(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極が酸化処理されたものであり、酸化処理後の正極酸素欠損量dが0.05以上0.20以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン電池。
前記酸化処理において、充電時における正極の上限電圧がリチウム金属比で4.6V以上に固定されていることを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン電池は、層状岩塩型構造を有し、化学式Li
xM
1yM
2zO
2−d(但し、1.16≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50であり、M
1はMn,Ti,Zrから選択される金属イオンもしくはそれらの混合物、M
2はFe,Co,Ni,Mnから選ばれる金属イオンもしくはそれらの混合物である。)で示されるリチウム酸化物を主成分とする正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を主成分とする負極とを有する。そして、正極酸素欠損量dが0.05以上0.20以下である。正極酸素欠損量dが0.05以上0.20以下であるリチウムイオン電池は、正極酸素欠損量dが0.20を超える電池および正極酸素欠損量dが0.05未満である電池よりも、高い容量が安定して得られる。
【0014】
本発明の一実施形態においては、例えば、好ましくは充電時における正極の上限電圧をリチウム金属比で4.6V以上に固定して、充電の速度を段階的に遅くしていきながら充放電を繰り返すことによって、正極の酸素欠損量dを0.05以上0.20以下にする。これにより、正極の主成分であるリチウム酸化物の構造劣化を抑制しながら本材料を活性化することができ、安定性の高いリチウムイオン電池を提供することができる。なお、正極酸素欠損量dを0.05以上0.20以下にする酸化処理の方法については、特に限定されるものではない。
【0015】
正極酸素欠損量dは、0.08以上0.18以下であることがより好ましく、0.10以上0.15以下であることが特に好ましい。
【0016】
次に、本発明の好ましい一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すものは一例であって、これに限定されるものではない。本発明のリチウムイオン電池は、正極が層状岩塩型構造を有し、化学式Li
xM
1yM
2zO
2−d(但し、1.16≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50であり、M
1はMn,Ti,Zrから選択される金属イオンもしくはそれらの混合物、M
2はFe,Co,Ni,Mnから選ばれる金属イオンもしくはそれらの混合物である。)で示されるリチウム酸化物を主成分とするものであり、この正極の酸素欠損量dが0.05以上0.20以下であることに特徴があって、それ以外の電池を構成する要素、例えば上記以外の正極を構成する材料や、負極を構成する材料、セパレータや電解液を構成する材料は特に限定されず、また、積層型、捲回型などといった電池の構造は特に限定されない。
【0017】
図1に、本発明のリチウムイオン電池の一実施形態である、積層構造のリチウムイオン電池の断面図を示す。この積層構造のリチウムイオン電池は、層状岩塩型構造を有し、化学式Li
xM
1yM
2zO
2−d(但し、1.16≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50であり、M
1はMn,Ti,Zrから選択される金属イオンもしくはそれらの混合物、M
2はFe,Co,Ni,Mnから選ばれる金属イオンもしくはそれらの混合物である。)で示されるリチウム酸化物を主成分とする正極1、正極集電体1A、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を主成分とする負極2、負極集電体2A、電解液を含む多孔質フィルムセパレータ3、外装体4、電気を取り出すための正極リードタブ1Bおよび負極リードタブ2Bを備えている。
【0018】
図1に示されているのは、発電要素が積層型、概観が角型、外装体がラミネートフィルムであるリチウムイオン電池であるが、その形状は特に限定されるものではなく、従来公知の形状にすることができる。
【0019】
発電要素の例としては、積層型の他に、捲回型、折り畳み型等が挙げられるが、放熱性が優れていることから、積層型であることが望ましい。リチウムイオン電池の外観としては、角型の他に、円筒型、コイン型、シート型等が挙げられる。
【0020】
