特許第6210082号(P6210082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6210082
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】内燃機関の蒸発燃料制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20171002BHJP
【FI】
   F02M25/08 301H
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-62146(P2015-62146)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-180394(P2016-180394A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄二
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−030158(JP,A)
【文献】 特開平05−059991(JP,A)
【文献】 特開2003−042014(JP,A)
【文献】 特開2002−332921(JP,A)
【文献】 特開2007−198267(JP,A)
【文献】 特開2001−263126(JP,A)
【文献】 特開2007−177727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、気筒内に空気を導入する吸気通路と、燃料が貯留された燃料タンクと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタとを備え、キャニスタから脱着された蒸発燃料を含むパージガスが吸気通路に導入される内燃機関の蒸発燃料制御装置であって、
上記キャニスタと上記吸気通路とを連通するパージ通路と、
上記パージ通路に設けられて当該通路を開閉するパージバルブと、
上記パージ通路に設けられて回転数が高いほど当該パージ通路の上流端と下流端との圧力差を大きくする回転式のポンプと、
上記パージバルブの開度および上記ポンプの回転数を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、
少なくとも特定の運転領域において、上記パージバルブの開度をその全閉と全開との間の中間開度に制御し、かつ、要求されるパージガスの量である要求パージ量が多い時にい値に設定され目標ポンプ回転数に上記ポンプの回転数を制御するとともに、上記ポンプの回転数と上記目標ポンプ回転数との偏差が所定の基準偏差以上の場合は、当該偏差が上記基準偏差未満となるまでの間、上記吸気通路に導入されるパージガスの量が上記要求パージ量となるように上記パージバルブの開度を上記要求パージ量と上記ポンプの回転数に応じて補正し、
上記目標ポンプ回転数および上記中間開度は、それぞれ、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最低回転数とし且つ上記パージバルブを全開としたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量が、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最高回転数とし且つ上記パージバルブを上記中間開度にしたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量以上となるように設定されていることを特徴とする内燃機関の蒸発燃料制御装置。
【請求項2】
気筒と、気筒内に空気を導入する吸気通路と、燃料が貯留された燃料タンクと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタとを備え、キャニスタから脱着された蒸発燃料を含むパージガスが吸気通路に導入される内燃機関の蒸発燃料制御装置であって、
上記キャニスタと上記吸気通路とを連通するパージ通路と、
上記パージ通路に設けられて当該通路を開閉するパージバルブと、
上記パージ通路に設けられて回転数が高いほど当該パージ通路の上流端と下流端との圧力差を大きくする回転式のポンプと、
上記パージバルブの開度および上記ポンプの回転数を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、
少なくとも特定の運転領域において、上記パージバルブの開度をその全閉と全開との間の中間開度に制御し、かつ、要求されるパージガスの量である要求パージ量が多い時に高い値に設定される目標ポンプ回転数に上記ポンプの回転数を制御するとともに、上記ポンプの回転数と上記目標ポンプ回転数との偏差が所定の基準偏差以上の場合は、当該偏差が上記基準偏差未満となるまでの間、上記吸気通路に導入されるパージガスの量が上記要求パージ量となるように上記パージバルブの開度を上記要求パージ量と上記ポンプの回転数に応じて補正し、
上記特定の運転領域は、気筒内で空燃比が1より大きい混合気の圧縮自己着火燃焼が実施される領域に設定されていることを特徴とする内燃機関の蒸発燃料制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の蒸発燃料制御装置であって、
