(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程d)およびf)における前記量子化学的な幾何学的最適化は、DFT(BP86/TZVP)法を用いて実施された後、DFT(BH−LYP/TZVP)一点計算が行われる、請求項1に記載の方法。
前記工程d)およびf)は、前記最も低い力場エネルギーを有する前記分子幾何構造だけでなく、0〜8kJ/molの力場エネルギー窓に含まれるあらゆる分子幾何構造を考慮し、ボルツマンに基づく加重平均励起エネルギーと吸収強度と全エネルギーとは、前記工程e)における前記増感剤の前記吸収スペクトルの計算だけでなく、前記工程g)における前記反応エネルギーの決定にも使用され、前記ボルツマン加重係数は密度汎関数理論のレベルで計算され、より好ましくはDFT(BP86/TZVP)幾何学的最適化と、COSMOをそれぞれ用いた後続のDFT(BH−LYP/TZVP)一点計算とに基づく、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べたタイプのフォトポリマー調合物は従来から知られている。例えば国際公開第2008/125229号には、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、アクリレートベースの書込モノマーと、共開始剤および染料を含む光開始剤とを含むフォトポリマー調合物が記載されている。書込モノマーと光開始剤は、硬化状態において、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とから形成されるポリウレタンマトリックス内に埋め込まれた状態で空間的に等方的な分布を示す。
【0003】
フォトポリマー調合物の用途は、ホログラフィー露光によってフォトポリマー内に生成される屈折率変調Δnによって確定的に決定される。ホログラフィー露光では、信号光ビームと参照光ビームの干渉場(最も単純なケースでは2つの平面波によるもの)が屈折率格子上にマッピングされる。このマッピングは、例えば干渉場において各高強度位置にある高屈折率アクリレートの局所的光重合によって生じる。フォトポリマー(ホログラム)内のこの屈折率格子は、信号光ビームに関する情報をすべて有している。したがって、ホログラムに参照光ビームのみを照射すると信号が再構成される。入射参照光の強度に対する、このようにして再構成される信号の強度を、回折効率(以下、DE)という。
【0004】
2つの平面波の重ね合わせによる最も単純なホログラムの場合、DEは、入射参照光の強度と回折光の強度との和に対する、再構成時に回折した光の強度の比となる。信号をある一定の明るさで可視化するのに必要な量の参照光では、DEが大きいほどホログラムの効率は高くなる。
【0005】
例えばホログラムに白色光を照射する場合、ホログラムの再構成に寄与しうるスペクトルレンジの幅もまた層厚dにのみ依存する。ここで成立する関係として、dの値が小さいほど、当該許容幅は大きくなる。そのため、明るく見やすいホログラムを製造するには、一般にDEを最大にしながらΔnを大きく、かつ厚さdを薄くすることが望ましい。すなわち、Δnを増やすと、DEの損失を生じることなく層厚dの設計許容度が広がり、明るいホログラムが実現する。したがって、フォトポリマー調合物の最適化にあたっては、Δnの最適化がとりわけ重要になる(P.Hariharan,Optical Holography,第2版,Cambridge University Press,1996)。
【0006】
ホログラムにおいてきわめて大きなΔnとDEを実現するには、原理的にはフォトポリマー調合物のマトリックスポリマーと書込モノマーとを、両者の屈折率の差がきわめて大きくなるように選択するべきである。考え得る1つの実現方法は、屈折率がきわめて小さいマトリックスポリマーと屈折率がきわめて大きい書込モノマーとを用いることである。低屈折率の適切なマトリックスポリマーには、例えばポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応によって得られるポリウレタンがある。
【0007】
値が大きいDEとΔnの他に、フォトポリマー調合物から得られるホログラフィック媒体に関するもう1つ重要な要件は、最終的な媒体においてマトリックスポリマーが高度に架橋されていることである。架橋の度合いが低すぎると媒体の安定性が不十分になる。これによる1つの帰結は、媒体内に書き込まれるホログラムの品質が大幅に低下するということである。最悪の場合、ホログラムは最終的に破壊されることすらありうる。
【0008】
また、とくにフォトポリマー調合物を用いたホログラフィック媒体の大規模工業生産では、使用する光開始剤系が市販のレーザ光源の波長に対して最適に構成されること、さらには光をきわめて高い量子効率で有効な連鎖開始剤分子に変換できることが必要になる点も、きわめて重要である。
【0009】
しかしながら、既知のフォトポリマー調合物から得られる媒体は波長選択性が不十分であることが往々にして観察される。また、必要最小限のDE値およびΔn値を達成するのにさえ長時間露光または高線量の光が必要になることが多い。そのため既知のフォトポリマー調合物から得られる媒体には品質問題が生じうる一方、大規模工業生産におけるより長時間の露光には多額の費用と不便さが伴う。
【0010】
化学反応エネルギーの推定についてはこれまで多くの量子化学的手順が論じられてきた。ある問題に対して1つの手順を選択する際には、精度に対する要件と利用可能な計算時間が選択基準となる。非常に正確な方法、例えば、摂動論に基づいて三重項(Triples)補正を行う一重項および二重項の結合クラスタ法(Coupled Cluster Singles and Doubles)CCSD(T)(T.Helgaker,P.JorgensenとJ,Olsen;Molecular Electronic−Structure Theory;Wiley,New York,2000)も、計算時間に関して非常に厳しい要件を持っている。さらに、かかる手順の計算時間要件は系の大きさの7乗につれて増加するため(O(N
7))、重い原子を10個から15個超含む比較的大きな分子には一般的に使用不可能である。代わりに密度汎関数理論(DFT)法(R.G.BakとW.Yang;Density−Functional Theory of Atoms and Molecules;Oxford University Press,Oxford 1989)が使用される。ただし、明らかに効率が高い分、正確さに劣る。
【0011】
新しいDFT法がこの20年間にわたって非常に多く開発されてきた。いずれも本質的に一長一短である。したがって、DFT計算の厳密な技術形態を、調査する問題に適合させる必要がある。本発明の方法に関連して言及するべき点は、すべての計算過程が液相もしくは非晶相において行われる点、およびイオン種ならびにフリーラジカル種が関与する点である。
【0012】
液相を簡単に記述するため、量子化学ではCOSMO(COnductor like Screening MOdel)法(A.KlamtとG.Schuurmann;J.Am.Chem.Soc.Perkin Trans II;1993.799)などの連続体モデルが確立されている。この種のモデルでは、分子の環境は分極する連続体として記述される。この方法はとくに低密度の水素結合を有する溶媒において良好な結果を与えることが多い。
【0013】
反応エネルギーを計算する上記の方法についてはさまざまな応用が発表されている(W.KochとM.C.Holthausen;A Chemist’s Guide to Density Functional Theory.Wiley−VHC,Weinheim)。
【0014】
電子励起状態の記述については、反応エネルギーの計算に関する上記の見解がかなりの程度、当てはまる。すなわち、高精度の方法の使用対象は小さい分子に限られ、それゆえ光開始剤系における染料分子には使用できない。そのため、DFT法はこの文脈において時間依存密度汎関数理論(TDDFT)(M.E.Casida;Time−Dependent Density Functional Response Theory for Molecules;Recent Advances in Density Functional Methods,Vol.1(D.P.Chong,Ed.)に収録;World Scientific:Singapore;155−192(1995))の形でも用いられる。ここでは単純なハイブリッド密度汎関数が使用される。これは、計算において非常に高い使用効率が可能なためである。文献(L.GoerigkとS.Grimme;J.Chem.Phys.;132,184103,(2010))から、これらの方法が電子励起状態に対して大きな系統的誤差を有し、かつそれらの誤差は励起状態の性質(例えば、遷移金属におけるππ
