(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血管(25)を挟持するクランプ(2)と、このクランプ(2)に接続され周方向の一部を切り欠いた環状のリング部材(3)と、このリング部材(3)を周方向へ回動自在に支持する支持台(4)と、上記のリング部材(3)の回動を所望の位置で停止してそのリング部材(3)の停止姿勢を維持する姿勢保持手段(19)とを備えることを特徴とする、血管用クランプ装置。
上記のクランプ(2)は、ばね弾性を備えた本体部(6)と、この本体部(6)から延設され上記の本体部(6)の弾圧力により互いに近接される一対の挟持部(7・7)と、この両挟持部(7・7)を上記の弾圧力に抗して互いに離隔させる一対の操作部(8・8)とを備え、上記の各操作部(8)は上記の本体部(6)を挟んで挟持部(7)とは反対側に延ばされた延長姿勢(E)と、挟持部(7)に重ねられた折畳姿勢(F)とに切換え可能に構成してある、請求項1または2に記載の血管用クランプ装置。
【背景技術】
【0002】
従来、微小血管を吻合する際に用いるクランプとしては、1本の連結棒を摺動可能に挿通した2つのクランプからなる、いわゆるダブルクランプがある(例えば、特許文献1の
図21、22を参照。)。
【0003】
互いに吻合される2本の血管は、それぞれ端部近傍が上記の各クランプで挟持され、所定の姿勢に保持された状態で血管の端部が縫い合わされる。その縫合手順としては、例えばBi-angulation法やCarrel法などがある。
【0004】
Bi-angulation法では、両血管をそれぞれ各クランプで挟持したのち、術者から見て縫合部の手前側部分(以下、前壁ともいう)と背面側部分(以下、後壁ともいう)との両境目に支持糸を掛け、前壁を縫合する。次に、上記のダブルクランプを血管周りに180度回転させ、縫合部を裏返したのち、後壁を縫合して血管吻合が完了する。
【0005】
Carrel法では、両血管をそれぞれ各クランプで挟持したのち、前壁のうちの前後120度の位置(即ち、術者から見て、縫合部の中央から血管の周方向へそれぞれ60度離隔した位置)にそれぞれ支持糸を掛け、両支持糸間を縫合する。次に、上記のダブルクランプを血管周りに180度回転させ、縫合部を裏返したのち、後壁の中央に第3の支持糸を掛け、この支持糸と上記の各支持糸との間をそれぞれ縫合して血管吻合が完了する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のダブルクランプでは、水平方向に配置された状態が最も安定した姿勢となるため、後壁を縫合する際、クランプを血管周りに180度回転させている。しかし、生体肝移植時の肝動脈吻合など、組織から出ている血管が短い場合は、血管を180度回転させることが容易でない場合がある。また、クランプとともに血管が180度回転できた場合でも、血管が大きく捩じられることから、閉塞を生じる虞もある。
【0008】
また、特に上記のBi-angulation法では、支持糸近傍が術者から見て血管の側方に位置するため、この支持糸周辺での縫合が容易でない問題もある。
さらに上記の両クランプは、上記の連結棒を介して互いに連結されているため、クランプを回転させたときに、この連結棒が血管と術者との間に位置して、吻合操作の障害となる虞もある。
【0009】
一方、血管を回転させることなく縫合する手順に、Back wall technique法がある。この縫合手順は、両血管をそれぞれ各クランプで挟持したのち、後壁から縫合を開始し、後壁を縫合したのち前壁を縫合して血管吻合が完了する。この場合は血管を回転させる必要がなく、血管に加わる負担が少なく済むが、後壁と前壁との境界は術者から見て血管の側方に位置するため、この部分での縫合が容易でない問題がある。
【0010】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、縫合時に生じる血管の捩じれを抑制し、血管が短い場合など180度容易に反転できない場合であっても、血管を容易に、且つ確実に吻合できる、血管用クランプ装置及びこの血管用クランプ装置を用いた血管の吻合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す
図1から
図10に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
