(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209580
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】紫外線障害低減剤、紫外線障害低減剤の製造方法、培地用添加剤、微生物希釈液用添加剤、培地、微生物希釈液、外用剤および化粧品
(51)【国際特許分類】
A61K 38/01 20060101AFI20170925BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20170925BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20170925BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20170925BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20170925BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20170925BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20170925BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20170925BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20170925BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20170925BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
A61K38/01
A61K31/728
C12N1/00 A
C12N1/00 F
A61K8/73
A61K8/64
A61Q17/04
A61Q19/00
A61K35/57
A61K8/98
A61K8/44
A61P17/16
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-221263(P2015-221263)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-88545(P2017-88545A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】500523087
【氏名又は名称】株式会社らいむ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】寺下 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 祥夫
【審査官】
井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−291023(JP,A)
【文献】
神奈川県衛生研究所研究報告,2006年,No.36,p.14-18
【文献】
顕微鏡,2013年,Vol.48, No.1,p.47-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/01
A61K 8/44
A61K 8/64
A61K 8/73
A61K 8/98
A61K 31/728
A61K 35/57
A61P 17/16
A61Q 17/04
A61Q 19/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸した鶏冠のプロテアーゼ分解物を含有することを特徴とする紫外線障害低減剤。
【請求項2】
前記プロテアーゼ分解物が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項3】
前記分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量が、紫外線障害低減剤の全量に対して10質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項4】
分子量が1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の割合が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸全量の60質量%以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項5】
N−アセチルグルコサミンの含有量が、紫外線障害低減剤の全量に対して0.01質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項6】
総遊離アミノ酸量が紫外線障害低減剤の全量に対する質量比で2質量%以上であり、且つ、総蛋白質量が紫外線障害低減剤の全量に対する質量比で2質量%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項7】
前記遊離アミノ酸が、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチンおよびチロシンから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項8】
前記プロテアーゼ分解物の凍結乾燥物を粉砕して得た粉砕物を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項9】
前記障害が微生物の増殖障害であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項10】
前記微生物が乳酸菌であることを特徴とする請求項9に記載の紫外線障害低減剤。
【請求項11】
