特許第6209983号(P6209983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209983ポリエチレン製中空糸膜およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209983
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】ポリエチレン製中空糸膜およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/26 20060101AFI20171002BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20171002BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   B01D71/26
   B01D69/02
   B01D69/08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-16974(P2014-16974)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-142887(P2015-142887A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 誠之
(72)【発明者】
【氏名】上阪 努
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−006230(JP,A)
【文献】 特開2013−144162(JP,A)
【文献】 特開2008−284186(JP,A)
【文献】 特開2013−031841(JP,A)
【文献】 特開2013−071100(JP,A)
【文献】 特開2011−195636(JP,A)
【文献】 特開2010−188253(JP,A)
【文献】 特許第4493793(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/043672(WO,A1)
【文献】 特開平06−017306(JP,A)
【文献】 特許第2896781(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/108885(WO,A1)
【文献】 特開2013−204160(JP,A)
【文献】 特開平05−049878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小空孔が内壁面より外壁面に相互につながった積層構造を有するポリエチレン製中空糸膜であって、内壁面の空孔率が15%以上25%以下、降伏点強度が60MPa以上、破断伸度が20%以上であることを特徴とするポリエチレン製中空糸膜。
【請求項2】
0.3μm以上の粒子の除去率が99.9%以上であることを特徴とする請求項に記載のポリエチレン製中空糸膜。
【請求項3】
内径が250〜800μm、膜厚が50〜300μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン製中空糸膜。
【請求項4】
二重環状口金から紡出した溶融ポリエチレン樹脂を冷却区間で固化した後、巻取ることで中空糸とする紡糸工程と、該中空糸を冷延伸した後、所定の温度で加熱しながら熱延伸する延伸工程で多孔化するポリエチレン製中空糸膜の製造方法であって、
前記ポリエチレン樹脂が密度0.955g/cm以上重量平均分子量300000以上、かつ分子量分布(Mw/Mn)が7以上であり、
前記二重環状口金と前記冷却区間の間に加熱区間を設けることを特徴とするポリエチレン製中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
前記加熱区間の加熱温度が50℃以上であることを特徴とする請求項に記載のポリエチレン製中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
