特許第6209664号(P6209664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209664アルケニルカルボン酸エステルを製造するための、銅促進シェル触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209664
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】アルケニルカルボン酸エステルを製造するための、銅促進シェル触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20170925BHJP
   B01J 23/66 20060101ALI20170925BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20170925BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 67/05 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 69/15 20060101ALI20170925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   B01J23/89 Z
   B01J23/66 Z
   B01J37/02 101D
   B01J37/02 101C
   B01J37/18
   C07C67/05
   C07C69/15
   !C07B61/00 300
【請求項の数】1
【外国語出願】
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-212888(P2016-212888)
(22)【出願日】2016年10月31日
(62)【分割の表示】特願2013-194635(P2013-194635)の分割
【原出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2017-77558(P2017-77558A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】10 2012 018 448.4
(32)【優先日】2012年9月19日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2013 006 945.9
(32)【優先日】2013年4月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506330645
【氏名又は名称】クラリアント インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】ロマン ボブカ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト メストル
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シェック
(72)【発明者】
【氏名】カロリン フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン シェーンフェルダー
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−514540(JP,A)
【文献】 特表2003−513788(JP,A)
【文献】 特開平08−318159(JP,A)
【文献】 特開2005−095873(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0289737(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 67/05
C07C 69/15
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体とシェルとを備えたシェル触媒であって、
酢酸塩化合物が前記担体に塗布されており、
前記シェルは、Au化合物とPd化合物とを含み、且つ、100μmから300μmの厚みを有し、
前記シェル触媒が、Cu及び/又はSn化合物をさらに含み、
カルボン酸アルケニルエステルを製造するための、シェル触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケニルカルボン酸エステルの合成に適したシェル触媒の製造方法に関し、特に、オキシアセチレーションによって、エチレンから酢酸ビニルモノマー(VAM)を作るため、又は、プロピレンから酢酸アリルモノマーを作るために適したシェル触媒の製造方法に関する。本発明は、本発明の方法によって得ることができるシェル触媒にも関し、また、本発明の方法を用いて製造されたシェル触媒の使用、又は、アルケニルカルボン酸エステル、特に、酢酸ビニルモノマー(VAM)及び酢酸アリルモノマーを作るための本発明のシェル触媒の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
“VAM”との略語は、以下、本明細書において、酢酸ビニルモノマーだけでなく、一般的にアルケニルカルボン酸エステルのために用いられる。
【0003】
パラジウムと、金と、さらに必要に応じた任意の助触媒金属とを含む担持触媒は、これまでの間に、既に知られている。酢酸ビニルモノマーは、通常、パラジウム及び金を含む触媒の存在下にて、エチレン、酸素、及び酢酸の反応混合物から作られる。そのような担持触媒の様々な製造方法は、既に知られている。そして、例えば、対応する金属を含む前駆体化合物が、好ましくは水性溶液に溶解され、担体に塗布される。対応する前駆体化合物を含む担体は、次に、通常、高温のオーブン内にて、酸化環境下にて焼成され、金属含有前駆体化合物は、金属酸化物へと変化する。対応する金属酸化物を含む担体は、次に、還元され、元素金属となる。しかしながら、いくつかの既知の方法においては、前駆体化合物が使用され、その方法では、金属酸化物への酸化が必要でなく、乾燥の後、還元工程が直接的に穏やかに行われ得る。
【0004】
VAMは、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体(エチレン酢酸ビニル共重合体、又は、エチレンビニルアルコール共重合体など)、及び、ポリビニルアルコールを作るために重要な成分である。例えば、構造物、塗料、ワニス分野でのバインダーとして、また、接着、紙、繊維産業における原料としての、これらポリマーの広範な使用分野により、未だに、VAMの高い需要があり、VAM製造のための触媒における活性及び選択性について持続的な改良の需要がある。
【0005】
通常、VAMの合成においては、シェル触媒が使用され、シェル触媒においては、少なくとも元素パラジウム及び元素金が、触媒担体(以下、担体、又は成形体という)の外側シェルに存在する。しかしながら、そのうえ、これらのシェル触媒は、前駆体としてさらなる金属をも含有し得る。これらシェル触媒の製造のためには、Pd含有前駆体化合物及びAu含有前駆体化合物の混合溶液が、通常、触媒担体に塗布され、次に、担体が乾燥され、前駆体化合物の金属成分が、元素金属へ変化する。Pd/Auの組み合わせによって、通常、触媒の選択性及び活性が良好なものとなる。さらに、VAM製造プラントの資本集約度のために、また、原料、特にエチレンのコストのさらなる高騰のために、改良された触媒によってVAMを製造する方法の経済効率を最適化する継続的な要求が存在する。Pd及び金に加え、さらなる金属前駆体を含むVAMシェル触媒の製造においては、通常、前駆体を加えるための付加的な調製工程が加えられ、これにより、そのような触媒を製造する方法は、調製の点で、非常に高価なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、アルケニルカルボン酸エステルの合成において活性及び選択性の点で従来の触媒よりも優れているシェル触媒をもたらすこととなる、シェル触媒の製造方法を提供することである。本発明の別の課題は、前駆体化合物を塗布する付加的な工程を必要としない、促進シェル触媒の製造方法を提供することであり、その結果、その製造方法は、調製の点で、単純化されたものとなり得る。
【0007】