蒸した鶏冠をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする紫外線障害低減剤の製造方法。
【請求項12】
前記酵素処理工程の前に、前記鶏冠を1辺0.5cm角以上に小片化する工程を有することを特徴とする請求項11に記載の紫外線障害低減剤の製造方法。
【請求項13】
前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得たプロテアーゼ分解物を、凍結乾燥した後、粉砕して粉砕物を得る工程を有することを特徴とする請求項11または12に記載の紫外線障害低減剤の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする培地用添加剤。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする微生物希釈液用添加剤。
【請求項16】
請求項14に記載の培地用添加剤を含有することを特徴とする培地。
【請求項17】
請求項15に記載の微生物希釈液用添加剤を含有することを特徴とする微生物希釈液。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする外用剤。
【請求項19】
化粧品であることを特徴とする請求項18に記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線障害低減剤、紫外線障害低減剤の製造方法、および、その紫外線障害低減剤を含有する培地用添加剤、微生物希釈液用添加剤、培地、微生物希釈液、外用剤および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、保湿効果や保水効果を高める働きがあることが知られており、従来からさまざまな化粧品や医薬品に配合されている。例えば、乾燥肌や荒れ肌に直接適用することにより保湿性を高めて肌のコンディションを調えたり、乾燥期に皮膚表面から水分が失われることを防ぐために予防的に皮膚表面に適用することが通常行われている。また、ヒアルロン酸は、保湿効果から派生する機能や保湿効果以外の有用な特性の発現も期待され、その新たな利用法に関する研究も幾つか見受けられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を創傷治療剤に用いることが提案されている。この創傷治療剤は、生体成分であるヒアルロン酸や蛋白質、反応が緩和な酵素を用いているために安全性が高く、例えば経口投与や創傷部位への直接投与により創傷を迅速に治療することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物は、創傷治療剤として高い有用性を有する。しかし、この分解生成物は、創傷治療効果が確認されているだけで他の作用効果は殆ど知られておらず、応用範囲が限られていた。
【0006】
一方、近年、紫外線が与える生命体への悪影響が大きな問題になっている。紫外線が与えるヒトへの悪影響としては、日焼けによる炎症や色素沈着、皮膚の老化、光アレルギー、皮膚がんや免疫能の低下、白内障等の障害が挙げられる。これらの障害は、紫外線照射によるDNAの損傷や、紫外線照射によって細胞内で発生した活性酸素種が起因して発生すると考えられている。また、こうした紫外線照射に対する細胞内での反応はヒト以外の生命体においても発生し、例えば微生物では致死や増殖抑制を引き起こすことが知られている。
紫外線による生命体の障害を抑制する方法としては、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を用い、紫外線を細胞内に到達する前にカットする方法が従来から用いられている。しかし、紫外線吸収剤等の殆どは、紫外線をカットするだけで、それ自体は生命体に対して作用を示さない。このため、紫外線吸収剤等だけでは、紫外線による生命体の障害を十分に抑えることができず、紫外線に対する細胞内での反応を抑制または除去することを目的として、他の多種類の成分が併用されるのが一般的である。このため、紫外線障害を抑制する製剤は製法が煩雑で、このことがコスト高の一因になっていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、生命体に対して良好な作用を示すとともに、紫外線による障害を効果的に低減することができる紫外線障害低減剤およびその製造方法を提供することを課題として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、上記の創傷治療作用があることが知られている組成物、すなわちヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物のプロテアーゼ分解物を微生物に投与すると、微生物の増殖が有意に促進され、さらに、このプロテアーゼ分解物による増殖促進作用は紫外線照射により増殖障害を生じた微生物において特に顕著に発揮されることを初めて見出した。これらの知見は、プロテアーゼ分解物が生命体一般の紫外線障害低減剤として効果的に用いうることを示唆するものである。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0009】
[1] ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物のプロテアーゼ分解物を含有することを特徴とする紫外線障害低減剤。
[2] 前記組成物が鶏冠であることを特徴とする[1]に記載の紫外線障害低減剤。
[3] 前記プロテアーゼ分解物が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の紫外線障害低減剤。
[4] 前記分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量が、紫外線障害低減剤の全量に対して10質量%以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
