特許第6209902号(P6209902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6209902-表面処理ドリル 図000002
  • 特許6209902-表面処理ドリル 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209902
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】表面処理ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20171002BHJP
【FI】
   B23B51/00 J
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-175635(P2013-175635)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-44253(P2015-44253A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】大田 康史
(72)【発明者】
【氏名】福永 稔
(72)【発明者】
【氏名】松村 宏一
(72)【発明者】
【氏名】村田 和久
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−048014(JP,A)
【文献】 特開2002−210607(JP,A)
【文献】 特開昭54−013427(JP,A)
【文献】 特開2000−005904(JP,A)
【文献】 特表2006−507954(JP,A)
【文献】 実開平5−24219(JP,U)
【文献】 特開平8−39317(JP,A)
【文献】 特開2009−233851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00 − 51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形円柱状をなすドリル本体の軸線方向に沿う先端側部分に刃部が設けられ、基端側部分にシャンク部が設けられ、前記ドリル本体の表面に処理が施された表面処理ドリルであって、
前記ドリル本体の母材は鋼材であり、
前記ドリル本体には、先端から基端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、
前記ドリル本体のうち、前記切屑排出溝が形成された範囲が前記刃部とされ、この範囲よりも基端側が前記シャンク部とされ、
前記ドリル本体の表面のうち、
前記刃部に対応する表面部分は、窒化及び酸化の両方の処理、酸化処理、コーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理のいずれかの処理が施されて形成されており、
前記シャンク部に対応する表面部分は、窒化処理が施されて形成されていることを特徴とする表面処理ドリル。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理ドリルであって、
前記シャンク部の外径が、前記刃部の外径と同一、又はそれより大きくされていることを特徴とする表面処理ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル本体の表面に処理が施された表面処理ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外形円柱状をなすドリル本体の軸線方向に沿う先端側部分に刃部が設けられ、基端側部分にシャンク部が設けられ、前記ドリル本体の表面に処理が施された表面処理ドリルが知られている。
例えば下記特許文献1には、鋼系母材表面に窒化処理が施されて窒素拡散層(表面硬化層)が形成された刃先を有するドリルが記載されている。また、それ以外の表面硬化層として、ドリル刃先の表面に酸化処理が施されたもの、窒化及び酸化の両方の処理が施されたものが知られている。また、ドリル刃先の表面にコーティング処理を施して、硬質被覆層を形成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−005904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の表面処理ドリルでは、ドリル本体の表面のうち、刃部に対応する表面部分の処理について切屑排出性、耐溶着性、耐摩耗性等を向上させる検討はなされていたが、シャンク部に対応する表面部分の処理については、未だ十分な検討がなされていなかった。
【0005】
具体的に、シャンク部の表面部分に何ら処理が施されていない場合、つまり鋼材からなるドリル本体の母材自体が前記表面部分に露出している場合には、該シャンク部に傷が付きやすくなり、三爪チャック等のホルダによる把持力(支持力)が低下することで切削加工中に滑り(空転)が発生したり、取り付け精度が確保できなくなって加工品位が低下したりするおそれがある。
