特許第6210064号(P6210064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6210064プロダクトイオンの帰属を支援するためのプリカーサーイオンビームのエンコード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6210064
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】プロダクトイオンの帰属を支援するためのプリカーサーイオンビームのエンコード
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20171002BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   G01N27/62 B
   H01J49/42
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-530321(P2014-530321)
(86)(22)【出願日】2012年9月17日
(65)【公表番号】特表2014-527276(P2014-527276A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】GB2012052293
(87)【国際公開番号】WO2013038212
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年9月15日
(31)【優先権主張番号】1116065.2
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/537,791
(32)【優先日】2011年9月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ジャイルズ, ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, マーティン レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】リチャードソン, キース
(72)【発明者】
【氏名】ワイルドグース, ジェイソン リー
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−521681(JP,A)
【文献】 特表2005−524211(JP,A)
【文献】 特開2002−100318(JP,A)
【文献】 特開2002−110081(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0301205(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0294644(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種のペアレントイオンを発生させて、プリカーサーイオンビームを形成させるステップと、
異なる種のペアレントイオンが異なる非決定論的および/または擬似ランダムおよび/または未知の強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように、複数の異なる前記パラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングすることにより前記プリカーサーイオンビームをエンコードするステップと、
前記プリカーサーイオンビームの測定およびプリカーサーイオンスペクトルのインターロゲーションにより前記エンコードを決定するステップと、
各パラメータ値で、前記ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
前記パラメータ値の関数として、または時間の関数としてのフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、および前記パラメータ値の関数として、または時間の関数としてのペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、前記フラグメントまたはプロダクトイオンを対応する前記ペアレントイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法。
【請求項2】
複数の異なるパラメータ値の間で前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングする前記ステップが、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200の異なるパラメータ値の間で前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペアレントイオンを衝突、フラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに伝送するステップと、前記イオンの少なくとも一部にフラグメントまたはプロダクトイオンを形成させるステップとを更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータが、(i)前記ペアレントイオンの衝突エネルギー;(ii)イオン−イオン相互作用もしくはイオン−イオン滞留時間;(iii)イオン−電子相互作用もしくはイオン−電子滞留時間;(iv)イオン荷電粒子相互作用もしくはイオン荷電粒子滞留時間;(v)イオン−中性粒子相互作用もしくはイオン−中性粒子滞留時間;(vi)試薬イオン濃度;(vii)電子ビームもしくは荷電粒子の他のビームのエネルギーもしくは密度;(viii)質量もしくは質量対電荷比;(ix)質量もしくは質量対電荷比伝送窓;(x)質量もしくは質量対電荷比減衰窓;(xi)質量もしくは質量対電荷比排出窓、を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
マスフィルターを提供するステップと、前記マスフィルターの質量対電荷比伝送窓をスキャニング、変動、増加または減少させるステップと、を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
イオンガイドを提供すること、ならびに特定の質量対電荷比または特定範囲内の質量対電荷比を有するイオンが励起および/または減衰される前記イオンガイドに1つ以上の励起波形を加えること、を更に含む請求項に記載の方法。
【請求項7】
質量、または質量対電荷比選択的イオントラップを提供するステップと、質量または質量対電荷比排出窓内の質量または質量対電荷比を有するイオンが前記イオントラップから排出もしくは励起される、または別の方式で前記イオントラップから出現する、前記イオントラップの質量または質量対電荷比排出窓をスキャニングするステップと、を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記パラメータが、イオン化エネルギー、イオン化効率、内部エネルギー、空間位置、シフト試薬の組成、試薬の組成および/もしくは分極、衝突、イオン移動度分離、または他の気体、温度、圧力、あるいはレーザ強度を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングする前記ステップが、前記フラグメントまたはプロダクトイオンの形成を直接引き起こす、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングする前記ステップが、単独では前記フラグメントまたはプロダクトイオンの形成を直接引き起こさない、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ペアレントイオンの少なくとも一部の強度を変動、増加、減少またはランピングするために前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングした後、前記ペアレントイオンがその後、衝突、フラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに伝送されて、そこで前記ペアレントイオンの少なくとも一部にフラグメントまたはプロダクトイオンを形成させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複数の異なるパラメータ値の間で前記パラメータを変動、増加、減少またはランピングさせる間、前記ペアレントイオンの初期濃度が、実質的に一定のままである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
複数の種のペアレントイオンを発生させて、プリカーサーイオンビームを形成させるように配置および適合されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンが異なる非決定論的および/または擬似ランダムおよび/または未知の強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように、複数の異なる前記パラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングすることにより前記プリカーサーイオンビームをエンコードするように配置および適合されたデバイスと、