さらには、VAMを作る全ての一般的な方法は、貴金属収率の点で、改良され得ることが証明されている。ここで貴金属収率は、全ての製造工程の最後に触媒に残り、しかも製造において触媒のために使用される貴金属の量、即ち、Pd、Au、及び付加的なさらなる前駆体金属の量から計算される。従って、対応する触媒の製造における貴金属収率を改善することも、本発明の課題でもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの課題は、大幅に改良された選択性及び活性を備えた触媒を作ることができる本発明の方法によって達成された。
【0009】
シェル触媒を製造する本発明の方法は、下記の工程を備え、
a)酢酸塩化合物を担体に塗布する工程、及び、
b)工程a)の後に得られた担体に、Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物を、順に又は同時に塗布する工程、
工程a)及び工程b)の一方において、Cu及び/又はSn前駆体化合物を、さらに、担体に塗布することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酢酸ビニルモノマーの合成においてCO/O比に対する、VAM/O比が示されている、触媒A〜Fの図表を示す。
図2】酢酸ビニルモノマーの合成において空時収量に対する、VAM及びCOピークから算出したVAM選択性が示されている、触媒A〜Fの図表を示す。
図3】酢酸ビニルモノマーの合成においてOの転化に対する、VAM/CO比が示されている、触媒A〜Fの図表を示す。
図4】酢酸ビニルモノマーの合成においてOの転化に対する、VAM及びCOピークから算出したVAM選択性が示されている、触媒A〜Fの図表を示す。
図5】酢酸ビニルモノマーの合成においてCO/O比に対する、VAM/O比が示されている、触媒G〜Kの図表を示す。
図6】酢酸ビニルモノマーの合成において空時収量に対する、VAM及びCOピークから算出したVAM選択性が示されている、触媒G〜Kの図表を示す。
図7】酢酸ビニルモノマーの合成においてOの転化に対する、VAM/CO比が示されている、触媒G〜Kの図表を示す。
図8】酢酸ビニルモノマーの合成においてOの転化に対する、VAM及びCOピークから算出したVAM選択性が示されている、触媒G〜Kの図表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
“シェル触媒”との用語は、担体と、触媒として活性な物質と含む触媒を意味する。シェルは、2つの異なる方法によって形成され得る。第1に、触媒として活性な物質が担体の外部領域に存在し、その結果、担体の材料は、触媒として活性な物質の基材としてはたらき、触媒として活性な物質を含浸させた担体の領域は、含浸させていない担体の中心領域の周辺にシェルを形成する。第2に、触媒として活性な物質が存在するさらなる層が、担体の表面に適用され得る。従って、この層は、担体周辺のシェルとして構成されたさらなる物質層を形成する。後者の変形例においては、担体材料は、シェルの構成要素でないが、シェルは、触媒として活性な物質を含む基材材料によって、又は、触媒として活性な物質それ自体によって形成されている。
【0012】
本発明の方法によって製造されたシェル触媒においては、金属が、単原子の態様、又は、集合体の態様で存在する。しかしながら、金属は、好ましくは、集合体の態様で存在する。単原子又は複数原子集合体は、主に、シェル触媒のシェルの内側に均一に分散されている。複数原子集合体は、単原子の態様と金属型(合金)との間の状態にある複合物を形成する、いくつかの金属原子のクラスターを意味する。複数原子集合体との用語は、いわゆる金属クラスターをも包含する。
【0013】
担体の外側にあるシェルのシェル厚みは、好ましくは、担体の総厚みの半分の1〜50%、より好ましくは、2〜40%、さらに好ましくは、3〜30%、最も好ましくは、4〜20%である。従って、上記の百分率は、総厚みの半分に対するものであり、例えば、前駆体化合物を含む溶液を用いたスプレー含浸などにより、製造における担体の形状に影響される。前駆体化合物は、2つの外表面(領域)から担体に浸透するか、又は、担体材料が、例えば中空円筒のような、より複雑な形状を有していれば、前駆体化合物は、外表面及び内表面から浸透する。球形状から逸脱した担体材料の場合、担体の総厚みは、担体の最長軸に沿って測定される。シェルの外側の境界は、金属含有担体の外側の境界と同じである。担体の内側に存在する、シェルの内側の境界は、金属含有シェルの境界を意味し、この境界は、シェルの外側の境界から、担体に含まれる総金属の95質量%が外側シェルに存在する距離のところにある。しかしながら、シェル厚みは、どの場合でも、担体の総厚みの半分に対して、好ましくは、50%以下であり、より好ましくは、40%以下であり、さらに好ましくは、30%以下であり、最も好ましくは、20%以下である。
【0014】
金属が含浸された担体は、好ましくは、内側領域、即ち、金属シェルの、シェルの内側の境界によって外側と区切られた領域に、総金属の5%以下を含む。
【0015】
担体は、好ましくは、不活性材料からなる。担体は、多孔質又は非多孔質であり得る。しかしながら、担体は、好ましくは、多孔質である。担体は、好ましくは、規則的な又は不規則な形状を有する粒子からなり、例えば、球状、平板状、円筒状や中実円柱状の円柱状、環状、星形状、又は他の形状であり、例えば、直径、長さ、又は幅といった担体の大きさは、1〜10mm、好ましくは3〜9mmである。本発明においては、球状、即ち、例えば、直径が3〜8mmの球形状の粒子が好ましい。担体材料は、多孔質物質又は非多孔質物質のいずれか、好ましくは多孔質物質からなる。この材料の例は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、ケイ酸塩シート、及び、例えば、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどのナノ材料である。
【0016】
上記酸化物の担体は、例えば、TiO、SiO、Al、ZrO、MgO、SiC、又はZnOといった酸化物の混合物、又は、例えば、所定の組成物の態様で用いられる。さらには、スス、エチレンブラック、炭、グラファイト、ハイドロタルサイト、又は、当業者に従来知られている他の担体が、好ましくは、可能性のある異なる態様で用いられる。担体材料は、好ましくは、例えば、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属によって、又は、リン酸塩、ハロゲン化物塩、及び/又は、硫酸塩によってもドープされる。担体は、好ましくは、Si−Al混合酸化物を含むか、又は、担体は、Si−Al混合酸化物からなる。好ましくは、Si−Al混合酸化物である担体は、Zrによってドープもされ得る。そして、好ましくは、担体の総質量に対して、Zrを5〜30質量%の割合で含む。
【0017】
前駆体化合物で塗装されていない担体材料のBET表面積は、1〜1,000m/gであり、好ましくは10〜600m/gであり、より好ましくは20〜400m/gであり、最も好ましくは80〜170m/gである。BET表面積は、DIN 66132に従って、窒素の吸着によって、1点法を用いて決定される。
【0018】
さらには、前駆体化合物で塗装されていない担体材料の総細孔容積(DIN 66133(Hg多孔度測定)に従って決定)は、>0.1ml/gであることが好ましく、>0.18ml/gであることがより好ましい。
【0019】
担体は、例えば、撹拌及び混合手段を用いることによって比較的大きい力学的圧力を有形体に与える個々の方法工程において、複数の担体に“バッチ”工程を与えることにより、通常、製造される。さらに、本発明の方法によって製造されたシェル触媒には、反応器での充填中に強力な力学的付加応力が与えられ得る。そして、意図しない粉塵が生じることとなり、また、担体が、特に、外側領域にある触媒として活性なシェルが、損傷することとなり得る。
【0020】
具体的には、妥当な制限内で、本発明の方法によって製造される触媒の摩耗を抑えるためには、シェル触媒は、≧20Nの硬度、好ましくは≧25Nの硬度、より好ましくは≧35Nの硬度、最も好ましくは≧40Nの硬度を有する。硬度は、DrシュロイニゲルファーマトロンAG社の8M錠剤硬度計によって確認され、130℃で2時間触媒を乾燥した後に、99のシェル触媒の平均によって決定される。装置の設定は、下記の通りである。