*、リュードベリ、またはd−d遷移)に応じて変動することが知られている。ある所与の適用における1種類の励起内では、励起エネルギーの誤差はグローバル補正項によって解決できることが多い。染料の着色性を担う励起は実質的にすべてππ
*型であるため、系統的補正の前提条件が存在する。
【0015】
光開始剤系として用いられるある所与の染料/共開始剤のペアの適切性を推定するため、文献においてRehm−Wellerの式(式(I))(D.Rehm,A.Weller,Ber.Bunsenges.Physik.Chem.;73,834,1969))が確立されている。その簡略形は以下のように書かれる。
【0016】
ΔG
et=E
ox−E
red−E
0.0+C (1)
ここに、
ΔG
etは電子移動の自由エネルギー、
E
oxは供与体の酸化電位、
E
redは受容体の還元電位、
E
0.0は酸化還元反応において電子の基底状態から励起状態に移行するときの染料の励起エネルギー、そして
Cは電子移動過程によって誘起される静電エネルギーの変化、
である。
【0017】
文献では一般にE
oxとE
redはそれぞれ電気化学的な還元電位と酸化電位であるとされる。E
0.0は、λ
maxによって生じる染料の励起エネルギーで近似される。Cは極性溶媒中では無視できるほど小さいと見なされる。
【0018】
上記により、Rehm−Wellerの式を光開始剤系の合理的設計に直接応用するには、E
ox、E
red、およびE
0.0を実験によって決定することが必要になる。ΔG
etが負であればその系は光開始剤として有用である可能性がある。この方法は、市販されない物質もしくは化学的に得るのが困難な物質には不適当である。なぜなら、必要な変数を実験を行わずに十分な精度で推定するための簡単な方法はないからである。また、実験による(一重項の)励起エネルギーをE
0.0として用いると、大きな誤差が生じる点にも注意が必要である。これは、開始反応が往々にして最も低い三重項状態の染料と共開始剤との間で起こることによる。しかし、UV/Visで測定される励起エネルギーは一重項→一重項励起に対応する。これはほとんどのケースにおいて、実際に必要となる一重項→三重項の励起エネルギーよりも明らかに大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明が扱う課題は、したがって、ホログラフィック媒体を製造するためのフォトポリマー調合物に関して、少なくとも1種類の増感剤と少なくとも1種類の共開始剤とを含む光開始剤系を選択する方法であって、光化学重合におけるその性能をある所与の光開始剤系を形成する化学構造に基づいて予測可能にする方法を開発することであった。そこでは、上述した染料の三重項状態を含め、関与する化合物の電子状態を正確に規定するために量子化学的な計算を行わねばならない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この課題を解決する方法は、
a)少なくとも1種類の増感剤と少なくとも1種類の共開始剤とを含む光開始剤系を選択する工程と、
b)電磁放射の吸収による、前記1種類の増感剤もしくは複数種類の増感剤の、ある電子励起状態もしくは複数の電子励起状態へのそれぞれの遷移、ならびに後続工程における開始反応と呼ばれる反応、を含むように前記光開始剤系の反応機構を確立する工程であって、前記後続工程により、前記電子励起状態にある前記1種類の増感剤もしくはそれぞれの電子励起状態にある前記複数種類の増感剤が前記共開始剤と反応して少なくとも1種類のフリーラジカルおよびさらなる生成物を生成し、それらの生成物は当該光開始剤系に依存する、工程と、
c)前記(1種類または複数種類の)増感剤の、前記(1種類または複数種類の)共開始剤の、さらには前記反応機構によって規定されるすべての開始反応中間および最終生成物の三次元分子幾何構造を生成し、次いで力場法に基づく配座解析をそれらに対して実施する工程と、
d)最も低い相対力場エネルギーを有する、前記工程c)による構造体の前記分子幾何構造を、電子の基底状態においてそのつど量子化学的に最適化し、かつ最適化された構造体の絶対電子エネルギーを決定する工程と、
e)前記(1種類または複数種類の)増感剤の電子吸収スペクトルの励起エネルギーと振動子強度とを量子化学的な時間依存密度汎関数理論法を用いて計算し、かつそれらの系統的誤差に対して前記励起エネルギーを補正する工程と、
f)共開始(coinitiation)反応に関わる、励起電子状態にあるすべての増感剤の前記分子幾何構造を密度汎関数理論のレベルで最適化し、かつ絶対電子エネルギーを決定する工程と、
g)前記工程b)で確立した前記機構のすべての成分反応の反応エネルギーを計算する工程と、
h)前記工程e)で決定された励起振動数が露光光波長を中心とする±50nmの区間内にあり、かつ振動子強度が0.2より大きいとき、および同時に、前記工程g)のもとで計算されるすべての反応エネルギーが負であるときに前記光開始剤系を適切と分類する工程と、
を含む。
【0023】
工程a)は、少なくとも1種類の染料と少なくとも1種類の共開始剤とを含む光開始剤系を選択する工程を含む。次に、工程b)は、光開始剤系の成分が互いに反応する反応機構を決定する工程を含む。一般に、この反応機構は、光開始剤系の少なくとも1種類の成分(増感剤)が電磁放射を吸収して前記成分を電子励起状態に遷移させる過程と、その後、この励起成分と少なくとも1種類のさらなる成分(共開始剤)とが酸化還元反応を行って反応性のフリーラジカルを遊離する過程とを伴う。その後、このフリーラジカルとフォトポリマー調合物のモノマーとの反応で開始反応は終了する。
【0024】
多成分の光開始剤系の最も単純なケースにおいて、光開始剤系は1種類の染料と1種類の共開始剤とから成る。次に、反応機構は下記のように反応を行う。
【0025】
1)増感剤+hν→増感剤
*
2)増感剤
*+共開始剤→増感剤フリーラジカル+共開始剤フリーラジカル
3)共開始剤フリーラジカル→共開始剤断片+フリーラジカル
4)増感剤フリーラジカル+共開始剤→増感剤断片+共開始剤断片
「増感剤
*」は増感剤の側が電子励起状態にあることを示す。とくに開始反応に関係するのは、第1の励起一重項状態(S
1)と第1の三重項状態(T
1)である。3成分以上を含む光開始剤系には類似の手法が採用される。関与する成分の酸化還元属性によって具体的な反応シーケンスが決まる。系が例えば励起状態で容易に還元される増感剤と、2種類以上の共開始剤とを含む場合、酸化型の共開始剤との反応を1次開始段階と見なすことが必要であり、続く還元型の共開始剤との2次反応によって増感剤が酸化されて元の形態に戻る。
【0026】
このように確立される反応機構は、成分反応に関わるすべての反応物、生成物、および中間物の三次元分子構造を生成し、それらに対して配座解析を実施する工程c)の基礎となる。これは例えば確率過程を伴い、その中で、連続する複数の工程において、ある分子のすべての回転可能な結合がランダムな角度だけ回転し、得られる構造体に対して力場最適化を行う。所定の力場エネルギー閾値を超える配座はすべて廃棄される。
【0027】
次に、工程d)では、残った配座に対して量子化学的な幾何学的最適化を密度汎関数理論(DFT)のレベルで実施する。これは好ましくはBecke−Perdew交換相関汎関数(BP86)(A.D.Becke;Phys.Rev.A;38,3098,(1998);J.Perdew;Phys.Rev.B;33,8822,(1986);S.H.Vosko,L.Wilk,M.Nusair;Can.J.Phys.;58,1200,(1980))ならびにAhlrichsの三重ゼータ価電子基底系TZVP(A.Schafer,C.HuberとR.Ahlrichs;J.Chem.Phys.;100,5829,(1994))、より好ましくは、それらに加えてCOSMO(COnductor like Screening MOdel)(A.KlamtとG.Schuurmann;J.Am.Chem.Soc.Perkin Trans II;1993,799)を用いて実施される。最適化された幾何構造は、次に、より高い量子化学レベルにおける一点計算を、好ましくはBH−LYP(A.D.Becke;J.Chem.Phys.;98,1372,(1993))とAhlrichsの三重ゼータ価電子基底系TZVPとを用いたDFT手続きを、より好ましくはさらにCOSMOモデルを用いて、実行されてもよい
増感剤配座の最適化幾何構造は、時間依存DFTの計算を次に実行し、それによって電磁スペクトルの関連領域における励起の電子励起エネルギー(ε
i)および振動子強度(f
i)を計算するための基礎となる(工程e))。2種類以上の配座が関係する場合、ε
iとf
iは工程d)で計算されたエネルギーから得られるボルツマン重み付けに従って平均される。
