(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209583
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ジチインテトラカルボキシイミド類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 495/14 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
C07D495/14 F
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-500872(P2015-500872)
(86)(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公表番号】特表2015-510911(P2015-510911A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2013055565
(87)【国際公開番号】WO2013139736
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】12161009.1
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】512137348
【氏名又は名称】バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヒムラー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ゲラー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロドフエルド、ラルズ
(72)【発明者】
【氏名】フオード,マーク・ジエイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンベルガー,ギユンター
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ,デイーター
【審査官】
齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0269973(US,A1)
【文献】
上木達生 他,プロセス化学,日本,丸善,2008年 7月30日,P285-P294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)のジチインテトラカルボキシイミド:
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のハロゲン、−OR
3、−COR
4で置換されていても良いC
1−C
8−アルキル、1個もしくは複数のハロゲン、−C
1−C
4−アルキルもしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1個もしくは複数のハロゲン、−C
1−C
4−アルキル、−C
1−C
4−ハロアルキル、−COR
4もしくは−スルホニルアミノで置換されていても良いアリールまたはアリール−
C1−C
4−アルキル
−であり、
R
3は、水素、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−アルキルカルボニルまたは1個もしくは複数のハロゲン、−C
1−C
4−アルキルもしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いアリールであり、
R
4はヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである。]
の製造方法であって、
下記式(VI)のコハク酸モノアミド:
【化2】
(式中、RはR
1またはR
2である。)を塩化チオニルと反応させて反応混合物を得て、
第2段階(2)で、生成した反応混合物を加熱し、次に第3段階(3)で、前記反応混合物をジチインテトラカルボキシイミドに変換し、少なくとも段階(2)を連続的に実施する方法。
【請求項2】
塩化チオニルの合計量(z)が式(VI)のコハク酸モノアミド1モル当たり2.5から20モルであり、zが下記の関係:
z=x+y
によって定義され、
zが最初の2段階(1)および(2)における塩化チオニルの総量(一般式(VI)のコハク酸アミド1モル当たりの塩化チオニルのモル数)であり、
xが段階(1)における塩化チオニルの量であり、
yが段階(2)でさらに使用される塩化チオニルの量である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
zの値が、式(VI)のコハク酸アミド1モル当たり2.5から14モルである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
zの値が、式(VI)のコハク酸アミド1モル当たり2.5から9モルである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
段階(1)における塩化チオニル量xが、式(VI)のコハク酸アミド1モル当たり1から20モルである請求項2に記載の方法。
【請求項6】
段階(2)においてガス発生が減少した後、当該方法の第3段階(3)で、反応混合物をジチインテトラカルボキシイミド類に変換する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
得られた中間体を希釈剤に溶かし、水と混合し、この混合物中で加熱することで式(I)のジチインテトラカルボキシイミド類に変換する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
段階(1)を連続的に行う請求項1に記載の方法。
【請求項9】
段階(3)において、少なくとも部分的に水と混和性である有機溶媒を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
段階(3)で用いられる溶媒が、水、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アルコール類、炭化水素類、エステル類、アミド類、エーテル類、ニトリル類、ケトン類、カルボン酸類、またはこれら溶媒の混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールおよびエチレングリコールモノメチルエーテルから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化水素類が、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびニトロベンゼンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記エステル類が、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記アミド類が、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記エーテル類が、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ニトリル類が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびベンゾニトリルから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ケトン類が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびピナコロンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記カルボン酸類が、ギ酸、酢酸およびプロピオン酸から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
段階(3)を40℃から120℃の反応温度で実施する請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程段階のうちの少なくとも一つを連続して実施する、コハク酸モノアミド類と塩化チオニルの反応によるジチインテトラカルボキシイミド類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジチインテトラカルボキシイミド類自体は公知である。これらのジチインテトラカルボキシイミド類が動物の内部寄生虫、特には線虫に対抗するための駆虫薬として用いることができ、殺虫作用を有することも同様に知られている(US3,364,229参照)。特定のジチインテトラカルボキシイミド類が抗細菌作用を有し、ヒトの真菌症を引き起こす生物に対して一定の効果を有することも知られている(Il Farmaco
2005,
60, 944−947参照)。さらに、ジチインテトラカルボキシイミド類が電子写真感光体における顔料として、またはコーティング剤およびポリマー中の染料として使用可能であることも知られている(JP−A10−251265、PL−B143804参照)。
【0003】
下記式(I)のジチインテトラカルボキシイミド類:
【化1】
【0004】
[式中、R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のハロゲン−、−OR
3−、−COR
4−で置換されていても良いC
1−C
8−アルキル、1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−、−C
1−C
4−ハロアルキル−、−COR
4−もしくは−スルホニルアミノで置換されていても良いアリールまたはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は水素、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−アルキルカルボニルまたは1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いアリールであり、
R
4はヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである。]は各種公知の方法で製造することができる。
【0005】
例えば、一つの方法(US3,364,229;Chem. Ber.
