特許第6209519号(P6209519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209519膜交換ユニットおよび膜交換ユニットを有するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209519
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】膜交換ユニットおよび膜交換ユニットを有するシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170925BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G01N27/62 102
   G01N27/62 Z
   H05H1/24
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-534194(P2014-534194)
(86)(22)【出願日】2013年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2013005230
(87)【国際公開番号】WO2014038194
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-194089(P2012-194089)
(32)【優先日】2012年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0258360(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0042561(US,A1)
【文献】 米国特許第05491337(US,A)
【文献】 特開2004−071470(JP,A)
【文献】 特開平10−288602(JP,A)
【文献】 特開平04−319244(JP,A)
【文献】 特開2004−077361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/68
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の分離膜と、
前記第1の分離膜を介して第2の空間に接続した第1の空間と、
前記第1の空間に第1の流体を供給し、前記第2の空間から前記第1の空間に、前記第1の分離膜を透過して拡散した化学物質を、前記第1の空間から排出される前記第1の流体によりイオン検出器に供給する第1の経路と、
前記第1の空間に設けられた第1のイオン化ユニットであって、前記第1の空間に面した前記第1の分離膜の表面を活性化するラジカルを生成する第1のイオン化ユニットとを有する膜交換ユニット。
【請求項2】
請求項1において、前記第2の空間に第2の流体を供給および排出する第2の経路を有する、膜交換ユニット。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2の空間に設けられた第2のイオン化ユニットを有する、膜交換ユニット。
【請求項4】
請求項2または3において、前記第2の空間と第3の空間とを接続する第2の分離膜を有し、
前記第2の流体は乾燥した特定成分のガスである、膜交換ユニット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記第1のイオン化ユニットは大気圧プラズマを発生させるユニットを含む、膜交換ユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、さらに、前記第1の分離膜を加熱および冷却する電熱変換素子を有する、膜交換ユニット。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の膜交換ユニットと、
イオン検出器とを有するシステム。
【請求項8】
請求項7において、前記イオン検出器はイオン移動度センサーである、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを検出する前処理用の膜交換ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2012/056709号公報には、本件出願人が提案しているサンプルを分析するユニットを有するシステムが開示されている。この分析するユニットは、少なくとも2つのパラメータにより制御される電界をイオン化された化学物質が通過するイオン強度を測定するイオン移動度センサーにサンプルを供給して得られた測定データに含まれるデータの2次元表現であって、第1のパラメータを変化させ、他のパラメータを固定したときのイオン強度を示す2次元表現の中に存在するピークを検出する機能ユニットと、検出されたピークと他の2次元表現の中に存在するピークとの連続性および生滅に基づいて検出されたピークを分類する機能ユニットと、分類されたピークに基づいてサンプルに含まれる化学物質を推定する機能ユニットとを有する。
