(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に軸受は、相対回転する一方側の第一軌道輪と、他方側の第二軌道輪と、該第一軌道輪と第二軌道輪との間に介在される転動体と、を有して構成される。通常の転がり軸受の場合には、相対的に径方向内方側に配設される内輪と、相対的に径方向外方側に配設される外輪と、該内輪と外輪との間に介在される転動体とを有して構成される。この種の軸受においては、近年、軸受トレーサビリティのニーズが出てきており、それに対してレーザマーキングを使い第一軌道輪と第二軌道輪のいずれかに製造国、製造会社(製造工場)、製造年月日や製造会社規定の社内コード等が識別データとして付与されている。
例えば特許文献1には、外輪及び内輪の表面に、レーザマーキングで識別コード等を付した被輸送物品の管理方法が記載されている。
従来のレーザマーキングは、いわゆる黒色レーザマーキングと称されるものであり、且つ、このレーザマーキングは、このマーキングの性質上、軸受製造最終工程の軸受組付け後で行っている。したがって、製造工程の上流工程では識別データが付与されていない無印の第一軌道輪や第二軌道輪が流れることになり、製造工程中には当該軸受の熱処理の条件や材質をいわゆる現物からは判別できないという不都合があった。
このため、仮に従来の黒色レーザマーキングで軸受の製造工程中に識別データを付与しても、黒色レーザマーキングは、加工表面に酸化膜を付着させることで識別データの黒色文字等を形成する方式のため、製造工程中に生じる軽い擦れなどで酸化膜が除去され易く、文字等が消去されてしまう、という不具合を生じる。例えば、軸受の製造工程における熱処理工程や研削工程の前に黒色レーザマーキングで文字等の識別データを付与した場合には、当該工程の作業における擦れなどにより消えてしまうことがある。また、この識別データが消える原因の1つとして、研削加工によっても除去されてしまう場合がある。
なお、このような擦れなどにより識別データが消去される不具合は、軸受の製造工程後の流通過程の運搬中や、組付後でも生じることがある。
したがって、擦れなどにより消去されることのない識別データを軸受に付与することが望まれている。
また特許文献2には、機械要素商品にICタグを取り付け、ICタグの記録情報として、当該機械要素商品に特有の製造番号を少なくとも記録する、機械要素商品の品質管理方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した熱処理や研削等における擦れなどにより文字等の識別データを消去しないようにするために、本発明者は、先ず、擦れなどにより消去されることのない凹凸などの形成体で軸受の第一軌道輪や第二軌道輪の外面に識別データを形成することを着想した。
しかし、文字等自体を消去されない凹凸の形成体で第一軌道輪や第二軌道輪の外面に形成することは、その形成には時間を要する、という別の問題を生じる。
またICタグを軸受に取り付けることを想定した場合、取り付けたICタグが軸受から脱落しないように、ICタグを強固に固定するための取り付け位置且つ軸受の特性等に影響しない取り付け構造を軸受に用意する必要があるので、その位置の検討や、その構造の検討等に非常に時間がかかる場合が考えられるので、好ましくない。またICタグを取り付ける場合、ICタグの特性に影響を与える可能性があるので、熱処理工程の前に取り付けることができない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、識別データが擦れなどにより消去されることがなく、且つ比較的短時間で軸受の第一軌道輪や第二軌道輪の外面に形成することが可能な識別データを有する軸受、及び軸受に形成された識別データを用いて当該軸受の製造過程を管理することが可能な軸受の管理方法、及び識別データを軸受の製造工程中の好ましい工程位置で形成することができる軸受の製造方法、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る軸受、及び軸受の製造方法、並びに軸受の管理方法は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、第一軌道輪と、第二軌道輪と、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との間に介在される複数の転動体と、を有する軸受において、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪とのいずれかの外面に、1品毎に異なる情報である識別データが、複数のドットである複数の凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成されている。
