(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、本発明の実施の形態1に係る電池パック10を含む構成の例を示す。電池パック10はたとえば車両に搭載される。電池パック10は、電池モジュール20と、電流センサ30と、メインスイッチ40とを備える。電池モジュール20と、電流センサ30と、メインスイッチ40とは、たとえば直列に接続されて電池パック10の主回路を構成する。
【0015】
電池モジュール20は少なくとも1つの電池セル21を備える。複数の電池セル21を備える場合には、各電池セル21はたとえば直列に接続される。電池セル21は、充電および放電が可能な二次電池である。したがって、電池セル21を備える電池モジュール20もまた、充電および放電が可能な二次電池であるということができる。また、電池セル21を備える電池パック10は、充電および放電が可能な二次電池パック(二次電池システム)であるということができる。
【0016】
電流センサ30は電流検出手段であり、端子間に流れる電流の大きさを検出する機能を有する。電流センサ30は、たとえばホール素子やシャント抵抗を用いて構成可能である。電流センサ30は、その出力としての電流検出値において、ゼロでない温度ドリフトを有する。たとえば、ある温度における電流検出値が誤差なく正確であった場合に、異なる温度における電流検出値は誤差を含む可能性がある。
【0017】
また、電流センサ30は、電流検出値における誤差を補正する機能を有する。たとえばこの補正はゼロ点補正として実施される。ゼロ点補正は、たとえば、電流がゼロである状態(またはゼロであると考えられる状態)において電流値を取得するとともに、この電流値に対して出力される電流検出値がゼロとなるようにオフセットを決定するという処理として、実施可能である。
【0018】
メインスイッチ40は、端子間において回路を接続または切断することにより、端子間の通電を許容または停止するスイッチ機構として機能する。たとえばメインスイッチ40が開放され通電を停止している状態では、電流センサ30に流れる電流はゼロである(またはゼロであると考えることができる)。
【0019】
電流センサ30に関連して、電流センサ30に係る温度を取得するための温度センサ50が設けられる。温度センサ50は、たとえば電流センサ30の温度が計測可能となるように配置される(電流センサ30に接触して配置されてもよい)。または、温度センサ50は、電流センサ30の雰囲気温度が計測可能となるように配置される。温度センサ50は、たとえば
図1に示すように電池パック10の内部に配置される。
【0020】
電池パック10は、コネクタ70を介して、外部の回路との間で電力の授受が可能である。外部の回路は電源(発電機等)を含んでもよく、負荷(補機等)を含んでもよく、その両方を含んでもよい。
図1の例では、外部の回路は、補機71と、インバータ72とを含む。また、外部の回路は、インバータ72に接続される他の構成要素(モータジェネレータ等)を含んでもよい。
【0021】
電池パック10は、電池ECU60を備える。電池ECU60は、電池パック10の動作を制御する制御装置である。電池ECU60は、電池モジュール20、電流センサ30、メインスイッチ40、温度センサ50およびコネクタ70に接続され、これらの動作を制御する。また、電池ECU60は、コネクタ70を介して外部のコンピュータ(
図1の例では走行制御ECU73)と通信可能である。電池ECU60は単一のコンピュータ(マイクロプロセッサ等)であってもよく、複数のコンピュータを含んでもよい(たとえば監視装置と充電制御装置とが別のコンピュータであってもよい)。なお、外部の回路に充電器が接続されて電池モジュール20が充電される場合は、電池ECU60は、図示しない充電制御ECUとも通信可能である。
【0022】
走行制御ECU73は、たとえば車両の走行動作を制御する外部のコンピュータである。外部のコンピュータは、外部の回路を制御するものであってもよい。
図1の例では、走行制御ECU73はインバータ72の動作を制御することにより、外部の回路(たとえばモータジェネレータ)の力行動作および回生動作を制御する。
【0023】
電池ECU60は、電池モジュール20および電池セル21の状態を監視する。とくに、電池ECU60は、電流センサ30から送信される電流検出値に基づき、電池モジュール20のSOCを算出する。このため、電流検出値に誤差が含まれている場合には、SOCにも誤差が現れる可能性があり、したがって電流検出値の誤差を縮小することが好ましい。
【0024】
以下に、電池パック10の動作を説明する。
図2に、電池ECU60の動作を示すフローチャートを示す。このフローチャートは、電池モジュール20または電池セル21の充電電流を検出する電流センサ30の補正方法に係るものである。
【0025】
