【実施例】
【0058】
<実験例1>
実験例1では、醪を固液分離した醪液部から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
前述の一次仕込みおよび二次仕込みを経て、異なる製造場で製造された3種類の大麦焼酎醪(普通醪A、普通醪B、全麹醪)を原料として、
図2に記載の製造装置を用いて12種類の大麦焼酎を製造し、評価した。
【0059】
ここで、「普通醪」とは、一次醪に主原料として蒸麦と水を加えた普通仕込の二次醪をいう。また、「全麹醪」とは、一次醪に主原料として大麦麹と水を加えた全麹仕込の二次醪をいう。
【0060】
3種類の醪(固液分離せず)を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−1、1−5、1−9)。
3種類の醪をそれぞれ物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、3種類の醪液部を作製した。得られた普通醪A、普通醪Bおよび全麹醪の醪液部を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−2、1−6、1−10)。
3種類の醪(固液分離せず)を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−3、1−7、1−11)。
3種類の醪をそれぞれ物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、3種類の醪液部を作製した。得られた普通醪A、普通醪Bおよび全麹醪の醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−4、1−8、1−12)。
【0061】
以下、固液分離しなかった製造条件を「固液分離なし」、固液分離した製造条件を「固液分離あり」と称呼する場合がある。
【0062】
実験例1−1〜1−12では、
図2の蒸留酒製造装置10を用いて、それぞれ単独で大麦焼酎を製造したが、常圧蒸留および減圧蒸留による2つの蒸留酒を同時に得ることも可能である。
例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例1−1と実験例1−4を同時に行うことにより、一つの醪から常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを製造することが可能である。
また、例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例1−1と実験例1−8を同時に行うことにより、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを二系列で製造することが可能である。
【0063】
[香気成分]
図3に実験例1に係る大麦焼酎の香気成分を示す。実験例1−1〜1−12の醪の種類、減圧/常圧蒸留、固形分離あり/なしの条件は、図中の醪、製造場、蒸留、固液分離の欄に示す。また、図中の数字は、同種の大麦焼酎醪(普通醪A、普通醪B、全麹醪)および同一の蒸留条件(減圧、常圧)において、「固液分離なし」の実験例での検出量を100とした場合に対する「固液分離あり」の実験例での検出量を相対比で表している。
【0064】
[評価]
「固液分離あり」の実験例に係る大麦焼酎は、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒はともに、それぞれ「固液分離なし」の実験例に係る大麦焼酎に比べ、香気成分のうち、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルが減少する結果が得られた。ただし、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒に含まれる例えば酢酸イソアミルは実験例1−2と1−4では相対値60が同一であっても、この成分の絶対値は同一ではない。また、これらの一群の成分の他にも、強い存在感のある、非常に主張の激しい香りの成分が混じっているかも知れないし、それぞれの相性で何が抑えられて、何が前面に出でくるか、官能検査をしなければ主役に据えられた香り、味質などの特色は分からない。
【0065】
[官能評価]
実験例1に係る大麦焼酎の官能評価を行った。
図4に9名のパネル(A〜J)による官能評価結果の概要を、
図5に普通醪(A、B)を用いた常圧蒸留の実験例(1−3、1−4、1−7、1−8)に係る大麦焼酎の官能評価結果のパネル別の詳細を示す。
図4の欄に示す醪、製造場、蒸留、固液分離は、
図3と同一である。
官能評価は、香、味、総合をそれぞれについての点数評価(1:最も良い、2:普通、3:最も悪い、0.5点刻み)と、コメントによる評価とした。
図4の数値は、9名のパネルの点数の平均点であり、
