特許第6209815号(P6209815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209815
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】シリンダヘッドの冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/40 20060101AFI20171002BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20171002BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   F02F1/40 A
   F01P3/02 F
   F01P3/02 S
   F01P7/16 505B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-267810(P2012-267810)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114710(P2014-114710A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】禰津 広直
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸博
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−044914(JP,U)
【文献】 特開2000−104624(JP,A)
【文献】 米国特許第8001935(US,B2)
【文献】 特開2012−117439(JP,A)
【文献】 特開2009−236087(JP,A)
【文献】 米国特許第03165095(US,A)
【文献】 特開平02−149752(JP,A)
【文献】 特開平03−054314(JP,A)
【文献】 特開平06−074042(JP,A)
【文献】 特開2003−184644(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0114173(US,A1)
【文献】 特開2010−121561(JP,A)
【文献】 特開2010−216338(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0277708(US,A1)
【文献】 実公昭50−002926(JP,Y2)
【文献】 特開2009−068432(JP,A)
【文献】 特開2012−163065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00−11/20
F02F 1/00−1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水が通流するウォータジャケットが、下側ウォータジャケットと、この下側ウォータジャケットよりも上側に形成される上側ウォータジャケットと、を有する上下二層構造をなし、
上記上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを上下に仕切る仕切壁部を有し、
この仕切壁部には、上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを連通する連通孔が貫通形成され、
かつ、上記仕切壁部における連通孔の両側に、上記下側ウォータジャケットから上記連通孔を通して上記上側ウォータジャケットへ向かう冷却水の対流を促進するように上記連通孔へ向けて斜め上方に傾斜する一対の傾斜壁部が形成され
上記連通孔は、ヘッド幅方向の中央部に形成され、
上記傾斜壁部は、上記連通孔が形成された中央部を頂部として、ヘッド幅方向に上に凸な形状に形成されていることを特徴とするシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項2】
上記傾斜壁部は、クランク軸方向とシリンダ軸方向の双方に直交するヘッド幅方向に関して、上記連通孔へ向けて斜め上方に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項3】
上記連通孔は、クランク軸方向に関して隣り合う2つの気筒の燃焼室の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項4】
上記仕切壁部には、クランク軸方向の両端部に、上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを連通する補助連通孔が貫通形成されていることを特徴とする請求項3に記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項5】
上記上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットのうち、下側ウォータジャケットに、冷却水を導入する冷却水導入口が開口形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項6】