すなわち、本発明は血管用クランプ装置に関し、血管(25)を挟持するクランプ(2)と、このクランプ(2)に接続され周方向の一部を切り欠いた環状のリング部材(3)と、このリング部材(3)を周方向へ回動自在に支持する支持台(4)と、上記のリング部材(3)の回動を所望の位置で停止してそのリング部材(3)の停止姿勢を維持する姿勢保持手段(19)とを備えることを特徴とする。
【0012】
縫合される血管は、上記のリング部材の中心軸心またはその近傍に配置され、上記のクランプで端部近傍が挟持される。このクランプで挟持された血管は、リング部材を回動させることにより、上記のクランプを介して周方向に回転するが、このリング部材は姿勢保持手段により所望の位置で停止してその停止姿勢が維持される。これにより、上記の血管の回転は、例えば30度〜120度など、180度よりも小さな角度に制限され、血管の捩じれが抑制される。
【0013】
そしてこの血管は、所望の回動位置で停止姿勢に維持されているリング部材に接続されたクランプで挟持されているので、その所望の回転位置で確りと保持されており、他の血管と容易に縫合される。周方向の一部が縫合された血管は、上記のリング部材を、例えば90度〜120度など180度よりも小さな所望の角度だけ、一方向とこれとは逆方向とへ回転させることにより、未縫合部位が術者の縫合し易い位置へ移動し、他の血管と容易に縫合される。そして血管の周方向の全てが縫合されると血管吻合が完了し、吻合された血管は、上記のクランプによる挟持が解除されたのち、リング部材の上記の切り欠き部から取り出されて、血管用クランプ装置が外される。
【0014】
ここで、上記の所望の角度は、特定の角度に限定されず、180度以上であってもよいが、血管に過剰の捩じれが加わらないように、例えば30度〜120度以下など、180度よりも小さい角度が好ましい。
【0015】
上記の姿勢保持手段は、支持台に対するリング部材の回動を停止してその停止姿勢を維持できるものであればよく、特定の構造のものに限定されない。例えば支持台に形成したブレーキ機構等であってもよく、或いは、リング部材と支持台との一方に係合凹部を形成するとともに、この係合凹部に係合する係止部を他方に形成したものであってもよい。この係止部としては、具体的には、例えば球体をばねで弾圧する、いわゆるクリック機構を挙げることができる。姿勢保持手段がこの係合凹部と係止部からなる場合は、係止部が係合凹部に係合したときに、リング部材の回動が停止し、その停止姿勢が維持される。
【0016】
2本の血管の各端部を互いに縫合する血管の吻合にあっては、それぞれの血管の端部近傍が上記のクランプで挟持される。従って、上記のクランプとリング部材と支持台とは、それぞれ2つずつ備えられるが、上記の両支持台が、支持台連結手段を介して互いに近接・離隔可能に連結してあると、血管の任意の位置をクランプで挟持できるうえ、クランプで挟持した血管同士を容易に近接・離隔させることができ、吻合部分の緊張を調節できて好ましい。
ここで、上記の支持台連結手段を介して両支持台を互いに近接・離隔可能に連結する構成としては、特定の構成に限定されず、例えば、この支持台連結手段を、支持台に形成した挿通孔へ摺動可能に挿通してもよく、或いはこの支持台連結手段を、例えば筒体とその内部へ摺動可能に挿通された棒体とで構成するなどして、伸縮可能に構成してもよい。
【0017】
なお、上記のクランプとリング部材と支持台とをそれぞれ2つずつ備える場合、各リング部材はそれぞれの回動が所望の位置で姿勢保持手段により停止される。従って、この2つのリンク部材を互いに同じ角度ずつ回転させた位置で停止させると、各クランプで挟持された血管が互いに同期するかのように回転・停止するので、両血管の間に捩じれを生じることがない。
【0018】
しかも上記の両クランプは、前記従来のダブルクランプで用いたような連結棒を必要とせず、各リング部材を介して支持台に支持され、上記の姿勢保持手段により姿勢が保持されるので、両クランプ間での作業領域や視野を広く確保することができ、血管の吻合操作を円滑に行うことができる。
【0019】