図4のコメント欄には、主な評価コメントを抜粋して記載した。また、
図5の数値は、各パネルの付けた点数および平均点であり、コメント欄には、各パネルの付けた評価コメントを記載した。
【0066】
図4から、減圧蒸留においては、「固形分離あり」の実験例(1−2、1−6、1−10)について、「固液分離なし」の実験例(1−1、1−5、1−9)と対比すると、香の評価点数が同一か少し高く、実験例(1−6、1−10)については「1:最も良い」より大きい「普通:2」に近い数値であった。味と総合については、実験例(1−2、1−6)については、点数が低く「普通:2」より小さい「1:最も良い」に近い数値であったが、実験例(1−10)については、「1:最も良い」より大きい「普通:2」に近い数値であった。
以上のとおり、減圧蒸留においては、いずれの醪の「固液分離あり」の実験例(1−2、1−6、1−10)も、「固液分離なし」の実験例(1−1、1−5、1−9)に比べ、香、味、総合の全ての評価点数が0.1点以上改善したものはなかった。
常圧蒸留においては、普通醪の「固液分離あり」の実験例(1−4、1−8)は、「固液分離なし」の実験例(1−3、1−7)に比べ、香、味、総合の全ての評価点数について0.1点以上改善した。全麹醪の「固液分離あり」の実験例(1−12)は、「固液分離なし」の実験例(1−11)に比べ、香、総合の評価点数について0.1点以上改善せず、味の評価点数は0.14点悪化がした。
【0067】
図5の左の表から、各パネルとも、実験例1−4は実験例1−3に比べ、香、味、総合の全てにおいて同等または改善した評価点数が付けられた。また、実験例1−4では、甘味、や味濃い、後味あり、甘焦げ臭、シャープな焦げ臭といったコメントが付けられた。実験例1−3では、くぐもった香り、イオウ臭、焦げ、苦味といったオフフレーバーに関する評価コメントが付けられた。
図5の右の表から、パネルCとIを除き、実験例1−8は実験例1−7に比べ、香、味、総合の全てにおいて同等または改善した評価点数が付けられた。また、実験例1−6では、香ばしい、甘味、バランス良、まろやか、やや稲わら臭といった評価コメントが、実験例1−5では、稲わら臭、ガス臭、焦げ臭、雑味、苦み、えぐみ、渋味、旨みといった評価コメントが付けられた。
以上より、固液分離による大麦焼酎の評価点数は、普通醪(A、B)で常圧蒸留した場合に、醪固形部が除去された後の醪液部が高温蒸留された香味の特徴が前面に押しだされていると理解される。すなわち、減圧とは対照的に、高温蒸留で見られる醪固形部だと比較的多く出る焦げ臭や渋みといった不快な味、香りが減少あるいは除かれ、かつ、高沸点で多くの微量成分が蒸留され香りが強く、味わい深い芳醇なタイプの蒸留酒(大麦焼酎)となり、多くの高沸点微量成分により蒸留酒の香味が全体的に増強されたことが官能試験で香味増強効果が高いと評価されたものと理解される。
また、普通醪(A、B)、全麹醪のいずれにおいても、減圧蒸留した場合、固液分離による大麦焼酎の評価点数は、常圧蒸留に比べての改善が小さいことを示していると理解される。大気圧(1気圧)より低くして蒸留するため沸点が下がり、低沸点の成分のみが蒸留し、高沸点の高級アルコールなどが少なくなることで軽くてきれいな原酒が得られるという特徴が前面に押しだされるか、醪固形部に含まれる果実を思わせる香りを低い温度で蒸留酒に運ばせるという特徴がバランスよく混ぜあわさるかの相違であり、官能的には特徴的な蒸留酒を評価していることになり、数値で表す官能試験では大きな差が出なかったものと理解される。
【0068】
<実験例2>
実験例2では、固形分量を調整した醪から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
前述の一次仕込みおよび二次仕込みを経て、異なる製造場で製造された2種類の大麦焼酎醪(普通醪B、全麹醪)を原料として、
図2に記載の製造装置を用いて8種類の大麦焼酎を製造し、評価した。
【0069】
以下、固形分量とは、固液分離した醪液部中の固形分を0%、固液分離しなかった醪中の固形分を100%とした固形分の比率で定義する。
【0070】
普通醪Bを物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。
得られた普通醪Bの醪液部と醪固形部を混合し、醪の固形分量を50%に調整した。また、普通醪B(固液分離せず)に同量の普通醪Bから固液分離して得られた醪固形部を追加投入し、醪の固形分量を200%に調整した。
普通醪Bの固形分量を0%(醪液部)、50%、100%(固液分離せず)、200%に調整した醪を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て4種類の大麦焼酎を得た(実験例2−1、2−2、2−3、2−4)。
【0071】
