特許第6209924号(P6209924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6209924-液体吐出記録装置及び液体回収方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209924
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】液体吐出記録装置及び液体回収方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20171002BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   B41J2/17 203
   B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-205688(P2013-205688)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-66911(P2015-66911A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紀章
(72)【発明者】
【氏名】杉本 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 亜矢子
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−108521(JP,A)
【文献】 特開2011−020364(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00761783(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収する吸収体とを含む液体吐出記録装置であって、
前記吸収体は、前記吸収体と対向する位置において前記液体吐出ヘッドから吐出された前記液体を受けるものであって非記録領域に配置されたフラッシング吸収体、廃液吸収体、及び記録領域に配置されたプラテン吸収体からなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記液体が、1,2−ジオールを含み、
前記吸収体が、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含むことを特徴とする液体吐出記録装置。
【請求項2】
前記液体に含まれる1,2−ジオールが、揮発性の1,2−ジオールであり、
前記吸収体に含まれる1,2−ジオールが、不揮発性の1,2−ジオールであることを特徴とする請求項1記載の液体吐出記録装置。
【請求項3】
前記揮発性の1,2−ジオールが、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール及び1,2−ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記不揮発性の1,2−ジオールが、1,2−ヘキサンジオールを含むことを特徴とする請求項2記載の液体吐出記録装置。
【請求項4】
前記揮発性の1,2−ジオールが、1,2−プロパンジオールを含み、
前記不揮発性の1,2−ジオールが、1,2−ヘキサンジオールを含むことを特徴とする請求項2記載の液体吐出記録装置。
【請求項5】
前記吸収体に含まれる前記液体の最大量が、0.91μg/mm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の液体吐出記録装置。
【請求項6】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収する吸収体とを含む液体吐出記録装置において、前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を回収する液体回収方法であって、
前記吸収体は、前記吸収体と対向する位置において前記液体吐出ヘッドから吐出された前記液体を受けるものであって非記録領域に配置されたフラッシング吸収体、廃液吸収体、及び記録領域に配置されたプラテン吸収体からなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記液体吐出ヘッドから出る、1,2−ジオールを含んだ前記液体を、前記1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含んだ前記吸収体によって吸収することで前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を回収することを特徴とする液体回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出記録装置及び液体回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)には、溶剤として、揮発性の有機溶剤が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。近年、前記水性インクにおいて、地球環境保護の観点から、VOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)の発生を低減することが求められている。その対策として、揮発性の有機溶剤の含有量を少なくしたり、水性インクに対して不揮発性の水溶性有機溶剤を用いたりすることで、VOCの発生を低減させることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−147243号公報