また、前記識別データが形成されている外面である識別データ含有外面には、前記ドットを形成可能なドット形成可能領域を所定数まとめて1つのグループが形成されて、当該1つのグループにて1つの文字または1つの数字または1つの記号と対応するように、当該グループ内において前記所定数の前記ドット形成可能領域のそれぞれにおけるドットの有無が設定されており、複数の前記グループが近接するように形成されて1つのグループ群が形成されており、複数の前記グループ群が、前記いずれかの外面に形成されて前記識別データが形成されている。
また、前記識別データ含有外面には、1つの前記識別データを形成している複数の前記グループ群が、円周方向において互いに異なる位置、かつ、円周方向において互いに離れた位置、に形成されている。
そして、前記識別データ含有外面には、当該識別データ含有外面に形成されているそれぞれの前記グループ群の周囲となる位置に、それぞれの前記グループ群の順番を示す順番ドットが、単数または複数のドットである凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成されている。
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る軸受であって、前記識別データは、前記順番ドットにおけるドットの数が小さい順に、前記グループ群が連結されることで形成されている。
【0006】
この第1の発明では、第一軌道輪と第二軌道輪とのいずれかの外面に、1品毎に異なる識別データが、複数のドットである複数の凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成されている。
これにより、1品毎に異なる識別データを、文字等を形成するのでなく、複数のドットである複数の凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成するので、形成が比較的容易であるため比較的短時間で形成することが可能であるとともに、擦れなどにより消去されることがない。
【0007】
【0008】
また、第1の発明では、1つの文字または1つの数字または1つの記号を、1つのグループで表現し、複数のグループにてグループ群を形成し、グループ群にて表現される複数の文字または数字または記号(混在も含む)にて、識別データが形成されている。
これにより、1品毎に異なる識別データを、適切に表現することができる。
【0009】
【0010】
また、第1の発明では、複数のグループ群が、識別データ含有外面の円周方向において互いに異なる位置に形成されている。
これにより、識別データを適当な長さで分割し、分割した識別データのそれぞれを、それぞれのグループ群に対応させることができる。従って、適切な長さ(文字数、数字のケタ数、記号の数等)としたグループ群のそれぞれを、識別データ含有外面の適切な位置に形成することができる。
【0011】
【0012】
また、第1の発明では、グループ群の
順番を示す順番ドットが、識別データ含有外面に形成されている。
これにより、識別データを分割し、分割したそれぞれの識別データを、それぞれのグループ群に対応させ、それぞれのグループ群を円周方向において異なる位置に形成した場合において、識別データを読み取る際に
、順番ドットを読み取ることで、
各グループ群の読み取る順番(分割した識別データから一連の識別データへと再構築する順番)を容易に把握することができる。
【0013】
次に、本発明の
第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る軸受であって、
前記識別データ含有外面には、さらに、当該識別データ含有外面上における基準位置を示す基準ドットが、単数または複数のドットである凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成されており、前記順番ドットは、前記識別データ含有外面における前記基準ドットの位置に対する前記順番ドットの円周方向の位置を含む位置・順番ドットであり、前記識別データ含有外面における前記基準ドットの位置に対する前記位置・順番ドットの位置に相当する円周方向の角度は、前記識別データとしての文字または数字または記号の一部として利用されている。
【0014】
この
第3の発明では、基準ドットの位置に対する位置・順番ドットの位置に相当する円周方向の角度も、識別データの一部として利用されている。
これにより、識別データの情報量を容易に増やすことが可能である。
【0015】
次に、本発明の
