(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転電機(5)の通電の切り替えに係るスイッチング素子(31〜36)を有する回路部(10)の温度である回路部温度を取得する温度取得手段(S105、S201)と、
前記回路部温度に基づき、前記回路部の劣化状態を判定する劣化状態判定手段(S108)と、
前記劣化状態および前記回路部温度に基づき、前記回転電機から出力されるトルクを制限するトルク制限手段(S205、S206)と、
前記回転電機から出力されるトルクが劣化判定トルクより大きくなったときの前記回路部温度の基準温度からの上昇値を演算する上昇値演算手段(S106)と、
前記上昇値が該当する上昇温度範囲の発生回数を更新することで、上昇温度頻度分布を更新する更新手段(S107)と、
を備え、
前記上昇温度範囲が複数設定され、それぞれの前記温度上昇範囲について、カウンタが設けられており、
前記更新手段は、前記上昇値が含まれる前記上昇温度範囲のカウンタをカウントアップすることで前記上昇温度頻度分布を更新し、
前記劣化状態判定手段は、前記上昇温度範囲の温度が高いほど小さい値となる劣化判定ラインまたは前記上昇温度範囲毎に設けられる判定閾値と前記上昇温度範囲毎のカウンタ値に基づき、前記劣化状態を判定し、
トルク制限を開始する前記回路部温度である制限開始温度、および、前記回路部温度に応じたトルク制限傾きの少なくとも一方は、前記劣化状態に応じて可変であることを特徴とする制御装置(50)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明による制御装置を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態による制御装置が適用される制御システム1を
図1〜
図8に基づいて説明する。
図1に示すように、制御システム1は、回転電機としてのモータジェネレータ(以下、「MG」という。)5、回路部10、制御装置としてのMG制御部(図中においては「MG−ECU」と記載する。)50、および、ハイブリッド制御部(図中においては「HV−ECU」と記載する。)55等を備え、図示しない車両に搭載される。本実施形態の車両は、図示しないエンジン、および、MG5の駆動力にて走行するハイブリッド車両である。
【0009】
MG5は、バッテリ8から電力が供給されることによりトルクを発生する電動機としての機能、および、エンジンによる駆動あるいは車両の制動時に駆動されて発電する発電機としての機能を有する。本実施形態のMG5は、永久磁石式同期型の3相交流電動機である。以下、MG5が電動機として機能する場合を中心に説明する。
バッテリ8は、例えばニッケル水素またはリチウムイオン等の充放電可能な二次電池により構成される直流電源である。バッテリ8に替えて、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置を直流電源として用いてもよい。
【0010】
回路部10は、昇圧コンバータ20、および、インバータ部30を有する。
昇圧コンバータ20は、リアクトル21、昇圧駆動部22、および、コンデンサ25等を備える。
リアクトル21は、インダクタンスLを有し、リアクトル電流ILの変化に伴って誘起電圧が発生し、電気エネルギが蓄積される。
昇圧駆動部22は、高電位側スイッチング素子(以下、スイッチング素子を「SW素子」という。)23および低電位側SW素子24を有する。高電位側SW素子23および低電位側SW素子24は、いずれもIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。高電位側SW素子23は、コレクタがインバータ部30の高電位ライン37に接続され、エミッタが低電位側SW素子24のコレクタと接続される。低電位側SW素子24のエミッタは、インバータ部30の低電位ライン38に接続される。高電位側SW素子23と低電位側SW素子24との接続点には、リアクトル21の出力端が接続される。
【0011】
SW素子23、24は、MG制御部50からのコンバータ駆動信号に基づき、交互に、かつ、相補的にオンオフ作動する。高電位側SW素子23がオフ、低電位側SW素子24がオンのとき、リアクトル21にリアクトル電流ILが流れることにより、リアクトル21にエネルギが蓄積される。また、高電位側SW素子23がオン、低電位側SW素子24がオフのとき、リアクトル21に蓄積されたエネルギが放出されることにより、バッテリ入力電圧Vinに誘起電圧が重畳され昇圧された出力電圧がコンデンサ25に充電される。