有形体からの距離:5.00mm
時間遅延:0.80s
供給型:6B
速度:0.60mm/s
【0021】
本発明の方法によって製造されるシェル触媒の硬度は、例えば、担体を製造する方法における、あるパラメータの変化に影響され、例えば、担体の焼成時間、及び/又は、焼成温度に影響される。この焼成は、金属含有前駆体が含浸された担体の焼成ではなく、単に、前駆体化合物が塗布される前における、担体を製造するための焼成工程である。
【0022】
担体の総細孔容積の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%は、メソ細孔及びマクロ細孔によって形成されている。これは、拡散限界に影響され、特に、比較的大きい厚みを有する金属含有シェルの場合に、本発明の方法によって製造される触媒の活性低下を抑える。ミクロ細孔、メソ細孔、及び、マクロ細孔は、本発明の場合、それぞれ、<2nmの直径、2〜50nmの直径、>50nmの直径を有する孔を意味する。
【0023】
本発明の方法によって製造されたシェル触媒の活性は、通常、シェルに存在する金属の量に依存する。一般的には、より多くの金属がシェルに存在するほど、活性が高くなる。シェルの厚みは、活性において、より少ない影響を有するが、触媒の選択性の点で明らかに変化を生じさせる。担体の金属量が同じであると、触媒の外側のシェルの厚みが小さくなるほど、本発明の方法によって製造されたシェル触媒の選択性が高くなることは、一般的なことである。従って、可能な限り活性を高くして、可能な限り選択性を高くすることを確保するために、シェル厚みに対する最適な金属量の比を設定することは、重要なことである。従って、本発明の方法によって製造されたシェル触媒は、好ましくは20μmから1,000μmの範囲の厚み、より好ましくは30μmから800μm、さらに好ましくは50μmから500μm、最も好ましくは100μmから300μmの範囲の厚みを有する。
【0024】
シェルの厚みは、顕微鏡によって視覚的に測定され得る。金属が沈着した領域は、水素での還元の後に黒色となり、一方、貴金属が存在しない領域は、白色となる。概して、本発明によって製造されたシェル触媒の場合には、貴金属を含む領域と含まない領域との境界は、非常に明瞭であり、視覚的に明確に把握される。仮に、上記の境界が明確に規定できず、従って視覚的に明確に把握されなければ、上述したように、触媒担体の外側の表面から測定され始めるシェルの厚みであって担体に沈着した貴金属の95%を含むシェルの厚みに相当するシェル厚みを測定する。貴金属含有シェルの厚みにわたって、本発明の方法によって製造された触媒の活性が概して均一であることを確保するために、貴金属含有濃度は、シェル厚みにわたって比較的わずかに変動すべきである。従って、シェル厚みの90%の領域であって、シェルの外側の端及びシェルの内側の端のそれぞれから50%の距離のシェル厚みの領域にわたって、触媒の貴金属濃度の分析結果が、最大でこの領域の平均貴金属濃度の+/−20%であることが好ましく、最大で+/−15%であることがより好ましく、最大で+/−10%であることがさらに好ましい。このような分析結果は、例えば、ガス中で循環される担体に、前駆体化合物を含む溶液をスプレーで含浸させること等の物理的な沈着方法によって達成される。このとき、担体は、好ましくは、いわゆる流動床中又は流層層中に置かれるが、担体がガス流動層で旋回するあらゆる装置が考えられる。上記のシェル分析結果は、特に好ましくは、さらに後述する、流動床、流層層、又はInnojet AirCoaterによるスプレーによって得られることが好ましい。本発明によって製造されたシェル触媒の場合、上述した、分布金属量は、矩形関数によって特徴付けられる。即ち、濃度は、担体内側への経路に沿って、減少しないか、又は、わずかにのみ減少する。そして、比較的“明確な”境界(上記の分布パラメータを参照)によって終了する。ところが、矩形関数に加え、シェル内部の金属量は、金属濃度がシェルの外側から内側へ徐々に減少する場合には、三角形関数又は台形関数によっても表される。しかしながら、矩形関数に従う金属分布が、特に好ましい。
【0025】
しかしながら、VAMの製造の点でこれまでに述べた観点に対して、矩形関数に従う金属分布が、特に好ましい。
【0026】
酢酸ビニルモノマー触媒の製造の点でこれまでに述べた観点に対して、驚くべきことに、金属前駆体化合物の塗布前、及び、前駆体化合物の金属成分の還元前に、酢酸塩を担体に塗布すること、例えば、酢酸アルカリ金属塩の態様で塗布することによって、本発明の適用は、VAMシェル触媒を導くことを発見した。このVAMシェル触媒は、金属前駆体化合物が塗布された後に酢酸塩が塗布され、且つ/又は、前駆体化合物の金属成分が還元された後に酢酸塩が塗布されたシェル触媒よりも、かなり高い活性及び選択性を有する。
【0027】
本発明の工程a)で使用される酢酸塩(酢酸化合物)は、好ましくは、酢酸アルカリ金属塩又は酢酸アルカリ土類金属塩であり、特に好ましくは酢酸アルカリ金属塩である。酢酸アルカリ金属塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸ルビジウムが挙げられ、特に好ましくは、酢酸カリウムが挙げられる。
【0028】
本発明の方法で使用されるPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物は、好ましくは、水溶性化合物である。
【0029】
本発明の方法で使用されるPd前駆体化合物は、好ましくは、硝酸化合物、亜硝酸化合物、酢酸化合物、テトラアミン化合物、ジアミン化合物、炭酸水素塩化合物、金属酸水酸化化合物から選択される。
【0030】
Pd前駆体化合物の好ましい例は、水溶性Pd塩である。Pd前駆体化合物は、特に好ましくは、Pd(NH(HCO、Pd(NH(HPO)、シュウ酸Pdアンモニウム、シュウ酸Pd、KPd(シュウ酸)、トリフルオロ酢酸Pd(II)、Pd(NH(OH)、Pd(NO、HPd(OAc)(OH)、Pd(NH(NO、Pd(NH(NO、HPd(NO、NaPd(NO、Pd(OAc)、沈殿直後のPd(OH)からなる群より選択される。
【0031】
沈殿直後のPd(OH)を使用する場合には、下記のようにして製造することが好ましい。0.1〜40質量%の水性溶液を、好ましくはテトラクロロパラジウム塩から調製する。次に、好ましくは、褐色の固体が沈殿するまで、即ち、Pd(OH)が沈殿するまで、塩をこの溶液に添加する。担体へ塗布する溶液を調製するために、沈殿直後のPd(OH)を単離し、洗浄し、そして、アルカリ性の水溶液に溶解させる。
【0032】
化合物Pd(NH(OH)は、好ましくは、下記のようにして調製する。例えば、NaPdClといった前駆体化合物を、上述したように、水酸化カリウム溶液によって、水酸化パラジウムとして沈殿させ、沈殿物を、ろ過及び洗浄の後に、アンモニア水溶液に溶解させて、Pd(NH(OH)を得る。
【0033】
さらに、亜硝酸Pd化合物も、本発明の方法において使用され得る。好ましい亜硝酸Pd前駆体化合物は、例えば、Pd(OAc)をNaNO又はKNO溶液に溶解させることによって得られるものである。
【0034】
しかしながら、特に好ましくは、上記のヒドロキソ複合物又はヒドロキソ化合物を、Pd前駆体化合物として使用する。より特に好ましくは、化合物Pd(NH(OH)をPd前駆体化合物として使用する。
【0035】
本発明の方法において使用するAu前駆体化合物は、好ましくは、酢酸化合物、硝酸又は亜硝酸化合物、及び、金属酸化化合物又は金属水酸化化合物から選択される。
【0036】
Au前駆体化合物の好ましい例は、水溶性Au塩である。Au前駆体化合物は、好ましくは、KAuO、NaAuO、LiAuO、RbAuO、CsAuO、Ba(AuO、NaAu(OAc)(OH)、KAu(NO、KAu(OAc)(OH)、LiAu(OAc)(OH)、RbAu(OAc)(OH)、CsAu(OAc)(OH)、HAu(NO、及び、Au(OAc)からなる群より選択される。いずれの場合でも、Au(OAc)又は上記金酸塩の1つを、新たな沈殿によって、金酸からの酸化物又は水酸化物として添加し、洗浄し、沈殿物を単離し、沈殿物をそれぞれ酢酸又は水酸化アルカリ金属中にて取り上げることが望ましい。特に好ましくは、上記の金酸アルカリ金属塩の1つを、Au含有前駆体化合物として使用し、該Au含有前駆体化合物を、担体への塗布のために溶解された態様で使用する。金酸カリウムの調製は、文献において知られており、WO99/62632及び米国6,015,769公報に開示された調製方法に従って実施する。他の金酸アルカリ金属塩も、同様にして調製する。KAuO又はCsAuO又は水に溶解したその水酸化物(KAu(OH))及び(CsAu(OH))を、本発明の方法におけるAu前駆体化合物として使用することが特に好ましい。