第4の発明は、上記第1の発明〜第3の発明のいずれか1つに係る軸受を用いた軸受の管理方法であって、管理装置を用いて記憶手段に、前記識別データに対応させて、当該軸受の製造過程を特定することが可能な、製造国、製造工場、製造ライン、ロット番号、製造日、の少なくとも1つを記憶させる。
【0016】
この
第4の発明では、軸受に形成された識別データを用いて、当該軸受が、どのような製造工程を経たかの履歴である製造過程を管理することができる。
【0017】
次に、本発明の
第5の発明は、上記第1の発明〜第3の発明のいずれか1つに係る軸受の製造方法であって、前記軸受の製造工程は、前記第一軌道輪及び前記第二軌道輪の素材を鍛造にて形成する鍛造工程と、前記第一軌道輪及び前記第二軌道輪を切削する旋削工程と、前記第一軌道輪及び前記第二軌道輪に熱処理を加える熱処理工程と、前記第一軌道輪及び前記第二軌道輪を仕上げ研削する仕上げ研削工程と、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との間に転動体を組み付けて前記軸受の組み付けを行う組み付け工程と、が順番に実施されて前記軸受が製造されており、前記識別データは、前記旋削工程と前記熱処理工程との間に実施される識別データ形成工程にて形成される。
【0018】
この
第5の発明では、識別データの形成を、軸受の製造工程における旋削工程と熱処理工程との間で行うことにより、比較的短時間で識別データであるドットを形成できること、及び後工程で識別データが消去されないこと、を適切に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[軸受の外観と構成(
図1)]
図1は本実施形態の軸受10を示しており、当該軸受10はテーパローラ型軸受の例を示しているが、本発明が適用される軸受10は、かかる型式の軸受に限定されるものではない。
図1に示す軸受10は、相対的に径方向内方側に配設される内輪12と、相対的に径方向外方側に配設される外輪14と、この内輪12と外輪14との間に介在されるテーパローラである転動体16とを有する構成である。なお、転動体16は保持器18により保持されて構成される。また本実施の形態における内輪12が本発明の第一軌道輪に対応し、外輪14が本発明の第二軌道輪に対応する。
なお、
図1の例では、内輪12の軸方向端面に製造国20A(この例では「JAPAN」)が刻印されている例を示している。
そして、内輪12と外輪14とのいずれかの外面に、1品毎に異なる情報である識別データが、複数のドットである複数の凹設、凸設、または凹設及び凸設にて形成されている。なお、外面とは、物体(この場合、軸受)の外側に位置している面であって、それを手に取った作業者等が直接的に視認することができる面であり、例えば、内輪の軸方向端面、外輪の軸方向端面、内輪の内周面、外輪の外周面等が相当する。
以下では、外輪14の軸方向端面に識別データであるドットを形成した例を説明する。
【0021】
●[識別データ含有外面に形成した、基準ドット、位置・順番ドット、識別データを示すドットの例(
図2)と、ドットで表現する情報の例(
図3)]
図2は、識別データであるドットが形成された、外輪14の識別データ含有外面14A(この例では軸方向端面)の例を示している。
図2に示すように、識別データ含有外面14Aには、所定の位置に基準ドットZSが形成されている。
そして、基準ドットZSに対して円周方向に角度θaとなる識別データ含有外面14Aの位置には、位置・順番ドットZJ1のドットが1個形成されている。
また、基準ドットZSに対して円周方向に角度θbとなる識別データ含有外面14Aの位置には、
位置・順番ドットZJ2が2個形成されている。
また、基準ドットZSに対して円周方向に角度θcとなる識別データ含有外面14Aの位置には、
位置・順番ドットZJ3が3個形成されている。
【0022】
そして、位置・順番ドットZJ1を含む周囲の第1データ領域Aa内には、位置・順番ドットZJ1と、識別データの一部を表現するドットを有する第1グループ群GG1が形成されている。
また、位置・順番ドットZJ2を含む周囲の第2データ領域Ab内には、位置・順番ドットZJ2と、識別データの一部を表現するドットを有する第2グループ群GG2が形成されている。
また、位置・順番ドットZJ3を含む周囲の第3データ領域Ac内には、位置・順番ドットZJ3と、識別データの一部を表現するドットを有する第3グループ群GG3が形成されている。
なお
図2の例に示すように、ドットを形成可能な領域であるドット形成可能領域を所定数(この場合、4個)まとめて1つのグループGが形成されており、複数のグループGが近接するように形成されて(この場合、2つのグループGにて)1つのグループ群(第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3)が形成されている。