【発明の概要】
【0003】
ガスクロマトグラフィーの前処理として、いくつかの種類のファイバーまたは膜を用いて固体、液体および気体のサンプルから揮発成分を抽出することが行われている。しかしながら、ごく微量の成分を検出しようとした場合、たとえば、イオン移動度センサーでppbあるいはpptレベルの濃度を検出しようとした場合、ファイバーまたは膜に付着する汚れ(コンタミ)が測定の障害となる。
【0004】
本発明の一態様は、第1の分離膜と、第1の分離膜を介して第2の空間に接続した第1の空間と、第1の空間に第1の流体を供給し、第2の空間から第1の空間に、第1の分離膜を透過して拡散した化学物質を、第1の空間から排出される第1の流体によりイオン検出器に供給する第1の経路と、第1の空間に設けられた第1のイオン化ユニットであって、第1の空間に面した第1の分離膜の表面を活性化するラジカルを生成する第1のイオン化ユニットとを有する膜交換ユニットである。第1の流体は典型的には気体であり、キャリアガスである。
【0005】
第1の空間にイオン化ユニットを設置することにより、第1の分離膜を透過して第1の空間に到達した成分(化学物質、分子)をイオン化できる。このため、第1の分離膜により特定の成分を通過させたり、特定の成分を排除したりできるとともに、第1の分離膜を通過した成分が、第1の分離膜の表面や第1の空間を規定するハウジング内部、さらに、第1の配管系へ付着することを抑制できる。したがって、汚染という現象が発生することを抑制できる。第1の分離膜の典型的なものは、水分(湿度、蒸気)を選択的に不透過(分離)できる気体分離膜(分離透過膜)である。
【0006】
第1の分離膜を透過した成分は、本来、汚染(コンタミ)ではなく、第2の空間に供給された、または存在する第2の流体(サンプル流体)に含まれるものであり、検出対象の化学物質である。この膜交換ユニットは、第1の分離膜を通過して第2の空間から第1の空間に拡散した化学物質を、第1の空間に設置されたイオン化ユニットによりイオン化する。したがって、検出対象の化学物質が汚染物質となるのを抑制できるとともに、検出対象の化学物質をイオン化することによりイオン検出器における化学物質の検出感度を向上できる。
【0007】
汚染は、化学物質の付着等による伝達の時間的な遅れと理解してもよい。この膜交換ユニットは、第1の分離膜を通過した化学物質をすぐにイオン化することにより、化学物質の伝達の時間的な遅れの発生を抑制する。このため、膜交換ユニットは、気体を分離するという所定の機能に加え、汚染の発生を抑制でき、イオン検出器に到達する化学物質の時間的な遅れを抑制できる。このため、膜交換ユニットの下流に設置される、イオン検出器に到達する化学物質の量を確保(増加)でき、検出感度を向上できる。
【0008】
第1のイオン化ユニットは、間接イオン化ユニットであってもよく、直接イオン化ユニットであってもよい。間接イオン化ユニットとしては、Ni63を使用したもの、コロナ放電を用いたものが挙げられる。直接イオン化ユニットとしては、紫外発光ダイオード(UV−LED)、紫外線ランプ(UV Low pressure lamp)などの紫外線源を含むUVイオン化ユニットが挙げられる。第1のイオン化ユニットの好適なものは、コロナ放電、RF放電などを用いて大気圧プラズマを発生させるユニットである。
【0009】
第1の空間は第1の流体が流通する程度のクローズドされた空間であり、第2の空間はオープンであってもクローズドであってもよい。第2の空間に第2の流体を供給および排出する第2の経路を有していてもよい。この場合、膜交換ユニットは、第2の空間に設けられた第2のイオン化ユニットを有することが望ましい。第2の空間は第2の流体が流通する程度のクローズドされた空間であり、その第2の空間の汚染も抑制できる。
【0010】
膜交換ユニットは、さらに、第2の空間と第3の空間とを接続する第2の分離膜と、第3の空間に第3の流体を供給および排出する第3の配管系とを有していてもよい。第1の分離膜および第2の分離膜に挟まれる第2の空間に流れる第2の流体を乾燥した特定成分のガス、たとえば窒素などの不活性ガスにすることにより、水分を除去し、より低湿度のサンプルをイオン検出器に供給できる。このため、イオン検出器において水分が測定また検出の障害となることを抑制できる。
【0011】
