(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵アシストの要求に応じてアシスト力を付与するのに用いる油圧アクチュエータの油圧源として、モータ駆動により前記油圧アクチュエータへ流れる作動油の流量を変化させて油圧を発生させる電動ポンプを複数備えた油圧パワーステアリング装置において、
各電動ポンプに供給される駆動電力に関わるパラメータの合計値が予め定めた制限値を超える場合、第1の電動ポンプを対象にして供給する作動油の流量を今よりも減らすように制御する一方、該減らした分の流量を補うように第2の電動ポンプを対象にして供給する作動油の流量を今よりも増やすように制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記パラメータの合計値が前記制限値を超える場合、前記第1の電動ポンプから供給する作動油の流量の変化量が前記第2の電動ポンプから供給する作動油の流量の変化量よりも大きくなるように変化させることを特徴とする油圧パワーステアリング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の油圧パワーステアリング装置では、操舵アシストの要求が高まると、このような高い操舵アシストの要求に対しては2つの電動ポンプから供給される流量の合計で対処することになる。この場合に個々の電動ポンプから供給される作動油の流量は必要としている流量に対しては低く、上述した高い操舵アシストの要求に負けて1つ又は2つの電動ポンプにおけるモータが停止してしまい、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を供給させることができないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を供給することのできる油圧パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する油圧パワーステアリング装置は、操舵アシストの要求に応じてアシスト力を付与するのに用いる油圧アクチュエータの油圧源として、モータ駆動により油圧アクチュエータへ流れる作動油の流量を変化させて油圧を発生させる電動ポンプを複数備えた油圧パワーステアリング装置において、電動ポンプの作動に関わるパラメータが予め定めた制限値を超える場合、第1の電動ポンプを対象にして供給する作動油の流量を今よりも減らすように制御する一方、該減らした分の流量を補うように第2の電動ポンプを対象にして供給する作動油の流量を今よりも増やすように制御する制御装置を備えたことを特徴とする油圧パワーステアリング装置。
【0007】
上記構成によれば、操舵アシストの要求に基づき変化して電動ポンプの作動に関わるパラメータが予め定めた制限値を超える場合、第2の電動ポンプを対象に、モータの出力を高めることができる。これにより、電動ポンプの作動に関わるパラメータが予め定めた制限値を超える場合に操舵アシストの要求が高まっても、第2の電動ポンプについては、高い操舵アシストの要求に負けてモータが停止してしまうことが抑制され、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を供給することができる。
【0008】
このような油圧パワーステアリング装置において、制御装置は、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプを停止させることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプを停止させるので、第2の電動ポンプにおけるモータの出力を最大限に高めることができる。
【0010】
そして、こうした油圧パワーステアリング装置において、制御装置は、電動ポンプの作動に関わるパラメータが制限値を超える場合、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプから供給する作動油の流量を徐々に変化させることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプから供給する作動油の流量を徐々に減らすので、作動油の流量の合計の急激な減少を抑えることができる。さらに、第2の電動ポンプから供給する作動油の流量については徐々に増やすので、電動ポンプの作動に関わる駆動電力の急激な上昇を抑えることができる。
【0012】
また、こうした油圧パワーステアリング装置において、制御装置は、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプから供給する作動油の流量の変化量が第2の電動ポンプから供給する作動油の流量の変化量よりも大きくなるように変化させることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力の上昇を抑えることができる。
【0014】
上記駆動電力は、車両で発生させる駆動電力から割り当てるので、電動ポンプばかりに割り当ててしまうと、例えば、電装部品に関わるシステム等の車両の他のシステムへの割り当てが不安定になってしまう。そのため、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力の上昇を抑えることで、車両の他のシステムへ与える影響を最小限に抑えることができる。