上記のクランプは、血管を挟持できるものであればよく、特定の形状や構造のものに限定されない。しかしこのクランプが、ばね弾性を備えた本体部と、この本体部から延設され上記の本体部の弾圧力により互いに近接される一対の挟持部と、この両挟持部を上記の弾圧力に抗して互いに離隔させる一対の操作部とを備え、上記の各操作部が上記の本体部を挟んで挟持部とは反対側に延ばされた延長姿勢と、挟持部に重ねられた折畳姿勢とに切換え可能に構成してあると、延長姿勢の操作部を操作して血管を挟持したのち、この操作部を折畳姿勢に切り替えることでクランプの全長を短くできる。この結果、縫合作業のための空間を広く確保できるうえ、リング部材とクランプの回転時に、クランプの操作部が支持台下方の組織等に接触してクランプ自体が浮きあがる虞がなく、クランプを円滑に回転できるので好ましい。
【0020】
また、本発明の血管の吻合方法は、上述の血管用クランプ装置を用い、前記血管用クランプ装置の2つのクランプの各々に挟持された血管(25)同士を吻合する、血管の吻合方法を前提とし、前記血管用クランプ装置の2つのリング部材を回動させて前記血管を前記リング部材の軸心周りに180°未満の回転角で回転させる回転工程と、前記回転工程後に前記血管用クランプ装置の姿勢保持手段により前記血管の姿勢が保持された状態で前記血管の周方向の一部を縫合する縫合工程とを備え、前記回転工程と前記縫合工程とを交互に行うことにより、前記血管を全周に亘って縫合するものである。
また、本発明の血管の吻合方法は、上述の回転工程において、2つのリング部材を互いに同期させて同一速度且つ同一方向で同軸に回転させるものである。
また、本発明の血管の吻合方法は、上述の回転工程が複数回行われるとともに少なくとも1回はリング部材の回転方向が逆方向になるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
(1)リング部材は姿勢保持手段により所望の位置で停止してその停止姿勢が維持されるので、このリング部材に接続されたクランプで挟持されている血管は、例えば30度〜120度など、180度よりも小さな角度に回転を制限でき、血管に生じる捩じれを小さくすることができる。これにより、血管に加わる負担を最小限にでき、血管の捩じれによる閉塞の発生を防止することができる。
(2)血管が短く、180度反転させることが困難な場合でも、例えば90度〜120度など180度よりも小さな角度で一方向とこれとは逆方向とへ回転させることにより、Bi-angulation法やCarrel法など通常の縫合法で、血管の全周囲を容易に縫合することができる。
(3)リング部材は、例えば30度や60度など、任意の角度で回動を停止できるので、上記のクランプで挟持されている血管の縫合部を、術者の正面など、最も縫合しやすい位置に配置でき、例えば初心者でも容易に、且つ安全確実に縫合できる。
(4)肝動脈吻合などのように血管が短く180度反転させることが困難な場合、Back wall technique法等の縫合法が行われるが、この場合でも、血管を、例えば60度など小さな任意の角度で回転させることにより、前壁と後壁との境界の縫合が困難な部分を、術者の正面に配置することができ、これにより血管を容易に縫合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明を具体的に説明する。但し本発明はこの実施形態のものに限定されるものではない。
図1に示すように、この第1実施形態の血管用クランプ装置(1)は、クランプ(2)と、このクランプ(2)に接続された環状のリング部材(3)と、このリング部材(3)を周方向へ回動自在に支持する支持台(4)とを、それぞれ2つずつ備えている。
【0024】
上記のクランプ(2)は、ばね弾性を備えた本体部(6)と、この本体部(6)から延設され上記の本体部(6)の弾圧力により互いに近接される一対の挟持部(7・7)と、この両挟持部(7・7)を上記の弾圧力に抗して互いに離隔させる一対の操作部(8・8)とを備える。この各操作部(8)は、
図1の実線に示すように上記の本体部(6)を挟んで挟持部(7)とは反対側に延ばされた延長姿勢(E)と、
図1の仮想線で示すように挟持部(7)に重ねられた折畳姿勢(F)とに切換え可能に構成してある。
【0025】
図2に示すように、上記のリング部材(3)は、周方向の一部が、例えば中心角が約60度の範囲で切り欠かれている。
図1に示すように、この切欠き部(9)の近傍で、上記のクランプ(2)の一方の挟持部(7)が、第1接続棒(11)を介してリング部材(3)に接続してある。そしてこの切欠き部(9)とはリング部材(3)の中心軸心(10)を挟んだ反対側で、クランプ(2)の本体部(6)が、第2接続棒(12)を介してリング部材(3)に接続してある。