膜交換ユニットは、第1の分離膜を加熱および冷却する電熱変換素子(ペルチェ素子)を有することが望ましい。第1の分離膜を低温にすることで第1の空間への化学物質(分子)の拡散を抑制でき、第1の分離膜に化学物質を蓄積できる。その後、第1の分離膜を高温にすることにより、第1の分離膜に蓄積されていた分子の放出を促進できる。したがって、膜交換ユニットを簡易のバッファとして利用し、膜交換ユニットを透過する化学物質の濃度を高くできる。
【0012】
本発明の他の態様の1つは、上記に記載の膜交換ユニットと、イオン検出器とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは測定装置であるが、化学物質の検出結果をコンテンツの提供の情報として使用したり、危険を察知する情報として使用したりするなどの各種のアプリケーションを含むシステムであってもよく、各種のアプリケーションに対応したシステムであってもよい。イオン検出器は、質量分析器、ガスクロマトグラフィーなどであってもよいが、気体中のイオン化された分子をリアルタイムで検出できるイオン移動度センサーが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】測定装置の概略構成を示すブロック図。
図2】膜交換ユニットの概要を示すブロック図。
図3】異なる膜交換ユニットの概要を示すブロック図。
図4】異なる膜交換ユニットの概要を示すブロック図。
図5】湿度の異なるサンプルガスの測定結果を示す例。
【発明の実施の形態】
【0014】
図1に、サンプル流体に含まれる成分を検出し、測定する装置の概要を示している。この測定装置(測定システム)1は、サンプル流体2の入力ポート3と、測定済みの気体を排気する排気ポート4とを含む。測定装置1は、さらに、サンプル流体2から測定対象の化学物質、たとえば揮発成分を抽出する膜交換ユニット(前処理ユニット)20と、抽出された成分29を検出するイオン検出器であるイオン移動度センサー10と、抽出された成分29をイオン移動度センサー10へ搬送するキャリアガス39を生成するガスジェネレータ30と、キャリアガス39をイオン移動度センサー10へ吸引するポンプユニット40と、キャリアガス39の流量制御を行う質量流量制御装置(マスフローコントローラ)45とを含む。
【0015】
イオン移動度センサー10の一例はFAIMS(FAIMS、Field Asymmetric waveform Ion Mobility Spectrometry、フィールド非対称質量分析計、またはDIMS、Differential Ion Mobility Spectrometry)である。FAIMS(FAIMS技術)では、測定対象となる化学物質はFAIMS10の上流に配置されたイオン化ユニットによりイオン化できる化合物、組成物、分子、その他の生成物である。FAMISは、イオン移動度が化学物質毎にユニークである性質を利用して、測定対象のイオン化された分子(化学物質)を電界中で移動させながら、差動型電圧(DV、Dispersion Voltage、Vd電圧、電界電圧、交流電圧、以降ではVf)と補償電圧(CV、Compensation Voltage、補償電圧、直流電圧、以降ではVc)とを印加する。検出目標のイオン化された化学物質は、VfおよびVcの値が適切に制御されれば、検出用の電極に到達して電流値として検出される。
【0016】
測定装置1は、さらに、イオン移動度センサー10の通過流量を制御したり、イオン移動度センサー10から得られた測定データの分析機能を含むデバイス(臭覚プロセッサ、OLP、Olfaction Processor)60を含む。OLP60は、パーソナルコンピュータなどの汎用的なハードウェア資源(CPUおよびメモリを含む)により実現されてもよく、1つの集積化されたデバイス(半導体チップ、ASIC、LSI)または複数の集積化されたチップ(チップセット)として提供されてもよい。OLP60は、FAIMS10の測定条件または環境を制御する機能や、測定条件または環境により測定された結果を解析(解釈)する機能などを含み、詳細は、たとえば、本件出願人の出願(国際公開WO2012/056709号公報)に開示されている。
【0017】
図2に、膜交換ユニット20の概略構成を示している。膜交換ユニット20は、円筒状のハウジング24と、ハウジング24に収納された第1の分離膜51とを含み、ハウジング24の内部は、第1の分離膜51により第1の空間(第1の部屋、第1のチャンバ)21および第2の空間(第2の部屋、第2のチャンバ)22に分離(分割)されている。したがって、第1の空間21は、第1の分離膜51を介して第2の空間22に接続(連通)している。膜交換ユニット20は、さらに、第1の空間21に第1の流体(キャリアガス)39を供給および排出する第1の配管系25と、第2の空間22に第2の流体(サンプルガス)2を供給および排出する第2の配管系26とを有する。