図2に示す処理は、電池ECU60が外部から充電開始指示を受信することに応じて開始される(ステップS1)。充電開始指示は、たとえば走行制御ECU73からコネクタ70を介して送信される。なお、電池ECU60が充電開始指示を受信していない場合には、処理を終了してもよく、充電開始指示を受信するまでステップS1において待機してもよい。充電開始指示は、図示しない外部のコンピュータ(たとえば充電制御ECU)から受信してもよく、また、外部から充電開始指示を受信せず、電池ECU60が自ら判断して充電開始をしてもよい。
【0026】
充電開始指示を受信すると、電池ECU60はまず通電を停止する(ステップS2)。ここで、「通電」とは、充電および放電の双方を含む。すなわち、充電中であれば充電を停止し、放電中であれば放電を停止する。通電を停止する動作は、たとえばメインスイッチ40に対して開放命令を送信することによって実現される。
【0027】
ここで、すでに通電が停止されている場合(すなわち充電も放電も行われていない場合)には、ステップS2は何らの動作も実行しないものであってもよく、また、通電が停止されていること(たとえばメインスイッチ40が開放されていること)を確認するものであってもよい。
【0028】
次に、電池ECU60は、電流センサ30のゼロ点補正を実施する(ステップS3、補正実行ステップ)。これにより、電流センサ30の電流検出値は、ステップS3の実行時点の温度に合わせてゼロ点補正されることになる。
【0029】
次に、電池ECU60は、電流センサ30に係る温度を取得する(ステップS4、基準温度取得ステップ)。ここで取得された温度を基準温度Taとする。ステップS4はたとえば、温度センサ50が計測した温度を表す情報を受信することによって実行される。
【0030】
ここで、「電流センサ30に係る温度」とは、電流センサ30またはその一部の温度であってもよいし、電流センサ30の雰囲気温度であってもよい。また、電流センサ30の温度または電流センサ30の雰囲気温度を算出する根拠となり得る他の温度であってもよい。なお、上記ステップS2において通電が停止されているので、ステップS4は通電が停止された状態で実行されることになる。
【0031】
次に、電池ECU60は、電池モジュール20に対する充電を開始する(ステップS5、通電開始ステップ)。充電を開始する動作は、たとえばメインスイッチ40に対して閉成命令を送信することによって実現される。
【0032】
なお、
図2には示さないが、充電動作の進行中、電池ECU60は、電流センサ30から電流検出値を継続して受信し、これに基づいてSOCの算出等の処理を実行する。ここで、上記ステップS3において電流センサ30のゼロ点補正が実行されているので、電流センサ30の温度が大きく変動しない限り、電流検出値の誤差はゼロまたは小さい値に留まり、したがってSOCの算出等の処理の精度が高まる。
【0033】
次に、電池ECU60は、電流センサ30に係る温度を取得する(ステップS6、現在温度取得ステップ)。これはたとえば、温度センサ50が計測した温度を表す情報を受信することによって実行される。ここで取得された温度を現在温度Tbとする。なお、「現在温度」という用語は、必ずしも時々刻々と変化する最新の温度値を意味するものではなく、上記の基準温度Taよりも後に取得されたものを包含してもよい。現在温度Tbは、たとえば「変動後の温度」または「基準温度と比較されるべき温度」と表現し得るものであってもよい。
【0034】
次に、電池ECU60は、充電中に基準温度Taと現在温度Tbとが所定の関係を満たすか否かを判定する(ステップS7)。所定の関係とは、たとえば隔たりが比較的大きいことであり、隔たりの程度はたとえば差の絶対値を基準として判定される。
図2の例では、基準温度Taと現在温度Tbとの差の絶対値が、事前に定義される閾値Thより大きいか否かに基づいて判定が行われる。
【0035】
基準温度Taと現在温度Tbとが所定の関係を満たす場合(たとえば、充電動作の進行に伴い温度が比較的大きく上昇した場合。
図2の例では|Tb−Ta|>Thである場合)には、電池ECU60は処理をステップS2に戻す。すなわち、この場合には、実行していた充電動作を一時的に中断し、充電を停止した状態で電流センサ30のゼロ点補正を再実行することになる。これによって、電流センサ30の電流検出値は、より正確な温度に合わせてゼロ点補正されることになる。なおこの場合には、ステップS5は、ステップS3(補正実行ステップ)の後に充電を開始する充電再開ステップであるということができる。
【0036】
なお、この場合には、ゼロ点補正とともに基準温度Taの再取得も実行されるので、その後のステップS7における判定では、この新たな基準温度Taが用いられることになる。なお、変形例として、ステップS4が2回目以降に実行される場合には、温度センサ50による計測を省略し、現在温度Tbを新たな基準温度Taとしてもよい。
【0037】