【0028】
1次共開始反応に関して関連電子状態にある増感剤の、すべての予想配座にわたって同様に平均されたエネルギーを、工程d)において一点計算で行ったのと同じ量子化学レベルにおいてさらに決定する(工程f))。そのためには増感剤の幾何構造が当該電子状態において最適化されることが必要である。最も低い三重項状態の場合、これは通常のDFT幾何学的最適化において実施できる。より高い準位に励起した三重項状態もしくは第1の励起一重項状態の場合は、時間依存DFTの計算が必要になる。幾何学的最適化ならびに後続の一点計算は、工程d)でも選択したものと同じ量子化学レベルでそれぞれ実行する。
【0029】
このようにして計算されたエネルギーは、工程b)で確立した機構のすべての成分反応の反応エネルギーを計算する工程g)の基礎として使用できる。
【0030】
最後の工程となる工程h)は、以下の内容を確認するために実施される。
【0031】
1.工程e)において決定された励起エネルギーが予定の用途において望ましいスペクトルレンジの範囲内にあり、かつ励起の振動子強度が0.2より大きい。
【0032】
2.工程g)で決定された反応エネルギーが負である。
【0033】
これが成り立つときに、光開始剤系は本発明の方法によって適切と分類される。
【0034】
本発明に係る方法の第1の好適な実施形態において、工程d)およびf)の量子化学的な幾何学的最適化はDFT(BP86/TZVP)法を用いて実施された後、DFT(BH−LYP/TZVP)一点計算が行われる。
【0035】
同様に好適な実施形態において、量子化学的計算はCOSMO(COnductor like Screening MOdel)を用いて行われる。
【0036】
工程e)において、より具体的には、吸収スペクトルの計算に使用できるのは、時間依存DFT(BH−LYP/TZVP)手続きである。
【0037】
本発明のさらなる発展形において、時間依存DFT計算はCOSMOモデルを用いて行われる。
【0038】
本発明に係る方法の別の好適な実施形態において、工程d)およびf)は、最も低い力場エネルギーを有する分子幾何構造だけでなく、0〜8kJ/molの力場エネルギー窓に含まれるあらゆる分子幾何構造を考慮し、ボルツマンに基づく加重平均励起エネルギーと吸収強度と全エネルギーとは、工程e)における増感剤の吸収スペクトルの計算だけでなく、工程g)における反応エネルギーの決定にも使用される。また、ボルツマン加重係数は密度汎関数理論のレベルで計算され、より好ましくはDFT(BP86/TZVP)幾何学的最適化と、COSMOをそれぞれ用いた後続のDFT(BH−LYP/TZVP)一点計算とに基づく。
【0039】
本発明に係る方法のさらに好適な実施形態において、工程e)は吸収スペクトルの計算に時間依存DFT(BH−LYP/TZVP)手続きを使用し、系統的誤差は+0.7電子ボルトとする。
【0040】
同様に好適な実施形態において、工程e)は時間依存DFT(BH−LYP/TZVP)手続きをCOSMOモデルと合わせて使用し、系統的誤差は+0.56電子ボルトとする。
【発明を実施するための形態】
【0042】
フォトポリマー調合物は好ましくはマトリックスポリマーを、より好ましくは架橋マトリックスポリマーを、さらに好ましくは三次元架橋マトリックスポリマーを含有しうる。三次元架橋マトリックスポリマーはポリウレタンであることがとくに好ましい。それらのポリウレタンは、少なくとも1種類のポリイソシアネート成分a)と、少なくとも1種類のイソシアネート反応性成分b)とを反応させることによって得られる。
【0043】
ポリイソシアネート成分a)は好ましくは少なくとも1種類の有機化合物を含有し、それは好ましくは少なくとも2つのNCO基を有する(ポリイソシアネート)。
【0044】
ポリイソシアネートとしては、当業者にとって自体公知である任意の化合物またはその混合物が使用できる。それらの化合物は、芳香族、芳香脂肪族、脂肪族、または脂環式系でありうる。ポルイソシアネート(poluisocyanate)(成分a)は、モノイソシアネート、すなわちNCO基を1つ有する有機化合物、および/または不飽和含有ポリイソシアネートをも少量含有することができる。
【0045】
ポリイソシアネートの適切な例として、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、およびその異性体(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,8−ジイソシアナト−4−(イソシアナトメチル)オクタン、異性体のビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、および所望の異性体含有量を有するその混合物、さらにはイソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、異性体のシクロヘキサンジメチレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタン4,4’,4’’−トリイソシアネート、または前記化合物の所望の混合物がある。
【0046】
同様に、ウレタン、尿素、カルボジイミド、アシル尿素、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、オキサジアジントリオン、ウレトジオン、および/またはイミノオキサジアジンジオンの構造を有する単量体のジもしくはトリイソシアネートを使用することができる。
【0047】
好ましいのは、脂肪族および/または脂環式のジもしくはトリイソシアネートをベースとするポリイソシアネートである。
【0048】
ポリイソシアネートは、ジもしくはオリゴマー化した脂肪族および/または脂環式のジもしくはトリイソシアネートを含有することがとくに好ましい。
【0049】
さらにとくに好ましいポリイソシアネートは、HDI、TMDI、1,8−ジイソシアナト−4−(イソシアナトメチル)オクタン、またはその混合物をベースとするイソシアヌレート、ウレトジオン、および/またはイミノオキサジアジンジオンである。
【0050】
ポリイソシアネート成分a)は、NCO官能性プレポリマーをも含みうる、もしくは、それらで構成されうる。このプレポリマーはウレタン、アロファネート、ビウレット、および/またはアミド基を有していてもよい。このタイプのプレポリマーは、例えばポリイソシアネートa1)とイソシアネート反応性化合物a2)との反応によって得られうる。
【0051】
有用なポリイソシアネートa1)は、知られているすべての脂肪族、脂環式、芳香族、または芳香脂肪族のジおよびトリイソシアネートを含む。さらに、ウレタン、尿素、カルボジイミド、アシル尿素、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、オキサジアジントリオン、ウレトジオン、またはイミノオキサジアジンジオンの構造を有する単量体のジおよび/またはトリイソシアネートの、分子量がよい大きい周知の子孫生成物(descendant product)をそれぞれ単独で、もしくはそれら相互の所望の混合物として使用することもできる。
【0052】
ポリイソシアネートa1)として有用な、適切な単量体のジもしくはトリイソシアネートの例として、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、1,8−ジイソシアナト−4−(イソシアナトメチル)オクタン、イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(TIN)、2,4−および/または2,6−トルエンジイソシアネートがある。
【0053】
イソシアネート反応性化合物a2)としてOH官能性化合物を使用することは好ましいかもしれない。とくにポリオール類がそれに該当しうる。イソシアネート反応性化合物a2)としては、以下に記載する成分b)のポリオール類が最も好ましく使用されうる。
【0054】
イソシアネート反応性化合物a2)としてアミンを使用することが同様に可能である。適切なアミンの例として、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、プロピレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ジアミノベンゼン、ジアミノビスフェニルの他、例えば、とくに数平均モル質量が10,000g/mol以下のJeffamine(登録商標)アミン末端ポリマーなどの二官能性ポリアミン類がある。上記アミンの混合物も同様に使用できる。
【0055】
イソシアネート反応性化合物a2)が200g/mol以上かつ10,000g/mol以下、より好ましくは500g/mol以上かつ8500g/mol以下、最も好ましくは1000g/mol以上かつ8200g/mol以下の数平均モル質量を有することも好ましい。