なおドットを形成する方法の例としては、高出力レーザによる所定深さの穴あけ、専用工具による打刻、専用工具によるドット加工(1回の加工で1個のドットを形成)、罫書き針等による罫書き、等があり、凹部や凸部にてドットが形成されている。本実施の形態では、凹部にてドットを形成した例について説明する。
【0023】
そして、1つのグループG内における所定数のドット形成可能領域のそれぞれに形成されているドットの有無にて、1つの文字、または1つの数字、または1つの記号、と対応させることができる。
例えば
図3に示すように、1つのグループG内に、4個のドット形成可能領域を設定した場合、ドットの形成状態で、0〜9の、1つの数字を表現することができる。
なお、
図2、及び
図3において、黒丸印のドットDTは、ドット形成可能領域に実際にドットが形成されていることを示しており、点線の丸印は、ドット形成可能領域ではあるが、ドットが形成されていないことを示している。
4個のドット形成可能領域を設定した場合、2
4=16通りのドット形成状態を表現することができるが、
図3では、16通り中の10通りを用いて、0〜9の数字に対応付けた例を示している。
【0024】
以上に説明した基準ドットZSの形成、位置・順番ドットZJ1〜ZJ3の形成、第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3にて表現する情報の形成は、ドットの形成であるので、文字等を刻印する場合等と比較して、非常に短時間に、且つ非常にシンプルな装置で形成することができる。特にドットを刻設する場合、一回の刻設で1個のドットを形成することができるので、シンプルな装置で短時間にドットを形成することができる。
従って、1品毎に異なる識別データを刻設する場合であっても、手間なく短時間に刻設することができる。
なお、位置・順番ドットZJ1〜ZJ3は、
図2においてB−B断面図にて示した外輪14の識別データ含有外面14Aに隣接した面取り部であるチャンファChに形成されていてもよい。
【0025】
以上に説明した基準ドットZS、位置・順番ドットZJ1〜ZJ3、第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3に形成されたドットは、ドット読取手段にて読み取ることができる。
ドット読取手段は、例えば撮像装置(CCDカメラ等)と画像認識ソフトウェアや、レーザ変位計(レーザ式変位測定装置)等である。
以下に、撮像装置と画像認識ソフトウェアを備えたドット読取手段を用いて、各ドットを読み取って識別データを認識する手順の例を説明する。
【0026】
ドット読取手段は、まず識別データ含有外面14Aを撮像して、基準ドットZSが形成されている位置を検出する。
次に、ドット読取手段は、位置・順番ドットが形成されている領域である、位置・順番ドット形成領域AD(
図2参照)内において、位置・順番ドットZJ1〜ZJ3が形成されている位置を検出する。そしてドット読取手段は、位置・順番ドットZJ1を示す1個のドットが、基準ドットZSに対して円周方向の角度θaの位置に形成されていることを認識し、位置・順番ドットZJ2を示す2個のドットが、基準ドットZSに対して円周方向の角度θbの位置に形成されていることを認識し、位置・順番ドットZJ3を示す3個のドットが、基準ドットZSに対して円周方向の角度θcの位置に形成されていることを認識する。
【0027】
次に、ドット読取手段は、位置・順番ドットZJ1に隣接する第1グループ群GG1に形成されているドットの状態を読み取り、
図2の例では第1グループ群GG1に形成されたドットにて「12」が表現されている(
図3を参照)ことを認識する。
次に、ドット読取手段は、位置・順番ドットZJ2に隣接する第2グループ群GG2に形成されているドットの状態を読み取り、
図2の例では第2グループ群GG2に形成されたドットにて「34」が表現されている(
図3を参照)ことを認識する。
次に、ドット読取手段は、位置・順番ドットZJ3に隣接する第3グループ群GG3に形成されているドットの状態を読み取り、
図2の例では第3グループ群GG3に形成されたドットにて「56」が表現されている(
図3を参照)ことを認識する。
そしてドット読取手段は、認識した各情報を、位置・順番ドットZJ1(ドット数=1個)、位置・順番ドットZJ2(ドット数=2個)、位置・順番ドットZJ3(ドット数=3個)、に形成されているドットの数が小さい順番に連結して、第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3にて、「123456」という情報が対応付けられていることを認識する。
【0028】