【0037】
Cu前駆体化合物は、好ましくは、水溶性化合物である。銅化合物は、塩化銅(無水物又は二水和物)、又は、塩素を含有しない水溶性の銅化合物であり得る。Cu前駆体化合物は、塩素を含有しない前駆体化合物であることが好ましい。塩素を含有しない銅前駆体化合物は、好ましくは、下記化合物の1種から選択される。酢酸銅(無水物又は一水和物)、硝酸銅(三水和物又は六水和物)、硫酸銅(無水物又は五水和物)、ギ酸銅(無水物又は五水和物)など。
【0038】
Sn前駆体化合物は、好ましくは、水溶性化合物である。スズ化合物は、塩化スズ(無水物、二水和物、又は五水和物)、又は、塩素を含有しない水溶性のスズ化合物であり得る。Sn前駆体化合物は、塩素を含有しない前駆体化合物であることが好ましい。塩素を含有しないSn前駆体化合物は、好ましくは、下記化合物から選択される。スズ酸カリウム、メタスズ酸、酢酸スズなど。
【0039】
上記の前駆体化合物は、本明細書において、単なる例示のために挙げられており、VAMシェル触媒の製造のために適した他の前駆体化合物が使用され得る。しかしながら、前駆体化合物が実質的に塩素を含有しないことが特に好ましい。実質的に塩素を含有しないとは、化合物の化学式が塩素を含まないことを意味するが、化合物が、例えば製造条件によって、避けられない塩素不純物を含むことを除くものではない。
【0040】
Pd(NH(OH)をPd前駆体化合物として使用すること、金酸カリウム又は金酸セシウムをAu前駆体化合物として使用すること、Cu(OAc)を銅化合物として使用すること、KSnOをスズ化合物として使用することが特に好ましい。
【0041】
本発明の方法の工程(a)において酢酸塩を塗布するために、好ましくは、酢酸塩を含む溶液を調製する。溶液を調製するための溶媒としては、好ましくは水を使用し、より好ましくは脱イオン水を使用する。溶液における酢酸塩の濃度は、好ましくは、0.5〜5mol/L、より好ましくは、1〜3mol/L、さらに好ましくは、1.5〜2.5mol/L、最も好ましくは、1.9〜2.1mol/Lの範囲にある。
【0042】
酢酸塩を含む溶液の塗布は、例えば、湿式化学含浸、孔埋め法(インシピエント法、初期湿潤法)や、あらゆる種類のスプレー含浸などの、最新の公知の方法によって実施される。本発明において特に好ましくは、孔埋め法、又は、酢酸塩を含む溶液のスプレー含浸によって、酢酸塩を担体に塗布する。
【0043】
酢酸塩を含む溶液を塗布するときには、担体を静置することができるが、好ましくは、流動させる。担体の流動は、例えば、塗装ドラム、混合ドラム、又はサポートガスの援助によって力学的に、考えられるあらゆる方法によって行うことができる。塗布をスプレー含浸によって実施する場合には、例えば、サポートガス(又は、プロセスガス)の援助によって、流動床中、流動層中、例えばInnojet AirCoaterという静的塗装チャンバー中において担体の流動を実施することが好ましく、この実施においては、加熱された空気を送り込み、溶媒を迅速に揮発させることとなる。温度は、好ましくは15〜80℃、より好ましくは20〜60℃、最も好ましくは30〜40℃である。スプレー速度は、好ましくは、スプレー中において、溶媒の揮発速度と担体への前駆体化合物の供給速度との間で均衡が成り立つように、選択される。酢酸塩を含む溶液のスプレー中においては、特に好ましくは、スプレー速度が一定であり、また、スプレー速度が、塗装される担体あたり、0.1g/分〜10g/分 100g、より好ましくは0.25〜7.5g/分 100g、最も好ましくは0.5〜5g/分 100gの範囲にある。
【0044】
好ましくは、酢酸塩を含む溶液をスプレーノズルによって装置内にスプレーし、装置内において供給されるスプレーガスは、好ましくは空気である。
【0045】
酢酸塩のアニオンの量は、塗布後に乾燥された担体の総質量に対して、好ましくは、2.0〜6.0質量%、より好ましくは2.5〜5.5質量%、最も好ましくは3.5〜4.5質量%の範囲にある。
【0046】
酢酸塩が酢酸アルカリ金属塩として存在する場合には、アルカリ金属の量は、酢酸アニオンと対応する量比の内にある。
【0047】
酢酸塩を含む溶液を塗布した後、好ましくは、空気中、希薄な空気中、又は不活性ガス中において20〜180℃の温度範囲にて乾燥を実施する。酢酸塩が付着した担体の乾燥継続時間は、好ましくは、10〜100分間、より好ましくは30〜60分間の範囲である。
【0048】
本発明の方法の工程(b)においては、Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物は、好ましくは、溶液中に溶解されて存在する。Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物は、溶解されて混合されて溶液中に存在し得るが、Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物は、それぞれ別の溶液に溶解されて存在していてもよい。選択された金属化合物が溶解し、また、触媒担体への塗布後に乾燥によって担体から容易に再度取り除かれる純粋な溶媒及び溶媒混合物は、遷移金属前駆体化合物の溶媒として適している。好ましい溶媒は、置換されていないカルボン酸、特に酢酸、及びアセトンなどのケトン、また、具体的には脱イオン水といった水である。本発明の方法の工程(b)における担体への前駆体化合物の塗布は、それ自体知られた方法によって実施することができる。前駆体化合物は、浸すこと、孔埋め方法(インシピエント湿潤法)、又は、前駆体化合物を含む溶液を含浸させることによって、塗布されることが考えられる。工程(b)においては、前駆体化合物は、Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物を含む混合溶液、又は、2つの化合物の一方をそれぞれ含む2つの溶液のいずれかから塗布される。前駆体化合物は、特に好ましくは、工程(b)において、2つの異なる溶液から同時に担体へと塗布される。2つの前駆体化合物が、工程(b)において、2つの異なる溶液から塗布される場合には、原則として、2つの化合物が別々に、即ち、順に次々に塗布され得る。又は、重複する2つの時間間隔でも塗布され得る。
【0049】
本発明の工程(b)における前駆体化合物の塗布は、好ましくは、前駆体化合物を含む溶液を担体に向けてスプレーすることによって実施する。担体は、塗装ドラム中、流動床中、流動層中といったプロセスガス中において、又は、Innojet AirCoaterという静的塗装チャンバー中において、流動させることが好ましく、この流動において、好ましくは加熱されたプロセスガスを送り込み、これにより、溶媒を迅速に揮発させることとなる。このようにして、前駆体化合物は、上記にて規定した担体のシェルに存在することとなる。スプレー速度は、好ましくは、スプレー中において、溶媒の揮発速度と担体への前駆体化合物の供給速度との間で均衡が成り立つように、選択される。これにより、所望のシェル厚み及びパラジウム/金分布をシェル中に設定することができる。従って、スプレー速度によって、シェル厚みは、設定を非常に変えることができ、例えば、2mm厚みにまで最適化できる。一方、50〜300μm範囲の厚みを有する非常に薄いシェルも、可能である。
【0050】
工程(b)におけるスプレー速度は、特に好ましくは、一定であり、塗装される担体あたり、0.1g/分 100g〜10g/分 100gの質量流量(前駆体化合物を含む溶液)の範囲であることが好ましく、100gあたり0.25〜7.5g/分の範囲であることがより好ましく、100gあたり0.5〜5g/分の範囲であることが最も好ましい。この範囲を超える質量流量によって、触媒がより低い活性を有することとなり、この範囲より小さい質量流量は、触媒性能に強い悪影響を与えないものの、触媒製造時間は、非常に長くなり、従って製造されたものは、非効率的なものである。
【0051】