【0056】
ポリイソシアネート成分a)のプレポリマーは、より具体的には、遊離単量体イソシアネートの残留含有量が1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.2重量%未満でありうる。
【0057】
ポリイソシアネート成分a)は、上記ポリイソシアネートおよびプレポリマーの混合物をも含有しうる。
【0058】
ポリイソシアネート成分a)が、イソシアネート反応性を有するエチレン性不飽和化合物と部分的に反応するポリイソシアネート類を比例的に含有することを可能とされていてもよい。ここでは、アクリレート、メタクリレート、マレアート、フマレート、マレイミド、アクリルアミド、およびビニルエーテル、プロペニルエーテル、アリルエーテル、さらにはジシクロペンタジエニル単位を含有し、かつ少なくとも1つのイソシアネート反応性基を有する化合物、などのα,β−不飽和カルボン酸誘導体が、イソシアネート反応性を有するエチレン性不飽和化合物として好ましく使用される。イソシアネート反応性基を少なくとも1つ有するアクリレートおよびメタクリレートがとくに好ましい。
【0059】
イソシアネート反応性を有するエチレン性不飽和化合物と部分的に反応したポリイソシアネートの、ポリイソシアネート成分a)における割合は、0重量%から99重量%、好ましくは0重量%から50重量%、より好ましくは0重量%から25重量%、最も好ましくは0重量%から15重量%でありうる。
【0060】
ポリイソシアネート成分a)が、被覆技術分野で知られている阻害剤と完全にもしくは部分的に反応するポリイソシアネートを、完全にもしくは比例的に含有することもまた可能でありうる。阻害剤の例として以下のものを挙げうる:アルコール、ラクタム、オキシム、マロン酸エステル、アセト酢酸アルキル、トリアゾール、フェノール、イミダゾール、ピラゾール、およびアミン、例えば、ブタノンオキシム、ジイソプロピルアミン、1,2,4−トリアゾール、ジメチル−1,2,4−トリアゾール、イミダゾール、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセトンオキシム、3,5−ジメチルピラゾール、ε−カプロラクタム、N−tert−ブチルベンジルアミン、シクロペンタノンカルボキシエチルエステル、またはその混合物など。
【0061】
ポリイソシアネート成分a)が脂肪族ポリイソシアネートまたは脂肪族プレポリマーを、好ましくは一級NCO基を有する脂肪族ポリイソシアネートまたは脂肪族プレポリマーを含む、もしくは、それらで構成されることがとくに好ましい。
【0062】
イソシアネート反応性成分b)は、好ましくは、少なくとも2つのイソシアネート反応性基を有する少なくとも1種類の有機化合物(イソシアネート反応性化合物)を含有する。本発明の文脈において、水酸基、アミノ基、またはチオール基はイソシアネート反応性基であると見なされる。
【0063】
平均で1.5個以上、好ましくは2〜3個のイソシアネート反応性基を有する任意の系が、イソシアネート反応性成分として使用できる。
【0064】
本発明のためのイソシアネート反応性基は、好ましくは、水酸基、アミノ基、またはチオール基であり、とくに好ましいのはヒドロキシル化合物である。
【0065】
適切な多官能性イソシアネート反応性化合物の例として、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリ(メタ)アクリレートポリオール、および/またはポリウレタンポリオールがある。
【0066】
適切なポリエステルポリオールは、例えば直鎖型のポリエステルジオールまたは分岐型のポリエステルポリオールであって、脂肪族、脂環式、または芳香族のジもしくはポリカルボン酸、あるいは2以上のOH官能性を有する多価アルコールとのそれらの無水物から既知の方法で得られるものである。
【0067】
かかるジもしくはポリカルボン酸または無水物の例に、琥珀酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、o−フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、またはトリメリト酸、さらにはo−フタル酸、トリメリト酸、または琥珀酸の無水物などの酸無水物、あるいはそれら相互の所望の混合物がある。
【0068】
適切なアルコールの例として、エタンジオール、ジ、トリ、もしくはテトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジ、トリ、もしくはテトラプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、またはそれら相互の所望の混合物がある。
【0069】
ポリエステルポリオールはひまし油などの天然原料をベースとしてもよい。また、ポリエステルポリオールは、ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、および/またはメチル−ε−カプロラクトンなどのラクトンもしくはラクトン混合物に、例えば上述のタイプの、2以上のOH官能性を有する多価アルコールなどのヒドロキシ官能性化合物を付加する付加反応によって好ましくは得ることのできる、ラクトンのホモポリマーもしくはコポリマーをベースにすることもできる。
【0070】
かかるポリエステルポリオールは、数平均モル質量が400〜4000g/molであることが好ましく、500〜2000g/molであることがとくに好ましい。それらのOH官能性は好ましくは1.5〜3.5であり、とくに好ましくは1.8〜3.0である。
【0071】
適切なポリカーボネートポリオールは、有機カーボネートもしくはホスゲンとジオールもしくはジオール混合物との反応によって自体公知の方法で得ることができる。
【0072】
適切な有機カーボネートはジメチル、ジエチル、およびジフェニルカーボネートである。
【0073】
適切なジオールまたは混合物は、ポリエステルセグメントに関連して言及され、かつ2以上のOH官能性を有する多価アルコール、好ましくは1,4−ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、および/または3−メチルペンタンジオール、を含むか、さもなくばポリエステルポリオールをポリカーボネートポリオールに変換することができる。
【0074】
かかるポリカーボネートポリオールは、数平均モル質量が400〜4000g/molであることが好ましく、500〜2000g/molであることがとくに好ましい。それらのポリオールのOH官能性は好ましくは1.8〜3.2であり、とくに好ましくは1.9〜3.0である。
【0075】
適切なポリエーテルポリオールは、OHもしくはNH官能性の出発分子と環状エーテルとの重付加物(polyadduct)であり、かかる重付加物はブロック構造を有していてもよい。
【0076】
適切な環状エーテルは、例えば、スチレン酸化物、エチレン酸化物、プロピレン酸化物、テトラヒドロフラン、ブチレン酸化物、エピクロルヒドリン、および所望のその混合物である。
【0077】
使用しうる出発物質は、ポリエステルポリオールに関連して言及され、かつ2以上のOH官能性を有する多価アルコールと、一級もしくは二級アミンと、アミノアルコールである。
【0078】
好ましいポリエーテルポリオールは、上述したタイプのうち、プロピレン酸化物のみをベースとするもの、またはプロピレン酸化物をベースにして1−アルキレン酸化物をさらに有するランダムもしくはブロックコポリマーであって、1−アルキレン酸化物の比率が80重量%以下のものである。プロピレン酸化物のホモポリマーおよびランダムもしくはブロックコポリマーのうち、オキシエチレン、オキシプロピレン、および/またはオキシブチレン単位を有するものがとくに好ましく、オキシプロピレン単位の比率は、オキシエチレン、オキシプロピレン、およびオキシブチレン単位すべての総量に対して20重量%以上、好ましくは45重量%以上である。ここではオキシプロピレンとオキシブチレンは、直鎖型と分岐型のそれぞれのC
3およびC
4異性体をすべて含む。
【0079】
かかるポリエーテルポリオールは、数平均モル質量が250〜10,000g/molであることが好ましく、500〜8500g/molであることがとくに好ましく、600〜4500g/molであることがさらに好ましい。OH官能性は好ましくは1.5〜4.0であり、とくに好ましくは1.8〜3.1である。
【0080】
さらに、分子量が500g/mol未満で短鎖型の(すなわち2〜20個の炭素原子を含む)、低分子量の脂肪族、芳香脂肪族、または脂環式のジ、トリ、もしくは多官能性アルコールも、ポリオール成分b)の成分としての、多官能性でイソシアネート反応性の化合物として有用である。
