目には、Vd電圧(Dispersion Voltage)が、13行目にはVc電圧(Compensation Voltage)が格納される。これらの値は、測定開始時に、それぞれの開始電圧と変動幅を設定することでユーザが指定する。
【0109】
14行目、15行目、16行目、17行目には、イオン電流の測定結果と、イオン電流の測定結果がピークを形成するところの、ピーク位置(Vd電圧とVc電圧)、半値幅(FWHM:Full Width of Half Maximun)、そしてピーク位置でのイオン電流値(ピーク電流)が格納される。これらの値はもちろん複数個存在する。実際には、これらの値は別途設けられたテーブル(行列)に格納されており、そこへのポインタが代わりに格納されている。14行目のイオン電流測定値は、全ての測定結果が含まれるが、17行目のピーク電流は、ピーク位置の値のみである。これらのデータも、2次元の測定点に対するデータとなる。
【0110】
18行目、19行目、20行目、21行目、22行目には、それぞれ、リニアリティ、温度、湿度、(ガス)圧力、(ガス)流量のデータが格納される。23行目は、イオン化率のデータが格納される。ガス中に含まれる化学物質は、イオン化器によりイオン化されるが、おなじガス中に含まれる水の分子や他の化学物質の分子などに影響されて、イオン化される割合が変動する。そのため、イオン化される割合を算出するために用いられる。この値も、化学物質が判明している場合には最初から値が確定するが、不明な場合は当初は不明(Unknown)となり、化学物質が判明してから値が確定する。
【0111】
図14に、水平ランキング処理500の詳細フローを示す。ランキングというのは、測定されたデータの中から、その化学物質の特徴をもっともよく表すと思われるデータを抜き出す処理である。ランキングのデータをうまく利用することで、データ同士の距離推定を高速に、またはさらに精度よく行うことが可能となり、得られたデータASDに対応するコンテキスト情報(化学物質情報)Cxの特定(識別、同定)処理を高速に行うことができる。
【0112】
FAIMS61から得られる生データ(原データ)ASDは、図3に示したように、2次元のパラメータに対して得られる全体としては3次元のデータである。このため、データ全体の比較を行うには膨大な処理が必要であり、処理時間がかかる。しかし、図3の例でも明らかなように、多くのデータには特段の特徴がない。特徴が表れるのは、多くは測定データ(イオン電流値)のピーク値の部分である。それらのピークデータの中で、特徴的なデータ(特徴量)から順にランク付けを行うのがランキング処理である。
【0113】
後で説明する化学物質の同定処理において、例えばランク値の大きい10個のデータのみを同定処理の対象とすることにより、一般に膨大な処理が必要な同定処理の処理量を削減し、同定処理の高速化を実現できる。もちろん、この個数は、この装置の使用目的や、対象とする化学物質に応じて、あるいはユーザの要望に応じて変更可能である、また、同定処理を行った後に、化学物質の候補として挙げられた化学物質のうち、スコアが高い(測定対象の物質である可能性が高い)上位の化学物質に対しては、特徴データの個数を増やして2次的に再度同定処理を行うことにより、誤まった判断を防止することが可能である。
【0114】
また別の観点からは、ランキングが高いデータが得られる部分に限定して、測定そのものを制限することも可能である。測定対象が始めから判明している場合には、ランキングが低い、言い換えると特徴が現れない測定範囲はあらかじめ除外して、ランキングが高い、言い換えると特徴が現れると予想される測定範囲に限定して測定することも可能である。具体的にはVd電位あるいはVc電位の範囲を限定して測定することにより、測定時間の短縮やデータ容量の削減が可能となる。極端な場合には、ピークが現れる場所に限定して、つまりVd電位とVc電位を限定して測定することも可能である。
【0115】
処理501は、ランキング処理のエントリーポイントである。処理502では、ランキング処理のための構造体510を呼び込む。具体的には、ランキング処理の数、イオン電流の正負のモード、ピークイオン電流値、ピーク幅、ピークの半値幅などである。処理503で、ランクの暫定値を計算しそれをランク表520の初期値とする。
【0116】
処理504、505の部分は、処理100、200、300までの処理で検出され、グループ化された対象化学物質(対象ケミカル)毎のピーク(特徴量)に対してランキング処理を施すためのループ処理である。処理504でグループ化された化学物質毎に繰り返し処理する。さらにその中で、処理505で、本件で特徴量となるピークの数だけ処理を繰り返す。
【0117】
処理506において、ランク値の計算を行う。具体的には、ピークイオン電流値、ピーク幅、ピークの半値幅などを暫定値と比較し、もし上回るならば、処理507において、これらの最大値としてデータを更新し、さらに最大値で正規化した値を計算する。アプリケーションによっては、半値幅はイオン電流のピーク値で正規化した場合には小さい方が良い場合もある。これらの値でランク表を更新する。最大値が更新された場合には、他のピークの値も再計算する。ランクの求め方は、各種の方法が可能ではあるが、一つの例としては、各項目に対する正規化した絶対値の単純和の大小で判断することができる。もちろん、項目毎に重みを変えることも可能である。
【0118】
繰り返し処理が終了すると、処理508でランク処理が終了したことを宣言する。処理509はランキング処理の終了ポイントである。
【0119】
図15は、図14で示した水平ランキング処理500で得られる水平ランキングテーブル451の具体例を示す。図15の例では、9つのVd(Dispersion Voltage)値に対して、それぞれ1個から3個のピークが存在する場合を示している。それぞれの全てのピークに対して、ピークのイオン電流値とFWHM値からランク値を計算し、そのピークの重要度を求める。図15の場合には、最大のピークイオン電流に対するそのピークのイオン電流の割合と、同様に最大のFWHM値に対するそのピークのFWHM値の割合の単純和をランク値としている。もちろんランクの値としては、他のものも可能であり、例えばピークイオン電流値の値だけを用いることもできる。図15の例では、ランキング値例として例えば右端の枠の値が得られる。仮に、ランキング値の上位10個を用いる場合、この枠がハッチングされたところの値が採用され、それ以外の値は用いられない。