前記加熱区間を中空糸が走行する時間が2秒以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のポリエチレン製中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水器用途等の水処理膜や気体分離膜等に好適に用いられるポリエチレン製中空糸膜およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浄水器用途等の水処理膜や気体分離膜等に用いられる濾過膜として、中空糸状の精密濾過膜である中空糸膜が知られている。
【0003】
中空糸膜を製造する方法として、ポリエチレンやポリプロピレン等の結晶性ポリマーを中空状に紡出し、巻き取ることで得た中空糸を常温下で冷延伸した後、所定の温度で加熱しながら熱延伸することにより多孔化し、多数の細孔を有する空気透過性の高い中空糸膜を製造する方法が知られている。多孔化後に親水化処理を施すことにより透水性の高い中空糸膜とすることができる。
【0004】
中空糸膜は複数本数を束ねてハウジング内に充填することで実用化され、このような状態を中空糸膜モジュールという。中空糸膜モジュールの製造方法は、家庭用浄水器などの小型ユニットでは、U字状(ループ状)、もしくは折り返し屈曲させた中空糸膜束を円筒ケース内に装填し、頂部とは逆側の中空糸膜束開口端側片端をエポキシ樹脂またはウレタン樹脂でケースに固定する方法が多く採られている。
【0005】
上述の中空糸膜モジュールは、中空糸膜の外壁面から内壁面方向へ濾過する外圧式濾過の形態で使用される。外圧式濾過では、中空糸膜の外壁面側で濾過対象物質を阻止し、内表面側は高透過流束を達成するため、空孔率の高い状態が望まれる。
【0006】
上述のモジュール製造方法にあたり、特許文献1に中空糸膜の屈曲させた部分を繊維状物で編むことで中空糸膜束を固定する方法が示されている。このような固定方法では中空糸膜の屈曲部が編み糸加工時に破断や損傷を受けない強度を有する必要がある。
【0007】
また、水処理用途において膜濾過を継続すると原水中の様々な物質によって膜表面が閉塞することで、濾過流量が低下する。外壁面が閉塞した場合に濾過流量を回復させるため、膜の逆洗浄や薬品洗浄が行われている場合がある。このような環境で中空糸膜を使用する場合に、洗浄の負荷に対する耐久性が要求され、高い力学的強度が必要となる。
【0008】
特許文献1には、高い力学的強度が必要となる中空糸膜を製造するには、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂を原料として製膜することが好ましいとの記載がある。また、特許文献2、3にポリエチレン製中空糸膜およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法が示されているが、具体的に膜の力学的強度に関する内容や力学的強度を上げる方法は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−26886号公報
【特許文献2】特許第2896781号公報
【特許文献3】特許第4493793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高透過流束、かつ高い力学的強度を有するポリエチレン製中空糸膜、およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)微小空孔が内壁面より外壁面に相互につながった積層構造を有するポリエチレン製中空糸膜であって、内壁面の空孔率が15%以上25%以下、降伏点強度が60MPa以上であることを特徴とするポリエチレン製中空糸膜
(2)破断伸度が20%以上であることを特徴とする前記(1)記載のポリエチレン製中空糸膜
(3)0.3μm以上の粒子の除去率が99.9%以上であることを特徴とする前記(1)または(2)記載のポリエチレン製中空糸膜
(4)内径が250〜800μm、膜厚が50〜300μmであることを特徴とする前記(1)乃至(3)いずれかにポリエチレン製中空糸膜