以上の例では、第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3のそれぞれにて、「00〜99」の数字を表現できるので、下記の(式1)のとおり、1,000,000(通り)の情報(識別データ)を表現することができる。
100*100*100=1,000,000(通り) (式1)
これに加えて、例えば、
図2に示す第1グループ群GG1の角度θa、第2グループ群GG2の角度θb、第3グループ群GG3の角度θcを、識別データの一部として使用することもできる。
例えば、
図2において角度θa=60度、角度θb=180度、角度θc=300度の場合、「060−180−300」という情報(識別データ)を表現することができる。
例えば、これらの角度を10度毎に任意に設定できるようにした場合、この角度の設定のみで、下記の(式2)のとおり、39,270(通り)の情報(識別データ)を表現することができる。360度の角度を10度毎にすると36(通り)の位置があるので、第1グループ群GG1は、36(通り)の中から基準ドットの位置を除いた35(通り)の位置を選択可能である。同様に、第2グループ群GG2は残りの34(通り)の位置を選択可能であり、第3グループ群GG3は残りの33(通り)の位置を選択可能である。
35*34*33=39,270(通り) (式2)
また、角度を数字として利用するのでなく、角度を文字や記号に対応させて識別データの一部として利用するようにしてもよい。
【0029】
従って、例えば、第1グループ群GG1〜第3グループ群GG3に形成されているドットの有無にて「123456」が表現されており、角度θa=60度、角度θb=180度、角度θc=300度に設定されている場合、「123456−060−180−300」という識別データを表現することが可能である。そしてドット読取手段は、この「123456−060−180−300」という識別データを認識可能である。
この場合は、下記のように(式1)と(式2)とから求めた(式3)のとおり、約400億(通り)の、異なる識別データを表現することができる。
1,000,000*39,270=39,270,000,000(通り)(式3)
なお第1グループ群GG1と第2グループ群GG2と第3グループ群GG3にて表現されている情報のみを識別データとして認識するようにしてもよいし、角度θaと角度θbと角度θcにて表現されている情報のみを識別データとして認識するようにしてもよい。
【0030】
そしてドット読取手段は、製造した軸受を出荷する前に、当該軸受の識別データを読み取り、認識した識別データに、製造国や製造日等の製造過程情報を対応付けて記憶手段に記憶する。
例えば
図4に示す軸受管理情報D1に示すように、認識した識別データに、製造国、製造工場、製造ライン、ロット番号、製造年月日、等の当該軸受がどのような製造工程を経たかの履歴である製造過程を示す製造過程情報を対応付けて記憶する。なお製造過程情報として、製造国、製造工場、製造ライン、ロット番号、製造年月日、の少なくとも1つが対応付けて記憶されていればよい。
【0031】
●[軸受の管理方法の例(
図4)]
そして
図4に示す構成にて、下記に説明するように、軸受の管理方法である軸受トレーサビリティを実現することができる。
インターネット等の通信網N1には、各拠点の端末装置SA〜SCと、本社サーバS1(管理装置に相当)を介して記憶装置DB(記憶手段に相当)が接続されている。そして記憶装置DBには、識別データに製造過程情報が対応付けられた軸受管理情報D1が記憶されている。
例えば拠点Aが製造拠点である場合、端末装置SAは、製造した軸受の出荷前に、各軸受に形成された識別データ(1品毎に異なる情報)を読み取って認識し、認識した識別データに製造過程情報を対応付けた登録情報を、本社サーバS1に送信する。
本社サーバS1は、受信した登録情報に基づいて、軸受管理情報D1を蓄積していく。
【0032】
そして、例えば市場から回収された軸受がサービス拠点Bに持ち込まれた場合、サービス拠点Bのドット読取手段にて軸受の識別データを読み取って認識し、端末装置SBは、認識した識別データを含む参照情報を、本社サーバS1に送信する。
本社サーバS1は、記憶装置DBに記憶されている軸受管理情報D1の中から、受信した参照情報に含まれている識別データと一致する識別データに対応付けられている製造過程情報を抽出し、抽出した製造過程情報を含む抽出情報を、端末装置SBに送信する。
そして端末装置SBは、受信した抽出情報に基づいて、当該軸受の製造過程に関する情報を表示する。
このようにして、軸受トレーサビリティが実現され、仮に、軸受に不具合が発見された場合、製造ラインやロット番号や製造年月日等から不具合品の影響範囲を特定すること等が可能となる。従って、軸受に形成された識別データを用いて、当該軸受が、どのような製造工程を経たかの履歴である製造過程や、製品特性(回転トルク等の性能や、隙間等の品質)等を特定することができる。