1967,
100, 1559−1570参照)において、第1段階で、適宜に希釈剤の存在下に、式(II)のジクロロマレイン酸無水物を式(III)のアミンと反応あせる。次に、そうして得られた式(IV)のジクロロマレイミドを硫黄化合物(例えば、硫化水素またはチオ尿素)と反応させる。この方法による式(I)のジチインテトラカルボキシイミド類の製造は、下記の図式によって示すことができる。
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US3,364,229
【特許文献2】JP−A10−251265
【特許文献3】PL−B143804
【特許文献4】US3,364,229参照
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Il Farmaco 2005, 60, 944−947
【非特許文献2】Chem. Ber. 1967, 100, 1559−1570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この方法は、例えば、非常に毒性の高い硫化水素ガスの取り扱いが技術的に非常に困難で不便であるという欠点を有する。チオ尿素の使用の場合、標的生成物は別として、望ましくない副生成物が得られ、それを除去するのは非常に困難であり、得られる収率が低下する(J. Heterocycl. Chem.
1988,
25, 901−906参照)。
【0009】
公知となった別の方法(Synthetic Communications
2006,
36, 3591−3597参照)では、第1段階で、適宜に希釈剤存在下に、式(V)のコハク酸無水物を式(III)のアミンと反応させる。次に、そうして得られた式(VI)のコハク酸モノアミドを、希釈剤としてのジオキサンの存在下に室温で6時間にわたり大過剰の塩化チオニルと反応させ、一連の多くの反応段階で最終的に式(I)のジチインテトラカルボキシイミドが得られる。そのジチインテトラカルボキシイミドは反応混合物から直接単離するか、水を加えた後に濾過することで単離される。反応条件(希釈剤)およびR基の性質に従い、ある種の環境下に、式(VII)のジチインジイソイミドを単離してから、それを式(I)のジチインテトラカルボキシイミドに変換することができる。式(I)のジチインテトラカルボキシイミドのこの製造方法は、下記の図式によって示すことができる。
【化3】
【0010】
この方法の欠点は、反応時間が長いことと、得られる収率が通常は理論値の約30から40%を超えないか、単離生成物の純度が不十分であるという結果となるという点である。反応混合物の水系後処理の場合における別の欠点は、多量の塩化チオニルを破壊し、生じるガス(SO
2およびHCl)を処分しなければならないという点である。同様の欠点としては、経験的に明らかになっているように、生成物は一つの画分で得られないという点である。代わりに、非常に多くの場合、濾過による第1の生成物単離の後、長期間静置した後に(例えば終夜)、濾液からさらに生成物が析出し、それを再度濾過によって単離しなければならない。場合により、この操作を再度行う必要がある。この作業方法は非常に不都合であり、時間を要する。
【0011】
さらに、脱水1,4−ジオキサンにN−置換されたコハク酸アミドを溶かし、次に塩化チオニルと混合することでジチインテトラカルボキシイミド類が得られることが知られている。次に、その反応混合物を加熱し、得られた溶液を減圧下に濃縮し、分離し、カラムクロマトグラフィーによって精製する(J. Heterocycl. Chem.
