(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209936
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】地盤に井戸を構築する方法、この方法で用いられる希釈剤及び洗浄材
(51)【国際特許分類】
E21B 37/00 20060101AFI20171002BHJP
E03B 3/08 20060101ALI20171002BHJP
C09K 8/12 20060101ALI20171002BHJP
C09K 8/06 20060101ALI20171002BHJP
C11D 7/42 20060101ALI20171002BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20171002BHJP
C02F 11/14 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
E21B37/00
E03B3/08 AZAB
C09K8/12
C09K8/06
C11D7/42
C09K3/00 103P
C02F11/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-221828(P2013-221828)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83732(P2015-83732A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】水本 実
(72)【発明者】
【氏名】荒川 真
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−017932(JP,A)
【文献】
特表2000−511222(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0294498(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0146289(US,A1)
【文献】
特開平02−169021(JP,A)
【文献】
特開平06−116989(JP,A)
【文献】
特開2001−049981(JP,A)
【文献】
特開平05−009468(JP,A)
【文献】
特開平03−232600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−19/24
E21B 44/00−44/10
E21B 37/00
E03B 3/08−3/26
C02F 11/14
C09K 3/00
C09K 8/06
C09K 8/12
C11D 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に井戸を構築する井戸の構築方法であって、
生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、前記地盤に孔を形成する削孔工程と、
泥水の粘度を低下させる分散剤を含有する希釈液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、
前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜を分解する洗浄工程と、を行うことを特徴とする井戸の構築方法。
【請求項2】
生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、地盤に孔を形成する削孔工程と、希釈液を前記孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜を分解する洗浄工程とを行い、前記地盤に井戸を構築する井戸の構築方法に用いられ、
前記希釈液を作製するための希釈剤であって、前記泥水の粘度を低下させる分散剤を含有することを特徴とする希釈剤。
【請求項3】
生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、地盤に孔を形成する削孔工程と、泥水の粘度を低下させる分散剤を含有する希釈液を前記孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜を分解する洗浄工程とを行い、前記地盤に井戸を構築する井戸の構築方法に用いられ、
前記洗浄液を作製するための洗浄材であって、前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有することを特徴とする洗浄材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に井戸を構築する方法、この方法で構築された井戸、この方法で用いられる希釈剤及び洗浄材に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削工事の現場では、掘削領域やその周囲に設けた揚水井により地下水を揚水して掘削領域の地下水位を低下させたり、揚水した地下水を復水井により地盤中に復水して地下水の処理コストの低減や現場周辺の地下水位の低下の抑制を図ったりすることが行われている(特許文献1を参照)。また、汚染土壌の浄化に際しては、揚水井で揚水した地下水に含まれる有害物質を除去し、除去後の処理水を復水井に戻すことが行われている。
