(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電気エネルギを蓄積且つ放出可能なリアクトル(21)、及び、前記リアクトルに接続される少なくとも一つのスイッチング素子(23、24)を有し、前記スイッチング素子をオンオフさせることで、直流電源(15)から前記リアクトルに入力される入力電圧(VL)を出力電圧(VH)に変換する直流電圧変換器(20)、並びに、
高電位側スイッチング素子(31、32、33)及び低電位側スイッチング素子(34、35、36)からなる複数のスイッチング素子対を有し、対をなす前記スイッチング素子を交互にオンオフさせることで、前記直流電圧変換器が出力した直流電力を交流電力に変換して負荷に出力する電力変換器(30)を備える負荷駆動システム(1)に適用され、
前記直流電圧変換器のスイッチング素子、及び、前記電力変換器のスイッチング素子対の切替タイミングを制御するスイッチング制御装置(50、60)であって、
前記直流電圧変換器の出力電圧に対する指令電圧(VHcom)に応じて前記直流電圧変換器の制御量を演算する直流電圧変換器制御回路(51)と、
前記直流電圧変換器制御回路が演算した前記直流電圧変換器の制御量に従って、前記直流電圧変換器のスイッチング素子を動作させる直流電圧変換器駆動回路(54)と、
前記負荷の要求出力に応じて前記電力変換器の制御量を演算する電力変換器制御回路(61)と、
前記電力変換器制御回路が演算した前記電力変換器の制御量に従って、前記電力変換器のスイッチング素子対を動作させる電力変換器駆動回路(64)と、
前記電力変換器を構成する少なくとも一対のスイッチング素子対の切替タイミングに先立ち、当該切替タイミングに同期した所定期間にわたって前記直流電圧変換器のスイッチング素子の切替を禁止する期間、又は、前記直流電圧変換器の少なくとも一つのスイッチング素子の切替タイミングに先立ち、当該切替タイミングに同期した所定期間にわたって前記電力変換器のスイッチング素子の切替を禁止する期間である切替禁止期間(Pp)を算出する切替禁止期間算出手段(52、62)と、
前記直流電圧変換器の少なくとも一つのスイッチング素子、又は、前記電力変換器を構成する少なくとも一対のスイッチング素子対の切替タイミングが前記切替禁止期間内に入ると予測される場合、当該切替タイミングを第1の補正対象の切替タイミング(tsw1)とし、当該第1の補正対象の切替タイミングを前記切替禁止期間外に補正する切替補正手段(53、63)と、
を備え、
前記切替補正手段は、さらに、前記第1の補正対象の切替タイミングの次の切替タイミングである第2の補正対象の切替タイミング(tsw2)について、
前記第1の補正対象の切替タイミングの補正量に応じて、前記第1及び第2の補正対象の切替タイミングの前後の期間における前記スイッチング素子、又は前記スイッチング素子対の一方の平均時比率が補正前と補正後とで同等となるように、前記第2の補正対象の切替タイミングを補正することを特徴とするスイッチング制御装置。
電気エネルギを蓄積且つ放出可能なリアクトル(21)、及び、前記リアクトルに接続される少なくとも一つのスイッチング素子(23、24)を有し、前記スイッチング素子をオンオフさせることで、直流電源(15)から前記リアクトルに入力される入力電圧(VL)を出力電圧(VH)に変換する直流電圧変換器(20)、並びに、
高電位側スイッチング素子(31、32、33)及び低電位側スイッチング素子(34、35、36)からなる複数のスイッチング素子対を有し、対をなす前記スイッチング素子を交互にオンオフさせることで、前記直流電圧変換器が出力した直流電力を交流電力に変換して負荷に出力する電力変換器(30)を備える負荷駆動システム(1)に適用され、
前記直流電圧変換器のスイッチング素子、及び、前記電力変換器のスイッチング素子対の切替タイミングを制御するスイッチング制御装置(50)であって、
前記直流電圧変換器の出力電圧に対する指令電圧(VHcom)に応じて前記直流電圧変換器の制御量を演算する直流電圧変換器制御回路(51)と、
前記直流電圧変換器制御回路が演算した前記直流電圧変換器の制御量に従って、前記直流電圧変換器のスイッチング素子を動作させる直流電圧変換器駆動回路(54)と、
前記負荷の要求出力に応じて前記電力変換器の制御量を演算する電力変換器制御回路(61)と、
前記電力変換器制御回路が演算した前記電力変換器の制御量に従って、前記電力変換器のスイッチング素子対を動作させる電力変換器駆動回路(64)と、
前記電力変換器を構成する少なくとも一対のスイッチング素子対の切替タイミングに先立ち、当該切替タイミングに同期した所定期間にわたって前記直流電圧変換器のスイッチング素子の切替を禁止する期間である切替禁止期間(Pp)を算出する切替禁止期間算出手段(52)と、
前記直流電圧変換器の少なくとも一つのスイッチング素子の切替タイミングが前記切替禁止期間内に入ると予測される場合、当該切替タイミングを第1の補正対象の切替タイミング(tsw1)とし、当該第1の補正対象の切替タイミングを前記切替禁止期間外に補正する直流電圧変換器切替補正手段(53)と、
を備え、
前記直流電圧変換器切替補正手段は、さらに、前記第1の補正対象の切替タイミングの次の切替タイミングである第2の補正対象の切替タイミング(tsw2)について、
前記第1の補正対象の切替タイミングの補正量に応じて、前記第2の補正対象の切替タイミングを補正し、
前記第2の補正対象の切替タイミングの次の切替タイミングを第3の補正対象の切替タイミング(tsw3)とし、前記第1の補正対象の切替タイミングの一回前の切替タイミングである基準時(t0)から、補正後の前記第1の切替タイミング(tsw1’)、補正後の前記第2の切替タイミング(tsw2’)、及び、補正後の前記第3の切替タイミング(tsw3’)までの時間をそれぞれ補正後第1時間(τ1)、補正後第2時間(τ2)、及び、補正後第3時間(τ3)とすると、
前記直流電圧変換器切替補正手段は、
前記直流電圧変換器のキャリア周期(T)、回路定数(L)、入力電圧(VL)及び出力電圧(VH)、前記負荷に流れる負荷電流(Im)、前記基準時及び前記補正後の前記第1の切替タイミングにおいて直流電圧変換器の前記リアクトルに流れるリアクトル電流(I0、I1)、並びに、前記補正後第1時間に基づいて、
前記基準時から前記キャリア周期2周期の期間における前記直流電圧変換器の出力電圧を一定とするように、前記補正後第2時間及び前記補正後第3時間を算出することを特徴とするスイッチング制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明によるスイッチング制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において、実質的に同一の構成、又はフローチャートにおける実質的に同一のステップには、同一の符号、又は同一のステップ番号を付して説明を省略する。
本発明の実施形態のスイッチング制御装置は、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の動力源として用いられるモータジェネレータを駆動する駆動システムに適用される。このモータジェネレータ駆動システムは、バッテリの電源電圧を昇圧する昇圧コンバータと、昇圧コンバータが出力した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータに出力するインバータとを含む。
【0022】
昇圧コンバータ及びインバータは、それぞれスイッチング素子がオンオフ動作することにより駆動される。本発明のスイッチング制御装置は、スイッチング素子のオンオフを切り替える切替タイミングに関し、後述する「重畳サージ」を回避するため、切替タイミングを補正することを特徴とする。この切替タイミングの補正には、昇圧コンバータの切替タイミングを補正する場合と、インバータの切替タイミングを補正する場合とがある。
【0023】
以下、主に昇圧コンバータの切替タイミングを補正する場合について、第1〜第5実施形態として説明する。インバータの切替タイミングを補正する場合の基本的な考え方は、昇圧コンバータの切替タイミングを補正する場合とほぼ同様であるため、第6実施形態でまとめて説明する。また、明細書中で「本実施形態」という場合、第1〜第6実施形態に共通の事項について述べる。