【0081】
それらは例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、トリメチルペンタンジオール、位置異性体のジエチルオクタンジオール、1,3−ブチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、水素添加ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル(2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート)でありうる。適切なトリオールの例としてトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、またはグリセリンがある。官能性がより高い適切なアルコールは、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、またはソルビトールである。
【0082】
ポリオール成分は、一級OH基を持つ二官能性ポリエーテル、ポリエステル、またはポリエーテル−ポリエステルのブロックコポリエステルもしくはポリエーテル−ポリエステルのブロックコポリマーであることがとくに好ましい。フォトポリマー調合物は好ましくは書込モノマーをも含有しうる。
【0083】
書込モノマーは少なくとも1種類の一および/または多官能性の書込モノマーを含みうる。その場合、一および多官能性のアクリレート書込モノマーがとくに該当しうる。書込モノマーは、少なくとも1種類の一官能性ウレタン(メタ)アクリレートと1種類の多官能性ウレタン(メタ)アクリレートを含有することがとくに好ましいかもしれない。
【0084】
アクリレート書込モノマーは具体的に一般式(II)の化合物でありうる。
【化1】
【0085】
ここに、各ケースにおいてnは≧1かつ≦4であり、R
1は直鎖型、分岐型、環状、または複素環式の非置換もしくは場合によってはヘテロ原子で置換された有機ラジカルであり、かつ/またはR
2は水素、または直鎖型、分岐型、環状、または複素環式の非置換もしくは場合によってはヘテロ原子で置換された有機ラジカルである。R
2が水素またはメチル基であり、かつ/またはR
1が直鎖型、分岐型、環状、または複素環式の非置換もしくは場合によってはヘテロ原子で置換された有機ラジカルであることがとくに好ましい。
【0086】
同様に、アクリレート、メタクリレート、マレアート、フマレート、マレイミド、アクリルアミドなどのα,β−不飽和カルボン酸誘導体、およびビニルエーテル、プロペニルエーテル、アリルエーテル、およびジシクロペンタジエニル含有化合物、さらには、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのオレフィン系不飽和化合物、オレフィン類、例えば1−オクテンおよび/または1−デセン、ビニルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和化合物をさらに添加することも可能である。しかし、好ましいのはアクリレートとメタクリレートである。
【0087】
一般に、アクリル酸およびメタクリル酸のエステルはそれぞれアクリレートおよびメタクリレートと呼ばれる。使用できるアクリレートおよびメタクリレートの例として、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸p−クロロフェニル、メタクリル酸p−クロロフェニル、アクリル酸p−ブロモフェニル、メタクリル酸p−ブロモフェニル、アクリル酸2,4,6−トリクロロフェニル、メタクリル酸2,4,6−トリクロロフェニル、アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、アクリル酸ペンタクロロフェニル、メタクリル酸ペンタクロロフェニル、アクリル酸ペンタブロモフェニル、メタクリル酸ペンタブロモフェニル、アクリル酸ペンタブロモベンジル、メタクリル酸ペンタブロモベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸フェノキシエトキシエチル、メタクリル酸フェノキシエトキシエチル、アクリル酸フェニルチオエチル、メタクリル酸フェニルチオエチル、アクリル酸2−ナフチル、メタクリル酸2−ナフチル、アクリル酸1,4−ビス(2−チオナフチル)−2−ブチル、メタクリル酸1,4−ビス(2−チオナフチル)−2−ブチル、ジアクリル酸プロパン−2,2−ジイルビス[(2,6−ジブロモ−4,1−フェニレン)オキシ(2−{[3,3,3−トリス(4−クロロフェニル)プロパノイル]オキシ}プロパン−3,1−ジイル)オキシエタン−2,1−ジイル]、ジアクリル酸ビスフェノールA、ジメタクリル酸ビスフェノールA、ジアクリル酸テトラブロモビスフェノールA、ジメタクリル酸テトラブロモビスフェノールA、およびそれらのエトキシ化類似化合物、アクリル酸N−カルバゾリルがあるが、これらは使用されうるアクリレートおよびメタクリレートの一部を取り上げたにすぎない。
【0088】
なお、ウレタンアクリレートも使用できる。ウレタンアクリレートとは、少なくとも1つのアクリル酸エステル基を有するうえに、さらに少なくとも1つのウレタン結合を有する化合物を意味すると理解されている。かかる化合物は、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステルをイソシアネート官能性化合物と反応させることによって得られることが知られている。
【0089】
この目的のために使用できるイソシアネート官能性化合物の例として、芳香族、芳香脂肪族、脂肪族、および脂環式のジ、トリ、もしくはポリイソシアネートがある。このようなジ、トリ、もしくはポリイソシアネートの混合物を使用することもできる。適切なジ、トリ、もしくはポリイソシアネートの例として、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,8−ジイソシアナト−4−(イソシアナトメチル)オクタン、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体のビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、および所望の異性体含有量を有するその混合物、イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、異性体のシクロヘキサンジメチレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トルエンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4’−または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、m−メチルチオフェニルイソシアネート、トリフェニルメタン4,4’,4’’−トリイソシアネート、およびチオりん酸トリス(p−イソシアナトフェニル)、またはウレタン、尿素、カルボジイミド、アシル尿素、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、オキサジアジントリオン、ウレトジオン、またはイミノオキサジアジンジオン構造を有するそれらの誘導体、およびその混合物がある。芳香族または芳香脂肪族のジ、トリ、もしくはポリイソシアネートが好ましい。
【0090】
ウレタンアクリレートの調製に適したヒドロキシ官能性アクリレートまたはメタクリレートは、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレン酸化物モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレン酸化物モノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレン酸化物モノ(メタ)アクリレート、例えばTone(登録商標)M100(Dow、ドイツ、シュバルバッハ)などのポリ(ε−カプロラクトン)モノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、さらにはトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、エトキシ化、プロポキシ化、もしくはアルコキシ化トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールなどの多価アルコールのヒドロキシ官能性モノ、ジ、またはテトラアクリレートなどの化合物、またはそれらの工業用混合物である。2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、およびポリ(ε−カプロラクトン)モノ(メタ)アクリレートが好ましい。さらに、アクリレートおよび/またはメタクリレート基を単独で、もしくは上述の単量体化合物とともに含む、イソシアネート反応性を有するオリゴマーもしくは高分子不飽和化合物として適切である。水酸基を含み、OH含有量が20〜300mgKOH/gである自体公知のエポキシ(メタ)アクリレート、または水酸基を含み、OH含有量が20〜300mgKOH/gであるポリウレタン(メタ)アクリレート、またはOH含有量が20〜300mgKOH/gであるアクリレート化ポリアクリレート、ならびにそれら相互の混合物、および水酸基を含む不飽和ポリエステルとの混合物、およびポリエステル(メタ)アクリレートとの混合物、または水酸基を含む不飽和ポリエステルとポリエステル(メタ)アクリレートとの混合物が同様に使用できる。