【0120】
図16に、イオン電流の補正処理600のフローを示す。この処理は、対象とする化学物質が判明している場合に行う処理であり、まだ判明していない場合には行うことができない。ただし、後で説明する化学物質の同定処理が終わり、ユーザがその結果について納得し、化学物質の特定を承認した後に、(後で参照するために)この処理を行うことは可能である。処理601はこのルーチンのエントリーポイントである。処理602で、今回の測定に用いたFAIMS検出装置の仕様と、測定されたピーク特性をロードする。その後、処理603、604にて、図13のランキング処理と同様に、検出されたイオン電流のピークに関して繰り返し処理を行う。
【0121】
まず処理605にて、イオン化に要する相対的なエネルギー分布をしらべる。さらに、処理606にて、陽子の影響や、直接イオン化の可能性等を算出し、それらによる影響を加味して、最後に処理607にて測定されたイオン電流を補正する。すべてのピークに対して処理が終われば、処理608にて終了する。
【0122】
図17は、対象の化学物質の特定を行うためのイオン移動度の求める処理700を示すフローである。処理701はエントリーポイントであり、処理702にて今までの各種処理で求めた様々なピーク特性結果を読み込む。具体的には、検出され、グルーピングされたピーク特性等である。処理703では、デバイスのモデルデータを参照しながら、実際のイオン移動度を、測定結果から算出する。
【0123】
具体的には、Vd電圧を変化させた場合に、対象とする化学物質のイオン電流が、ピークを形成するVc電位を求める。この値は、あくまでもイオン電流がピークを形成したときの補償電位Vc(Compensation Voltage)であるが、この値によりイオン移動度を評価することができる。厳密には、Vd電位の一周期の値に、Vc電位を加えた値に対する、イオン移動度の一周期分の積分値が“0”になるようなVc電位である。簡易的には、Vd電位の高位の値VhにVcを加算した値に対するイオン移動度と、低位の値VlにVcを加算した値に対するイオン移動度の差分とVd電位のデューティ比(VhとVlの期間の比)から決められる。しかし、実際にはVd電位の波形はなまってしまうので誤差が避けられない。
【0124】
一方、対象とする化学物質も、比較対象の化学物質群も、同じ測定系で測定するので、これらのピークを形成するVc電位の値は、おなじ化学物質ならば影響を受けずに同様の値を示す。ただし、次に示す測定時の環境条件の影響は避けられない。これらの環境条件による影響は、測定に用いたセンサー素子の特性にも依存するので、センサー素子のモデル情報711を読み込み、さらにセンサーによる特性の影響をあらかじめ測定しておいたセンサーの実証モデル情報712を読み込む。これらのデータを用いて、処理704で、測定時の環境データ(具体的には気圧、温度、湿度、流量、など)を用いて、イオン移動度の算出結果を補正処理する。処理705において、その結果補正されたピーク特性を用いて第2次のデータベースを作成し、処理706において格納する。2次データベースは、対象の化学物質を特定するための同定処理を行うために用いられる。処理707はこのプロセスの終了ポイントである。
【0125】
図18にセンサーデバイスの実証モデルのデータ1801の例を示す。これは測定時の空気圧に対する伝達特性を表すデータとなっている。FAIMSセンサー61は、微小な間隙の間を、イオン化した分子(化学物質)を空気とともに通過させ、Vd電位を印加することによりどちらかの間隙の表面に衝突させて電荷を吸収してしまう。Vd電位とともに印加するVc電位が、うまくイオンの動きを補償して、いずれの間隙の表面にも衝突しなかったイオンだけがイオン電流として検出される。そのため、空気圧が低くて空気の分子そのものの密度が低下すると、イオンもうまく間隙を通過することが困難になる。一方、空気圧を逆にいくら高めても、イオンの通過量には上限があり、一定の値以上には上昇しない。
【0126】
図19にこの様なセンサーデバイスの空気圧に対する伝達特性1901の変化の例を示す。図においてXは変量であり、今の場合は空気圧である。変量Xが小さいと、イオンはほとんど通過することができず、変量Xの増加とともに、通過するイオンが増えていく。しかし、いくら変量を増やしても、通過するイオンの量には上限があり、かなりの部分はブラウン運動やVd電位の影響を受けて通過できない。この伝達特性は、センサーデバイスに固有の特性であり、センサーの物理的な特性(間隙のギャップ長や間隙の長さ、形状等)により決まる特性である。これらの特性をあらかじめ測定して、各環境特性に対する実証モデルの値を求めておき、図18に示す実証モデルを作成する。そしてこれらの値を用いて、実際の測定データ(イオン電流やFWHM値など)を補償(補正)する。
【0127】
具体的な補償処理(補正処理)700は、まず標準とする環境条件を定め、測定時の環境条件が標準の値からずれたときに、実証モデルの値から推定される伝達特性を計算し、その値で測定結果を補償する。例えば、標準の空気圧が0.8気圧であり、測定時の気圧が0.7気圧であった場合、図18の特性から内挿してイオン電流に対する伝達特性値I70を求め、イオン電流の測定結果に(I80 /I70)を乗算する。
【0128】
この様に測定時の環境条件を補償することにより、環境の影響を排除することができる。そのため、測定時の制約が軽減され、様々な場所や測定環境で測定することが可能になり、測定装置の適用できるアプリケーションを広げることができる。
【0129】
図20は、その様にして作成された2次データベースの構成を示す図である。表453が元になる基礎(一次)データベースであり、表452がそれを基に作成された2次データベースを表している。2次データベース452は、基本的に基礎データベース453と同じ構成をしている。ただし、イオン電流の測定結果などの様に、大量のデータで構成される要素は、その値そのものではなく、その値が蓄えられている場所を示すポインタで置き換えられており、容量を無駄に費やすことなく効率的に構成されている。
【0130】