コンデンサ25は、インバータ部30と並列に接続される。
【0012】
インバータ部30は、パワーカード40(
図2参照)により構成され、ブリッジ接続される6つのSW素子31〜36を有する。SW素子31〜36は、いずれもIGBTである。
高電位側に配置される高電位側SW素子31〜33は、コレクタが高電位ライン37に接続され、エミッタが低電位側に接続される低電位側SW素子34〜36に接続される。低電位側SW素子34〜36のエミッタは、低電位ライン38に接続される。高電位側SW素子31〜33と低電位側SW素子34〜36との接続点は、MG5の各相巻線(U相、V相、W相)の一端に接続される。
【0013】
対になる高電位側SW素子31〜33と低電位側SW素子34〜36とは、MG制御部50からのインバータ駆動信号に基づき、交互に、かつ、相補的にオンオフ作動する。
インバータ部30には、昇圧コンバータ20により昇圧された出力電圧の直流電力が入力され、SW素子31〜36をオンオフ作動することにより直流電力を3相交流電力に変換し、MG5に出力する。
【0014】
図2に示すように、パワーカード40は、SW素子31〜36、パワーカード基板41、放熱板42、および、放熱グリス43を有する。なお、
図2においては、SW素子31を例示し、SW素子32〜36の記載を省略した。
SW素子31は、パワーカード基板41に実装される。また、SW素子31のパワーカード基板41と反対側の面には、放熱板42が設けられる。SW素子31と放熱板42との間には、放熱グリス43が塗布される。これにより、SW素子31の熱は、パワーカード基板41側、および、放熱板42側の両面から放熱される。
また、パワーカード40全体は、図示しない冷却配管内を流通する冷却水により冷却される。
【0015】
図1に示すように、MG制御部50およびハイブリッド制御部55は、CPU、ROM、RAM等よりなりマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種制御プログラムを実行することで各種制御を実施する。
【0016】
MG制御部50は、上位ECUであるハイブリッド制御部55からのMGトルク要求およびSW素子31〜36の温度等に応じたインバータ駆動信号を生成してインバータ部30に出力することで、インバータ部30の駆動を制御する。また、MG制御部50は、コンバータ駆動信号を生成して昇圧コンバータ20に出力することで、昇圧コンバータ20の駆動を制御する。
また、MG制御部50は、図示しない温度センサから、SW素子31〜36の温度を取得する。
ハイブリッド制御部55は、図示しないアクセルセンサ、シフトスイッチ、ブレーキスイッチ、車速センサ等からの信号が入力され、取得されたこれらの信号等に基づき、車両全体を制御する。
【0017】
本実施形態では、MG制御部50は、SW素子31〜36の温度を経時的に計測し、SW素子31〜36の劣化状態を判定する。以下、SW素子31〜36の温度を「素子温度」という。素子温度は、SW素子31〜36の一部または全部の温度そのものであってもよいし、平均値等としてもよい。本実施形態では、素子温度が「回路部温度」に対応する。
【0018】
素子温度に基づく劣化状態判定処理を
図3に示すフローチャートに基づいて説明する。劣化状態判定処理は、制御システム1がレディオン(Ready ON)されているときに、MG制御部50にて所定の間隔で実行される。
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で記す。)では、MGトルクを演算する。MGトルクは、例えば電流センサにより検出される電流検出値に基づいて演算される。
【0019】
S102では、MG5から出力されるMGトルクがゼロか否かを判断する。センサ誤差等を考慮し、MGトルクの絶対値が所定値以下である場合、MGトルクがゼロであるとみなす。MGトルクがゼロでないと判断された場合(S102:NO)、S104へ移行する。MGトルクがゼロであると判断された場合(S102:YES)、S103へ移行する。
【0020】