【0024】
<昇圧コンバータの切替タイミングを補正する形態>
第1〜第5実施形態のスイッチング制御装置に共通の構成及び作用について、
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示すように、「負荷駆動システム」としてのモータジェネレータ駆動システム1は、「直流電源」としてのバッテリ15、「直流電圧変換器」としての昇圧コンバータ20、「電力変換器」としてのインバータ30、「負荷」としてのモータジェネレータ4(図中「MG」と示す)、及び、スイッチング制御装置50等を含む。
【0025】
まず、昇圧コンバータ20及びインバータ30以外のシステム構成について説明する。
バッテリ15は、例えばニッケル水素またはリチウムイオン等の充放電可能な蓄電装置によって構成される直流電源である。この他、電気二重層キャパシタ等を直流電源として用いてもよい。
【0026】
モータジェネレータ4は、例えば永久磁石式同期型の三相交流電動機である。モータジェネレータ4は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載され、力行動作により変速機等を介して駆動輪を駆動するトルクを発生する狭義の電動機としての機能、及び、エンジンや駆動輪から伝達されるトルクによる回生動作によって発電する発電機としての機能を兼ね備える。
【0027】
モータジェネレータ4のロータ近傍に設けられる回転角センサ45は、例えばレゾルバやロータリエンコーダで構成され、電気角θを検出する。回転角センサ45が検出した電気角θはスイッチング制御装置50に入力され、電流ベクトル制御のdq変換等の演算に用いられる。また、電気角θが時間微分され、電気角速度ωが算出される。電気角速度ωの算出は、スイッチング制御装置50の内部で行われてもよく、外部で行われてもよい。
【0028】
次に、昇圧コンバータ20の構成について説明する。昇圧コンバータ20は、リアクトル21、昇圧駆動部22、平滑コンデンサ25等を備える。
リアクトル21は、インダクタンスLを有しており、電流ILの変化に伴って誘起電圧が発生し、電気エネルギが蓄積される。
【0029】
昇圧駆動部22は、リアクトル21の出力端とインバータ30の高電位ラインとの間に接続された高電位側スイッチング素子23、及び、リアクトル21の出力端とバッテリ15の負極との間に接続された低電位側スイッチング素子24から構成されている。高電位側スイッチング素子23を「上アームのスイッチング素子」、低電位側スイッチング素子24を「下アームのスイッチング素子」ともいう。
【0030】
上下アームのスイッチング素子23、24は、昇圧コンバータ駆動回路54からのコンバータ駆動信号Sc(
図3参照)に従って、交互に、かつ相補的にオンオフ動作する。
このように本実施形態の昇圧駆動部22は、「スイッチング素子対」として構成されている。ただし、本発明の他の実施形態の昇圧駆動部は、対をなさない一つ以上のスイッチング素子で構成されてもよい。
【0031】
高電位側スイッチング素子23がオフで低電位側スイッチング素子24がオンのとき、リアクトル21にリアクトル電流ILが流れることにより、エネルギが蓄積される。
高電位側スイッチング素子23がオンで低電位側スイッチング素子24がオフのとき、リアクトル21に蓄積されたエネルギが放出されることにより、バッテリ入力電圧VLに誘起電圧が重畳され昇圧された出力電圧VHが平滑コンデンサ25に充電される。
【0032】
インバータ30は、ブリッジ接続された高電位側スイッチング素子31、32、33、及び低電位側スイッチング素子34、35、36からなる3相(U相、V相、W相)のスイッチング素子対を有している。昇圧コンバータ20と同様に、高電位側スイッチング素子31、32、33を「上アームのスイッチング素子」、低電位側スイッチング素子34、35、36を「下アームのスイッチング素子」ともいう。「上下アームのスイッチング素子」は、特許請求の範囲に記載の「対をなすスイッチング素子」に相当する。
各相の上下アームのスイッチング素子31〜36は、インバータ駆動回路64からのインバータ駆動信号Si(
図3参照)に従って、交互に、かつ相補的にオンオフ動作する。
【0033】
インバータ30は、昇圧コンバータ20がバッテリ入力電圧VLから昇圧した出力電圧VHの直流電力が入力される。各相の上下アームのスイッチング素子がオンオフ動作することにより、直流電力VHを三相交流電力Vu、Vv、Vwに変換してモータジェネレータ4に供給する。
【0034】
次に、スイッチング制御装置50の構成について、
図1、
図2を参照して説明する。
スイッチング制御装置50は、マイコン等により構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。スイッチング制御装置50は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
スイッチング制御装置50には、上位の車両制御回路等から指令されたモータジェネレータ4に対する指令トルクtrq
*、モータジェネレータ4の電気角θ及び電気角速度ωが入力される。なお、電気角速度ω[rad/s]は、スイッチング制御装置50内部で算出されてもよく、さらに回転数N[rpm]に換算されてもよい。
【0035】
スイッチング制御装置50は、基本的な構成として、昇圧コンバータ20に対する制御回路51及び駆動回路54、並びに、インバータ30に対する制御回路61及び駆動回路64を有している。昇圧コンバータ制御回路51及び昇圧コンバータ駆動回路54は、特許請求の範囲に記載の「直流電圧変換器制御回路」及び「直流電圧変換器駆動回路」に相当し、インバータ制御回路61及びインバータ駆動回路64は、特許請求の範囲に記載の「電力変換器制御回路」及び「電力変換器駆動回路」に相当する。
【0036】
また、スイッチング制御装置50は、切替禁止期間算出手段52、及び、「直流電圧変換器切替補正手段」としての昇圧コンバータ切替補正手段53を有している。特に第1〜第5実施形態では、昇圧コンバータ切替補正手段53は、前回値参照部530及びSW補正部535(
図5参照)を含むことを特徴とする。この特徴的構成については後述する。
【0037】
昇圧コンバータ制御回路51は、昇圧コンバータ20の出力電圧VHに対する指令電圧VHcomに基づき、昇圧コンバータ20の制御量を演算する。昇圧コンバータ駆動回路54は、昇圧コンバータ制御回路51が演算した昇圧コンバータ20の制御量に基づいて駆動信号Scを生成し、昇圧駆動部22の上下アームのスイッチング素子23、24を交互にオンオフ動作させる。
【0038】
本実施形態の昇圧コンバータ制御回路51は、昇圧コンバータ20制御量としてスイッチング周期に対するオンオフ時間比率であるデューティを演算する。昇圧コンバータ駆動回路54は、デューティと三角波のキャリアとを比較して、PWM信号を生成する。
以下、本明細書では、高電位側スイッチング素子23のスイッチング周期に対するオン時間比率(オンデューティ)の指令値を「duty」と定義する。デッドタイムを無視すれば、低電位側スイッチング素子24のオンデューティは、高電位側スイッチング素子23のオフデューティに一致し、「1−duty」に相当する。なお、「duty」は一般に[%]単位で用いられる場合もあるが、本明細書では、dutyを「0以上1以下の無次元数」として定義する。
【0039】
インバータ制御回路61は、モータジェネレータ4に対する指令トルクtrq
*に基づき、インバータ30の制御量を演算する。インバータ駆動回路64は、インバータ制御回路61が演算したインバータ30の制御量に基づいて駆動信号Siを生成し、各相の上下アームのスイッチング素子31〜36を交互にオンオフ動作させる。
【0040】
本実施形態のインバータ制御回路61は、インバータ30の制御量として各相の相電圧指令値から各相デューティを演算する。インバータ駆動回路64は、各相デューティと三角波のキャリアとを比較して、PWM信号を生成する。
以下、本明細書では、各相の高電位側スイッチング素子31、32、33のオンデューティの指令値を「duty」と定義する。デッドタイムを無視すれば、各相の低電位側スイッチング素子34、35、36のオンデューティは、対応する高電位側スイッチング素子のdutyに対して「1−duty」に相当する。