【特許文献2】特開2003−128969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は、記録速度の向上等が要因となって、インクの吐出量が増大しており、ますますVOCの発生の低減が求められている。一方、VOC対策として不揮発性の有機溶剤を水性インクに添加した場合、記録時の速乾性及び記録用紙等の記録媒体への広がりが充分でなく、高速化に対応した水性インクとしての性能を満足させることが困難であった。上記のような事情から、高速化に対応しつつ、従来以上にVOCの発生を低減可能なインクジェット記録装置等の液体吐出記録装置が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、VOCの発生を低減可能な液体吐出記録装置及び液体回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の液体吐出記録装置は、
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収する吸収体とを含む液体吐出記録装置であって、
前記液体が、1,2−ジオールを含み、
前記吸収体が、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の液体回収方法は、
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収する吸収体とを含む液体吐出記録装置において、前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を回収する液体回収方法であって、
前記液体吐出ヘッドから出る、1,2−ジオールを含んだ前記液体を、前記1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含んだ前記吸収体によって吸収することで、前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含む吸収体に前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収させることで、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の液体吐出記録装置の一例の構成を示す概略平面図である。
図2図2は、図1に示す液体吐出記録装置の液体回収時における廃液タンクの走査方向を含む鉛直面での断面図である。
図3図3(a)は、図1に示す液体吐出記録装置のプラテン及びプラテン吸収体を示す平面図であり、図3(b)は、図1に示す液体吐出記録装置の液体回収時におけるプラテン及びプラテン吸収体の走査方向を含む鉛直面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液体吐出記録装置に用いられる前記液体としては、例えば、インクジェット記録用水性インク、処理液等があげられる。前記処理液は、画質の向上等を目的としてインクの吐出に先立って又はインクの吐出の後に記録媒体に吐出される液体である。また、前記液体は、インクジェット記録に用いられるものに限られず、例えば、出荷液、導入液及び検査液等もあげられる。前記出荷液は、工場から出荷される状態の液体吐出記録装置の流路に充填されて、前記流路内の状態を保つための液体である。前記導入液は、工場においてヘッド製造後にインクが流路内に導入されるときにインクが流路内に容易に導入されるようにあらかじめ流路内に充填される液体である。前記検査液は、工場で液体吐出ヘッドの吐出を検査するために使用される液体である。前述のとおり、前記液体は、1,2−ジオールを含む。前記液体は、自家調製してもよいし、1,2−ジオールを含む市販の液体を用いてもよい。本発明によれば、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減できるため、例えば、本発明の液体吐出記録装置に適用するインクに必要十分な量の1,2−ジオールを添加することが可能となり、速乾性及び画質も向上させることができる。
【0011】
蒸気圧の高い物質を共存させることで、蒸気圧の低い物質を揮発させることが可能となる「共存効果」が知られている。本発明は、この「共存効果」を逆の視点から見て、液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを吸収体に含ませておくことで、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減するとの発想に基づくものである。この発想は、本発明者らが初めて得たものである。本発明者らは、この発想に基づき、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含む吸収体に前記液体を吸収させることで、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減可能であることを見出した。これにより、本発明によれば、VOCの発生を低減可能な液体吐出記録装置及び液体回収方法を提供可能である。前記吸収体に前記液体を吸収させる方法は、特に制限されず、例えば、後述のように、前記吸収体に前記液体をインクジェットヘッド等の液体吐出ヘッドによって吐出することで吸収させてもよいし、前記液体吐出ヘッドから吸引ポンプで吸引した前記液体を前記吸収体に吸収させてもよい。
【0012】
本発明の液体吐出記録装置において、前記液体に含まれる1,2−ジオールが、揮発性の1,2−ジオールであり、前記吸収体に含まれる1,2−ジオールが、不揮発性の1,2−ジオールであることが好ましい。前記1,2−ジオールは、水に不溶の固体ではなく、水溶性である。
【0013】