前記プリカーサーイオンビームの測定およびプリカーサーイオンスペクトルのインターロゲーションにより前記エンコードを決定するように配置および適合された質量分析部と、
各パラメータ値で、前記ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
前記パラメータ値の関数として、または時間の関数としてのフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、および前記パラメータの関数として、または時間の関数としてのペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、前記フラグメントまたはプロダクトイオンを対応する前記ペアレントイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析および質量分析方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2011年9月22日出願の米国特許仮出願第61/537791号および2011年9月16日出願の英国特許出願第1116065.2号の優先権および利益を主張する。これらの出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
プロテオミクスにおいて見出されるように、複雑な混合物の分析が特に困難であることは、質量分析設計の当業者によって周知となっている。該当するイオンがサーベイスキャンを用いて決定されるデータ指向分析(「DDA」)などの複数の手法が利用されてきた。その後、該当するペアレントイオンまたはプリカーサーイオンが、逐次分離されて、分解または反応されて、プロダクトイオンスペクトルを発生する。その後、プロダクトイオンスペクトルおよびプリカーサーイオンは両者とも、成分を同定するために用いられる。しかしペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは個別に分離および分析されるが、他のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは消失するため、そのような技術は低デューティサイクルという問題に陥る。更にこれらの技術は、特定強度のイオンに偏る傾向がある。
【0004】
DDAの方法論を超える改善は、イオンビームが非プロダクトイオン形成モード(即ち、低衝突エネルギー)とプロダクトイオン形成モード(即ち、高衝突エネルギー)との間で急速に切替わるShotgunまたはMSとして知られる手法を利用することである。その公知の手法によれば、プロダクトイオンは、クロマトグラフィー溶出プロフィルの1つ以上の特徴に基づいてプリカーサーイオンに帰属させる。この公知手法は、高デューティサイクルおよびバイアスのないデータ獲得という利点を有するが、複数のプリカーサーイオンが共溶出されることがあるため特異性を欠く可能性がある。
【0005】
高い特異性を有するが低いデューティサイクルであると分類され得る公知のDDA手法とは対照的に、公知のShotgunまたはMS手法は、低い特異性を有する高デューティサイクル手法として分類され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高デューティサイクルおよびバイアスのないデータ獲得という利益を有しつつ、公知のShotgunまたはMS手法と比較して特異性も改善されている方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように、複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするステップと、
各パラメータ値で、ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
パラメータ値の関数として、または時間の関数としてのフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、およびパラメータ値の関数として、または時間の関数としてのペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするステップと、
各パラメータ値で、ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
パラメータ値の関数として、または時間の関数としての第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、およびパラメータ値の関数として、または時間の関数としての第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイルに基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを第二のフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させることと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0009】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするステップは、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングすることを含む。
【0010】
一実施形態によれば、該方法は、ペアレントイオンを衝突、フラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに伝送するステップと、イオンの少なくとも一部にフラグメントまたはプロダクトイオンを形成させるステップとを更に含む。
【0011】
パラメータは、ペアレントイオンの衝突エネルギーを含んでいてもよい。
【0012】
パラメータは、(i)イオン−イオン相互作用または滞留時間;(ii)イオン−電子相互作用または滞留時間;(iii)イオン荷電粒子相互作用または滞留時間;および(iv)イオン−中性粒子相互作用または滞留時間、のいずれかを含んでいてもよい。
【0013】
パラメータは、試薬イオン濃度を含んでいてもよい。
【0014】
パラメータは、電子ビームまたは荷電粒子の他のビームのエネルギーまたは密度を含んでいてもよい。
【0015】
パラメータは、(i)質量もしくは質量対電荷比;(ii)質量もしくは質量対電荷比伝送窓;(iii)質量もしくは質量対電荷比減衰窓;または(iv)質量もしくは質量対電荷比排出窓、のいずれかを含んでいてもよい。
【0016】
該方法は、好ましくはマスフィルターを提供するステップを更に含む。
【0017】
マスフィルターは、好ましくは四重極ロッドセットマスフィルター、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むマスフィルターを含む。
【0018】
該方法は、好ましくはマスフィルターの質量対電荷比伝送窓をスキャニング、変動、増加または減少させるステップを更に含む。
【0019】
該方法は、好ましくは(i)第一の質量対電荷比の値よりも小さい質量対電荷比を有するイオンが伝送されるローパス動作モード;(ii)第一の質量対電荷比よりも大きく、第二の質量対電荷比の値よりも小さい質量対電荷比を有するイオンが伝送されるバンドパス動作モード;または(iii)第一の質量対電荷比よりも大きな質量対電荷比を有するイオンが伝送されるハイパス動作モード、のいずれかでマスフィルターを動作するステップを更に含む。
【0020】
該方法は、好ましくはイオンガイドを提供するステップを更に含む。
【0021】
イオンガイドは、好ましくは四重極もしくは多重極ロッドセットイオンガイド、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むイオンガイドを含む。
【0022】
該方法は、好ましくは特定の質量対電荷比または特定範囲内の質量対電荷比を有するイオンが励起および/または減衰されるイオンガイドに、1つ以上の励起波形を加えるステップを更に含む。
【0023】
該方法は、好ましくは1つ以上の励起波形の周波数および/または振幅をスキャニング、変動、増加または減少させるステップを更に含む。
【0024】
該方法は、好ましくは質量、または質量対電荷比選択的イオントラップを提供するステップを更に含む。
【0025】
該イオントラップは、好ましくは2Dもしくは線形イオントラップ、1つの中心リング電極および2つのエンドキャップ電極を含む3Dイオントラップ、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むイオントラップを更に含む。
【0026】
該方法は、好ましくは質量または質量対電荷比排出窓内の質量または質量対電荷比を有するイオンがイオントラップから排出もしくは励起される、または別の方式でイオントラップから出現する、イオントラップの質量または質量対電荷比排出窓をスキャニングするステップを更に含む。
【0027】
該パラメータは、イオン化エネルギー、イオン化効率、内部エネルギー、空間位置、シフト試薬の組成、試薬の組成および/もしくは分極、衝突、イオン移動度分離、または他の気体、温度、圧力、あるいはレーザ強度を含んでいてもよい。
【0028】
パラメータを変動、増加、減少またはランピングするステップは、フラグメントまたはプロダクトイオンの形成を直接引き起こし得る。