【0015】
また、こうした油圧パワーステアリング装置において、制御装置は、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプから供給する作動油の流量を減らすのに遅らせて第2の電動ポンプから供給する作動油の流量を増やすように変化させることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、第2の電動ポンプから供給する作動油の流量を増やすのを遅らせている間、第1の電動ポンプから供給する作動油の流量を減らす分、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力を低下させることができる。このように確保しなければいけない駆動電力を一旦、減らした後、第2の電動ポンプから供給する作動油の流量を増やすことで、駆動電力の確保に余裕を持つことができ、車両の他のシステムへ与える影響を最小限に抑えることができる。
【0017】
また、こうした油圧パワーステアリング装置において、制御装置は、電動ポンプの作動に関わるパラメータが上記制限値を超えるまでの間、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプを対象に同一マップを用いてモータ駆動を制御する一方、上記パラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプを対象に異なるマップを用いてモータ駆動を制御することが好ましい。
【0018】
第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプといったように複数の電動ポンプを対象に同一マップを用いてモータ駆動を制御する場合には、これらの電動ポンプの作動に関わるパラメータが略同一になっていると言える。しかし、これらの電動ポンプのパラメータに関しては、それぞれのモータ駆動を同一マップを用いて制御するとなると、これらの電動ポンプの何れかのみのモータ駆動を制御するよりもその調整がし難い。特に、操舵アシストの要求が高まった際には、供給する作動油の流量を増やすために電動ポンプにおけるモータの出力を高めていかなければならず、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプのパラメータの調整が余計し難くなる。
【0019】
その点、上記構成によれば、上記パラメータが上記制限値を超える場合、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプを対象に異なるマップを用いてモータ駆動を制御するので、第1の電動ポンプ及び第2の電動ポンプのパラメータの調整がし易くなる。これにより、電動ポンプの作動に関わるパラメータが予め定めた制限値を超える場合に操舵アシストの要求が高まっても、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を好適に供給することができるようになり、モータが停止してしまうことでアシスト力が不安定となることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、油圧パワーステアリング装置の第1実施形態を説明する。
図1に示すように、油圧パワーステアリング装置1は、運転者により操作されるステアリングホイール2と、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト3とを備えている。また、油圧パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト3の回転に応じて軸方向に往復動するラック軸5と、ラック軸5が往復動可能に挿通される略円筒状のラックハウジング6とを備えている。ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸7、中間軸8、及びピニオン軸9を連結することにより構成されている。
【0023】
ラック軸5とピニオン軸9とは、ラックハウジング6内に所定の交差角をもって配置されており、ラック軸5に形成されたラック歯5aとピニオン軸9に形成されたピニオン歯9aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構11が構成されている。また、ラック軸5の両端には、タイロッド12がそれぞれ連結されており、タイロッド12を介して転舵輪13がそれぞれ連結されている。
【0024】
したがって、油圧パワーステアリング装置1では、運転者のステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラックアンドピニオン機構11によりラック軸5の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド12を介して左右の転舵輪13にそれぞれ伝達されることによりこれら転舵輪13の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0025】