なお、1,2−ジオールが揮発性であるか不揮発性であるかは、例えば、つぎのようにして確認できる。すなわち、まず、1,2−ジオール5gを、開放瓶(口径:20.2mm)に注入する。その開放瓶を、温度60℃、相対湿度40%の環境下で1週間保存する。前記保存後、蒸発率が5%を超える1,2−ジオールを揮発性とし、蒸発率が5%以下の1,2−ジオールを不揮発性とする。表1に、この方法による代表的な1,2−ジオールの確認結果を示す。
【表1】
【0014】
前記揮発性の1,2−ジオールとしては、例えば、1,2−プロパンジオール(1,2−PDO)、1,2−ブタンジオール(1,2−BDO)、1,2−ペンタンジオール(1,2−PeDO)等があげられ、好ましくは、1,2−PDOである。前記揮発性の1,2−ジオールは、1種類のみが前記液体に含まれていてもよいし、2種類以上が前記液体に含まれていてもよい。
【0015】
前記不揮発性の1,2−ジオールとしては、例えば、1,2−ヘキサンジオール(1,2−HeDO)、1,2−ヘプタンオール、1,2−オクタンジオール,1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオール等があげられる。前記不揮発性の1,2−ジオールは、1種類のみが前記吸収体に含まれていてもよいし、2種類以上が前記吸収体に含まれていてもよい。
【0016】
前記液体がインクである場合、前記液体に、着色剤として、染料及び顔料の少なくとも一方が添加されていてもよい。前記インク全量に対する1、2−ジオールの配合量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜15重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜5重量%である。前記インクは、さらに、界面活性剤、防錆剤、防カビ剤等のその他の添加物を含んでもよい。
【0017】
前記液体が導入液である場合、前記導入液全量に対する1,2−ジオールの配合量は、前記導入液の導入性の観点から、2重量%〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは、5重量%〜15重量%である。
【0018】
前記液体が出荷液である場合、前記出荷液全量に対する1,2−ジオールの配合量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜10重量%であり、好ましくは、1重量%〜7.5重量%であり、より好ましくは、2重量%〜5重量%である。
【0019】
前記液体が検査液である場合、前記検査液全量に対する1、2ジオールの配合量は、特に限定されないが、例えば、1重量%〜20重量%であり、好ましくは、2重量%〜15重量%であり、より好ましくは、5重量%〜10重量%である。前記検査液は、前記インクと同様の着色剤を含んでもよい。
【0020】
本発明の液体吐出記録装置及び液体回収方法について具体的に説明する。本発明の液体吐出記録装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を吸収する吸収体とを含む。前記吸収体は、非記録領域に配置されるフラッシング吸収体、前記液体吐出ヘッドから出た前記液体を直接的又は間接的に吸収し、貯留する廃液吸収体、及び記録領域内に配置されるプラテン吸収体からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。本発明の液体吐出記録装置において、前記吸収体以外の構成は、従来のインクジェット記録装置等の液体吐出記録装置と同様とすることができる。本発明の液体回収方法は、本発明の液体吐出記録装置を用いて実施する。
【0021】
図1に、本発明の液体吐出記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、この液体吐出記録装置1は、プラテン2と、キャリッジ3と、インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)4と、搬送機構5と、メンテナンスユニット6とを主要な構成要素として含む。インクジェットヘッド4は、圧電素子方式、サーマルインクジェット方式、静電吸引方式等、いかなる方式であってもよい。
【0022】
プラテン2の上面には、給紙機構(図示省略)から供給された記録媒体(例えば、記録用紙)Pが載置される。プラテン2の上方には、走査方向(図1においては、左右方向)に平行に延びる2本のガイドレール10及び11が設けられている。キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10及び11に沿って走査方向に往復移動可能とされている。
【0023】
2本のガイドレール10及び11は、プラテン2の左右両端からさらに突出して走査方向に延在している。キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2の左右両端から離れた位置まで移動可能とされている。キャリッジ3には、2つのプーリ12及び13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されている。キャリッジ3は、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されると、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動する。
【0024】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に搭載される。インクジェットヘッド4の下面は、プラテン2の上面と平行で、複数のノズル16が開口する液体吐出面4a(図2参照)となっている。この液体吐出面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙Pに前記液体を吐出して記録する。