【0033】
●[軸受の製造工程の例(
図5)]
なお、基準ドット、位置・順番ドット、第1グループ群〜第3グループ群のドットの形成を、軸受の製造工程において、どのタイミングで形成するか、は重要である。
図5は、本発明の軸受、及び軸受の管理方法を適切に実現するための、軸受の製造工程を示している。
図5の例は、外輪14の軸方向端面に、上記の各ドットを形成する場合の例である。
図5に示すように、本実施の形態に説明した軸受は、内輪及び外輪の素材を鍛造にて形成する鍛造工程(a)、内輪及び外輪を切削する旋削工程(b)、打刻(刻設)工程(c)(識別データ形成工程に相当)、内輪及び外輪に熱処理を加える熱処理工程(d)、内輪及び外輪を仕上げ研削する研削・超仕上工程(e)(仕上げ研削工程に相当)、内輪と外輪との間に転動体を組み付けて軸受の組み付けを行う組立・最終検査工程(f)、の各工程が、通常この順序で行われて製造される。なお、この製造工程は内輪と外輪の製造工程であり、転動体や保持器は別の製造工程で製造されて組立・最終検査工程(f)にて、内輪と外輪との間に組み込まれて組立てられる。
【0034】
基準ドット、位置・順番ドット、第1グループ群〜第3グループ群のドットの形成は、打刻(刻設)工程(c)にて行われる。
仮に、打刻(刻設)工程(c)を、鍛造工程(a)と旋削工程(b)の間で行うと、旋削工程(b)の旋削量が比較的多い場合は、刻設したドットが消去されてしまう可能性があるので好ましくない。
また仮に、打刻(刻設)工程(c)を、熱処理工程(d)以降で行うと、熱処理工程(d)にて外輪、内輪の硬度が上げられているので、各ドットの形成が困難であるので好ましくない。
従って、旋削工程(b)よりも後の工程、且つ熱処理工程(d)よりも前の工程となるところに打刻(刻設)工程(c)があることが好ましい。
従来では、組立・最終検査工程(f)中、または組立・最終検査工程(f)の後で、黒色レーザマーキングを行っていたが、本実施の形態では、旋削工程(b)と熱処理工程(d)の間の打刻(刻設)工程(c)で識別データを形成するので、従来よりも上流の工程で、ワークの素性が判別可能となる。
【0035】
以上、本実施の形態にて説明した軸受は、各ドットを、高出力レーザによる所定深さの穴あけ、工具による打刻や加工、罫書き等にて行うので、黒色レーザマーキングと比較して、マーキング(ドット)が消えることがない。また、1品毎に異なる数字や文字等を刻印する場合と比較して、1品毎に異なるドット群を形成するので、シンプルな装置で短時間に識別データを形成することができる。
また、製造工程中における適切な位置でドットを形成することで、より上流の工程で、消されることがないドットを形成することができる。
そして、ドットで形成された識別データと製造過程情報とを対応付けて記憶しておくことで、軸受トレーサビリティを実現することができる。
【0036】
本発明の軸受の構造、外観、形状等や、本発明の軸受の製造方法や、本発明の軸受の管理方法は、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
例えば、本実施の形態にて説明した識別データが付される軸受の種類は、テーパローラ型に限らず、鋼球等を転動体とする一般的な転がり軸受のほか、スラスト軸受等、種々の軸受に適用することが可能であり、第一軌道輪と、第二軌道輪と、第一軌道輪と第二軌道輪との間に介在される複数の転動体と、を有する軸受に適用可能である。
また本実施の形態の説明では、4つのドット形成可能領域で「グループ」を構成し、2つの「グループ」で「グループ群」を構成し、3つの「グループ群」を有する例を説明したが、グループを構成するドット形成可能領域の数や、グループ群を構成するグループの数はいくつでもよく、グループ群をいくつ有するようにしてもよい。
また本実施の形態では、ドットに対応させた数字で識別データを表現したが、数字の他にも文字や記号で識別データを表現したり、数字や文字や記号の混在した情報で識別データを表現させることもできる。
また本実施の形態では、外輪の軸方向端面に識別データを形成した例を説明したが、内輪と外輪とのいずれかの外面に識別データが形成されていればよい。
またドットの形成方法、製造方法、管理方法等は、軸受に限定されず、種々の部品や製品に適用することが可能である。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
またドットの形状は、凹部に限定されず、凸部で形成されていてもよいし、複数のドットが、凹部で形成されたドットと、凸部で形成されたドットとの混在であってもよい。