また、油圧パワーステアリング装置1は、運転者のステアリング操作を補助するアシスト力を発生させる油圧アクチュエータとしての油圧シリンダ21と、油圧シリンダ21に作動油を供給する複数(本実施形態では、2つ)の第1電動ポンプ22及び第2電動ポンプ23とを備えている。また、油圧パワーステアリング装置1は、油圧シリンダ21への作動油の給排を制御する切換弁24と、各電動ポンプ22,23によって油圧シリンダ21に給排される作動油を貯留する貯留タンク25とを備えている。
【0026】
油圧シリンダ21は、ラックハウジング6の一部によって構成される円筒状のシリンダチューブ31を備えている。つまり、シリンダチューブ31には、ラック軸5が往復動可能に挿通されている。また、油圧シリンダ21は、シリンダチューブ31内を第1油圧室32と第2油圧室33とに区画するピストン34を備えており、ピストン34は、ラック軸5に一体で軸方向移動可能に固定されている。
【0027】
図2に示すように、第1電動ポンプ22は、駆動源となる第1モータ41と、第1モータ41により駆動されて油圧シリンダ21に作動油を供給する第1ポンプ42と、第1モータ41の作動を制御する第1ECU43とを備えている。また、第2電動ポンプ23は、駆動源となる第2モータ44と、第2モータ44により駆動されて油圧シリンダ21に作動油を供給する第2ポンプ45と、第2モータ44の作動を制御する第2ECU46とを備えている。つまり、本実施形態では、第1及び第2ECU43,46により制御装置が構成されている。
図1に示すように、第1及び第2電動ポンプ22,23の各吸入口は、吸入油路47を介して貯留タンク25に接続されている。
【0028】
図1の説明に戻り、切換弁24は、運転者のステアリング操作に連動して油圧シリンダ21の第1及び第2油圧室32,33への作動油の給排を制御する周知のロータリバルブとして構成されている。具体的に、切換弁24には、供給ポート51、排出ポート52、第1及び第2給排ポート53,54が設けられている。供給ポート51は、一端側で二股に分岐した供給油路55を介して第1及び第2電動ポンプ22,23の吐出口にそれぞれ接続されている。排出ポート52は、排出油路56を介して貯留タンク25に接続されている。第1給排ポート53は、第1給排油路57を介して第1油圧室32に接続されているとともに、第2給排ポート54は、第2給排油路58を介して第2油圧室33に接続されている。
【0029】
したがって、油圧パワーステアリング装置1において、第1及び第2電動ポンプ22,23によって貯留タンク25から吸い上げられた作動油は、供給油路55を介して切換弁24に供給される。このように切換弁24に供給された作動油は、運転者のステアリング操作に応じて、第1及び第2給排油路57,58のいずれか一方を介して第1及び第2油圧室32,33のいずれか一方に供給されることで、対応する油圧室に作動油が充填されて加圧される(油圧が高くなる)。このとき、併せて第1及び第2油圧室32,33の他方から作動油が排出され、この作動油は第1及び第2給排油路57,58の他方、切換弁24及び排出油路56を介して貯留タンク25に排出されることで、対応する油圧室から作動油が排出されて減圧される(油圧が低くなる)。その結果、第1油圧室32と第2油圧室33との間に油圧差が発生し、この油圧差に基づいてピストン34とともにラック軸5が軸方向移動することで、運転者のステアリング操作がアシストされる。
【0030】
次に、油圧パワーステアリング装置の電気的構成について説明する。
図1及び
図2に示すように、第1及び第2電動ポンプ22,23は、CAN(車内ネットワーク)61を介して各種センサの検出値等の各状態量を送受信可能に接続されている。CAN61には、ステアリングセンサ62、及び車速センサ63がそれぞれ接続されており、ステアリングホイール2の操舵角θs及び車速SPDが状態量として伝送されている。第1及び第2ECU43,46は、CAN61を介して得られる各状態量に基づいて互いに協調して第1及び第2電動ポンプ22,23(第1及び第2モータ41,44)の作動を制御する。
【0031】
図2に示すように、第1ECU43は、モータ制御信号を出力する第1マイコン71と、そのモータ制御信号に基づいて第1モータ41に駆動電力を供給する第1駆動回路72とを備えている。また、第2ECU46は、モータ制御信号を出力する第2マイコン73と、そのモータ制御信号に基づいて第2モータ44に駆動電力を供給する第2駆動回路74とを備えている。第1及び第2駆動回路72,74は、車両に搭載された同一の車載電源(バッテリ)75にそれぞれ接続されている。
【0032】
第1及び第2駆動回路72,74には、直列に接続された一対のスイッチング素子(例えば、FET等)を基本単位(スイッチングアーム)とし、これらを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されており、モータ制御信号は、各スイッチング素子のオンオフ状態(オンDUTY比)を規定するものとなっている。第1及び第2駆動回路72,74は、入力されるモータ制御信号に示されるオンDUTY比及び車載電源75の電圧に基づく駆動電力を第1及び第2モータ41,44にそれぞれ供給する。