【0041】
したがって、昇圧コンバータ20、インバータ30共に、「duty」と英文字で記載する場合、「高電位側スイッチング素子のオンデューティ指令値」を意味する。また、特に区別するとき、昇圧コンバータ20のdutyを「CNV−duty」と記し、インバータ30のいずれかの相のdutyを「INV−duty」と記す。明細書の文脈から、どちらのdutyを示しているか自明な場合、単に「duty」と記す。
【0042】
図2の左側に、昇圧コンバータ制御回路51の一般的な構成を示す。昇圧コンバータ制御回路51は、指令電圧生成部511、フィードバック演算部512、フィードフォワード演算部513を有している。
指令電圧生成部511は、指令トルクtrq
*及び電気角速度ωに基づいて指令電圧VHcomを演算する。フィードバック演算部512は、指令電圧VHcomと出力電圧VHとの偏差をゼロに収束させるように、PI演算により、dutyのフィードバック項dfbを演算する。フィードフォワード演算部513は、dutyのフィードフォワード項dffを演算する。昇圧コンバータ制御回路51は、フィードバック項dfbとフィードフォワード項dffとを加算したdutyを出力する。
【0043】
また、インバータ制御回路61は、一般に、dq軸電流ベクトルを用い指令電流と実電流との電流偏差をゼロに収束させるように制御する電流フィードバック制御方式や、指令トルクと実トルクとのトルク偏差をゼロに収束させるように制御するトルクフィードバック制御方式等を用いる構成が知られている。これらの制御方式では、各相の相電圧指令値に基づいて演算された各相dutyが出力される。このようなインバータ制御回路61の構成は周知技術であるので、詳細な説明を省略する。
【0044】
次に、切替禁止期間算出手段52及び昇圧コンバータ切替補正手段53の役割について、
図3のタイムチャートを参照して説明する。
図3のタイムチャートは、インバータ30のいずれかの相の高電位側スイッチング素子の駆動信号Siと、昇圧コンバータ20の高電位側スイッチング素子23の駆動信号Scとの関係を示す。詳しくは、図の上から順に、インバータキャリアCi、インバータ駆動信号Si、コンバータキャリアCc及びコンバータ駆動信号Scを示している。
【0045】
記号の添え字「i」はインバータを示し、「c」は昇圧コンバータを示す。以下、「昇圧コンバータ」を適宜「コンバータ」と省略する。また、「昇圧コンバータ20のスイッチング素子の切替タイミング」を「昇圧コンバータの切替タイミング」、「インバータ30のいずれかの相のスイッチング素子の切替タイミング」を「インバータの切替タイミング」というように省略する。
【0046】
駆動信号Si、Scがオンであるとは、高電位側スイッチング素子がオンであり、低電位側スイッチング素子がオフであることを示し、駆動信号Si、Scがオフであるとは、高電位側スイッチング素子がオフであり、低電位側スイッチング素子がオンであることを示す。つまり、デッドタイムを無視することを前提として、駆動信号Si、Scは、対をなす「スイッチング素子対」の動作状態を表している。
【0047】
また、以下のタイムチャートでは、「dutyがキャリアCi、Ccを上回ったとき、駆動信号Si、Scがオン」となり、「dutyがキャリアCi、Ccを下回ったとき、駆動信号Si、Scがオフ」となるように定義する。したがって駆動信号Si、Scは、キャリアCi、Ccが山から谷に下降する間にオフからオンに立ち上がり、キャリアCi、Ccが谷から山に上昇する間にオンからオフに立ち下がる。例えば、
図3のtc1とtc2との間で、昇圧コンバータ20の駆動信号Scは、立ち上がっている。
以上の
図3についての注意事項は、以下のタイムチャートについても同様とする。
【0048】
図3に示すように、インバータ制御回路61及び昇圧コンバータ制御回路51は、各キャリアCi、Ccの山谷毎に最新の制御情報を取得し、制御演算を行い、次回dutyを決定する。決定した次回dutyは、インバータ駆動回路64及び昇圧コンバータ駆動回路54に設定され、次回の各キャリアCi、Ccの山谷で反映される。また、インバータ制御回路61と昇圧コンバータ制御回路51とは独立して動作する。
【0049】
ところで、スイッチング素子がスイッチング動作するとき、電流が急増又は急減することにより、サージ電圧(V=−L×dI/dt)が発生する。複数のスイッチング素子の切替タイミングが近接すると、サージ電圧が重畳して大きくなる「重畳サージ」の現象が発生する。この重畳サージがスイッチング素子の耐圧を超えると、スイッチング素子が破壊されるおそれがある。
【0050】
図3において、インバータ駆動信号Siの立上がりの前後に回避期間δを含む期間を、一点鎖線の枠で示す「(昇圧コンバータ)切替禁止期間Pp」とする。また、駆動信号の複数回の切替タイミングのうち、切替禁止期間Pp内に入ると予測される切替タイミングを「tsw1」とする。
回避期間δは、想定されるサージ電圧の大きさや各スイッチング素子の特性ばらつきを考慮し、サージ電圧が各スイッチング素子に影響を及ぼさない程度に減衰する時間を確保するように設定される。そして、昇圧コンバータの切替タイミングが切替禁止期間Pp内に入ると予測される場合、予め切替タイミングtsw1を切替禁止期間Ppの外に補正することが求められる。
【0051】
従来、インバータにおいて各相間のスイッチング素子の切替タイミングが重なる場合、いずれかの相の切替タイミングを遅らせることで切替タイミングの重なりを回避する技術(特許第4428386号公報)や、昇圧コンバータとインバータとの間でスイッチング素子の切替タイミングが重なる場合、インバータの切替タイミングを遅らせることで切替タイミングの重なりを回避する技術(特許文献1:特開2011−160570号公報)が知られている。
【0052】
これらの従来技術の思想を引き継ぎ、第1〜第5実施形態のスイッチング制御装置50の切替禁止期間算出手段52は、インバータ30を構成するいずれかの相のスイッチング素子対の切替タイミングに先立ち、当該切替タイミングに同期した所定期間にわたって昇圧コンバータ20のスイッチング素子23、24の切替を禁止する「切替禁止期間Pp」を算出する。例えば、インバータキャリアCiの谷のタイミングti0に次回のINV−dutyが制御演算されると、次の山のタイミングti1以前の制御演算の完了時ti
*から、確定したINV−dutyに基づいて切替禁止期間Ppを算出する。
【0053】
また、昇圧コンバータ切替補正手段53は、昇圧コンバータ20の切替タイミングが切替禁止期間Pp内に入ると予測される場合、昇圧コンバータ20の切替タイミングを「第1の補正対象の切替タイミングtsw1」とし、補正処理を実行する。
例えば、コンバータキャリアCcの谷のタイミングtc0に昇圧コンバータ20の制御演算がされると、制御演算の完了時tc
*において、次回の切替タイミングが切替禁止期間Pp内に入るか否か判断し、切替タイミングが切替禁止期間Pp内に入ると予測される場合、補正処理を実行する。
【0054】
補足すると、
図2の右側に示すように、昇圧コンバータ切替補正手段53は、切替禁止期間算出手段52からの切替禁止期間Ppの他、指令電圧VHcom、出力電圧VH、リアクトル電流IL等の各種情報が入力され、昇圧コンバータ制御回路51から出力されたduty(補正前)を補正する。
【0055】
昇圧コンバータ切替補正手段53から昇圧コンバータ駆動回路54に対しては、duty(補正後)が出力される。duty(補正後)は、duty(補正前)と同値の場合もあり、増加又は減少させたduty_A、duty_B(
図4参照)とする場合もある。なお、括弧で示した「キャリア周期変更」については、その他の実施形態として述べる。
昇圧コンバータ駆動回路54は、duty(補正後)とキャリアCcとを比較し、駆動信号Sc(ScA、ScB)を昇圧駆動部22に出力する。
【0056】
ここで、dutyの補正による昇圧コンバータの切替タイミングの補正について、
図4を参照する。
図4は、
図3において昇圧コンバータ20のキャリアCc及び駆動信号Scに着目した図である。
図4の補正処理開始タイミングtc
*にて、次回の駆動信号Scの立上がりタイミングは、切替禁止期間Ppに入ると予測され、第1の補正対象の切替タイミングtsw1とされる。
【0057】