【0025】
インクジェットヘッド4の上面には、ブラック、イエロー、シアン及びマゼンタの各色に対応した4つのインク供給口(図示省略)が設けられており、この4つのインク供給口に4本のチューブ17の一端がそれぞれ接続されている。4本のチューブ17の他端は、各色のインクが収容された4つのインクカートリッジ8を着脱自在なカートリッジ装着部9に接続されている。これにより、カートリッジ装着部9に装着された4つのインクカートリッジ8から4本のチューブ17を介して、各色のインクが、インクジェットヘッド4に供給される。
【0026】
搬送機構5は、搬送方向(図1においては、上から下に向かう方向)に沿ってプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18及び19を有する。これら2つの搬送ローラ18及び19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向に搬送する。
【0027】
液体吐出記録装置1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4から液体を吐出するとともに、2つの搬送ローラ18及び19によって記録用紙Pを搬送方向に搬送することにより、記録用紙Pに所望な画像及び文字等を記録する。
【0028】
つぎに、メンテナンスユニット6について説明する。メンテナンスユニット6は、パージユニット及びフラッシングユニットを含む。前記パージユニットは、プラテン2に対して走査方向の一方側(図1においては、右側)に配置された廃液吸収体22、吸引キャップ21及び吸引ポンプ23を有している。前記フラッシングユニットは、プラテン2に対して走査方向の他方側(図1においては、左側)に配置され、第一フラッシング吸収体53、第二フラッシング吸収体54、廃液タンク50及び液受け部材51を主要な構成要素として含む。
【0029】
吸引キャップ21は、モータ等の駆動手段を含むキャップ駆動機構(図示省略)により昇降駆動され、液体吐出面4aに対して離接する。吸引ポンプ23は、吸引キャップ21に接続されている。吸引キャップ21は、液体吐出面4aに接触したときには、複数のノズル16の開口を覆う。このように、吸引キャップ21がキャッピング状態にあるときに、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧することで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16から液体を排出させる(吸引パージ)。吸引ポンプ23は、廃液吸収体22に接続されており、吸引パージにより吸引され、ノズル16から出た液体は、吸引ポンプ23を介して、廃液吸収体22に吸収される。図示していないが、廃液吸収体22は、上方が開口した箱の中に収容されている。廃液吸収体22は、液体を吸収できるものであればいかなるものであってもよいが、例えば、メラミンフォーム等があげられる。なお、本実施形態では、前記パージユニットは、吸引ポンプ23でノズル16から液体を吸引するものであるが、インクジェットヘッド4内の液体に圧力をかけてノズル16から液体を出す、いわゆる「押しパージ」の機構であってもよい。すなわち、本発明の吸収体が吸収する液体は、ノズルから積極的に吐出されて出た液体でもよいし、吸引パージのようにノズルから強制的に出た液体を吸収するものであってもよい。また、吸収する液体は、直接的に吸収体に吐出されたものを受ける態様であってもよいし、廃液吸収体22のように、吸引ポンプ23等で送られて間接的に受ける態様であってもよい。
【0030】
図2に示すように、廃液タンク50は、上方に開口した箱状であり、その内部に第一フラッシング吸収体53が収容されている。液受け部材51は、第一フラッシング吸収体53の上方に配置されている。液受け部材51は、上方に開口した箱状であり、その内部に第二フラッシング吸収体54が配置されている。液受け部材51の底面における走査方向の一方側(図2において、右側)には、排出口51aが形成されている。排出口51aは、一端が第一フラッシング吸収体53の上面に接触したチューブ55の他端と連結されている。これにより、第二フラッシング吸収体54の上面に吸収された液体は、下方に移動して、排出口51aからチューブ55を介して第一フラッシング吸収体53に排出される。第一フラッシング吸収体53及び第二フラッシング吸収体54は、液体を吸収できるものであればいかなるものであってもよいが、例えば、メラミンフォーム等があげられる。
【0031】
つぎに、図3(a)及び(b)を参照して、プラテン吸収体60について説明する。図3(a)は、プラテン2及びプラテン吸収体60を示す平面図であり、図3(b)は、液体回収時におけるプラテン2及びプラテン吸収体60の走査方向を含む鉛直面での断面図である。なお、図3(a)においては、記録用紙Pを破線で示し、記録用紙Pの下部を透視的に図示している。図3(a)及び(b)に示すように、プラテン2には、記録用紙Pの端部が通過する箇所の下部に、四角筒状のプラテン吸収体60が組み込まれている。これにより、余白無しの縁無し記録時等に記録用紙Pの端部からはみ出してプラテン2の上面に吐出された液体は、プラテン吸収体60に吸収される。プラテン吸収体60は、液体を吸収できるものであればいかなるものであってもよいが、例えば、メラミンフォーム等があげられる。また、プラテン吸収体60の形状も、図3(a)及び(b)に示す四角筒状に限定されず、記録用紙Pの端部からはみ出して吐出された液体を吸収できさえすれば、いかなる形状であってもよい。