外装体4としては、例えばアルミニウムラミネートフィルムを好適に用いることができるが、特に限定されるものではなく、従来公知の材料を用いてリチウムイオン電池を構成することができる。外装体4の形状も特に限定されるものではなく、フィルム状の他に、例えば金属ケース、樹脂ケース等によって封止されたものが挙げられる。外装体4の素材としては、例えば鉄、アルミニウム等の金属材料、プラスチック材料、ガラス材料、あるいはそれらを積層した複合材料等を使用できる。しかし、酸化処理後のガス抜き作業が簡便に行えることから、アルミニウムとナイロン、ポリプロピレンなどの高分子フィルムとを積層させたアルミニウムラミネートフィルムであることが好ましい。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池の正極1は、層状岩塩型構造を有し、化学式Li
xM
1yM
2zO
2−d(但し、1.16≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50であり、M
1はMn,Ti,Zrから選択される金属イオンもしくはそれらの混合物、M
2はFe,Co,Ni,Mnから選ばれる金属イオンもしくはそれらの混合物である。)で示されるリチウム酸化物を主成分とするものである。
【0022】
リチウム酸化物の組成は特に限定されない。しかしながら、M
1は、高い容量が得られることからMnが好ましく、さらに安定性を上げる観点からMnとTiの混合物であることが好ましい。また、M
2は、低コストであることからFeが好ましく、さらに安定性を上げる観点からFeとNiの混合物であることが好ましい。
【0023】
リチウム酸化物の具体的な組成としては、例えばLi
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
2−d、Li
1.20Mn
0.40Fe
0.40O
2−d、Li
1.23Mn
0.46Fe
0.31O
2−d、Li
1.29Mn
0.57Fe
0.14O
2−d、Li
1.20Mn
0.40Ni
0.40O
2−d、Li
1.23Mn
0.46Ni
0.31O
2−d、Li
1.26Mn
0.52Ni
0.22O
2−d、Li
1.29Mn
0.57Ni
0.14O
2−d、Li
1.20Mn
0.60Ni
0.20O
2−d、Li
1.23Mn
0.61Ni
0.15O
2−d、Li
1.26Mn
0.63Ni
0.11O
2−d、Li
1.29Mn
0.64Ni
0.07O
2−d、Li
1.20Mn
0.40Fe
0.20Ni
0.20O
2−d、Li
1.23Mn
0.46Fe
0.15Ni
0.15O
2−d、Li
1.26Mn
0.52Fe
0.11Ni
0.11O
2−d、Li
1.29Mn
0.57Fe
0.07Ni
0.14O
2−d、Li
1.26Mn
0.37Ti
0.15Ni
0.22O
2−d、Li
1.26Mn
0.37Ti
0.15Fe
0.22O
2−d、Li
1.23Mn
0.33Ti
0.13Fe
0.15Ni
0.15O
2−d、Li
1.20Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2−d、Li
1.20Mn
0.54Ni
0.13Co
0.13O
2−d等が挙げられる。
【0024】
本発明においては、酸素欠損量dが0.05以上0.20以下であるリチウム酸化物を用いてリチウムイオン電池を組み立ててもよいが、後述するように、リチウムイオン電池を組み立てた後に酸化処理を行い、酸素欠損量dを0.05以上0.20以下にすることができる。したがって、用いるリチウム酸化物は、酸素欠損量dが0.05以上0.20以下でなくてもよく、dが0以上0.05未満であってもよい。
【0025】
リチウムイオン電池を組み立てる段階において、リチウム酸化物の酸素欠損量dは通常ほぼゼロであるが、合成方法や正極組成によっては±0.05程度のずれが生じる場合がある。またLiについても、合成方法や正極組成によって化学量論的組成からずれる場合がある。
【0026】
また、本発明におけるリチウム酸化物としては、高容量を得るという観点から、X線粉末回折法で測定した場合に、20−24°の領域にブロードなピークが現れるものが好ましい。
【0027】
本発明のリチウムイオン電池の正極1は、通常、このようなリチウム酸化物と、結着剤とを含み、さらに必要に応じて導電性付与剤を含む。
【0028】
正極の結着剤としては、従来公知の結着剤いずれも用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0029】
また、正極の導電性付与剤としては、従来公知の導電性付与剤いずれも用いることができ、例えば、カーボンブラックや、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、難黒鉛化炭素、金属粉末等が挙げられる。
【0030】
正極1中におけるリチウム酸化物の含有率は任意に調整することができる。リチウム酸化物の含有率が正極重量全体に対して50重量%以上であれば、通常、十分な容量が得られ、さらに、より大きな容量を得たい場合には70重量%以上、特に85重量%以上であることが好ましい。
【0031】