本発明の方法の工程(a)及び/又は工程(b)において流動床が使用される場合には、流動床において担体が楕円形状又は環状に循環することが好ましい。そのような流動床において担体が動く態様の概念を示すために、“楕円形状循環”の場合、担体が、主軸及び第二軸の大きさを変えながら、流動床中にて垂直面内で楕円形経路中を動くことが提示される。“環状循環”の場合、担体は、主軸及び第二軸の大きさを変えながら、流動床中にて楕円形経路中を動き、また、半径の大きさを変えながら、水平面内で円形経路中を動く。概して、“楕円形状循環”の場合、担体は、垂直面にて楕円形経路で動き、“環状循環”の場合、担体は、環状経路で動く。即ち、担体は、垂直方向に楕円状の区間を有する輪環体の表面上を螺旋状に巡回する。
【0052】
特に好ましくは、本発明の方法における工程(b)においては、酢酸塩、例えば、酢酸アルカリ金属塩が含浸された触媒担体への前駆体の塗布は、流動床設備における流動床によって実施される。設備のプロセスガスにおいて、いわゆる制御された動く層があることが特に好ましい。一例としては、担体は、プロセスガスの制御された動く層によって十分に混合され、担体は、同時にそれ自身の軸の周りを回転し、プロセスガスによって均一に乾燥される。さらに、担体の一貫した環状の動きによって、プロセスガスの制御された動く層に影響されて、担体は、実質的に一定の頻度(本発明の方法の工程(a)にも適用される)でスプレー処理(前駆体化合物の塗布)を受ける。これにより、担体の被処理バッチにおいて、かなり均一なシェル厚み、又は、担体への金属の均一な浸透深さが達成される。結果としてさらに、貴金属濃度がシェル厚みの比較的広い領域にわたって比較的わずかにのみ変動し、これにより、得られた触媒のかなり均一な活性が、貴金属シェルの厚みにわたって確保される。
【0053】
さらに、本発明の方法において使用される担体は、好ましくは、工程(b)のスプレー含浸の間に、例えば加熱されたプロセスガスによって加熱される。プロセスガスは、好ましくは10〜110℃、より好ましくは40〜100℃、最も好ましくは50〜90℃の温度を有する。上記の下限は、外側にある上述したシェルが高い貴金属濃度で小さい層厚みを有することを確保するために、遵守されるべきである。
【0054】
工程(a)及び/又は工程(b)のスプレー含浸において、好ましくは空気がプロセスガスとして使用される。しかしながら、例えば、窒素、CO、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの不活性ガス、又はこれらの混合物も、使用され得る。
【0055】
工程(b)においてPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物を含む1つの混合溶液によってPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物を塗布する場合には、好ましくは、いずれの場合でも溶液中の金属原子質量割合に対して、Pdが0.1〜15質量%の範囲、より好ましくは0.4〜11質量%の範囲、最も好ましくは0.7〜7質量%の範囲となるように溶液がPd前駆体化合物の割合を有し、また、Auの割合が0.03〜5質量%の範囲、より好ましくは0.1〜4質量%の範囲、最も好ましくは0.25〜3質量%の範囲となるように溶液がAu前駆体化合物の割合を有する。
【0056】
別々の溶液によってPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物を塗布する場合には、いずれの場合でも溶液中の金属原子質量割合に対して、好ましくは、Pd含有溶液は、Pdを0.1〜20質量%の範囲、より好ましくは0.5〜15質量%の範囲、最も好ましくは1〜10質量%の範囲で含み、また、好ましくは、Au含有溶液は、Auを0.1〜20質量%の範囲、より好ましくは0.5〜15質量%の範囲、最も好ましくは1〜10質量%の範囲で含む。
【0057】
工程(b)において前駆体化合物を担体に塗布する工程の後、好ましくは、還元工程の前に乾燥工程を実施する。乾燥工程は、好ましくは、上述した温度、即ち、塗布した酢酸塩溶液の乾燥のためにも記載した温度で、実施する。酢酸塩溶液を塗布した担体材料の乾燥のための乾燥時間が採用される。乾燥は、好ましくは、流動層装置又は流動床装置のいずれかにおいてプロセスガスによって実施され、いずれかが使用される場合には、空気又は乾燥オーブンの中で、好ましくは60℃〜120℃の範囲において実施される。乾燥が、流動床装置又は流動層装置にて実施される場合には、担体が装置中で静止すること、即ち、プロセスガスによって流動しないことが好ましい。
【0058】
本発明の方法の一実施形態においては、Cu前駆体及び/又はSn前駆体化合物が、工程(a)において、酢酸塩溶液とともに同時に担体へ塗布されることが好ましい。酢酸塩化合物を含む溶液は、Cu及び/又はSn前駆体化合物をも含むことが好ましい。酢酸塩化合物も、Cu及び/又はSn前駆体化合物も含む溶液は、Cu又はSnを、それぞれCu又はSn前駆体化合物の態様で含み、Cu及び/又はSn前駆体化合物だけでなく酢酸塩化合物も含む溶液の総質量に対して、0.005〜1.5質量%、より好ましくは0.015〜0.8質量%、最も好ましくは0.04〜0.4質量%の範囲の量でCu又はSnを含む。
【0059】
本発明の方法の別の実施形態においては、Cu及び/又はSn前駆体化合物は、工程(b)において、Pd前駆体化合物とAu前駆体化合物とがいっしょになって担体に塗布される。Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物が2つの異なる溶液によって、順に又は交互に、担体に塗布される場合には、銅前駆体化合物及び/又はスズ前駆体化合物は、別々の溶液から、2つのPd及びAu前駆体化合物の一方の塗布によって、少なくとも部分的に塗布されるか、又は、銅前駆体化合物及び/又はスズ前駆体化合物は、別々の2つのPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物の1つによって、後者と共に塗布される。
【0060】
2つの異なる溶液によってPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物が同時に塗布される場合には、銅及び/又はスズ前駆体化合物は、Pd前駆体化合物溶液に納められるか、又は、Au前駆体化合物溶液に納められるか、又は、両方の溶液に納められる。
【0061】
1つの混合溶液によってPd前駆体化合物及びAu前駆体化合物が塗布される場合には、銅及び/又はスズ前駆体化合物は、その塗布と共に別々の溶液から同時に塗布されるか、又は、Pd前駆体化合物及びAu前駆体化合物の混合溶液中に存在する。本発明においては、後者の変形例が好ましい。
【0062】
Cu又はSn前駆体化合物が工程(b)において別々の溶液から担体へ塗布される場合には、この溶液は、好ましくは、溶液の総質量に対して、銅又はスズ前駆体の態様の銅又はスズを、0.02〜18質量%、より好ましくは0.04〜11質量%、最も好ましくは0.1〜4質量%の範囲で含む。
【0063】
Cu又はSn前駆体化合物がCu及び/SnだけでなくAu、Pdも含む混合溶液で担体へ塗布される場合には、この混合溶液は、好ましくは、溶液の総質量に対して、0.001〜3質量%、より好ましくは0.005〜2.2質量%、最も好ましくは0.015〜1.4質量%の範囲でCu及び/Sn前駆体化合物を含む。
【0064】
本発明の方法の工程(b)においては、Pd前駆体化合物の塗布がAu前駆体化合物の塗布と同時に実施されるか別々に実施されるかに関わらず、Pd前駆体化合物の塗布に加えて、予め前塗りすること、及び/又は、後で担体を後塗りすることを実施することができる。前塗りの工程及び/又は後塗りの工程は、好ましくは、工程(b)における前駆体の塗布の工程と同様にして実施する。工程(b)にけるAu前駆体化合物を別々に含む溶液の調製と同じ濃度及び同じ前駆体化合物が、好ましくは使用される。原則として、全ての可能な塗布工程、即ち、工程(b)に関して上述したように、浸すこと、穴埋め方法、又はスプレー含浸が、ここでも再度あり得る。しかしながら、工程(b)に関して上記で述べたように、流動層又は流動床にて担体にスプレー含浸することによって、前塗り又は後塗りを実施することが特に好ましい。
【0065】
前塗りを実施する場合には、上述したように工程(b)の後に好ましくは実施する付加的な乾燥工程を、前塗りの後に実施する。同様に、工程(b)の後の後塗りの場合には、前塗りに関して記載したような、同様な乾燥工程を実施することができる。