また、上記の支持台(4)の側面には、上記の第1接続棒(11)や第2接続棒(12)が通過できる、環状の連通溝(13)が形成してある。この連通溝(13)は、上記の接続棒(11・12)は通過できるが、リング部材(3)は通過できない狭い幅に形成してある。
【0026】
図1と
図2に示すように、上記の支持台(4)には上面に半円柱状の凹部(5)が形成してあり、この凹部(5)の周囲の下方部分に、上記のリング部材(3)が回動できる環状の案内溝(14)が形成してある。この案内溝(14)には、リング部材(3)が外れないようにリング押え(15)が形成してある。このリング押え(15)は、上記の切欠き部(9)の開口寸法よりも短く形成されており、この切欠き部(9)にリング押え(15)を通過させることで、リング部材(3)が上記の案内溝(14)内に収容される。
【0027】
図1と
図2に示すように、上記の各支持台(4)には挿通孔(16)が形成してあり、この挿通孔(16)に支持台連結棒(17)が摺動可能に挿通してある。これにより、両支持台(4・4)はこの支持台連結棒(17)を介して互いに近接・離隔可能に連結されている。
なお
図3(a)に示すように、上記の支持台連結棒(17)には矩形の枠からなる安定支持体(23)が付設してあり、この安定支持体(23)に吻合用糸を係止する糸係止部(24)が設けてある。但し本発明では、この糸係止部(24)を他の部位に設けたり省略したりしてもよく、また上記の安定支持体(23)は支持台(4)の姿勢を保持できるものであればよく、この実施形態のような矩形の枠に限定されない。さらに上記の支持台(4)が単独で容易に姿勢を保持できる場合は、この安定支持体(23)を省略してもよい。
【0028】
図1と
図3に示すように、上記の各支持台(4)には、上記のリング部材(3)の回動を所望の位置で停止してそのリング部材(3)の停止姿勢を維持する、姿勢保持手段(19)がそれぞれ設けてある。
即ち、
図1に示すように、上記のリング部材(3)には、側面に複数の係合凹部(20)が、例えば中心角を30度とする等間隔で形成してある。一方、
図3(b)に示すように、上記の支持台(4)には、係止部である球体(21)を上記の案内溝(14)に向けて突出させてその球体(21)をばね(22)で弾圧している、いわゆるクリック機構が姿勢保持手段(19)として設けてある。
【0029】
案内溝(14)内に収容されたリング部材(3)は、上記の係合凹部(20)間に上記の球体(21)が接している状態では、円滑に回転する。しかし上記の係合凹部(20)が上記の球体(21)と対面する位置に達すると、この係合凹部(20)に球体(21)が入りこみ、その係合によりリング部材(3)の回動が停止し、リング部材(3)はその停止姿勢に維持される。この係合した状態から強制的にリング部材(3)を回動すると、上記の球体(21)はリング部材(3)に押圧されて僅かに後退し、これにより係合凹部(20)と球体(21)の係合が解除され、リング部材(3)は円滑に回動できるようになる。
【0030】
上記の姿勢保持手段(19)は、両方の支持台(4)にそれぞれ設けてあるので、各リング部材(3)は、上記の姿勢保持手段(19)に設定された間隔で、所望の角度ずつ回動させて任意の位置で停止させることができる。従って、各リング部材(3)とこれに接続されたクランプ(2)を、互いに等しい角度だけ回動させることにより、あたかも両クランプ(2)が同期するように回転・停止される。しかも両クランプ(2)間には、従来のダブルクランプと異なって連結棒などが無いので、両クランプ(2)で挟持される血管の周囲に、広い作業領域や視野が確保される。
【0031】
次に、上記の血管用クランプ装置を用いた、血管を吻合する手順について説明する。
最初に、吻合される血管が上記のリング部材(3)の中心軸心(10)の近傍に配置され、
図4に示すように、上記のクランプ(2)で血管(25)の端部近傍が挟持されたのち、クランプ(2)の操作部(8)が折畳姿勢(F)に切り替えられる。そして上記の血管(25)の端部同士が互いに縫合され、必要に応じて、上記のリング部材(3)が中心軸心(10)回りに回動されるとともに、所望の回動位置で停止されてその停止姿勢が上記の姿勢保持手段(19)で保持され、さらに縫合が継続される。このとき、両クランプ(2)は、リング部材(3)を介して、互いに同期するかのように回転と停止を行なうことができるので、両クランプ(2)の間で血管(25)に捩じれを生じることがない。しかも両クランプ(2)で挟持された血管(25)の周囲には、広い作業領域や視野が確保されるので、上記の吻合操作が円滑に行われる。そして両血管(25)が端部の全周を縫合されて吻合が完了したのち、上記のクランプ(2)による挟持が解除され、リング部材(3)の前記の切欠き部(9)から、吻合された血管(25)が取り出される。