(5)二重環状口金から紡出した溶融ポリエチレン樹脂を冷却区間で固化した後、巻取ることで中空糸とする紡糸工程と、該中空糸を冷延伸した後、所定の温度で加熱しながら熱延伸する延伸工程で多孔化するポリエチレン製中空糸膜の製造方法であって、前記ポリエチレン樹脂が密度0.955g/cm以上、かつ重量平均分子量300000以上であり、前記二重環状口金と前記冷却区間の間に加熱区間を設けることを特徴とするポリエチレン製中空糸膜の製造方法
(6)前記ポリエチレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が7以上であることを特徴とする前記(5)記載のポリエチレン製中空糸膜の製造方法
(7)前記加熱区間の加熱温度が50℃以上であることを特徴とする前記(5)または(6)記載のポリエチレン製中空糸膜の製造方法
(8)前記加熱区間を中空糸が走行する時間が2秒以上であることを特徴とする前記(5)乃至(7)いずれかに記載のポリエチレン製中空糸膜の製造方法
【発明の効果】
【0012】
高透過流束、かつ高い力学的強度を有するポリエチレン製中空糸膜、およびポリエチレン製中空糸膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】親水性中空糸膜束に折り曲げた疎水性中空糸膜を混在させた中空糸膜モジュールの概略図である。
図2】親水性中空糸膜束に折り曲げた疎水性中空糸膜を差し込み挿入する際の概略図である。
図3】親水性中空糸膜束に折り曲げた疎水性中空糸膜を混在させた中空糸膜モジュールであって、疎水性中空糸膜が挿入不良となった場合の概略図である。
図4】明確な降伏点を示す材料の応力歪み曲線図である。
図5】明確な降伏点を示さない材料の応力歪み曲線図である。
図6】0.2%耐力の求め方である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0015】
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法はポリエチレン樹脂の溶融紡糸によって得られる中空糸を延伸多孔化させるものである。
【0016】
本発明の中空糸膜を成形するにあたり、ポリエチレン樹脂は高密度で分岐が少ないものが好ましく、ポリエチレン樹脂の密度が0.955g/cm以上、より好ましくは0.96g/cm以上の高密度ポリエチレンである。
【0017】
高い力学的強度を有するポリエチレン製中空糸膜とするには、分子量の大きいポリエチレン樹脂を用いるとよく、本発明の中空糸膜強度を満たすためには、ポリエチレン樹脂の重量平均分子量が300000以上、より好ましくは350000以上である。また、ポリエチレン樹脂の重量平均分子量を一定以下とすることで溶融粘度の上昇を防ぎ、溶融ポリエチレン樹脂を安定紡出することが可能となることから、本発明の中空糸を安定紡糸するためには、ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は600000以下であることが好ましい。
【0018】
また、安定して中空糸を紡糸するためには、ポリエチレンの重量平均分子量のみではなく、分子量分布も考慮する必要がある。分子量分布は重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値で表される。分子量分布が狭くなるほど、力学的強度は向上する傾向にあるが、加工性が悪化する傾向にあり、本発明のような溶融紡糸で中空糸を得る押出成形では特にその傾向が顕著となる。本発明の中空糸膜を連続的に安定して得るためには、ポリエチレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn値)は7以上であると好ましく、8以上であるとより好ましい。
【0019】
本発明の中空糸の溶融紡糸は、二重環状に形成された吐出口を有する紡糸口金を用いて、この紡糸口金の吐出口から、溶融ポリエチレン樹脂を押し出し、さらにこれを冷却固化させた後、巻き取ることで可能である。
【0020】
溶融紡糸時のポリエチレン樹脂の溶融温度は、紡糸中に樹脂が固化しないよう、ポリエチレン樹脂の融点以上に設定する必要があるが、紡糸中にポリエチレン樹脂が固化することを完全に防止するためには、ポリエチレン樹脂の融点より10℃以上高い温度に設定することが好ましく、また紡糸後の中空糸の冷却温度は10〜40℃程度に設定することが好ましい。