上記中間開度は、上記要求パージ量によらず一定の開度に設定されていることを特徴とする内燃機関の蒸発燃料制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒と、気筒内に空気を導入する吸気通路と、燃料が貯留された燃料タンクと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタとを備え、当該キャニスタから吸気通路に蒸発燃料を含むパージガスが導入される内燃機関の蒸発燃料制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を、キャニスタを介して吸気通路に導入して、気筒内で燃焼させることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、キャニスタと吸気通路とを連通するパージ通路と、パージ通路を開閉するON/OFF式の開閉弁と、ポンプとを備えたものが開示されている。特許文献1の装置では、開閉弁を開弁させた状態でポンプの回転数を変化させることでパージ通路の上流端と下流端の圧力差を変更し、これによりキャニスタから吸気通路に導入されるパージガスの量を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−177727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ポンプには応答遅れがあるためポンプの回転数が所定の回転数に変化するまでには時間がかかる。そのため、上記特許文献1の装置では、ポンプが所定の回転数に変化するまでパージガスの量を適切な量にすることができないという問題がある。そして、パージガスに含まれる蒸発燃料量が気筒内に適切量供給されないことで、気筒内の空燃比が目標値からずれてこれにより排気性能等が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、適切な量の蒸発燃料をより確実に吸気通路に供給することができる内燃機関の蒸発燃料制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒と、気筒内に空気を導入する吸気通路と、燃料が貯留された燃料タンクと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタとを備え、キャニスタから脱着された蒸発燃料を含むパージガスが吸気通路に導入される内燃機関の蒸発燃料制御装置であって、上記キャニスタと上記吸気通路とを連通するパージ通路と、上記パージ通路に設けられて当該通路を開閉するパージバルブと、上記パージ通路に設けられて回転数が高いほど当該パージ通路の上流端と下流端との圧力差を大きくする回転式のポンプと、上記パージバルブの開度および上記ポンプの回転数を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、少なくとも特定の運転領域において、上記パージバルブの開度をその全閉と全開との間の中間開度に制御し、かつ、要求されるパージガスの量である要求パージ量が多い時にい値に設定され目標ポンプ回転数に上記ポンプの回転数を制御するとともに、上記ポンプの回転数と上記目標ポンプ回転数との偏差が所定の基準偏差以上の場合は、当該偏差が上記基準偏差未満となるまでの間、上記吸気通路に導入されるパージガスの量が上記要求パージ量となるように上記パージバルブの開度を上記要求パージ量と上記ポンプの回転数に応じて補正し、上記目標ポンプ回転数および上記中間開度は、それぞれ、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最低回転数とし且つ上記パージバルブを全開としたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量が、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最高回転数とし且つ上記パージバルブを上記中間開度にしたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量以上となるように設定されていることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、特定の運転領域において、ポンプの回転数が要求パージ量に応じて制御されるため、適正量のパージガスすなわち蒸発燃料を吸気通路および気筒内に導入することができる。しかも、ポンプの回転数と目標ポンプ回転数との偏差が所定の基準偏差以上の場合は、この偏差が基準偏差未満となるまでの間、パージバルブの開度が要求パージ量とポンプの回転数に応じて要求パージ量が実現されるように補正される。そのため、ポンプの回転数が目標ポンプ回転数に到達するまでの間、パージバルブの開度変更によってパージガスの量を要求量にすることができる。従って、ポンプの応答遅れに伴うパージガスの量の要求量からのずれを抑制することができ、蒸発燃料をより確実に適正量吸気通路に導入することができる。
【0009】
しかも、上記目標ポンプ回転数および上記中間開度は、それぞれ、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最低回転数とし且つ上記パージバルブを全開としたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量が、上記ポンプ回転数を上記特定の運転領域における上記目標ポンプ回転数の最高回転数とし且つ上記パージバルブを上記中間開度にしたときに上記吸気通路に供給されるパージガスの量以上となるように設定されている。
従って、特定の運転領域の全域で、ポンプの応答遅れに伴って生じるパージガスの量の要求量からのずれをパージバルブ開度の補正により解消することができる。そのため、吸気通路に導入する蒸発燃料量をより確実に適正量にすることができる。
【0010】
