(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209911
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】地下構造、及び地下躯体を有する建造物の建替え方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/12 20060101AFI20171002BHJP
E04G 23/06 20060101ALI20171002BHJP
E02D 29/045 20060101ALI20171002BHJP
E21D 13/00 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
E02D31/12
E04G23/06 Z
E02D29/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-189271(P2013-189271)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-55105(P2015-55105A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 吉亮
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−177410(JP,A)
【文献】
特開昭63−069605(JP,A)
【文献】
特開2007−182592(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0049079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/12
E02D 29/045
E04G 23/06
E21D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下躯体を有する建造物の建替時の地下構造であって、
解体されずに地下に残置された既存耐圧盤と、
前記既存耐圧盤を貫通するように構築された新設場所打ちコンクリート杭と、
前記既存耐圧盤上に前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部と一体で構築され、前記新設場所打ちコンクリート杭及び前記既存耐圧盤の貫通孔よりも大径である拡径部と、
前記既存耐圧盤上に前記拡径部を囲い地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成された筒状体と
を備える地下構造。
【請求項2】
前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部には鋼管が埋設され、前記拡径部にはシアコネクター又はコッターが設けられている請求項1に記載の地下構造。
【請求項3】
地下躯体を有する建造物を、既存耐圧盤を地下に残置して建替える方法であって、
前記既存耐圧盤上に地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成される筒状体を構築する工程と、
新設場所打ちコンクリート杭を、前記筒状体を通して前記既存耐圧盤を貫通するように打設する工程と、
前記既存耐圧盤上に前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部と一体で、前記新設場所打ちコンクリート杭及び前記既存耐圧盤の貫通孔よりも大径である拡径部を構築する工程と
を備える建替え方法。
【請求項4】
前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部に鋼管を埋設し、前記拡径部にシアコネクター又はコッターを設ける請求項3に記載の建替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下躯体を有する建造物の建替時の地下構造、及び地下躯体を有する建造物の建替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下躯体を有する建造物を建替える方法として、既存の地下躯体の壁や耐圧盤を残置して新設の地下躯体を構築する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法では、既設の地下躯体の下方に位置する被圧帯水層からの水圧で既存の耐圧盤が浮き上がったり盤ぶくれ現象が生じたりすることを抑える目的で、既存の耐圧盤から下方に場所打ちコンクリート杭を打設して杭頭部と既存の耐圧盤とを一体化し、この状態で、既存の柱や梁を解体して新設の地下躯体を構築する。これにより、既存の耐圧盤に作用する水圧に対して、地下躯体の重量と杭の引抜き抵抗力とによってバランスがとられ、既存の耐圧盤の浮き上がりや盤ぶくれ現象の発生が抑えられる。
【0003】