2010,
47, 188−193参照)。
【0012】
さらに、適宜に不活性希釈剤の存在下に、N−置換されたコハク酸アミドを塩化チオニルと混合することでジチインテトラカルボキシイミド類が得られることが知られている。次に、過剰の塩化チオニルを留去し、残った反応混合物を、水の存在下に、そして適宜に不活性希釈剤の存在下に加熱する(WO2011/128263参照)。
【0013】
しかしながら、先行技術の方法は、次の欠点を有する。
【0014】
a)低い空時収率、
b)コハク酸モノアミドに対して塩化チオニルが大過剰であるため、反応生産物の後処理および未変換塩化チオニル回収に高レベルの技術的複雑さが必要とされることから、資本コストおよびエネルギーコストが高くなること、
c)反応で放出される排ガスフローが均一に流れないため、可能性として再利用を目的とした排ガス流の同時再処理を含む技術的に簡単かつ経済的な製造方法を実施することが困難となること。
【0015】
従って本発明の目的は、高収率および高空時収率および高品質で式(I)のジチインテトラカルボキシイミドを製造する技術的に簡単かつ経済的な方法を提供することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、下記式(I)の化合物:
【化4】
【0017】
(式中、R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のハロゲン−、−OR
3−、−COR
4−で置換されていても良いC
1−C
8−アルキル、1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−、−C
1−C
4−ハロアルキル−、−COR
4−もしくは−スルホニルアミノで置換されていても良いアリールまたはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は水素、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−アルキルカルボニルまたは1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いアリールであり、
R
4はヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである。)が、工程段階の少なくとも一つを連続で行うと高収率かつ高空時収率で得られることが見出された。
【0018】
上記および下記において「連続的に」という用語は、反応媒体が流動系に存在し、特定の機能ゾーン、特には混合ゾーン、反応ゾーンおよび滞留ゾーンを通過する手順を意味する。反応物は所定の時間単位内に供給され、生成物は所定の時間単位内に取り出される。
【0019】
上記および下記において、「反応物」という用語は、下流の反応段階でさらに処理される化合物を意味する。この用語は、工程全体に新たに導入される化合物および上流の工程で得られてさらに処理される化合物の両方を含む。
【0020】
本発明は、下記一般式(I)のジチインテトラカルボキシイミド:
【化5】
【0021】
[式中、
R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のハロゲン−、−OR
3−、−COR
4で置換されていても良いC
1−C
8−アルキル、1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−、−C
1−C
4−ハロアルキル−、−COR
4−もしくは−スルホニルアミノで置換されていても良いアリールまたはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は、水素、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−アルキルカルボニルまたは1個もしくは複数のハロゲン−、−C
1−C
4−アルキル−もしくは−C
1−C
4−ハロアルキルで置換されていても良いアリールであり、
R
4はヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである。]の製造方法であって、
第1段階(1)で、下記式(VI)のコハク酸モノアミド:
【化6】
【0022】
(式中、RはR
1またはR
2である。)を塩化チオニルと反応させて反応混合物を得て、第2段階(2)で、生成した反応混合物を加熱し、次に第3段階(3)で、前記反応混合物をジチインテトラカルボキシイミドに変換し、これら3段階のうちの少なくとも一つを連続的に実施する方法を提供する。
【0023】