全麹醪を物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。
得られた全麹醪の醪液部と醪固形部を混合し、醪の固形分量を50%に調整した。また、全麹醪(固液分離せず)に同量の全麹醪から固液分離して得られた醪固形部を追加投入し、醪の固形分量を200%に調整した。
全麹醪の固形分量を0%(醪液部)、50%、100%(固液分離せず)、200%に調整した醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て4種類の大麦焼酎を得た(実験例2−5、2−6、2−7、2−8)。
【0072】
なお、実験例2−1は実験例1−8と、実験例2−3は実験例1−7と、実験例2−5は実験例1−10と、実験例2−7は実験例1−9と、それぞれ同一の製造方法で製造した大麦焼酎である。
【0073】
実験例2−1〜2−8では、
図2の蒸留酒製造装置10を用いて、それぞれ単独で大麦焼酎を製造したが、常圧蒸留および減圧蒸留による2つの蒸留酒を同時に得ることも可能である。
例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例2−1と実験例2−8を同時に行うことにより、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを二系列で製造することが可能である。
【0074】
[成分分析]
図6、7に、実験例2に係る大麦焼酎の成分分析と吸光度の結果を示す。
図6は低沸点香気成分(1、2)、
図7はイオウ化合物成分、フェノール化合物成分、ダイアセチル成分を示す。イオウ化合物成分とダイアセチル成分は、オフフレーバー成分である。
【0075】
[評価]
図6に示すように、実験例2−1〜2−8は、固形分量が多いほど、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルが多い傾向にあった。
実験例2−1〜2−7は、固形分量が多いほど、酢酸β―フェネチルが多い傾向にあった。しかし、実験例2−8は実験例2−7に比べ、固形分量が多いが、同成分は少ない傾向にあった。
実験例2−1〜2−8は、β―フェネチルアルコールは固形分量に依存しなかった。
図7に示すように、実験例2−1〜2−3は、固形分量が多いほど、ガス臭の原因成分である硫化水素が多い関係にあった。しかし、実験例2−4は、実験例2−1〜2−3の傾向から外れ、同成分は少なかった。
実験例2−5〜2−8は、固形分量が多いほど、硫化水素が少ない傾向にあった。
実験例2−1〜2−4は、固形分量が多いほど、甘臭,煙臭の原因成分であるフルフラールは少ない傾向にあった。
実験例2−5〜2−8は、フルフラールは固形分量に依存しなかった。
実験例2−1〜2−5、2−7、2−8は、固形分量が多いほど、ダイアセチルは多い傾向にあった。しかし、実験例2−6は、実験例2−5、2−7、2−8の傾向から外れ、同成分は多かった。
【0076】
以上、
図6、7の成分分析で確認された事項をまとめると下記のとおりである。
(1)常圧蒸留、減圧蒸留のいずれにおいても、醪の固形分量が多いほど、得られる大麦焼酎の香気成分の一部およびダイアセチルが多い(
図6、7)。
(2)常圧蒸留では、醪の固形分が少ないほど、得られる大麦焼酎の硫化水素は少ないが、フルフラールは多い(
図7)。
(3)減圧蒸留では、醪の固形分が多いほど、得られる大麦焼酎の硫化水素は少ないが、醪の固形分量には、フルフラールは実質依存しない(
図7)。
実施例1でも述べたように、個性的でクセのある酒質は香りが強く、味わい深い芳醇なタイプの焼酎と評価されるかも知れないし、個性的でクセは多すぎるとくどい味となり、雑味に繋がるかもしれないし、焦げ臭さの成分も全体の香味成分との相性で香ばしい香りに変わるかもしれない。含まれる全体の香味成分それぞれの相性で何が抑えられて、何が前面に出でくるか、官能検査をしなければ主役に据えられた香り、味質などの特色は分からない。
【0077】
[官能評価]
次に、常圧蒸留工程を経て製造した実験例2−1〜2−4に係る大麦焼酎を官能評価し、比較した。また、減圧蒸留工程を経て製造した実験例2−5〜2−8に係る大麦焼酎を官能評価し、比較した。
図8に8名のパネル(A〜H)による官能評価結果を示す。評価方法は、実験例1の官能評価と同様である。
【0078】
[評価]
図8の左の表の常圧蒸留においては、固形分量が100%より小さい実験例2−1、2−2は、固形分量が100%の実験例2−3に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数が良好であった。また、実験例2−2では、ガス臭、苦味といった評価コメントが付けられたが、実験例2−1では、上記のような評価コメントは付けられず、すっきり、きれいといった評価コメントが付けられた。