【0003】
このような井戸を構築する場合、孔壁の崩落を抑制するため、安定液で満たしながら地盤を掘削している。この安定液としては、ベントナイトを主成分として含有する泥水が一般的に用いられている。また、グアガム(天然系ポリマー)を主成分とするものを用いることもあるが、腐敗しやすく、異臭の原因となり、短期間しか効果が持続しないので一般的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−291474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベントナイト泥水を用いると、ベントナイトが孔壁面に浸透して造壁膜を形成することから安定した削孔が行える反面、この造壁膜が残存してしまうと井戸の通水性を低下させる一因になってしまう。従来は、ベントナイト粒子を凝集させる洗浄液を、削孔後の孔内(すなわち泥水)に注入し、亀裂を生じさせる等して造壁膜を洗浄除去していた。
【0006】
しかしながら、洗浄液の注入は、筒状のケーシングを孔内に建て込み、孔壁とケーシングの隙間に砕石等のフィルター材を充填した後に行われる。このため、凝集後のベントナイト粒子がフィルター材の隙間を塞いだり、フィルター材で押さえられたりすることで、造壁膜が孔壁に留まってしまう可能性があり、この点に改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、泥膜(造壁膜)の除去率を高めて井戸の通水性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するため、本発明は、地盤に井戸を構築する井戸の構築方法であって、生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、前記地盤に孔を形成する削孔工程と、泥水の粘度を低下させる分散剤を含有する希釈液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜(造壁膜)を分解する洗浄工程と、を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、地盤に孔を形成する削孔工程と、希釈液を前記孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜(造壁膜)を分解する洗浄工程とを行い、前記地盤に井戸を構築する井戸の構築方法に用いられ、前記希釈液を作製するための希釈剤であって、前記泥水の粘度を低下させる分散剤を含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、生分解性高分子を含有する安定液を注入しつつ削孔を行うことで、地盤に孔を形成する削孔工程と、泥水の粘度を低下させる分散剤を含有する希釈液を前記孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程と、洗浄液を前記孔に注入することで、前記孔内の泥膜(造壁膜)を分解する洗浄工程とを行い、前記地盤に井戸を構築する井戸の構築方法に用いられ、前記洗浄液を作製するための洗浄材であって、前記生分解性高分子を分解可能な酵素を含有することを特徴とする。
【0012】
これらの発明では、生分解性高分子を含有する安定液を削孔工程で用い、生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する洗浄液を洗浄工程で用い、かつ、削孔工程と洗浄工程との間に、泥水の粘度を低下させる分散剤を含有する希釈液を孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる希釈工程を行っている。そして、土砂が沈降されていることから、洗浄工程にて酵素を有効に作用させることができ、生分解性高分子の分解効率を向上させることができ、ひいては、孔内の泥膜(造壁膜)の除去率が高まって通水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地盤に井戸を構築するに際して、泥膜(造壁膜)の除去率を高めて通水性を向上させることができる。また、通水性を向上させた井戸を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】各工程で用いられる薬材を説明する図である。
【
図2】削孔工程における第1段階の削孔を説明する図である。
【
図3】削孔工程における第2段階の削孔を説明する図である。
【
図7】フィルター材の充填処理を説明する図である。
【
図8】洗浄処理における洗浄液の注入を説明する図である。
【
図9】洗浄処理における洗浄液の汲み上げを説明する図である。
【
図10】水中ポンプ及び揚水管の建込みを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図11に示す井戸1を、盛土層G1、粘性土層G2、及び、帯水層G3を有する地盤Gに構築する。なお、帯水層G3の上側の層は、難透水層であればよく、粘性土層G1、盛土層G2に限られない。
【0016】