そして、従来技術と同様に補正前のdutyを減少させてduty_Bに変更することで、切替タイミングtsw1を切替禁止期間Ppの後のタイミングtsw1’に遅らせることができる。また、従来技術とは逆に、補正前のdutyを増加させてduty_Aに変更することで、切替タイミングtsw1を切替禁止期間Ppの前のタイミングに早めることもできる。一方、第1の補正対象の切替タイミングtsw1が立下がりタイミングである場合には、切替タイミングtsw1を遅らせるときdutyを増加させ、切替タイミングtsw1を早めるときdutyを減少させる。
【0058】
以下、切替タイミングを早めるように補正された駆動信号をScA、切替タイミングを遅らせるように補正された駆動信号をScBと表す。また、補正量をタイミングで表す場合、補正対象の切替タイミングを早める方向の補正量を例えば「−Δ1」というように負の値で表し、遅らせる方向の補正量を例えば「+Δ1」というように正の値で表す。
【0059】
このように、第1〜第5実施形態のスイッチング制御装置50は、切替タイミングtsw1を遅らせる方向のみでなく、早める方向にも補正することができるという点で従来技術と異なる。しかし、さらに大きな違いは以下の点にある。
特許文献1の従来技術では、重畳サージを回避するために第1の補正対象の切替タイミングtsw1を補正することにより、補正前後の期間を通じて、平均dutyや昇圧電圧が不連続に変化する等の出力変動が発生する場合がある。その結果、負荷であるモータジェネレータ40の駆動が不安定になり、ドライバビリティの低下を招くおそれがある。
【0060】
それに対し、本発明の第1〜第5実施形態のスイッチング制御装置50の昇圧コンバータ切替補正手段53は、第1の補正対象の切替タイミングtsw1を補正して重畳サージを回避したとき、それだけで終わるのでなく、第1の補正対象の切替タイミングtsw1についての補正量を補償するように、次の切替タイミングを「第2の補正対象の切替タイミング(tsw2)」として補正する。場合によっては、その次の切替タイミングを「第3の補正対象の切替タイミング(tsw3)」としてさらに補正する。つまり、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正(適宜、「第1の補正」と省略する)によって生じる出力変動を打ち消し、制御を安定させるために、「補正後の後処理」を実行することを特徴とする。
したがって、各実施形態の「切替タイミング補正処理」は、少なくとも二段階の補正を含む。以下、切替タイミング補正処理の具体的な構成について、実施形態毎に説明する。
【0061】
(第1実施形態)
次に、第1実施形態の切替タイミング補正処理について、
図5の詳細ブロック図、
図6のタイムチャート、及び、
図7のフローチャートを参照して説明する。
図5に示すように、昇圧コンバータ切替補正手段53は、前回値参照部530及びSW(スイッチング)補正部535を含む。
図5における「補正量」は、dutyについての補正量を意味する。
【0062】
前回値参照部530は、昇圧コンバータ制御回路51で演算されたduty(補正前)が入力され、減算器532にて前回補正量を減算した値を、duty_tmpとして出力する。「前回補正量」は、減算器533にて算出された「今回補正量」が遅延素子531を通して入力される。
SW補正部535は、前回値参照部530が出力したduty_tmp、及び、切替禁止期間算出手段52が算出した切替禁止期間Ppが入力され、補正対象の切替タイミングを所望のタイミングに補正すべくduty(補正後)を出力する。duty_tmp及びduty(補正後)は、減算器533にフィードバックされ、その差分が「今回補正量」として算出される。
【0063】
図6には、上から順に、補正前、演算Iによる補正後、及び、演算IIによる補正後のコンバータキャリアCcに対するduty、及び、そのdutyによって生成された駆動信号Sc、ScB、ScB’を示す。
以下、「演算I」は、第1の補正対象の切替タイミングtsw1についての補正演算をいう。演算Iは、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の直前のコンバータキャリアCcの谷のタイミングtc1の前の演算開始タイミングtc
*Iに実行される。
また、「演算II」は、第2の補正対象の切替タイミングtsw2についての補正演算をいう。演算IIは、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の直後、且つ、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の直前のコンバータキャリアCcの山のタイミングtc2の前の演算開始タイミングtc
*IIに実行される。
【0064】
ここで、第1実施形態では、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正によって処理を終了し、次の切替タイミングtsw3の補正を要しない。そのため、「tsw3」は「補正対象の切替タイミング」ではないため、「t3」と記してもよい。ただし、後述する第2実施形態等との関連のため、括弧を付けて(tsw3)と記す。
なお、第2実施形態等では、第3の補正対象の切替タイミングtsw3についての補正演算を「演算III」といい、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の直後のコンバータキャリアCcの谷のタイミングtc3の前の演算開始タイミングtc
*III(
図6では括弧で示す)に実行される。
【0065】
図6の例では、補正前のdutyが0.5(=50%)である。つまり、高電位側スイッチング素子23のオンデューティ、オフデューティともに0.5である。駆動信号Scのオン期間及びオフ期間に対応して記載した数字「0.5」は、このオンデューティ及びオフデューティである。
また、第1の補正対象の切替タイミングの前の切替タイミングをt0、切替タイミングt0から4回後の切替タイミングをt4とし、t0からt4までのコンバータキャリア2周期(2T)におけるオンデューティの平均を「平均duty」という。補正前では、平均dutyは当然に「0.5」である。
【0066】
まず、演算開始タイミングtc
*Iにて、インバータ制御回路61の出力から切替禁止期間算出手段52が算出した切替禁止期間Ppの情報に基づき、第1の補正対象の切替タイミングtsw1が切替禁止期間Ppに入ると予想される。そのため、演算Iでは、重畳サージを回避すべく、補正前のdutyをduty_Bに0.1増加させた駆動信号ScBを生成することで、第1の補正対象の切替タイミングtsw1(この例では立下がりタイミング)を切替禁止期間Ppの後の切替タイミングtsw1’に補正する。
【0067】
これにより、補正後の切替タイミングtsw1’の直前のオンデューティは0.1増加して0.6となり、直後のオフデューティは0.4となる。したがって、平均dutyは、(0.6+0.5)/2=0.55となる。このことは、第1の補正対象の切替タイミングの補正によって、一時的に、昇圧コンバータ20の出力電圧VHが要求より大きくなる出力変動が生じることを意味する。
【0068】
次に、演算IIでは、第2の補正対象の切替タイミングtsw2について、演算Iでの「オンデューティ=+0.1」という補正を補償するための補正を行う。そのためには、次のオン期間でのオンデューティを0.1減少させればよい。この例では第2の補正対象の切替タイミングtsw2は立上がりタイミングであるので、演算IIにおいてdutyをduty_B’に0.1減少させた駆動信号ScBを生成することで、第2の補正対象の切替タイミングtsw2を切替タイミングtsw2’に補正する(白抜き矢印)。
【0069】
その結果、補正後の平均dutyは、(0.6+0.4)/2=0.5となり、補正前の平均dutyと一致する。このように第1実施形態では、補正後の平均dutyを補正前の平均dutyと一致させるという視点から、第2の補正対象の切替タイミングtsw2を補正することを特徴とする。この「補正後の平均dutyを補正前の平均dutyと一致させる」ことを、簡単に「平均dutyを一定とする」ともいう。
【0070】
ここで、昇圧コンバータ20のリアクトル21に流れるリアクトル電流ILの変化に注目する。リアクトル電流ILは、昇圧コンバータ20内に設けた電流センサにより検出してもよく、或いは、式(1)により推定してもよい。