【0029】
あるいはパラメータを変動、増加、減少またはランピングするステップは、単独ではフラグメントまたはプロダクトイオンの形成を直接引き起こさない。
【0030】
一実施形態によれば、ペアレントイオンの少なくとも一部の強度を変動、増加、減少またはランピングするためにパラメータを変動、増加、減少またはランピングした後、ペアレントイオンはその後、衝突、フラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに伝送されて、そこでペアレントイオンの少なくとも一部にフラグメントまたはプロダクトイオンを形成させる。
【0031】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングさせる間、ペアレントイオンの初期濃度は、好ましくは実質的に一定のままである。
【0032】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
フラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置、およびペアレントイオンの空間位置に基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0033】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置、および第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置に基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを対応する第二の異なるフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0034】
該方法は、好ましくは空間的に分散されたペアレントイオンを分解または反応させて、フラグメントまたはプロダクトイオンを形成させるステップを更に含む。
【0035】
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップは、好ましくはイオン移動度または微分型イオン移動度に基づいてペアレントイオンを分離することを含む。
【0036】
該方法は、好ましくはフィルタリング、ピーク検出、階層的クラスタリング、分割的クラスタリング、K平均クラスタリング、自己相関、確率解析もしくはベイジアン解析、または主成分分析(「PCA」)により、フラグメントまたはプロダクトイオンをペアレントイオンまたは他のフラグメントもしくはプロダクトイオンに相関または帰属させるステップを更に含む。
【0037】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配置および適合されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように、複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスと、
各パラメータ値で、ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
パラメータ値の関数として、または時間の関数としてのフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、およびパラメータ値の関数として、または時間の関数としてのペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0038】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配置および適合されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルをパラメータ値の関数として、または時間の関数として有するように、複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスと、
各パラメータ値で、ペアレントイオンから得られた任意のフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
パラメータ値の関数として、または時間の関数としての第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイル、およびパラメータ値の関数として、または時間の関数としての第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの強度プロファイルに基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを第二のフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0039】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスは、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されることを含む。
【0040】
質量分析計は、好ましくはペアレントイオンを分解して、フラグメントまたはプロダクトイオンを形成させるための衝突、フラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスを更に含む。
【0041】
パラメータは、(i)ペアレントイオンの衝突エネルギー;(ii)イオン−イオン相互作用もしくは滞留時間;(iii)イオン−電子相互作用もしくは滞留時間;(iv)イオン荷電粒子相互作用もしくは滞留時間;(v)イオン−中性粒子相互作用もしくは滞留時間;(vi)試薬イオン濃度;(vii)電子ビームもしくは荷電粒子の他のビームのエネルギーもしくは密度;(viii)質量もしくは質量対電荷比;(ix)質量もしくは質量対電荷比伝送窓;(x)質量もしくは質量対電荷比減衰窓;(xi)質量もしくは質量対電荷比排出窓;(xii)イオン化エネルギー;(xiii)イオン化効率;(xiv)内部エネルギー;(xv)空間位置;(xvi)シフト試薬の組成;(xvii)試薬の組成および/もしくは分極、衝突、イオン移動度分離、または他の気体;(xviii)温度;(xix)圧力;あるいは(xx)レーザ強度、を含んでいてもよい。
【0042】
質量分析計は、好ましくはマスフィルターを更に含む。
【0043】
マスフィルターは、好ましくは四重極ロッドセットマスフィルター、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むマスフィルターを含む。
【0044】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスは、好ましくはマスフィルターの質量対電荷比伝送窓をスキャニング、変動、増加または減少させるように配置および適合される。
【0045】
マスフィルターは、好ましくは(i)第一の質量対電荷比の値よりも小さい質量対電荷比を有するイオンが伝送されるローパス動作モード;(ii)第一の質量対電荷比よりも大きく、第二の質量対電荷比の値よりも小さい質量対電荷比を有するイオンが伝送されるバンドパス動作モード;または(iii)第一の質量対電荷比よりも大きな質量対電荷比を有するイオンが伝送されるハイパス動作モード、のいずれかで動作される。
【0046】
質量分析計は、好ましくはイオンガイドを更に含む。
【0047】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスは、好ましくは特定の質量対電荷比または特定範囲内の質量対電荷比を有するイオンが励起および/または減衰されるイオンガイドに、1つ以上の励起波形を加えるように配置および適合される。
【0048】
イオンガイドは、好ましくは四重極もしくは多重極ロッドセットイオンガイド、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むイオンガイドを含む。
【0049】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスは、好ましくは1つ以上の励起波形の周波数および/または振幅をスキャニング、変動、増加または減少させるように配置および適合されている。
【0050】
質量分析計は、好ましくは質量、または質量対電荷比選択的イオントラップを含む。
【0051】
複数の異なるパラメータ値の間でパラメータを変動、増加、減少またはランピングするように配置および適合されたデバイスは、好ましくは質量または質量対電荷比排出窓内の質量または質量対電荷比を有するイオンがイオントラップから排出もしくは励起される、または別の方式でイオントラップから出現する、イオントラップの質量または質量対電荷比排出窓をスキャニングするように配置および適合される。
【0052】
該イオントラップは、好ましくは2Dもしくは線形イオントラップ、1つの中心リング電極および2つのエンドキャップ電極を含む3Dイオントラップ、またはイオンを第一の方向では擬ポテンシャル井戸に、第二の方向ではDCポテンシャル井戸にそれぞれ閉じ込める複数の電極を含むイオントラップを更に含む。
【0053】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるように配置および適合されたデバイスと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
フラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置、およびペアレントイオンの空間位置に基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0054】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるように配置および適合されたデバイスと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置、および第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの空間位置に基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを対応する第二の異なるフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0055】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに第一の分布を第一のパラメータの関数として想定させて、その後、第一の分布を想定したペアレントイオンに第二の異なる分布を第二のパラメータの関数として想定させ、第二の分布が、好ましくは第一の分布に依存するステップと、
第二の分布を想定したペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
第二のパラメータによるフラグメントまたはプロダクトイオンの分布、および第二のパラメータによるペアレントイオンの分布に基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0056】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに第一の分布を第一のパラメータの関数として想定させて、その後、第一の分布を想定したペアレントイオンに第二の異なる分布を第二のパラメータの関数として想定させ、第二の分布が、好ましくは第一の分布に依存するステップと、
第二の分布を想定したペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するステップと、
第二のパラメータによる第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの分布、および第二のパラメータによる第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの分布に基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを対応する第二の異なるフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0057】
該方法は、好ましくは第二の分布を想定したペアレントイオンを分解または反応させるステップを更に含む。
【0058】
第一のパラメータおよび/または第二のパラメータは、好ましくは時間、位置またはエネルギーを含む。
【0059】
第一の分布の形状および/または第二の分布の形状は、好ましくはイオン移動度、微分型イオン移動度、質量、質量対電荷比、または別の物理化学的性質に依存する。
【0060】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配置および適合されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに第一の分布を第一のパラメータの関数として想定させて、その後、第一の分布を想定したペアレントイオンに第二の異なる分布を第二のパラメータの関数として想定させるように配置および適合されたデバイスであって、第二の分布が、好ましくは第一の分布に依存するデバイスと、
第二の分布を想定したペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
第二のパラメータによるフラグメントまたはプロダクトイオンの分布、および第二のパラメータによるペアレントイオンの分布に基づいて、フラグメントまたはプロダクトイオンを対応するペアレントイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0061】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配置および適合されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに第一の分布を第一のパラメータの関数として想定させて、その後、第一の分布を想定したペアレントイオンに第二の異なる分布を第二のパラメータの関数として想定させるように配置および適合されたデバイスであって、第二の分布が、好ましくは第一の分布に依存するデバイスと、
第二の分布を想定したペアレントイオンから得られたフラグメントまたはプロダクトイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
第二のパラメータによる第一のフラグメントまたはプロダクトイオンの分布、および第二のパラメータによる第二のフラグメントまたはプロダクトイオンの分布に基づいて、第一のフラグメントまたはプロダクトイオンを対応する第二のフラグメントまたはプロダクトイオンに相関または帰属させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0062】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルを時間の関数として有するように、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントを質量分析するステップと、
フラグメントイオンの強度プロファイル、およびペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、フラグメントイオンを対応するペアレントイオンに相関させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0063】
1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるステップは、好ましくはフラグメントイオンの形成を直接引き起こす。
【0064】
好ましい実施形態によれば、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるステップは、フラグメンテーションデバイスに進入するペアレントイオンの衝突エネルギーを変動させることを含む。
【0065】
それ程好ましくはない実施形態ではあるが、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるステップは、次のフラグメントイオンの形成とは独立していてもよい。
【0066】
この実施形態によれば、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルが変動したら、ペアレントイオンがフラグメンテーションデバイスに伝送されて、そこでペアレントイオンが分解される。
【0067】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップと、
空間的に分散されたペアレントイオンをフラグメンテーションに供するステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントイオンを質量分析するステップと、
フラグメントイオンの空間位置およびペアレントイオンの空間位置に基づいて、フラグメントイオンを対応するペアレントイオンに相関させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0068】
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップは、好ましくはイオン移動度または微分型イオン移動度に基づいてイオンを分離することを更に含む。
【0069】
好ましい実施形態によれば、フラグメントイオンは、フィルタリング、ピーク検出、階層的クラスタリング、分割的クラスタリング、K平均クラスタリング、自己相関、確率解析(ベイジアン)解析、または主成分分析(「PCA」)により、フラグメントイオンをペアレントイオンに相関または帰属させる。
【0070】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルを時間の関数として有するように、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントを質量分析するステップと、
第一のフラグメントイオンの強度プロファイル、および第二のフラグメントイオンの強度プロファイルに基づいて、第一のフラグメントイオンを第二の異なるフラグメントイオンに相関させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0071】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるステップと、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるステップと、