好ましくは、本発明による方法では、塩化チオニルの合計(z)は式(VI)のコハク酸モノアミド1モル当たり2.5から20モルであり、zは下記の関係:
z=x+y
によって定義され、
zは最初の2段階(1)および(2)における塩化チオニルの総量(一般式(VI)のコハク酸アミド1モル当たりの塩化チオニルのモル数)であり、
xは段階(1)における塩化チオニルの量であり、
yは段階(2)でさらに使用される塩化チオニルの量である。
【0024】
本発明による方法において、zの値はより好ましくは、2.5から14であり、最も好ましくは2.5から9である。
【0025】
塩化チオニルの総量(z)が本発明による方法の段階(1)および(2)で分割される場合、次の規格が適用される。
【0026】
xの値は1から20、好ましくは1から10、より好ましくは1から5であり、zについては上記の値である。
【0027】
第1段階(1)において、下記一般式(VI)のコハク酸モノアミド:
【化7】
【0028】
(式中、RはR
1またはR
2である。)を塩化チオニルと反応させて、液体反応混合物を得る。
【0029】
第2段階(2)において、生成した反応混合物を、適宜に追加の塩化チオニルとともに加熱する。
【0030】
ガス発生が減少した後、当該方法の第3段階(3)で、反応混合物がジチインテトラカルボキシイミドに変換される。この段階で、適宜に過剰の塩化チオニルを除去した後、得られた中間体を希釈剤に溶かし、水と混合し、この混合物中で加熱することで式(I)のジチインテトラカルボキシイミドに変換する。
【0031】
このようにして、式(I)のジチインテトラカルボキシイミドは技術的に簡単かつ経済的な方法で得ることができ、過剰の塩化チオニルを除去し、排ガス流が一定であることで排ガスの技術的に簡単な再処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施例3におけるリットル単位での総排ガス量(y軸)を、mL単位で計量導入した反応混合物量(x軸)に対してプロットしている図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明による方法の実施において原料として使用されるコハク酸モノアミドは、概して式(VI)によって定義される。Rは、R
1またはR
2の定義を表す。
【0034】
一般式(VI)の化合物の1実施形態(A−I)において、R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のフッ素−、−塩素−、−臭素−、−OR
3−、−COR
4で置換されていても良いC
1−C
6−アルキル、1個もしくは複数の塩素−、−メチル−もしくは−トリフルオロメチルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1個もしくは複数のフッ素−、−塩素−、−臭素−、−メチル−、−トリフルオロメチル−、−COR
4−、−スルホニルアミノで置換されていても良いフェニルまたはフェニル−(C
1−C
4−アルキル)である。
【0035】
一般式(VI)の化合物の1実施形態(A−I−1)において、R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、1個もしくは複数のフッ素−、−塩素−、−ヒドロキシル−、−メトキシ−、−エトキシ−、−メチルカルボニルオキシ−、−カルボキシルで置換されていても良いC
1−C
4−アルキル、1個もしくは複数の塩素−、−メチル−もしくは−トリフルオロメチルで置換されていても良いC
3−C
7−シクロアルキル、各場合で1から3個のフッ素−、−塩素−、−臭素−、−メチル−、−トリフルオロメチル−、−COR
4−、−スルホニルアミノで置換されていても良いフェニル、ベンジル、1−フェネチル、2−フェネチルまたは2−メチル−2−フェネチルである。
【0036】
一般式(VI)の化合物の1実施形態(A−I−2)において、R
1およびR
2は同一であるか異なっており、それぞれ水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、2,2−ジフルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、各場合で塩素−、メチル−もしくはトリフルオロメチルで置換されていても良いシクロプロピルまたはシクロヘキシルである。
【0037】
一般式(VI)の化合物の1実施形態(A−I−3)において、R
1およびR
2はいずれもメチルである。
【0038】
実施形態(B−I):R