具体的には、2次データベース452の元となった基礎データベース453の対応する箇所を示すポインタとなっている。一方、ピーク位置、ピーク電流、FWHM値などは、環境条件の補正をほどこされた値となっている。また、4番目の要素により、この2次データベース452が、どのデータベースから、どのように導き出されたのかを示す。具体的には、対応する基礎データベース453へのポインタと、処理した内容を示すソフトウェアとそのバーション情報で示している。これは将来的なソフトウェアの改良などが行われた場合にも、新しい改良された処理を用いて、古い基礎データから容易に新しい2次データベースを算出することができる。
【0131】
図20の例では、基礎データベース453は、2次データベース452と異なり、イオン電流などの原データを内蔵することになっているが、原データを別の場所に保存し、その場所を示すポインタへ置き換えれば、2次データベース452とまったく同じ構成にすることも可能である。
【0132】
図21に対象の化学物質を特定する同定処理800のフローを示す。処理801はエントリーポイントである。処理802にて、対象とする化学物資の特徴を表すマトリックスデータを読み込む。このマトリクスデータは、水平ランキング処理、特性補償処理をほどこされた特徴データ、具体的にはピーク特性データの中の特に特徴的なデータ群である。
【0133】
処理803は、比較対象の化学物質毎の処理を行うためのループ処理である。処理804、処理805を、比較対象の化学物質全てについて行うまで繰り返す。このフローには表現されていないが、計算結果は逐次ソーティングされた上で表示され、ユーザに知らされる。そのためユーザの指示により途中で打ち切ることが可能である。
【0134】
ユーザにより応用分野、すなわちプロファイルが決められ、プロファイルに応じた垂直ランキング情報により比較する物質の順番が決められるので、通常は早い順番で十分に類似した、スコアScの高い物質が比較検討される。しかし、対象物質が仮に非常にまれな物質であった場合、スコアScは低いものしか得られず、垂直ランキングの低いものを比較検討するまで、この処理が繰り返される。応用分野は、PC10で稼働しているアプリケーションや、PC10が取得できる音・画像からも推測できる。したがって、ユーザが決定する代わりに、プロセッサ40がPC10からプロファイルを決定するための必要な情報を周辺情報PIとして取得してもよい。
【0135】
処理804、805および807、808において、垂直ランキング処理を行う。まず、処理804では、比較対象の化学物質のデータを、各種化学物質のデータを蓄えているデータベース44から読み出す。このときの、化学物質の選択順位は、プロファイル毎に決められている垂直ランキングの値によって決定する。すなわち、例えば安全(Security)というプロファイルの場合、安全確認のためによくチェックされる毒物がコンテキスト情報Cxとして高いランク値を備えており、距離が同じであれば優先的に選択、比較される。処理805では、読みだした比較対象の化学物質のデータ、たとえばスペクトラムデータSSDそのもの、または特徴量CAvと、現在測定中の化学物質のデータASDそのもの、またはその特徴量との比較が行われる。具体的には、二つのデータ間の距離を計算し、それをスコアScとして出力する。その場合、ピーク位置のみによる計算も可能であるが、ピーク電流を加味することもできる。また、それぞれのピークに対して、比較計算の結果に対し、重みをあらかじめ設定しておくことも可能である。
【0136】
全ての比較対象について処理が終わると、あるいはユーザの指示で打ち切られると、処理806、処理807、処理808へ移行する。処理806は、処理805で計算されたスコアScの上位10個の化学物質について、繰り返し処理を行うためのループである。上位10個は、暫定の値であり、上位100個でも、他の値でも、もちろん構わない。
【0137】
垂直ランキング処理を行う処理807では、処理802で行ったと同様の処理を行うが、読みだすデータは、今度は比較対象の化学物質の特徴を表すデータである。具体的には、対象とする未知の化学物質の特徴データからなるデータ行列ではなく、比較対象の化学物質の特徴データからなるデータ行列である。これは比較する物質ごとに異なるので、毎回読みだす必要がある。そして、処理808では、処理806と同様の比較計算を行うが、ただし比較に用いるデータが、比較対象の化学物質を基準に選ばれる。この様にして、対象とする未知の化学物質からみた参照する化学物質のスコアScと、逆に参照する化学物質からみた未知の化学物質のスコアScが最終的に算出される。この様にして、異なる計算を行うのは、次に示すように、高速に、かつ誤検出を防ぎながら同定処理を行うためである。処理809はこのプロセスの終了ポイントである。
【0138】
図22に、これから同定処理を行う未知の化学物質の特徴データ行列454の例を示す。これは図15の例に対応する特徴データの行列であり、ランキング値が大きな上位10個のピークのデータから構成される。処理802では、この特徴データ行列に対応する、比較対象の化学物質の特徴データが読みだされる。対応する特徴データがない(すなわちその場所にはピークが存在しない)場合には、存在しないというデータを付加する。スコアSCの計算は、各種の方法が有効だが、例えばピーク位置、イオン電流、半値幅それぞれを独立した次元とするベクトルと考え、ベクトル値の差分を計算する。この値の総和が小さい方が、より近い物質ということになる。イオン電流、半値幅に関しては、測定した日時、場所やその他の環境の差が大きすぎるので、それぞれのデータ行列中の最大値で正規化を行ったうえで算出する。対応するピークが存在しない場合には、距離を計算する代わりに一定の値を加え、等価的に距離が大きいという意味を持たせる。
【0139】
ピークを中心としてスコアScを計算しているために、逆にピークが存在しないことに特徴がある場合には、正しく判定できない恐れがある。例えば、よく似た特性を示す2つの化学物質があり、その差異が、特定のVd電位に対する、特定のVc電位位置におけるイオン電流のピークの有り無しで判定できる場合がある。しかし、図19の処理803、804、805の処理では、特定対象の未知の化学物質の特徴データ行列を用いて計算するため、仮に特定対象の未知の化学物質にはピークが存在せず、比較するリファレンスの化学物質にピークが存在する場合、そのピークに関しては比較対象とならないため、その特徴を生かすことができない。