正極の厚みは任意に調整することができる。正極の厚みが20μm以上であれば、通常、十分な容量が得られ、さらに、より大きな容量を得たい場合には50μm以上、特に70μm以上であることが好ましい。
【0032】
正極集電体1Aは、従来公知の正極集電体いずれも用いることができ、例えば、孔の空いたアルミニウム箔を好適に用いることができる。正極集電体1Aの材質としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等を挙げることができる。正極集電体1Aの形状としては、箔や平板、メッシュ状のものを用いることができる。正極集電体1Aとしては、特に、電池内部で発生するガスの、電池厚み方向における通気性を向上させるため、表裏面を貫通する孔を備えたものが好ましく、例えばエキスパンドメタル、パンチングメタル、金属網、発泡体、あるいはエッチングにより貫通孔を付与した多孔質箔等を用いることが望ましい。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池の負極2は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を主成分とするものであり、通常、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料と、結着剤とを含み、さらに必要に応じて導電性付与剤を含む。
【0034】
負極2に含まれるリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料は、その粒径や素材は特に限定されない。素材としては、例えば人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、活性炭等の黒鉛、炭素材料類、ポリアセン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子類、シリコン、スズ、アルミニウム等のリチウム金属と合金を形成する合金材料類、チタン酸リチウム等のリチウム酸化物類、およびリチウム金属等が挙げられる。また、これらの炭素材料、もしくはリチウム金属と合金を形成する合金材料には、予めリチウムイオンをドープしておいてもよい。
【0035】
負極の結着剤としては、従来公知の結着剤いずれも用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0036】
また、負極の導電性付与剤としては、従来公知の導電性付与剤いずれも用いることができ、例えば、カーボンブラックやケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、金属粉末等が挙げられる。
【0037】
負極2中におけるリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料の含有率は任意に調整することができる。リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料の含有率が負極重量全体に対して70重量%以上であれば、通常、十分な容量が得られ、さらに、より大きな容量を得たい場合には80重量%以上、特に90重量%以上であることが好ましい。
【0038】
負極の厚みは任意に調整することができる。負極の厚みが30μm以上であれば、通常、十分な容量が得られ、さらに、より大きな容量を得たい場合には50μm以上、特に70μm以上であることが好ましい。
【0039】
負極集電体2Aは、従来公知の負極集電体いずれも用いることができ、例えば、孔の空いた銅箔を好適に用いることができる。負極集電体2Aの材質としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス等を挙げることができる。負極集電体2Aの形状としては、箔や平板、メッシュ状のものを用いることができる。負極集電体2Aとしては、特に、電池内部で発生するガスの、電池厚み方向における通気性を向上させるため、表裏面を貫通する孔を備えたものが好ましく、例えばエキスパンドメタル、パンチングメタル、金属網、発泡体、あるいはエッチングにより貫通孔を付与した多孔質箔等を用いることが望ましい。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池は、通常、正極1と負極2との間に電解質を備える。
図1に示されているリチウムイオン電池は、電解質として電解液を含む多孔質フィルムセパレータ3を備えている。
【0041】
電解質は、正極1と負極2との間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には室温で10
−5〜10
−1S/cmの電解質イオン伝導性を有しているものが好適に用いられる。
【0042】
電解質としては、従来公知の電解質いずれも用いることができ、例えば、電解質塩(支持塩)を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。
【0043】
支持塩としては、例えばLiPF