3が水素、メチル、エチル、メチルカルボニル、エチルカルボニルまたは1個もしくは複数のフッ素−、−塩素−、−メチル−、−エチル−、−n−プロピル−、−イソプロピル−もしくは−トリフルオロメチルで置換されていても良いフェニルである実施形態(A−I)または(A−I−1)または(A−I−2)に相当する一般式(VI)の化合物。
【0039】
実施形態(B−I−1):R
3が水素、メチル、メチルカルボニルまたはフェニルである実施形態(A−I)または(A−I−1)または(A−I−2)に相当する一般式(VI)の化合物。
【0040】
実施形態(C−I):R
4がヒドロキシル、メチル、エチル、メトキシまたはエトキシである実施形態[(A−I)または(A−I−1)または(A−I−2)]および/または[(B−I)またはB(B−I−1)]に相当する一般式(VI)の化合物。
【0041】
実施形態(C−I−1):R
4がヒドロキシルまたはメトキシである実施形態[(A−I)または(A−I−1)または(A−I−2)]および/または[(B−I)またはB(B−I−1)]に相当する一般式(VI)の化合物。
【0042】
特に好ましいものは、原料としてN−メチルコハク酸アミドを用いるものであり、結果的に、最終生成物として得られる化合物(I−1)は2,6−ジメチル−1H,5H−[1,4]ジチイノ[2,3−c:5,6−c′]ジピロール−1,3,5,7(2H,6H)−テトロンである。
【0043】
N−tert−ブチルコハク酸アミドを原料として用いる場合、最終生成物として得られる化合物(I−2)は、2,6−ジ−tert−ブチル−1H,5H−[1,4]ジチイノ[2,3−c:5,6−c′]ジピロール−1,3,5,7(2H,6H)−テトロンである。
【0044】
N−シクロヘキシルコハク酸アミドを原料として用いる場合、最終生成物として得られる化合物(I−3)は2,6−ジシクロヘキシル−1H,5H−[1,4]ジチイノ[2,3−c:5,6−c′]ジピロール−1,3,5,7(2H,6H)−テトロンである。
【0045】
N−プロピルコハク酸アミドを原料として用いる場合、最終生成物として得られる化合物(I−4)は2,6−ジプロピル−1H,5H−[1,4]ジチイノ[2,3−c:5,6−c′]ジピロール−1,3,5,7(2H,6H)−テトロンである。
【0046】
本発明による方法の段階(1)は、連続的またはバッチ式で行われ、好ましくは段階(1)は連続的に行う。
【0047】
本発明による方法の第1段階(1)における反応温度は、広い範囲内で変動可能であり、−20℃から50℃であり、好ましくは−5℃から30℃の;より好ましくは−5℃から10℃の温度である。
【0048】
本発明による方法の段階(2)は連続的またはバッチ式で行われる。好ましくは段階(2)は連続的に行う。
【0049】
本発明による工程段階の連続実施に好適な装置は、当業者は習熟している各種連続装置である。そのような連続装置の例には、
a)連続撹拌タンクであって、直列で連結されていることで撹拌タンクカスケードを与えても良いもの、
b)管型リアクター、
c)薄膜式エバポレータ、
d)反応性精留塔、
e)マイクロリアクター、
f)クロスフロー型リアクター、
g)循環型またはループ型リアクター、
または各種連続リアクターの組み合わせ
がある。
【0050】
好ましくは、撹拌タンクカスケード、管型リアクターまたは薄膜式エバポレータを使用し、特に好ましくは撹拌タンクカスケードを用いる。
【0051】
本発明による方法の第2段階(2)における反応温度は、広い範囲内で変動し得るものであり、0℃から150℃、好ましくは20℃から120℃、より好ましくは30℃から100℃の温度である。
【0052】
本発明による方法の第2段階(2)における滞留時間は、1分から24時間である。滞留時間は、好ましくは15分から10時間、より好ましくは30分から6時間である。
【0053】
本発明による方法の第1段階(1)および第2段階(2)は反応条件下で非常に実質的に不活性である希釈剤の存在下に行っても良い。そのような希釈剤の例には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどの塩素化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類、酢酸メチルおよび酢酸エチルなどのエステル類などがある。好ましいものは、塩化メチレン、クロロホルムまたは1,2−ジクロロエタン、トルエン、キシレンまたはクロロベンゼンである。前記二つの工程段階(1)および(2)を希釈剤なしで行うことが好ましい。
【0054】
存在する希釈剤は好ましくは同様に、本発明による方法の段階(2)で減圧下に留去する。
【0055】