【0140】
図23に、この様な場合の例を示す。図23は、図22に示す化学物質と類似した特性を示す化学物質だが、表455の第1行、第2行に示すVd−1とVd−2のところに明確なピークを持っている。そして逆に図22に示す化学物質が持つVd−7とVd−8の場所には特徴的なピークは存在しない。あるいは存在しても大きなピークではなく特徴的ではない。一方、図22の化学物質は、それに対応するVd−1とVd−2の場所には、ピークが存在しないか、あるいは存在しても小さい。そのため、図21の処理803、804、805の処理では、大きな差異が検出されない。
【0141】
図24を用いてこのときの処理の方法を説明する。同図の表456は図22の特定対象の化学物質の特徴データ行列であり、表457は図23のリファレンスの特徴データ行列である。図21の処理803、804、805では、図22に示す特徴データ行列を用いてスコアScが計算されるので、図24の矢印で示すように、特徴データ行列456に存在するピークに関して、対応するピークが検出され、その距離が計算される。しかし、同図557の1行目、2行目のVd−1、Vd−2に存在するピークは、対応するピークが特徴データ行列456に存在しないため、スコアScが計算されない。また、同図の例では、特徴データ行列456のVc-32のピークと特徴データ行列457のピークが、ピーク位置(Vc)が異なり、実際には対応していないため、距離は計算されず、一定の値が加えられる。Vd-7、Vd-8に対するピークは、特徴データ行列457に存在しないので、同じく一定の値が加えられるが、ピーク値が小さくても存在する場合には、その値を用いて距離を計算しても良い。
【0142】
図21に示す2回目の処理806、807、808では、1回目とは異なり、リファレンスの化学物質の特徴データ行列を用いて計算する。このため、図25に示すように、リファレンスの化学物質の特徴データ行列459に存在するピークに関しては、必ず何らかの計算がおこなわれる。図25は、図24と同様に、特定対象の化学物質の特徴データ行列458とリファレンスの化学物質の特徴データ行列459を示している。この場合は、行列459を用いてスコアScを計算するので、1行目、2行目のVd−1、Vd−2に対応するピークに関しても計算がおこなわれる。行列458の特徴データ行列には、Vd−1、Vd−2に対応するデータが存在しないが、元の2次データベースにはきちんとデータが存在する。このため、スコアScの算出を行うことは可能である。あるいは、ピークが存在しないとして、一定の値を加算する。リファレンス側に存在せず、対象物質側にのみ存在するピークに対しては、計算から除外することも可能であるが、この図の例では、どちらのピークに対しても計算を行っている。
【0143】
この様にして、大量に存在する比較対象の化学物質に関しては、特定対象の未知の化学物質の特徴データ行列を用いて、スコアSc計算の対象を固定して高速に計算を行い、かつその物質である可能性が高いものについて、逆に比較対象の化学物質の特徴データ行列によりスコアSc計算する。この処理により、処理量を減らして高速に、なおかつ正確に同定処理を行うことができる。
【0144】
図26に、化学物質を特定するための参照データベースを示す。仮にこれをゴールデンデータと呼ぶ。ゴールデンデータは、図26の表460に示すものであり、その化学物質の組成を示すデータ、例えば有機/無機、化学物質ファミリー、分子、原子などのデータと、その化学物質の特性を示すデータ、例えば、AMU、イオン化エネルギーなどである。また、その化学物質の同定処理を行うための特徴パラメータ行列も含まれている。この図の例では、FAIMS装置で測定されたイオン電流のピーク特性のデータを用いている。さらに、このピーク特性は、必ずしも同一の測定結果から構成されるのではなく、いくつかの異なる時間や場所で測定された結果の集合体となることがある。
【0145】
この図では、表461に示す特徴データの中からVdisp−1に対するピークを用い、Vdisp−2に対するピークは表462の特徴データから選ばれている。この図では、ゴールデンデータの中にそれらのデータが直接含まれているが、代わりに対応するデータ(461や462など)へのポインタで代用することも可能である。これらのデータの選び方は、後述する。特徴パラメータの選び方は、ピーク特性に限定される必要はなく、その物質の特徴を表すものであれば何でもよい。
【0146】
ゴールデンデータは、コンテキスト情報Cxである化学物質を同定に用いられる参照データの内のランク値が相対的に高いものであってもよく、ランク値を0−100(1−0、オンオフ)に設定して、特定の化学物質に対して1つのゴールデンデータを定めて化学物質を同定する際に参照されるデータの数を絞り込んでもよい。
【0147】
図27に垂直ランキング処理の例を示す。未知の化学物質の同定処理を行う場合、ユーザ(クライアント)が指定したプロファイル毎に求められた垂直ランキング463の順番に応じて、比較対象の各種化学物質が、特定対象の未知の化学物質と比較される。このランキングは、参照される基準のデータベースへの参照の頻度により決定される。図27に示すように、特定のプロファイルにおいて、化学物質毎に過去に参照された回数(同定回数)が計測されている。図27の左の欄が各種化学物質であり、右の欄がその参照された回数を表す。例えば化学物質Hが参照されると、その時点ではまだ同定されておらず、未知の物質のため、過去の参照頻度により決まる順番で比較処理が行われる。同定処理に物質の特定が行われ、ユーザがその結果を確認すると、物質Hの参照回数Nhが1増加し、その結果に応じてランキングの順位(ランク値)が即時に更新される。
【0148】
図28に、主にデータベース44を管理する側で行われる更新処理を示す。たとえばデータベース44がネット上にオープンしている場合は、サーバー側で処理されるデータベースの更新処理である。処理901はエントリーポイントであり、同定処理の結果がユーザにより承認されたときにこの処理が起動される。たとえば、モニタリングユニット47が順番に出力されたコンテンツの中からユーザが選択したものを検出し、そのコンテンツに含まれるコンテキスト情報Cxの順位から、上記の垂直ランキング処理の結果が承認されたか否を判断できる。