尚、本明細書でいう「ホルダ」とは、ドリルのシャンク部を着脱可能に把持して該ドリルを回転させる駆動源との間に介装され(又は駆動源に一体に設けられ)、駆動源からの回転力をドリルに伝達する回転力伝達手段を指している。
【0006】
そこで、例えばドリル本体の表面全体に窒化処理を施すことで、刃部の表面部分とともにシャンク部の表面部分にも窒化処理することが考えられる。しかしながらこの場合、シャンク部の硬度は高められて傷は付きにくくなるが、刃部については切屑排出性や耐溶着性を確保しづらくなる。
【0007】
また、ドリル本体の表面全体に酸化処理、又は、窒化及び酸化の両方の処理を施すことで、刃部の切屑排出性や耐溶着性を高めることができるが、同様の処理をシャンク部の表面部分に施した場合、シャンク部の潤滑性が高められて滑りやすくなり、ホルダによる把持力を確保しづらくなる。
【0008】
また、ドリル本体の表面全体にコーティング処理を施すことで、刃部の耐摩耗性を高めることができるが、同様の処理をシャンク部の表面部分に施した場合、コーティングにより形成された硬質被覆層の膜厚がシャンク部の軸線方向に沿う各部で均一になりにくく、そのためホルダの把持力や取り付け精度を安定して確保しづらくなる。また、ドリル全体をコーティングするために製造コストが嵩んでしまう。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、刃部の切屑排出性、耐溶着性、耐摩耗性等を高めつつ、シャンク部については表面に傷が付くことを防止でき、かつホルダとの滑りを防止でき、これによりホルダによるシャンク部の把持力や取り付け精度を安定して確保できるとともに、切削精度を高品位に安定して維持できる表面処理ドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、外形円柱状をなすドリル本体の軸線方向に沿う先端側部分に刃部が設けられ、基端側部分にシャンク部が設けられ、前記ドリル本体の表面に処理が施された表面処理ドリルであって、前記ドリル本体の母材は鋼材であり、前記ドリル本体には、先端から基端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、前記ドリル本体のうち、前記切屑排出溝が形成された範囲が前記刃部とされ、この範囲よりも基端側が前記シャンク部とされ、前記ドリル本体の表面のうち、前記刃部に対応する表面部分は、窒化及び酸化の両方の処理、酸化処理、コーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理のいずれかの処理が施されて形成されており、前記シャンク部に対応する表面部分は、窒化処理が施されて形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の表面処理ドリルにおいて、ドリル本体の表面のうち、刃部に対応する表面部分が、窒化及び酸化の両方の処理が施されて形成されている場合には、該刃部の母材表面に、窒化層(窒素拡散層)及び酸化層(酸素拡散層)からなる母材よりも硬質の処理層が形成される。そして、前記酸化層により刃部の潤滑性が高められて切屑排出性や耐溶着性が向上し、前記窒化層により刃部の硬度が高められて耐摩耗性が向上する。
【0012】
また、ドリル本体の表面のうち、刃部に対応する表面部分が、酸化処理が施されて形成されている場合には、該刃部の母材表面に、酸化層からなる処理層が形成される。この酸化層により、刃部の潤滑性が高められるとともに、切屑排出性や耐溶着性が向上する。
【0013】
また、ドリル本体の表面のうち、刃部に対応する表面部分が、コーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理が施されて形成されている場合には、該刃部の母材表面、又は母材表面の窒化層上に、硬質被覆層が形成される。この硬質被覆層により、刃部の硬度が大幅に高められるとともに、耐摩耗性が向上する。
【0014】
そして、この表面処理ドリルによれば、ドリル本体の表面のうち、シャンク部に対応する表面部分が、窒化処理が施されて形成されているので、該シャンク部の母材表面に、窒化層からなる母材よりも硬質の処理層が形成される。この窒化層によりシャンク部の表面部分の硬度が高められて、該シャンク部に傷が付くようなことが防止される。また窒化層は、例えば前記酸化層とは異なり、シャンク部の潤滑性を高めてしまうことはないので、ホルダによるシャンク部の把持力が安定して確保される。
【0015】
以上より、本発明によれば、刃部の切屑排出性、耐溶着性、耐摩耗性等を高めつつ、シャンク部については表面に傷が付くことを防止でき、かつホルダとの滑りを防止でき、これによりホルダによるシャンク部の把持力や取り付け精度を安定して確保できるとともに、切削精度を高品位に安定して維持することが可能である。
【0016】