S103では、素子温度を取得するとともに、取得された素子温度をMGトルクがゼロのときの基準温度TbとしてMG制御部50の図示しない記憶部に格納する。MGトルクがゼロのときの素子温度である基準温度Tbは、所定期間内の全ての値が記憶されるようにしてもよいし、上書きすることで最新の値が記憶されるようにしてもよい。なお、MGトルクがゼロである場合、S104以降の処理は行わない。
【0021】
S104では、MGトルクが劣化判定トルクQdより大きいか否かを判断する。劣化判定トルクQdは、例えばMG5を最大出力で駆動した場合のトルクに近い値に設定される。MGトルクが劣化判定トルクQd以下であると判断された場合(S104:NO)、S105以降の処理を行わない。MGトルクが劣化判定トルクQdより大きいと判断された場合(S104:YES)、S105へ移行する。
【0022】
S105では、素子温度をモニタする。ここでは、MGトルクの変化よりも素子温度の変化が遅れることを考慮し、例えばMGトルクが劣化判定トルクQdに達してから素子温度がピークとなるのに要する期間に応じた所定期間の素子温度をモニタする。
S106では、上昇値ΔTを演算する。上昇値ΔTは、S105で取得された素子温度がピークとなるピーク温度Tmaxから、直前にMGトルクがゼロだったときの基準温度Tbを減じた値とする。
【0023】
詳細には、
図4に示すように、時刻x10から時刻x11にて、MGトルクの上昇に伴い、素子温度が上昇する。時刻x11にて、MGトルクが劣化判定トルクQdに達し、その後ゼロまで低下すると、時刻x11よりやや遅れた時刻x12にて、素子温度がピークに達し、その後低下する。ここで、時刻x11の直前にMGトルクがゼロであった時刻x10における素子温度を基準温度Tb1とし、時刻x12におけるピーク温度Tmax1から基準温度Tb1を減算した値を上昇値ΔT1とする。
【0024】
同様に、MGトルクが劣化判定トルクQdに達した時刻x21後の時刻x22におけるピーク温度Tmax2から時刻x20における基準温度Tb2を減算した値を上昇値ΔT2とする。また、MGトルクが劣化判定トルクQdに達した時刻x31後の時刻x32におけるピーク温度Tmax3から時刻x30における基準温度Tb3を減算した値を上昇値ΔT3とする。
なお、
図4に示す例では、基準温度Tb1、Tb2、Tb3は等しいが、基準温度Tbは、冷却水温度の変化等に伴って変化する。
【0025】
S107では、S106にて演算された上昇値ΔTに基づき、上昇温度頻度分布を更新する。本実施形態では、複数の上昇温度範囲が設定され、それぞれの上昇温度範囲についてカウンタが設けられている。また、S106にて演算された上昇値ΔTが含まれる上昇温度範囲のカウンタをカウントアップし、上昇温度頻度分布を更新する。
【0026】
図5に示すように、本実施形態では、上昇温度範囲が3段階に設定され、第1範囲を50[℃]以上70[℃]未満、第2範囲を70[℃]以上90[℃]未満、第3範囲を90[℃]以上であって、例えば上昇値ΔTが53[℃]とすると、第1範囲に対応するカウンタをカウントアップする、といった具合である。上昇温度範囲の閾値、および、段階数は、適宜設定可能である。
【0027】
なお、上昇値ΔTが正常上限値(例えば50[℃])未満の範囲に対しては、カウンタを設けずカウントしなくてもよいが、
図5中では説明のため、上昇値ΔTが正常上限値未満のカウント値を破線で記載した。上昇値ΔTが正常上限値未満のカウント値は、劣化状態の判定に用いない。また、整備等により、パワーカード40が交換された場合、あるいは、放熱グリス43が再塗布された場合は、上昇温度頻度分布をリセットする。
【0028】
S108では、温度上昇頻度分布、および、劣化判定ラインDa、Dbに基づき、劣化状態を判定する。劣化判定ラインDa、Dbは、
図5に示すように、上昇温度範囲の温度が大きいほど小さい値となるように設定される。
劣化状態は、初期状態を劣化レベルL1、温度上昇頻度分布におけるいずれかの温度範囲におけるカウント値が劣化判定ラインDaを超えたときを劣化レベルL2、劣化判定ラインDbを超えたときを劣化レベルL3とする。本実施形態では、最も熱劣化していない状態を劣化レベルL1とし、次いで劣化レベルL2とし、最も熱劣化している状態を劣化レベルL3とする。ここで、回路部10(本実施形態ではSW素子31〜36)の熱劣化が進んでいるほど「劣化レベルが大きい」とし、熱劣化が進んでいない場合を「劣化レベルが小さい」とする。
【0029】
次に、劣化状態に応じたトルク制限処理を
