(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209891
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】冷却用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20171002BHJP
F28F 13/02 20060101ALI20171002BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20171002BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20171002BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
F28F13/02 Z
H05K7/20 F
!H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-156935(P2013-156935)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-26787(P2015-26787A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】島野 薫
(72)【発明者】
【氏名】太刀川 英男
(72)【発明者】
【氏名】島口 寛子
【審査官】
木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−070525(JP,A)
【文献】
特表2009−515054(JP,A)
【文献】
特開昭53−080565(JP,A)
【文献】
特開昭56−127791(JP,A)
【文献】
実開昭57−146346(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34−23/473
F28F 13/02
H05K 7/20
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、窒素(N)を含むニッケル(Ni)合金、および、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd)の純金属又は合金のうち少なくとも一つを含む金属メッキ層を形成し、
前記金属メッキ層の表面に窒素を供給しつつプラズマ照射することで前記金属メッキ層の表面に多孔質層を形成する冷却用部材の製造方法。
【請求項2】
前記基材が、冷却を要する冷却対象物に接触可能なベース部と、流体である冷媒中に露出可能となるよう前記ベース部に設けられた複数の突起部とを備えている請求項1に記載の冷却用部材の製造方法。
【請求項3】
前記突起部の基端部から先端部に至る領域において、先端部側の領域の断面積は当該領域に隣接する基端部側の領域の断面積よりも小さいか等しく、かつ、基端部から先端部に至る全ての領域において前記隣接する断面積どうしが等しくならないように構成してある請求項2に記載の冷却用部材の製造方法。
【請求項4】
前記基材がアルミニウム(Al)或いは銅(Cu)、鉄(Fe)もしくはこれらの合金、又はセラミクス(Al2O3、AlN、Si3N4)やこれらの金属複合体であり、前記金属メッキ層がニッケル(Ni)系被膜である請求項1から3の何れか一項に記載の冷却用部材の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質層において、最表面に開口した空孔の平均孔径が前記金属メッキ層の厚さの100分の1〜5分の1の大きさである請求項1から4の何れか一項に記載の冷却用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被冷却対象物である各種装置に当接した状態で取り付けられ、当該装置からの吸熱を行う冷却用部材
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種装置の運転性能や信頼性を維持するために様々な冷却用部材が用いられる。そのようなものとして、例えば特許文献1に示す冷却用部材がある。この文献には、直接メタノール型燃料電池に用いる冷却用部材が記載されている。文献の記載によれば、直接メタノール型燃料電池の膜電極接合体を冷却する場合には、単なる金属板による熱拡散のみでは冷却効果が十分ではなく、さらに空気極上で生成する水によって冷却用部材の通気性が阻害されるという不都合も生じる。
【0003】
これを解決するものとして、特許文献1には、冷却用部材として空孔の周囲に金属粉末が焼結した骨格を有する金属多孔質焼結体を用いたものを利用する技術が開示されている。これにより、液体を金属多孔質結晶体の孔部に毛管現象によって吸収し、吸収した液体を効率よく蒸発させて周囲から蒸発熱を奪い、この結果、良好な冷却効果が発揮されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−313648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該公知文献1の冷却用部材は、単純な焼結構造ではなく、空孔の周囲に金属粉末が焼結した骨格を有する。例えば、金属粉末が集合して構成される骨格部には、平均細孔径が200μm以下の孔が形成され、この骨格部によってさらに平均径3000μm程度の空孔が形成されている。しかし、このように複雑な形態の金属組織を均質に形成するのは非常に困難である。例えば、用いる金属粉末の粒度分布が適切でない場合や、金属粉末とバインダーとの混合状態が不十分で部位によって金属粉末の凝集物が残存しているような場合、さらには、部位によって焼結温度が異なる場合など、各種の要因によって空孔の分布状態が変化する。その結果、所期の熱伝導性が得られない可能性がある。