固形分量が100%より大きい実験例2−4は、実験例2−1、2−2に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数は悪かった。
図8の右の表の減圧蒸留においては、固形分量が100%より大きい実験例2−8は、香の評価点数が減圧蒸留の中で抜きんでて良好であったが、味と総合の評価点数は全体と同等であった。また、実験例2−8では、実験例2−7に比べ、甘味、まろやかといった評価コメントが増えたが、渋味、雑味といった評価コメントも付けられた。
固形分量が100%より小さい実験例2−5、2−6は、実験例2−8に比べ、実験例2−6の香を除き、評価点数は悪かった。
以上、本実験例の本実験例との比較から、官能評価で確認された事項をまとめると下記のとおりである。
(1)常圧蒸留では、醪の固形分量が少なくなることで、得られる大麦焼酎は、香、味、総合の全てにおいて評価点数が改善し、すっきり、きれいといった評価コメントが付けられた。
(2)減圧蒸留では、醪の固形分量が多くなることで、得られる大麦焼酎は、香の評価点数が改善し、甘味、まろやかといった評価コメントが増えた。
【0079】
[考察]
実験例2における成分分析と官能評価の結果を考察する。
醪の固形分量と得られる大麦焼酎の低沸点香気成分(
図6)およびオフフレーバー成分(
図7)は、基本的に比例関係にある。常圧蒸留では、固形分量が少なくすると、低沸点香気成分が少なくなり(
図6)、オフフレーバー成分のイオウ化合物成分も少なくなり(
図7)、甘臭,煙臭の原因成分であるフルフラールは多くなる(
図7)。オフフレーバー成分である硫化水素やダイアセチルが少なくなると、それらの低沸点香気成分へのマスキング効果も弱まり低沸点香気成分が前面に押し出され、低沸点香気成分が主役に据えられる。これらの数値は常圧蒸留時に固形分量を少なくすると酒質は良くなるとの官能評価の評価コメントを裏付けるものである。
一方、減圧蒸留では、固形分量を多くすると、低沸点香気成分が多くなる(
図6)。また、フルフラールは低い蒸留温度により生成され難く、また、硫化水素も低い含有量である(
図7)。固形分量を多くすると、ダイアセチルは増加するが、低い含量における増加である(表10)。これはダイアセチルの低沸点香気成分へのマスキング効果が増加しても、硫化水素のマスキング効果の減少がそれに勝り、さらに低沸点香気成分が多くなることにより、減圧蒸留時に固形分量を多くすると酒質は良くなるとの官能評価の評価コメントを裏付けるものである。
【0080】
<実験例3>
実験例3では、固液分離により醪液部と醪固形部を得た後、醪固形部を別の種類の固液分離していない醪に追加投入して混合醪を調整し、醪液部および混合醪から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
実験例2と異なる点は、混合醪を異なる2種類の醪および醪固形部の組み合わせ(普通醪Aと普通醪Bの醪固形部、普通醪Aと全麹醪の醪固形部)で製造した点である(実験例3−2、3−3)。
【0081】
前述の一次仕込みおよび二次仕込みを経て、異なる製造場で製造された3種類の大麦焼酎醪(普通醪A、普通醪B、全麹醪)を原料として、
図2に記載の製造装置を用いて7種類の大麦焼酎を製造し、評価した。
【0082】
普通醪A(固液分離せず)を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−1)。
普通醪Bを物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。普通醪Aに得られた普通醪Bの醪固形部を追加投入して、醪の固形分量を200%に調整した混合醪を作製した。得られた混合醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−2)。
全麹醪を物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。普通醪Aに得られた全麹醪の醪固形部を追加投入して、醪の固形分量を190%に調整した混合醪を作製した。得られた混合醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−3)。
普通醪B(固液分離せず)、全麹醪(固液分離せず)を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−4、3−6)。
実験例3−2で得られた普通醪Bの醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−5)。
実験例3−3で得られた全麹醪の醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−7)。
【0083】
なお、実験例3−1は実験例1−1と、実験例3−4は実験例1−7および2−3と、実験例3−5は実験例1−8および2−1と、実験例3−6は実験例1−11と、実験例3−7は実験例1−12と、それぞれ同一の製造方法で製造した大麦焼酎である。
