特許第6209655号(P6209655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209655
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】粉末状歯科用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/06 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   A61K6/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-138094(P2016-138094)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2017-137286(P2017-137286A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-18828(P2016-18828)
(32)【優先日】2016年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】若林 恭子
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−047157(JP,A)
【文献】 特開2013−053075(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/130079(WO,A1)
【文献】 特開2015−074624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C)を含有する粉末状歯科用セメント組成物。
(A)CaO 63〜73質量%、SiO2 20.5〜31.5質量%、Al23 1.5〜5.5質量%、Fe23 0.2〜1.0質量%及びSO3 0.5〜3.0質量%を含有し、ブレーン比表面積が3000〜8500cm2/gであるポルトランドセメント粉末、
(B)造影剤粉末 成分(A)90〜50質量部に対して10〜50質量部
(C)スルホン酸系混和剤、カルボン酸系混和剤及びセルロース系混和剤から選ばれる粉末状混和剤 成分(A)及び(B)の合計量100質量部に対して0.01〜1.0質量部。
【請求項2】
造影剤がZr、Ba、Bi、Sn、Ta及びZnから選ばれる金属の酸化物、硫酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種以上である請求項1記載の粉末状歯科用セメント組成物。
【請求項3】
成分(A)が、セメントクリンカ及び石膏の粉砕混合物である請求項1又は2記載の粉末状歯科用セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用のセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の根管治療過程においてセメントが用いられており、当該セメントとしては、歯科用グラスアイオノマーセメントが広く用いられている(特許文献1)。これに対し、グラスアイオノマーセメントに代えてポルトランドセメントを主成分とする歯科用セメントを用いる方法が知られている(特許文献2)。ポルトランドセメントを主成分とするセメントは、歯科用グラスアイオノマーセメントとは異なり、接着性や強度のために歯質からの除去が困難になることがなく、水硬性であるため水分の多い環境下でも安定して硬化するという特長を持っている。
【0003】
しかしながら、ポルトランドセメントを主成分とするセメントは、高粉液比(粉末が多い状態)では混和し難くかつ混和物を均一なペーストにすることができず、低粉液比(液が多い状態)では充填操作時に混和物が垂れやすいため充填操作が非常に困難であった。充填操作を改善する方法として、歯科用セメントに混ぜる液に水溶性高分子を添加する技術が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−225567号公報
【特許文献2】米国特許第7892342号明細書
【特許文献3】特表2010−518093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献3記載の方法によっても、セメントに混合するための、水溶性高分子を含有する液体キャリアが均一な水溶液として安定して製造することができず、結果的に充填操作の良好な歯科用セメントが得られなかった。
また、高粉液比を混練するときは、せん断力の強いミキサー、強制練りミキサー(強制的に混合するミキサー)などを用いることで、均一なペーストにすることができる。この様なミキサーを用いる場合、大量のペーストを練る必要があるため、歯科用セメントのような極少量のペーストを練ることはできない。また、このような極少量のペーストを均一に練るようなミキサーもない。
歯科用セメントの混ぜる量は、少量であり、小さい容器中や板上で小さいさじやヘラなどにより人が手で混合するため、混ぜる力が弱く、混練性が悪く、不十分となり、均一なペーストを作製することができない。