【0033】
第1マイコン71には、第1モータ41(第1電動ポンプ22)に流れる電流値(状態量)を示す第1電流値Im1を検出する第1電流センサ76、及び第1モータ41の回転角(状態量)を示す第1回転角θm1と回転速度(状態量)を示す第1回転速度ω1を検出する第1回転角センサ77が接続されている。なお、第1回転速度ω1は、第1回転角θm1を微分したものである。
【0034】
また、第2マイコン73には、第2モータ44(第2電動ポンプ23)に流れる電流値(状態量)を示す第2電流値Im2を検出する第2電流センサ78、及び第2モータ44の回転角(状態量)を示す第2回転角θm2と回転速度(状態量)を示す第2回転速度ω2を検出する第2回転角センサ79が接続されている。なお、第2回転速度ω2は、第2回転角θm2を微分したものである。
【0035】
第1マイコン71は、所定のサンプリング周期で各センサ76,77から第1電流値Im1、第1回転角θm1、及び第1回転速度ω1といった状態量を検出し取得する一方、CAN61から第2電流値Im2、操舵角θs、及び車速SPDといった状態量を受信し取得する。なお、第1マイコン71は、第1電流値Im1をCAN61に送信する。
【0036】
また、第2マイコン73は、所定のサンプリング周期で各センサ78,79から第2電流値Im2、第2回転角θm2、及び第2回転速度ω2といった状態量を検出し取得する一方、CAN61から第1電流値Im1、操舵角θs、及び車速SPDといった状態量を受信し取得する。なお、第2マイコン73は、第2電流値Im2をCAN61に送信する。
【0037】
第1及び第2マイコン71,73は、取得した各状態量に基づいてモータ制御信号を出力することにより、駆動電力の供給を通じて第1及び第2モータ41,44の作動を制御する。
【0038】
次に、第1及び第2マイコン71,73が行う第1及び第2モータ41,44の制御内容を説明する。
第1マイコン71は、第1モータ41の回転速度を示す第1回転速度ω1が、操舵角θs及び車速SPDに基づいて演算される目標回転速度となるように回転速度制御(速度フィードバック制御)を実行することにより、モータ制御信号を出力して第1モータ41の作動を制御する。また、第2マイコン73は、第2モータ44の回転速度を示す第2回転速度ω2が、操舵角θs及び車速SPDに基づいて演算される目標回転速度となるように回転速度制御(速度フィードバック制御)を実行することにより、モータ制御信号を出力して第2モータ44の作動を制御する。
【0039】
この目標回転速度には、その最低値として比較的低いスタンバイ回転速度が予め設定されている。そして、操舵角θsを微分して得られる操舵速度ωs及び車速SPDに応じて、マップを用いてスタンバイ回転速度よりも高い目標回転速度が演算される。本実施形態では、第1及び第2マイコン71,73が同一マップを用いて目標回転速度を演算するとともに、この演算に際しては操舵速度ωsの絶対値が大きいほど、また車速SPDが低いほど、すなわち必要とされるアシスト力が大きく、操舵アシストの要求(負荷)が高いほど、高い目標回転速度を演算するように設定されている。
【0040】
ここで、回転速度制御について、説明する。
図3に示すように、第1及び第2マイコン71,73は、第1電流値Im1と第2電流値Im2の合計を示す合計電流値Imに応じて、第1及び第2電流値Im1,Im2で許容する電流値の範囲を切り替えて回転速度制御を実行する。
【0041】
すなわち、
図3の上段に示すように、例えば、第1及び第2電動ポンプ22,23の起動完了後といった通常状態時、第1及び第2電流値Im1,Im2で許容する電流値の範囲は、原則、車載電源75から同時に安定して供給可能な駆動電力に関わる電流の第1制限値α1未満に設定される(以下、「制限付中」という)。ちなみに、本実施形態では、この第1制限値α1が、例えば、75A程度に設定されている。これにより、合計電流値Imで許容する電流値の範囲は、原則、第1及び第2電流値Im1,Im2のそれぞれの第1制限値α1の2倍に相当する第2制限値α2未満に設定されることとなる。本実施形態では、第1電流値Im1及び第2電流値Im2、すなわち合計電流値Imが第1及び第2電動ポンプ22,23の作動に関わるパラメータに相当する。
【0042】
このため、制限付中、第1マイコン71は、第1電流値Im1を第1制限値α1未満に制限した状態(Im1<α1)で、目標回転速度に第1回転速度ω1が追従するように、第1モータ41、すなわち第1電動ポンプ22の作動を制御する。同様に、制限付中、第2マイコン73は、第2電流値Im2を第1制限値α1未満に制限した状態(Im2<α1)で、目標回転速度に第2回転速度ω2が追従するように、第2モータ44、すなわち第2電動ポンプ23の作動を制御する。
【0043】
ただし、制限付中には、操舵アシストの要求が、第1制限値α1の電流値で第1及び第2モータ41,44を回転させて得られる以上の作動油の流量を要するまでに高まることもある。この場合、第1及び第2電動ポンプ22,23から供給する作動油の流量を高めるため、第1及び第2モータ41,44の回転速度が上昇され、それに伴って第1及び第2電流値Im1,Im2が第1制限値α1、すなわち合計電流値Imが第2制限値α2を例外的に超える。