【0149】
まず処理902にて、測定結果のデータ910が読み込まれる。仮に測定がサーバーとは離れた距離にある場所で行われている場合には、インタネット等の回線を介してデータを転送することになる。水平ランキング処理903、相対イオン電流計算処理904、環境条件補正処理905は、基本的に図4の水平ランキング処理500、相対イオン電流計算処理600、環境条件補償処理700と同等であり、サーバーと測定装置が近くに設置されていたり、あるいは同一の計算機で処理されるなど、既に処理された結果が利用できる場合にはあらためて行う必要はなく、その結果を利用できる。しかし、相対イオン電流計算処理600の様に、測定対象の化学物質が未知で、計算できない場合や、それらの処理を行うのが遠隔地に離れた場所にあったり、回線の都合で参照できなかった場合などには、サーバー側で処理を行う。処理906では、承認された化学物質の参照データとの比較を行う。
【0150】
この処理は、図14の水平ランキング処理と類似した処理である。水平ランキング処理は、測定したデータの中で、もっとも特徴的なデータを選択するための処理であるが、処理906、907、908では、今回測定した新たなデータと、比較対象に選ばれているデータ(ゴールデンデータ、ストック済みのスペクトラムデータSSDまたはその特徴量CAv)の特徴データの比較を行い、もし新しいデータの方が高いスコアScを挙げた場合には(イオン電流値が大きいなど、より特徴的な場合)、比較対象のゴールデンデータのその要素を、新しいデータで置き換える処理(処理908)を行う。この様にして、新たな測定結果が得られるたびに、より特徴的なデータへと更新されていくので、測定を行うたびにより洗練されたゴールデンデータが得られる。ゴールデンデータを入れ替える代わりに、コンテキスト情報Cxに対するランク値を制御して、より特徴的なデータのランク値を高くするような処理も可能である。処理909はこのプロセスの終了ポイントである。
【0151】
ゴールデンデータの更新は、必ずしもスコアScが最大のものに置き換える方法だけではない。応用によっては、平均的なデータの方が良い場合もあり得る。そのような場合には、同定処理された後、その結果が承認されたデータだけを集めて、ピーク位置、イオン電流値などの値の平均値を求め、それの値をゴールデンデータに更新することにより、実現することができる。さらに、このときに、それまでの平均値からの距離が、分散値の3倍以上離れたものをあらかじめ除外することにより、誤って承認されたデータによるゴールデンデータの破壊を防ぐことが可能である。
【0152】
また、平均値を計算するためには、対象とするデータを全て記憶しておく必要が生じるが、それを避けるために、それまでに累積したデータの数をnとすると、新たに得られたデータの値を(n+1)で除した値と、それまでの平均値をn/(n+1)倍した値を加算しても良い。また、ある程度nの値が大きくなった場合には(例えば1000)、nの値を固定しても良い。nの値を固定すると、古いデータの寄与は徐々に低下し、新しい値だけを用いた平均値に近い値となる。
【0153】
なお、更新ユニット48において行われるゴールデンデータの更新処理は、データベースの品質管理上大変重要である。このため、更新処理を行うための権限の制御が重要である。具体的には、データベースの管理者だけでなく、特定分野あるいは特定プロファイルに対して、十分な経験と知識を持つ特定のユーザにも権限を与えたり、または、ユーザが自己の責任で管理、処理するデータベースに対してだけ、そのユーザに権限を与えるなどの処理が可能である。この様な処理により、ユーザが自分で管理するデータベースに関して自由な権限を与え、またこのデータベースを対外的に保護することが可能となる。
【0154】
また、複数、あるいは単一の特定のユーザでデータベースを構築し、管理することが可能となる。その結果、他の一般のユーザがデータベースを使用することに対して、特定のユーザが、アクセスの制御を行い、課金処理を行うことも可能である。この様にして得られた利益を、特定のユーザ間で配分することも可能になる。
【0155】
図29の表2901、表2902は、この様にして算出された未知の化学物質のイオン移動度の例である。図29(a)の表2901は、正のイオン電流のイオン移動度の算出結果である。一方、図29(b)の表2902は、負のイオン電流のイオン移動度の算出結果である。ここで、イオン移動度は、Vc電位で表現されている。具体的には、特定のVd電位に対するピーク電流を形成するVc電位の値である。この測定では、既知のキシレン(表中は英名のXylen)の異性体P−キシレン、M−キシレン、O−キシレンと、未知のサンプルAに対して測定し、その測定結果に表れるイオン電流のピーク位置としてイオン移動度を表している。これをグラフに表したのが図30図31である。
【0156】
図30に示したグラフ3001および図31に示したグラフ3101では、横軸にVd電位、縦軸にイオン電流のピークが表れるVc電位の値を用いている。これらの図に現れるように、未知のサンプルAは、ほぼP−キシレンの特性と一致しており、未知のサンプルAが、実際にはP−キシレンであることを示している。この様にして、未知の化学物質に対しても、精度よくイオン移動度を算出する事ができ、その結果、対象の化学物質の特定(同定)も精度よく行うことが可能になる。
【0157】
図32は化学物質の同定処理を、別の観点から示したものである。新たに得られた化学物質の測定結果のデータ470は、ランキング処理480によりランク済みのデータ471に変換され、さらに補償処理481を施されて、同定処理を行なうためのデータ472が得られる。このデータと、標準的な参照化学物質群475のデータを比較し、処理482にて近似度のスコアScを計算する。もっとも近い(スコアScが高い)ものがその物質の候補となる。一方、サーバー側では、どの物質が特定された多くの過去の測定データ473の中から、同様にランキング処理484、補償処理483を行い、さらにその中から最も特徴が顕著なデータを集めてゴールデンデータが作成される。
【0158】