また、特許文献3の方法では、使用前に、使用する量(必要量)の水溶性高分子の水溶液を調整する場合、量が少ないため、正確な濃度の水溶液の調製、混合が難しい。水溶性高分子を所定濃度の水溶液として保存する場合、分解などが起こり、劣化することがある。そのため、ペーストの粘度などの性状の調整が難しい。
【0006】
従って、本発明の課題は、歯科領域で通常行う操作により、簡便に均一なペーストを製造でき、かつ良好な充填性を有する歯科用セメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、特定組成のポルトランドセメント粉末、造影剤粉末及び粉末状の混和剤を一定の範囲で組み合わせることにより、高粉液比であっても、通常の歯科領域で行われる操作で均一なペーストが得られ、充填操作性の良好な歯科用セメント組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕次の成分(A)、(B)及び(C)を含有する粉末状歯科用セメント組成物。
(A)CaO 63〜73質量%、SiO2 20.5〜31.5質量%、Al23 1.5〜5.5質量%、Fe23 0.2〜1.0質量%及びSO3 0.5〜3.0質量%を含有するポルトランドセメント粉末、
(B)造影剤粉末 成分(A)90〜50質量部に対して10〜50質量部
(C)スルホン酸系混和剤、カルボン酸系混和剤及びセルロース系混和剤から選ばれる粉末状混和剤 成分(A)及び(B)の合計量100質量部に対して0.01〜1.0質量部。
〔2〕造影剤がZr、Ba、Bi、Sn、Ta及びZnから選ばれる金属の酸化物、硫酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種以上である〔1〕記載の粉末状歯科用セメント組成物。
〔3〕成分(A)が、セメントクリンカ及び石膏の粉砕混合物である〔1〕又は〔2〕記載の粉末状歯科用セメント組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉末状歯科用セメント組成物を用いれば、水と混練するだけで容易に均一なペーストが得られ、高粉液比であっても容易に歯に充填可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粉末状セメント組成物は、次の成分(A)、(B)及び(C)を含有する。
(A)CaO 63〜73質量%、SiO2 20.5〜31.5質量%、Al23 1.5〜5.5質量%、Fe23 0.2〜1.0質量%及びSO3 0.5〜3.0質量%を含有するポルトランドセメント粉末、
(B)造影剤粉末 成分(A)90〜50質量部に対して10〜50質量部、
(C)スルホン酸系混和剤、カルボン酸系混和剤及びセルロース系混和剤から選ばれる粉末状混和剤 成分(A)及び(B)の合計量100質量部に対して0.01〜1.0質量部。
【0012】
本発明に用いる(A)ポルトランドセメント粉末は、歯科用セメントとしての白さ、速硬性、充填操作性の点から、CaO 63〜73質量%、SiO2 20.5〜31.5質量%、Al23 1.5〜5.5質量%、Fe23 0.2〜1.0質量%及びSO3 0.5〜3.0質量%を含有する。
CaOの含有量は、63〜73質量%であり、64〜73質量%が好ましく、65〜71質量%がより好ましい。CaOの含有量が63質量%未満では、セメントペースト硬化体の初期強度が小さくなり、73質量%を超えるとセメントクリンカが難焼成となり合成が困難となる。
SiO2の含有量は、20.5〜31.5質量%であり、21〜31質量%が好ましく、22〜30質量%がより好ましい。SiO2の含有量が20.5質量%未満ではセメントクリンカが難焼成となり合成が困難になり、31.5質量%を超えるとセメントペーストの初期強度が低下する。
Al23の含有量は、1.5〜5.5質量%であり、2〜5質量%が好ましく、2〜4.5質量%がより好ましい。Al23の含有量が1.5質量%未満ではセメントクリンカが難焼成となり合成が困難になり、5.5質量%を超えるとC3Aが多く生成され、セメントペーストのこわばりが顕著になる。
Fe23の含有量は、0.2〜1.0質量%であり、0.3〜0.9質量%が好ましく、0.4〜0.8質量%がより好ましい。Fe23の含有量が0.2質量%未満ではセメントクリンカが難焼成となり合成が困難になり、1.0質量%を超えるとセメントが黒色化してしまう。
SO3の含有量は、0.5〜3.0質量%であり、0.6〜2.8質量%が好ましく、0.7〜2.7質量%がより好ましい。SO3の含有量が0.5質量%未満ではセメントペーストのこわばりが顕著になり、3.0質量%を超えるとセメントペースト硬化体の初期強度が低下する。
【0013】
(A)ポルトランドセメント粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、セメントペーストの強度の点から、3000〜10000cm/gが好ましく、3500〜8500cm/gがより好ましく、4000〜6500cm/gがさらに好ましい。粉末度は、ブレーン空気透過装置(JIS R 5201)により測定することができる。
【0014】
このような組成を有する(A)ポルトランドセメントは、セメントクリンカ、又はセメントクリンカ及び石膏の粉砕混合物であるのが好ましく、セメントクリンカ及び石膏の粉砕混合物であるのがより好ましい。セメントクリンカとして、前記組成、Al23とFe23の含有量の少ないセメントクリンカを用いるのが好ましい。