【0044】
このため、
図3の中段に示すように、制限付中に合計電流値Imが第1制限値α1の2倍、すなわち第2制限値α2を超える場合、第1及び第2電流値Im1,Im2で許容する電流値の範囲が切り替えられて特別状態時(以下、「制限解除中」という)となる。すなわち、第1及び第2マイコン71,73は、制限付中、原則、同一マップを通じて同一の目標回転速度を演算する一方、制限解除中、例外的に異なる目標回転速度を演算する。したがって、第1及び第2マイコン71,73は、制限解除中、第1及び第2電動ポンプ22,23を対象に異なるマップを用いて第1及び第2モータ41,44の駆動を制御する(目標回転速度を演算する)ことになる。
【0045】
なお、合計電流値Imが第2制限値α2を超えるのは、第1及び第2電流値Im1,Im2のそれぞれが第1制限値α1を超える状況である。この場合には、制限付中であることから、第1及び第2マイコン71,73が同一マップを用いて目標回転速度を演算するので、第1及び第2電流値Im1,Im2が同一の値を示す。
【0046】
そして、
図3の下段に示すように、第1及び第2電流値Im1,Im2で許容する電流値の範囲が切り替えられた後の制限解除中、第1電流値Im1で許容する電流値の範囲は、原則、第1制限値α1より大きく第2制限値α2未満に設定される。また、制限解除中、第2電流値Im2で許容する電流値の範囲は、「0(零)」に設定される。すなわち、制限解除中、第2モータ44については、駆動電力の供給の遮断を通じてその作動が最終的に停止される。
【0047】
ここで、制限解除中の制御内容についてさらに詳しく説明する。
まず、第2マイコン73は、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、目標回転速度を「0(零)」として、第2モータ44の作動を停止させるように制御する。すなわち、第2マイコン73は、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を今よりも減らするように制御する。本実施形態では、第2電動ポンプ23が電動ポンプのうち第1の電動ポンプに相当する。
【0048】
一方、第1マイコン71は、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、目標回転速度を第1電流値Im1が第2制限値α2付近であって、該第2制限値α2を超えない規定速度として経験的に導かれる速度まで高めるように、第1モータ41の作動を制御する。すなわち、第1マイコン71は、第2電動ポンプ23で低くした分の流用を補うように第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量を今よりも増やすように制御する。ちなみに、本実施形態では、この規定速度が、例えば、5000rpmに応じた速度に設定されている。本実施形態では、第1電動ポンプ22が電動ポンプのうち第2の電動ポンプに相当する。
【0049】
次に、本実施形態の油圧パワーステアリング装置1の作用を説明する。
図4に示すように、ある時点から時間が経過すると、第1及び第2電流値Im1,Im2が高まるのに伴って、合計電流値Imが高まっていき、時点t1で合計電流値Imが第2制限値α2を超える。
【0050】
合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、第2電動ポンプ23では目標回転速度を「0」とするので、第2モータ44の作動が即座に停止されるとともに、第2電流値Im2が即座に「0」に推移する。一方、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、第1電動ポンプ22では目標回転速度を上述した規定速度とするので、第1モータ41の回転速度が即座に上昇するとともに、第1電流値Im1が即座に第2制限値α2付近まで高まるように推移する。
【0051】
なお、第1電流値Im1が第2制限値α2付近まで高まると第2電流値Im2も「0」に達するので、合計電流値Imは、一瞬、低下するがその直後から第1電流値Im1(第2制限値α2付近)に追従する。
【0052】
このため、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量がいずれ「0」となる代わりに、その分の流量を補うように第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量が必要としている流量まで増やされる。したがって、合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第1電動ポンプ22を対象に、第1モータ41の回転速度、すなわち第1モータ41の出力が高められるようになる。これにより、合計電流値Imが第2制限値α2を超えることで第1及び第2電動ポンプ22,23への操舵アシストの要求が高まっても、第1電動ポンプ22については、高い操舵アシスト要求に負けて第1モータ41が停止してしまうことが抑制される。