図1に示すように、この井戸1の構築に際しては、削孔工程、希釈工程、及び、洗浄工程が順に行われる。各工程については後で詳しく説明するが、概略を説明すると、削孔工程では、安定液を注入しつつ削孔を行うことで地盤Gに孔を形成する。希釈工程では、希釈液を孔に注入することで、孔内の泥水に含まれる土砂を沈降させる。洗浄工程では、洗浄液を孔に注入し、泥水に含まれる前記生分解性高分子を分解する。
【0017】
安定液は、安定液材を水(上水や工業用水等、以下同じ)に溶解することで作製される。安定液材は、水溶性の生分解性高分子を主成分として含有する薬材である。ここで、主成分として含有されるとは、所望の機能を発揮し得る比率で含有し、他の成分についてはこの機能を妨げない程度に含有し得ることを意味する。例えば、安定液としては、削孔によって生じた土砂を上昇させる懸垂力、及び、土砂を沈降させずに保持する保持力が求められる。このような機能を有する生分解性高分子としては、例えば、半合成系高分子やバイオポリマーが挙げられる。
【0018】
半合成系高分子は、天然資源を出発物質とした化学合成によって得られる化合物である。この半合成系高分子としては、例えば、天然資源の一種であるセルロースを出発物質として得られたセルロース系ポリマーを用いることができる。このセルロース系ポリマーとしては、例えば、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチル基を導入したメチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチル基を導入したヒドロキシエチルセルロース(HEC)が挙げられる。
【0019】
これらの中で、カルボキシメチルセルロースはアニオン性の高分子であり、メチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースはノニオン性の高分子である。そして、カルボキシメチルセルロースは、メチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースよりも気泡が発生し難い点で優れている。なお、本実施形態に利用可能なカルボキシメチルセルロースとしては、日本製紙株式会社の「サンローズ(登録商標)」や株式会社ダイセルのCMCや第一工業製薬株式会社の「セロゲン(登録商標)」がある。
【0020】
バイオポリマーは、微生物の活動による分泌物から得られた化合物である。このバイオポリマーとしては、例えば、キサンタンガム、キトサン、ポリサッカライドといった増粘多糖類が挙げられる。これらの中で、キサンタンガム及びキトサンは、工業的に量産されており入手が容易である点で、ポリサッカライドよりも優れている。また、バイオポリマーは、土砂の懸垂力や保持力が高い点で半合成系高分子よりも優れている。
【0021】
希釈液は、希釈剤を水に溶解することで作製される。希釈剤は、泥水の粘度を低下させる分散剤(界面活性剤)を主成分として含有する薬剤である。すなわち、分散剤を含有する希釈液を泥水に注入すると、泥水の粘度が低下して土砂が沈降され、上澄み部分における土砂濃度を低下させることができる。この点で、単に濃度を薄くする溶媒とは異なっている。
【0022】
分散剤としては、例えば、合成系分散剤と天然系分散剤が挙げられる。合成系分散剤としては、例えば、カルボキシル基を有するポリカルボン酸系の分散剤、具体的にはポリアクリル酸ソーダ等のポリアクリル酸塩が好適に用いられる。そして、ポリアクリル酸塩においては、重合度を異ならせたり、ナフタレン基やスルホン基といった官能基を付加したりすることで、分散の度合いを調整できる。天然系分散剤としては、例えば、リグニン系の分散剤を用いることができる。但し、リグニン系分散剤は、着色されていること、ポリカルボン酸系分散剤よりも分散能が低いことが判っている。このため、リグニン系分散剤よりもポリカルボン酸系分散剤の方が優れている。なお、本実施形態に利用可能なポリアクリル酸ソーダとしては、三洋化成工業株式会社の「キャリボンLシリーズ」等がある。
【0023】
洗浄液は、洗浄材を水に溶解することで作製される。洗浄材は、生分解性高分子を分解可能な酵素を含有する薬剤である。すなわち、この酵素を含有する洗浄液を、土砂が沈降された後の泥水に注入すると、この泥水に含まれる生分解性高分子が酵素によって分解される。そして、泥水の上澄み部分では土砂が沈降によって減少しており、かつ、泥水の粘度が低下されているので、酵素が活動し易い環境になっている。このため、酵素によって生分解性高分子を効率よく分解することができる。
【0024】
洗浄材としては、セルロース分解菌の分泌物である酵素、具体的にはセルラーゼを用いることができる。なお、本実施形態に利用可能なセルラーゼとしては、HBI株式会社の商品名「セルロシンAC40」がある。
【0025】
ここで、安定液材、分散剤、洗浄材について補足すると、無色透明であること、及び、食用であることがより好ましい。これは、井戸1の構築中や構築後において、安定液、希釈液、洗浄液が、地下水に混入する可能性があるためである。
【0026】
次に、本実施形態に係る井戸1の構築方法を具体的に説明する。
【0027】
まず、削孔工程について説明する。
図2に示すように、削孔工程では、地表面(盛土層G1の表面)を部分的に掘削して釜場2を形成し、サンドポンプ3を設置する。また、地表面に敷鉄板4を敷設し、その上にボーリングマシン5を設置する。なお、敷鉄板4の敷設は必須ではなく、必要に応じて行えばよい。その後、下端に掘削翼6が設けられたロッド7をボーリングマシン5に取り付け、ガイドパイプ8(
