【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部の幅は、前記エクソソームの平均粒径よりも大きく、前記エクソソームを修飾するビーズの直径の2倍よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の試料分析用デバイス。
前記注入部内に、前記エクソソームが有する抗原と結合する抗体が表面に固定されたビーズを含む緩衝溶液を注入して、前記エクソソームが有する抗原に、前記ビーズに固定された抗体を結合させることにより、前記エクソソームを前記ビーズで修飾する修飾工程をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のエクソソームの捕捉方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施形態の試料分析用デバイス及びエクソソームの捕捉方法について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
<第1実施形態の試料分析用デバイス>
図1〜
図3を用いて、第1実施形態の試料分析用デバイスの構成について説明する。
図1において、第1実施形態の試料分析用デバイス101は、例えば合成樹脂によって矩形状に形成されている。試料分析用デバイス101の外形形状は矩形に限定されず任意である。
【0014】
試料分析用デバイス101を、ガラス,金属,半導体基板等を用いて形成してもよい。
【0015】
試料分析用デバイス101には、円筒状の凹部であるウェル10が複数個形成されている。
図1では、ウェル10を8個形成しているが、さらに多くのウェル10を形成してもよく、ウェル10の個数は任意である。ウェル10は、後述する各液を注入する注入部である。
【0016】
ウェル10を試料分析用デバイス101の厚さ方向に直交する方向に切断したときの断面形状を真円としている。ウェル10の断面形状を、楕円または矩形としてもよい。但し、ウェル10の断面形状を真円とすることが好ましい。
【0017】
図2は、
図1のA−A断面を拡大して示している。
図2に示すように、ウェル10の底面には、凹部20aと、凹部20aに隣接する凸部20bとを周期的に複数配列させた凹凸構造20が形成されている。試料分析用デバイス101では、合成樹脂等で形成される試料分析用デバイス101自体が、凹凸構造20を形成するベース部となっている。
【0018】
凹部20a及び凸部20bは、略直線状に形成されている。凹部20a及び凸部20bそれぞれの側面は傾斜している。凹部20a及び凸部20bそれぞれの側面を、試料分析用デバイス101の面に対して略垂直となるように凹凸構造20を形成してもよい。
【0019】
図3の拡大断面図に示すように、凹部20aの深さ(凸部20bの高さ)をHとし、凹部20a及び凸部20bそれぞれの幅を一点鎖線にて示す底面からH/2の位置でのWa,Wbとする。凹部20aの幅Waと凸部20bの幅Wbとは、Wa>Wbの関係を満たすことが好ましい。
【0020】
以上のように構成される試料分析用デバイス101は、合成樹脂を用いて形成する場合には、一体成形によって容易に作製することができる。
【0021】
<第2実施形態の試料分析用デバイス>
図4,
図5を用いて、第2実施形態の試料分析用デバイスの構成について説明する。
図4,
図5において、
図1〜
図3と実質的に同一部分には同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0022】
図4において、第2実施形態の試料分析用デバイス102は、例えば合成樹脂によって形成された基板112と、合成樹脂によって形成され、基板112に重ねられたシート122とを有する。シートは、例えばシリコーンポリマーシートである。以下、シリコーンポリマーシート122と称する。試料分析用デバイス102も矩形状に形成されているが、外形形状は任意である。
【0023】
基板112に重ねるシートの材料はシリコーンポリマーに限定されない。シートの材料は、シリコーンポリマーより安価な材料、例えばポリスチレン、ABS、ポリカーボネート等の樹脂であってもよい。
【0024】
試料分析用デバイス102には、試料分析用デバイス101と同様、円筒状の凹部であるウェル10が複数個形成されている。
【0025】
図5は、
図4のA−A断面を拡大して示している。