また、本発明の表面処理ドリルにおいて、前記シャンク部の外径が、前記刃部の外径と同一、又はそれより大きくされていることとしてもよい。
【0017】
この構成によれば、表面処理ドリルの製造時にシャンク部の外周を研磨し、窒化層を露出させる作業を要する場合において、前記作業が容易になるとともに、該シャンク部の外径精度が向上する。また、ホルダによってシャンク部をより安定的に把持可能である。従って、前述した効果がより顕著に得られることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面処理ドリルによれば、刃部の切屑排出性、耐溶着性、耐摩耗性等を高めつつ、シャンク部については表面に傷が付くことを防止でき、かつホルダとの滑りを防止でき、これによりホルダによるシャンク部の把持力や取り付け精度を安定して確保できるとともに、切削精度を高品位に安定して維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る表面処理ドリルを示す側面図である。
図2】本発明の表面処理ドリルの他の一例(変形例)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る表面処理ドリル10について、図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態の表面処理ドリル10は、外形円柱状をなすドリル本体1の軸線O方向に沿う先端側部分に刃部2が設けられ、基端側部分にシャンク部3が設けられ、前記ドリル本体1の表面に処理が施されたものである。
ここで、本明細書では、ドリル本体1の軸線O方向に沿う刃部2側を先端側といい、シャンク部3側を基端側という。また、軸線Oに直交する方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向という。尚、前記周方向のうち、切削加工時に表面処理ドリル10が回転させられる方向をドリル回転方向T(又はドリル回転方向Tの前方)といい、これとは反対側へ向かう方向をドリル回転方向Tの後方という。
【0021】
ドリル本体1は、例えば高速度工具鋼等の硬質の鋼材により形成されて軸線Oを中心とした外形円柱状をなしており、その基端部(図1における右側部分)は円柱状のままのシャンク部3とされるとともに、先端部(図1における左側部分)は刃部2とされている。図1に示される例では、ドリル本体1においてシャンク部3とされた基端部以外の部位(ドリル本体1の先端部から中央部にかけての部位)が、刃部2となっている。
【0022】
この表面処理ドリル10は、ドリル本体1のシャンク部3がボール盤や電動ドリルの三爪チャック等のホルダ(不図示)に把持され、ドリル回転方向Tに回転させられつつ先端側に送り出されることにより、刃部2によってワーク(被削材)に穴あけ加工を行う。
尚、前記ホルダとは、表面処理ドリル10のシャンク部3を着脱可能に把持して該表面処理ドリル10を回転させる駆動源との間に介装され(又は駆動源に一体に設けられ)、駆動源からの回転力を表面処理ドリル10に伝達する回転力伝達手段である。
【0023】
刃部2の外周には、ドリル本体1の先端から基端側に向けて延びる切屑排出溝4が形成されている。本実施形態では、一対の切屑排出溝4が、軸線Oに関して回転対称位置となるように、ドリル本体1の基端側に向かうに従いドリル回転方向Tの後方に向かって捩れて形成されており、つまりこの表面処理ドリル10は二枚刃のツイストドリルとされている。切屑排出溝4は、ドリル本体1の軸線O方向に沿う中央部付近で径方向外側へ向けて外周面に切れ上がっており、この切屑排出溝4が形成された範囲が刃部2とされ、この範囲よりも基端側がシャンク部3とされている。
【0024】
切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面における先端と、ドリル本体1の先端面5との交差稜線部には、前記壁面をすくい面とする切刃6が形成されている。切刃6は径方向外側へ向かうに従い基端側に向かうように延びており、所定の先端角が与えられている。また、ドリル本体1の先端面5は先端逃げ面とされており、切刃6からドリル回転方向Tの後方に向かうに従いドリル本体1の基端側に向かうように逃げ角が与えられている。
【0025】
刃部2の外周面(切屑排出溝4以外の部分)におけるドリル回転方向Tの縁部には、切刃6の直径と等しい直径の軸線Oを中心とする仮想円筒面上に外周面が位置するマージン部7が、切屑排出溝4に沿って形成されている。また、刃部2の外周面におけるマージン部7のドリル回転方向Tの後方に位置する部分には、前記仮想円筒面よりも僅かに直径が小さい仮想円筒面上に位置するように、二番取り面8が形成されている。尚、刃部2の外周面及びそのマージン部7には、僅かなバックテーパが与えられていてもよい。
【0026】
本実施形態では、シャンク部3の外径は、刃部2の外径よりも大きくされている。また、シャンク部3における刃部2との連結部分には、先端側へ向かうに従い漸次縮径するテーパ部3aが形成されている。シャンク部3におけるテーパ部3a以外の部分は軸線O方向に沿って一定の外径とされており、この部分がホルダに把持される被把持部3bとなっている。