[5] 分子量が1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸の全量に対して60質量%以上であることを特徴とする[3]または[4]に記載の紫外線障害低減剤。
[6] N−アセチルグルコサミンの含有量が、紫外線障害低減剤の全量に対して0.01質量%以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
[7] 総遊離アミノ酸量が紫外線障害低減剤の全量に対して2質量%以上であり、且つ、総蛋白質量が紫外線障害低減剤の全量に対して2質量%以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
[8] 前記遊離アミノ酸が、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチンおよびチロシンから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする[7]に記載の紫外線障害低減剤。
[9] 前記プロテアーゼ分解物の凍結乾燥物を粉砕して得た粉砕物を含むことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
[10] 前記障害が微生物の増殖障害であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤。
[11] 前記微生物が乳酸菌であることを特徴とする[10]に記載の紫外線障害低減剤。
【0010】
[12] ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする紫外線障害低減剤の製造方法。
[13] 前記組成物が鶏冠であり、前記酵素処理工程の前に、前記鶏冠を1辺0.5cm角以上に小片化する工程を有することを特徴とする12に記載の紫外線障害低減剤の製造方法。
[14] 前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得たプロテアーゼ分解物を、凍結乾燥した後、粉砕して粉砕物を得る工程を有する[12]または[13]に記載の紫外線障害低減剤の製造方法。
【0011】
[15] [1]〜[11]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする培地用添加剤。
[16] [1]〜[11]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする微生物希釈液用添加剤。
[17] [15]に記載の培地用添加剤を含有することを特徴とする培地。
[18] [16]に記載の微生物希釈液用添加剤を含有することを特徴とする微生物希釈液。
[19] [1]〜[9]のいずれか1項に記載の紫外線障害低減剤からなることを特徴とする外用剤。
[20] 化粧品であることを特徴とする[19]に記載の外用剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紫外線障害低減剤によれば、生命体に対して良好な作用が得られるとともに、紫外線による障害を効果的に低減することができる。また、本発明の紫外線障害低減剤の製造方法によれば、上記の有用な作用効果を奏する紫外線障害低減剤を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】その希釈液に本発明の紫外線障害低減剤を添加した乳酸菌と、その希釈液に本発明の紫外線障害低減剤を添加していない乳酸菌を、紫外線無照射条件で培養したときのコロニー数を示すグラフである。
【
図2】その希釈液に本発明の紫外線障害低減剤を添加した乳酸菌と、その希釈液に本発明の紫外線障害低減剤を添加していない乳酸菌を、紫外線を照射した後に培養したときのコロニー数を示すグラフである。
【
図3】本発明の紫外線障害低減剤を添加した培地、または本発明の紫外線障害低減剤を添加していない培地に接種した乳酸菌を、紫外線無照射条件で培養したときのコロニー数を示すグラフである。
【
図4】本発明の紫外線障害低減剤を添加した培地、または本発明の紫外線障害低減剤を添加していない培地に接種した乳酸菌を、紫外線照射した後に培養したときのコロニー数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[紫外線障害低減剤]
本発明の紫外線障害低減剤は、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物のプロテアーゼ分解物を含有する点に特徴がある。
【0016】
上記組成物に含まれるヒアルロン酸は、化粧品や医薬品の成分として通常用いられているヒアルロン酸であれば特に制限なく使用することができる。ヒアルロン酸は、元来ウシの眼の硝子体から単離されたものであるが、これに限らず、動物の関節液やニワトリの鶏冠などから単離されたものであっても使用することができる。また、自然界から単離されたものでなく、合成や微生物発酵法により得られたものでもよい。
【0017】
ヒアルロン酸は、アミノ酸とウロン酸からなる複雑な多糖類であるが、その構造の詳細は特に限定されない。例えば、D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンからなるニ糖を繰り返し単位とする多糖を挙げることができる。組成物に含まれるヒアルロン酸の分子量は特に限定されないが、例えば鶏冠に含まれるヒアルロン酸は、分子量が600万〜1000万であり、鶏冠から抽出したヒアルロン酸は、抽出過程で分解されるため、平均分子量が数十万〜数百万である。本発明で使用するヒアルロン酸は紫外線障害低減効果を過度に失わない限り、誘導化や熱変性を受けたものであっても構わない。いわゆるヒアルロン酸誘導体として知られている化合物は、本発明で有効に使用することができる。