また、特許文献1に記載の方法では、杭の施工中に地下水が噴き上がって飛散することを防止するために、杭施工用のケーシングをその頭部が地下水位よりも高くなるように設置して、そのケーシングを通して場所打ちコンクリート杭を打設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4820642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法において、既製品のケーシングを用いる場合には、そのサイズが限られていることにより、場所打ちコンクリート杭の直径が制限される。また、場所打ちコンクリート杭の大径化を目的として専用品のケーシングを作製する場合には、コストが上昇する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、地下躯体を有する建造物を建替える際に、場所打ちコンクリート杭を打設して既存耐圧盤の浮き上がりや盤ぶくれ現象の発生を抑えるにあたって、場所打ちコンクリート杭の大径化を可能にすると共にコストを低減することを課題にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る地下構造は、地下躯体を有する建造物の建替時の地下構造であって、解体されずに地下に残置された既存耐圧盤と、前記既存耐圧盤を貫通するように構築された新設場所打ちコンクリート杭と、前記既存耐圧盤上に前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部と一体で構築され、前記新設場所打ちコンクリート杭及び前記既存耐圧盤の貫通孔よりも大径である拡径部と、前記既存耐圧盤上に前記拡径部を囲い地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成された筒状体とを備える。
【0008】
前記地下構造において、前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部には鋼管が埋設され、前記拡径部にはシアコネクター又はコッターが設けられてもよい。
【0009】
また、本発明に係る建替え方法は、地下躯体を有する建造物を、既存耐圧盤を地下に残置して建替える方法であって、前記既存耐圧盤上に地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成される筒状体を構築する工程と、新設場所打ちコンクリート杭を、前記筒状体を通して前記既存耐圧盤を貫通するように打設する工程と、前記既存耐圧盤上に前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部と一体で、前記新設場所打ちコンクリート杭及び前記既存耐圧盤の貫通孔よりも大径である拡径部を構築する工程とを備える。
【0010】
前記建替え方法において、前記新設場所打ちコンクリート杭の頭部に鋼管を埋設し、前記拡径部にシアコネクター又はコッターを設けてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地下躯体を有する建造物を建替える際に、場所打ちコンクリート杭を打設して既存耐圧盤の浮き上がりや盤ぶくれ現象の発生を抑えるのにあたって、場所打ちコンクリート杭の大径化を可能にすると共にコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る地下構造の概略構成を示す立断面図である。
【
図2】新設杭の頭部と既存耐圧盤との接合部を示す立断面図である。
【
図3】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図4】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図5】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図6】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図7】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図8】地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
【
図9】他の実施形態に係る新設杭の頭部と既存耐圧盤との接合構造を示す立断面図である。
【
図10】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図11】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図12】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図13】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図14】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図15】他の実施形態に係る新設杭の頭部と既存耐圧盤との接合構造を示す立断面図である。
【