このゴールデンデータが、実際には参照化学物質群を形成する。したがって、スコアScが高いゴールデンデータ474で特定されるコンテキスト情報Cxが、総合評価Rsの高い情報になる。この様に、測定データも、参照データも、同様に補償処理を行うことから、環境条件などの影響を排除して、より正確な、より確度の高い同定処理を実現できる。また、参照データは、当初は専用に用意する必要があるものの、測定をするたびにそのデータが吟味され、より特徴的なデータにより置き換えられるので、自動的に参照データの改善がおこなわれる。
【0159】
以上、詳細に述べたように、本発明によれば環境条件の影響を排除することができ、測定精度が向上する。さらに従来の化学物質の測定装置に比べ、測定時の環境条件に影響されにくいので、より広い条件の自由な環境で使用することができる。そのため、一般のユーザが使用する製品への組み込みや民生品などへの応用が可能となる。
【0160】
上述したように、本発明によれば、測定対象の化学物質から得られたデータと、比較対象のリファレンスの化学物質のデータが、まったく同じ処理を施された上で比較されるので、精度よく測定対象の化学物質の特定処理(同定処理)が行われる。さらに、処理がまったく同じなので、測定したデータの全部、または一部を、新たな比較対象のデータとして用いることが可能であり、データベースの更新が容易にできるという利点もある。これは、ユーザが自分で測定したデータを用いて新たなデータベースを構築する場合に特に有用である。また、一定の条件の下、自動的にデータベースの自動更新を実現することも可能となる。
【0161】
本発明によれば、測定したデータから、その測定対象の化学物質を特徴つけるデータ(特徴データ)を選び出し順位付けを行うので、その化学物質の特定処理を効率良く、また高速に行うことができる。また、特徴の少ないデータを排除できるので、結果として効率良くデータを記憶することが可能であり、データが少なくて済む。
【0162】
本発明によれば、測定結果のデータは、基礎データベースとして保存され、将来処理方式が更新/改良された場合であっても再び測定することなく再処理を行うだけで新しいデータを得ることが可能である。さらに、同定処理には基礎データベースから特徴点を抽出し、補償したデータからなる2次データベースを用いるので、データベースを記憶するための容量を小さくすることができる。
【0163】
本発明によれば、同定処理はイオン電流のピーク位置だけでなく、イオン電流の大きさ、イオン電流の半値幅などの値も用いて比較参照されるので、精度よく化学物質の特定が行われる。また、2回の処理ループを行うことにより、高速でかつ誤動作(誤同定)を防ぐことができる。
【0164】
本発明によれば、応用(アプリケーション)毎に垂直ランキング処理することにより、アプリケーション毎に最適な同定処理の順位付け(同定処理を行う比較対象の化学物質の順位)を行うことができ、アプリケーション毎にデータベースの最適化が可能である。またこれにより、同定処理の高速化が実現できる。さらに、垂直ランキング処理は、ユーザが同定処理を行うたびに自動的に更新されて、常に最適な値が保たれる。
【0165】
本発明によれば、同定処理に用いるリファレンスの化学物質データベース(ゴールデンデータ)は、同じ化学物質であり、異なる時間、あるいは場所で測定されたデータの中から、もっとも特徴的なデータを寄せ集めて構成されるので、より精度の高い同定処理を実現できる。また本発明の他の実施例では、同じ化学物質であり、異なる時間、あるいは場所で測定されたデータを平均化したデータとすることも可能であり、典型的な参照データを寄せ集めたデータとすることも可能である。
【0166】
本発明によれば、同定処理に用いるリファレンスの化学物質データベース(ゴールデンデータ)の更新処理の権限を制御することができる。これにより、ユーザ独自のデータベース構築を実現できる、あるいは、特に経験と知識が豊富なユーザに、特に権限を与えてデータベース構築に協力してもらうことも可能である。
【0167】
複数のユーザが協力して、データベースを構築することが可能であり、この様にして構築したデータベースを、他の一般ユーザがアクセスすることを制限、制御して、課金処理をして利益を配分することも可能である。
【0168】
図33を用いて、本発明の他の実施例について説明する。図33は、他の実施例のジェネラルフローを示しており、図4と同じ機能のブロックは、同じ番号を付している。図4の実施例では、単一の計算機にて全ての機能を処理していたが、図33の実施例では、OLP40を含むFAIMS61を直接制御する端末装置3301と、インタネットを介して接続されるサーバー装置3302とでシステム全体を構成する。端末側では、FAIMS61を制御して特性を測定する測定処理80、測定結果を確認する承認処理820、および測定結果に満足できない場合に測定結果を無効にする無効化処理830だけを行い、それ以外の処理はサーバー側で行う。この例では、処理100以下の処理をサーバー側で行っているが、この構成に限定する必要はなく、例えば処理100までを端末側で分担することも可能である。
【0169】
この実施例では、端末側3301では重たい処理は行わないので、能力が劣る安価な端末(パソコン)を用いることができ、データを保存するためのハードディスク等も必要がない。パソコンのメモリーも少なくて済むという利点もある。
【0170】
本発明による第3の実施例を、図34を用いて説明する。この場合も、図33の実施例と同様に、端末側3301とサーバー側3302で処理を分担する。同図において、図4と同じ機能のブロックは、同じ番号を付している。図33に示すように、FAIMS装置を制御して特性を測定する測定処理80から、基礎データベースを作成する処理400までを端末側で分担する。また、得られた基礎データも、端末側でローカルなハードディスク装置430にて記憶する。同定処理などはサーバー側で分担する。
【0171】
この実施例では、最初の実施例と比べると、処理が重たい同定処理などがないので、より能力が劣る端末で実現できるというメリットがある。また、測定データそのものは端末側で記憶、管理するので、回線断絶等の問題が発生しても端末側である程度の処理が継続できるというメリットもある。
【0172】