図5に示すように、基板112の表面全体には、凹部20aと凸部20bとを複数配列させた凹凸構造20が形成されている。試料分析用デバイス102では、合成樹脂等で形成される基板112が、凹凸構造20を形成するベース部となっている。
【0026】
第1実施形態の試料分析用デバイス101においては、ウェル10の底面のみに凹凸構造20が形成されているのに対し、第2実施形態の試料分析用デバイス102においては、基板112の表面全体に凹凸構造20が形成されている。
【0027】
試料分析用デバイス102においては、シリコーンポリマーシート122に円筒状の貫通孔11が形成されている。基板112と貫通孔11を有するシリコーンポリマーシート122とを重ね合わせることによって、ウェル10が形成されている。試料分析用デバイス102は、基板112とシリコーンポリマーシート122とを重ね合わせた状態で、ウェル10の底面に凹凸構造20が形成されている試料分析用デバイス101と実質的に同一の構成となる。
【0028】
シリコーンポリマーシート122は基板112に対して密着するので、基板112とシリコーンポリマーシート122とを接着する必要はない。基板112とシリコーンポリマーシート122とを接着させなければ、後述するエクソソームの検出工程において、必要に応じてシリコーンポリマーシート122を剥がすことができる。勿論、基板112とシリコーンポリマーシート122とを接着させてもよい。
【0029】
基板112とシリコーンポリマーシート122とを、シリコーンゴム等で形成されたパッキングを介して密着させてもよい。例えば、パッキングは、貫通孔11と同じ位置に配置された、貫通孔11と略等しい直径で貫通孔が形成されたシリコーンゴムよりなる平板でよい。
【0030】
パッキングは、貫通孔11ごとに設けられた、断面が略四角または略円形の環状の部材であってもよい。
【0031】
シリコーンポリマーシート122に環状の突起を設け、パッキングに環状の溝を設けて、突起を溝に嵌め込んでもよい。シリコーンポリマーシート122に環状の溝を設け、パッキングに環状の突起を設けて、突起を溝に嵌め込んでもよい。
【0032】
シリコーンポリマーシート122における基板112との接合面に、複数のパッキングを設けてもよい。複数のパッキングの直径は貫通孔11の直径と略等しい。複数のパッキングは、貫通孔11それぞれに対応して設けられる。
【0033】
<一実施形態のエクソソームの捕捉方法>
第1実施形態の試料分析用デバイス101または第2実施形態の試料分析用デバイス102を用いた一実施形態のエクソソームの捕捉方法について説明する。ここでは、試料分析用デバイス101を用いる場合について説明する。
【0034】
図6は、エクソソームの模式的な断面図である。
図6に示すエクソソームを検出対象のエクソソーム50とする。
図6に示すように、エクソソーム50は脂質二重膜51で覆われている。脂質二重膜51には、複数の膜貫通型の膜たんぱく質52が存在している。膜たんぱく質52の個数や脂質二重膜51における位置は、エクソソームの種類によって異なる。
【0035】
実施例1では、エクソソーム50の平均粒径Eを100nmとする。実施例1では、試料分析用デバイス101における凹部20aの幅Waを240nm、凸部20bの幅Wbを80nm、凹部20aの深さHを50nmとする。
【0036】
実施例2では、エクソソーム50の平均粒径Eを70nmとする。実施例2では、凹部20aの幅Waを260nm、凸部20bの幅Wbを60nm、凹部20aの深さHを60nmとする。
【0037】
ところで、エクソソーム50の平均粒径Eとは、エクソソーム50の粒径を任意の測定方法で測定した値の平均値を意味する。測定方法としては、例えば、ナノ粒子トラキング法を用いた、エクソソーム50が溶液中にある状態で観測する湿式の測定方法や、透過型電子顕微鏡でエクソソーム50の形態を保ったまま観測する乾式の測定方法がある。
【0038】
後者の測定方法では、エクソソーム50の形態を保ったまま乾式で観測可能とするために、エクソソーム50を含む試料に対して細胞を観測する手法に準じた処理を施す。
【0039】
具体的には、試料を基体上に固定し、低濃度のエタノールから純度100%のエタノールまで、ステップごとにエタノールの濃度を高くして数ステップをかけてエタノールの含浸を繰り返す。これによって、試料中の水分がエタノールへと置換されて脱水される。
【0040】
次に、試料を、エタノールに可溶な合成樹脂を含む溶液で含浸することによって、エタノールを合成樹脂に置換する。そして、合成樹脂に置換された試料を薄片化して観測する。