【0032】
上記の吻合手順について、さらに具体的に説明する。但し本発明の血管用クランプ装置を用いた吻合は、この手順のものに限定されるものではない。
[1]Carrel法
上記のクランプ(2)で血管(25)を挟持して、操作部(8)を折畳姿勢(F)に切り替えたのち、
図5(a)に示すように、血管(25)の前壁のうちの、前後120度の位置、即ち、術者から見て、縫合部の中央から血管の周方向へそれぞれ60度離隔した位置に、それぞれ支持糸(26)をかけ、両支持糸(26・26)間の縫合領域(S)を縫合する。次に上記のリング部材(3)を、
図5(a)において時計回りに120度回転させて
図5(b)の状態とし、血管(25)の後壁の中央に第3の支持糸(26)をかけたのち、この支持糸(26)と上記の縫合した部分との間で術者と対面している縫合領域(S)を縫合する。そして次に、リング部材(3)を反時計回りに回転させて元の
図5(a)の状態に戻し、さらにこのリング部材(3)を反時計回りに120度回転させて、
図5(c)の状態とする。この状態で術者に対面する未縫合の縫合領域(S)を縫合し、これにより血管(25)の吻合が完了する。
【0033】
[2]Bi-angulation法
上記のクランプ(2)で血管(25)を挟持して、操作部(8)を折畳姿勢(F)に切り替えて
図6(a)の状態にしたのち、上記のリング部材(3)を時計回りに90度回転させて
図6(b)の状態にする。この状態で、血管(25)の、術者側の前壁と背面側の後壁との両境目にそれぞれ支持糸(26)を掛け、前壁の縫合領域(S)を縫合する。次に、上記のリング部材(3)を元の状態に戻すとともに、さらに反時計回りに90度回転させて
図6(c)の状態にする。上記の血管(25)は縫合部が裏返された状態となり、未縫合の後壁が術者に対面するので、この後壁の縫合領域(S)を縫合することにより、血管(25)の吻合が完了する。
なお、血管(25)の前壁と後壁との境目を縫合する場合は、リング部材(3)を30度〜60度回転させて、その縫合領域が術者に対面するようにすると、より好ましい。
【0034】
[3]Back wall technique法
上記のクランプ(2)で血管(25)の挟持して、操作部(8)を折畳姿勢(F)に切り替えたのち、
図7(a)に示すように、血管(25)の後壁の中央を縫合し、その両側を次々に縫合していく。血管(25)の後壁と前壁との境目を縫合するときは、
図7(b)に示すように、リング部材(3)を、例えば30度〜60度回転させて、その縫合領域(S)を術者と対面する位置へ移動させ、縫合する。その後、
図7(c)に示すように、リング部材(3)を元に戻して血管(25)の前壁の縫合領域(S)を縫合し、これにより、血管(25)の吻合が完了する。
【0035】
本発明の血管用クランプ装置は、上記の第1実施形態のものに限定されず、クランプやリング部材、支持台、姿勢保持手段等は、他の形状、構造のものであってもよい。
【0036】
例えば
図8に示す第2実施形態では、支持台(4)の上面に凹部(5)が形成されており、この凹部(5)の下方に案内溝(14)が形成されている点では、上記の第1実施形態と同様であるが、この第2実施形態では、リング部材がこの案内溝(14)内へ支持台(4)の側方から収容されるように構成してあり、この案内溝(14)の側方は、蓋状のリング押え(15)で蓋されている。このリング押え(15)には、円弧状の細い連通溝(13)が形成してあり、リング部材とクランプを接続する接続棒がこの連通溝(13)を通過できるようにしてある。
【0037】
なおこの第2実施形態では、上記のリング押え(15)を案内溝(14)の全長に亘って設けてあるが、このリング押え(15)はリング部材が案内溝(14)から外れることを防止するものであればよく、案内溝(14)の特定の一か所または複数個所に設けたものであってもよい。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0038】