【0066】
スプレー含浸による上記の前塗り又は後塗りにおいては、溶液中のAu前駆体化合物濃度の同じ仕様、同じスプレー速度、同じプロセス空気が、本発明の方法の工程(b)において適用される。前塗り又は後塗りが実施される実施形態は、“続いて起こる”塗布が工程(b)において生じるという事実によって、本明細書において組み込まれもする。
【0067】
後塗りを実施する場合には、担体を乾燥する工程は、好ましくは、工程(b)の直後でなく、後塗り工程においてさらなるAu前駆体化合物を塗布する工程の後に、好ましくは実施する。
【0068】
好ましく特定された方法によって、スプレー含浸によって工程(b)の前に前塗りを実施する場合には、Au前駆体化合物のスプレーのスプレー速度は、Pd前駆体化合物溶液のスプレーの開始において変化しないことが好ましい。前含浸の工程においてAu前駆体化合物溶液をスプレーする時間間隔に対する、工程(b)において2つの金属前駆体化合物を同時にスプレーする時間間隔の比率は、好ましくは、8〜1、より好ましくは6.5〜1.5、最も好ましくは5〜2の範囲である。
【0069】
前駆体化合物を含む溶液のスプレーは、本発明の方法の全ての工程において、好ましくは、スプレーノズルの援助による溶液の霧化によって影響される。本発明の方法のさらに好ましい実施形態によれば、スプレーノズルが環状間隙ノズルとして設計されること、及び、担体の循環動を行う装置の底部においてスプレーノズルが中央に配されることが提供される。装置における環状間隙ノズルの口は、担体によって完全に囲まれる。従って、スプレー霧が成形体に衝突するまでの、スプレー霧の液滴の自由経路が比較的短くなることは、確保される。これにより、液滴がより大きい液滴になる合一時間は、比較的短いものとなる。より大きい液滴は、ほぼ均一なシェル厚みの形成に対抗するようにはたらく。
【0070】
前駆体化合物を塗布する工程の後の付加的な乾燥工程の後に、好ましくは、工程(c)を実施し、工程(c)においては、前駆体化合物の金属成分を、好ましくは、元素金属へ変換する。この還元工程は、好ましくは、前駆体化合物の金属化合物を元素金属へ還元するために非酸化性の雰囲気において温度処理によって実施する。非酸化性の雰囲気における温度処理は、好ましくは50〜400℃、より好ましくは50〜200℃、最も好ましくは60〜150℃の温度範囲で実施する。特に好ましくは、金属前駆体化合物を用いた塗装の後の乾燥工程の後に、直接的に塗装装置内にて、具体的には、これら工程の間で塗装装置から担体を取り除くことなく、同様に非酸化性の雰囲気において、温度処理を実施する。これによって、摩耗が少なくなるだけでなく、大きな時間的な利点が生じることとなる。なぜなら、担体の移動と関わる担体の時間、及び力学的応力を生じることがなくなるからである。
【0071】
非酸化性の雰囲気とは、本発明において、酸化作用を有する酸素又は他のガスを、全く又はほとんど含まない雰囲気を意味する。非酸化性の雰囲気は、不活性ガスの雰囲気、又は、還元性雰囲気であってもよい。還元性雰囲気は、還元作用を有するガスであってもよく、還元作用を有するガスと不活性ガスとの混合物であってもよい。
【0072】
、He、Ne、Ar、又はその混合物を、例えば、不活性ガスとして使用する。Nを特に好ましく使用する。
【0073】
還元性雰囲気において還元作用を有する成分は、通常、金属を還元する性質によって選択されるが、好ましくは、エチレン、水素、CO、NH、ホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、炭化水素、又は、上記のガス/液体の2種以上の混合物からなるガス又は揮発性の液体から選択される。還元性雰囲気は、特に好ましくは、還元性成分として水素を含む。還元性雰囲気は、フォーミングガス、N及びHの混合物、からなることが特に好ましい。水素の含有量は、1体積%〜15体積%の範囲内である。本発明の方法においては、例えば、プロセスガスとしての窒素中の水素(2〜5体積%)によって、例えば0.25〜10時間、好ましくは0.5〜5時間の期間にわたって、60〜150℃の範囲の温度で、還元する。
【0074】
還元工程において不活性ガスから還元性雰囲気へ変える上記の第2の方法の変化は、好ましくは、不活性ガス雰囲気へ上記の還元成分の1つを供給することによって行う。好ましくは、水素ガスを供給する。還元作用を有するガスを不活性ガスへ供給することは、温度が大幅には低下せず、還元に望ましい60℃の下限を下回らないという利点を有し、結果として、雰囲気の総入れ替えに伴う、高コストで高エネルギーのさらなる加熱が必要でないこととなる。
【0075】
工程(c)の後に得られた担体は、還元後の触媒担体の総質量に対して、好ましくは0.3〜2.5質量%の範囲、より好ましくは0.5〜2.1の範囲、さらに好ましくは0.7〜1.7質量%の範囲のPdの割合を有する。
【0076】
工程(c)の後に得られた担体は、還元後の触媒担体の総質量に対して、好ましくは0.1〜1.2質量%の範囲、より好ましくは0.2〜0.9の範囲、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%の範囲のAuの割合を有する。
【0077】
工程(c)の後に得られた担体は、還元後の触媒担体の総質量に対して、好ましくは0.005〜1質量%の範囲、より好ましくは0.01〜0.5の範囲、さらに好ましくは0.025〜0.25質量%の範囲のCu又はSnの割合を有する。
【0078】
本発明の方法においては、工程(a)及び(b)と、前塗り又は後塗りの付加的な工程と、付加的な乾燥工程とを単一の装置内で実施することが特に好ましい。しかしながら、この好ましい方法は、工程(a)を別の装置内で実施し、さらなる上記の工程を1つの装置内で実施することによって実施が代替され得る。さらには、還元の工程(c)を工程(a)及び/又は工程(b)と同じ装置内で実施することも好ましい。この方法は、工程の間において、導入による摩耗や、異なる装置への又は装置からの担体の移動がもはや必要でないことから、他の方法よりも利点を有する。従って、例えば、全ての工程を1つの流動床装置にて実施する本発明の方法によれば、貴金属の損失がわずかに3質量%となった。
【0079】
工程(b)及び必要に応じて工程(a)及び(c)を実施する装置は、好適な一般的な塗装ドラム、流動床装置、又は流動層装置によって構成されていることが好ましい。本発明の方法において前駆体化合物の塗布を実施するための好適で一般的な塗装ドラム、流動床装置、又は流動層装置は、従来知られており、例えば、Heinrich Brucks GmbH (アールフェルト、ドイツ)、 ERWEKA GmbH (ホイゼンシュタム、ドイツ)、 Stechel (ドイツ)、 DRIAM Anlagenbau GmbH (エリスキルヒ、ドイツ)、 Glatt GmbH (ビンツェン、ドイツ)、 G. S. Divisione Verniciatura (オステリア、イタリア)、 HOFER-Pharma Maschinen GmbH (ヴァイルアムライン、ドイツ)、 L.B. Bohle Maschinen und Verfahren GmbH (エニガーロー、ドイツ)、 Lodige Maschinenbau GmbH (パーダーポルン、ドイツ)、 Manesty (マージーサイド、イギリス)、 Vector Corporation (マリオン(IA) アメリカ合衆国)、Aeromatic-Fielder AG (ブーベンドルフ、スイス)、 GEA Process Engineering (ハンプシャー、イギリス)、 Fluid Air Inc. (オーロラ、イリノイ、アメリカ合衆国)、 Heinen Systems GmbH (ファーレル、ドイツ)、 Huttlin GmbH (シュタイネン、ドイツ)、 Umang Pharmatech Pvt. Ltd. (マハーラーシュトラ、インド)、及び、Innojet Technologies (レラハ、ドイツ)のような会社によって市販されている。特に好ましい流動床装置は、Innojet Technologies社によって、Innojet AirCoater又はInnojet Ventilusの製品名で販売されている。全てInnojet社から提供されているIAC-5 coater、IAC-150 coater、又は、IAC-025 coaterが特に好適に使用される。