【0018】
上記組成物に含まれる蛋白質はその種類を問わないが、鶏冠に含まれる蛋白質が極めて好ましい。鶏冠の種類は特に制限されないが、ニワトリの鶏冠を用いるのが好ましい。ニワトリの鶏冠はヒアルロン酸を含有するため、本発明の紫外線障害低減剤製造の際に用いる組成物を提供するに際して、鶏冠にヒアルロン酸を別途添加しなくてもよいというメリットがある。このため、鶏冠を用いれば本発明の紫外線障害低減剤の製造工程が簡略化でき、製造コストも下げることができる。
【0019】
本発明で用いる組成物は、蛋白質とヒアルロン酸のみを含んでいてもよいし、その他の成分や溶媒、分散媒を含んでいてもよい。溶媒および分散媒としては、蛋白質やヒアルロン酸を溶解できるものであればよく、水や水性緩衝液を好適に用いることができる。また、組成物は、蛋白質とヒアルロンを含む天然物そのものであってもよい。組成物となる天然物としては、動物の関節液や鶏冠を挙げることができ、ヒアルロン酸を豊富に含むことからニワトリの鶏冠であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いるプロテアーゼ分解物は、上記の組成物をプロテアーゼで分解したものである。プロテアーゼの種類は特に制限されない。通常の蛋白質分解に用いられるプロテアーゼであればいずれも使用することができる。すなわち、エンドペプチダーゼであっても、エキソぺプチダーゼであっても使用することが可能であり、また活性部位はセリン、システイン、金属、アスパラギン酸等のいずれであってもよい。また、複数のプロテアーゼを混合して使用してもよい。好ましいプロテアーゼとして、例えばプロナーゼを使用することができる。
【0021】
プロテアーゼ分解物は、少なくとも、プロテアーゼにより分解された蛋白質の分解物と、ヒアルロン酸を含有し、未分解の蛋白質(プロテアーゼ添加前の組成物に元々含まれていた蛋白質)や組成物由来の他の成分を含有していてもよい。
プロテアーゼ分解物に含まれる蛋白質の分解物としては、未分解の蛋白質よりも低分子量の蛋白質、ペプチド、遊離アミノ酸を挙げることができ、これらが混在していてもよい。
また、プロテアーゼ分解物は、遊離アミノ酸を含有することが好ましい。プロテアーゼ分解物が含有する遊離アミノ酸は、蛋白質の分解物としての遊離アミノ酸であってもよいし、プロテアーゼ添加前の組成物に遊離アミノ酸として元々含まれていたものであってもよい。遊離アミノ酸の種類は、組成物の成分によっても異なるが、例えば組成物が鶏冠であるプロテアーゼ分解物では、比較的含有率が多いアミノ酸としてイソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチン、チロシン等を挙げることができ、この他にも、多種類のアミノ酸を含む。
【0022】
紫外線障害低減剤における総蛋白質量は、紫外線障害低減剤の全量に対する質量比で0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることがさらに好ましい。また、紫外線障害低減剤における総遊離アミノ酸量は、紫外線障害低減剤の全量に対する質量比で0.5〜12質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましく、2〜6質量%であることがさらに好ましい。紫外線障害低減剤における総蛋白質量および遊離アミノ酸量が上記の範囲であることにより、紫外線障害低減剤が生命体に対して効果的に作用すると考えられ、紫外線による障害を顕著に抑制することができる。
本明細書中において「総蛋白質量」とは、Lowry法により求めた総蛋白質含量のことをいい、「総遊離アミノ酸量」とは、Ninhydrin法により求めた遊離アミノ酸の総量のことをいう。
【0023】
プロテアーゼ分解物に含まれるヒアルロン酸は、プロテアーゼ添加前の組成物に元々含まれていたヒアルロン酸がそのまま残存したもの(以下、「未分解のヒアルロン酸」という)であってもよいし、ヒアルロン酸の分解物(以下、「低分子ヒアルロン酸」という)であってもよいし、未分解のヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸とが混在したものであってもよいが、低分子ヒアルロン酸を含有することが好ましい。低分子ヒアルロン酸は生命体の深部に浸透し易く、生命体に対する作用を効果的に得ることができる。プロテアーゼ分解物が含有する低分子ヒアルロン酸は、組成物中でヒアルロン酸を加水分解させて得た低分子ヒアルロン酸であってもよいし、上記の組成物とは別の系でヒアルロン酸を加水分解し、得られた低分子ヒアルロン酸をプロテアーゼ分解物に添加したものであってもよいが、組成物中でヒアルロン酸を加水分解させて得た低分子ヒアルロン酸であることが好ましい。組成物中での低分子ヒアルロン酸の生成は、塩酸やヒアルロニダーゼ等の、ヒアルロン酸を加水分解する物質を組成物に添加することにより行うことができる。また、組成物が天然物である場合には、天然物に元々含まれる物質による自己消化を利用して低分子ヒアルロン酸を生成してもよい。ただし、ヒアルロン酸の生体に対する作用を有効に得る点から、ヒアルロン酸は構成単位を保持していること、すなわち、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンまで分解が進行していないことが好ましい。具体的には、紫外線障害低減剤におけるN−アセチルグルコサミンの含有量は、紫外線障害低減剤の全量に対して0.01質量%以下であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
本明細書中において「N−アセチルグルコサミン量」とはMorgan-Elson法により求めたN−アセチルグルコサミン含量のことをいう。
【0024】