また、冷却用部材の全体がこのような多孔質体で構成される結果、長期間の使用に際して冷却用部材が破損する可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、簡単に作製することができ、耐久性および放熱効果に優れた冷却用部材
の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る冷却用部材
の製造方法の特徴構成は、
基材の表面に、窒素(N)を含むニッケル(Ni)合金、および、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd)の純金属又は合金のうち少なくとも一つを含む金属
メッキ層
を形成し、
前記金属
メッキ層の表面に窒素を供給しつつプラズマ照射することで前記金属
メッキ層
の表面に多孔質層を形成する点にある。
【0008】
本構成に係る多孔質層は、従来の焼結方法等によるものではなく、基材の上に被覆された金属
メッキ層に窒素を供給しつつプラズマを照射して得るものである。これにより、窒素原子が、一旦、金属
メッキ層の内部に打ち込まれ、高温下にある金属
メッキ層の内部で窒素原子が再び金属
メッキ層の表面から大気中に拡散する。その際に金属
メッキ層に多数の孔部が形成され、多孔質層が形成される。
このように本構成の冷却用部材
の製造方法であれば、製作過程を簡便なものとしながら、基材に被着された表面積の大きな多孔質層によって優れた放熱効果を有する冷却用部材を得ることができる。
【0009】
本発明に係る冷却用部材
の製造方法においては、
前記基材が、冷却を要する冷却対象物に接触可能なベース部と、流体である冷媒中に露出可能となるよう前記ベース部に設けられた複数の突起部とを備えておくとよい。
【0010】
本構成のごとく冷却用部材に冷却対象物に接触可能なベース部を設けておくことで、冷却対象物からの吸熱を促進することができる。さらに、複数の突起部を備えることで、多孔質層を形成する基材の総面積が拡大する。よって、冷却に寄与する多孔の総面積が十分に大きなものとなり優れた冷却効果が発揮されるものとなる。
【0011】
本発明に係る冷却用部材
の製造方法においては、前記突起部の基端部から先端部に至る領域において、先端部側の領域の断面積は当該領域に隣接する基端部側の領域の断面積よりも小さいか等しく、かつ、基端部から先端部に至る全ての領域において前記隣接する断面積どうしが等しくならないように構成することができる。
【0012】
前記突起部の壁面どうしの間隔が基端部側から先端部側に位置するほど広くなるという限定は、突起部の形状が先端部側に向けて先細形状になっていることを意味する。本構成の冷却用部材
の製造方法ではこのような先細形状の部位が突起部の基端部から先端部に至る何れかの領域に少なくとも一か所あることを意味する。つまり、隣接する突起部どうしの間隔が、基端部側の部位どうしの間隔よりも先端部側の部位どうしの間隔が広い。よって、プラズマ照射する際に、突起の基端部の領域まで確実にプラズマ照射の効果が及び、突起部の全領域に亘って均等な多孔質層を形成することができる。この結果、冷却効果に優れた冷却用部材を得ることができる。
【0013】
本発明に係る冷却用部材
の製造方法においては、前記基材をアルミニウム(Al)或いは銅(Cu)、鉄(Fe)もしくはこれらの合金、又はセラミクス(Al
2O
3、AlN、Si
3N
4)やこれらの金属複合体で構成し、前記金属
メッキ層がニッケル(Ni)系被膜で構成することができる。
【0014】
本構成のごとく、基材を熱伝導度の高いアルミニウム或いは銅等の金属やこれらの合金、又はセラミクスやこれらの金属複合体で構成することで、被冷却対象物からの熱吸引速度を高めることができる。さらに、ニッケル系被膜を用いた場合、プラズマ照射によって被膜中に打ち込まれた窒素原子がニッケル系被膜中に留まり難く再び大気中に拡散し易くなる。よって、被膜中の広い領域に空孔が形成され、アルミニウムや銅等の良好な熱伝導性と相まって非常に優れた冷却効果を奏する冷却用部材を得ることができる。
【0015】
本発明に係る冷却用部材
の製造方法においては、前記多孔質層のうち最表面に開口した空孔の平均孔径を前記金属
メッキ層の厚さの100分の1〜5分の1の大きさにすると好適である。
【0016】
本構成のごとく、平均孔径が金属
メッキ層の厚さの100分の1〜5分の1の大きさであれば、冷却用の流体である空気や水等が空孔の内部に流通し易く、冷却用部材が良好な冷却性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る冷却用部材の外観を示す斜視図。
【
図3】別実施形態に係る冷却用部材の部分側断面図。
【
図4】本発明に係る冷却用部材の表面近傍の断面を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔概要〕
本発明に係る冷却用部材1は、各種装置に設けられる電源やコンピュータ等の機能性部材や、モータ或いはエンジン等の被冷却対象物に当接配置して効率的に放熱を行うものである。さらに具体的には、電源として用いられるインバータを構成するパワーデバイスや回路などは通常多くの発熱を伴う装置に好適に用いることができる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る冷却用部材1の実施形態につき説明する。
【0019】
〔装置形状〕
図1に本実施形態に係る冷却用部材1の外観を示し、
図2には部分側断面図を示す。