【0091】
とくに好ましいのは、チオりん酸トリス(p−イソシアナトフェニル)およびm−メチルチオフェニルイソシアネートと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルコール官能性アクリレートとの反応から得られるウレタンアクリレートである。
【0092】
さらに好適な実施形態において、フォトポリマー調合物は可塑剤としてさらにウレタンを含む。このウレタンはより具体的には少なくとも1つのふっ素原子で置換されていてもよい。
【0093】
ウレタンは好ましくは一般式(III)を有しうる。
【化2】
【0094】
ここに、mは≧1かつ≦8であり、R
3は直鎖型、分岐型、環状、または複素環式の非置換もしくは場合によってはヘテロ原子で置換された有機ラジカルであり、かつ/またはR
4とR
5はそれぞれ独立に水素であるが、好ましくはR
3、R
4、およびR
5の少なくとも1つは少なくとも1つのふっ素原子で置換され、より好ましくはR
3は少なくとも1つのふっ素原子を有する有機ラジカルである。R
5は直鎖型、分岐型、環状、または複素環式の有機ラジカルであって、非置換もしくは場合によっては例えばふっ素などのヘテロ原子で置換されたものであることがとくに好ましい。
【0095】
[実施例]
ここで本発明を以下の実施例を用いてより具体的に説明する。分子例の合成および特性評価について最初に説明した後、本発明の方法におけるそれらの扱いについて説明する。
【0096】
[物質]
調製について以下に記載するものを除き、使用した染料、塩、溶媒、および試薬は化学物質供給業者から入手した。
【0097】
CGI−909
ほう酸テトラブチルアンモニウムトリス(3−クロロ−4−メチルフェニル)(ヘキシル)、[1147315−11−4]はBASF SE(スイス、バーゼル)が製造する製品である。
【0098】
Desmorapid(登録商標)Z
ジラウリン酸ジブチルすず[77−58−7]、Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン)の製品。
【0099】
Desmodur(登録商標)N3900
Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン)の製品、ヘキサンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イミノオキサジアジンジオンの割合は30%以上、NCO含有量:23.5%。
【0100】
Fomrez(登録商標)UL 28
ウレタン化触媒、Momentive Performance Chemicals(米国コネチカット州ウィルトン)の商品。
【0101】
Irgacure(登録商標)250
ヘキサフルオロりん酸(4−メチルフェニル)−[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、[344562−80−7]、プロピレンカーボネート中の75%強度溶液は、BASF SE(スイス、バーゼル)が製造する製品である。
【0102】
EDB
(4−ジメチルアミノ)安息香酸エチル[10287−53−3]、Sigma Aldrich
ニューメチレンブルー
C.I.ベーシックブルー24、[塩化物として:1934−16−3]、Sigma Aldrich
[成分の調製]
ポリオール1の調製:
1Lのフラスコに、0.18gのオクタン酸すずと、374.8gのε−カプロラクトンと、374.8gの二官能性ポリテトラヒドロフランポリエーテルポリオール(当量500g/molのOH)とを最初に仕込み、120℃まで加熱した後、固形分含有量(不揮発性成分の割合)が99.5重量%以上になるまでその温度を保った。その後、冷却し、生成物としてろう状固形物を得た。
【0103】
アクリレート1(ホスホロチオイルトリス(オキシ−4,1−フェニレンイミノカルボニルオキシエタン−2,1−ジイル)トリアクリレート)の調製:
500mLの丸底フラスコに、0.1gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールと、0.05gのジラウリン酸ジブチルすず(Desmorapid(登録商標)Z、Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン))と、酢酸エチルを溶媒とするチオりん酸トリス(p−イソシアナトフェニル)の213.07gの27%強度溶液(Desmodur(登録商標)RFE、Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン)の製品)とを最初に仕込み、60℃まで加熱した。その後、42.37gの2−ヒドロキシエチルアクリレートを滴下添加し、イソシアネート含有量が0.1%を下回るまで混合物をさらに60℃に保った。その後、冷却し、減圧下で酢酸エチルを完全に除去して、部分的に結晶性の固形物として生成物を得た。
【0104】
アクリレート2(プロパ−2−エン酸2−({[3−(メチルスルファニル)フェニル]カルバモイル}オキシ)エチル)の調製:
100mLの丸底フラスコに、0.02gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールと、0.01gのDesmorapid(登録商標)Zと、11.7gの3−(メチルチオ)フェニルイソシアネートとを最初に仕込み、60℃まで加熱した。その後、8.2gの2−ヒドロキシエチルアクリレートを滴下添加し、イソシアネート含有量が0.1%を下回るまで混合物をさらに60℃に保った。その後、冷却し、淡黄色の液体として生成物を得た。
【0105】
添加剤1(ビスカルバミン酸ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル)(2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイル))の調製:
丸底フラスコに、0.02gのDesmorapid Zと、3.6gの2,4,4−トリメチルヘキサン1,6−ジイソシアネートとを最初に仕込み、70℃まで加熱した。その後、11.39gの2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン−1−オールを滴下添加し、イソシアネート含有量が0.1%を下回るまで混合物をさらに70℃に保った。その後、冷却し、無色の油として生成物を得た。
【0106】
染料F1の合成:5−[5−(ヘキサヒドロ−1,3−ジエチル−4,6−ジオキソ−2−チオキソ−5−ピリミジニル)−2,4−プロペニリデン]−1,3−ジエチル−2−チオバルビツール酸のピリジン塩
4.00gの1,3−ジエチル−2−チオバルビツール酸と1.64gの1,1,3,3−テトラメトキシプロパンとを10mLのピリジン中で90℃で10時間、攪拌した。冷却後、30mLのトルエンで希釈し、吸引濾過した後、10mLのトルエンで3回、そして最後に50mLの水で洗浄した。50℃で真空乾燥させると、下の化学式の赤い結晶が2.33g(理論値の45.3%)得られた。
【化3】
【0107】
[ホログラム特性を決定する媒体の作製]
媒体例1
3.38gのポリオール成分1を、2.00gのアクリレート1、2.00gのアクリレート2、1.50gの添加剤1、0.10gのCGI909(BASF SE(スイス、バーゼル)の製品)、0.010gのニューメチレンブルー(=F7)、および0.35gのN−エチルピロリドンと60℃で混合し、透明な溶液を得た。これを30℃まで冷却した後、0.65gのDesmodur(登録商標)N3900(Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン)の商品、ヘキサンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イミノオキサジアジンジオンの割合は30%以上、NCO含有量:23.5%)を添加し、再び攪拌した。最後に0.01gのFomrez UL 28(ウレタン化触媒、Momentive Performance Chemicals(米国コネチカット州ウィルトン)の商品)を添加した後、少しの間、再び攪拌した。得られた液体質量をガラスプレート上に注ぎ、別のガラスプレートで覆った。このサンプル試料を室温で12時間放置して硬化させた。