【数1】
【0071】
式(1)の記号及び単位([ ]に示す)は、以下の通りである。
IL_est[A]:リアクトル電流(推定値)
Nm[1/s] :モータジェネレータ4の回転数
trq[V・A・s]:モータジェネレータ4のトルク
L[V・s/A] :リアクトル21のインダクタンス
Toff[s]:高電位側スイッチング素子23のオフ時間(=低電位側スイッチング素子24のオン時間)
【0072】
リアクトル電流ILは、モータジェネレータ4の力行動作時にはバッテリ15側からインバータ30側に流れ、符号は正となる。一方、リアクトル電流ILは、モータジェネレータ4の回生動作時にはインバータ30側からバッテリ15側に流れ、符号は負となる。ここでは、基本的に力行動作時を前提として、リアクトル電流ILは正であることを想定する。
【0073】
駆動信号Scがオフ、すなわち高電位側スイッチング素子23がオンのとき、リアクトル電流ILは減少し、駆動信号Scがオフ、すなわち低電位側スイッチング素子24がオンのとき、リアクトル電流ILは増加する。したがって、駆動信号Scがオフからオンに転換する立上がり時のリアクトル電流ILは極大値IL−Hとなり、駆動信号Scがオンからオフに転換する立下がり時のリアクトル電流ILは極小値IL−Lとなる。また、昇圧コンバータ20の入力電圧VL、出力電圧VHが一定であれば、リアクトル電流ILの減少、増加の傾きは一定である(後述の第5実施形態の説明参照)。
【0074】
演算Iで第1の補正対象の切替タイミングtsw1に対し「duty+0.1」の補正をすると、補正後の切替タイミングtsw1’におけるリアクトル電流(実線)の極小値IL−Lは、補正前(二点鎖線)に比べて低下する。しかし、演算IIで切替タイミングtsw2に対し「duty−0.1」の補正をすることで、補正後のリアクトル電流ILは、補正前のリアクトル電流ILのラインに戻る。このことを「補正前後のリアクトル電流が一致する」という。つまり、「平均dutyを一定とする」ことは、「補正前後のリアクトル電流を一致させる」ことに対応する。
【0075】
続いて
図7のフローチャートを参照する。以下のフローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。「補正量演算」処理の全体が、後述する
図10、
図13のS10として引用される。また、以下の説明で、[ ]に
図6のdutyの数値例を記載する。
S11では、遅延素子531にて、前回の演算Iでの「今回補正量」[0.6−0.5=+0.1]を、演算IIでの「前回補正量」[+0.1]に変更する。
S12では、減算器532にて、duty(補正前)から前回補正量を減算してduty_tmp[0.5−0.1=0.4]を算出する。
【0076】
S13では、SW補正部535にて、duty_tmp及び切替禁止期間Ppに基づきduty(補正後)[0.4]を算出する。ここで、第1実施形態の演算IIでは、演算Iによる補正後の第2の補正対象の切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp内に入らないことを前提とする。一方、補正後の第2の補正対象の切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp内に入る場合の処理は、次の第2実施形態で説明する。
【0077】
S13ではまた、減算器533にて、duty(補正後)からduty_tmpを減算して「今回補正量」[0.4−0.4=0]とする。ここで、「今回補正量」は、duty_tmpに対するduty(補正後)の相対的な補正量を意味することに注意する。
duty(補正後)がduty_tmpに等しい場合は、「今回補正量」は0となる。すなわち、今回の演算IIで演算Iの補償を終了し、次回(演算III)への持ち越しが無いことを意味する。
【0078】
以上のように第1実施形態では、第1の補正対象の切替タイミングtsw1を補正して重畳サージを回避したとき、特許文献1の従来技術のようにそれだけで終わるのでなく、平均dutyを一定とするように第2の補正対象の切替タイミングtsw2を補正する。
したがって、第1の補正によって生じる出力変動を打ち消し、昇圧制御を安定させることができる。
【0079】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による切替タイミング補正処理について、
図8のタイムチャートを参照して説明する。第2実施形態では、演算IIにて、演算Iによる補正後の第2の補正対象の切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp内に入ると予測される場合、再補正を行う。第2実施形態以下の「補正量」は、タイミングについての補正量を意味する。
なお、第2実施形態に関するフローチャートは、第3実施形態の
図10の中で示す。
【0080】
図8中の演算開始タイミングtc
*Iにおける演算Iでは、第1の補正対象の切替タイミングtsw1を切替禁止期間Pp1の後の切替タイミングtsw1’に補正量+Δ1だけ補正する。この演算Iの補正に応じて、第2の補正対象の切替タイミングtsw2は、破線矢印で示すように、補正量+Δ1だけ遅らせた切替タイミングtsw2’に補正される予定となる。
しかし、演算開始タイミングtc
*IIにおいて切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp2内に入ると予測されるため、演算IIでは、切替タイミングtsw2’を切替禁止期間Pp2の前のタイミングtsw2' 'に補正量−Δ2だけ再補正する。再補正された切替タイミングtsw2' 'は、補正前の第2の補正対象の切替タイミングtsw2に対して、(+Δ1−Δ2)のタイミングとなる。
【0081】
この段階では、t0〜t4の期間における平均dutyは一定とならず、リアクトル電流ILは一致しない。そこで、演算開始タイミングtc
*IIIにおける演算IIIで、第3の補正対象の切替タイミングtsw3をさらに補正する。この場合、演算IIIにて第3の補正対象の切替タイミングtsw3を−Δ2だけ補正することで、平均dutyを一定とし、また、補正前後のリアクトル電流ILを一致させることができる。
【0082】
このように第2実施形態では、演算Iによって予定された第2の補正対象の切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp2内に入ると予測される場合、演算IIにより切替禁止期間Pp2外に再補正することで、重畳サージの発生を回避することができる。
また、第3の補正対象の切替タイミングtsw3まで含めて補正量を補償することで、第1実施形態と同様に、第1の補正によって生じる出力変動を打ち消し、昇圧制御を安定させることができる。
【0083】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による補正方向修正処理について、
図9のタイムチャート、及び、
図10のフローチャートを参照して説明する。
図9の演算IIで、第2の補正対象の切替タイミングtsw2を切替禁止期間Pp2の前のタイミングtsw2' 'とするように補正量−Δ2を「仮算出する」ところまでは第2実施形態の
図8と同様である。
【0084】
さらに第3実施形態では、演算IIにおける「今回の切替タイミング」である第2の補正対象の切替タイミングtsw2(この例では立上がりタイミング)を補正量−Δ2だけ補正すると仮定したときの、「前回の補正後の立下がりタイミングtsw1’から今回の補正後の立上がりタイミングtsw2' 'までの時間T
2-1(この例ではスイッチング素子のオフ時間)」を評価する。
【0085】
この例では、評価対象となるオフ時間T
2-1が所定の時間下限値α未満であるとする。別の例では、評価対象となるオフ時間が所定の時間上限値βを超える場合を想定する。
また別の例では、今回の切替タイミングが立下がりタイミングであり、前回の切替タイミングが立上がりタイミングである場合、前回の補正後の立上がりタイミングから、今回仮算出した補正後の立下がりタイミングまでのスイッチング素子のオン時間を評価対象とする。そして、評価対象となるオン時間が所定の時間下限値α未満の場合、或いは、所定の時間上限値βを超える場合を想定する。