本発明による方法の段階(3)は連続的にまたはバッチ方式で行う。
【0056】
本発明による方法の第3段階(3)では、適宜に希釈剤および/または過剰の塩化チオニルを除去した後、中間体を得て、それを希釈剤に溶かし、適宜に水を加えてこの溶媒中で加熱することで、式(I)のジチインテトラカルボキシイミドに変換する。その反応混合物は好ましくは、この期間中撹拌する。
【0057】
本発明による方法の第3段階(3)では、有機溶媒または溶媒混合物を用いる。これらの溶媒は好ましくは、少なくとも部分的に水と混和性である。水混和性が低いか全くない溶媒の場合、特定の可溶化剤(例えば、相間移動触媒)によって混和性を達成することができる。
【0058】
本発明による方法の第3段階(3)での好適な希釈剤は、具体的には、水、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチれんグリコールモノメチルエーテル、炭化水素類、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、エステル類、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、アミド類、例えばホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エーテル類、例えばメチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ニトリル類、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ピナコロン、カルボン酸類、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、またはこれら希釈剤の混合物である。
【0059】
好ましいものは、水、トルエン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、酢酸メチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸またはこれら希釈剤の混合物である。
【0060】
特に好ましいものは、水とトルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、アセトンまたは酢酸の混合物である。
【0061】
水:有機溶媒の混合比は、例えば9:1から1:9の広い範囲内で変動可能である。
【0062】
本発明による方法の第3段階(3)における反応温度は、広い範囲内で変動可能であり、0℃から180℃、好ましくは40℃から140℃、より好ましくは40℃から120℃の温度である。
【0063】
本発明による方法の第3段階(3)における反応時間は、1分から24時間、好ましくは15分から12時間、より好ましくは1から6時間である。
【0064】
本発明による方法を下記の実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
実施例1
本発明による方法の第2段階(2)での薄膜式エバポレータの使用
N−メチルコハク酸アミド10g[74.5mmol]の塩化チオニル(74.7g[596.6mmol]、含有率:95%)中の反応混合物を2時間以内で、筐体温度90℃まで加熱した薄膜式エバポレータ(直径:6cm、長さ:30cm、ワイパー速度:350rpm)に導入する。一定の排ガス流が観察される。褐色油状物20gが残留物容器中に得られ、塩化チオニル39.7g(過剰分の89.4%に相当)が留出物容器中に得られる。褐色油状物をトルエン20mLおよびAliquat336 0.15gとともに4時間加熱還流する。冷却後、固体を吸引濾過し、水およびエタノールで洗浄し、乾燥させる。これによって化合物I(R=Me)5.8gが得られる。
【0066】
実施例2
本発明による方法の第2段階(2)におけるランダム充填したカラムの使用
N−メチルコハク酸アミド150g[1.14mol]の塩化チオニル(243g[2.02mmol]、含有率:99%)中反応混合物を、285分以内に、頂部上に連結された還流冷却管を有する筐体温度77℃まで加熱したランダム充填したカラム(ランダム充填材=ラシヒリング:長さ10mm、幅8mm、壁厚1mm;カラム長さ:約110cm、内径:約5cm)の頂部に計量して入れる。塩化チオニル(含有率:99%)412gを向流で蒸留し、カラム底部の残留物容器中でこれを室温に調節する。頂部温度は約50から60℃の温度範囲内に維持する。一定の排ガス流が観察される。計量添加終了後に冷却する。残留物容器中で得られる黒色反応混合物を、約40mbarおよび60℃のロータリーエバポレータで濃縮する。得られた濃縮物をトルエン190gおよびAliquat336 9gとともに4時間加熱還流する。冷却後、固体を吸引濾過し、水およびエタノールで洗浄し、乾燥させる。これによって化合物I(R=Me)99gが得られる。