【0108】
媒体例2
3.38gのポリオール成分1を、2.00gのアクリレート1、2.00gのアクリレート2、1.50gの添加剤1、0.10gのIrgacure(登録商標)250(BASF SE(スイス、バーゼル)の製品)、0.10gのEDB、0.010gの染料F1、および0.35gのN−エチルピロリドンと60℃で混合し、透明な溶液を得た。これを30℃まで冷却した後、0.65gのDesmodur(登録商標)N3900(Bayer MaterialScience AG(ドイツ、レバークーゼン)の商品、ヘキサンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イミノオキサジアジンジオンの割合は30%以上、NCO含有量:23.5%)を添加し、再び攪拌した。最後に0.01gのFomrez UL 28(ウレタン化触媒、Momentive Performance Chemicals(米国コネチカット州ウィルトン)の商品)を添加した後、少しの間、再び攪拌した。得られた液体質量をガラスプレート上に注ぎ、別のガラスプレートで覆った。このサンプル試料を室温で12時間放置して硬化させた。
【0109】
[フォトポリマー調合物のホログラフィー露光]
図1に示す測定機器を用いてフォトポリマー中にホログラムを露光した。対象のホログラムは633nmまたは532nmのレーザ波長における単色ホログラムであった。上記のようにして得られた媒体例を、サンプルホルダを用いて測定機器に導入した。
【0110】
レーザ(放射波長633nmまたは532nm)のビームを、オプションの拡大レンズ(AL)、およびシャッタSの被写体側に置かれたコリメーティングレンズ(CL)によって約3〜4cmの直径に拡大した。拡大レーザビームの直径は開いたシャッタの開口によって決定した。拡大レーザビームの強度分布が不均一となるように注意した。したがって、辺縁部強度PRは拡大レーザビームの中心における強度PZのほぼ半分でしかなかった。ここでいうPは出力/面積を意味するものである。拡大レーザビームはまず、シヤリングプレート(SP)としてビームに対して斜めの角度に置かれたガラスプレートを透過した。SPの2回のガラス表面反射によって生じた、上向きの反射干渉パターンを用い、レーザがシングルモードで安定的に放射しているか調べた。その場合、SP上方に設けられた艶消しスクリーン上に明暗の縞模様が見られた。放射がシングルモードのときにのみホログラフィー露光を実施した。DPSSレーザの場合、シングルモードはポンプ電流を調整することで実現した。拡大ビームは約15°傾斜させたフォトポリマー(P)を透過し、この部分は参照ビームを形成した後Pと平行に配置した物体(O)によってPへと反射された。次に、この部分はデニシュク型構成の信号ビームを形成した。
【0111】
信号ビームと参照ビームがPの中で干渉することによってフォトポリマー内にホログラムが形成された。Oは金属プレートを白色紙で覆ったものであり、紙側がPを向いている。紙には黒線による方眼が記されている。方眼の1辺は0.5cmであった。Pのホログラフィー露光では、ホログラムにおいてこの方眼も合わせて描画した。
【0112】
平均露光量E
aveはSの開口時間tによって設定した。したがって、ある一定のレーザ強度Iにおいて、tはE
aveに比例する変数を表す。拡大レーザビームは強度分布が不均一(つり鐘型)であったため、P中にホログラムを形成する局所露光量Eにはばらつきが存在する。これは、PおよびOが光軸に対して傾斜した位置にあることと合わせ、書き込まれるホログラムが楕円形状であることを意味する。これを示すのが
図2である。
【0113】
Oは拡散反射面であるため、ホログラムは点光源(懐中電灯やLEDライトなど)を照射することで容易に再構成された。その場合、フォトポリマー調合物は活性のある光開始剤を含有する。この結果は表2において(J)として特性評価されている。
【0114】
ホログラムの書き込みが終わると、UV放射下でフォトポリマーを漂白した。これを行うため、耐光性パッケージ内のアルミニウムバッグから取ったサンプルを、ガラス側を上に向けた状態でUV装置のベルトコンベヤに置き、2.5m/分のベルト速度で移動させながら、フュージョンUVの558434KR85ランプの下、80W/cm
2の公称電力密度で2回露光した。このときフォトポリマー上のエネルギー密度を約2J/cm
2とした。
【0115】
[本発明の方法を用いた光開始剤系としての有用性試験]
[実施例1]
ある所与の作業に対し、波長630nmのHeNeレーザでフォトポリマー調合物を露光することが、動作の前提条件である。ここで本発明の方法を用い、2成分開始剤系であるニューメチレンブルー(NMB F7)/CGI909の記載用途に対する適切性を検証する。
【0116】
ニューメチレンブルー(NMB/F7)/CGI909の2成分開始剤系の反応機構は以下の過程から成る:
1.染料による光吸収。電子の基底状態(S
0)から第1の励起一重項状態(S
1)への遷移を伴う。
【0117】
2.染料の三重項状態への項間交差、および最も低い三重項状態(T
1)への高速な緩和。
【0118】
3.T
1状態にある染料分子とCGI909との反応による、中性NMBフリーラジカルNMB
rad、ボランBAr
3、およびヘキシルフリーラジカルHex
radの生成。これは以下の反応式に従う。
【化4】
【0119】
ニューメチレンブルーとCGI909、さらにはCGI909の子孫生成物の三次元構造について、AccelrysのMaterials Studioソフトウェアパッケージに入っているconformerモジュールによって配座解析を実施した。この解析の結果は、現行ケースにおいて、最も安定した配座のみをそのつど考慮するべきというものであった。これは、ヘキシルフリーラジカルを除き、分子の反応性がきわめて低いことによる。そのため、配座解析で実施した力場計算による最も安定的な配座を、各ケースにおける量子化学的計算の出発点とした。
【0120】
次に、本発明に係る方法の工程d)に従い、このようにして発見した最も安定的な具体的配座を電子の基底状態において量子化学的に幾何学的最適化した。これはTURBOMOLEソフトウェアパッケージ(バージョン6.1)を用いて実施した。計算は密度汎関数BP86と基底系TZVPを用いて密度汎関数理論のレベルで実施した。COSMO(COnductor like Screening MOdel)連続体溶媒モデルも使用した。次に、このようにして得た分子幾何構造について、BH−LYP/TZVP+COSMOレベルで一点計算を行った。この計算の結果、すなわちDFT(BH−LYP/TZVP+COSMO//BP86/TZVP+COSMO)レベルにおける絶対電子エネルギー(表1参照)を以下のように用い、開始反応の反応エネルギーを計算した。
【表1】
【0121】
次の工程(工程e))では、時間依存密度汎関数理論により、またBH−LYPハイブリッド汎関数とTZVP基底系、さらにはCOSMOモデルをも用いて、ニューメチレンブルーの電子励起エネルギーを計算した。励起エネルギーは2.53eVとなり、振動子強度(長形式の双極子演算子による)は1.08単位であった。励起エネルギーは、大規模な基準セットの染料に対して実験により決定された0.56eVの系統的誤差に基づいて1.97eVに補正される。これは623nmの波長に対応する。
【0122】
計算を行うべき最後に残ったエネルギーは、ニューメチレンブルーの第1の三重項状態の絶対エネルギーである。これは同様にDFT(BH−LYP/TZVP+COSMO//BP86/TZVP+COSMO)レベルにおいて行われ、E(
3NMB)=−1261.164863ハートリーのエネルギーが得られた。
【0123】
S
0状態からT
1状態への染料の項間交差は常に負である。これは、上述の反応機構に基づく2成分開始剤系の熱力学的妥当性に対して決定的となる対応断片を形成するものが、三重項状態にあるニューメチレンブルーとCGI909との反応のみであることを意味する。この熱力学的妥当性は、算出される絶対エネルギーから下記のように明らかである。
【0124】
E
coin=E(NMB
rad)+E(Hex
rad)+E(BAr
3)−E(
3NMB)−E(CGI909)
=(−1261.354348−236.3315548−2216.337044+1261.164863+2452.841810)ハートリー
=−0.016274ハートリー
≒−43kJ/mol
この例では該当する唯一の反応エネルギーE