図16】(A)は、本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図であり、(B)は、PCaコンクリート部を示す斜視図である。
【
図17】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図18】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図19】本実施形態に係る新設杭を打設する手順を示す立断面図である。
【
図20】他の実施形態に係る新設杭の頭部と既存耐圧盤との接合構造を示す立断面図である。
【
図21】逆打ち工法を実施する場合の新設杭の頭部と既存耐圧盤との接合構造を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係る地下構造10の概略構成を示す立断面図である。本実施形態に係る地下構造10は、地下部分を有するビルの建替え時の地下部分の構造である。ここで、地下構造10は帯水層に位置するため、地下構造10には地下水圧による揚圧力が作用する。
【0014】
地下構造10は、解体されずに残置された既存地下躯体20と、既存地下躯体20の内側に構築された複数の筒状体30と、既存地下躯体20の下方の地盤に打設された複数の新設杭40とを備えている。また、既存地下躯体20は、既存耐圧盤22と、既存壁24と、既存柱26と、既存梁28とを備えている。
【0015】
新設杭40は、既存耐圧盤22の下方の地盤中における既存柱26及び既存梁28とは平面的に重ならない位置に打設された場所打ち鋼管コンクリートであり、その頭部は鋼管42が埋設されることで補強されている。なお、新設杭40を、既存柱26及び既存梁28と平面的に重なる位置に打設してもよく、その場合には、筒状体30が、地下既存躯体20を補強するように設置された後に、既存柱26及び既存梁28が撤去される。また、新設杭40には、鉄筋籠44(
図2参照)が埋設されており、この鉄筋籠44の上部は、鋼管42に挿通されている。さらに、新設杭40は多段拡径杭であり、拡底部40Bと、拡底部40Bより上側に形成された複数段の拡径部40Cとを備えている。
【0016】
また、筒状体30は、コンクリート壁により矩形筒状に構成された仮設の構造体であり、既存耐圧盤22の上面から水頭(地下水位W.L)よりも高位まで延びるように各新設杭40毎に構築されている。
【0017】
図2は、新設杭40の頭部と既存耐圧盤22との接合部を示す立断面図である。この図に示すように、既存耐圧盤22には、新設杭40の頭部が貫通する孔22Aが形成されている。この孔22Aの直径は、新設杭40の直径よりも僅かに大きくなっており、孔22Aと新設杭40の頭部との間には泥土モルタル等の遮水材12が充填されている。
【0018】
また、筒状体30の内径(矩形の中空部の各辺の長さ)は、孔22Aの直径よりも大きくなっており、平面視で筒状体30が孔22Aを囲っている。ここで、新設杭40の頭部には平面視で矩形状の拡径部40Aが形成されている。この拡径部40Aは、筒状体30の下部にコンクリートを充填することにより構築されており、孔22Aから外径側に張り出して孔22Aの周縁部と係合している。
【0019】
鋼管42の天端は、拡径部40Aに配されている。ここで、鋼管42の拡径部40Aに位置する部分の外周面には、スタッドジベル等のシアコネクター46が打設されており、このシアコネクター46が拡径部40Aに埋設されることで、鋼管42が拡径部40Aに定着されている。
【0020】
図1に示すように、地下構造10では、地盤から既存耐圧盤22に作用する揚圧力が、解体されることにより軽量化された既存地下躯体20の重量を上回ることによって、既存耐圧盤22に浮力Pが作用する。それに対して、新設杭40には地盤から引抜き抵抗力Qが生じる。この引抜き抵抗力Qと浮力Pとのバランスが取れるように、新設杭40の径、打設深さ、拡底部40B及び拡径部40Cを設けるか否か、設ける場合にはその寸法等が決められている。
【0021】
図3〜
図8は、地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。
図3に示すように、既存建造物としてのビルの地下部分には、上記既存地下躯体20の既存耐圧盤22、既存壁24、既存柱26及び既存梁28に加えて既存スラブ29が存在する。
【0022】
まず、
図4に示すように、既存スラブ29(
図3参照)を解体する。そして、既存地下躯体20の内側に複数の筒状体30を構築する。ここで、筒状体30は、新設杭40の施工位置毎に、既存耐圧盤22から地下水位W.Lを超えて地上まで延びるように構築する。なお、筒状体30を構築した後に既存スラブ29を解体してもよい。
【0023】
次に、
図5に示すように、既存耐圧盤22に新設杭40を貫通させるための孔22Aを空ける。この工程では、筒状体30に全旋回掘削機のケーシング1を挿入し、該ケーシング1を回転させながら既存耐圧盤22に圧入することにより、筒状体30の内側において既存耐圧盤22に孔22Aを空ける。
【0024】
次に、