【0067】
実施例3
本発明による方法の第2段階(2)における撹拌タンクカスケードの使用
2個の撹拌ガラスタンクをホースを介して互いに連結して、第1のタンク中の600mLを超えた体積の反応混合物が自動的に溢れて第2のタンク中に入るようにする。第2のタンクからは、連続的かつ制御下に、底部排出口から受け容器に抜き取りを行うことができる。
【0068】
段階2の連続反応法の場合、最初に、3つのバッチのそれぞれにおいて、−10℃から−5℃でN−メチルコハク酸アミド200g(1.52mol)を塩化チオニル322g(含有率:100%、2.71mol)と反応させることで第1段階を行う。反応完了したら、液体反応混合物を室温とする。
【0069】
反応カスケードを開始するため、第1のタンクに塩化チオニル544g(4.57mol)を入れ、70℃に調節する。段階1からの1個のバッチ(上記参照)を、ガス発生が終結するまで、それに5時間以内で計量導入する。タンク1中の総体積はオーバーフローに達する。
【0070】
次に、段階1からの他の二つのバッチをそれぞれ、塩化チオニル544g(含有率:100%、4.57mol)と混合し、タンク1に7.5時間以内で計量投入する。この間に、反応混合物は連続的に第2のタンク中に流れ込む。第2のタンク中で収容量が100mLとなったら直ちに、このタンクから受け容器中への連続排出が行われる。リアクター1における内部温度は65から70℃であり、リアクター2については80から83℃である。リアクター1での滞留時間は平均3時間であり、リアクター2では0.5時間である。同時に、二つのリアクターからの全ての排ガスを、ガス流量計を通して一緒に送り出す。短い開始期間後、生成するガス体積は非常に均一である(
図1参照)。
【0071】
図1では、リットル単位での総排ガス量(y軸)を、mL単位で計量導入した反応混合物量(x軸)に対してプロットしている。
【0072】
リアクター2から流れ出る材料を濃縮し、化合物Iへの最終変換のために第3段階(3)に供給する。例を挙げると、タンク2から流れ出る段階2の生成物218から311gの画分を最初にトルエン114gに入れ、Aliquat336 13.1gを加えた。55から60℃で、91gをゆっくり滴下した。次に、混合物を80℃で4時間撹拌した。冷却して室温とした後、固体生成物を吸引フィルター上での吸引によって濾過し、水200mLで洗浄し、次にエタノールで数回洗浄し、乾燥させた。暗緑色固体62.4gが得られ、理論量の68%であった。
【0073】
実験が完了した後、後処理後の全ての生成物画分から、合計465.7gの化合物I(理論量の71%)が得られた。
【0074】
比較例1
最初にN−メチルコハク酸アミド5.24g[40mmol]を入れ、15℃で塩化チオニル47.6g[400mmol]を滴下する。次に、混合物を加熱して80℃とし、この温度で1時間撹拌する。ガス発生が開始し、より強くなり、しばらくしたら再度低下する。反応混合物をロータリーエバポレータで濃縮する。残留物(粘稠暗褐色油状物)をメタノール/水(1:1)100mLと混合し、加熱して60℃として4時間経過させる。次に、混合物を放冷して室温とし、沈殿した固体を吸引によって濾過し、水およびメタノールで洗浄する。乾燥によって暗緑色固体4.05gが得られ、それはHPLC分析によれば、97.8面積%の範囲での化合物(I−1)からなり、理論量の70%の収率に相当する。
【0075】
比較例2
塩化チオニル(含有率:99%)243.1g[2.02mmol]を最初に10℃で入れ、N−メチルコハク酸アミド150g[1.14mol]を少量ずつ加える。反応終了後、冷却した液体反応混合物を、最初に塩化チオニル412g(含有率:99%;3.42mol)を入れておいたリアクターに65から70℃で計量して入れる。計量添加の間、温度は65から70℃の範囲内に維持する。ガス発生が開始し、より強くなり、しばらくしたら再度低下する。反応混合物をロータリーエバポレータで濃縮する。残留物(粘稠暗褐色油状物)をトルエン190mL、水161gおよびAliquat336 9.2gと混合し、加熱して75から80℃として約6時間経過させる。次に、混合物を放冷して室温とし、沈殿固体を吸引によって濾過し、水およびエタノールで洗浄する。乾燥によって暗緑色固体118gが得られ、それはHPLC分析によれば、98.2重量%の範囲での化合物(I−1)からなり、理論量の72%の収率に相当する。