図3参照)を設置するための孔9を形成する。
【0028】
ここで、本実施形態では、削孔泥水SW(安定液)を使用した正循環方式の工法を用いている。このため、ロッド7には中空管が用いられており、ロッド7の上端にはスイベル10が取り付けられている。そして、スイベル10に接続された供給管11を通じ、削孔泥水SWがロッド7へ供給される。この削孔泥水SWはロッド7の内部空間を流下し、掘削翼6から噴射される。この掘削翼6は、ロッド7の軸心を中心にしてロッド7と共に回転される。これにより、掘削翼6から噴射された削孔泥水SWは、孔9の内部を満たして上昇する。
【0029】
削孔泥水SWの上昇流により、掘削によって生じた土砂が孔口まで運搬される。そして、土砂混じりの削孔泥水SWは、釜場2でサンドポンプ3に吸い込まれ、プラント(図示せず)へ送出される。なお、プラントでは、土砂混じりの削孔泥水SWから土砂を分離し、分離後の削孔泥水SWをスイベル10に向けて送出している。
【0030】
このように、削孔泥水SWは、掘削によって生じた土砂を孔口まで上昇させる機能を有するので、前述したように懸垂力や保持力が求められる。このため、削孔泥水SW(安定液)を作製するに際しては、その粘度が重要になる。事前の試験で最適粘度が設定されるが、B型粘度計による測定粘度で1000〜8000mPa・s程度の範囲に定められる。粘度の調整に際しては、半合成系高分子をベースに、半合成系高分子よりも高粘度なバイオポリマーを混合することが好ましい。例えば、カルボキシメチルセルロースをベースに、キサンタンガムを混合することが好ましい。何れも溶解液が無色透明であり、食用だからである。
【0031】
ガイドパイプ8の長さ分まで削孔したならば、ボーリングマシン5を退避させてガイドパイプ8を建て込む。その後、
図3に示すように、ボーリングマシン5を再度設置して削孔を継続する。その際、掘削翼6は、ガイドパイプ8の内径よりも若干小さい回転径のものを用いる。そして、必要深さまで削孔を行ったならば、削孔工程を終了する。
【0032】
削孔工程が終了したならば、希釈工程を行う。
図4に示すように、この希釈工程では、孔9の内部に貯留された削孔泥水SWに希釈液を注入する。前述したように、希釈液は、分散剤を含有する希釈剤を水に溶解したものである。本実施形態では、食品添加物としても用いられているポリアクリル酸ソーダを分散剤として用いている。そして、ホース12やパイプ(以下ホース12等という)を孔内に挿入し、送液ポンプ(図示せず)によって希釈液を削孔泥水SWに注入する。希釈液の注入により、削孔泥水SWの粘度が低下し、削孔泥水SWに保持されている土砂が沈降する。
【0033】
ここで、希釈液に含まれる分散剤の濃度や希釈液の注入量は、注入前後における削孔泥水SWの砂分率に応じて定められる。前述したように、土砂の懸垂力や保持力を得るため、削孔泥水SWの粘度は、1000〜8000mPa・s程度に定められる。これにより、削孔泥水SWの砂分率(砂分の含有率)は20%を越えることもある。そして、希釈液を注入すると、分散剤の作用によって削孔泥水SWの粘度が低下し、土砂の沈降が促進される。すなわち、削孔泥水SWについて砂分率が低下する。
【0034】
本実施形態において、分散剤の濃度や希釈液の注入量は、上澄み部分の砂分率が20%以下になるように定められる。そして、好ましくは砂分率が10%以下、より好ましくは砂分率が5%以下となるように定められる。なお、これらの濃度及び注入量は、事前調査に基づき設定してもよく、現地での砂分率の実測により設定してもよい。
【0035】
このように、上澄み部分の砂分率で、分散剤の濃度や希釈剤の注入量を管理することにより、その後に行われる洗浄工程での洗浄効率を高めることができる。すなわち、洗浄液に含まれる酵素は、削孔泥水SW(安定液)に含まれる生分解性高分子を分解するものであるが、土砂の存在下では生分解高分子に対する分解能が低下してしまう。本実施形態のように、希釈工程を行って削孔泥水SWに含まれる土砂を積極的に沈降させることにより、酵素による生分解性高分子の分解能を高めることができる。
【0036】
削孔泥水SWに含まれる土砂を沈降させたならば、
図5に示すように、孔9の底部に溜まった土砂(スライム)Sを排出する。ここでは、底浚い用のバケット13(ベーラー)を用いて溜まった土砂Sを除去する。ここで、孔9の底部が逆円錐形状に形成されているため、バケット13を底部に配して土砂Sを除去し続けると、溜まった土砂Sは自重で平面方向の中心に集まる。これにより、溜まった土砂Sを効率よく除去できる。
【0037】
溜まった土砂Sを除去したならば、
図6に示すように、ケーシング14の建込みを行う。ここでは、ボーリングマシン5を再度退避させた後に、クレーン15を移動させる。そして、透水部としてのスクリーン14aが下端に形成された円筒状のケーシング14をクレーン15で吊り下げ、孔内に建て込む。この場合、ケーシング14が孔9の深さに対して短尺である場合には、円筒管を溶接で順次継ぎ足して必要長さまで延長する。
【0038】
次に、
図7に示すように、ケーシング14と孔壁(地山)との間に砕石等のフィルター材16を充填する。フィルター材16の充填に際しては、例えば、フィルター材16が充填されたコンテナバッグ17をクレーン15で吊り下げ、このコンテナバッグ17の底部に形成された穴から、ケーシング14よりも外周側の空間にフィルター材16を充填する。フィルター材16の充填に伴い、孔9からは削孔泥水SWがあふれ出るので、サンドポンプ3によってこの削孔泥水SWをプラントへ送出する。