プロテアーゼ分解物が含有する低分子ヒアルロン酸は、分子量が380〜5000であることが好ましい。分子量380〜5000は、ヒアルロン酸の繰り返し単位数で約1〜14に相当する。紫外線障害低減剤における、分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量は、紫外線障害低減剤の全量に対して5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、低分子ヒアルロン酸のうちでは、分子量1520〜5000の低分子ヒアルロン酸が主成分であることが好ましく、分子量1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の割合が分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸全量の60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、紫外線障害低減剤が生命体に対して効果的に作用すると考えられ、紫外線による障害を顕著に抑制することができる。
低分子ヒアルロン酸の分子量と質量比率は、ポリエチレングリコールを分子量マーカーに用いる高速液体クロマトグラフィにより分析することができる。
【0025】
プロテアーゼ分解物の性状は、用いる組成物の成分や組成比、プロテアーゼの種類によっても異なるが、通常は液状、さらには粘質性を帯びた液状である。プロテアーゼ分解剤は、そのまま本発明の紫外線障害低減剤としてもよいし、適宜精製して他の成分と組み合わせる等して本発明の紫外線障害低減剤としてもよい。液状の紫外線障害低減剤は、塗布や点眼のための外用剤、飲料タイプの内服剤等として用いることができる。また、プロテアーゼ分解物を凍結乾燥等により乾燥した後、粉砕した場合は、粉末状の紫外線障害低減剤を提供することが可能である。粉末状の紫外線障害低減剤は、そのまま、もしくは他の成分を含有させて内服剤に用いてもよいし、錠剤やカプセル剤に加工してもよいし、所望の溶媒または分散媒を添加して液状とし、塗布や点眼のための外用剤や飲料タイプの内服剤等として用いてもよい。また、本発明の紫外線障害低減剤は、外用剤や内服剤としてヒト等の動物に投与する他、微生物に投与することができる。紫外線障害低減剤の微生物への投与方法としては、培地調製用の液に紫外線障害低減剤を添加しておく方法、培地に播く前の微生物を希釈する希釈液に紫外線障害低減剤を添加する方法等を挙げることができる。微生物に投与する場合の紫外線障害低減剤の剤形は特に限定されないが、保管や取扱いが容易であることから粉末状であることが好ましい。
【0026】
本発明の紫外線障害低減剤には、上記プロテアーゼ分解物以外にも、さまざまな成分を含有させることができる。例えば、紫外線障害低減剤に賦形剤を含有させた場合には、プロテアーゼ分解物と賦形剤の配合率を制御して総蛋白質量や総遊離アミノ酸量、低分子ヒアルロン酸量等の成分量を調整することができる。また、保存し易い紫外線障害低減剤の態様として、凍結乾燥させたプロテアーゼ分解物を粉砕して得た粉末を賦形剤で希釈した混合粉末を挙げることができる。賦形剤としては、特に限定されないが、デキストリンが好適である。賦形剤による希釈倍率は、質量比で2〜10倍であることが好ましく、2〜7倍であることがより好ましく、3〜5倍であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の紫外線障害低減剤は、生命体に対して良好な作用を示すとともに、紫外線による生命体の障害を低減する作用を有する。すなわち、後掲の実施例の欄で示すように、紫外線無照射条件下で、本発明の紫外線障害低減剤を添加した培地で微生物を培養すると、紫外線障害低減剤を添加していない培地で培養した場合に比べて微生物のコロニー数が増加する。このことは、本発明の紫外線障害低減剤が微生物の増殖を促進する作用を示すこと、言い換えれば生命体に対して良好な作用を示すことを意味している。また、微生物に紫外線を照射すると増殖が抑制される増殖障害が生じるが、本発明の紫外線障害低減剤を培地に添加すると、紫外線を照射した微生物でも活発に増殖し、紫外線障害低減剤を添加していない培地で培養した場合に比べて微生物のコロニー数が顕著に増加する。このコロニー数の増加の程度は、紫外線無照射条件下での紫外線障害低減剤によるコロニー数の増加の程度に比べて大きいことが確認されている。このことは、本発明の紫外線障害低減剤が、紫外線による生命体の障害を効果的に抑制する作用を有することを意味している。
このため、本発明の紫外線障害低減剤は、微生物を利用する各種分野、例えば発酵食品、医薬品および工業材料の製造、環境浄化、微生物農法等の分野において、微生物の培地や希釈液に添加する添加剤として効果的に用いることができる。すなわち、これらの分野で本発明の紫外線障害低減剤を用いると、紫外線無照射条件下および紫外線照射条件下のいずれにおいても微生物を活発に増殖させることができ、微生物による工程を効率よく行うことが可能になる。特に紫外線照射条件下での微生物増殖促進作用により、培養施設の遮光設備を不要にでき、設備の簡易化にも貢献し得る。
【0028】
本発明の紫外線障害低減剤の投与対象になる微生物は、特に限定されず、藻類、原生動物、真菌等の真核生物、細菌、藍藻菌等の原核生物のいずれであってもよい。中でも、各種分野で有用に活用されていることから乳酸菌であることが好ましい。本明細書中において「乳酸菌」とは、糖類を発光してエネルギーを獲得し、多量の乳酸を生成する細菌を意味し、Carnobacterium属、Lactobacillus属、Weissella属等に属する桿菌であってもよいし、Enterococcus属、Lactococcus属、 Leuconostoc属、Streptococcus属、Tetragenococcus属等に属する球菌であってもよい。
【0029】