図6のフローチャートに基づいて説明する。トルク制限処理は、制御システム1がレディオンされているときに、MG制御部50にて、
図3にて説明した劣化状態判定処理とは別途に実行される。
S201では、素子温度を取得する。
【0030】
S202では、素子温度が制限下限値より大きいか否かを判断する。制限下限値は、劣化レベルが最も大きい場合(本実施形態では、劣化レベルL3)に、トルク制限を開始する制限開始温度Ts3(
図7参照)とする。素子温度が制限下限値より大きいと判断された場合(S202:YES)、S204へ移行する。素子温度が制限下限値以下であると判断された場合(S202:NO)、S203へ移行する。
【0031】
S203では、トルク制限係数を1とし、トルク制限を行わないものとする。
S204では、S108で演算された劣化状態を取得する。
S205では、S201で取得された素子温度、および、S204で取得された劣化状態に基づき、トルク制限係数を取得する。
【0032】
トルク制限係数は、
図7に示すように、劣化レベルL1、L2、L3に応じた換算ラインF1、F2、F3を用い、素子温度に基づいて設定される。本実施形態では、劣化レベルL1のとき換算ラインF1、劣化レベルL2のとき換算ラインF2、劣化レベルL3のとき換算ラインF3とする。
【0033】
トルク制限係数を1未満とする制限開始温度は、劣化レベルが大きいほど低く設定される。すなわち、劣化レベルL1のときの制限開始温度をTs1、劣化レベルL2のときの制限開始温度をTs2、劣化レベルL3のときの制限開始温度をTs3とすると、T3<T2<T1である。
また、劣化レベルL1のとき素子温度が出力停止温度Te1以上、劣化レベルL2のとき素子温度が出力停止温度Te2以上、劣化レベルL3のとき素子温度が出力停止温度Te3以上で、トルク制限係数をゼロとし、MG5からの出力を停止する。
制限開始温度Ts1、Ts2、Ts3および出力停止温度Te1、Te2、T3は、適宜設定可能である。
【0034】
また、トルク制限傾きは、劣化レベルが大きいほど大きくなるように設定される。すなわち、劣化レベルL1のときのトルク制限傾きをA1、劣化レベルL2のときのトルク制限傾きをA2、劣化レベルL3のときのトルク制限傾きをA3とすると、A1<A2<A3である。本実施形態におけるトルク制限傾きは、制限開始温度と出力停止温度との間における素子温度とトルク制限係数との関数の傾きの絶対値とする。
【0035】
S203およびS205に続いて移行するS206では、制限後トルクtrq_rを演算する。制限後トルクtrq_rは、ハイブリッド制御部55から取得されるトルク指令値trq
*に制限係数を乗じた値とし、制限後トルクtrq_rに基づいて、MG5の駆動を制御する。
【0036】
ここで、トルク制限処理を、
図8に示すタイムチャーチに基づいて説明する。
図8では、劣化レベルL3のときを実線、劣化レベルL1のときを破線、参考例を一点鎖線で示す。
図8では、フィルタ処理等による遅れ要素の影響を省略して記載している。
図8(a)、(b)、(c)に示すように、制御システム1がレディオンされ、シフトレンジがPレンジからDレンジに切り替わった後の指令トルクtrq
*が一定値Qsである場合を例に説明する。また、劣化レベルL3のときに素子温度が制限開始温度Ts3に達する時刻x1までは、劣化状態によらずトルク制限が行われず、トルク制限係数が1であるので、制限後トルクtrq_rと指令トルクtrq
*とが等しい。
【0037】
劣化レベルL3のとき、SW素子31〜36の熱抵抗が大きく、素子温度が上がりやすいので、劣化レベルL1、L2のときの制限開始温度Ts1、Ts2よりも低い制限開始温度Ts3からトルク制限を行う。
図8の例では、実線で示すように、素子温度が制限開始温度Ts3より大きくなる時刻x1にてトルク制限を開始する。また、素子温度が出力停止温度Te3より高い時刻x2から時刻x4までの期間は、トルク制限係数をゼロとし、制限後トルクtrq_rをゼロとする。トルク制限により素子温度が低下し、制限開始温度Ts3以下となる時刻x5にて、トルク制限係数を1とし、トルク制限を終了する。トルク制限がなされる時刻x1から時刻x5までの期間の制限後トルクtrq_rは、指令トルクtrq
*に素子温度に応じたトルク制限係数が乗じられた値となる。なお、制限後トルクtrq_rは、素子温度に応じて変化するが、