【0039】
フィルター材15の充填後、洗浄工程を行う。この洗浄工程では、
図8に示すように、洗浄液を孔内の削孔泥水SWに注入する。ここで、ケーシング14の内部にはフィルター材16が充填されておらず削孔泥水SWで満たされている。このため、ホース12等をケーシング14の内部に挿入し、洗浄液(酵素液)を削孔泥水SWに注入する。本実施形態では、洗浄材としてセルラーゼを用いており、井戸1の容積を基準にして所定濃度(例えば10ppm)となる量を水に溶解することで洗浄液を作製している。
【0040】
ここで、ホース12等については、その下端がスクリーン14aの高さ範囲内に位置する長さまで挿入する。これにより、注入された洗浄液は、スクリーン14aを通じてフィルター材16の充填範囲へと拡散され、さらにフィルター材16の隙間を通過して孔壁まで達する。その結果、洗浄液に含まれる酵素(セルラーゼ)が、削孔泥水SWに含まれる生分解性高分子(カルボキシメチルセルロース,キサンタンガム)や、孔壁及びフィルター材16に付着した生分解性高分子(造壁膜等)を分解する。
【0041】
生分解性高分子の分解に必要な待機時間(例えば1〜数時間)が経過したならば、孔9に貯留された削孔泥水SWを汲み上げる。例えば、
図9に示すように、ボーリングマシン5を敷鉄板4の上に再度設置し、ロッド7の先端に洗浄用ポンプ18を接続する。その後、このロッド7を下方に繰り出して、洗浄用ポンプ18をケーシング14の底部に設置する。この状態で洗浄用ポンプ18を作動させると削孔泥水SWが汲み上げられる。このとき、酵素による生分解性高分子の分解物も削孔泥水SWと共に汲み上げられる。
【0042】
削孔泥水SWの汲み上げに伴って地下水が流入するので、孔壁やフィルター材16の表面、及び、ケーシング14が洗浄される。なお、洗浄用ポンプ18によって汲み上げられた削孔泥水SWはプラントへ送出される。そして、地下水によって各部が十分に洗浄されたならば(例えば、洗浄用ポンプ18で汲み上げた水が清浄になったならば)、洗浄工程を終了する。
【0043】
洗浄工程が終了したならば、仕上げ工程を行う。この仕上げ工程では、
図10に示すように、水中ポンプ20、揚水管21、及び、井戸蓋22をケーシング14に設置し、井戸1を完成させる。その際、ガイドパイプ8及びサンドポンプ3を撤去する。その後、
図11に示すように、井戸1の頭部に養生23を設置し、釜場2を埋め戻すことで、井戸1の構築が終了する。
【0044】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る井戸1の構築方法では、生分解性高分子(カルボキシメチルセルロース,キサンタンガム)を含有する削孔泥水SW(安定液)を削孔工程で用い、生分解性高分子を分解可能な酵素(セルラーゼ)を含有する洗浄液を洗浄工程で用い、かつ、削孔工程と洗浄工程との間に、削孔泥水SWの粘度を低下させる分散剤(ポリアクリル酸ソーダ)を含有する希釈液を孔9に注入することで、孔内の削孔泥水SWに含まれる土砂を沈降させる希釈工程を行っている。
【0045】
そして、土砂が沈降されていることから、洗浄工程にて酵素を有効に作用させることができ、生分解性高分子の分解効率を向上させることができる。その結果、地盤Gに井戸1を構築するに際して、泥膜(造壁膜)の除去率を高めることができ、通水性を向上させることができる。また、通水性を向上させた井戸1を構築できる。
【0046】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0047】
前述の実施形態では、内径がほぼ一定な孔9による井戸1を例示したが、例えば
図12に示すように、孔9における帯水層G3に位置する部分に拡径部9aが形成された井戸1´であっても同様に適用できる。この拡径部9aは、頭部9bが上向きの円錐台状空間で構成され、底部9cが下向きの円錐状空間で構成され、中間部9dが円柱状空間によって構成されている。
【0048】
この井戸1´では、拡径部9aにおいて削孔泥水SWの上昇速度が低下するため、削孔泥水SWにおける土砂の懸垂力と保持力を高める必要がある。従来のベントナイト泥水では、濃度を高めることで泥膜(造壁膜)が厚くなってしまうため、残存するベントナイトによって通水性が損なわれてしまう可能性がある。この点、本実施形態では、
図12の井戸1´を構築するに際し、削孔泥水SW(安定液)における生分解性高分子の濃度を高めても、洗浄液の酵素によって泥膜(造壁膜)を分解できるので、通水性を確保し易いという利点がある。
【符号の説明】
【0049】
1…井戸,2…釜場,3…サンドポンプ,4…敷鉄板,5…ボーリングマシン,6…掘削翼,7…ロッド,8…ガイドパイプ,9…孔,9a…拡径部,9b…拡径部の頭部,9c…拡径部の底部,9d…拡径部の中間部,10…スイベル,11…スイベルに接続された供給管,12…ホース,13…底浚い用のバケット(ベーラー),14…ケーシング,14a…スクリーン(透水部),15…クレーン,16…フィルター材,17…コンテナバッグ,18…洗浄用ポンプ,20…水中ポンプ,21…揚水管,22…井戸蓋,23…養生,G…地盤,G1…盛土層,G2…粘性土層,G3…帯水層,SW…削孔泥水,S…孔底部に溜まった土砂(スライム)