また、上記の微生物に対する作用から、本発明の紫外線障害低減剤は、紫外線によるDNA損傷や細胞内での活性酸素種の発生を抑えるか、修復または除去する作用を有することが推定される。よって、本発明の紫外線障害低減剤を、ヒト等の動物において紫外線に直接晒される皮膚に投与した場合には、こうした紫外線に対する反応に起因した障害、例えば、日焼けによる炎症や色素沈着、皮膚の老化、光アレルギー、皮膚がんや免疫能の低下等を抑えることが期待でき、点眼液として眼に投与した場合には、白内障の予防や治療の効果が得られることが期待できる。よって、本発明の紫外線障害低減剤は、これらの障害を抑制する外用剤として好適に用いることができる。さらに、本発明の紫外線障害低減剤は、生体成分であるヒアルロン酸や蛋白質、反応が緩和な酵素を用いているために安全性が高く、内服薬として経口投与することも可能である。これにより、例えば外用薬としての紫外線障害低減剤と内服薬としての紫外線障害低減剤の併用により、より高い効果を得ることができる。
【0030】
本発明の紫外線障害低減剤の使用量は、対象とする障害によっても異なるが、例えば以下の使用量で用いることが好ましい。
すなわち、本発明の紫外線障害低減剤を微生物の培地または微生物用希釈液に添加する場合、その添加量は、それぞれの全量に対する質量比率で0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.2〜1.0質量%であることがさらに好ましい。また、プロテアーゼ分解物としての添加量は、凍結乾燥物量で0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.05〜0.25質量%であることがさらに好ましい。
本発明の紫外線障害低減剤を化粧品または外用薬として、皮膚に塗布する場合、その塗布量は0.5g〜5.0g/10cm
2であることが好ましく、使用回数は1〜4回/日程度が適当である。
本発明の紫外線障害低減剤を内服薬として経口投与する場合、その投与量は80〜2000mg/成人標準体重/日であることが好ましく、1日に2〜3回に分けて投与することが適当である。
【0031】
[紫外線障害低減剤の製造方法]
次に、本発明の紫外線障害低減剤の製造方法について説明する。
本発明の紫外線障害低減剤の製造方法は、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする。
本発明の紫外線障害低減剤の製造方法は、さらに必要に応じて、この他の工程を有していてもよい。例えば、組成物が鶏冠である場合には、酵素処理工程の前に、鶏冠を小片化する小片化工程を有していてもよい。また、酵素処理工程の後に、プロテアーゼ分解物を濾過する濾過工程、濾過したプロテアーゼ分解物を乾燥した後、粉砕する製粉工程を有していてよい。以下において、本発明の紫外線障害低減剤の製造方法を詳細に説明する。
【0032】
まず、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物を準備する。組成物としてニワトリの鶏冠を利用する場合には、性別、年令を問わず使用し得る。ただし、採取後なるべく時間を置かずにプロテアーゼ分解に供することが好ましい。また、時間を置いてプロテアーゼ分解するときには、冷凍保存した後に解凍して使用することが好ましい。
【0033】
鶏冠をプロテアーゼ分解するときには、まず鶏冠を小片化する小片化工程を行ってから、該鶏冠の小片をプロテアーゼ含有溶液に接触させることが好ましい。鶏冠は、好ましくは0.5cm角以上、より好ましくは0.7cm角以上、さらに好ましくは0.9cm角以上の小片にする。過度に細片化してしまったり、ミンチ状にしてしまうと、水分が過度に流れ出てしまうため好ましくない。
【0034】
次に、組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を行う。本発明の製造方法で用いるプロテアーゼの説明については、上記の[紫外線障害低減剤]の欄のプロテアーゼの説明を参照することができる。酵素処理は、組成物やプロテアーゼの種類によっても異なるが、例えば組成物が鶏冠等の固形物や粉末である場合には、プロテアーゼを溶解した水溶液等の溶液(酵素液)を組成物に添加した後、一定時間放置することで行うことが好ましい。ここで、酵素液のpHは5.0〜10.0であることが好ましく、処理温度は40〜60℃であることが好ましく、処理時間は0.5〜3.0時間であることが好ましい。また、酵素処理は、酵素液を添加した組成物を振とうしながら行うことが好ましい。
【0035】
以上のようにして得られたプロテアーゼ分解物は、ろ過などの方法により鶏冠等の固形分を除去して、液状のプロテアーゼ分解物として用いることができる。また、凍結乾燥等により乾燥してさらに粉砕する製粉工程を行うことにより、粉末状のプロテアーゼ分解物として用いることもできる。これらのプロテアーゼ分解物は、そのまま本発明の紫外線障害低減剤としてもよいし、適宜精製し、賦形剤等の他の成分と組み合わせる等して本発明の紫外線障害低減剤としてもよい。
【0036】
本発明の紫外線障害低減剤は、このように、極めて簡単な工程で製造することができる。そして、得られた紫外線障害低減剤は、上記のように、それ自体が生命体に対して良好な作用を示すため、他に多種類の有効成分を含有させる必要がない。このため、本発明の紫外線障害低減剤の製造方法を用いることにより、有用性が高い紫外線障害低減剤を低いコストで提供することができる。
【0037】
[紫外線障害低減剤の用途]
上記のように、本発明の紫外線障害低減剤は、生体に対して良好な作用を示すとともに、紫外線による障害を低減する作用を有することから、微生物の培地や希釈液に添加する添加剤として好適に用いることができる。培地は、液体(ブイヨン)培地、半流動培地、固形(寒天)培地のいずれであってもよく、その組成も特に制限されない。また、希釈液についても、生理食塩水等、微生物の希釈液として通常用いられているものの、いずれにも適用可能である。