【0041】
また、エクソソーム50を含む試料を急速冷凍することにより、エクソソーム50の形態を保ったまま脱水して観測可能とすることもできる。
【0042】
本実施形態のエクソソームの捕捉方法、及び、捕捉したエクソソーム50を検出する試料分析方法では、後述するように、エクソソーム50を検出するために
図7の(a)に示すビーズ70を用いる。実施例1及び実施例2では、ビーズ70の直径Dを200nmとする。ビーズ70は、例えば合成樹脂によって略球形に形成されている。
【0043】
図8は、エクソソーム50を試料分析用デバイス101によって捕捉するための手順の各工程を示している。
図8において、試料分析を行うオペレータは、ステップS1にて、
図9の(a)に示すように、抗体60を適量含む緩衝溶液F60をウェル10に分注する。膜貫通型の膜たんぱく質であるCD63やCD9等は、エクソソームを識別するための抗原として知られている。
【0044】
ステップS1にて用いる抗体60としては、抗原である膜たんぱく質52と反応する抗体を用いる。なお、抗原は膜タンパク質52に限定されず、脂質二重膜51の表面に存在する、その他の物質であってもよい。
【0045】
オペレータは、ステップS1にて、
図9の(a)に示す状態の試料分析用デバイス101を振盪機によって、適切な時間、振盪させる。ステップS1の処理によって、凹凸構造20の表面に抗体60が固定される。ステップS1は、抗体固定工程である。
【0046】
オペレータは、ステップS2にて、抗体を含む緩衝溶液F60を排出して、ウェル10を緩衝溶液で洗浄する。
【0047】
図10の(a)は、ステップS2の後の凹凸構造20の表面の状態を模式的に示している。抗体60は、凹凸構造20の表面に疎水結合によって固着する。抗体60を凹凸構造20の表面に固定する方法は、疎水結合に限定されない。凹凸構造20の表面を適切に化学的に修飾して、共有結合等を用いて抗体60を凹凸構造20の表面に固定させてもよい。凹凸構造20の表面に抗体60を固定させる方法は、免疫学測定法で一般的に使われている方法を用いればよい。
【0048】
抗体60の抗原認識部以外に抗原が非特異的に吸着することを防ぐため、オペレータは、ステップS3にて、凹凸構造20の表面をブロッキング処理する。具体的には、オペレータは、緩衝溶液で希釈したスキムミルクをウェル10に分注し、ステップS1と同様に、試料分析用デバイス101を所定の時間、振盪させる。
【0049】
スキムミルクはエクソソーム50に付着しないたんぱく質を含むので、ブロッキング処理に好適である。同様の効果を奏するものであれば、ブロッキング処理に用いる物質はスキムミルクに限定されない。
【0050】
オペレータは、ステップS4にて、スキムミルクを含む緩衝溶液を排出し、ウェル10を緩衝溶液で洗浄する。洗浄に用いる緩衝溶液としては、スキムミルクを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。また、洗浄を省略することも可能である。
図10の(b)に模式的に示すように、凹凸構造20の表面には、ステップS3,S4によってブロック層65が形成されている。
【0051】
次に、オペレータは、ステップS5にて、
図9の(b)に示すように、検出対象のエクソソーム50を含む試料液F50をウェル10に分注し、ステップS1と同様に、試料分析用デバイス101を、適切な時間、振盪させる。ステップS5では、例えば2時間程度、試料分析用デバイス101を振盪させる。
【0052】
ステップS5によって、試料液F50に含まれるエクソソーム50の多くは、抗体60と膜たんぱく質52との抗原抗体反応によって、凹凸構造20の凹部20aに固定される。ステップS5は、エクソソーム固定工程である。
【0053】
ステップS5の後、オペレータは、ステップS6にて、試料液F50を排出し、ウェル10を緩衝溶液で洗浄する。ウェル10を緩衝溶液で洗浄することによって、抗原抗体反応ではなく、非特異な吸着によって凹凸構造20の表面に付着したエクソソーム50を排除することができる。
【0054】
図10の(c)は、凹部20aに1つのエクソソーム50が固定された状態を示している。
図10の(c)に示すエクソソーム50は、
図6に示すエクソソーム50を簡略化して模式的に示している。
図10の(c)に示す例では、エクソソーム50は、白抜きの楕円とハッチングを付した楕円とで模式的に示す2種類の膜たんぱく質52を有する。