【0053】
また、第2電動ポンプ23では供給する作動油の流量を減らすだけでなく第2モータ44の作動が即座に停止されるので、第1電動ポンプ22における第1モータ41の回転速度、すなわちモータの出力を最大限に高めることができる。
【0054】
また、第1及び第2モータ41,44の駆動を同一マップを用いて制御する場合には、第1及び第2電流値Im1,Im2が略同一になっていると言える。しかし、これら第1及び第2電流値Im1,Im2に関しては、第1及び第2モータ41,44の駆動を同一マップを用いて制御するとなると、これらのうち何れかのモータのみを制御するよりもその調整がし難い。特に、操舵アシストの要求が高まった際には、供給する作動油の流量を増やすために第1及び第2モータ41,44の出力を高めていかなければならず、第1及び第2電流値Im1,Im2の調整が余計し難くなる。
【0055】
その点、合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第2電動ポンプ23を停止させて第1電流値Im1のみ調整すればよくなるので、合計電流値Imの調整がし易くなる。これにより、合計電流値Imが第2制限値α2を超えることで第1及び第2電動ポンプ22,23への操舵アシストの要求が高まっても、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を好適に供給することができるようになる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第1電動ポンプ22については、高い操舵アシスト要求に負けてモータが停止してしまうことが抑制される。これにより、操舵アシスト要求に応じた作動油を供給することができる。
【0057】
(2)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第2電動ポンプ23を停止させるので、第1電動ポンプ22におけるモータの出力を最大限に高めることができる。
(3)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第2電動ポンプ23については第2モータ44の作動を即座に停止させるので、第1電動ポンプ22における第1モータ41の回転速度、すなわちモータの出力を最大限に高めることができる。これにより、比較的早い段階で第1モータ41の回転速度、すなわち第1モータ41の出力を高めて高い操舵アシスト要求に対処することができる。
【0058】
(4)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、合計電流値Imの調整がし易くなるので、操舵アシストの要求が高まっても、操舵アシストの要求に応じた流量の作動油を好適に供給することができるようになり、モータが停止してしまうことでアシスト力が不安定となることを抑制することができる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、油圧パワーステアリング装置の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、制限解除中の第1及び第2モータ41,44の回転速度の変化のさせ方のみである。このため、既に説明した実施形態と同一構成及び同一制御内容などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0060】
本実施形態における制限解除中の制御内容について詳しく説明する。
まず、第2マイコン73は、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、目標回転速度を徐々に低くして最終的に「0」となるように、第2モータ44の作動を制御する。すなわち、第2マイコン73は、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を今より減らすとともに、徐々に減らすように制御する。
【0061】
一方、第1マイコン71は、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、目標回転速度を徐々に高くして最終的に上述した規定速度となるように、第1モータ41の作動を制御する。すなわち、第1マイコン71は、第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量を今より増やすとともに、徐々に増やすように制御する。
【0062】
なお、第1及び第2マイコン71,73は、制限解除中に目標回転速度を徐々に変化させる際、第1及び第2電流値Im1,Im2の変化量、すなわち変化過程の傾きが同一となるように制御する。
【0063】
次に、本実施形態の油圧パワーステアリング装置1の作用を説明する。
図5に示すように、ある時点から時間が経過すると、第1及び第2電流値Im1,Im2が高まるのに伴って、合計電流値Imが高まっていき、時点t1で合計電流値Imが第2制限値α2を超える。
【0064】