また、本発明の紫外線障害低減剤は、ヒト等の動物に投与する外用剤や内服剤としても効果的に用いることができる。本発明の紫外線障害低減剤が外用剤である場合、外用医薬であってもよいし、化粧品であってもよい。化粧品である場合、例えば乳液、クリーム、ローション、エッセンスなどの基礎化粧料、口紅、ファンデーション、リキッドファンデーション、メイクアッププレスドパウダー、おしろい、アイシャドーなどのメイクアップ化粧料等の態様で好適に用いることができる。
本発明の紫外線障害低減剤は、その用途に応じて、上記プロテアーゼ分解物や賦形剤以外にも、さまざまな成分を含有させることができる。例えば、ビタミン、野菜粉末、ミネラル、酵母エキス、着色剤、増粘剤などを必要に応じて含有させることができる。これらの成分の種類は特に制限されず、含有量は目的とする機能を十分に発揮させることができる範囲内で適宜調節することができる。
また、紫外線障害低減剤である化粧品には、化粧品に通常用いられる配合成分、例えば油性成分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、色素、香料等を必要に応じて適宜配合することもできる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、割合、操作等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
本実施例で製造した紫外線障害低減剤の成分分析は下記の方法により行った。
(1)水分含有量の測定
水分含有量は、紫外線障害低減剤の1gを105℃で3時問加熱乾燥し、精密天秤で恒量を求め定量した。
【0040】
(2)全窒素の定食
全窒素はAOAC法に基づくセミミクロケルダール法によって定量した。
【0041】
(3)遊離アミノ酸の定量およびアミノ酸組成の分析
総遊離アミノ酸量はNinhydrin法によって定量した。定量には標準アミノ酸としてロイシンの検量線を作成し使用した。また、遊離アミノ酸の組成は、生体分析用カラムを装着したアミノ酸自動分析機(日立社製、L-8500型)を用いて分析した。この分析には、紫外線障害低減剤の50mgを蒸留水に溶解し、ロータリーエバポレーダー(60℃)で減圧乾固させた後、0.02N塩酸5mLで溶出し、ろ紙でろ過したのち、滅菌フィルターでろ過したろ液50μLを分析試料として使用した。
【0042】
(4)タンパク質の定量
総タンバク質量はLawry法によって決定した。標準検量線の作成には牛血清アルブミンを使用した。
【0043】
(5)N−アセチル−D−グルコサミンの定量
N−アセチル−D−グルコサミン含有量はMorgan-Elson法で定量した。
【0044】
(6)グルコサミノグリカンの定量
2−ニトロフェニルヒドラジンカップリング法による比色定量法で分析した。標準検量の作成には鶏冠由来ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HARC)およびstreptococcus zooepidemicus由来のヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HASZ)を用いた。
【0045】
(7)低分子ヒアルロン酸の分子量測定
示差屈折計(Shimazu社製、RID-10A型)を装着した高速液体クロマトグラフィー(Shimazu社製)によってヒアルロン酸の分子量を推定した。カラムとしてTSKgel G-2,500PW
XL(7.8mmID×30cm)を用い、水を移動相として流速1ml/minで分析を行った。分子量マーカーには分子量400、1000、2000、6000の4種のポリエチレングリコール(Aldrich社製)を用いた。また、各低分子ヒアルロン酸の構成重量比は、紫外線障害低減剤とデキストリンのみのサンプルを高速液体クラマトグラフィにより分析し、紫外線障害低減剤で現れたピークのピーク面積からデキストリンのピーク面積を差し引くことにより求めた。
【0046】
[製造例]
採取したてのニワトリの鶏冠1kgを約1cm角に切断して小片化し、100℃で蒸きょうを行うことにより加熱殺菌した。この小片状の鶏冠にプロテアーゼを中心とした食物由来の酵素類を添加して45℃で 1.5時間反応させた後、攪拌して均質化した。その後、濾過して粗大な固形成分を除去し、液状のプロテアーゼ分解物を得た。このプロテアーゼ分解物は、pH6.5、Brix値6.20、固形分濃度5.91質量%であった。このプロテアーゼ分解物を、凍結乾燥して粉砕した後、3倍等量(質量比)のデキストリンを添加することにより、粉末状の紫外線障害低減剤を製造した。
【0047】
[紫外線障害低減剤の成分分析]
製造した紫外線障害低減剤について、上記の方法により成分分析を行った。測定された一般成分の含有率を表1に示し、遊離アミノ酸の組成を表2に示し、低分子ヒアルロン酸の分子量の分析結果を表3に示す。なお、表1〜3中の「%」は「質量%」を表す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表2に示すように、紫外線障害低減剤に含まれる遊離アミノ酸の中では、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸の含有量が多く、ついで、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチン、チロシン等が多く含まれていた。
また、表3に示すように、紫外線障害低減剤に含まれる低分子ヒアルロン酸は、推定分子量5000、1520、1140、760および380の5種類からなることがわかった。また、ヒアルロン酸の繰り返し単位1つの分子量を約400とすると、各低分子ヒアルロン酸の繰り返し単位数は、分子量の大きい順に、13〜14、4、3、2および1であり、質量比率は、33%、47%、10%、6%および4%であった。よって、低分子ヒアルロン酸の主要成分は、分子量1520程度の4分子成分と分子量5000程度の13〜14分子成分の2成分であることがわかった。なお、紫外線障害低減剤における、分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有率は、紫外線障害低減剤の全量に対して13.4質量%であった。