セメントクリンカと石膏は別々に粉砕した後混合してもよく、両者を混合して粉砕してもよい。
【0015】
本発明に用いられる(B)造影剤粉末としては、Zr、Ba、Bi、Sn、Ta及びZnから選ばれる金属の酸化物、硫酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種以上が挙げられる。このうち、Zr、Ba、Biから選ばれる金属の酸化物、硫酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種以上がより好ましい。
(B)造影剤粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、ポルトランドセメント粉末セメントとの混合性の観点から3000〜10000cm/gが好ましく、3500〜9000cm/gがより好ましく、4000〜8000cm/gがさらに好ましい。
【0016】
(B)造影剤粉末の含有量は、セメントペースト硬化体のレントゲン撮影の鮮明度の点から、成分(A)90〜50質量部に対して10〜50質量部である。10質量部未満では、撮影の鮮明度が不十分であり、50質量部を超えるとセメントペースト硬化体の強度が低下する。(B)造影剤粉末の含有量は、成分(A)90〜60質量部に対して10〜40質量部が好ましく、成分(A)85〜70質量部に対して15〜30質量部がより好ましい。
【0017】
本発明に用いられる(C)混和剤は、スルホン酸系混和剤、カルボン酸系混和剤及びセルロース系混和剤から選ばれる1種以上の混和剤であって、粉末状のものである。混和剤として粉末状のものを用いることにより、成分(A)、(B)及び(C)を水と混練することにより容易に均一なペーストとすることができる。
【0018】
スルホン酸系混和剤としては、ナフタレンスルホン酸縮合物、リグニンスルホン酸縮合物、メラミンスルホン酸縮合物、アミノスルホン酸縮合物等が挙げられる。カルボン酸系混和剤としては、ポリカルボン酸系、オレフィンマレイン酸系等が挙げられる。セルロース系混和剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等が挙げられる。
【0019】
(C)粉末状混和剤の粉末度(ブレーン比表面積)は、セメントと造影剤との混合性の点から、1000〜10000cm/gが好ましく、2000〜9000cm/gがより好ましく、3000〜8000cm/gがさらに好ましい。
【0020】
(C)粉末状混和剤の含有量は、セメントペーストの強度及び充填操作性の点から、成分(A)及び(B)の合計量100質量部に対して0.01〜1.0質量部である。0.01質量部未満では混和剤の添加効果が小さく、1.0質量部を超えるとセメントペーストの強度等の物性に悪影響を及ぼす。成分(C)の含有量は、成分(A)及び(B)の合計量100質量部に対して0.01〜0.8質量部が好ましく、0.02〜0.5質量部がより好ましい。
【0021】
本発明の粉末状歯科用セメント組成物は、前記成分(A)、(B)及び(C)以外にCa(OH)、CaCO3、CaCl2、シリカフュームを含有させることができる。本発明の粉末状歯科用セメント組成物は、全体が粉末状であり、予め混合しておいてもよいし、各成分を歯科領域に供給し、用時所定量を混合して製造してもよい。
【0022】
本発明の粉末状歯科用セメント組成物は、前記のように成分(A)、(B)及び(C)をそれぞれ製造した後、混合してもよいが、粉末度を一致させるため、次の方法で製造するのが好ましい。(1)石灰、珪石、粘土などの原料を粉砕、調合して調製した原料を焼成する。焼成は、ロータリーキルン、箱型電気炉などの炉を使用できる。焼成時に、不純物を混入させたくないときは、焼成中に密閉できる箱型電気炉などを使用する。(2)セメントクリンカを冷却後、セメントクリンカと石膏と造影剤と粉末状混和剤を粉砕しながら、混合する。粉砕しながら、混合するとき、ボールミルなどの機械を使用する。
また、セメントクリンカ、石膏、造影剤と粉末状混和剤を粉砕しながら、混合する工程は、以下の方法のいずれでもよい。
(i)セメントクリンカ、石膏、造影剤、粉末状混和剤を粉砕しながら、混合する方法。
(ii)セメントクリンカ、石膏、造影剤、粉末状混和剤をそれぞれ別々に粉砕した粉末を、粉砕しながら混合する方法。
(iii)セメントクリンカと石膏を粉砕しながら混合したセメント組成物、造影剤、粉末状混和剤を粉砕しながら、混合する方法。
【0023】
本発明の粉末状歯科用セメント組成物を用いて、歯科用セメントを製造するには、粉末状セメント組成物に所定量の水を加えて混練すればよい。得られたペーストを、必要な歯や型に充填して硬化させればよい。このとき水/セメント比(重量比)は操作性、セメントペーストの強度の点から20〜45%が好ましく、25〜40%がより好ましい。
【0024】
本発明の粉末状歯科用セメント組成物を用いて水/歯科用セメント比を36%で3分間混練したセメントペーストの粘度は、充填性の点から8000〜50000mPa・Sとなるのが好ましい。粘度は、アナログ粘度計、音叉振動式粘度計などの粘度計で測定できる。
また、水/歯科用セメント比を36%で3分間混練したセメントペーストのフローは操作性の点から、8〜18cmとなるのが好ましい。JASS 15M103に準拠したパイプにより引抜きフローを測定できる。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0026】