【0080】
本発明のさらなる課題は、本発明の方法を用いて得られるシェル触媒でもある。本発明のシェル触媒は、VAMの合成において特に高い選択性及び活性を有する点で、VAMを合成するための従来のシェル触媒と異なる。この理由は、金属前駆体の塗布前であって還元前に酢酸塩を塗布すること、及び/又は、工程(a)又は工程(b)においてこの工程に伴ってCu及び/又はSn前駆体化合物を塗布することにある。従来の触媒と比較したときに、本発明のシェル触媒において、より良好な活性及び選択性の点で明らかに存在する構造上の相違点は、塗布のときにおける物理値によって示されない。従って、本発明のシェル触媒は、製法と、実証された優れた選択性及び活性とによってのみ、従来の触媒と区別される。
【0081】
他の実施形態は、カルボン酸アルケニルエステル、特にVAM及び/又は酢酸アリルモノマーを調製するために、本発明の方法を使用して製造されたシェル触媒を使用することに関する。換言すると、本発明は、VAM又は酢酸アリルを作るための方法に関し、その方法では、酢酸と、エチレン又はプロピレンと、酸素又は酸素含有ガスとが、本発明の触媒上を通過する。一般的に、この方法は、酢酸及びエチレンと、酸素又は酸素含有ガスとが、本発明の触媒上を100〜200℃、好ましくは120〜200℃の温度で、また、1〜25バール、好ましくは1〜20バールの圧力で通過することによって行い、この方法では、未反応の遊離体が再循環される。好ましくは、酸素濃度は、10体積%未満に保持される。しかしながら、ある環境下では、窒素や二酸化炭素などの不活性ガスによる希釈も、有効である。VAM合成の過程において生じる二酸化炭素の量が少量であること、再循環ガスにおいて二酸化炭素が集まることにより、希釈のためには二酸化炭素が特に好ましい。作られた酢酸ビニルは、例えば、米国公報第5,066,365A号に記載された好適な方法の援助によって単離される。同様の方法が、酢酸アリルに関して公開されている。さらには、酢酸ビニルを作るためのそのような方法において、例えばCu又はSnのような、触媒に含まれるプロモータを、工程における触媒の耐用期間中に失われるプロモータ分を再度導入するために、後で必要に応じて添加できることが知られている。これは、カルボン酸アルケニルエステルを作るための本方法において実施され、プロモータの酢酸塩化合物は、工程に導入される酢酸中、及び/又は、工程に導入される酢酸カリウム中で混合されるか、又は、別々に添加される。
【0082】
本発明は、いくつかの図面及びいくつかの実施形態の例を用いて下記にさらに詳しく説明されているが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
(試験例1)触媒Aの製造
100gの担体材料KA−160(ズードケミー社から得られる)を計量し、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、23.4g 2モルのKOAc溶液と、2.5gのCu(OAc)溶液(1質量%Cu)と、37gの脱イオン水との混合物を含浸させる。90℃で35分間流動床乾燥機中で静的乾燥した後、7.1gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)を脱イオン水で希釈して25gの塗装溶液とし、この溶液を、第1の塗装工程においてInnojet社の塗装機(IAC-025型)にて、5g/分のスプレー速度で、100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。次に、第2の塗装工程において、2.4gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と20.2gのテトラアミン水酸化パラジウム溶液(4.9質量%Pd)との混合物を、脱イオン水で希釈して、35gの塗装溶液とし、この溶液を、5g/分のスプレー速度で100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。流動床乾燥機中で再度静的乾燥(90℃/35分)をした後、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、触媒を、70℃で30分間還元する。
【0084】
触媒の元素分析を、強熱による損失分を調整して、下記の割合で示す。
Pd: 0.93質量%
Au: 0.35質量%
Cu: 0.032質量%
【0085】
(試験例2)触媒Bの製造
触媒Bは、触媒Aと同様にして製造し、唯一異なる点は、第1の調製工程において、酢酸カリウムの含浸中に、5gCu(OAc)溶液(1質量%Cu)、34.5g脱イオン水、及び、23.4g 2モルKOAc溶液の混合物を使用することである。
【0086】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.92質量%
Au: 0.35質量%
Cu: 0.091質量%
【0087】
(試験例3)触媒Cの製造
触媒Cは、触媒Aと同様にして製造し、唯一異なる点は、第1の調製工程において、酢酸カリウムの含浸中に、7.5gCu(OAc)溶液(1質量%Cu)、32g脱イオン水、及び、23.4g 2モルKOAc溶液の混合物を使用することである。
【0088】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.91質量%
Au: 0.33質量%
Cu: 0.094質量%
【0089】
(試験例4)触媒Dの製造
100gの担体材料KA−160(ズードケミー社から得られる)を計量し、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、23.4g 2モルのKOAc溶液と、39.5gの脱イオン水との混合物を含浸させる。90℃で35分間、流動床乾燥機中で静的乾燥した後、7.1gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と、5gのCu(OAc)溶液(1質量%Cu)との混合物を脱イオン水で希釈して25gの塗装溶液とし、この溶液を、第1の塗装工程においてInnojet社のIAC-025型塗装機にて、5g/分のスプレー速度で、100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。次に、第2の塗装工程において、2.4gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と、20.2gのテトラアミン水酸化パラジウム溶液(4.9質量%Pd)との混合物を、脱イオン水で希釈して、35gの塗装溶液とし、この溶液を、5g/分のスプレー速度で100gの担体に塗布する(主塗装)。担体は、流動層中で固定する。流動床乾燥機中で再度静的乾燥(90℃/35分)をした後、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、触媒を、70℃で30分間還元する。
【0090】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.89質量%
Au: 0.34質量%
Cu: 0.058質量%
【0091】
(試験例5)触媒Eの製造
触媒Eは、触媒Dのように製造し、異なる点は、第1の調製工程において、Cu(OAc)を塗布しないことである。これに代えて、第2の塗装工程において、5gのCu(OAc)溶液(1質量%Cu)と、2.4gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と、20.2gのテトラアミン水酸化パラジウム溶液(4.9質量%Pd)との混合物を希釈して、35gの塗装溶液とし、この溶液を、5g/分のスプレー速度で、100gの担体に塗布する。
【0092】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.87質量%
Au: 0.35質量%
Cu: 0.055質量%
【0093】
(比較例1)触媒Fの製造