図1に示すように、冷却用部材1は被冷却対象物2に接触可能なベース部3を有する。本実施形態では、ベース部3は長方形の板状を呈する。ベース部3の形状は被冷却対象物2の取付部位の形状に合わせて任意に変更可能である。ベース部3の四隅には例えばボルト4を挿通する取付孔5を設けてあり、パワートランジスタ2aなどの被冷却対象物2に面当接した状態に固定される。
【0020】
ベース部3は、被冷却対象物2から熱を受け取る部位である。よって、ベース部3を形成する部材は熱伝導性の良いアルミニウム(Al)材あるいは銅(Cu)材もしくはこれらの合金等を用いるのが好ましい。ただしこれに限られるものではなく、鉄(Fe)を主成分とした一般鋼材やその合金、又はセラミクス(Al
2O
3、AlN、Si
3N
4)やこれらの金属複合体等を利用することもできる。
【0021】
図2に示すように、ベース部3には複数の突起部6が形成されている。ベース部3と突起部6とは熱伝導を良好に維持する観点から同じ材質の部材によって一体成形するのが望ましい。一体形成は、鋳造・切削加工・鍛造・溶接など各種の方法で実施することができる。複数の突起部6は、型成形や切削加工等によって形成することができる。これら突起部6の形状は、冷却用部材1の総表面積や、空気や水など冷媒の種類によって任意に設定可能である。ただし、後に説明するプラズマ照射の条件によって、突起部6の基端部まで確実にプラズマ照射処理できる隙間を備えているのが望ましい。
【0022】
図2には、直方体の突起部6を多数設けた例を示す。突起部6の高さ寸法、あるいは、高さ方向に垂直な断面形状等は任意に設定可能である。断面形状は矩形に限らず円形等であってもよい。
【0023】
〔多孔質層〕
図2および
図3に示す如く、突起部6の表面およびベース部3の表面には多孔質層8を形成してある。本実施形態では、突起部6およびベース部3を形成するアルミニウム材を基材とし、この基材の表面にニッケル系被膜をメッキ形成し、この被膜に窒素ガスを供給しつつプラズマ照射を行う。このニッケル系被膜は金属
メッキ層の一例である。プラズマ照射は図外のチャンバーの内部で行い、その条件は、例えば、チャンバー内圧:300Pa,プラズマ電流:4A,窒素ガス流量:40ml/分,基材加熱温度:400℃,処理時間:1hrである。これにより窒素原子のニッケル系被膜への固溶と、窒素原子の再ガス化による外気中への拡散とが同時に進行する。このガス拡散の過程で空孔が形成される。
【0024】
空孔のサイズは、供給する窒素ガス流量・処理温度・処理時間等に応じて変動する。特
に、処理時間に影響を受け易く、処理時間が長いほど空孔直径が大きくなる傾向がある。
【0025】
ニッケル系被膜には他の元素としてリン(P)やホウ素(B)を混入可能である。これらを混入することで空孔率が増大する。特に、リン(P)の混入により組織が硬くなり、多孔質膜の強度が向上する。
また、この他に、多孔質層8を形成する被膜としては、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd)等の純金属又は合金のうち少なくとも一つを含む金属メッキ層を用いることもできる。
【0026】
基材とニッケル系被膜との間には中間層である例えば亜鉛(Zn)被膜を形成しておいてもよい。基材がアルミニウムである場合に亜鉛皮膜を形成しておくと、アルミニウムにニッケル系被膜を直接形成するよりも、ニッケル系被膜の密着性が向上する。
【0027】
多孔質層8の表面に開口した空孔の平均孔径は被膜の厚さの100分の1〜5分の1の大きさであることが好ましい。孔径が過小であれば冷媒が円滑に孔の内部を流通することができず冷却効果が損なわれる。孔径が過大であれば多孔質層8の強度が不足し脆い被膜となる。
【0028】
ニッケル系被膜の厚みは、多孔質層8を厚く形成するという意味では厚いほど好ましいが、現実には1μm〜100μm程度である。この厚みが薄いと、多孔質領域が十分に確保できず冷却効果が不十分となる。厚みが過大であると被膜の強度が低下し基材から剥離し易くなる。
【0029】
多孔質層8の厚みは、冷媒に対する接触面積を増大させるためには厚い方が良い。現在のところ20μm程度までは形成可能である。この厚みが薄いと、冷媒に対する接触面積が十分に確保できず冷却効果が不十分となる。厚みが過大になると被膜の強度が低下し基材から剥離し易くなるなどの不都合が生じる。
【0030】
(別実施形態)
図4に冷却用部材1の別実施形態を示す。
ここでは、突起部6の形状を、基端部から先端部に至る何れかの領域で先細形状に構成する。その結果、プラズマ照射の際に、基端部においても窒素原子を確実に基材に進入させることができ、多孔質層8を基端部側まで均等に形成し易くなる。また、先端部の側ほど突起部6どうしの間隔が広くなるため冷媒が突起部6どうしの間に進入し易くなる。特に基端部側での冷媒の滞留が低減されるから冷却効果を高めることができる。
【0031】
図4には、突起部6の傾斜を基端部から先端部まで均一に形成した例を示しているが、必ずしも基端部から先端部までの全長に亘って傾斜させる必要はない。例えば、先端部側のみ或いは基端部側のみを先細形状とし、その他の部分は単なる角柱状に構成してもよい。さらに、高さ方向に沿って基端部側の半分を太い角柱で構成し、先端部側の半分を細い角柱としてもよい。この場合、上下の角柱どうしの境界位置では明瞭な段部が形成される。このような別形態の突起部6であっても、突起部6の基端部まで多孔質層8が形成され易くなるという効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る冷却用部材は、各種装置に設けられるインバータ等の電源やコンピュータ等の機能性部材として用いることができる他、モータ或いはエンジン等の冷却に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
3 ベース部
6 突起部
8 多孔質層
11 冷却用部材