図8では簡略化のため、直線的に変化するものとして記載した。また、トルクの急変を避けるため、トルク制限係数の変化よりも制限後トルクtrq_rの変化が遅くなるように、適宜フィルタ処理等を行ってもよい。
【0038】
破線で示すように、劣化レベルL1のとき、SW素子31〜36の熱抵抗が小さく、素子温度が上がりにくいので、素子温度が制限開始温度Ts1より大きくなる時刻x6まではトルク制限を行わないので、MG5の出力が低下しない。時刻x6にてトルク制限を開始すると、素子温度が時刻x8にて増加から減少に転じ、素子温度が制限開始温度Ts1以下となる時刻x9にて、トルク制限係数を1とし、トルク制限を終了する。トルク制限がなされる時刻x6から時刻x9までの期間の制限後トルクtrq_rは、指令トルクtrq
*に素子温度に応じたトルク制限係数が乗じられた値となる。
【0039】
参考例では、劣化状態を考慮せず、素子温度が所定温度より高くなった場合にトルク制限を行うものとする。
図8では、素子温度が制限開始温度Ts1を超えたときにトルク制限を行う例を示している。
図8中に一点鎖線で示すように、劣化レベルが大きい場合、素子温度が制限開始温度Ts1に達するまでトルク制限を行わないと、破線で示す劣化レベルが小さい場合と比較して、時刻x7における素子温度のピーク値Tpが大きくなる。そのため、SW素子31〜36の熱劣化が進行したり、ピーク値TpによってはSW素子31〜36が破損に至る虞がある。
一方、図示はしていないが、劣化状態を考慮せず、制限開始温度をTs3とすると、劣化レベルが小さい場合、余分にトルク制限をかけることになってしまう。
【0040】
本実施形態では、劣化状態に応じて、制限開始温度、および、トルク制限傾きを設定している。これにより、劣化状態に応じた適切なトルク制限が可能であるので、劣化レベルが小さい場合、余分なトルク制限をかけることなく、MG5からトルクを出力することができ、ドライバビリティが向上する。また、劣化レベルが大きい場合、低い温度からトルク制限を開始し、速やかにトルクを制限できるため、SW素子31〜36のさらなる熱劣化を抑制することができ、熱破壊を回避することができる。
【0041】
以上詳述したように、MG制御部50は、以下の処理を実行する。
MG制御部50は、MG5の通電の切り替えに係るSW素子31〜36を有する回路部10の温度として素子温度を取得し(
図3または
図6中のS105、S201)、素子温度に基づき、回路部10の劣化状態を判定する(S108)。
MG制御部50は、劣化状態および素子温度に基づき、MG5から出力されるトルクを制限する(S205、S206)。トルク制限を開始する素子温度である制限開始温度、および、素子温度に応じたトルク制限傾きは、劣化状態に応じて可変である。
【0042】
本実施形態では、劣化状態に応じ、制限開始温度およびトルク制限傾きを可変としているので、回路部10の劣化状態に応じ、適切にMG5を制御可能できる。これにより、回路部10の劣化が小さい状態における過剰なトルク制限を回避可能である。また、回路部10の劣化が大きい状態では、速やかにトルクを制限可能であるので、回路部10のさらなる熱劣化を抑制可能であるとともに、回路部10の破損を防ぐことができる。
【0043】
MG制御部50は、MG5から出力されるトルクが劣化判定トルクQdより大きくなったときの素子温度の基準温度Tbからの上昇値ΔTを演算し(S106)、上昇値ΔTが該当する上昇温度範囲の発生回数を更新することで、上昇温度頻度分布を更新する(S107)。また、MG制御部50は、上昇温度頻度分布に基づき、劣化状態を判定する。
これにより、上昇温度頻度分布に基づき、劣化状態を適切に判定することができる。
【0044】
本実施形態では、SW素子31〜36の温度である素子温度を回路部温度として取得する。これにより、SW素子31〜36の温度に基づき、適切に劣化レベルを判定し、SW素子31〜36の熱破損を防止することができる。
【0045】
本実施形態では、MG制御部50が「温度取得手段」、「劣化状態判定手段」、「トルク制限手段」、「上昇値演算手段」、「更新手段」を構成する。また、
図3または
図6中のS15、S201が「温度取得手段」の機能としての処理に対応し、S108が「劣化状態判定手段」の機能としての処理に対応し、S205、S206が「トルク制限手段」の機能としての処理に対応し、S106が「上昇値演算手段」の機能としての処理に対応し、S107が「更新手段」の機能としての処理に対応する。