図6に示すように、孔22Aを通して既存耐圧盤22の天端から下方地盤の所定深さまで、土砂を泥土モルタル等の遮水性のある材料に置換することにより、止水部14を構築する。ここで、止水部14の既存耐圧盤22の天端からの深さは、孔22Aからの地下水の漏出を防止できるように設定する。なお、止水部14が地下水圧で浮き上がることが懸念される場合には、筒状体30内に水又は安定液を入れることで、これを抑止する。
【0025】
次に、
図7に示すように、筒状体30内に安定液を入れてアースドリル工法等により削孔する。この工程では、孔22Aと同軸に止水部14の外周部(上述の遮水材12)が残るように削孔する。なお、新設杭40の打設時の位置決めのためにスタンドパイプが必要な場合には、これを筒状体30内に建て込む。
【0026】
次に、
図8に示すように、鉄筋籠44及び鋼管42を杭孔41に挿入して、杭孔41にコンクリートを打設する。ここで、コンクリートを杭孔41の天端まで打設した後、既存耐圧盤22の上まで打設することにより拡径部40Aを構築する。なお、逆打ち工法を実施する場合には、逆打ち支柱をコンクリートが硬化する前の新設杭40に挿入する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る既存地下躯体20を有するビルの建替時の地下構造10は、解体されずに地下に残置された既存耐圧盤22と、既存耐圧盤22を貫通するように打設された新設杭(新設場所打ちコンクリート杭)40と、既存耐圧盤22上に新設杭40の頭部と一体で構築され、新設杭40及び既存耐圧盤22の貫通孔22Aよりも大径である拡径部40Aとを備えている。即ち、新設杭40の頭部と一体の拡径部40Aが、孔22Aから外径側に張り出して孔22Aの周縁部に上側から係合している。これによって、既存耐圧盤22に作用する揚圧力が、解体されて軽量化された既存地下躯体20の重量を上回ることにより、既存耐圧盤22に浮力Pが作用した場合に、新設杭40には地盤から引抜き抵抗力Qが生じ、この引抜き抵抗力Qと浮力Pとのバランスが取られる。従って、既存地下躯体20の揚圧力による浮き上がりや、被圧水の水圧による地盤の盤ぶくれ現象を抑えた状態で、最下階まで既存地下躯体20の解体作業と新設躯体の構築作業とを実施できる。
【0028】
また、地下構造10は、既存耐圧盤22上に拡径部40Aを囲い地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成された筒状体30を備えている。これによって、新設杭40の施工時に地下水が既存耐圧盤22の孔22Aから噴出して飛散することを防止できる。
【0029】
ここで、筒状体30をコンクリート壁で構成することにより、筒状体30の断面形状や寸法を自由に設計することが可能である。従って、既製品のケーシングよりも大径の新設杭40を設計し、該新設杭40の直径に応じて筒状体30の断面寸法を設計することができる。また、専用品のケーシングを作製する場合に比して施工コストを低減できる。
【0030】
また、地下構造10では、新設杭40の頭部には鋼管42が埋設され、該頭部と拡径部40Aとの境界にはこれらを一体化させるシアコネクター46が設けられている。従って、鋼管42により新設杭40の頭部を補強すると共に、新設杭40の頭部と拡径部40Aとの一体性を確保して、新設杭40に有効に浮力Pに対して抵抗させることができる。
【0031】
図9は、他の実施形態に係る新設杭140の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、本実施形態では、拡径部140Aが、新設杭140の直径と同径の先打ちコンクリート部140Bと、先打ちコンクリート部140Bの外径側に構築された後打ちコンクリート部140Cとにより構成されている。ここで、先打ちコンクリート部140Bと後打ちコンクリート部140Cとは、これらの境界に埋設されたシアコネクター146により一体化されている。
【0032】
図10〜
図14は、本実施形態に係る新設杭140を打設する手順を示す立断面図である。まず、
図10に示すように、新設杭140の施工位置に筒状体30を構築し、筒状体30内の下部を砂で埋める。そして、上述の実施形態と同様に、既存耐圧盤22に新設杭140を貫通させるための孔22Aを空ける。
【0033】
次に、
図11に示すように、孔22Aを通して既存耐圧盤22の上側から下方地盤の所定深さまで、土砂を泥土モルタル等の遮水性のある材料に置換することにより、止水部14を構築する。ここで、止水部14の既存耐圧盤22からの深さは、上述の実施形態と同様、孔22Aからの地下水の漏出を防止できるように設定する。
【0034】
次に、
図12に示すように、筒状体30内に安定液を入れてアースドリル工法等により削孔する。この工程では、孔22Aと同軸に止水部14の外周部の遮水材12が残るように削孔する。
【0035】
次に、
図13に示すように、鉄筋籠44及び鋼管42を杭孔41に挿入して、杭孔41にその天端まで(即ち、遮水材12の天端まで)コンクリートを打設する。そして、