【0021】
二重環口金からポリエチレンを紡出した後直ぐに急冷固化すると、中空糸が脆化することで伸度が低下し、その後の延伸工程で安定して延伸することが難しくなる場合があるため、紡糸口金から押し出された溶融ポリエチレンを冷却固化する前に加熱区間を設けることが好ましく、加熱区間の温度は50℃以上であることが望ましい。
【0022】
また二重環口金からポリエチレンを紡出した後に加熱区間を設けることで、中空糸外壁面側と溶融ポリマーに覆われる内壁面側間の温度差を小さくすることができ、延伸工程後の内壁面、外壁面間の開孔状態を均一にすることが可能になる。また、延伸工程後に力学的強度の高い中空糸膜とすることが可能になる。
【0023】
中空糸の外壁面側と内壁面側の温度差を緩和するために、上述の加熱区間を中空糸が走行する時間が2秒以上であることがさらには望ましい。
【0024】
紡糸された中空糸は、延伸工程前にアニール処理を施す。アニール処理とはポリエチレン樹脂の融点以下の温度で中空糸に熱処理を施すプロセスであり、紡糸工程で中空糸内に形成される積層したラメラ結晶を成長させ、結晶配向秩序を向上させるために実施されるものである。
【0025】
アニール処理後の中空糸を延伸することによって、中空糸を多孔化させることができる。延伸工程は、常温下程度の比較的低い温度で延伸を行う冷延伸工程と、加熱雰囲気下で行う熱延伸工程との2段階により構成されるのが好ましい。このような延伸方法により、中空糸に形成される細孔を拡大させることができる。
【0026】
冷延伸工程は通常、ポリエチレン樹脂の融点より50℃以上低い温度で行なわれ、好ましい冷延伸温度は、0〜80℃の範囲である。より好ましくは、10〜50℃の範囲である。アニール処理後の中空糸に冷延伸を施すことによって、積層したラメラ結晶間を開裂させた微小空孔、微小な細孔を形成させることができる。ここで冷延伸倍率は、ラメラ結晶自体の変形を抑え、かつラメラ結晶間を十分に開裂させるため、1.2〜2.0倍の範囲とするのが好ましい。
【0027】
熱延伸工程は、上述の冷延伸によって形成された微小空孔を拡大させ、中空糸の積層ラメラ結晶間に細い繊維状のフィブリルを形成させることで、フィブリル間に微細孔を形成させ、中空糸に膜としての多孔質構造を付与するものである。
【0028】
熱延伸工程は、ポリエチレン樹脂の融点を超えない範囲で高い温度で行うことが好ましい。好ましい温度範囲は100℃〜125℃、より好ましくは110℃〜120℃である。また、熱延伸倍率は、目的とする細孔の孔径によって適宜選択することができるが、2〜10倍の範囲とするのが好ましい。工程安定性の観点から、好ましくは6倍以下の倍率である。
【0029】
上述の延伸工程を経て得られた中空糸膜には、寸法安定を目的とした熱セットを行う場合がある。熱セットは、この中空糸膜を定長あるいは弛緩した状態で、ポリエチレンの融点以下の温度条件下で加熱するものである。
【0030】
上述の製造方法によって得られる本発明のポリエチレン製中空糸膜は、微小空孔が内壁面より外壁面に相互につながった積層構造を有し、中空糸膜の厚み方向に構造が一様な対称膜となり、内壁面と外壁面も対称な構造をとることができる。
【0031】
本発明のポリエチレン製中空糸膜は内壁面の空孔率が15%以上25%以下、降伏点強度が60MPa以上である。内壁面の空孔率が15%未満となると、高透過流束を満たすことができず、所望する空気透過性能や透水性能を発現することができない。空孔率が25%より大きくなると、所望する強度を発現することが難しくなる。また、外壁面の空孔率は10%以上であることが、所望する空気透過性能や透水性能を発現の面から好ましい。
【0032】
また、中空糸膜複数束をモジュール化する際に、製造工程で中空糸膜が塑性変形するような外力を加えない状態で加工する必要がある。図4に示すように明確な降伏点を示す応力歪み曲線を示す材料は伸長し降伏点を越えると、塑性変形となり、除荷しても元に戻らない。本発明のポリエチレン製中空糸膜は、図5に示すような強伸度特性を示し、明確な降伏点を示さない材料である。明瞭に区分できない場合は一定(0.2%)の永久ひずみ(オフセットひずみ)を生じる応力すなわち耐力を降伏点とすることが一般的であり、中空糸膜の耐力すなわち降伏点強度が60MPa以上であると、モジュール加工時に中空糸膜が破断など生じず、取り扱いが容易である。降伏点強度が60MPa未満となると、中空糸膜束を編み糸で固定する等のモジュール加工時に破断が生じたり、欠陥が発生する場合がある。また逆洗浄や薬液洗浄を実施する際に、負荷に耐え切れずに膜が破損する恐れがある。