合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、第2電動ポンプ23では目標回転速度を徐々に「0」に近付けるので、第2モータ44の回転速度が徐々に「0」にされるとともに、第2電流値Im2が徐々に「0」に推移する。一方、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、第1電動ポンプ22では目標回転速度を徐々に上述した規定速度に近付けるので、第1モータ41の回転速度が徐々に上昇されるとともに、第1電流値Im1が徐々に第2制限値α2付近まで高まるように推移する。
【0065】
なお、第1電流値Im1が第2制限値α2付近まで高まっていく途中、第2電流値Im2の減少分、第1電流値Im1が増加するので、合計電流値Imは、低下することなく制限付中から制限解除中への切り替え時の電流値(第2制限値α2を超えた値)に維持される。
【0066】
このため、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を徐々に「0(零)」にするので、作動油の流量の合計の急激な現象を抑えることができる。さらに第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量については徐々に増やすので、電動ポンプの作動に関わる駆動電力、それに関わる電流の急激な上昇を抑えることができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)、(2)、(4)の効果に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(5)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を徐々に減らすので、作動油の流量の合計の急激な減少を抑えることができるようになり、アシスト力が不安定となることを抑制することができる。さらに、第2の電動ポンプから供給する作動油の流量については徐々に増やすので、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力、それに関わる電流の急激な上昇を抑えることができるようになり、合計電流値Imのさらなる上昇を抑制することができる。
【0068】
(第3実施形態)
次に、油圧パワーステアリング装置の第3実施形態を説明する。なお、本実施形態と上記第2実施形態との主たる相違点は、制限解除中の第1モータ41の回転速度の変化のさせ方のみである。このため、既に説明した実施形態と同一構成及び同一制御内容などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0069】
本実施形態における制限解除中の制御内容について詳しく説明する。
第1マイコン71は、合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、第2マイコン73が目標回転速度を徐々に低くする制御の開始後、時間ts経過すると、目標回転速度を徐々に高くして最終的に上述した規定速度となるように、第1モータ41の作動を制御する。すなわち、第1マイコン71は、第2マイコン73が第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を今より減らし始めてから時間ts遅らせて、第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量を今より増やすとともに、徐々に増やすように制御する。
【0070】
ちなみに、時間tsは、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を減らしていく間で、合計電流値Imが低くなり過ぎることで、作動油の流量の合計が減り過ぎない時間として経験的に導かれる時間、例えば、100msに設定されている。
【0071】
次に、本実施形態の油圧パワーステアリング装置1の作用を説明する。
図6に示すように、ある時点から時間が経過すると、第1及び第2電流値Im1,Im2が高まるのに伴って、合計電流値Imが高まっていき、時点t1で合計電流値Imが第2制限値α2を超える。
【0072】
合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、時間tsの間、第1電流値Im1が維持される。続いて、時間tsが経過して時点t2から、第1電動ポンプ22では目標回転速度を徐々に上述した規定速度に近付けるので、第1モータ41の回転速度が徐々に上昇するとともに、第1電流値Im1が第2電流値Im2の低下に遅れて徐々に第2制限値α2付近まで高まるように推移する。
【0073】
なお、第1電流値Im1が維持される時間tsの間、第2電流値Im2の減少分、合計電流値Imが減少するので、合計電流値Imは、第2制限値α2未満まで低下する。その後、第1電流値Im1が第2制限値α2付近まで高まっていく途中、第2電流値Im2の減少分、第1電流値Im1が増加するので、合計電流値Imは、時点t2時の電流値(第2制限値α2未満の値)に維持される。
【0074】