本発明による第4の実施例を、図35を用いて説明する。この実施例でも、図33図34と同様に端末側3301とサーバー側3302で処理を分担している。同図において、図4と同じ機能のブロックは、同じ番号を付している。図35の実施例では、ほとんどの機能を端末側で行う。そのため、端末側には高い処理能力が必要となる。しかし、測定結果だけでなく、全てのデータは端末側で記憶・管理されるので、高い機密保持性能を実現できる。同定処理も端末側で行うので、測定されたデータは一切外部に送る必要はない。同定処理に必要なリファレンスのデータは、インタネットを介してサーバーから入手する。そしてその結果は端末側で保持できる。
【0173】
本発明によれば、システム全体の構成を、必要に応じて柔軟に構成することが可能であり、必要とされる性能や価格に応じて最適な構成を柔軟に選択可能である。同時に、測定されたデータの管理方法や、外部アクセスされるデータの種類も、選択可能であり、必要に応じて高い機密保持性能を実現できる。
【0174】
また、化学物質の同定処理に欠かせないリファレンスデータベースも、必要に応じて(価格に応じて)端末側にローカルに保持することが可能であり、データベースそのものも、柔軟に構成を変えることが可能である。
【0175】
本発明により、FAIMS装置から得られた測定結果から、自動的にどのピーク群が、共通の化学物質から派生しているのかが明らかとなる。さらに、測定時の環境条件の影響を排除して、より正確なイオン電流値を算出するので、対象の化学物質の特定が、より高い精度で行うことが可能となる。このことにより、FAIMS装置や化学物質の習熟が十分でない操作者でも、これらの装置を使うことが可能となり、利便性が大幅に向上する。
【0176】
本発明により、測定結果は自動的に化学物質毎に分類して表現されるので、装置を操作する人の能力に依存せずに安定した成果を上げることができる。これにより、誤解釈を防ぐことができる。また装置に習熟する必要が少なくなる。そのため、結果として、測定にかかる時間を短縮することも可能である。本発明の効果は、複数の化学物質が混在する場合にも有効であり、複数の化学物質から派生するピークが分類して示されるので、測定結果の判断が容易になり、誤判断を防ぐことができる。また測定時の環境条件の影響も補償できるので、より高い精度で対象とする化学物質の特定を行うことができる。また、測定データの中から、より特徴的なデータを選択してランク情報(順位情報)として保存するので、化学物質の特定をより高速に行うことができる。また、化学物質の同定処理の基準となるデータの更新も容易に行うことができ、データベースの構築が容易になる。さらにこれらの処理を、測定端末単体で行うだけでなく、ネットワークを介して自由に処理を分散負担することができるので、顧客の要望に応じて装置の価格や処理速度を調整することができる。
【0177】
上記では、本発明を、FAIMSを用いた装置(システム)を例に説明しているが、多次元の測定結果が得られる測定装置においても同様に適用できる。FAIMS装置やそれに類似した化学物質測定装置などを応用した製品において、特に好適である。これらの製品は、例えば水の中に微小な化学物質が含まれていないかを検出する水質検査装置、微小な麻薬物質の検出が可能な麻薬検出装置や、患者の呼気から疾患の罹患状態を調べる健康モニタ装置などが考えられる。
【0178】
上記には、測定対象の粒子をイオン化し、非対称な電界を印加した間隙の間を空気とともに通過させ、印加する電界の条件を変化することにより通過するイオン電流の変化を測定することで、化学物質の特性を特定する装置において、測定時の環境条件を測定し、あらかじめ測定しておいた環境条件の伝達特性を用いて、前記測定結果を補償することを特徴とする化学物資解析装置が開示されている。
【0179】
環境条件として、測定時の空気圧、空気流量、気温、湿度のいずれか一部、あるいは全てを用いることが望ましい。測定対象の化学物質の同定処理を行う場合に、あらかじめ用意された比較参照対象の化学物質の測定データに対して、環境条件の補償処理を行うことが望ましい。測定対象の化学物質の同定処理結果が承認された場合に、承認された測定対象の化学物質の測定データの一部、あるいは全部を、同定された比較参照対象の化学物質のデータの一部あるいは全部と入れ替えることが望ましい。測定対象の化学物質の測定データとして、特定のVd電圧に対してイオン電流がピークを形成するVc電圧(以下ピーク位置と表す)とそのときのイオン電流のピーク値、及びVc電圧で表現するイオン電流の半値幅を用いることが望ましい。
【0180】
測定対象の化学物質の同定処理を行うときに、測定対象のピーク位置と、比較参照対象のピーク位置との対応付けを行い、しかる後に測定対象のデータと比較参照対象のデータの、ピーク位置、イオン電流のピーク値、およびイオン電流の半値幅のいずれか一部、あるいは全部の距離を算出し、その結果を用いて同定処理を行うことが望ましい。
【0181】
測定対象の化学物質の同定処理を行うときに、測定対象のピーク位置を基に、対応する比較参照対象のピーク位置を特定した後に測定対象のデータと比較参照対象のデータの、ピーク位置、イオン電流のピーク値、およびイオン電流の半値幅のいずれか一部、あるいは全部の距離を算出し、しかる後に比較参照対象のピーク位置を基に、対応する測定対象のピーク位置を特定した後に測定対象のデータと比較参照対象のデータの、ピーク位置、イオン電流のピーク値、およびイオン電流の半値幅のいずれか一部、あるいは全部の距離を算出し、これらの2回の計算値を用いて同定処理を行うことが望ましい。
【0182】
定対象の化学物質の測定データのピークの中から、イオン電流のピーク値と半値幅のいずれか、あるいは双方の値を比較し、その結果を用いて複数のピークを選別し、それらのピークのデータ情報を用いて同定処理を行うことが望ましい。
【0183】
また、上記には、比較参照する化学物質群において、同定処理により対象とする化学物質と同じと判定された回数を各化学物質毎に計数し、その回数が大きい方から順に同定処理の候補として選択することを特徴とする化学物質の解析装置が開示されている。
【0184】
あらかじめ応用分野に適応したプロファイルを用意し、各プロファイル内において、同定処理により対象とする化学物質と同じと判定された回数を各化学物質毎に計数し、その回数が大きい方から順に同定処理の候補として選択することが望ましい。
【0185】