【0055】
図10の(c)に示すように、抗体60とハッチングを付した楕円で示す膜たんぱく質52とが抗原抗体反応によって結合し、エクソソーム50が凹部20aに固定されている。なお、膜たんぱく質52の種類は2種類に限定されない。上記のように、膜タンパク質以外の物質を抗原としてもよい。2種類のモノクローナル抗体を用いてエクソソーム50を認識し捕捉する場合は、1または2種類の膜たんぱく質52を認識すればよい。
【0056】
図7の(b)に示すように、ビーズ70には予め表面に抗体80が固定されている。抗体80が固定されていない
図7の(a)に示すビーズ70に対して、
図7の(b)に示すように抗体80を固定させる工程は、
図8の一連の工程とは別工程で行えばよい。
【0057】
オペレータは、ステップS7にて、
図9の(c)に示すように、表面に抗体80が固定されたビーズ70を含む緩衝溶液F70をウェル10に分注し、ステップS1と同様に、試料分析用デバイス101を、適切な時間、振盪させる。
【0058】
ステップS7によって、
図10の(d)に示すように、エクソソーム50はビーズ70で修飾される。エクソソーム50をビーズ70で修飾することによって、ビーズ70をエクソソーム50の標識とすることができる。ステップS7は、エクソソーム50をビーズ70で修飾する修飾工程である。
【0059】
オペレータは、ステップS8にて、緩衝溶液F70を排出し、ウェル10を緩衝溶液で洗浄する。以上によって、試料分析用デバイス101によってエクソソーム50を捕捉し、エクソソーム50をビーズ70で修飾することができる。
【0060】
本実施形態では、ビーズ70には、凹凸構造20の表面に固定した抗体60とは異なる抗体80が固定されている。抗体80と白の楕円で示す膜たんぱく質52とが抗原抗体反応によって結合し、ビーズ70がエクソソーム50に固定されている。
【0061】
凹凸構造20の表面に固定させる抗体とビーズ70の表面に固定させる抗体とを異ならせると、2種類の異なる抗原を有するエクソソームを検出することができる。勿論、ビーズ70に、凹凸構造20の表面に固定した抗体60と同じ抗体60を固定させてもよい。同じ抗体を用いるか異なる抗体を用いるかは、試料を分析する都合によって適宜選択すればよい。
【0062】
上記の説明では、まずエクソソーム50を凹凸構造20の凹部20aによって捕捉し、次いで、ビーズ70を投入して、ビーズ70をエクソソーム50に固定させたが、エクソソーム50とビーズ70とを同時に緩衝溶液中に投じて反応させる手順であってもよい。この場合、液中でエクソソーム50とビーズ70の固定反応が生じるため反応速度が促進されるというメリットが生じる。
【0063】
ビーズ70の内部に、フェライト等の磁性物質を包含させてもよい。磁性物質を包含したビーズ70とすると、ステップS7で、試料分析用デバイス101の下面に磁石を配置することによってビーズ70を迅速に集めることができる。また、磁力によってビーズ70を効果的に凹部20aに向かわせることができる。よって、ステップS7に要する時間を短縮することが可能となる。
【0064】
さらに、この場合も、前述のようにエクソソーム50とビーズ70とを同時に投入することで、さらなる反応の促進を図ることが可能となる。この場合、エクソソーム50を凹凸構造20上に固定するための振盪時間を、数分程度に短縮することも可能である。
【0065】
磁力によってビーズ70を引き寄せた後、試料分析用デバイス101の下面に配置する磁石が電磁石であれば電源を切断し、永久磁石であれば試料分析用デバイス101から遠ざけて緩衝溶液F70を再攪拌する。これによって、抗原抗体反応によらず固定されているビーズ70を凹凸構造20から一旦剥がし、その後再び磁力によってビーズ70を引き寄せて、反応の収率を高めることも可能である。
【0066】
磁性物質を包含したビーズ70を用いる場合、振盪による攪拌の他に、磁力が作用する方向と強さを変化させて攪拌させることも可能である。
【0067】
なお、磁力によってビーズ70が発生する力によりエクソソーム50が扁平に変更する可能性があるが、一旦、エクソソーム50が凹部20aに捕捉されていれば、凸部20bへと移動することはなく、エクソソーム50の検出に影響を与えない。
【0068】