6,LiBF
4,LiClO
4,LiCF
3SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiC(CF
3SO
2)
3,LiC(C
2F
5SO
2)
3等のリチウム塩が挙げられる。
【0044】
電解液に用いる溶剤としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒、もしくは硫酸水溶液や水などが挙げられる。これらの溶剤は単独もしくは2種類以上混合して用いることもできる。
【0045】
電解質塩の濃度は特に限定されず、例えば1Mとすることができる。
【0046】
また、本発明においては、電解質として固体電解質を用いることもできる。有機固体電解質材料としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体や、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、さらにポリエチレンオキサイド等が挙げられる。これらの高分子材料は、電解液を含ませてゲル状にして用いても、また高分子材料のみをそのまま用いてもよい。一方、無機固体電解質としては、CaF
2,AgI,LiF,βアルミナ、リチウム含有ガラス素材等が挙げられる。
【0047】
セパレータ3は、正極負極間に介在し、電子を伝導させずイオンのみを伝導させる役割を果たす。セパレータ3としては、ポリオレフィン多孔質膜などの従来公知のセパレータいずれも用いることができ、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂等の多孔性フィルム等が挙げられる。
【0048】
ある一実施態様では、リチウムイオン電池を組み立てる段階において、正極1に含まれる活物質材料は、層状岩塩型構造を有する化学式Li
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
1.98で示されるリチウム鉄マンガン複合酸化物を主成分とするものであり、正極1は、85重量%の上記リチウム鉄マンガン複合酸化物、6重量%のケッチェンブラック、3重量%の気相成長炭素繊維、および6重量%のポリフッ化ビニリデンから成る。正極1の厚みは35μmである。また、正極集電体1Aは、孔の空いたアルミニウム箔が使用される。
【0049】
ある一実施態様では、負極2に含まれる活物質は、平均粒径15μmの人造黒鉛であり、負極2は、90重量%の人造黒鉛、1重量%のケッチェンブラック、および9重量%のポリフッ化ビニリデンから成る。負極2の厚みは48μmである。また、負極集電体2Aは、孔の空いた銅箔が使用される。
【0050】
ある一実施態様では、電気を取り出すための正極リードタブ1Bはアルミニウム板、負極リードタブ2Bはニッケル板であることができる。
【0051】
ある一実施態様では、セパレータ3は、電解質として1.0Mの六フッ化燐酸リチウム(LiPF
6)を含むエチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒(混合体積比EC/DMC=4/6)の電解液を含む、ポリオレフィン多孔質膜である。
【0052】
また、ある一実施態様では、外装体4は、アルミニウムラミネートフィルム、具体的には、アルミニウム箔を配向ナイロンとポリプロピレン樹脂で挟み込んだラミネート材である。
【0053】
本発明の一実施形態においては、上記のような材料を用い、従来公知の方法でリチウムイオン電池を組み立てた後に酸化処理を行い、正極の酸素欠損量dを0.05以上0.20以下にする。
【0054】
酸化処理後の正極の酸素欠損量dを0.05以上0.20以下とする酸化処理の方法については、特に限定されないが、時間を掛けずに酸化処理が行えることから、好ましくは充電時における正極の上限電圧を固定し、充電電流を段階的に低下させていく(すなわち、充電の速度を段階的に遅くしていく)サイクルを繰り返す酸化処理手法が好ましい。この場合の正極の上限電圧としては、酸化処理を十分に行えることから、リチウム金属比で4.6V以上で固定されていることが好ましく、4.7V以上に固定されていることがより好ましい。
【0055】
本発明の酸化処理においては、例えば、充電時における正極の上限電圧をリチウム金属比で4.6V以上に固定し、最初の充放電サイクルの充電電流を80〜400mA/g、最後の充放電サイクルの充電電流を5〜150mA/gとして、充電電流を段階的に低下させていきながら2〜50回充放電を繰り返すことで、正極の酸素欠損量dを0.05以上0.20以下にすることができる。
【0056】
ある一実施態様では、作製したリチウムイオン電池を、30℃の温度下、100mA/gの電流で4.8Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電し、次に90mA/gの電流で4.8Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電し、その後も上限電圧を4.8Vに固定し、充電電流を10mA/gずつ段階的に低下させながら(充電の速度を遅くしながら)合計8回の充放電サイクルを繰り返し、最終的に20mA/gの電流で1回充放電を行うことにより酸化処理を行う。