【0033】
反面、中空糸膜をモジュール化するには中空糸膜にU字状(ループ状)、もしくは折り返し屈曲させるに好適なしなやかさが必要である。中空糸膜の伸度が著しく低い場合はしなやかさが低下し、破断伸度が20%未満であると、U字状や屈曲状態を維持することが難しく、また中空糸膜束を容器内に挿入する際に容器に挿入し難い等、モジュール製造工程での不良が頻発する恐れがある。本発明の中空糸膜の破断伸度は20%以上であることが望ましく、好ましくは30%以上である。
【0034】
本発明の中空糸膜は0.3μm以上の粒子の除去率が99.9%以上である。0.3μm以上の粒子の除去率が低下すると、膜濾過する際の除去対象である細菌類や水道水中の濁質成分が浄水側にリークしてしまい、水処理分離膜としての機能を有することができない。
【0035】
本発明の中空糸膜の寸法は、内径が250〜800μm、膜厚が50〜300μmの範囲であると好ましい。好適範囲より径が大きくなると、紡糸工程での糸寸法安定化が困難であり、好適範囲より径が小さい場合は、延伸時に糸切れが頻発し、延伸工程での連続運転性に問題がある。
【0036】
本発明のポリエチレン製中空糸膜は疎水性であるが、エチレン−ビニルアルコール共重合体を被覆する等により親水化処理を施すことで親水性中空糸膜とすることができ、複数本束化して中空糸膜モジュールの形態とすることで、外壁面から内壁面方向へ濾過する外圧式濾過の形態で使用される。
【0037】
また、本発明のポリエチレン製中空糸膜は疎水性中空糸膜の状態でも用いられる。例えば親水性中空糸膜のみからなるモジュールを有する浄水器の場合、何らかの理由で浄水器の水道水入口側からモジュールに空気が混入すると、特に低水圧(例えば0.1MPa以下)では、混入した空気が親水性中空糸膜を通過しにくい。モジュールの上流側に空気が滞留して抵抗となり、水の透過が阻止され、ろ過流量が低下する場合があった。そのため、図1に示すように、親水性中空糸膜束1に折り曲げた疎水性中空糸膜2を混在させ、片方の端部をポッティング材3で、ケース4に固定した中空糸膜モジュールの形態でも好ましく使用される。この形態の中空糸膜モジュールを製造するには、図2に示すように、親水性中空糸膜束1の中に疎水性中空糸膜2を差し込む工程が必要となり、一定以上の剛性が疎水性中空糸膜に必要となることから、60MPa以上の降伏点強度を有する本発明のポリエチレン製中空糸膜は好適である。
【0038】
また、親水性中空糸膜束に疎水性中空糸膜を差し込む際、疎水性中空糸膜の破断伸度が作業性に影響を及ぼす。破断伸度に関わらず、差し込む作業は可能であるため問題はないが、破断伸度が低いとしなやかさが失われるため、作業に慎重さが求められる。例えば20%未満の破断伸度の疎水性中空糸膜を、親水性中空糸膜束に素早く差し込んだ場合、親水性中空糸膜束内で疎水性中空糸膜がひっかかり、図3に示すように親水性中空糸膜束内で疎水性中空糸膜が折れ曲がる不良が発生する場合がある。破断伸度が20%以上であるとしなやかさを有し作業性に優れることから、素早く挿入しても不良が発生しづらく、生産性向上が可能となるため好適である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、実施例中で用いた評価方法および製造装置は以下の通りである。
(1)中空糸膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察
電界放射型走査型電子顕微鏡(日立社製、S−800)で中空糸膜表面の5000倍画像を撮影した。
(2)空孔率
Matrox Inspector2.2(Matrox Electronic Systems Ltd.)で画像処理を行った。画像サイズは655×740ピクセルとした。孔部分を白く、それ以外を黒く反転させ、白い部分のピクセル数を測定した。二値化の境界レベルは、最も白い部分と最も黒い部分の差の中間の値とした。各孔部分でのピクセルの総和(総開孔面積)を画像全体のピクセル数で除し、百分率で表したものを空孔率とした。