【0052】
[紫外線障害低減剤の評価]
製造した紫外線障害低減剤について、乳酸菌(Lactobacillus bulgaricus、Tetragencoccus halophilus、Enterococcus nirae、Streptococcus thermophilus)に対する作用を評価した。
【0053】
(評価1)
表4に示す組成のGYP寒天培地を調製するための培地調製用液を調製し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌した後、プラスチック製の滅菌ペトリ皿に分注し、固化させて複数のGYP寒天培地を得た。
【0054】
【表4】
【0055】
次に、蒸留水100mLに0.75gのNaClを添加して調製した生理食塩水を5本用意した。各生理食塩水に、それぞれ、紫外線障害低減剤を0g、0.2g、0.5g、または1.0g添加して、無添加区、0.2%添加区、0.5%添加区、1.0%添加区を調製し、121℃で10分間高圧蒸気滅菌した。滅菌した各生理食塩水(菌希釈液)を、それぞれ4本の容器に分注して上記4種類の乳酸菌を別々に加え、菌液を調製した。各菌液を、それぞれ、GYP寒天培地上に100μLずつ分注して均一に拡げ、紫外線を照射せずに24℃で120時間培養するか、クリーンベンチ内で紫外線を0分〜10分(0,1,3,5,10分)間照射した後、24℃で120時間培養した。ここで、紫外線の照射は、ペトリ皿の蓋を開けた状態で、15Wの紫外線ランプ(波長253.7nm)を50cmの距離を開けて照射することにより行った。また、各乳酸菌について、同様の条件で3回培養を行い、それぞれについて培養後のコロニー数を計測し、平均値を算出した。紫外線無照射条件下で培養を行った乳酸菌の平均コロニー数を
図1に示し、紫外線を照射した後に培養を行った乳酸菌の平均コロニー数を
図2に示す。
図1および
図2に示すように、紫外線無照射条件で培養を行った系および紫外線照射後に培養を行った系のいずれにおいても、菌希釈液に紫外線障害低減剤を添加した乳酸菌の方が、菌希釈液に紫外線障害低減剤を添加していない乳酸菌に比べてコロニー数が多く、本発明の紫外線障害低減剤が微生物増殖促進作用を示すことを確認することができた。また、
図1と
図2を比較すると、特に紫外線障害低減剤を菌希釈液に添加していない乳酸菌において、紫外線照射後に培養を行った系で、紫外線無照射条件で培養を行った系よりもコロニー数が少なくなっており、紫外線照射による増殖障害が認められた。しかし、紫外線照射後に培養を行った系では、菌希釈液に紫外線障害剤を添加した乳酸菌において、菌希釈液に紫外線障害低減剤を添加していない乳酸菌に比べてコロニー数が顕著に増大している。この紫外線障害低減剤によるコロニー数の増大の程度は、紫外線無照射条件で培養を行った系での紫外線障害低減剤によるコロニー数の増大の程度を大きく上回っている。このことから、本発明の紫外線障害低減剤に、紫外線による障害を顕著に抑制する作用があることを確認することができた。
なお、紫外線障害低減剤の代わりにデキストリンを菌希釈液に添加して同様の培養試験を行ったが、菌希釈液に紫外線障害低減剤を添加していない系との有意差は認められなかった。
【0056】
(評価2)
上記表4に示す組成のGYP寒天培地調製用の液を複数本調製し、それぞれ、紫外線障害低減剤を0g、0.2g、0.5g、または1.0g添加して、無添加区、0.2%添加区、0.5%添加区、1.0%添加区を得た。各GYP寒天培地調製用の液を、121℃で15分間高圧蒸気滅菌した後、プラスチック製の滅菌ペトリ皿に分注し、固化させて複数のGYP寒天培地を得た。
次に、121℃で10分間高圧蒸気滅菌した生理食塩水を、それぞれ4本の容器に分注して4種類の乳酸菌を別々に加え、菌液を調製した。各菌液を、上記の各GYP寒天培地上に100μLずつ分注して均一に拡げ、紫外線を照射せずに24℃で120時間培養するか、クリーンベンチ内で紫外線を0〜10分間(0,1,3,5,10分間)照射した後、24℃で120時間培養した。紫外線の照射は、評価1の紫外線照射と同様の条件で行った。各乳酸菌について、同様の条件で3回培養を行い、それぞれについて培養後のコロニー数を計測し、平均値を算出した。紫外線無照射条件下で培養を行った乳酸菌の平均コロニー数を
図3に示し、紫外線を照射した後に培養を行った乳酸菌の平均コロニー数を
図4に示す。
図3および
図4に示すように、(評価2)においても、上記の(評価1)と同じ傾向の結果が得られた。すなわち、紫外線障害低減剤を添加した培地の方が、紫外線障害低減剤を添加していない培地に比べてコロニー数が多く、本発明の紫外線障害低減剤が微生物増殖促進作用を示すことを確認することができた。また、紫外線照射後に培養を行った系では、紫外線障害剤を添加した培地において、紫外線障害低減剤を添加していない培地に比べてコロニー数が顕著に増大しおり、このコロニー数の増大の程度は、紫外線無照射条件で培養を行った系でのコロニー数の増大の程度を大きく上回っている。このことから、本発明の紫外線障害低減剤に、紫外線による障害を顕著に抑制する作用があることを確認することができた。
なお、紫外線障害低減剤の代わりにデキストリンを培地に添加して同様の培養試験を行ったが、培地に紫外線障害低減剤を添加していない系との有意差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、生命体に対して良好な作用を示すとともに、紫外線による障害を効果的に抑える作用も示す紫外線障害低減剤を低コストで提供することができる。このため、本発明の紫外線障害低減剤を用いれば、微生物を利用する各種分野において微生物の効率的な増殖qが可能になり、さらに、紫外線障害低減効果が高く、しかも安価な外用剤や内服剤も提供することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。