また、本発明は、気筒と、気筒内に空気を導入する吸気通路と、燃料が貯留された燃料タンクと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタとを備え、キャニスタから脱着された蒸発燃料を含むパージガスが吸気通路に導入される内燃機関の蒸発燃料制御装置であって、上記キャニスタと上記吸気通路とを連通するパージ通路と、上記パージ通路に設けられて当該通路を開閉するパージバルブと、上記パージ通路に設けられて回転数が高いほど当該パージ通路の上流端と下流端との圧力差を大きくする回転式のポンプと、上記パージバルブの開度および上記ポンプの回転数を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、少なくとも特定の運転領域において、上記パージバルブの開度をその全閉と全開との間の中間開度に制御し、かつ、要求されるパージガスの量である要求パージ量が多い時に高い値に設定される目標ポンプ回転数に上記ポンプの回転数を制御するとともに、上記ポンプの回転数と上記目標ポンプ回転数との偏差が所定の基準偏差以上の場合は、当該偏差が上記基準偏差未満となるまでの間、上記吸気通路に導入されるパージガスの量が上記要求パージ量となるように上記パージバルブの開度を上記要求パージ量と上記ポンプの回転数に応じて補正し、上記特定の運転領域は、気筒内で空燃比が1より大きい混合気の圧縮自己着火燃焼が実施される領域に設定されていることを特徴とする内燃機関の蒸発燃料制御装置を提供する。
この装置によっても、ポンプの回転数が目標ポンプ回転数に到達するまでの間、パージバルブの開度変更によってパージガスの量を要求量にすることができるため、ポンプの応答遅れに伴うパージガスの量の要求量からのずれを抑制することができ、蒸発燃料をより確実に適正量吸気通路に導入することができる。
しかも、このように吸気通路に導入される蒸発燃料量を適正に制御することができるため、気筒内の混合気の空燃比をより精度よく制御することができる。従って、特定の運転領域において、空燃比をより確実に1より大きいリーンとしながら適切な圧縮自己着火燃焼を実現することができる。
【0011】
また、本発明において、上記中間開度は、上記要求パージ量によらず一定の開度に設定されているのが好ましい(請求項3)。
【0012】
このようにすれば、パージバルブ開度の制御構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の内燃機関の蒸発燃料制御装置によれば、適切な量の蒸発燃料をより確実に吸気通路に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかるエンジンシステムの構成を示した図である。
図2】燃焼形態に係る運転領域を示した図である。
図3】パージ量の制御の流れを示したフローチャートである。
図4】要求パージ量と目標ポンプ回転数との関係を示した図である。
図5】要求パージ量とパージバルブのDUTY比との関係を示した図である。
図6】要求パージ量が増大したときの各パラメータの変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関の蒸発燃料制御装置が適用されるエンジンシステムの構成を示す図である。当実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気(吸気)を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1から外部に排気を排出するための排気通路31と、燃料タンク41内で発生した蒸発燃料をエンジン本体1に導入するためのパージシステム40とを備えている。エンジン本体1は、例えば、図1の紙面に直交する方向に並ぶ4つの気筒2aを有する4気筒エンジンである。
【0018】
ここでは、エンジン本体1が、主としてガソリンを燃料とするガソリンエンジンの場合について説明する。
【0019】
エンジン本体1は、気筒2aが内部に形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に設けられたシリンダヘッド3と、気筒2aに往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有している。
【0020】
ピストン4の上方には燃焼室5が形成されている。燃焼室5内には、インジェクタ10から燃料が噴射される。噴射された燃料と空気との混合気は燃焼室5で燃焼し、ピストン4はその燃焼による膨張力で押し下げられて上下に往復運動する。
【0021】
ピストン4はコネクティングロッドを介してクランク軸15と連結されており、ピストン4の往復運動に応じて、クランク軸15は中心軸回りに回転する。
【0022】
シリンダブロック2には、クランク軸15の回転数をエンジンの回転数として検出するエンジン回転数センサSW1が設けられている。
【0023】
シリンダヘッド3には、インジェクタ10と、インジェクタ10から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火を行う点火プラグ11とが、各気筒2aにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。
【0024】
インジェクタ10は、燃料の噴射口となる複数の噴孔を先端部に有しており、各気筒2aの燃焼室5をその吸気側の側方から臨むように設けられている。インジェクタ10には、燃料タンク41に貯留されている燃料がフィルター等を介して供給される。
【0025】
点火プラグ11は、火花を放電するための電極を先端部に有しており、各気筒2aの燃焼室5を上方から臨むように設けられている。
【0026】
当実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン4が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン4が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が、ガソリンエンジンとしては比較的高い値に設定されている。このように高い幾何学的圧縮比を設定しているのは、理論熱効率の向上や、後述するCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)での着火性確保のためである。