coinが負であるため、算出された630nmでの吸収エネルギーは630nmの目標値と完全に一致し、1.08単位の振動子強度における励起は0.2の閾値より高い。そのため、2成分開始剤系NMB/CGI909は、本発明に係る方法の意義の範囲内において適切と分類しなければならない。
【0125】
予測および算出された630nmの吸収波長に一致し、ホログラフィー活性を有することが示されたこの開始剤系は、623nmの実験値ともよく一致する。
【0126】
媒体例1の調製および試験を、表2に示す具体的染料を含有する媒体に対して繰り返した。この表は、同様に、本発明の方法を用いて得られた結果を示している。
【表2】
【0127】
染料例F5の調製は欧州特許出願公開第0,671,393号明細書と同様に行った。
【0128】
染料例F6の調製は、Ronald Flaigの1996年の学術論文の記載のように行った。
【0129】
染料例F9は国際公開第9514689号によって知られており、Spectra Group Limited,Inc.(27800 Lemoyne Road Suite J,Millbury,OH 43447,USA)から2012年に市販されている。
【0130】
染料例F11の調製は米国特許第3,573,289号明細書と同様に行った。
【0131】
染料例F15の調製は欧州特許第58,863号明細書と同様に行った。
【0132】
染料例F18、F24、およびF26の調製は、Synthesis,1999,2103と同様に行った。
【0133】
染料例F21の調製は独国特許第883,025号明細書と同様に行った。
【0134】
染料例F22の調製はJ.Chem.Soc.1938,1454の記載のように行った。
【0135】
染料例F29の調製は、Proceedings of the Imperial Academy(東京),1932,vol.8,p.421(Chem.Zentralbl.,1934,vol.105,#II p.2227)の記載のように行った。
【0136】
染料例F30の調製は例29と同様に行った。
【0137】
[実施例2]
ある所与の作業に対し、波長530nmのレーザ光でフォトポリマー調合物を露光することが、動作の前提条件である。ここで本発明の方法を用い、3成分開始剤系である染料F1/Irgacure(登録商標)250/EDBの記載用途に対する適切性を検証する。
【0138】
染料F1/Irgacure(登録商標)250/EDBの3成分開始剤系の反応機構は以下の過程から成る:
1.染料による光吸収。電子の基底状態(S
0)から第1の励起一重項状態(S
1)への遷移を伴う。
【0139】
2.染料の三重項状態への項間交差、および最も低い三重項状態(T
1)への高速な緩和。
【0140】
3.T
1状態にある染料分子とIrgacure(登録商標)250との反応による、メチル−1−ヨード−4−イソブチルベンゼンIPh
iBuとトルイルフリーラジカルの生成。
【0141】
4.トルイルフリーラジカルTol
radと4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(EDB)との反応による、トルエンおよび対応するEDBフリーラジカルEDB
radの生成。
【化5】
【0142】
3成分開始剤系である染料F1/Irgacure(登録商標)250/EDBの反応機構
染料F1、Irgacure(登録商標)250、EDB、さらにはIrgacure(登録商標)250の分解生成物、およびHの引き抜きによってEDBから誘導されるフリーラジカルの三次元構造について、AccelrysのMaterials Studioソフトウェアパッケージに入っているconformerモジュールによって配座解析を実施した。この解析の結果は、現行ケースにおいて、最も安定した配座のみをそのつど考慮するべきというものであった。したがって、配座解析で実施した力場計算による最も安定的な配座を、各ケースにおける量子化学的計算の出発点とした。
【0143】
次に、本発明に係る方法の工程d)に従い、このようにして発見した最も安定的な具体的配座を電子の基底状態において量子化学的に幾何学的最適化した。これはTURBOMOLEソフトウェアパッケージ(バージョン6.1)を用いて実施した。計算は密度汎関数BP86と基底系TZVPを用いて密度汎関数理論のレベルで実施した。COSMO(COnductor like Screening MOdel)連続体溶媒モデルも使用した。次に、このようにして得た分子幾何構造について、BH−LYP/TZVP+COSMOレベルで一点計算を行った。この計算の結果、すなわちDFT(BH−LYP/TZVP+COSMO//BP86/TZVP+COSMO)レベルにおける絶対電子エネルギー(表3参照)を以下のように用い、開始反応の反応エネルギーを計算した。
【表3】
【0144】
次の工程(工程e))では、時間依存密度汎関数理論により、またBH−LYPハイブリッド汎関数とTZVP基底系、さらにはCOSMOモデルをも用いて、F1の電子励起エネルギーを計算した。励起エネルギーは2.98eVとなり、振動子強度(長形式の双極子演算子による)は1.63単位であった。励起エネルギーは、大規模な基準セットの染料に対して実験により決定された0.56eVの系統的誤差に基づいて2.42eVに補正される。これは512nmの波長に対応する。
【0145】
計算を行うべき最後に残ったエネルギーは、F1の第1の三重項状態の絶対エネルギーである。これは同様にDFT(BH−LYP/TZVP+COSMO//BP86/TZVP+COSMO)レベルにおいて行われ、E(
3F1)=−2054.000848ハートリーのエネルギーが得られた。
【0146】
S
0状態からT
1状態への染料の項間交差は常に負である。これは、3成分開始剤系では、染料F1とIrgacure(登録商標)250との反応(E
coin,1)、およびそれに続く、Irgacure(登録商標)250の分解によって生じるトルイルフリーラジカルとEDBとの反応(E
coin,2)のみが上述の反応機構において重要性を持つことを意味する。それらは算出される絶対エネルギーから下記のように明らかである。
【0147】
E
coin,1=E(F1
rad)+E(Tol
rad)+E(IPh
iBu)−E(
3F1)−E(Irgacure(登録商標)250)
=(−2053.882516−270.795918−400.140492+2054.000848+670.781969)ハートリー
=−0.036109ハートリー
≒−95kJ/mol
E
coin,2=E(EDB
rad)+E(Tol)−E(Tol
rad)−E(EDB)
=(−632.603044−271.481294+270.795918+633.254506)ハートリー
=−0.033913ハートリー
≒−89kJ/mol
いずれの反応エネルギーも負であるため、算出された512nmでの吸収エネルギーは530nmの目標値を中心とする±50nmの許容差区間内にあり、1.63単位の振動子強度における励起は0.2の閾値より高い。そのため、3成分開始剤系の染料F1/Irgacure(登録商標)250/EDBは、本発明に係る方法の工程h)に基づいて適切と分類しなければならない。
【0148】
予測および算出された512nmの吸収波長と一致し、ホログラフィー活性を有することが示されたこの光開始剤系は、531nmの実験値との間で良好な一致を示す。
【0149】
同様のやり方で算出した他の例を表4に示す。E
coin,2は染料とは独立しており、したがってあらゆる3成分光開始剤系に対して実施例2に対応することから、ここでは報告しなかった。媒体例2の調製および試験を、表4に示す具体的染料を含有する媒体に対して繰り返した。この表は、同様に、本発明の方法を用いて得られた結果を示している。
【表4】
【0150】
染料例F27の調製は欧州特許第1,253,148号明細書と同様に行った。
【0151】
染料例F28は国際公開第9514689号によって知られており、Spectra Group Limited,Inc.(27800 Lemoyne Road Suite J,Millbury,OH 43447,USA)から2012年に市販されている。
【0152】
[考察した例の励起エネルギーに対する予測の品質]
上記の長さについて記載した実施例1および2におけるλ
maxの予測の誤差は小さく、0.02eV(実施例1)と0.09eV(実施例2)である。
図3は、これが他の染料例にも当てはまることを示している。
【0153】
EABの励起エネルギーは予測値が0.24eVだけ過小であり、これは今回調査した一連の例のうち最大の誤差となっている。また、平均2乗偏差は0.1eVである。これらの非常に小さい値は、本発明の方法に用いるにあたって手順が十分に正確であることを示している。