【0018】
第1の配管系25は、第1の空間21に第1の流体であるキャリアガス39を供給し、第2の空間22から第1の空間21に、第1の分離膜51を透過して拡散した化学物質を、第1の空間21から排出されるキャリアガス39によりイオン検出器のイオン移動度センサー10に供給する第1の経路としての機能を果たす。第1の経路は基板の凹凸などにより形成される流路であってもよい。第1の配管系25は、キャリアガス39の入力ポート25aと、キャリアガス39の出力ポート25bとを含み、出力ポート25bはイオン移動度センサー10に接続されている。
【0019】
さらに具体的には、第1の配管系25は、二重管25cを含み、外管25dに入力ポート25aが設けられ、内管25eに出力ポート25bが設けられている。外管25dは第1の空間21の全体に、あるいは外側からキャリアガス39を供給するように構成され、内管25eは第1の分離膜51の近傍からキャリアガス39を排出できるように構成されている。したがって、第1の配管系25は、第1の分離膜51を透過したターゲットの化学物質29をより多く含むキャリアガス39を出力ポート25bから出力できる。
【0020】
第2の配管系26は、第2の空間22に第2の流体であるサンプルガス2を供給および排出する第2の経路としての機能を果たす。第2の経路は基板の凹凸などにより形成される流路であってもよい。第2の配管系26は、サンプルガス2の入力ポート26aと、サンプルガス2の排出(出力)ポート26bとを含み、入力ポート26aは測定装置1の入力ポート3に繋がっている。
【0021】
さらに具体的には、第2の配管系26は、二重管26cを含み、内管26eに入力ポート(サンプル入力)26aが設けられ、外管26dに出力ポート(サンプル出力)26bが設けられている。内管25eは第1の分離膜51の近傍にサンプルガス2を導くように構成されている。外管26dは第2の空間22の周囲または外側からサンプルガス2を排出するように構成されている。したがって、第2の配管系26は、サンプルガス2を第1の分離膜51の近傍に導き、第1の分離膜51を透過しなかった成分、すなわち、第1の分離膜51により分離あるいは排除された成分を多く含むガスを排気できるようになっている。
【0022】
したがって、膜交換ユニット20により、第2の空間22から分離膜51を介して第1の空間21に拡散した化学物質(ターゲット物質)29が、第1の流体であるキャリアガス39によりイオン検出センサー10に供給される。
【0023】
第1の分離膜51の典型的な例は気体分離膜であり、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ハイブリッドシリカを含む。PDMS、ハイブリッドシリカ膜は、サンプルガス2から水分(蒸気、湿分)を除去するのに特に適している。PDMSは、高分子鎖間の距離が大きく、高い気体透過係数を示す高分子膜素材の1つである。したがって、PDMSは微細口径の多孔性膜として機能し、さらに、疎水性で、有機液体に親和性が高く、選択透過性に優れていることが報告されている。本明細書のPDMSには、従来のPDMSと種々のジビニルモノマーなどの高分子との架橋反応で調製されたような変性PDMS、PDMSと他の素材との複合膜が含まれる。
【0024】
ハイブリッドシリカは、平均細孔径が0.1ないし0.6nmで、数種類の媒体内で少なくとも200℃まで熱水的に安定であるシリカをベースとする微孔質有機−無機ハイブリッド膜であり、短鎖架橋シランのゾル−ゲル処理を使用して製造することができる。ハイブリッドシリカは、気体の分離ならびに低分子量アルコールなどの様々な有機化合物からの水および他の小分子化合物の分離に適していることが報告されている。さらに、PDMSに対して耐熱性が高く、高温での用途、たとえば、低温で蓄積して高温で放出するような濃縮を兼ねた用途に適している。
【0025】
分離膜51は、これらに限定されない。分離膜は気体に対し選択透過性を示す膜であればよく、ガス拡散性多孔質膜として知られている膜、浸透気化法に使用される膜、気化浸透法に使用される膜などが含まれ、高分子膜であってもよく、気体透過性を有する膜、溶解拡散性を有する膜であってもよい。分離膜は物理的に多孔性の膜であってもよく、孔のない高分子膜や分子レベルの微細孔を有する無機膜などの分子レベルで多孔性の膜であってもよい。
【0026】