空間的に分散されたペアレントイオンをフラグメンテーションに供するステップと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントイオンを質量分析するステップと、
第一のフラグメントイオンの空間位置および第二のフラグメントイオンの空間位置に基づいて、第一のフラグメントイオンを対応する第二の異なるフラグメントイオンに相関させるステップと、
を含む、質量分析方法が提供される。
【0072】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルを時間の関数として有するように、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるように配置および適合されたデバイスと、
ペアレントイオンから得られたイオンを分解するように配置および適合された質量分析部と、
フラグメントイオンの強度プロファイル、およびペアレントイオンの強度プロファイルに基づいて、フラグメントイオンを対応するペアレントイオンに相関させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0073】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるように配置および適合されたデバイスと、
空間的に分散されたペアレントイオンを分解するように配置および適合されたフラグメンテーションデバイスと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
フラグメントイオンの空間位置、およびペアレントイオンの空間位置に基づいて、フラグメントイオンを対応するペアレントイオンに相関させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0074】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンが異なる強度プロファイルを時間の関数として有するように、1種以上のペアレントイオンの強度プロファイルを変動させるように配置および適合されたデバイスと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
第一のフラグメントイオンの強度プロファイルおよび第二のフラグメントイオンの強度プロファイルに基づいて、第一のフラグメントイオンを第二の異なるフラグメントイオンに相関させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0075】
本発明の一態様によれば、
複数の種のペアレントイオンを発生させるように配列されたイオン源と、
異なる種のペアレントイオンに異なる空間位置を瞬時にとらせるように配置および適合されたデバイスと、
空間的に分散されたペアレントイオンを分解するように配置および適合されたフラグメンテーションデバイスと、
ペアレントイオンから得られたフラグメントイオンを質量分析するように配置および適合された質量分析部と、
第一のフラグメントイオンの空間位置および第二のフラグメントイオンの空間位置に基づいて、第一のフラグメントイオンを対応する第二の異なるフラグメントイオンに相関させるように配置および適合されたデバイスと、
を含む、質量分析計が提供される。
【0076】
好ましい実施形態により、デューティサイクルと複雑な混合物への特異性との関連性が改善される。
【0077】
本発明の一態様によれば、プリカーサーイオンビームをエンコードし、測定して特徴づけるための装置および方法を提供する。エンコードするデバイスは、好ましくは測定デバイスとは別であり、プロダクトイオンに関連のプリカーサーのエンコードを持続させ、関連のプリカーサーを測定および/または特徴づけて、それに帰属させる。
【0078】
本願において、用語「エンコード」は、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの強度のモジュレーションを包含するものと理解されなければならない。時間または空間(またはその両方)においてモジュレーションを行って、時間または空間に依存したプリカーサーイオン強度を与えることができる。エンコードの工程は、非決定論的または擬似ランダム効果、例えば空間的荷電または飽和により得られるものを含んでいても、または含んでいなくてもよい。エンコード工程は、好ましくは異なるエンコードプロファイル、即ち異なる強度プロファイルを有する異なるプリカーサーイオンを与える。特定のプリカーサーイオンのエンコードは、飛行時間型質量分析計などの第二のデバイスを介したプリカーサーイオンの測定により決定されてもよい。
【0079】
好ましい実施形態によれば、エンコードは、Clemmerら(Anal. Chem. 2000, 72, 2737−2740)によって記載されたように、分散型エンコードとは逆に非分散型であってもよい。
【0080】
好ましい実施形態による非分散型エンコードにおいて、エンコードデバイスは、フィルターとして働き、全体的なプリカーサーイオン集団をエンコードするために特定のパラメータの変動またはスキャニングを必要とする。
【0081】
それ程好ましくない実施形態ではあるが、ペアレントイオンは、従来のイオン移動度分離装置などの分散型エンコードに供されてもよい。この実施形態によれば、エンコードは、パラメータの変動またはスキャニングを必要としない。分散型のデバイスを用いれば、プリカーサーイオンビームは、静的条件下でデバイス内で自然に分離する。
【0082】
自然に分散性のエンコードデバイスが、同じく特定のパラメータのスキャニングまたは変動により付加的な利益も受けることができ、そのような実施形態も、本発明の意図する範囲内に含まれることが認識されよう。
【0083】
好ましい実施形態は、プリカーサーイオンビームが時間的または空間的に変動するプロファイルを有するように、プリカーサーイオンビームをエンコードすること(例えば、該イオンビームの強度を時間により変動させること、または該イオンビームを空間的に分離させること)に関する。
【0084】
一実施形態によれば、エンコードは、未知または擬似ランダム成分を含んでいてもよい。
【0085】
エンコードの形態は、プリカーサーイオンスペクトルのインタロゲーションにより決定されてもよい。
【0086】
エンコードの後またはその間に、プロダクトイオンまたは関連のイオンが、好ましくは形成および測定される。好ましい実施形態の特色は、プロダクトイオンまたは関連のイオンが好ましくは対応するプリカーサーイオンのエンコードを保持することである。結果としてプロダクトイオンまたは関連のイオンが、エンコードの類似性によってプリカーサーイオンに帰属または相関させることができる。
【0087】
好ましい実施形態による手法は、バイアスがかからず、高デューティサイクルを有し、データ指向分析またはデータを標的とする手法を超える改善を付与する。
【0088】
好ましい実施形態による手法は、エンコード工程が好ましくはクロマトグラフィーによるエンコードに関係せず、それにより高度に効果的なピークキャパシティを導くため、ショットガン、ハイ/ロー切替えまたはMS型手法を超える改善も示す。
【0089】
好ましい実施形態は、プリカーサーイオンビームをエンコードすることを含む。そのエンコードは、機器または質量分析計の特徴または成分をスキャニングまたは変動させて、エンコード工程の途中で複数のマススペクトルを獲得することによりその変動の効果をプロファイリングし、それによりネストされたデータセットを生成することにより実現されてもよい。各プリカーサーイオンのエンコードは、ネストされたデータセットのインタロゲーションにより決定されてもよい。
【0090】
プロダクトイオンは、好ましくはエンコード工程の後、またはエンコード工程の直接の結果として形成される。複数のプロダクトイオンマススペクトルは、プリカーサーエンコード工程の途中で獲得されて、ネストされたデータセットとして記録されてもよい。この手法を介して形成および獲得されたプロダクトイオンは、好ましくは関連のプリカーサーのエンコードを保持して帰属を容易にする。
【0091】
プロダクトイオンのプリカーサーイオンへの帰属および/または関連のプロダクトイオンの群の同定は、非限定的に、フィルタリング、ピーク検出、階層的クラスタリング、分割的クラスタリング、K平均クラスタリング、自己相関、確率解析(ベイジアン)解析、および主成分分析(「PCA」)などの技術を用いて実施されてもよい。
【0092】
好ましい実施形態によるエンコード工程は、好ましくは本質的に急速であり、またはネスティングの目的で急速にすることが求められてもよい。それゆえプリカーサーエンコードを維持するために、全体的システムが、軸方向の電場(axial fields)の使用を必須とする高圧領域、進行波デバイス、または気体充填デバイスを通してイオンを推進する働きのある他の類似デバイスの比較的短い通過時間を利用してもよい。
【0093】
好ましい実施形態は、既存の装置、具体的には四重極飛行時間型(「Q−TOF」)質量分析計および類似の機器への改善に関する。
【0094】