【0057】
このような酸化処理方法によって、層状岩塩型構造を有し、化学式Li
xM
1yM
2zO
2−d(但し、1.16≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50であり、M
1はMn,Ti,Zrから選択される金属イオンもしくはそれらの混合物、M
2はFe,Co,Ni,Mnから選ばれる金属イオンもしくはそれらの混合物である。)で示されるリチウム酸化物を主成分とする正極において、酸化処理後の正極酸素欠損量dが0.05以上0.20以下であることを特徴とするリチウムイオン電池を作製することができる。
【0058】
酸化処理後のリチウムイオン電池は、必要に応じて、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することにより、本発明のリチウムイオン電池を作製することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
<正極作製>
層状岩塩型構造を有するリチウム酸化物Li
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
1.98を85重量%、ケッチェンブラックを6重量%、気相成長炭素繊維を3重量%、ポリフッ化ビニリデンを6重量%含むインクを、孔の空いたメッシュ状のアルミニウム箔(厚み38μm)からなる正極集電体1A上に塗布・乾燥し、厚み35μmからなる正極1を作製した。正極集電体1Aの両面に正極1を塗布し乾燥させた両面電極も同様に作製した。
【0061】
<負極作製>
平均粒径15μmの人造黒鉛を90重量%、ケッチェンブラックを1重量%、ポリフッ化ビニリデンを9重量%含むインクを、孔の空いたメッシュ状の銅箔(厚み28μm)からなる負極集電体2A上に塗布・乾燥し、厚み48μmからなる負極1を作製した。負極集電体2Aの両面に負極2を塗布し乾燥させた両面電極も同様に作製した。
【0062】
<リチウムイオン電池作製>
上記方法で作製した正極1、正極集電体1Aおよび負極2、負極集電体2Aを成形した後、多孔質のフィルムセパレータ3を挟んで積層し、それぞれ正極タブ1Bおよび負極タブ2Bと溶接することで発電要素を作製した。本発電要素をアルミラミネートフィルムからなる外装体で包み、3方を熱融着により封止した後、電解質として1.0MのLiPF
6を含むEC/DMCの混合溶媒(混合体積比EC/DMC=4/6)の電解液を適度な真空度にて含浸させた。その後、減圧下にて残りの1方を熱融着封止し、酸化処理前のリチウムイオン電池を作製した。
【0063】
<酸化処理工程>
作製したリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、100mA/gの電流で4.8Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電した。次に90mA/gの電流で4.8Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電した。その後も上限電圧を4.8Vに固定し、充電電流を10mA/gずつ段階的に遅くしながら合計8回の充放電サイクルを繰り返し、最終的に20mA/gの電流で1回充放電を行うことにより酸化処理を行った。そして、酸化処理後のリチウムイオン電池について、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することにより、本発明におけるリチウムイオン電池を作製した。
【0064】
<実施例2>
実施例1において使用した、層状岩塩型構造を有するリチウム酸化物Li
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
1.98をLi
1.21Mn
0.46Fe
0.15Ni
0.15O
1.99に置き換え、その他は実施例1と同じ方法でリチウムイオン電池を作製した。
【0065】
<実施例3>
実施例1において使用した、層状岩塩型構造を有するリチウム酸化物Li
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
1.98をLi
1.19Mn
0.37Ti
0.15Fe
0.21O
1.97に置き換え、その他は実施例1と同じ方法でリチウムイオン電池を作製した。
【0066】
<比較例1>
実施例1と同じ方法で作製した酸化処理前のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、20mA/gの定電流で4.8Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電を続け、その後20mA/gの電流で2.0Vまで放電することにより酸化処理を行った。そして、酸化処理後のリチウムイオン電池について、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することによりリチウムイオン電池を作製した。