図8では、エクソソーム50を含む試料液F50とビーズ70を含む緩衝溶液F70とを別々にウェル10に分注しているが、エクソソーム50を含む試料とビーズ70とを同時に緩衝溶液に入れてウェル10に分注し、ステップS5,S7を同時に行うようにしてもよい。この場合でも、磁性物質を包含したビーズ70を用いることができる。
【0069】
ところで、第1実施形態の試料分析用デバイス101及び第2実施形態の試料分析用デバイス102では、エクソソーム50の平均粒径E、ビーズ70の直径D、凹凸構造20の凹部20aの幅Wa及び凸部20bの幅Wb、凹部20aの深さHを、以下に示す関係とすることが好ましい。
【0070】
試料分析用デバイス101,102の寸法的な形状と、検出対象のエクソソーム50や標識として用いるビーズ70とを以下に示す関係とすることによって、
図10の(d)に示すように、1つのエクソソーム50に1つのビーズ70を結合させて、エクソソーム50とビーズ70との数量関係を極力1対1に近付けることができる。
【0071】
凹部20aの幅Waは、エクソソーム50の平均粒径Eよりも大きく、ビーズ70の直径Dの2倍よりも小さいことが好ましい。即ち、試料分析用デバイス101,102は、式(1)の関係を有することが好ましい。
E<Wa<2D …(1)
【0072】
式(1)のE<Waを満たせば、エクソソーム50を凹部20aに固定させることができる。式(1)のWa<2Dを満たせば、ビーズ70が凹部20aの幅方向に同時に2つ入りにくくなり、エクソソーム50とビーズ70との数量関係が1対1に近付くこととなる。
【0073】
式(2)を満たすことが好ましい。
Wb<D<Wa<2D …(2)
式(2)のWb<Dを満たせば、ビーズ70は凸部20b上に位置しにくくなる。式(2)のD<Waを満たせば、ビーズ70は凹部20aに入ることができる。
【0074】
式(3)を満たすことが好ましい。
Wb<E …(3)
式(3)を満たせば、エクソソーム50は凸部20b上に位置しにくくなる。
【0075】
式(4)を満たすことが好ましい。
E<Wa<4E …(4)
【0076】
凹部20aに捕捉されたエクソソーム50は、多くの場合、
図10の(c)に示すように、球形から、接触面積を拡げる方向に変形する。上記のように、磁性物質を包含したビーズ70を用いると、磁力によってエクソソーム50の変形が促進される。
【0077】
球形のエクソソーム50が体積を保って楕円体に変形したと仮定すると、球の直径が50%変化する場合、回転楕円体の長軸である凹部20aとの接触部位の直径は約40%大きくなる。さらに実際には、回転楕円体形状よりも接触部位の面積が大きくなる方向に変形するので、接触部位の直径は、元の球形のときの直径の50%以上、ときには100%以上増大することもありえる。
【0078】
以上のことから、式(4)のWa<4Eを満たすことが好ましい。
【0079】
エクソソーム50の平均粒径Eとビーズ70の直径Dとは、式(5)を満たすことが好ましい。
E<D …(5)
【0080】
式(5)を満たせば、凹部20aに固定されたエクソソーム50を複数のビーズ70で修飾しにくくなり、エクソソーム50とビーズ70との数量関係を1対1に近付けることができる。式(5)を満たせば、エクソソーム50とビーズ70とが反応的に出会う確率が上がり、結果として反応の収率を上げることができる。
【0081】
凹部20aの深さHは、式(6)を満たすことが好ましい。
(D+E)/8<H …(6)
【0082】
式(6)を満たせば、エクソソーム50は凹部20aにほぼ確実に固定され、ビーズ70の凸部20bへの非特異的な吸着を防ぎ、ビーズ70はほぼ確実に凹部20aに存在するエクソソーム50に固定される。
【0083】
凹部20aの深さHが式(7)を満たすことはさらに好ましい。
(D+E)/6<H …(7)
【0084】
実施例1は、式(1)〜式(6)を満たし、実施例2は、式(1)〜式(7)を満たす。実施例1,2によれば、凹部20aに固定されたエクソソーム50とビーズ70との数量関係をほぼ1対1とすることができる。1つのエクソソーム50に2つまたは3つのビーズ70が結合する場合が僅かにあるが、エクソソーム50を定量的に検出することにほとんど影響を与えない。
【0085】
式(1)〜式(7)の全てを満たすことが最も好ましいが、式(1)〜式(7)を部分的に満たすだけでもよい。式(1)を満たすだけでも効果的である。式(1)に加えて式(4)を満たすことが好ましい。式(1)に加えて式(3)を満たすことも好ましい。式(1)に加えて式(3)及び式(4)を満たすことはより好ましい。
【0086】