衝突セルがONとOFFに繰返し切替えられる従来のショットガン動作モードが、本発明の範囲に含まれないことは、当業者に理解されよう。そのような動作モードにおいて、2種の異なるペアレントイオンは、時間の関数として本質的に同じ強度プロファイル、即ち100%、その後0%の強度プロファイルを有する。好ましい実施形態の重要な態様が、従来の手法に反して2種の異なるペアレントイオンが時間関数として実質的に異なる強度プロファイルを有することであることは、当業者に理解されよう。
【0095】
実施形態によれば、質量分析計は、:
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源;(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源;(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源;(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源;(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源;(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源;(vii)シリコン上の脱離イオン化(「DIOS」)イオン源;(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源;(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源;(x)電場イオン化(「FI」)イオン源;(xi)電場脱離(「FD」)イオン源;(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源;(xiii)高速原子衝撃法(「FAB」)イオン源;(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源;(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源;(xvi)ニッケル63放射線イオン源;(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源;(xviii)サーモスプレーイオン源;(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源;および(xx)グロー放電(「GD」)イオン源、からなる群より選択されるイオン源;ならびに/あるいは
(b)1つ以上の連続もしくはパルスイオン源;ならびに/あるいは
(c)1つ以上のイオンガイド;ならびに/あるいは
(d)1つ以上のイオン移動度分離デバイスおよび/もしくは1つ以上の非対称電場イオン移動度分光デバイス;ならびに/あるいは
(e)1つ以上のイオントラップもしくは1つ以上のイオントラッピング領域;ならびに/あるいは
(f)(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーションデバイス;(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーションデバイス;(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーションデバイス;(iv)電子捕捉解離(「ECD」)フラグメンテーションデバイス;(v)電子衝突もしくは衝撃解離フラグメンテーションデバイス;(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーションデバイス;(vii)レーザ誘起解離フラグメンテーションデバイス;(viii)赤外線誘起解離デバイス;(ix)紫外線誘起解離デバイス;(x)ノズル−スキマーインターフェースフラグメンテーションデバイス;(xi)インソースフラグメンテーションデバイス;(xii)インソース衝突誘起解離フラグメンテーションデバイス;(xiii)熱もしくは温度源フラグメンテーションデバイス、(xiv)電場誘起フラグメンテーションデバイス、(xv)磁場誘起フラグメンテーションデバイス、(xvi)酵素消化もしくは酵素分解フラグメンテーションデバイス、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーションデバイス、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーションデバイス、(xx)イオン−メタステーブルイオン反応フラグメンテーションデバイス、(xxi)イオン−メタステーブル分子反応フラグメンテーションデバイス、(xxii)イオン−メタステーブル原子反応フラグメンテーションデバイス、(xxiii)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−イオン反応デバイス、(xxiv)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−分子反応デバイス、(xxv)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−原子反応デバイス、(xxvi)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−メタステーブルイオン反応デバイス、(xxvii)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−メタステーブル分子反応デバイス、(xxviii)イオンを反応させてアダクトもしくはプロダクトイオンを形成するためのイオン−メタステーブル原子反応デバイス、および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーションデバイス、からなる群より選択される1つ以上の衝突、フラグメンテーションもしくは反応セルと、/または
(g)(i)四重極質量分析部、(ii)2Dもしくは線形四重極質量分析部、(iii)ポールもしくは3D四重極質量分析部、(iv)ペニングトラップ質量分析部、(v)イオントラップ質量分析部、(vi)磁場セクタ質量分析部、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(「ICR」)質量分析部、(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析部、(ix)静電もしくはオービトラップ質量分析部、(x)フーリエ変換静電もしくはオービトラップ質量分析部、(xi)フーリエ変換質量分析部、(xii)飛行時間型質量分析部、(xiii)直交加速飛行時間型質量分析部、および(xiv)直線加速飛行時間型質量分析部、からなる群より選択される質量分析部;ならびに/あるいは
(h)1つ以上のエネルギー分析部もしくは静電エネルギー分析部;ならびに/あるいは
(i)1つ以上のイオン検出器;ならびに/あるいは
(j)(i)四重極質量分析部、(ii)2Dもしくは線形四重極イオントラップ、(iii)ポールもしくは3D四重極イオントラップ、(iv)ペニングイオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁場セクタマスフィルター、(vii)飛行時間型マスフィルター、および(viii)ウィーンフィルター、からなる群より選択される1つ以上のマスフィルター;ならびに/あるいは
(k)イオンをパルシングするためのデバイスもしくはイオンゲート;ならびに/あるいは
(l)実質的に連続のイオンビームをパルスイオンビームに変換するためのデバイス、
を更に含んでいてもよい。
【0096】
該質量分析計は、
(i)第一の動作モードにおいて、イオンがC−トラップへ伝送され、その後、オービトラップ(RTM)質量分析部中へ注入され、第二の動作モードにおいて、イオンがC−トラップへ伝送され、その後、衝突セルまたは電子移動解離デバイスへ伝送され、少なくとも幾つかのイオンがフラグメントイオンへ分解され、その後、フラグメントイオンがC−トラップへ伝送された後、オービトラップ(RTM)質量分析部中へ注入される、外部のバレル様電極および同軸上の内部スピンドル様電極を含むC−トラップおよびオービトラップ(RTM)質量分析部;ならびに/あるいは
(ii)使用時にイオンが伝送される開口を有する各電極を複数含む積層リングイオンガイドであって、電極の間隔がイオン経路の長さに沿って増大し、イオンガイドの上流部分における電極中の開口が第一の直径を有し、イオンガイドの下流部分における電極中の開口が第一の直径よりも小さな第二の直径を有し、AC電圧またはRF電圧の互いに反対の位相が使用時に連続した電極に印加される、積層リングイオンガイド、
のいずれかを更に含んでいてもよい。
【0097】
一実施形態によれば、マスフィルター、質量分析部またはイオントラップは、ACまたはRF電圧を電極に供給するように配置および適合されたデバイスを更に含む。ACまたはRF電圧は、好ましくは(i)<50Vピーク・トゥ・ピーク、(ii)50〜100Vピーク・トゥ・ピーク、(iii)100〜150Vピーク・トゥ・ピーク、(iv)150〜200Vピーク・トゥ・ピーク、(v)200〜250Vピーク・トゥ・ピーク、(vi)250〜300Vピーク・トゥ・ピーク、(vii)300〜350Vピーク・トゥ・ピーク、(viii)350〜400Vピーク・トゥ・ピーク、(ix)400〜450Vピーク・トゥ・ピーク、(x)450〜500Vピーク・トゥ・ピーク、および(xi)>500Vピーク・トゥ・ピーク、からなる群より選択される振幅を有する。