【0032】
第一フラッシング吸収体53、第二フラッシング吸収体54、廃液吸収体22及びプラテン吸収体60は、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含む。第一フラッシング吸収体53、第二フラッシング吸収体54及びプラテン吸収体60において、前記1,2−ジオールは、インクジェットヘッド4から吐出される前記液体と接触する部分のみに含まれていてもよいし、全体に含まれていてもよい。また、第一フラッシング吸収体53、第二フラッシング吸収体54及びプラテン吸収体60は、インクジェットヘッド4から吐出される前記液体の色ごとに独立して設けられていてもよい。その場合、各吸収体に含まれる前記1,2−ジオールの含有量は、吐出される各液体に含まれる1,2−ジオールの含有量に応じて決定してもよい。
【0033】
つぎに、図2を参照して、本発明の液体回収方法の一例について説明する。図2に示す例は、インクジェットヘッド4からフラッシング吸収体に直接前記液体を吐出することで前記液体を回収する態様である。図2は、図1に示す液体吐出記録装置1の液体回収時における廃液タンク50の走査方向を含む鉛直面での断面図である。図2において、16bk、16y、16c及び16mは、それぞれ、ブラックインク、イエローインク、シアンインク及びマゼンタインク用のノズル16を示す。液体吐出記録装置1において、インクジェットヘッド4は、さらに、処理液用のノズル及び供給口を有してもよい。液体吐出記録装置1は、さらに、処理液が収容されたカートリッジ及び処理液供給用のチューブを有してもよい。
【0034】
本例の液体回収時には、インクジェットヘッド4は、走査方向に走査せずに停止しており、ノズル16から吐出したインクは、直下に吐出される。図2は、ブラックインクのノズル16bkからの液体回収と、イエロー、シアン及びマゼンタの3色のカラーインクのノズル16y、16c及び16mからの液体回収を、同時に行う場合の例である。インクを吐出するタイミングとしては、記録用紙Pへの記録開始前や、連続記録動作時の紙間(1枚の記録用紙への記録が終わった後、つぎの記録用紙への記録が開始されるまでの間)のタイミング等があげられる。また、前記液体が、インク流路及びインクジェットヘッド4に充填されている出荷液の場合は、インク及び処理液等のインクジェット記録に用いられる液体が流路に導入されるのに先駆けて、前記パージユニットによるパージでインクジェットヘッド4から排出されて、その後、廃液吸収体22に回収される。
【0035】
図2では、ブラックインクのノズル16bkを廃液タンク50に収容された第一フラッシング吸収体53に対向させ、3色のカラーインクのノズル16y、16c及び16mを、液受け部材51に収容された第二フラッシング吸収体54に対向させた位置で、ノズル16bk、16y、16c及び16mから第一フラッシング吸収体53及び第二フラッシング吸収体54に対して各色のインクを吐出することで液体を回収している。なお、ブラックインクのノズル16bkからの液体回収と、3色のカラーインクのノズル16y、16c及び16mからの液体回収は、別々に行ってもよい。また、インクジェットヘッド4が、処理液用のノズルを有する場合において、処理液用のノズルからの液体回収も、処理液用のノズルを、第一フラッシング吸収体53又は第二フラッシング吸収体54に対向する位置に移動させることで、同様にして実施できる。第一フラッシング吸収体53及び第二フラッシング吸収体54に含まれる前記液体の最大量は、0.91μg/mm以下であることが好ましい。第一フラッシング吸収体53及び第二フラッシング吸収体54に含まれる前記液体の最小量は、前記液体が25重量%の不揮発性の1,2−ジオールを含む場合には、0.02μg/mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.04μg/mm以上であり、前記液体が50重量%の不揮発性の1,2−ジオールを含む場合には、0.01μg/mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.02μg/mm以上である。
【0036】
第一フラッシング吸収体53及び第二フラッシング吸収体54には、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールが含まれているため、前述の「共存効果」を逆の視点から見たメカニズムにより、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減することが可能である。
【0037】
つぎに、図1を参照して、本発明の液体回収方法の別の例について説明する。前述のとおり、図1に示す液体吐出記録装置1においては、吸引パージにより吸引排出された液体は、吸引ポンプ23を介して、廃液吸収体22に吸収される。廃液吸収体22に含まれる前記液体の最大量は、0.91μg/mm以下であることが好ましい。廃液吸収体22に含まれる前記液体の最小量は、前記液体が25重量%の不揮発性の1,2−ジオールを含む場合には、0.1μg/mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.2μg/mm以上であり、前記液体が50重量%の不揮発性の1,2−ジオールを含む場合には、0.05μg/mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5μg/mm以上である。廃液吸収体22にも、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールが含まれているため、前述の「共存効果」を逆の視点から見たメカニズムにより、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減することが可能である。このように、インクジェットヘッド4から吐出された前記液体を直接吸収する場合だけでなく、吸引ポンプ23を介して、廃液吸収体22に前記液体を吸収する態様においても本発明を適用可能である。