【0086】
高電位側スイッチング素子23のオフ時間が下限値αより短いか、オン時間が上限値βより長い場合、高電位側スイッチング素子23の連続通電時間が許容範囲を超え、過電流により発熱するおそれがある。
逆に、高電位側スイッチング素子23のオフ時間が上限値βより長いか、オン時間が下限値αより短い場合、低電位側スイッチング素子24の連続通電時間が許容範囲を超え、過電流により発熱するおそれがある。
【0087】
そこで、評価対象となるオフ時間又はオン時間が下限値αを下回るか、又は上限値βを上回るとき、仮算出した補正量の方向とは反対方向に補正量を修正する。この例では、演算Iによる補正後の切替タイミングtsw2’に対し、仮算出した「早める方向」の補正量−Δ2を、反対方向である「遅らせる方向」の補正量+Δ2に修正する。補正前の第2の補正対象の切替タイミングtsw2を基準とすれば、補正量(+Δ1+Δ2)だけ補正することになり、この再々補正後の切替タイミングをtsw2' ' 'と表す。
【0088】
この場合、再々補正後の切替タイミングtsw2' ' 'は、当然に切替禁止期間Pp2外になければならない。また、再々補正後の切替タイミングtsw2' ' 'に対する評価対象のオフ時間は、「下限値α以上、上限値β以下」の範囲に含まれていなければならない。
こうして第2の補正対象の切替タイミングtsw2が再々補正後の切替タイミングtsw2' ' 'に補正されると、演算IIIでは、第2実施形態と同様に、t0〜t4の期間における平均dutyを一定とするように、第3の補正対象の切替タイミングtsw3を補正量+Δ2だけ遅らせた切替タイミングtsw3' 'に補正する。
【0089】
図10のフローチャートは、第2の補正対象の切替タイミングtsw2に係る演算IIを「今回」として、補正方向修正処理を説明するものである。
S10(
図7で定義済み)では、前回、すなわち第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量を補償するように、今回、すなわち第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正量を演算する。
【0090】
S21、S22は、上述の第2実施形態における演算IIと共通のステップである。
S21では、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量に応じて補正した第2の補正対象の切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp2内に入るか否か判定する。切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp2内に入ると予測される場合(S21:YES)、S22にて切替タイミングtsw2’を切替禁止期間Pp2外の切替タイミングtsw2''に再補正した後、S31に進む。切替タイミングtsw2’が切替禁止期間Pp2内に入らない場合、(S21:NO)、ルーチンを終了する。
【0091】
S31では、評価対象とするスイッチング素子のオン時間又はオフ時間を、時間下限値α及び時間上限値βと比較する。評価対象とするオン時間又はオフ時間が時間下限値αを下回るか、又は、時間上限値βを上回るとき(S31:YES)、仮算出した補正量の方向とは反対方向に補正量を修正する。
一方、S31にて、評価対象とするオン時間又はオフ時間が時間下限値α以上、時間上限値β以下の範囲にあるとき(S31:NO)、仮算出した補正量を確定する。
【0092】
S32後、次回の演算IIIに相当するS40では、S10の処理に準じ、第1、第2の補正対象の切替タイミングtsw1、tsw2の累積補正量を補償し、平均dutyを一定とするように、第3の補正対象の切替タイミングtsw3を補正する。
このように第3実施形態では、過電流によるスイッチング素子23、24の発熱を防止しつつ、第1の補正によって生じる出力変動を打ち消し、昇圧制御を安定させることができる。
【0093】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による補正量リセット処理について、
図11、
図12のタイムチャート、及び、
図13のフローチャートを参照して説明する。
図11の演算IIで、第2の補正対象の切替タイミングtsw2を補正量−Δ2だけ補正し、さらに、演算IIIで、平均dutyを一定とするように第3の補正対象の切替タイミングtsw3についての補正量−Δ2を「仮算出する」ところまでは第2実施形態の
図8と同様である。
【0094】
さらに第4実施形態では、演算IIIにて仮算出された第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量の値を評価する。第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量が「早める方向」の負の値である場合、補正量下限値Δaと比較し、「遅らせる方向」の正の値である場合、補正量上限値Δbと比較する。そして、負の補正量が補正量下限値Δaより小さいとき、又は、正の補正量が補正量上限値Δbより大きいとき、第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量を0に設定することを特徴とする。
【0095】
第1、第2の補正対象の切替タイミングtsw1、tsw2だけでなく、第3の補正対象の切替タイミングtsw3まで補正する場合、前々回、前回の補正量が累積して反映される補正量の絶対値が想定外に大きくなる可能性がある。このような場合、第4実施形態では、補正量を一旦0にリセットする方が好ましいと判断する。
図11の例では、演算IIIで仮算出された第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量(−Δ2)が補正量下限値Δaよりも小さいため、補正量を0に設定している。
【0096】
補正量下限値Δa及び補正量上限値Δbの設定について、
図12を参照して説明する。
昇圧コンバータ20のPWM制御におけるdutyの上下限値は、回路定数や昇圧比等に応じて、昇圧制御が成立する値を算出することができる。
図12(a)に示すように、duty上限値とduty(補正前)との差に応じて、コンバータキャリアCcの山のタイミングの前では、立下がりタイミングtsw_dnを最も遅らせることができる補正量上限値Δbが決まり、山のタイミングの後では、立上がりタイミングtsw_upを最も早めることができる補正量下限値Δaが決まる。
同様に
図12(b)に示すように、duty(補正前)とduty下限値との差に応じて、コンバータキャリアCcの谷のタイミングの前では、立上がりタイミングtsw_upを最も遅らせることができる補正量上限値Δbが決まり、谷のタイミングの後では、立下がりタイミングtsw_dnを最も早めることができる補正量下限値Δaが決まる。
【0097】
図13のフローチャートは、第2の補正対象の切替タイミングtsw2に係る演算IIを「前回」、第3の補正対象の切替タイミングtsw3に係る演算IIIを「今回」として、補正量リセット処理を説明するものである。
S10(演算II)では、前々回、すなわち第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量を補償するように、前回、すなわち第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正量を演算する。
【0098】
S21、S22は、
図10と実質的に同一である。S21でYESの場合、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正によって、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量を完全に補償することができないため、演算IIIにて第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量を演算する要求が発生する。S21でNOの場合、ルーチンを終了する。
【0099】