式(1)に加えて、式(2)におけるWb<Dを満たすことが好ましい。式(1)に加えて、式(4)及び式(2)におけるWb<Dを満たすことはより好ましい。式(1)に加えて、式(3)及び式(2)におけるWb<Dを満たすこともより好ましい。式(1)と、式(2)におけるWb<Dと、式(3)と、式(4)との全てを満たすことはさらに好ましい。
【0087】
ところで、試料分析用デバイスは、試料分析用デバイス101,102として
図1、
図4に示した矩形状の他、円形のディスク状であってもよい。この場合であっても、以上説明した免疫学的測定法を用いた反応を同様に行うことができる。試料分析用デバイスを円形のディスク状とした場合には、凹凸構造20の凹部20a及び凸部20bをスパイラル状または同心円状としてもよい。後述するエクソソーム50の検出に際して、ディスク状の形状を活かすことができる。
【0088】
さらに、ディスク状の場合は、ディスク状の形状に対応させた送液路の構造を設けることも可能である。
図11〜
図13を用いて、送液路の構造を設けたディスク状の試料分析用デバイスを第3実施形態の試料分析用デバイスとして説明する。第3実施形態において、第1,第2実施形態と実質的に同一の物質や同一の部分には同一の符号を付して説明することとする。
【0089】
<第3実施形態の試料分析用デバイス>
図11において、第3実施形態の試料分析用デバイス103は、ブルーレイディスク,DVD,コンパクトディスク等の光ディスクと同じ直径の円盤状に形成されている。試料分析用デバイス103は、試料分析用ディスクである。
図11は、試料分析用デバイス103を透明保護層36側から見た平面図である。
【0090】
試料分析用デバイス103は、光ディスクと同様、ポリカーボネート等の合成樹脂によって形成することができる。
【0091】
試料分析用デバイス103の中心部には、円形の開口103aが形成されている。開口103aの周囲には、開口103aを取り囲むように、検出対象のエクソソーム50を含む試料を滴下させるための注入孔31が形成されている。
【0092】
それぞれの注入孔31には、試料を流すための流路32が連結されている。複数の流路32は、注入孔31から試料分析用デバイス103の外周端部方向へと放射状に伸びている。流路32の中間部には、ビーズ70を充填するためのビーズ充填部33が設けられている。
【0093】
試料分析用デバイス103の外周端部には、扇状に広がった検出領域34が設けられている。流路32は検出領域34と連結されている。注入孔31から試料を注入して、試料分析用デバイス103を回転させると、試料は流路32を伝わって検出領域34に到達する。従って、検出領域34は、各液が注入孔31及び流路32を経て注入される注入部である。
【0094】
試料分析用デバイス103の外周端部には、
図12の(a)に示すように、スパイラル状または同心円状の凹部20aと凸部20bとを含む凹凸構造20が形成されている。検出領域34は、凹凸構造20内に設けられている。
【0095】
図12の(a)に示す凹凸構造20の代わりに、
図12の(b)に示すように、複数の凹状のピット20cがスパイラル状または同心円状に配列されたピット構造20Pとしてもよい。ピット20cを設けていない部分は、ピット20cに対して凸部であるから、ピット構造20Pも凹凸構造である。
【0096】
試料分析用デバイス103では、透明保護層36とは反対側の合成樹脂等で形成される円盤部分が、凹凸構造20(ピット構造20Pを含む)を形成するベース部となっている。
【0097】
図11に示すように、凹凸構造20の検出領域34以外の部分はトラック領域35となっている。トラック領域35にアドレス情報を設けることによって、試料分析用デバイス103の半径方向及び周方向の位置を特定することができる。アドレス情報をピットやエンボスで設けてもよく、凹部20aまたは凸部20bの側面のウォブリングによってアドレス情報を表すようにしてもよい。
【0098】
図13は、試料分析用デバイス103の部分断面図である。ビーズ充填部33に充填されているビーズ70には、
図7の(b)と同様に、予め抗体80が固定されている。実際には、凹凸構造20に隣接してレーザ光を反射する反射層が設けられているが、
図12及び
図13では図示を省略している。
【0099】
まず、注入孔31から抗体60を含む緩衝溶液F60を注入して試料分析用デバイス103を回転させると、
図10の(a)と同様に、凹凸構造20の表面に抗体60が固定される。必要に応じて、凹凸構造20の表面をブロッキング処理すればよい。