【0084】
実験例3−5において、物理的固液分離装置11により得られた普通醪Bの醪液部の濁度は、10倍希釈時0.311であった。また、固液分離機11により得られた普通醪Bの醪固形部の質量は、普通醪B400mlあたり57.5g、すなわち、普通醪Bから分離された醪固形部の質量が、固液分離前の醪の体積あたり0.144g/mlであった。
【0085】
実験例3−1〜3−7では、
図2の蒸留酒製造装置10を用いて、それぞれ単独で大麦焼酎を製造したが、常圧蒸留および減圧蒸留による2つの蒸留酒を同時に得ることも可能である。
【0086】
例えば、実験例3−5で用いた普通醪Bを実験例3−2の普通醪Aの一部に置き換え(実験例3−5’とする)、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例3−2と実験例3−5’を同時に行うことにより、同一の容器中の蒸留前醪を分割して常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に振り分け、該常圧蒸留用醪は物理的固液分離により醪液部と醪固形部に分離し、その後、得られた醪液部は常圧蒸留し、該減圧蒸留用醪は、前記分離された醪固形部を追加投入した後、減圧蒸留し、それぞれ酒質の異なる複数の蒸留酒を得ることが可能である。
また、例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例3−2と実験例3−5を同時に行うことにより、異なる容器中の蒸留前醪を常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪にそれぞれ振り分け、該常圧蒸留用醪は物理的固液分離により醪液部と醪固形部に分離し、その後、得られた醪液部は常圧蒸留し、該減圧蒸留用醪は、前記分離された醪固形部を追加投入した後、減圧蒸留し、それぞれ酒質の異なる複数の蒸留酒を得ることが可能である。
【0087】
[官能評価]
実験例3に係る大麦焼酎の官能評価を行った。
図9に8名のパネル(A〜I)による官能評価結果の概要を示す。また、
図10に実験例(3−4、3−5、3−1、3−2)に係る大麦焼酎の官能評価結果のパネル別の詳細を示す。
図9において、実験例3−1〜3−7の醪の種類、減圧/常圧蒸留、醪の処理の条件は、図中の「醪」、「蒸留」、「醪の処理」の欄に示す。「醪の処理」の欄の表記について、「ブランク」とは、物理的固液分離装置11に投入しなかった醪を示し、「固形部追加投入」とは、醪固形部を追加投入した混合醪を示し、「固形分除去」とは、物理的固液分離装置11に投入した醪(醪液部)を示す。
官能評価の方法は、実験例1および2の官能評価と同様である。
【0088】
[評価]
図9より、常圧蒸留の場合、実験例3−5が、香、味、総合の全てにおいて評価点数が最も良好であった。減圧蒸留の場合、実験例3−2が、香、味、総合の全てにおいて評価点数が最も良好であった。
図10の左の表より、実験例3−5は、実験例3−4に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数は改善した。また、実験例3−4では、穀物臭、油臭、稲わら臭といったオフフレーバーに関する評価コメントが付けられたが、実験例3−5では、これらの評価コメントは付けられず、甘み、すっきりといった評価のコメントが付けられた。
図10の右の表より、実験例3−1に比べ実験例3−2は、香の評価点数は同等、味、総合において評価点数は改善した。また実験例3−2では、渋み、苦味といった評価コメントが付けられたものの、甘味、まろやかといった評価コメントも付けられた。
以上より、普通醪Bを物理的固液分離装置11にかけ、醪液部と醪固形部に分離し、普通醪Bの醪液部を常圧蒸留し、普通醪Aと普通醪Bの醪固形部との混合醪を減圧蒸留することで、常圧蒸留工程を経ながら、オフフレーバーが少ない蒸留酒を製造することができ、減圧蒸留工程を経ながら、芳醇な酒質の蒸留酒を製造することができるとの評価を得た。
【0089】
<実験例4>
実験例4では、醪液部の濁度に関する再試験をした。
醪を各条件で遠心分離したときに得られる醪液部の濁度と酵母生菌数を測定した。結果を表1の各遠心分離条件で得られる醪液部の濁度(醪液部分析値)に示す。備考欄に過去の予備試験で得られた蒸留後の香味改善効果の有無を記載している。
【表1】
遠心分離条件2(3000rpm、10分)で得られた醪液部の10倍希釈時の濁度は0.683であったが、過去の試験で、この条件では香味改善効果はないことが確認されていた。したがって、今回の結果より、常圧蒸留時に原酒の香味改善効果が得られるのは醪液部の10倍希釈時の濁度が約0.5以下(酵母生菌数が約2×10
4cells/ml以下)のときであると考えられる。