【0098】
ACまたはRF電圧は、好ましくは、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)>10.0MHz、からなる群より選択される周波数を有する。
【0099】
本発明の様々な実施形態を、ここに添付の図面を参照しながら記載するが、これらは例示として記載されるに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】フラグメンテーションまたは衝突エネルギーエンコードのために本発明の実施形態により用いられ得る質量分析計の略図を示す。
図2】本発明の好ましい実施形態による衝突エネルギーの関数として2つのペアレントイオンおよび対応するフラグメントイオンの強度を示し、フラグメントイオンが衝突エネルギーの関数として強度プロファイルに基づいてペアレントイオンとどのように相関され得るかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0101】
本発明の好ましい実施形態を、ここに記載する。
【0102】
図1は、本発明の一実施形態による質量分析計の略図を示す。該質量分析計は、本発明の一実施形態によればフラグメンテーションまたは衝突エネルギーエンコードのために配列される。
【0103】
ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは、好ましくはイオン源領域1からRF四重極ロッドセット2に通過する。RF四重極ロッドセット2は、好ましくは広帯域伝送モード、即ちイオンガイドのみの動作モードで動作される。その後、好ましくはペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは、好ましくは四重極ロッドセット2の下流に配列された、衝突またはフラグメンテーションセル3に伝送される。
【0104】
衝突またはフラグメンテーションセル3は、使用時にイオンが伝送される1つ以上の開口を有する複数の電極を含んでいてもよい。衝突またはフラグメンテーションセル3の軸長に沿ってイオンを押圧するために、1つ以上の過渡DC電圧が、衝突またはフラグメンテーションセル3の電極に印加されてもよい。
【0105】
一実施形態によれば、衝突またはフラグメンテーションセル3に進入するペアレントイオンまたはプリカーサーイオンのエネルギーは、好ましくは4eVから60eVまで0.25eVずつ直線的に増加される。衝突またはフラグメンテーションセル3に進入するペアレントイオンまたはプリカーサーイオンのエネルギーは、漸増されるため、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは、フラグメンテーションを受け始める。
【0106】
特定の種のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンが分解する最適エネルギーは、関係するペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの具体的特性に依存する。ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの衝突エネルギーは、増加するため、結果として、異なる種のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンが、異なる衝突エネルギーにおいて、つまり異なる時間に分解する。
【0107】
衝突またはフラグメンテーションセル3から出現するイオンは(任意の未分解のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンおよび形成されてしまった場合もある任意のフラグメントイオンを含み得る)は、その後、好ましくは次の質量分析のために直行加速飛行時間型質量分析部4に運搬される。
【0108】
衝突またはフラグメンテーションセル3から出現するイオンは、直行加速飛行時間型質量分析部内で質量分析される前に、1つ以上の進行波RFデバイスおよび/または1つ以上の静電レンズを通過し得る。
【0109】
飛行時間型質量分析部4は、好ましくは衝突エネルギーがランピングされているタイムスケールよりも有意に短いタイムスケールで動作される。結果として、直行加速飛行時間型質量分析部は、衝突エネルギー空間を効果的に収集して、各衝突エネルギー値でフル質量電荷比スペクトルを生成する。
【0110】
それゆえ好ましくはネストされたデータが得られて、インタロゲーションされ得る。
【0111】
図2は、2つの異なる種のペアレントイオンが衝突またはフラグメンテーションセル3に伝送されて、衝突またはフラグメンテーションセル3に進入したペアレントイオンまたはプリカーサーイオンのエネルギーが漸次、ランピングまたは増加した、本発明の実施形態を示す。
【0112】
2つの異なる種のペアレントイオンは、ロイシンエンケファリンイオン(質量電荷比556を有する単一荷電のもの)とGlu−フィブリノペプチドイオン(質量電荷比785を有する複荷電のもの)との混合物を含んだ。その後、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの混合物が、衝突またはフラグメンテーションセル3に伝送された。
【0113】
2つのペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの強度が、図2に示され、イオンの衝突エネルギーの関数として(つまり時間の関数として)プロットされている。図2は、イオンの衝突エネルギーの関数として(つまり時間の関数として)形成された2種のフラグメントイオンの強度も、フラグメンテーションを受けている2種の異なるペアレントイオンの混合物の結果として示す。
【0114】
フラグメントイオンの強度および生成時間と、対応するペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの強度プロファイルとの間に相関が存在することが、図2から認められる。特に、特定の種のペアレントイオンの強度が減少し始めると、対応する関連のフラグメントイオンの強度が、相応に増加し始めることに気づくであろう。
【0115】
図2は、約50eV以下の衝突エネルギーでは、時間の関数としてのペアレントイオンの強度と、時間の関数としてそれらのペアレントイオンから得られた対応するプロダクトまたはフラグメントイオンの強度との間に逆相関が存在することを示す。
【0116】
好ましい実施形態によれば、フラグメントイオンは、ペアレントイオンおよびフラグメントイオンの両方の強度プロファイルに基づいて、特定の種のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンと、マッチング、帰属または別の方式で相関させる。
【0117】
先に記載された実施形態は、ペアレントイオンの衝突エネルギーを漸増させることによるフラグメントまたはプロダクトイオンの形成がペアレントイオンのエンコードを与える実施形態を含む。フラグメントまたはペアレントイオンの形成は、事実上、エンコード工程に本来備わる。
【0118】
フラグメントまたはプロダクトイオンは、イオン−イオン反応、または電子移動解離(「ETD」)、電子捕捉解離(「ECD」)およびプロトン移動反応(「PTR」)などの他の工程などの他の手段により作成され得る、他の実施形態が企図される。これらの実施形態によれば、衝突エネルギーを変動させる代わりに、反応時間または試薬濃度が変動され得る。
【0119】
フラグメントまたはプロダクトイオンが、気相水素・重水素交換(「HDX」)、過給、電荷減少、および電子ビームのエネルギーまたは密度が変動される電子衝撃解離(「EID」)などのイオン中性反応により形成され得る、更なる実施形態も企図される。加えて、多くの他のプロダクトイオン形成技術、例えば光解離(「PD」)、表面誘起解離(「SID」)、RF加熱に基づく解離、および熱解離は、プロダクトまたはフラグメントイオンを発生させるのに用いられ得る。
【0120】
各例において、質量分析計の動作パラメータは、フラグメンテーションの効率または特性に影響を及ぼすように変動される。
【0121】
特に好ましい実施形態によれば、四重極ロッドセットもしくは他の形態のマスフィルターの質量対電荷比伝送窓、または質量選択的イオントラップから排出されたイオンの質量対電荷比は、漸次的または他の形態で変動、スキャニングもしくはランピングされ得る。
【0122】
別の好ましい実施形態によれば、イオンガイドの四重極または他の形態が提供されてもよく、1つ以上の励起波形がイオンガイドに加えられてもよい。イオンガイドは、好ましくは1つ以上の励起波形の周波数/複数の周波数に相応する質量対電荷比を有するイオンとは別にイオンガイドにより受け取られるイオンの実質的に全てを伝送する。1つ以上の励起波形の周波数/複数の周波数に相応する質量対電荷比を有するイオンは、好ましくは励起または共鳴排出され、イオンガイドを形成する電極に衝突して、それらのイオンの実質的な減衰を引き起こし得る。1つ以上の励起波形の周波数および/または振幅が、漸次的または他の形態で変動、スキャニングまたはランピングされ得る。
【0123】