100gの担体材料KA−160(ズードケミー社から得られる)を計量し、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、23.4g 2モルのKOAc溶液と、39.5gの脱イオン水との混合物を含浸させる。90℃で35分間流動床乾燥機中で静的乾燥した後、7.1gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)を脱イオン水で希釈して25gの塗装溶液とし、この溶液を、第1の塗装工程においてInnojet社のIAC-025型塗装機にて、5g/分のスプレー速度で、100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。次に、第2の塗装工程において、2.4gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と20.2gのテトラアミン水酸化パラジウム溶液(4.9質量%Pd)との混合物を、脱イオン水で希釈して、35gの塗装溶液とし、この溶液を、5g/分のスプレー速度で100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。流動床乾燥機中で再度静的乾燥(90℃/35分)をした後、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、触媒を、70℃で30分間還元する。
【0094】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.9質量%
Au: 0.35質量%
【0095】
(試験例6)酢酸ビニルモノマーの合成における、触媒の活性及び選択性に関する、触媒A−Fの試験結果
この試験のために、酢酸、エチレン、及び酸素を、8バールの圧力にて、それぞれ温度138℃/24時間、140℃/12時間、142℃/12時間、144℃/12時間、146℃/12時間、140℃/12時間で、各触媒A〜F上を通過させた(これらは、試験手順の自動的な遂行中における順序に従って適用するそれぞれの反応温度であり、即ち、138℃で24時間、次に140℃で12時間、次に142℃で12時間といった反応温度で測定を行う)。使用した成分の濃度は、45%エチレン、6%O、0.9%CO、9%メタン、15.5%酢酸、残部Nである。
【0096】
表1〜表6及び図1図4は、触媒A〜Fの選択性又は活性を、O転化の作用として示す。本発明によって製造された触媒A−Eは、比較触媒Fよりも、かなり高い選択性又は活性(同じ活性水準)を有することが、この結果から明確に把握される。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
(試験例7)触媒Gの製造
100gの担体材料KA−160(ズードケミー社から得られる)を計量し、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、23.4g 2モルのKOAc溶液と、25gのCu(OAc)溶液(2質量%Cu)と、12.5gの脱イオン水との混合物を含浸させる。90℃で35分間、流動床乾燥機中で静的乾燥した後、13.2gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)を脱イオン水で希釈して25gの塗装溶液とし、この溶液を、第1の塗装工程においてInnojet社の塗装機(IAC-025型)にて、5g/分のスプレー速度で、100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。次に、第2の塗装工程において、4.4gの金酸カリウム水溶液(4質量%Au)と30.6gのテトラアミン水酸化パラジウム溶液(3.8質量%Pd)との混合物を、5g/分のスプレー速度で100gの担体に塗布する。担体は、流動層中で固定する。流動床乾燥機中で再度静的乾燥(90℃/35分)をした後、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、触媒を、70℃で30分間還元する。
【0104】
触媒の元素分析を、強熱による損失分を調整して、下記の割合で示す。
Pd: 1.08質量%
Au: 0.65質量%
Cu: 0.48質量%
【0105】
(試験例8)触媒Hの製造
触媒Hは、触媒Aと同様にして製造し、唯一異なる点は、第1の工程において、酢酸カリウムの含浸中に、1質量%Cu濃度の25gのCu(OAc)溶液を使用することである。
【0106】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.91質量%
Au: 0.36質量%
Cu: 0.23質量%
【0107】
(試験例9)触媒Iの製造
触媒Iは、触媒Dと同様にして製造し、唯一異なる点は、第1の工程において、5gのCu(OAc)溶液(1質量%Cu)の代わりに、0.15gのKSnOを金酸カリウム溶液と混合することである。
【0108】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.88質量%
Au: 0.35質量%
Sn: 0.056質量%
【0109】
(試験例10)触媒Jの製造
触媒Jは、触媒Bと同様にして製造し、唯一異なる点は、第1の工程において、5gのCu(OAc)溶液(1質量%Cu)の代わりに、0.15gのKSnOを金酸カリウム含浸用溶液と混合することである。
【0110】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 0.90質量%
Au: 0.35質量%
Sn: 0.045質量%
【0111】
(比較例2)触媒Kの製造
100gの担体材料KA−160(ズードケミー社から得られる)を計量し、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、63.0g脱イオン水中の0.97g塩化銅二水和物の溶液を含浸させる。CuをNaOH溶液(220g脱イオン水に1.1gNaOH)中にて2.5時間、担体上に固定させ、上澄み液を取り除いた。次に、Clを含まない脱イオン水で担体を洗浄し、150℃にて窒素流中にて乾燥した。10.9gのNaPdCl溶液(12.36質量%Pd)と、52.2gの脱イオン水との混合物とともに、含浸によってCu(OH)を担持させ、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、Pdを塗布した。続いて、同様にして、PdをNaOH溶液(220g脱イオン水中2.5gNaOH)中にて担体に固定させ、Pd及びCu含有担体を、再度、Clを含まない脱イオン水で洗浄した。粗触媒を、流動床乾燥機中で、90℃/35分間にて乾燥し、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、70℃で30分間還元した。次に、同様に、金を、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、塗布する。粗触媒には、18.3gの金酸カリウム溶液(4質量%Au)と、44.6gの脱イオン水との混合物を含浸させる。さらに、チューブ炉中において静的に、フォーミングガス(N中に5%H)によって、触媒を、100℃で30分間還元する。続いて、触媒に、金酸カリウム溶液(55.4g脱イオン水に7.6g酢酸カリウムを溶解)を、穴埋め法(インシピエント湿潤法)によって、再度含浸させる。そして、流動床乾燥機中で、100℃にて乾燥を行った。
【0112】
触媒の元素分析を、下記の割合で示す。
Pd: 1.31質量%
Au: 0.82質量%
Cu: 0.32質量%
【0113】
(試験例11)酢酸ビニルモノマーの合成における、触媒の活性及び選択性に関する、触媒G−Kの試験結果
この試験のために、酢酸、エチレン、及び酸素を、5バールの圧力にて、それぞれ温度138℃/24時間、140℃/12時間、142℃/12時間で、各触媒G〜K上を通過させた(これらは、試験手順の自動的な遂行中における順序に従って適用するそれぞれの反応温度であり、即ち、138℃で24時間、次に140℃で12時間、次に142℃で12時間の反応温度で測定を行う)。使用した成分の濃度は、38%エチレン、5%O、0.9%CO、9%メタン、12%酢酸、残部Nである。
【0114】
表7〜11及び図5〜8は、触媒G〜Kの選択性又は活性を、O転化の作用として示す。本発明によって製造された触媒G−Jは、比較触媒Kよりも、かなり高い選択性又は活性(同じ活性水準)を有することが、この結果から明確に把握される。
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8