【0027】
そして、このドリル本体1の表面のうち、刃部2に対応する表面部分は、窒化及び酸化の両方の処理、酸化処理、コーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理のいずれかの処理が施されて形成されており、シャンク部3に対応する表面部分は、窒化処理が施されて形成されている。
【0028】
具体的に、刃部2の表面部分に窒化及び酸化の両方の処理が施された場合には、該刃部2の表面部分には、ドリル本体1の母材よりも硬質の窒化層(窒素拡散層)及び酸化層(酸素拡散層)からなる処理層が形成される。この場合、これらの窒化層及び酸化層は、ドリル本体1の母材から径方向外側へ向かって窒化層、酸化層の順に形成されている。
【0029】
また、刃部2の表面部分に酸化処理が施された場合には、該刃部2の表面部分には、酸化層からなる処理層が形成される。
また、刃部2の表面部分にコーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理が施された場合には、該刃部2の表面部分には、コーティング皮膜からなる硬質被覆層が形成される。具体的に、刃部2に窒化及びコーティングの両方の処理が施された場合、ドリル本体1の母材から径方向外側へ向かって窒化層、硬質被覆層がこの順に形成される。前記硬質被覆層としては、例えば、TiNやTiCN、TiAlN、CrN等の化合物被膜やDLC膜、ダイヤモンド被膜等が挙げられる。
【0030】
また、シャンク部3の表面部分に窒化処理が施されることで、該シャンク部3の表面部分には、窒化層からなる処理層が形成される。図示の例では、シャンク部3の表面部分のうち、少なくとも被把持部3bに対応する部分(図1にハッチングで示される部分)に、窒化処理が施されてなる窒化層が形成されている。
【0031】
次に、本実施形態の表面処理ドリル10を製造する方法について説明する。
【0032】
[製造方法1]
最初に、ドリル本体1の表面のうち、刃部2の表面部分が、窒化及び酸化の両方の処理が施されて形成され、シャンク部3の表面部分が、窒化処理が施されて形成されている場合について、下記に説明する。
【0033】
この場合、ドリル本体1の刃部2及びシャンク部3に上述した各形状が付与された状態から、該ドリル本体1の母材である鋼材の表面全体(ただし、シャンク部3の基端面は除いてもよい)に窒化処理を施した後、酸化処理を施して、ドリル本体1の表面全体に窒化及び酸化の両方の処理が施された中間体を製造する。
次いで、前記中間体の表面のうち、シャンク部3に対応する表面部分のみ最外層の酸化層を研磨(研削)等により除去して、窒化層を露出させる。尚、窒化層を露出させるのは、シャンク部3のうちホルダに把持される被把持部3bのみでよく、それ以外のテーパ部3a等には酸化層が残っていてもよい。
【0034】
[製造方法2]
次に、ドリル本体1の表面のうち、刃部2の表面部分が、酸化処理が施されて形成され、シャンク部3の表面部分が、窒化処理が施されて形成されている場合について、下記に説明する。
【0035】
この場合、ドリル本体1のシャンク部3にのみ上述した形状が付与された状態から、該ドリル本体1の母材である鋼材の表面全体に窒化処理を施す。
次いで、ドリル本体1の刃部2に上述した形状を付与することで、該刃部2の表面部分のみ窒化層を除去して、中間体を製造する。
次いで、前記中間体の表面全体に酸化処理を施した後、該中間体の表面のうち、シャンク部3に対応する表面部分のみ最外層の酸化層を研磨等により除去して、窒化層を露出させる。
【0036】
[製造方法3]
次に、ドリル本体1の表面のうち、刃部2の表面部分が、窒化及びコーティングの両方の処理が施されて形成され、シャンク部3の表面部分が、窒化処理が施されて形成されている場合について、下記に説明する。
【0037】
この場合、ドリル本体1の刃部2及びシャンク部3に上述した各形状が付与された状態から、該ドリル本体1の母材である鋼材の表面全体に窒化処理を施して、中間体を製造する。
次いで、前記中間体の表面のうち、刃部2に対応する表面部分にのみコーティング処理を施して、硬質被覆層を形成する。
【0038】
[製造方法4]
次に、ドリル本体1の表面のうち、刃部2の表面部分が、コーティング処理が施されて形成され、シャンク部3の表面部分が、窒化処理が施されて形成されている場合について、下記に説明する。
【0039】
この場合、ドリル本体1のシャンク部3にのみ上述した形状が付与された状態から、該ドリル本体1の母材である鋼材の表面全体に窒化処理を施す。
次いで、ドリル本体1の刃部2に上述した形状を付与することで、該刃部2の表面部分のみ窒化層を除去して、中間体を製造する。
次いで、前記中間体の表面のうち、刃部2に対応する表面部分にのみコーティング処理を施して、硬質被覆層を形成する。
【0040】