このため、第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量を増やすのを遅らせている間、第2電動ポンプ23から供給する作動油の流量を減らす分、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力の上昇を抑えて、さらに低下させることができる。このように確保しなければいけない駆動電力を一旦、減らした後、第1電動ポンプ22から供給する作動油の流量を増やすことで、駆動電力の確保に余裕を持つことができる。
【0075】
駆動電力は、車両で発生させる電力から割り当てるので、電動ポンプばかりに割り当ててしまうと、例えば、電装部品に関わるシステム等の車両の他のシステムへの割り当てが不安定になってしまう。そのため、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力の上昇を抑えて、さらに低下させることで、車両の他のシステムへ与える影響を最小限に抑えることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記各実施形態の(1)、(2)、(4)、(5)の効果に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(6)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、駆動電力の確保に余裕を持つことができる。
【0077】
(7)合計電流値Imが第2制限値α2を超える場合、電動ポンプの作動に関わって確保しなければいけない駆動電力の上昇を抑えて、さらに低下させることで、車両の他のシステムへ与える影響を最小限に抑えることができる。
【0078】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・制限解除中、第2電動ポンプ23では第2モータ44を停止させるようにしたが、停止させなくても合計電流値Imが第2制限値α2を超えると、供給する作動油の流量が減るようになっていればよい。
【0079】
・電動ポンプの作動に関わるパラメータとしては、電流値以外を用いることもでき、例えば、駆動電力に関わる電圧を用いてもよいし、供給油路55を流れる作動油の流量を用いてもよい。作動油の流量を用いる場合には、供給油路55内に流量センサを設けて、その検出値を用いるようにすればよい。
【0080】
・制限解除中へは、第1及び第2電流値Im1,Im2のそれぞれの値に応じて切り替えられてもよい。例えば、制限解除中へは、第1及び第2電流値Im1,Im2の何れか一方が第1制限値α1を超える場合に切り替えられてもよい。その他、制限解除中へは、第1及び第2マイコン71,73で、異なる条件に基づき切り換えられるようにしてもよい。例えば、第1マイコン71は、第1電流値Im1が第1制限値α1を超える場合に制限解除中に切り替える一方、第2マイコン73は、第2電流値Im2が第1制限値α1を超える場合に制限解除中に切り替える。
【0081】
・第1実施形態について、制限解除中に切り替える際、第2電動ポンプ23では、目標回転速度をいきなり「0」にするのではなく、5段階等の複数段階に亘ってステップ的に「0」に近付けるようにしてもよい。同様、第1電動ポンプ22では、目標回転速度をいきなり規定速度にするのではなく、5段階等の複数段階に亘ってステップ的に規定速度に近付けるようにしてもよい。
【0082】
・第1実施形態について、制限解除中に切り替える際、第2電動ポンプ23で第2モータ44の作動の停止を確認した後、第1電動ポンプ22で制限解除中の制御が行われるようにしてもよい。
【0083】
・第2及び第3実施形態について、制限解除中に目標回転速度を徐々に変化させる際の第1及び第2電流値Im1,Im2の変化過程は、線形ではなく非線形となるように制御することもできる。
【0084】
・第3実施形態について、制限解除中に目標回転速度を徐々に変化させる際の第1及び第2電流値Im1,Im2の変化過程は、第2電流値Im2の変化量が第1電流値Im1の変化量よりも大きくなるように制御することもできる。これによっては、時点t1から時間ts遅らせることなく第1電流値Im1を高めていくことを可能にする。
【0085】
・第1及び第2マイコン71,73は、それぞれで異なるマップを用いて目標回転速度を演算することもできる。例えば、第1電動ポンプ22については、供給する作動油の流量を第2電動ポンプ23よりも増やすことができる。この場合には、こういった第1電動ポンプ22を第2の電動ポンプとして機能させる一方、第2電動ポンプ23を第1の電動ポンプとして機能させればよい。また、第1及び第2マイコン71,73は、マップに代えて関数(数式等の演算式)を用いて目標回転速度を演算することもできる。
【0086】
・油圧シリンダ21の油圧源として第1及び第2電動ポンプ22,23の2つを設けたが、3つ以上の電動ポンプを設けてもよい。この場合には、制限解除中、作動油の流量を増やすように制御する電動ポンプと作動油の流量を減らすように制御する電動ポンプに単数又は複数ずつ振分けるようにすればよい。
【0087】
・第1及び第2電動ポンプ22,23が、それぞれ第1及び第2ECU43,46を有する構成としたが、これに限らず、1つのECUで第1及び第2モータ41,44の作動を制御してもよい。