図9に示す第3実施形態では、上記の第2実施形態と同様、支持台(4)に半円状の案内溝(14)が形成してあり、この案内溝(14)よりも内側に凹部(5)が形成してある。しかしこの第3実施形態では、上記の第2実施形態と異なり、上記のリング部材(3)は、この案内溝(14)内へ、支持台(4)の上方から収容され、この案内溝(14)の上方が、蓋状のリング押え(15)で蓋されている。このリング押え(15)にも、細い連通溝(13)が形成してあり、リング部材(3)とクランプを接続する接続棒(11)がこの連通溝(13)を通過できるようにしてある。なお、このリング押え(15)も、案内溝(14)の特定の一か所または複数個所に設けたものであってもよい。その他の構成は上記の第2実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0039】
上記の各実施形態では、いずれもリング部材を案内溝に収容することで、リング部材を周方向へ回動自在に支持台で支持した。しかし本発明では、支持台がリング部材を周方向へ回動自在に支持しておればよく、案内溝以外の構造で、周方向へ回動自在に支持するものであってもよい。
【0040】
例えば
図10に示す第4実施形態では、支持台(4)に案内ロール(27)を付設して、この案内ロール(27)によりリング部材(3)を回動自在に支持してある。
なお、この第4実施形態では、姿勢保持手段(19)をブレーキシューで構成してあり、操作レバー(28)の操作により、リング部材(3)を任意の角度位置で停止させてその停止姿勢を維持できるようにしてある。しかし本発明では、このブレーキシューに代えて、上記の第1実施形態のようなクリック機構を採用してもよい。上記のリング部材に図外のクランプが接続されているなど、その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0041】
上記の各実施形態で説明したクランプやリング部材、支持台、姿勢保持手段、支持台連結手段等は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の形状や寸法、構造などをこれらの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0042】
例えば上記の各実施形態では、断面が矩形のリング部材を用いた。しかし本発明に用いるリング部材の断面は、円形はもとより、楕円形や、矩形以外の多角形のほか、任意の形状であってもよい。
また、上記の第1実施形態では、リング部材の側面に係合凹部を形成した。しかし本発明でリング部材に係合凹部を形成する場合、この係合凹部をリング部材の外周面や内周面など、任意の位置に形成することができ、また、係合凹部を支持台に設けるとともに、これに係止する係止部材をリング部材に設けたものであってもよい。なお上記の第1実施形態では、上記の係合凹部を中心角が30度となる等間隔に配置した。しかし本発明では、この係合凹部を任意の間隔で配置したものであってもよい。
【0043】
また上記の第1実施形態では姿勢保持手段としてクリック機構を用いたので、リング部材やクランプを正確に所定の位置で停止させることができ、左右一対のクランプを正確に同じ角度位置に保持することができて好ましい。これに対し、上記の第4実施形態ではブレーキシューを用いたので、上記のクランプを任意の角度位置で容易に保持できる利点がある。しかし本発明で用いる姿勢保持手段は、リング部材の回動を所定位置で停止してその停止姿勢を保持できるものであればよく、例えば第1実施形態の姿勢保持手段としてブレーキシューを用いるなど、任意の構造のものを採用することができる。
【0044】
また上記の第1実施形態では、クランプの操作部を延長姿勢と折畳姿勢とに切換え可能に構成した。しかし本発明に用いるクランプは、操作部が姿勢を変更できないものであってもよい。
また上記の第1実施形態では、支持台連結棒(17)に安定支持体(23)を付設し、この安定支持体(23)に糸係止部(24)を設けた。しかし本発明では、この安定支持体と糸係止部とのいずれか一方または両方を省略したものであってもよい。
また上記の第1実施形態では、リング部材の切欠き部の中心角を約60度とした。しかし本発明では、この切欠き部は吻合された血管を取り出せる開口を備えておればよく、特定の角度を中心角とするものに限定されないことは、言うまでもない。