1.使用した原料
(A)ポルトランドセメント粉末用原料
・二酸化けい素(石英型)(特級)
・炭酸カルシウム(特級)
・酸化アルミニウム(α型)(特級)
・酸化鉄(特級)
・水酸化マグネシウム(1級)
・炭酸ナトリウム(特級)
・炭酸カリウム(特級)
・焼石膏(1級)
(B)造影剤
・酸化ビスマス(特級)
・硫酸バリウム(特級)
・酸化ジルコニウム(特級)
(C)粉末状混和剤
・カルボン酸系混和剤:コアフローNF−100(太平洋マテリアル社製)
・セルロース系混和剤:エルコン(太平洋マテリアル社製)
【0027】
2.セメントの原料調合方法〜焼成方法
ポルトランドセメント粉末用原料を調合・混合した後、ハンドプレス機でペレット化し、ペレットを箱型電気炉で1000℃で1時間、1450℃で1時間焼成後、冷却して、セメントクリンカを得た。
【0028】
3.粉砕混合の方法
2で作製したセメントクリンカに所定量の焼石膏を添加し5Lアルミナポットミルで粉砕し、ブレーン比表面積4000cm/gのポルトランドセメント粉末を作製した。ポルトランドセメント粉末の化学組成は、蛍光X線分析で測定した。
ポルトランドセメント粉末に造影剤と粉末型混和剤を所定量添加して、同ミルでブレーン比表面積5000cm/gまで微粉砕した。
歯科用セメントの組成を表1に示す。
【0029】
4.測定方法
・粘度:アナログ式粘度計、ブルックフィールドHBFで測定。
・フロー:JASS 15M103 に準拠したパイプにより引抜きフローで測定。
【0030】
実施例1〜4及び比較例1〜7
実施例1〜4及び比較例1〜7の歯科用セメントの粘度、フローの測定結果を表2に示す。水/歯科用セメント比は36%で3分間混練して、セメントペーストを作製した。実施例1は粘度、フローともに良く、均一なペーストが製造でき、かつ良好な充填性を有する歯科用セメントである。
【0031】
比較例1は、Alが6.0質量%、Feが1.3質量%と多いポルトランドセメント粉末、比較例2はAlが0.5質量%、とFeが0.1質量%と少ないポルトランドセメント粉末を作製した。
作製したポルトランドセメント粉末に、実施例1と同様に造影剤、粉末状混和剤を添加して、歯科用セメントを製造した。
実施例1、比較例1と比較例2のポルトランドセメント粉末の鉱物組成、遊離酸化カルシウム(表3では、「f−CaO」とする。)を表3に示す。ポルトランドセメント粉末の鉱物組成は、ポルトランドセメント粉末の化学組成からボーグ式で算出した。遊離酸化カルシウムは、セメント協会標準試験方法JCAS I−01−1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」で測定した。
比較例1は、実施例1より3CaO・Alと4CaO・Al・Feが多い、ポルトランドセメント粉末となった。粘度は良いものの、フローが小さいため、充填性の悪い歯科用セメントとなった。比較例2は、AlとFeが少なかったため、セメントクリンカ難焼成となり、遊離酸化カルシウムが4.5%と多く、鉱物の合成が困難であったため、歯科用セメントは製造できなかった。そのため、粘度、フローは測定できなかった。
【0032】
造影剤の添加量を、実施例2は硫酸バリウム、実施例3は酸化ビスマスをそれぞれ50質量部、比較例3は硫酸バリウムを60質量部、比較例4は硫酸バリウムを5質量部として、実施例1のポルトランドセメント粉末と粉末状混和剤は同じとし、同様に歯科用セメントを製造した。
実施例2と実施例3は、粘度、フローともに良好であり、均一なペーストが製造でき、かつ良好な充填性を有する歯科用セメントである。また、造影剤に酸化ビスマスを用いても硫酸バリウムと遜色のない造影性であった。
表2から、比較例3は、粘度はよいが、セメントペーストを硬化体にしたときの強度が実施例1の約40%程度と小さくなり、歯科用セメントとして使用することはできない。
比較例4は、粘度はよいが、フローは小さいため、操作性の悪い歯科用セメントとなった。さらに、比較例4は、レントゲン撮影した場合、造影剤が少ないため、鮮明度が低下するため、歯科用セメントとして使用することはできない。
【0033】
比較例5は、粉末状混和剤を添加しないもの、比較例6は、粉末状混和剤が0.005質量部と少ないもの、比較例7は、粉末状混和剤の添加量が1.2質量部と多いものとした。実施例1のポルトランドセメント粉末と造影剤は同じ配合とし、同様に歯科用セメントを製造した。
表2から、比較例5と比較例6は、粘度が低く、フローは小さいため、セメントペーストが分離し、充填性の悪い歯科用セメントとなった。比較例7は、粘度が高く、フローは小さいため、充填性の悪い歯科用セメントとなった。
実施例4は、CaOが73.0質量%、SiO2が24.2質量%、Alが1.5質量%、Feが0.2質量%のポルトランドセメント粉末を作製し、造影剤は酸化ジルコニウムを20質量部、粉末状混和剤は0.02質量部の歯科用セメントを製造した。実施例4の歯科用セメントは、粉末状混和剤が0.02質量部と少なくても、粘度、フローともに良く、均一なペーストが製造でき、かつ良好な充填性を有する歯科用セメントである。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】