S40(演算III仮)では、前々回及び前回の補正量を補償するように、今回、すなわち第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量を仮算出する。
S41では、仮算出した負の補正量が補正量下限値Δaより小さいか、又は、仮算出した正の補正量が補正量上限値Δbより大きいか判定する。
S41でYESのとき、S42にて補正量を0に設定(リセット)する。一方、S41でNOのとき、その補正量が確定され、第3の補正対象の切替タイミングtsw3が補正される。
【0100】
このように第4実施形態では、第3の補正対象の切替タイミングtsw3の補正量を、正常な昇圧制御が可能な範囲の値に制限するため、制御の暴走を防止しつつ、第1の補正によって生じる出力変動を打ち消し、昇圧制御を安定させることができる。
【0101】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態による切替タイミング補正処理について、
図14のタイムチャートを参照して説明する。上記第1〜第4実施形態の切替タイミング補正処理がいずれも、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正によって生じたdutyの変化を補償し「平均dutyを一定にする」という基本思想に立脚しているのに対し、この第5実施形態は、「昇圧後の出力電圧VHを一定にする」という思想に基づくものである。
【0102】
第5実施形態では、演算開始タイミングtc
*Iにて、「切替禁止期間Ppに入ると予想される第1の補正対象の切替タイミングtsw1」を、切替禁止期間Ppの後の切替タイミングtsw1’に補正する。そして、その後の演算開始タイミングtc
*IIにて、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の次の「第2の補正対象の切替タイミングtsw2」、及び、その次の「第3の補正対象の切替タイミングtsw3」を、それぞれ、以下に説明する演算により、補正後の切替タイミングtsw2’、tsw3’に補正する。
【0103】
ここで、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の一回前の切替タイミングを「基準時t0」とする。また、基準時t0から補正後の切替タイミングtsw1’、tsw2’、tsw3’までの時間を、それぞれ、補正後第1時間τ1、補正後第2時間τ2、補正後第3時間τ3とする。そして、基準時t0から4回後の切替タイミングt4までのキャリア周期2周期(2T)の期間におけるリアクトル電流IL及び出力電圧VHの変化に注目して、補正後第2時間τ2及び補正後第3時間τ3を算出することにより、第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2’、tsw3’を決定する。
【0104】
また、基準時t0、補正後の切替タイミングtsw1’、tsw2’、tsw3’におけるリアクトル電流ILを、それぞれ、I0、I1、I2、I3とする。さらに、便宜上、基準時t0からの時間が0〜τ1の期間を「第1ターム」、τ1〜τ2の期間を「第2ターム」、τ2〜τ3の期間を「第3ターム」、τ3〜2Tの期間を「第4ターム」という。
【0105】
補正後の駆動信号ScBがオン、すなわち高電位側スイッチング素子23がオンである第1ターム及び第3タームでは、リアクトル電流ILは、I0からI1、及び、I2からI3に減少する。また、駆動信号ScBがオフ、すなわち低電位側スイッチング素子24がオンである第2ターム及び第4タームでは、リアクトル電流ILは、I1からI2、及び、I3からI4に増加する。したがって、駆動信号ScBがオフからオンに転換する立上がり時のリアクトル電流I0、I2は極大値となり、駆動信号ScBがオンからオフに転換する立下がり時のリアクトル電流I1、I3は極小値となる。
【0106】
昇圧コンバータ20の入力電圧VL、出力電圧VH、及び、リアクトル21のインダクタンスLを用いて、リアクトル電流ILの減少時の傾き(<0)は式(2.1)で、増加時の傾き(>0)は式(2.2)で、表される。
リアクトル電流IL減少時の傾き=(VL−VH)/L ・・・(2.1)
リアクトル電流IL増加時の傾き=VL/L ・・・(2.2)
【0107】
また、平滑コンデンサ25のキャパシタンスをC、モータジェネレータ4に流れる負荷電流をImとすると、駆動信号ScBがオンである第1ターム及び第3タームの出力電圧VHは、式(3.1)で、第2ターム及び第4タームの出力電圧VHは、式(3.2)で表される。
【数2】
【0108】
負荷電流Imを一定とし、係数(1/C)を1とすると、第1ターム及び第3タームの出力電圧VHは、破線ハッチングで図示した台形の正の面積S1、S3に相当し、第2ターム及び第4タームの出力電圧VHは、同様に図示した長方形の負の面積−S2、−S4に相当する。第5実施形態は、第1ターム及び第3タームの面積の和(S1+S3)が、第2ターム及び第4タームの面積の絶対値の和(S2+S4)に等しくなるように各切替タイミングの補正量を設定し、出力電圧VHを一定にすることを目的とする。
【0109】
以下、出力電圧VHを一定にするための演算の詳細について説明する。
図14に示す演算開始タイミングtc
*IIにおいて、コンバータキャリアCcのキャリア周期T、リアクトル21のインダクタンスL、昇圧コンバータ20の入力電圧VL、出力電圧VH、負荷電流Im、リアクトル電流I0、I1、及び、補正後第1時間τ1は、定数又は既知の変数として扱う。
【0110】
ここで、入力電圧VL、出力電圧VH、負荷電流Im等は、長いスパンでは当然に変化する。しかし、本演算前後の短期間では定数であるとみなし、例えば、演算開始タイミングtc
*II以前のある時点での瞬時値を採用してもよいし、過去の所定期間の平均値を採用してもよい。また、リアクトル電流I1及び補正後第1時間τ1は、直前の演算開始タイミングtc
*Iでの演算によって決定されている。
一方、演算開始タイミングtc
*IIにおいて、未来の切替タイミングtsw2’、tsw3’におけるリアクトル電流I2、I3、補正後第2時間τ2、及び補正後第3時間τ3は未知の値である。
【0111】
上述のとおり、(S1+S3)=(S2+S4)より式(4.1)を設定する。以下の式(4.1)〜(4.10)では、I0〜I4、τ1〜τ3の「0」〜「4」の数字を下付き文字で記載する。
【数3】
【0112】
次に、各タームにおける終了時間と開始時間との差に対するリアクトル電流ILの傾きを式に表す。第4タームでは、「I4=I0」の関係から、式(4.2)が得られる。
【数4】
【0113】
また、第2ターム、第3タームについて、式(4.3)、(4.4)が得られる。
【数5】
【0114】
式(4.1)を整理すると、式(4.5)となる。
【数6】
【0115】
式(4.2)及び式(4.3)の両辺を足し合わせると、式(4.6)が導かれる。
【数7】
【0116】
式(4.2)、式(4.3)、式(4.4)より、未知のリアクトル電流I2、I3を消去すると、式(4.7)が導かれる。ここで、式(4.7)の右辺を「K」とし、簡単な式(4.8)に書き換える。Kは、既知の値のみで算出される定数である。
【数8】
【0117】
式(4.5)に式(4.6)、式(4.8)を代入し、補正後第2時間τ2を消去すると、式(4.9)が導かれる。
【数9】
【0118】
式(4.9)を補正後第3時間τ3について整理すると、式(4.10)が得られる。
【数10】
【0119】
式(4.10)によると、既知の値のみを用いて補正後第3時間τ3を算出することができる。補正後第3時間τ3が算出できれば、式(4.8)を用いて補正後第2時間τ2を算出することができ、第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2’、tsw3’を決定することができる。
【0120】
以上のように、第5実施形態は、上述の第1〜第4実施形態に対し、「第1の補正対象の切替タイミングtsw1を切替禁止期間Pp外に移動する補正によって生じた変動を、その後の第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2、tsw3の補正によって補償する」という点で、本発明の技術的特徴を共通に有する。それにより、直流電圧変換器及び電力変換器における重畳サージの発生を回避しつつ、補正によって生じる出力変動を打ち消し、制御を安定させることができる。