【0040】
空孔率(%)=(各孔のピクセル数の総和)/(画像全体のピクセル数)×100
尚、画像の解像度は0.028169μm/ピクセルであったので、上記電子顕微鏡画像の面積Sは384.6μmと算出された。
【0041】
これらの測定をランダムにピックアップした5箇所について行い、その算術平均を空孔率データとした。
(3)強伸度
強度および破断伸度に関するデータは、引張試験機(エー・アンド・ディー社製、STA−1150)で測定した。試験条件は、サンプル試長:20mm、引張速度:50mm/分とした。荷重を中空糸膜の断面積で除した数値を強度として算出した。
【0042】
降伏点は、図4に示すような応力歪み曲線上で弾性変形と塑性変形が明瞭に区分され極大点として表れる場合と、図5に示すような弾性変形と塑性変形が明瞭に区分されない場合があり、明瞭に区分できない場合は一定(0.2%)の永久ひずみ(オフセットひずみ)を生じる応力すなわち耐力を降伏点とすることが一般的であり、図6に示すように、引張り後に除荷した後に残る塑性ひずみが0.2%になる時の応力を降伏点強度として算出した。本算出方法は、JIS Z 2241に記載の定義に基づく。
【0043】
降伏点強度、破断伸度いずれも5点測定の算術平均を結果とした。
(4)0.3μm以上の粒子の除去率
300本の中空糸膜をU字状に折り曲げ、円筒ケース内に挿入し、中空糸膜の開口側を接着固定したモジュールを製作し、パーティクルカウンタ(Hach社製A2400)を用いて、開口端側から流量28.3L/分で吸引した。測定粒子径0.3μm以上の設定とし、28.3L/分での吸引時の大気中の粒子数が10000個以上となるように測定環境を調整し、開口端側から排出される粒子数をカウントし、除去率を算出した。
(5)重量平均分子量、分子量分布
原料ポリエチレン樹脂を溶解し、GPCにて測定した。測定装置、条件は以下の通りである。
【0044】
GPC測定装置:高温GPC装置(Polymer Laboratories製 PL−220)
検出器:示差屈折率検出器 RI
カラム:Shodex UT−G HT−806M 2本
カラム温度:145℃
溶媒:1、2、4−トリクロロベンゼン(0.1%BHT添加)
試料:試料10mgに測定溶媒5mLを添加し、165℃で約30分間加熱攪拌した後、その溶液を測定に供した。
【0045】
キャリブレーションカーブ:単分散ポリスチレンを標準試料とし、ポリエチレン換算定数(0.48)を使用し、3次で計算した。
(6)空気透過性能
本発明では空気透過性能を透過流束の指標とした。プラスチック管に1本の中空糸膜を挿入し、市販の二液硬化型エポキシ系接着剤を用いて中空糸膜の両端をプラスチック管両端部の内壁に接着固定し、有効長12cmのミニモージュールを作成する。次に、中空糸膜の外壁側から内壁側に向けて50kPaで空気加圧し、水上置換法で膜から透過される空気を捕集した。捕集した空気量と有効膜面積から空気透過性能を算出した。
(7)疎水性中空糸膜の差し込み挿入性
親水性中空糸膜としてポリスルホン中空糸膜(平均外径=0.46mm)を用い、親水性中空糸膜456本をU字状に折り曲げ、形状を保持するために不織布で中空糸膜束を包み、円筒状の筒状ケース(内径=19.8mm、長さ=71.5mm)内に挿入した。挿入後、中空糸膜束の開口端部を把持し、中空糸膜束を包む不織布を取り除き、屈曲させたポリエチレン製中空糸膜(長さ60mm)を中空糸膜束の開口端部から中央部に差し込み、挿入後のポリエチレン製中空糸膜に折れ曲がり不良がないか、水準ごとに20個評価を実施した。
【0046】
[実施例1]
170℃で溶融したポリエチレン(プライムポリマー社製:ハイゼックス5202B)を吐出口径24mm、内環スリット幅が4.2mmの中空糸賦形用口金を用いて紡出し、吐出線速度2.88cm/分、巻取速度26m/分、紡糸ドラフト900で未延伸中空糸膜を巻き取った。口金直下に70℃の加熱区間を5cm設けた。得られた未延伸糸の寸法は内径が520μm、膜厚が140μmであり、連続して安定紡糸可能であった。この未延伸中空糸を125℃で12時間熱処理を施した後、延伸を実施した。冷延伸は25℃で60%延伸し、熱延伸は115℃の乾熱雰囲気下で240%の延伸を実施し、中空糸膜の製造を行った。得られた中空糸膜の内径は440μm、膜厚は120μmであった。