図14に示すように、筒状体30内の砂および遮水材12を除去し、露出した先打ちコンクリート部140Bの周面にシアコネクター146を打設した後に、先打ちコンクリート部140Bの周囲にコンクリートを打設する。これにより、内周側の先打ちコンクリート部140Bと外周側の後打ちコンクリート部140Cとがシアコネクター146を介して一体化された拡径部140Aが構築される。
【0036】
図15は、他の実施形態に係る新設杭240の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、本実施形態では、拡径部240Aが、新設杭40の直径と同径の場所打ちコンクリート部240Bと、場所打ちコンクリート部240Bの外径側に設けられたPCaのコンクリート部240Cとにより構成されている。ここで、場所打ちコンクリート部240Bとコンクリート部240Cとは、これらの境界に形成されたコッター246により一体化されている。なお、場所打ちコンクリート部240Bの外周側のコンクリート部240CをPCa(プレキャスト)にすることは必須ではなく、現場でコンクリートを打設して構築してもよい。
【0037】
図16〜
図19は、本実施形態に係る新設杭240を打設する手順を示す立断面図である。まず、
図16(A)に示すように、新設杭240の施工位置に筒状体30を構築し、筒状体30内の下部にコンクリート部240Cを設置する。そして、上述の実施形態と同様に、既存耐圧盤22に新設杭240を貫通させるための孔22Aを空ける。
【0038】
ここで、
図16(B)に示すように、コンクリート部240Cは、直方体のコンクリートブロックであり、筒状体30の下部に嵌め込まれる。また、コンクリート部240Cには、孔22Aと同軸に孔22Aと同径の円形の貫通孔240Dが形成されており、この貫通孔240Dを通して既存耐圧盤22に孔22Aが空けられる。
【0039】
次に、
図17に示すように、貫通孔240D及び孔22Aを通して既存耐圧盤22の天端から下方地盤の所定深さまで、土砂を泥土モルタル等の遮水性のある材料に置換することにより、止水部14を構築する。ここで、止水部14の既存耐圧盤22からの深さは、上述の実施形態と同様、孔22Aからの地下水の漏出を防止できるように設定する。
【0040】
次に、
図18に示すように、筒状体30内に安定液を入れてアースドリル工法等により削孔する。この工程では、孔22Aと同軸に止水部14の外周部の遮水材12が残るように削孔する。
【0041】
次に、
図19に示すように、鉄筋籠44及び鋼管42を杭孔41に挿入して、杭孔41にその天端まで(即ち、コンクリート部240Cの天端まで)コンクリートを打設する。これにより、内周側の場所打ちコンクリート部240Bと外周側のコンクリート部240Cとがコッター246により一体化された拡径部240Aが構築される。
【0042】
図20は、他の実施形態に係る新設杭340の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、本実施形態では、近接して構築する複数の新設杭340に対して1個の筒状体330が構築される。また、複数の新設杭340の拡径部340Aは一体となっている。ここで、筒状体330をコンクリート壁で構成することで、筒状体330の断面形状や寸法の設計自由度を高めたことにより、複数の新設杭340を近接して構築する場合でも、地下水が噴出して飛散することを防止するための仮設の構造体を設置できる。
【0043】
図21は、逆打ち工法を実施する場合の新設杭40の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、逆打ち工法を実施する場合には、逆打ち支柱2を新設杭40に建て込む。これにより、新設躯体の荷重を押込み力として新設杭40に作用させることができ、より効果的に、既存地下躯体20の揚圧力による浮き上がりや、被圧水の水圧による地盤の盤ぶくれ現象を抑えることができる。
【0044】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、場所打ち鋼管コンクリート杭を例に挙げて本発明を説明したが、杭頭部を鋼管で補強することは必須ではない。さらに、上述の実施形態では、矩形筒状の筒状体30、330を例に挙げて本発明を説明したが、筒状体の断面形状は円形状等の他の形状にしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ケーシング、2 逆打ち支柱、10 地下構造、12 遮水材、14 止水部、20 既存地下躯体、22 既存耐圧盤、22A 孔、24 既存壁、26 既存柱、28 既存梁、29 既存スラブ、30 筒状体、40 新設杭、40A 拡径部、40B 拡底部、40C 拡径部、41 杭孔、42 鋼管、44 鉄筋籠、46 シアコネクター、140 新設杭、140A 拡径部、140B 先打ちコンクリート部、140C 後打ちコンクリート部、146 シアコネクター、240 新設杭、240A 拡径部、240B 場所打ちコンクリート部、240C コンクリート部、240D 貫通孔、246 コッター、330 筒状体、340 新設杭、340A 拡径部