ステップS7において、基準温度Taと現在温度Tbとが所定の関係を満たさない場合(たとえば、温度があまり上昇していない場合。
図2の例では|Tb−Ta|≦Thである場合)には、電池ECU60は、充電動作が終了したか否かを判定する(ステップS8)。この判定は公知の技術に基づいて行われ、判定基準は当業者が適宜決定可能である。たとえば、外部から充電終了指示を受信したか否かに基づいて判定を行ってもよく、電池モジュール20のSOCに基づいて判定を行ってもよい。
【0038】
充電動作が終了した場合には、電池ECU60は
図2に示す処理を終了する。一方、充電動作が終了していない場合には、電池ECU60は処理をステップS6に戻す。すなわち、この場合には、充電を続行しつつ、温度に基づく判定が繰り返されることになる。
【0039】
以上のように、実施の形態1に係る電池パック10において、電池ECU60が実行する方法によれば、電流センサ30に係る温度が大きく変動した場合には、充電を中断して電流センサ30のゼロ点補正を実施し、その後に充電を再開するので、温度の変動に応じた電流センサ30の補正をより適切に実施できる。
【0040】
とくに、電池パック10周辺の環境温度の変化に限らず、電池モジュール20の充電動作に伴う比較的急激な温度変化にも対応可能であるという点で、本発明は格別の効果を奏する。
【0041】
また、本発明は、温度ドリフトが0でない温度センサについて一般的に適用可能であるが、とくに、温度ドリフトを小さく抑えることが困難な電流センサ(たとえば車載用の簡素な構成の電流センサ)について顕著な効果を奏する。
【0042】
実施の形態1において、以下のような変形を施すことができる。
電流センサ30は、充電でなく放電に係る通電の電流を検出するものであってもよい。すなわち、ステップS1では放電開始指示を受信し、ステップS5では放電を開始し、ステップS8では放電が終了したか否かを判定してもよい。なお、この場合、ステップS2からS3にかけて放電が一時的に中断されるため、負荷への電力供給に影響が出る可能性があるが、そのような影響を許容し得る構成であれば、放電についても適用が可能である。そのような影響を許容し得る構成の例としては、負荷に対する供給電力の変動そのものを許容し得る場合や、外部の補助的電源により少なくともある程度の電力供給が代替可能である場合等がある。
【0043】
ステップS2およびS3は、ループにより複数回実行される可能性があるが、いずれも最初の実行については省略可能である。ただし、その場合には、充電開始指示を受信するより前の時点で、ゼロ点補正が実行されている必要がある。たとえば、電池ECU60の動作開始時にゼロ点補正を実施してもよい。または、充電開始指示に関わらず、通電停止状態では定期的にゼロ点補正を実施してもよい。
【0044】
ステップS7において判定基準となる所定の関係は、差の絶対値に限らず、様々に定義可能である。たとえば基準温度Taおよび現在温度Tbの関数やマップをあらかじめ定義しておき、その値を用いて判定を行ってもよい。当業者であれば、電流センサ30の測定誤差(温度ドリフト等)を許容範囲内に抑えるための関係を、適宜定義可能である。
【0045】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1において、電池モジュール20を複数設けるとともに、各電池モジュール20間で連携処理を行うものである。以下、実施の形態1との相違点を説明する。
【0046】
図3に、本発明の実施の形態2に係る電池パック110を含む構成の例を示す。電池パック110は、複数の電池モジュール120,121,122を備える。複数の電池モジュール120,121,122は、互いに並列に接続される。すなわち、本実施形態に係る方法は、複数の電池モジュール120,121,122を互いに並列に接続するステップを備えるということができる。
【0047】
また、電池パック110は、複数の電流センサ130,131,132と、複数のメインスイッチ140,141,142とを備える。複数の電流センサ130,131,132は、それぞれ、電池モジュール120,121,122について設けられる。同様に、複数のメインスイッチ140,141,142も、それぞれ、電池モジュール120,121,122について設けられる。すなわち、本実施形態に係る方法は、複数の電流センサ130,131,132と、複数のメインスイッチ140,141,142とを、それぞれ電池モジュール120,121,122について設けるステップを備えるということができる。
【0048】
電池モジュール120,121,122と、それぞれ対応する電流センサ130,131,132およびメインスイッチ140,141,142とは、たとえば直列に接続されて各電池モジュール回路を構成する。また、各電池モジュール回路は、互いに並列に接続されて電池パック110の主回路を構成する。
【0049】