【0038】
つぎに、図3(b)を参照して、本発明の液体回収方法のさらに別の例について説明する。図3(b)に示す例は、インクジェットヘッド4からプラテン吸収体60に直接前記液体を吐出することで前記液体を回収する態様である。図3(b)において、図2と同一部分には同一符号を付している。
【0039】
本例の液体回収時には、インクジェットヘッド4は、走査方向に走査せずに停止しており、ノズル16から吐出したインクは、直下に吐出される。図3(b)は、マゼンタインクのノズル16mからの液体回収を行う場合の例である。
【0040】
図3(b)では、マゼンタインクのノズル16mをプラテン2に組み込まれたプラテン吸収体60に対向させた位置で、ノズル16mからプラテン吸収体60に対してマゼンタインクを吐出することで液体(マゼンタインク)を回収している。なお、ノズル16bk、16y及び16cからの液体回収も、ノズル16bk、16y及び16cを、それぞれ、プラテン吸収体60に対向する位置に移動させることで、同様にして実施できる。また、インクジェットヘッド4が、処理液用のノズルを有する場合において、処理液用のノズルからの液体回収も、処理液用のノズルを、プラテン吸収体60に対向する位置に移動させることで、同様にして実施できる。プラテン吸収体60に含まれる前記液体の最大量は、0.91μg/mm以下であることが好ましい。
【0041】
プラテン吸収体60には、前記液体に含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールが含まれているため、前述の「共存効果」を逆の視点から見たメカニズムにより、前記液体に含まれる1,2−ジオールの揮発を低減することが可能である。
【実施例】
【0042】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0043】
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
HS−GC/MS測定用のバイアル瓶に、メラミンフォーム(表面積1cm、厚み5mm)を入れた。つぎに、前記メラミンフォームにインクを100μL浸透させて、60℃で30分間保温した。前記インクには、表2に示す組成の3種のインクを用いた。前記保温後、前記バイアル瓶から0.05分間GC/MSに気体を注入して測定を行い、前記インクに含まれる1,2−ジオールのピーク面積の合計を算出した。また、HS−GC/MS測定用のバイアル瓶に、メラミンフォームを入れ、対象の100重量%1,2−ジオール(実施例6においては対象の1,2−ジオールの50重量%水溶液、実施例7においては対象の1,2−ジオールの25重量%水溶液、比較例1においてはグリセリン(GLY)、比較例2においてはトリエチレングリコール(TEG)、比較例3においてはトリエチレングリコールブチルエーテル(TEB))100μLを浸透させた後、インクを100μL浸透させて同様にして前記インクに含まれる1,2−ジオールのピーク面積の合計を算出した。そして、下記式により、インクに含まれる1,2−ジオールの減少率を算出した。このようなモデル実験により、インクに含まれる1,2−ジオールとメラミンフォームに浸透させた化合物との組み合わせによる揮発抑制の度合を確認した。

減少率(%)={(X−Y)/X}×100
X:インク単独でのピーク面積の合計
Y:対象の化合物をメラミンフォームに浸透させたときのピーク面積の合計
【0044】
【表2】
【0045】
実施例及び比較例の評価結果を、表3及び表4に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表3に示すとおり、メラミンフォームにインクに含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の低い1,2−ジオールを含ませた実施例1〜7では、前記減少率が20%以上となり、インクに含まれる1,2−ジオールの揮発が低減した。インクに揮発性の1,2−ジオールを含ませ、メラミンフォームに不揮発性の1,2−ジオールを含ませた実施例4及び5では、前記減少率が50%以上となり、インクに含まれる1,2−ジオールの揮発がより低減した。インクに1,2−PDOを含ませ、メラミンフォームに1,2−HeDOを含ませた実施例3では、前記減少率が80%以上となり、インクに含まれる1,2−ジオールの揮発がさらに低減した。
【0049】
一方、メラミンフォールに1,2−ジオール以外の化合物を含ませた比較例1〜3、並びに、メラミンフォームにインクに含まれる1,2−ジオールよりも蒸気圧の高い1,2−ジオールを含ませた比較例4及び5では、前記減少率が10%未満となり、インクに含まれる1,2−ジオールが揮発していた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明の液体吐出記録装置は、VOCの発生を低減可能なものである。本発明の液体吐出記録装置の用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 液体吐出記録装置
3 キャリッジ
4 液体吐出ヘッド(インクジェットヘッド)
6 メンテナンスユニット
21 吸引キャップ
22 廃液吸収体
23 吸引ポンプ
50 廃液タンク
51 液受け部材
53 第一フラッシング吸収体
54 第二フラッシング吸収体
60 プラテン吸収体
図1
図2
図3