【0046】
(他の実施形態)
(ア)温度取得手段
上記実施形態では、インバータを構成するSW素子の温度を回路部温度とする。他の実施形態では、SW素子の温度に替えて還流ダイオードの温度を回路部温度としてもよい。また、昇圧コンバータを構成するリアクトル、SW素子、または、コンデンサ等の電子部品の温度を回路部温度としてもよい。例えば、コンデンサの温度を回路部温度とする場合、回路部の劣化状態としてコンデンサの劣化状態が監視され、コンデンサの熱劣化を抑制し、熱破壊を防止することができる。
また、電子部品の接続に用いられるバスバー等の配線温度を回路部温度としてもよい。
【0047】
また他の実施形態では、温度取得手段は、回路部を構成する電子部品の温度に替えて、パワーカードの冷却水温を回路部温度としてもよい。冷却水温を用いる場合、例えば出力パワーの積算値が所定値となったときの上昇値の頻度分布に基づき、劣化状態を判定してもよい。
【0048】
(イ)劣化状態判定手段
上記実施形態では、劣化判定ラインに基づいて劣化レベルを3段階とした。他の実施形態では、劣化レベルは3段階に限らず、2段階でもよいし、4段階以上としてもよいし、連続的に変化するようにしてもよい。劣化レベルが連続的に設定される場合、例えば連続的に変化する劣化レベル値を用いた関数等により、トルクを制限するように構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、劣化判定ラインは直線であるが、他の実施形態では、劣化判定ラインは直線に限らず、どのように設定してもよい。また、劣化判定ラインを用いず、上昇温度範囲毎に設けられる判定閾値に基づいて劣化状態を判定してもよい。
上記実施形態では、上昇温度頻度分布における上昇温度範囲は3つの範囲である。他の実施形態では、上昇温度範囲は、3つに限らずいくつであってもよい。
【0050】
他の実施形態では、例えばインスツルメンタルパネルに劣化状態を表示する等、劣化状態をユーザに報知する報知手段を設けてもよい。劣化状態をユーザに報知することで、無理な運転をしないように促したり、早めに整備を行うように促したりすることができる。
また、劣化状態に基づき、パワーカードの交換時期、或いは、放熱グリスの再塗布時期等である整備情報を推定してもよい。また、推定された整備情報をユーザに通知するようにしてもよい。
【0051】
(ウ)トルク制限手段
上記実施形態では、トルク指令値にトルク制限係数を乗じることでトルクを制限する。他の実施形態では、例えば電圧指令値や電流指令値に制限係数を乗じてもよい。また、トルク制限係数によらず、直接的にトルクが制限されるように構成してもよい。
上記実施形態では、制限開始温度およびトルク制限傾きを劣化状態に応じて可変とする。他の実施形態では、制限開始温度、または、トルク制限傾きを劣化状態に応じて可変としてもよい。
【0052】
上記実施形態では、制限開始温度と出力停止温度との間における回路部温度とトルク制限係数とは直線関係である。他の実施形態では、また、制限開始温度と出力停止温度との間を複数の区間に分け、区間毎に傾きを変えてもよい。回路部温度とトルク制限係数との関係は、例えば二次以上の関数等、直線関係に限らない。
【0053】
(エ)回路部
上記実施形態では、SW素子は、IGBTにより構成される。他の実施形態では、IGBT以外の半導体素子等により構成してもよい。上記実施形態では、SW素子は、パワーカードにより構成され、両面放熱構造である。他の実施形態では、SW素子の放熱構造は、片面放熱としてもよい。また、インバータ部をパワーカード以外で構成してもよい。
上記実施形態では、回路部は、昇圧コンバータを有する。他の実施形態では、昇圧コンバータを省略してもよい。
【0054】
(オ)制御装置
上記実施形態では、各手段は、MG制御部により構成される。他の実施形態では、各手段の一部または全部をハイブリッド制御部により構成してもよい。また、MG制御部およびハイブリッド制御部を1つの制御部として構成してもよい。
上記実施形態では、制御装置がハイブリッド車両に適用される。他の実施形態では、ハイブリッド車両に限らず、電気自動車や燃料電池車等の主機モータを用いる車両全般に適用可能である。また、制御装置を他の装置に適用してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。