機関冷機時には、内燃機関の暖機を促進するように、電動式のウォータポンプを停止させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダヘッドの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドの冷却構造として、特許文献1に記載のものでは、冷却水が通流するウォータジャケットを、下側ウォータジャケットと、この下側ウォータジャケットよりも上側に配置された上側ウォータジャケットと、を有する上下二層の構造とし、両者を仕切る仕切壁部に、両者を連通する連通孔を貫通形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−184644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとの間の冷却水の通流が滞ると、両者間の温度差が大きくなって、冷却効率を低下させるおそれがある。具体的には、燃焼室に近い下側ウォータジャケットの温度が上側ウォータジャケットの温度に比して高くなり易いために、両者の温度差が大きくなると、燃焼室周りの冷却性能が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、連通孔を通して下側ウォータジャケットから上側ウォータジャケットへ向かう冷却水の流れ(対流)を促進し、上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとの温度差を低減することにより、冷却性能を向上することができる新規なシリンダヘッドの冷却構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシリンダヘッドの冷却構造では、冷却水が通流するウォータジャケットが、下側ウォータジャケットと、この下側ウォータジャケットよりも上側に形成される上側ウォータジャケットと、を有する上下二層構造をなしている。また、上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを上下に仕切る仕切壁部を有し、この仕切壁部には、上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを連通する連通孔が貫通形成されている。そして、上記仕切壁部における連通孔の両側に、冷却水の対流を促進するように上記連通孔へ向けて斜め上方に傾斜する一対の傾斜壁部が形成されている。
【0007】
機関運転中には、下側ウォータジャケットと上側ウォータジャケットのうち、燃焼室に近い下側ウォータジャケット内の冷却水温度が上昇し易く、両者の温度差により、連通孔を通して下側ウォータジャケットから上側ウォータジャケットへ向かう冷却水の流れ、すなわち対流が生じる。
【0008】
ここで本発明では、連通孔へ向けて斜め上方に傾斜する傾斜壁部を仕切壁部に設けたことで、この傾斜壁部に沿う形で下側ウォータジャケットから連通孔へ向かう冷却水の流れが促進される。つまり、傾斜壁部が下側ウォータジャケット内の冷却水を連通孔へ案内するガイド壁部として機能することとなり、上記の対流が促進される。
【発明の効果】
【0009】
このように本発明によれば、連通孔を通して下側ウォータジャケットから上側ウォータジャケットへ向かう冷却水の流れを促進し、下側ウォータジャケットと上側ウォータジャケットとの温度差を低減して、熱交換性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例に係る冷却構造が適用されたシリンダヘッドを示す図2のE−E線に沿う断面図。
図2】上記シリンダヘッドを示す上面図。
図3】上記シリンダヘッドを示す図2のA−A線に沿う断面図。
図4】上記シリンダヘッドを示す図2のB−B線に沿う断面図。
図5】上記シリンダヘッドを示す側面図。
図6】上記シリンダヘッドを示す図5のC−C線に沿う側面図。
図7】上記シリンダヘッドを示す図5のD−D線に沿う側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図示実施例により本発明を説明する。このシリンダヘッド10は、アルミ合金あるいは鋳鉄等の金属材料により一体的に鋳造されるもので、上方が開放する略箱形であって、かつ、気筒列方向・クランク軸方向L1に長尺な略直方体形状をなしている。このシリンダヘッド10は、上側周縁部の取付フランジ部11にヘッドカバー(図示省略)が固定されるとともに、下側周縁部でシリンダブロック(図示省略)に固定される。
【0012】
図3及び図4にも示すように、シリンダブロックの上面に固定されるシリンダヘッド10の下壁部12の下面側には、複数(この例では3つ)の気筒の燃焼室13がクランク軸方向L1に沿って配列されている。各燃焼室13は、上方へ窪んだペントルーフ型をなしている。各燃焼室13には一対の吸気ポート14と一対の排気ポート15とが連通している。図5及び図6に示すように、吸気ポート14については、各気筒の一対の吸気ポート14が途中で合流して吸気側の側壁に開口しており、つまり吸気側の側壁に合計3つの吸気ポート14が開口している。一方、排気ポート15については、全ての排気ポート15が途中で合流して排気側の側壁に開口している。つまり排気側の側壁には1つの排気ポート15のみが開口している。なお、ポート形状についてはこの実施例の構造に限らず、例えば排気ポートと吸気ポートとを同様の構造のものとしても良い。
【0013】
シリンダヘッド10には、点火プラグが取り付けられるプラグ孔16が各気筒毎に設けられている。プラグ孔16は、点火プラグを燃焼室13の頂部に臨んだ姿勢に支持するように、その下端部が燃焼室13の頂部付近に開放する円筒状をなしている。また、図2にも示すように、各プラグ孔16を横切ってヘッド幅方向L3に延在する隔壁部17が設けられている。各隔壁部17の上面には、吸気弁及び排気弁を駆動する2本のカムシャフトを回転可能に支持するための半割形状の軸受面18が形成されている。
【0014】
そして、シリンダヘッド10には、冷却水が通流する空間であるウォータジャケット20が形成されている。このウォータジャケット20は、車載搭載姿勢の鉛直方向・上下方向に沿うシリンダ軸方向L2に関して2層に分かれた構造となっており、つまり、下側ウォータジャケット21と、この下側ウォータジャケット21よりも上方に位置する上側ウォータジャケット22と、を有する上下2層構造をなしている。
【0015】