【0121】
一方、上述の第1〜第4実施形態では、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正によって生じた変動を「平均dutyを一定とする」という思想で補償するのに対し、第5実施形態では、「出力電圧VHを一定とする」という思想で補償する点が異なる。
【0122】
また、補正演算のタイミングに関し、上述の第1〜第4実施形態では、各補正対象の切替タイミングの直前の演算開始タイミングにおいて、前回、又は、前々回及び前回の補正量を参照して今回の補正量を決定するのに対し、第5実施形態では、演算開始タイミングtc
*IIにおいて、次回及び次々回に相当する第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2’、tsw3’を同時に演算する点が異なる。いわば、「過去に遡る補正」と「未来を予定する補正」との違いである。ただし、明細書の最後の「その他の実施形態」でも述べるように、平均dutyを一定とするように補正する実施形態においても、「未来を予定する補正」を行うようにしてもよい。
【0123】
<インバータの切替タイミングを補正する形態>
次に、インバータ30の切替タイミングを補正する第6実施形態について、
図15の全体構成図、及び、
図16のタイムチャートを参照して説明する。
図15に示すスイッチング制御装置60は、
図1の昇圧コンバータ切替補正手段53に代えて、「電力変換器切替補正手段」としてのインバータ切替補正手段63を有しており、昇圧コンバータに関する制御ブロックとインバータに関する制御ブロックとの構成が
図1の構成と逆になっている。
【0124】
切替禁止期間算出手段62は、
図3に示される切替禁止期間Ppを算出する点で、
図1の切替禁止期間算出手段52と同じ機能を有する。しかし、切替禁止期間Ppの情報を送る先がインバータ切替補正手段63である点が異なるため、切替禁止期間算出手段52とは異なる符号「62」を付している。
【0125】
図16のタイムチャートは、
図4に対応し、インバータ30の切替タイミングの補正処理を示すものである。三相交流インバータを想定すると、
図15のタイムチャートは、U相、V相、W相のいずれにも共通に対応する。
dutyがキャリアCiを上回るとき、インバータ駆動信号Siはオン状態となり、dutyがキャリアCiを下回るとき、インバータ駆動信号Siはオフ状態となる。
【0126】
切替禁止期間算出手段62は、昇圧コンバータ20のスイッチング素子23、24の切替タイミングに先立ち、当該切替タイミングに同期した所定期間にわたってインバータ30のスイッチング素子31〜36の切替を禁止する「インバータ切替禁止期間Pp」を算出する。
【0127】
インバータ切替補正手段63は、いずれか1相以上の切替タイミングが切替禁止期間Pp内に入ると予測される場合、その相の切替タイミングを「第1の補正対象の切替タイミングtsw1」とする。以後、その相について、上述の実施形態による昇圧コンバータの切替タイミングの補正と同様に、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正によって生じる出力変動を、その後の第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2、tsw3の補正によって補償する。
【0128】
これにより、インバータ30についても、第1の補正対象の切替タイミング補正によって重畳サージの発生を回避しつつ、第1の補正によって生じる出力変動を打ち消し、モータジェネレータ4の通電制御を安定させることができる。
【0129】
(その他の実施形態)
(ア)本発明の「直流電圧変換器」は、入力電圧を昇圧する昇圧コンバータに限らず、入力電圧を降圧する降圧コンバータでもよい。また、昇降圧コンバータは、上下アームのスイッチング素子対を含むものに限らず、少なくとも一つのスイッチング素子を含むものであればよい。
昇圧コンバータにおいて指令電圧VHcomを算出する方法として、指令電圧生成部で指令トルクtrq
*及び電気角速度ωに基づいて算出する方法(
図2参照)以外の方法を用いてもよい。例えば、「インバータ制御でのdq軸電圧Vd、Vqから指令電圧VHcomを算出する」、「車両の状態(例えばエンジン始動時)に応じて上位ECUから指令電圧VHcomを指令する」、公知技術の転用等が考えられる。
【0130】
(イ)本発明の「電力変換器」は、直流電力を交流電力に変換するインバータに限らず、直流電力を直流電力に変換し、例えば直流電動機を駆動するHブリッジ回路でもよい。また、インバータの場合、交流電力の相数は、三相に限らず四相以上でもよい。さらに、電力変換器は1つに限らず、複数の電力変換器を有する構成としてもよい。
【0131】
(ウ)上記実施形態では、昇圧コンバータ制御回路51及びインバータ制御回路61は昇圧コンバータ20の制御量、及びインバータ30の制御量として、スイッチング素子のdutyを演算する。昇圧コンバータ駆動回路54及びインバータ駆動回路64は、dutyとキャリアとの比較に基づいてPWM信号を生成し、PWM制御による駆動を行う。
しかし、スイッチング素子の駆動信号を生成する方法はこれに限らない。何らかの方法でオンオフの切替タイミングを制御可能なスイッチング制御装置であれば、本発明による切替タイミング補正処理を適用することができる。
また、キャリアを用いる実施形態において、キャリアは三角波でなく鋸波でもよい。
【0132】
(エ)本発明において、第2の補正対象の切替タイミングtsw2に対する補正の演算時期の構成は、次のいずれとしてもよい。
[1]第2の補正対象の切替タイミングtsw2を「今回」の補正対象の切替タイミングとして、その直前に補正量を決定する構成であり、前回の切替タイミングである第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量を参照して、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正量を決定する。上記第1〜第4実施形態に相当する。第3の補正対象の切替タイミングtsw3に対する補正の演算時期についても同様に考えることができる。
【0133】
[2]第1の補正対象の切替タイミングtsw1を「今回」の補正対象の切替タイミングとして、第1の補正対象の切替タイミングtsw1を切替禁止期間Pp外に補正すると同時に、第1の補正対象の切替タイミングtsw1の補正量を反映して、次回の切替タイミングである第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正量を決定する。
第1〜第4実施形態の変形例として、次回のdutyを予め推定演算して切替禁止期間Ppを算出すれば、第1の補正対象の切替タイミングtsw1を補正する時点で、第2の補正対象の切替タイミングtsw2の補正演算を同時に実施することも可能である。
なお、上記第5実施形態では、演算開始タイミングtc
*IIにおいて、第2、第3の補正対象の切替タイミングtsw2、tsw3に対する補正を同時に演算する。
【0134】
(オ)PWM制御を行う構成において切替タイミングを補正する方法として、上記実施形態では基本的にdutyを変更する方法を説明した。しかし、第5実施形態以外では、
図2にも括弧内に記載したように、キャリア周期(周波数)を変更することで切替タイミングを補正してもよい。
さらに、切替タイミングは、時間軸上で定義する方法の他、モータジェネレータ4の電気角で定義してもよい。
【0135】
(カ)「電力変換器」が出力する電力によって駆動される「負荷」はモータジェネレータ等の回転機に限らず、放電管やX線発生装置等の高電圧を用いる装置であってもよい。
(キ)負荷としての回転機等は、ハイブリッド自動車や電気自動車の動力源として用いられるものに限らず、車両の補機用や、車両以外の電車、昇降機、一般機械等に用いられるものであってもよい。少なくともサージ電圧の重畳が問題となる可能性があるシステムに対し、本発明のスイッチング制御装置は有効に適用される。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。