【0067】
<比較例2>
実施例2と同じ方法で作製した酸化処理前のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、20mA/gの定電流で4.8Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電を続け、その後20mA/gの電流で2.0Vまで放電することにより酸化処理を行った。そして、酸化処理後のリチウムイオン電池について、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することによりリチウムイオン電池を作製した。
【0068】
<比較例3>
実施例3と同じ方法で作製した酸化処理前のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、20mA/gの定電流で4.8Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電を続け、その後20mA/gの電流で2.0Vまで放電することにより酸化処理を行った。そして、酸化処理後のリチウムイオン電池について、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することによりリチウムイオン電池を作製した。
【0069】
<比較例4>
実施例1と同じ方法で作製した酸化処理前のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、100mA/gの電流で4.5Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電した。次に90mA/gの電流で4.5Vまで充電し、直後に20mA/gの電流で2.0Vまで放電した。その後も上限電圧を4.5Vに固定し、充電電流を10mA/gずつ段階的に遅くしながら合計8回の充放電サイクルを繰り返し、最終的に20mA/gの電流で1回充放電を行うことにより酸化処理を行った。そして、酸化処理後のリチウムイオン電池について、一旦封口部を破り減圧することで電池内部のガスを抜き、更に再封口することによりリチウムイオン電池を作製した。
【0070】
<リチウムイオン電池の分析評価方法>
上記方法で作製したリチウムイオン電池を乾燥雰囲気中で開封して正極を取り出し、DMCで洗浄した後に乾燥させ、正極層を剥がして誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により分析を行った。活物質全体の重量からLiおよびその他の遷移金属の重量を差し引いた値を酸素の重量とみなし、Mnの組成を化学量論的に固定して酸素欠損量dを求めた。
【0071】
また、上記方法で作製した別のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、40mA/gの定電流で4.8Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電を続け、その後5mA/gの電流で2.0Vまで放電して初期容量を求めた。さらに、初期容量測定後のリチウムイオン電池を、30℃の恒温槽中、40mA/gの定電流で4.8Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電を続け、その後40mA/gの電流で2.0Vまで放電する充放電サイクルを20回繰り返し、1サイクル目に得られた容量と20サイクル目に得られた放電容量比から、20サイクル後の容量維持率を求めた。
【0072】
<リチウムイオン電池の評価結果>
各実施例および比較例で用いた正極活物質材料、分析で得られた正極酸素欠損量d、評価で得られた初期容量、20サイクル後の容量維持率、酸化処理方法を表1にまとめる。
【0073】
実施例1と比較例1の比較から、酸素欠損量dを0.20以下にする酸化処理を施すことによって、高い容量が安定して得られることが分かった。同様に、実施例1と比較例4の比較から、酸素欠損量dを0.05以上にする酸化処理を施すことによって、高い容量が安定して得られることが分かった。本実験より、酸素欠損量dは小さいほど好ましいわけではなく、好ましい値には下限があることが分かった。
【0074】
また、実施例2と比較例2との比較から、本発明の効果が、正極活物質としてLi
1.19Mn
0.52Fe
0.22O
1.98を用いた場合だけでなく、Li
1.21Mn
0.46Fe
0.15Ni
0.15O
1.99を用いた場合でも生じることが分かった。同様に、実施例3と比較例3との比較から、本発明の効果が、正極活物質としてLi
1.19Mn
0.37Ti
0.15Fe
0.21O
1.97を用いた場合でも生じることが分かった。
【0075】
【表1】