【0047】
得られた中空糸膜は空気透過性能が980(L/分/m)であり、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した5000倍の表面写真から膜の空孔率を測定したところ、内壁面の空孔率は19.4%であった。降伏点強度は83.3MPa、破断伸度は22.7%であった。また、0.3μm以上の粒子の除去率は99.9%以上であった。
【0048】
得られたポリエチレン製中空糸膜を親水性中空糸膜束に差し込み、挿入性を確認したところ、20個中20個全てポリエチレン製中空糸膜の折れ曲がりのない良好な状態であった。
[比較例1]
170℃で溶融したポリエチレン(プライムポリマー社製:ハイゼックス5202B)を吐出口径24mm、内環スリット幅が4.2mmの中空糸賦形用口金を用いて紡出し、吐出線速度2.88cm/分、巻取速度26m/分、紡糸ドラフト900で未延伸中空糸膜を巻き取った。口金直下に加熱区間は設けなかった。得られた未延伸糸の寸法は内径が510μm、膜厚が135μmであり、連続して安定紡糸可能であった。この未延伸中空糸を125℃で12時間熱処理を施した後、延伸を実施した。冷延伸は25℃で60%延伸し、熱延伸は115℃の乾熱雰囲気下で100%の延伸を実施し、中空糸膜の製造を行った。150%以上の熱延伸倍率では連続して延伸することができなかった。得られた中空糸膜の内径は460μm、膜厚は124μmであった。
【0049】
得られた中空糸膜は空気透過性能が300(L/分/m)であり、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した5000倍の表面写真から膜の空孔率を測定したところ、内壁面の空孔率は13.5%であった。降伏点強度は80.6MPa、破断伸度は18.2%であった。また、0.3μm以上の粒子の除去率は99.9%以上であった。
【0050】
得られたポリエチレン製中空糸膜を親水性中空糸膜束に差し込み、挿入性を確認したところ、20個中2個ポリエチレン製中空糸膜が折れ曲がった状態であることが確認された。
[比較例2]
170℃で溶融したポリエチレン(プライムポリマー社製:ハイゼックス3300F)を吐出口径24mm、内環スリット幅が4.2mmの中空糸賦形用口金を用い、紡糸温度170℃、吐出線速度2.88cm/分、巻取速度26m/分、紡糸ドラフト900で未延伸中空糸膜を巻き取った。口金直下に70℃の加熱区間を5cm設けた。得られた未延伸糸の寸法は内径が510μm、膜厚が135μmであったが、時折ポリマーの流動性が悪化し、糸寸法が乱れた未延伸糸が混在した。この未延伸中空糸を125℃で12時間熱処理を施した後、延伸を実施した。冷延伸は25℃で60%延伸し、熱延伸は115℃の乾熱雰囲気下で240%の延伸を実施し、中空糸膜の製造を行った。得られた中空糸膜の内径は430μm、膜厚は115μmであった。
【0051】
得られた中空糸膜は空気透過性能が50(L/分/m)であり、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した5000倍の表面写真から膜の空孔率を測定したところ、内壁面の空孔率は11.3%であった。降伏点強度は57.4MPa、破断伸度は33.6%であった。また、0.3μm以上の粒子の除去率は99.9%以上であった。
【0052】
得られたポリエチレン製中空糸膜を親水性中空糸膜束に差し込み、挿入性を確認したところ、20個中20個全てポリエチレン製中空糸膜の折れ曲がりのない良好な状態であった。
[まとめ]
上記結果を表1にまとめた。
【0053】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の中空糸膜は高い力学的強度を有し、加工性に優れた中空糸膜を提供することにある。
【符号の説明】
【0055】
1 親水性中空糸膜束
2 疎水性中空糸膜
3 筒状ケース
4 ポッティング材
図1
図2
図3
図4
図5
図6