電流センサ130,131,132のそれぞれに関連して、各電流センサに係る温度を取得するための温度センサ150,151,152が設けられる。
【0050】
また、電池パック110は、電池ECU160を備える。電池ECU160は、電流センサ130,131,132のそれぞれから送信される電流検出値に基づき、電池モジュール120,121,122のSOCを算出する。また、電池ECU160は、メインスイッチ140,141,142を個別に制御可能である。なお
図3では、電池ECU160に関する接続を表す線は省略している。
【0051】
以下に、実施の形態2に係る電池パック110の動作を説明する。
図4に、実施の形態2に係る電池ECU160の動作を示すフローチャートを示す。このフローチャートは、
図2に示す電池ECU60の動作において、充電動作のみならず放電動作にも適用可能とした上で、さらに、通電を停止するステップS2を、状況に応じて電流を補償するという動作を追加したステップS2a(電流補償ステップ)に置き換えたものである。
【0052】
電池ECU160は、ステップS1およびS3〜S8については、電池モジュール120,121,122のそれぞれについて個別に実行可能である。すなわち、電池モジュール120,121,122のそれぞれについて、実施の形態1と同様の制御を実行することができる。ただし、ステップのいずれかを、複数の電池モジュールについて共通に実行してもよい。たとえば、ステップS1において、電池パック110全体に対する充放電開始指示を受信した後に、充放電を行うべき電池モジュールを電池ECU160が決定し、その電池モジュールについてのみステップS2a以降の処理を実行してもよい。
【0053】
ステップS2aにおいて、電池ECU160は通電を停止するとともに、状況に応じて電流を補償する。ここで、「電流を補償する」とは、ある電池モジュールの充放電を停止することによって電池パック110全体の充放電電流が変動する場合に、別の電池モジュールの充放電を制御して代替させることにより、電池パック110全体の充放電電流が、ステップS2aの前後で変化しないようにすること(またはステップS2aの前後での変動量をより小さくすること)をいう。
【0054】
たとえば、電池モジュール120が放電を行っている間に、電池モジュール120の温度が変化し、電池モジュール120について|Tb−Ta|>Thとなったとする。この場合に、電池ECU160は、ステップS2aにおいて、電池モジュール120の放電を停止するとともに、別の電池モジュール(たとえば電池モジュール121)の放電電流を増加させる。
【0055】
放電電流を増加させる制御は、次のような制御を含む。たとえば、電池モジュール121が充放電を行っていない場合には、放電を開始する。また、たとえば電池モジュール121がすでに放電中である場合には、放電電流を増加させる。(電池モジュール121が充電中である場合には、充電電流を減少させてもよい。)
【0056】
なお、ゼロ点補正を実施すべき電池モジュール120の放電を停止する際の具体的制御(メインスイッチ140の開放タイミング等)や、別の電池モジュール121の放電電流を増加させる際の具体的制御(メインスイッチ140とメインスイッチ141との連動制御等)については、当業者が適宜設計可能である。
【0057】
この、別の電池モジュール121が放電を開始する場合には、当該別の電池モジュール121それ自体について、
図2または
図4のフローチャートに従う充電動作と同様にして放電動作を実行してもよい(すなわち、ゼロ点補正を含む放電動作を行ってもよい)。
【0058】
放電電流を増加させる量は、たとえばそれまで電池モジュール120が放電していた電流の値とすることができる。この場合には、ステップS2aの前後で電池パック110全体の放電電流が変化しない。また、これより小さい値であっても、放電電流を増加させる量がゼロでなければ、ステップS2aの前後で電池パック110全体の放電電流の変化を比較的小さく抑えることが可能である。
【0059】
また、放電電流の増加に係る電池モジュールは複数であってもよい。すなわち、電池モジュール121および122についてそれぞれ放電電流を増加してもよい。
【0060】
以上のように、実施の形態2に係る電池パック110において、電池ECU160が実行する方法によれば、実施の形態1と同様に、充放電中の電池モジュールについて電流センサに係る温度が大きく変動した場合には、充放電を中断して該当する電流センサのゼロ点補正を実施し、その後に充放電を再開するので、温度の変動に応じた電流センサの補正をより適切に実施できる。
【0061】
さらに、複数の電池モジュールを備え、ある電池モジュールのゼロ点補正に伴う充放電停止を補償すべく、別の電池モジュールの充放電を行うので、外部の回路に対する影響を回避または低減することができる。
【0062】
なお、実施の形態2においても、実施の形態1と同様の変形を施すことが可能である。