以上説明した本実施形態の表面処理ドリル10において、ドリル本体1の表面のうち、刃部2に対応する表面部分が、窒化及び酸化の両方の処理が施されて形成されている場合には、該刃部2の母材表面に、窒化層及び酸化層からなる母材よりも硬質の処理層が形成される。そして、前記酸化層により刃部2の潤滑性が高められて切屑排出性や耐溶着性が向上し、前記窒化層により刃部2の硬度が高められて耐摩耗性が向上する。
【0041】
また、ドリル本体1の表面のうち、刃部2に対応する表面部分が、酸化処理が施されて形成されている場合には、該刃部2の母材表面に、酸化層からなる処理層が形成される。この酸化層により、刃部2の潤滑性が高められるとともに、切屑排出性や耐溶着性が向上する。
【0042】
また、ドリル本体1の表面のうち、刃部2に対応する表面部分が、コーティング処理、又は、窒化及びコーティングの両方の処理が施されて形成されている場合には、該刃部2の母材表面に、少なくとも硬質被覆層が形成される。尚、本実施形態で説明した[製造方法3]の例では、刃部2の母材表面に窒化層が形成され、さらに該窒化層上に硬質被覆層が形成されている。この硬質被覆層により、刃部2の硬度が大幅に高められるとともに、耐摩耗性が向上する。
【0043】
そして、この表面処理ドリル10によれば、ドリル本体1の表面のうち、シャンク部3に対応する表面部分が、窒化処理が施されて形成されているので、該シャンク部3の母材表面に、窒化層からなる母材よりも硬質の処理層が形成される。尚、鋼材に窒化処理を施すことで、その表面のビッカース硬さは、例えば約850Hvから約1000Hvに高められる。この窒化層によりシャンク部3の表面部分の硬度が高められて、該シャンク部3に傷が付くようなことが防止される。また窒化層は、例えば前記酸化層とは異なり、シャンク部3の潤滑性を高めてしまうことはないので、ホルダによるシャンク部3の把持力が安定して確保される。
【0044】
以上より、本実施形態によれば、刃部2の切屑排出性、耐溶着性、耐摩耗性等を高めつつ、シャンク部3については表面に傷が付くことを防止でき、かつホルダとの滑りを防止でき、これによりホルダによるシャンク部3の把持力や取り付け精度を安定して確保できるとともに、切削精度を高品位に安定して維持することが可能である。
【0045】
また、シャンク部3の外径が、刃部2の外径より大きくされているので、表面処理ドリル10の製造時において、シャンク部3の外周を研磨し、窒化層を露出させる作業が容易になるとともに、該シャンク部3の外径精度が向上する。また、ホルダによってシャンク部3をより安定的に把持可能である。従って、前述した効果がより顕著に得られることになる。
【0046】
ここで、図2に示されるものは、本実施形態の表面処理ドリル10の他の一例(変形例)である。
この例では、シャンク部3の外径が、刃部2の外径と同一とされている。このような表面処理ドリル10を製造するには、予めドリル本体1のシャンク部3の外径を、製造時に研磨によって除去される酸化層の切削代を見込んで、刃部2の外径よりも僅かに大きく形成しておけばよい。
【0047】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、前述の実施形態では、刃部2の外周面にマージン部7及び二番取り面8が形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば刃部2の外周面に二番取り面8が形成されていなくてもよく、この場合、表面処理ドリル10は、刃部2の外周面全体(切屑排出溝4を除く部分)が、切刃6の直径(切刃6の外周端が軸線O回りに周回して形成する円の軌跡)と等しい直径の軸線Oを中心とする仮想円筒面上に位置するように形成された、所謂フルマージンタイプのドリルとされる。
【0049】
また、前述の実施形態では、シャンク部3の外径が、刃部2の外径と同一、又はそれより大きくされているとしたが、これに限定されるものではなく、シャンク部3の外径が、刃部2の外径よりも小さくてもよい。
【0050】
また、前述の実施形態では、シャンク部3の表面のうち、ホルダに把持される被把持部3b全体に、母材に窒化処理が施された窒化層が露出しているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば被把持部3bの軸線O方向に沿う長さが十分に確保されている場合や、被把持部3bにおいてホルダに把持される部分が該被把持部3b全体の一部分である場合には、被把持部3b全体に窒化層を露出させなくてもよい。つまり、シャンク部3の表面のうち、少なくともホルダに把持される表面部分にのみ、窒化処理が施されていればよい。
【0051】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及び尚書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0052】
1 ドリル本体
2 刃部
3 シャンク部
10 表面処理ドリル
O 軸線
図1
図2