【0100】
注入孔31から検出対象のエクソソーム50を含む試料液F50を注入して試料分析用デバイス103を回転させると、エクソソーム50がビーズ充填部33を通過する際にビーズ70で修飾される。ビーズ70で修飾されたエクソソーム50は、
図10の(d)と同様に、凹部20aに固定される。
図13では、図示の都合上、エクソソーム50の図示を省略し、ビーズ70のみを図示している。
【0101】
検出領域34には、図示していない光ピックアップのレーザ光源から発せられ、対物レンズ40によって集光されたレーザ光が透明保護層36を介して照射される。凹部20aに固定されたビーズ70は、照射されたレーザ光の反射光を解析することによって検出できる。
【0102】
第3実施形態の試料分析用デバイス103における凹凸構造20の寸法的な形状と、検出対象のエクソソーム50や標識として用いるビーズ70との大きさの関係は、第1,第2実施形態と同じである。
【0103】
<エクソソームの検出及び試料分析方法>
次に、第1〜第3実施形態の試料分析用デバイス101〜103によって、
図10の(d)に示すように捕捉したエクソソーム50を検出する検出方法について説明する。
【0104】
第1の検出方法として、光学顕微鏡を用いてビーズ70を検出して、画像処理によってビーズ70を計数することができる。その結果、エクソソーム50が定量的に検出される。第1の検出方法は、第1,第2実施形態の試料分析用デバイス101,102によって捕捉したエクソソーム50を検出するのに好適である。
【0105】
試料分析用デバイス101,102を搭載するステージを移動させて大面積でビーズ70を計数することにより、計測の精度を上げることができる。光学顕微鏡の代わりにレーザ顕微鏡を用いて、検出する解像度を高くし、S/Nを向上させることも可能である。
【0106】
第2の検出方法として、ビーズ70内に特定の波長の光を照射すると蛍光を発する蛍光物質を包含させて、蛍光を検出することによってビーズ70を計数することができる。光学顕微鏡を用いて蛍光を発するビーズ70を計測してもよいし、蛍光の総量を光センサで検出してもよい。第2の検出方法は、第1,第2実施形態の試料分析用デバイス101,102によって捕捉したエクソソーム50を検出するのに好適である。
【0107】
第1及び第2の検出方法を用いる場合、ウェル10を設けていない試料分析用デバイス101,102の裏面側からビーズ70を検出するようにすれば、検出装置と試料分析用デバイス101,102との機械的な干渉を防ぐことができる。また、ウェル10の形状を顕微鏡対物レンズ等の干渉を避ける形状とすることも可能である。
【0108】
第2実施形態の試料分析用デバイス102の場合には、シリコーンポリマーシート122を剥がすことができる。シリコーンポリマーシート122を剥がして基板112のみでビーズ70を検出すれば、検出装置との機械的な干渉を回避することができる。
【0109】
第3の方法として、ビーズ70に固定されている抗体80に特異的に結合する酵素を標識とする2次抗体を用いてビーズ70を検出し、計数することができる。代表的な2次抗体は、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)標識抗体やアルカリ・フォスファターゼ(AP)標識抗体である。
【0110】
これらの2次抗体は、酵素に応じた発光基質を加えることによって化学発光を生じる。従って、エクソソーム50に固定されたビーズ70を2次抗体で修飾して、発光基質を加えて生じた化学発光の光量を検出することによってビーズ70を計数することができる。
【0111】
第4の方法として、第3実施形態の試料分析用デバイス103の場合には、上記のように、光ピックアップのレーザ光源から発せられたレーザ光で試料分析用デバイス103を走査することによって、ビーズ70を計数することができる。凹凸構造20の凹部20aをトラックとして、サーボ機構を用いてレーザ光のスポットをトラックに沿って走査させることにより、高速かつ高精度にビーズ70を計数することが可能である。
【0112】
以上のようにして、エクソソーム50に標識として固定されたビーズ70を計数することによってエクソソーム50を高精度に定量的に測定して、試料を分析することができる。
【0113】
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。