また、化学物質の解析装置において、測定したデータの処理前のデータと、該測定データから抽出された、イオン電流のピーク位置とイオン電流のピーク値と半値幅のいずれかあるいは全ての情報を含む特徴データと、該測定データを測定したときの環境条件のデータを含む化学物質の基礎データと、該基礎データをもとに前記環境条件を補償して得た特徴データを含む二次データを含む事を特徴とする化学物質の解析装置用のデータベースが開示されている。
【0186】
測定対象の化学物質の同定処理を行うときに、前記基礎データは用いずに、前記二次データを用いることが望ましい。測定対象の化学物質の同定処理を行うときに、比較参照対象の化学物質群の参照データを、既に同定が終了しその結果が承認された複数の測定データの中から組み合わせて、あるいは平均化して得ることが望ましい。測定対象の化学物質の同定処理が完了し、その結果が承認されたときに、該測定結果のデータの一部あるは全部を、当該比較参照対象の化学物質の参照データの一部あるいは全部と入れ替えることが望ましい。測定対象の化学物質の同定処理が完了し、その結果が承認されたときに、該測定結果のデータの一部あるは全部を、当該比較参照対象の化学物質の参照データの一部あるいは全部と入れ替える場合に、その装置のユーザー毎に参照データの更新処理の権限を管理することが望ましい。
【0187】
また、上記には、測定対象の粒子をイオン化し、非対称な電界を印加した間隙の間を空気とともに通過させ、印加する電界の条件を変化することにより通過するイオン電流の変化を測定することで、化学物質の特性を特定する装置において、該測定装置を制御し、測定データを収集する端末装置と、該端末装置と通信回線で結合され、測定結果のデータベースを管理するサーバー装置とで構成されることを特徴とする化学物資の解析装置が開示されている。
【0188】
端末装置と、サーバー装置の処理の分担を、端末装置の処理能力に応じて変更することが望ましい。端末装置側にローカルな測定結果のデータベースを設け、サーバー装置側にグローバルなデータベースを設け、端末側のデータベースではデータが不足する場合にサーバーにアクセスしてサーバーからデータを読み取ることが望ましい。
上記には、センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報を含むコンテンツを提供するシステムが開示されている。このシステムは、複数のコンテキスト情報(コンテキスト情報セット)、および複数のコンテキスト情報に対しそれぞれランク付けされた複数のストック済みのスペクトラムデータを含むデータベースと、得られたスペクトラムデータに対するストック済みのスペクトラムデータのスコアを算出する照合ユニットと、照合ユニットにおいて算出されたスコアが高いストック済みのスペクトラムデータに対するランク付けの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、算出されたスコアおよびランクを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データを出力するユニット(出力ユニット)とを有する。
このシステムは、出力データに含まれるコンテンツの中からクライアント(ユーザ、視聴者、検索要求元、端末側、端末所有者)に選択されたコンテンツの情報を取得するユニットと、得られたスペクトラムデータを、選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対してランク付けてデータベースに加える更新ユニットとを有することが望ましい。新たに得られたスペクトラムデータをランク付けした後にデータベースに加えることにより、新たに得られたスペクトラムデータの評価を、次のスペクトラムデータを検索する際に反映できる。データベースにおけるスペクトラムデータとコンテキスト情報とのランキングは、バリアブルであってもよく、0−100(1−0、オンオフ)であってもよい。オンオフの場合は、コンテキスト情報と結びついたストック済みのスペクトラムデータ(ゴールデンデータ)が更新される場合がある。
データベースは、ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含むことが望ましく、照合ユニットは、得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量をランク付し、ランクの高い特徴量からスコアを算出する機能を含むことが望ましい。得られたスペクトラムデータとストック済みのスペクトラムデータとを、特徴量に基づいて比較し、スコアを算出できる。
また、上記には、コンテンツ供給装置、たとえば、コンピュータが、センサーにより得られたスペクトラムデータを含む検索要求に対し、スペクトラムデータから推定されるコンテキスト情報に関連付されたコンテンツを提供することを含む方法が開示されている。コンテンツ供給装置は、複数のコンテキスト情報、および複数のコンテキスト情報に対しそれぞれランク付けされた複数のストック済みのスペクトラムデータを含むデータベースを有する。また、コンテンツを提供することは、以下のステップを含む。
・得られたスペクトラムデータに対するストック済みのスペクトラムデータのスコアを算出すること(スコア算出プロセス)。
・算出されたスコアが高いストック済みのスペクトラムデータに対するランク付けの高いコンテキスト情報に関連付されたコンテンツが、算出されたスコアおよびランクを含む総合評価の高い順番でクライアントに選択されるようにする出力データを出力すること(垂直ランキングプロセス)。
コンテンツを提供することは、さらに、以下のステップを含むことが望ましい。
・出力データに含まれるコンテンツの中からクライアントに選択されたコンテンツの情報を取得すること。
・得られたスペクトラムデータを、選択されたコンテンツに関連付けられたコンテキスト情報に対してランク付けて前記データベースに加えること(再ランキングプロセス)。
データベースは、ストック済みのスペクトラムデータの特徴量を含み、スコア算出プロセスは、得られたスペクトラムデータに含まれる特徴量のランク付けを行い、ランクの高い特徴量からスコアを算出すること(水平ランキングプロセス)を含むことが望ましい。
図1
図2
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