これらの分離膜51は、拡散性、透過性を考慮すると膜厚が1μm〜1mm、さらに好ましくは50μm〜500μm程度に限られ、また、組成からも膜強度は非常に小さい。特にPDMSの強度は小さい。このため、膜交換ユニット20においては、分離膜51の両面を、50〜500μm程度の厚さのカーボン生地や適当な強度の透過性の高い樹脂膜56と、50〜500μm程度の厚さのシルクメッシュ53とで積層し、補強して使用している。分離膜51の片面のみを上記のように補強してもよい。さらに、分離膜51とハウジング24との間に隙間が生じるのを防止するため、膜交換ユニット20では、Oリング55により分離膜51をハウジング24に密着させている。
【0027】
膜交換ユニット20は、さらに、第1の空間21の内部でイオンを形成する第1のイオン化ユニット71と、第2の空間22の内部でイオンを形成する第2のイオン化ユニット72とを含む。イオン化ユニット71および72の典型的なものはコロナ放電により大気圧プラズマを発生するプラズマ発生ユニットである。イオン化ユニット71のコロナ放電により第1の空間21の内部の気体は、分離膜51を透過したターゲット物質29を含めて間接的にイオン化される。したがって、第1の空間21のハウジング24の内壁にターゲット物質29が付着しにくく、汚染物質(コンタミ)となる可能性が少なくなる。
【0028】
また、第1の空間21に供給されるキャリアガス39はコストの面から乾燥空気が適当であり、イオン化ユニット71のコロナ放電によりオゾンなどのラジカルが発生する。したがって、第1の空間21に面した分離膜51およびハウジング24の内壁の表面はオゾンなどのラジカルにより常に活性化される。このため、分離膜51にターゲット物質29などが付着しにくく、分離膜51の表面に現れたターゲット物質29は、早いタイミングで第1の空間21に放出される。さらに、分離膜51を透過して第1の空間21に拡散した化学物質29はイオン化されるので、第1の膜交換ユニット20の第1の空間21を形成する部分、第1の経路を構成する第1の配管系25にも付着しにくい。
【0029】
このため、分離膜51を透過したターゲット物質29は、膜表面や内壁などに付着することがほとんどなく、リアルタイムでキャリアガス39に運ばれてイオン移動度センサー10に供給される。ターゲット物質29が汚染物質になることがなく、さらに、ターゲット物質29が膜交換ユニット20に残存せずにキャリアガス39に含まれるので、イオン移動度センサー10の感度およびリアルタイム性を向上できる。
【0030】
イオン化ユニット71は、コロナタイプに限定されず、UVなどの直接イオン化ユニットであってもよい。また、イオン移動度センサー10の直前に、適当なタイプの間接または直接イオン化ユニットを配置してターゲット物質29のイオン化を促進し、イオン移動度センサー(FAIMS)10の感度を上げてもよい。
【0031】
第2の空間22に設けられた第2のイオン化ユニット72は、第1の空間21に設けられたイオン化ユニット71と同様に、第2の空間22に面した分離膜51、ハウジング24の表面を活性化する。したがって、第2の空間22にターゲット物質29が蓄積されることを抑制でき、後に、分離膜51を透過して、結果的に汚染物になることを未然に防止できる。したがって、測定装置1の精度を向上できる。第2のイオン化ユニット72は、大気圧プラズマ発生ユニットであってもよく、その他の直接または間接イオン化ユニットであってもよい。
【0032】
膜交換ユニット20は、さらに、分離膜51を間接的に加熱および冷却する電熱素子75および76と、これらの電熱素子75および76を制御する温度制御ユニット77とを含む。電熱素子75および76は、加熱または冷却専用に設けられていてもよく、供給電圧の極性を逆転することにより加熱と冷却とを切り替えて使用してもよい。温度制御ユニット77は、適当なサイクルで分離膜51の加熱と冷却とを繰り返す。分離膜51を冷却することにより拡散係数(透過係数)が低下するので、ターゲット物質29は分離膜51に蓄積されやすい。分離膜51を加熱することにより拡散係数(透過係数)が増加するので、分離膜51に蓄積されたターゲット物質29を含めて第1の空間21にターゲット物質29が放出される。したがって、簡易的にターゲット物質29を濃縮した状態でキャリアガス39を介してイオン移動度センサー10へ供給でき、測定装置1の感度を向上できる。
【0033】