フラグメントまたはプロダクトイオンの発生を本質的に引き起こさない他のエンコード手法が、用いられてもよい。そのような手法は、本発明の範囲内に含まれるものとする。一実施形態によれば、ペアレントイオンは、下流のフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイス内でフラグメントまたは反応され得るが、ペアレントイオンのエンコードの工程(即ち、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンの強度を変動させることによる)は、単独では本質的にプロダクトまたはフラグメントイオンを発生しない。
【0124】
例えば一実施形態によれば、下流のフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイス、例えばCIDまたはETDセルが、提供されてもよい。ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンビームは、本質的にフラグメントまたはプロダクトイオンを発生させない。エンコードされたペアレントイオンまたはプリカーサーイオンビームは、その後、プロダクトイオン形成モード(例えば、ペアレントまたはプリカーサービームがフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスをとして伝送されて、そこでペアレントイオンまたはプリカーサーイオンのフラグメンテーションまたは反応を誘発するように動作される)と、非プロダクトイオン形成モード(例えば、ペアレントまたはプリカーサービームは、フラグメンテーションもしくは反応デバイスを迂回するか、またはフラグメンテーションもしくは反応デバイスを通って伝送されて、ペアレントイオンが実質的にフラグメントもしくは反応されない動作モードで動作される)とで切り替えて、2つのネストされたデータセットを生成させてもよい。
【0125】
この実施形態によれば、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンビームのエンコードは、先に記載されたものと類似の手法で非プロダクトイオン形成データ組のインタロゲーションにより特徴づけることができる。エンコード工程の後にプロダクトまたはフラグメントイオン形成が起こるため、プロダクトまたはフラグメントイオンは、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンと同じエンコードを保持し、その結果としてペアレントイオンまたはプリカーサーイオンに帰属されてもよい。
【0126】
好ましい実施形態によれば、エンコード工程は、好ましくはネスティングを目的とするため本質的に急速である。それゆえペアレントまたはプリカーサーエンコードを持続するために、全体的システムが、軸方向の電場の使用を必須とする高圧領域、進行波デバイス、または気体充填デバイスを通してイオンを推進する働きのある他の類似デバイスの比較的短い通過時間を利用してもよい。
【0127】
先に記載された例は、質量電荷比を基にしたエンコードの実施形態に関する。質量対電荷比を基にしたエンコードは、公知の手法、例えばイオンを擬ポテンシャルバリア全体で駆動することを含む飛行時間型イオントラップ排出法、磁場偏向法および四重極を通した質量対電荷比伝送窓などにより実行することができる。後者は、RF/DCモード、質量電荷比カットオフを利用するRFのみモード、および1つ以上の共鳴励起窓(ノッチ)を介した共鳴排出を含む。
【0128】
イオン化効率の変動(抑制効果を含む)、微分型イオン移動度(「DMS」)または電場非対称イオン移動度分光法(「FAIMS」)、微分型移動度分析(「DMA」)、シフト試薬の添加によるDMSまたはイオン移動度分光法(「IMS」)のイオン移動度特性の改変、IMSドリフトガスの組成または極性/分極率の変動(例えば、極性ドーパントの添加による)、コンホメーション変化を実行するためのイオンの内部エネルギーの変更、および温度を変動させた時の成分の沸点または蒸気圧に基づく蒸発プロファイルの利用をはじめとし、単独ではプロダクトイオンを本質的に生成しない他のエンコード機構を利用することもできる。これらの実施形態によれば、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンは、依然としてフラグメントされるが、ペアレントイオンまたはプリカーサーイオンのエンコード(即ち、強度の変動)により、フラグメントまたはプロダクトイオンの発生を直接引き起こさない。
【0129】
エンコード方法が擬似ランダム効果を含み得る実施形態が、企図される。例えばイオントラップからのイオンをスキャンする場合、排出される質量対電荷比と時間との関係は、イオントラップ内の電荷量の関数であり、複雑化された自動利得制御アルゴリズムが必要となる。プリカーサーイオンの誤差またはシフトはプロダクトイオンに反映されるため、先に記載された手法を用いれば、全体としてのシステムの性能がこれらの効果とほぼ独立したものになる。
【0130】
先に記載された実施形態は、ショットガンまたはMS実験に関連するペアレントまたはプリカーサー質量対電荷比の広範囲に適用され得る。エンコード方法は、複数のペアレントイオンまたはプリカーサーイオンが分離窓(場合によりキメリシー(chimericy)と呼ばれる)内に含まれていて、より狭いペアレントまたはプリカーサー質量対電荷比範囲であるが、プロダクトイオンのペアレントイオンまたはプリカーサーイオンへの帰属を容易にする、DDAに基づく実験にも適用され得る。
【0131】
エンコードを用いて互いに同じプリカーサーからの複数のフラグメントイオンを関連づける得る他の実施形態が企図される。
【0132】
エンコードの決定により、質量対電荷比またはイオン移動度などの有用な分析情報が生成されうる。
【0133】
複数のエンコードデバイスを組み合わせて、ペアレントもしくはプリカーサーイオンのより具体的な複数の次元的エンコード、またはより後のプロダクトイオンのエンコードを与えることができる。
【0134】
好ましいデバイスを、既存の分散性エンコードデバイス、例えばクロマトグラフィー分離機またはイオン移動度分離機に連結させてもよい。
【0135】
好ましいデバイスは、質量分析システムに制限されることはない。原則として他の迅速なイオン測定システム、例えばイオン移動度を用いることができる。
【0136】
本発明の一実施形態によれば、エンコードの幾つかの形態は、設計により、または実用的制約のせいで一過性になる可能性がある。そのような場合、2つ以上のエンコード手順を、一緒につなげてもよい。例えばイオンビームを寸法Xにおいて、分布Ps(X)が各種sについて得られる手法でエンコードされ得る。異なる種が、時として異なる分布を測定可能に生成することが必要となる。しかし、ペアレントもしくはプリカーサーイオンおよび/またはフラグメントもしくはプロダクトイオンについて直接これらの分布を観察することが可能でない場合または望ましくない場合がある。この場合、異なるX値でコードされたイオンがY:Px(Y)において場合により測定可能に異なる分布を有するように、新しい寸法Yでエンコードするために、原則としてXに基づくエンコードを利用することが可能になり得る。この場合、種sでは、Yにおける最終的な分布は、Ps(X)およびPx(Y)の両方に依存する。この間接的エンコードは、Xの初期分離が喪失または廃棄される場合であっても保存され得る。
【0137】
例として、微分型移動度分析装置(DMA)を用いて、X軸に沿ってイオンビームを空間分布させることが公知である。デバイス全体が移動度フィルターとして動作されるように、固定位置xで(つまり固定移動度で)イオンを収集することが公知である。あるいは複数のx位置でイオンを収集することが可能であるが、その後、移動度分離を維持するために、デバイスの下流で複数の分析装置が必要となる。しかしイオンが微分型移動度分析装置を離れて、イオンがxおよび時間(t)に依存する手法で予測可能にモジュレートされると、イオンを単一連続ビームに再形成することができ、特定の種の移動度を、その一時的モジュレーションの検査により再構成させることができる。この場合、最初の(過渡的)エンコード寸法は、位置(X=x)であり、2番目は時間(Y=t)である。
【0138】
したがってペアレントイオンが、最初の分布を時間、位置またはエネルギーなどの第一のパラメータの関数として想定するように配列され得ることが企図される。その後、ペアレントイオンは、第二の分布を時間、位置またはエネルギーなどの第二のパラメータの関数として想定するように配列され得る。例えば時間依存性の1つの種類が、時間依存性のより簡便な種類に変換されてもよい。ペアレントイオンは、その後、フラグメントまたは反応され、フラグメントイオンは、第二のパラメータによる各分布に基づいてペアレントイオンと相関される。
【0139】
加えて、鎖が第三および更なる分布を含むように拡張され得る更なる実施形態が企図される。例えば第二の分布を想定したペアレントイオンは、その後、第三または更なるパラメータにより第三または更なる分布を想定するように配列されてもよい。更なる分布の第三は、好ましくは第二の分布に依存する。
【0140】
分布が多次元的であり得る、即ち複数のパラメータの関数であり得る更なる実施形態が企図される。例えば初期分布は、2つの位置座標XおよびYにあってもよく、その後、一連のマスクを用いて時間における一次元でのエンコードに変換される。
【0141】
本発明を好ましい実施形態を参照して記載したが、添付の特許請求の範囲に示された本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が実施され得ることは、当業者に理解されよう。
図1
図2