下側ウォータジャケット21と上側ウォータジャケット22とは、所定厚さを有する仕切壁部23によって仕切られている。下側ウォータジャケット21は、シリンダ軸方向L2に関して、シリンダヘッド10の下面を構成する下壁部12と、上記の仕切壁部23と、の間に形成されている。上側ウォータジャケット22は、上記の仕切壁部23と、この仕切壁部23の上方に配置される上壁部24と、の間に形成されている。上壁部24の上方の空間には吸気弁や排気弁等が配置される。
【0016】
仕切壁部23には、上側ウォータジャケット22と下側ウォータジャケット21とを連通する連通孔25が貫通形成されている。なお、鋳造の際に連通孔25を一体的に形成するように、鋳造時には上壁部24にも貫通孔26が連通孔25と同軸上に貫通形成されている。この貫通孔26は鋳造後には不要であるためにキャップ27により閉塞される。図4に示すように、連通孔25は、クランク軸方向L1に関して、隣り合う気筒の燃焼室13の間、つまり気筒間の中央部分の合計二箇所に設けられている。
【0017】
図1に示すように、各連通孔25は、クランク軸方向L1及びシリンダ軸方向L2の双方に直交するヘッド幅方向L3に関して、シリンダヘッド10の中央部に形成されている。そして、仕切壁部23には連通孔25のヘッド幅方向L3の両側に、連通孔25が形成された中央部へ向けて斜め上方に傾斜する一対の傾斜壁部28が形成されている。つまり、傾斜壁部28は、連通孔25が形成された中央部を頂部としてヘッド幅方向L3に上に凸な形状に形成されている。この傾斜壁部28は、車載状態においても水平方向に対して中央(連通孔25)が高くなるように傾斜しており、その傾斜角度は15度以上に設定されている。
【0018】
また、図3に示すように、上記の連通孔25が設けられていない仕切壁部23のクランク軸方向L1の両端部には、上側ウォータジャケット22と下側ウォータジャケット21とを連通する補助連通孔29が貫通形成されている。
【0019】
通常の機関稼働状態では、制御部1によって駆動制御される電動式のオイルポンプ2(図1参照)によって下方のシリンダブロックを循環した冷却水が、シリンダヘッド10の下壁部12に貫通形成された冷却水導入口30を通してシリンダヘッド10のウォータジャケット20、より詳しくは下側ウォータジャケット21の内部へと導入されて、ウォータジャケット20内を循環する。このように、上下二層構造の下側ウォータジャケット21と上側ウォータジャケット22のうち、下側ウォータジャケット21に冷却水導入口30が形成され、この下側ウォータジャケット21に冷却水が導入されるように構成されているために、下側ウォータジャケット21側に冷却水を積極的に循環させて、高温となり易い燃焼室13の近傍を効果的に冷却するように構成されている。
【0020】
一方、機関始動直後等のように、暖機運転を行う冷機状態では、内燃機関が稼働しているにもかかわらず電動式のウォータポンプ2を停止して、ウォータジャケット20内の冷却水の昇温を促進することで、ウォータジャケット20の近傍に配置されるオイル通路内を流れるエンジンオイルの昇温を促進し、ひいては内燃機関の暖機を促進して、暖機運転を短期間で終わらせるためにようになっている。
【0021】
このように機関稼働中に電動式のウォータポンプ2を停止させた場合、高温側の下側ウォータジャケット21と低温側の上側ウォータジャケット22との温度差によって、図1及び図4の矢印で示すように、温度の高い下側ウォータジャケット21から温度の低い上側ウォータジャケット22へ向かう冷却水の流れ、つまり対流が生じる。このように連通孔25を通して上側ウォータジャケット22内へ流れ込んだ冷却水は、クランク軸方向L1の両端に設けられた補助連通孔29を通して下側ウォータジャケット21のクランク軸方向へ戻される。このように、ウォータポンプ2を停止しているにもかかわらず、下側ウォータジャケット21と上側ウォータジャケット22とを循環する一連の冷却水の流れ(対流)が生成される。
【0022】
ここで本実施例では、仕切壁部23に中央の連通孔25へ向かって上向きに傾斜する傾斜壁部28を設けているために、この傾斜壁部28に沿う形で下側ウォータジャケット21内の冷却水が連通孔25を通して上側ウォータジャケット22へ流れ込み易くなる。つまり傾斜壁部28が下側ウォータジャケット21内の冷却水を連通孔25へ導く形となって、上記の対流が促進される。
【0023】
このように対流が促進されることで、アルミ合金製のシリンダヘッド10と冷却水との熱交換が促進されるとともに、下側ウォータジャケット21と上側ウォータジャケット22との温度差が抑制されて、下側ウォータジャケット21の過度な温度上昇が抑制される。ここで、下側ウォータジャケット21が過度に昇温すると、オーバーヒートや部品温度の過昇温を回避するように、ウォータポンプ2の停止による暖機促進運転を解除して、ウォータポンプ2を再作動させる必要が生じるものの、本実施例では傾斜壁部28を設けて上記の対流を促進することにより、下側ウォータジャケット21の過度な昇温を抑制することができる。
【0024】
また、上述した暖機後の通常の機関稼働状態においても、傾斜壁部28によって下側ウォータジャケット21から連通孔25を通して上側ウォータジャケット22へ向かう冷却水の流れが促進されることで、下側ウォータジャケット21と上側ウォータジャケット22との温度差を低減して、熱交換性能を向上することができる。
【0025】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形・変更を含むものである。例えば、直列4気筒の内燃機関のような他の形式の内燃機関のシリンダヘッドにも本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
2…ウォータポンプ
10…シリンダヘッド
20…ウォータジャケット
21…下側ウォータジャケット
22…上側ウォータジャケット
23…仕切壁部
25…連通孔
28…傾斜壁部
29…補助連通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7