図3に、異なるタイプの膜交換ユニット20を示している。図2に示した膜交換ユニット20は、サンプリングされた流体2が気体である。それに対し、図3に示した膜交換ユニット20は、液体、たとえば水をサンプル流体2としてサンプリングし、膜交換ユニット20を通すことにより、分離膜51を通して、水2に含まれる気体および/または揮発成分を第1の空間21に透過させることができる。この膜交換ユニット20においては、分離膜51が浸透気化膜として機能する場合は、有機液体混合液から有機物を選択的にキャリアガス中に抽出したりすることができる。この膜交換ユニット20は、キャリアガス39により分離膜51を透過したターゲット物質29をイオン移動度センサー10に搬送し、分析することにより、水などの液体に含まれている成分を測定する用途に適している。
【0034】
図4に、さらに異なるタイプの膜交換ユニット20を示している。サンプル流体2に含まれる成分の中で、膜交換ユニット20により排除したい成分の1つは水分(水蒸気、湿分)である。水分は、間接イオン化においてはリアクタントとなり、他の成分のイオン化に有用であるが、イオン移動度センサー10において測定する場合、非常に大きなピーク(RIP)として表れ、イオン移動度センサー10の出力(スペクトラム)の中でRIPと重なるピークを持つ成分の検出および定量を妨げる要因となる。
【0035】
図4に示した膜交換ユニット20は、ハウジング24に第2の分離膜52を有し、ハウジング24の内部が第2の分離膜52により、さらに、第2の空間22と第3の空間(第3の部屋、第3のチャンバ)23とに分割されている。したがって、第2の空間22は第2の分離膜52を介して第3の空間に接続する。第2の分離膜52は、第1の分離膜51とほぼ並行に配置される。膜交換ユニット20は、さらに、第3の空間23に第3の流体(サンプル流体)2を供給および排出する第3の配管系27と、第3の空間23に設置されたイオン化ユニット73とを有する。
【0036】
第3の配管系27は、第3の空間23にサンプル流体2を供給および排出する第3の経路として機能する。第3の配管系27は、サンプルガス2の入力ポート27aと、サンプルガス2の排出(出力)ポート27bとを含み、入力ポート27aは測定装置1の入力ポート3に繋がっている。第3の配管系27の具体的な構成は、図2に示した膜交換ユニット20の第2の配管系26と共通する。
【0037】
一方、この膜交換ユニット20の第2の空間22には第2の配管系26により乾燥した特定成分の気体38、たとえば、空気、窒素などが供給される。特定成分の気体38の一例は、第1の分離膜51により排除されるタイプの成分(分子)からなる気体か、イオン化エネルギーが第1のイオン化ユニット71のイオン化エネルギーを超えている成分からなる気体である。この種の気体の成分はイオン化ユニット71でイオン化されないので、イオン移動度センサー10で検出されない。また、特定成分の気体38は、空気などの成分組成および比率が判明しているガスであってもよく、イオン移動度センサー10で測定される成分が含まれている場合は、後でデータを補正できる。
【0038】
この膜交換ユニット20においては、第3の空間23にサンプル気体2が供給され、第2の分離膜52をターゲット物質29が透過することにより、ターゲット物質29とともにイオン移動度センサー10に供給される水分量が減る。さらに、第2の空間22に乾燥気体38を供給することにより第2の空間22の湿度を低下できる。このため、第1の分離膜51をターゲット物質29が透過することにより、ターゲット物質29とともに第1の空間21に現れ、キャリアガス39により搬送される水分量を大幅に削減できる。したがって、イオン移動度センサー10においては、RIPが小さくなり、RIPに重複するようなピークを備えた化学物質をさらに精度よく分析できる。
【0039】
図5に、膜交換ユニット20を通してアセトアルデヒドを700ppb含むサンプルガス2をFAIMS10で測定した例を示している。図中のピークP1がアセトアルデヒドのピークであり、ピークP2がRIPである。この図からわかるように、水分を除去することによりアセトアルデヒドのピークP1は大きくなり、FAIMS10における検出感度が向上する。
【0040】
なお、上記の測定装置1では、イオン移動度センサー10にFAIMSを採用しているが、センサーは他のタイプのイオン移動度センサーであってもよく、質量分析器であってもよい。しかしながら、イオン移動度センサーは空気中で成分(分子)を測定できるので、管理が容易で、低コストの金属検出システムに好適である。また、上記では測定装置1を例に説明しているが、本発明に含まれるシステムは測定装置に限定されず、プロダクトラインを監視する監視装置、吐息中の成分を監視するブレスモニタリング、化学物質を検出することにより危険を判断したり健康を判断したりする機能を備えた携帯端末などであってもよい。本発明に含まれるシステムの一例は、湿度の高い気体や溶液などの成分をモニタリングしたり、それによりコンテンツを提供するなどのサービスを提供するシステムである。
図1
図2
図3
図4
図5