【0027】
シリンダヘッド3には、吸気通路20から供給される空気を各気筒2aの燃焼室5に導入するための吸気ポート6と、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と、各気筒2aの燃焼室5で生成された排気を排気通路31に導出するための排気ポート7と、排気ポート7を開閉する排気弁9とが設けられている。
【0028】
吸気通路20は、単一の吸気管23と、この吸気管23と各気筒2aの吸気ポート6とを個別に連結する複数の(4本の)独立吸気通路24(図1の紙面に直交する方向に並んでいる)とで構成されている。吸気管23の下流端部には所定容積のサージタンク22が設けられており、サージタンク22から各吸気ポート6にそれぞれ独立吸気通路24が延びている。
【0029】
吸気管23の途中部には、吸気管23の通路を開閉可能なスロットル弁25と、エンジン本体1に吸入される空気(吸気)の流量を検出するためのエアフローセンサSW2とが設けられている。当実施形態では、スロットル弁25は、ポンピングロスを小さく抑えるために、燃料噴射停止時以外のほぼ常時全開付近の開度とされる。
【0030】
排気通路31は、単一の排気管と、この排気管と各気筒2aの排気ポート7とを個別に連結する複数の(4本の)独立吸気通路とで構成されている。排気通路31には、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ39が設けられている。また、排気通路31には、排気ひいては気筒2a内の空気と燃料の混合気の空燃比(空気と燃料の比率)を検出するためのA/FセンサSW3が設けられている。
【0031】
なお、例えば、気筒2a内の温度を高めること、あるいは、燃焼温度を低く抑えること等を目的として、排気通路31と吸気管23とを連結して、排気の一部を吸気管23に還流させるEGRシステムを設けてもよい。
【0032】
パージシステム40は、燃料タンク41内で蒸発した蒸発燃料を脱着可能に吸着するキャニスタ42と、キャニスタ42に空気を導入するパージエア管49と、キャニスタ42と吸気管23とを連結するパージ管(パージ通路)43とを備えている。
【0033】
キャニスタ42に吸着された蒸発燃料は、パージエア管49から導入された空気によってキャニスタ42から脱着される。キャニスタ42から脱着した蒸発燃料は空気とともにパージ管43を通って吸気管23に導入される。以下、この蒸発燃料と空気とからなるガスを、パージガスという。
【0034】
パージ管43は、吸気管23のうちスロットル弁25よりも下流側の部分に接続されている。当実施形態では、パージ管43はサージタンク22に接続されている。
【0035】
パージ管43には、パージ管43の上流端(キャニスタ42との接続部分)と下流端(吸気管23との接続部分)との差圧を変更するエアポンプ(ポンプ)44が設けられている。エアポンプ44は、ポンプモータ(不図示)により回転駆動されることでパージ管43内のガスを加圧するものであり、回転数が高いほどパージ管43のエアポンプ44の設置部分の圧力を高くして上記差圧を大きくする。エアポンプ44には、その回転数を検出するポンプ回転数センサSW4が取り付けられている。
【0036】
また、パージ管43のエアポンプ44よりも下流側(吸気管23側)の部分には、パージ管43を開閉するパージバルブ45が設けられている。パージバルブ45は、DUTYコントロールバルブであり、開閉を繰り返し、1回の開弁期間と閉弁期間とを合わせた単位期間に対する開弁期間の割合であるDUTY比が変更されることで開度が変更されるものである。なお、パージバルブ45は、電磁式バルブであり、DUTY比は、1回の通電期間と1回の非通電期間とを合わせた単位期間に対する通電期間の割合である。このDUTYコントロールバルブからなるパージバルブ45は、DUTY比が0%で全閉となり、100%で全開となる。また、DUTY比にほぼ比例して開度すなわち単位期間にバルブを通過するガス流量が変更される。より詳細には、当実施形態に係るパージバルブ45では、全閉付近および全開付近ではDUTY比と開度とは比例せず、例えば、5%〜95%の間でDUTY比と開度とが比例する。また、DUTY比が100%でなくとも100%に近い値(例えば95%以上の値)で、バルブの開度は全開となる。
【0037】
(2)制御系
次に、エンジンシステムの制御系について説明する。当実施形態のエンジンシステムは、自動車等の車両に搭載されており、車両に備わるECU(エンジン制御ユニット)60によって制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当するものである。
【0038】
ECU60には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU60は、エンジン回転数センサSW1、エアフローセンサSW2、A/FセンサSW3、ポンプ回転数センサSW4と電気的に接続されており、これらのセンサからの入力信号(エンジン回転数、吸気流量の情報、気筒2a内の混合気の空燃比、エアポンプ44の回転数)を受け付ける。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル70の開度を検出するアクセル開度センサSW5、車速を検出する車速センサSW6、変速段を検出する変速段センサSW7が設けられており、これらのセンサSW5〜SW7による検出信号もECU60に入力される。なお、変速段は、車速センサSW6で検出された車速と、エンジン回転数センサSW1で検出されたエンジン回転数とに基づいて算出してもよい。
【0039】
ECU60は、各センサ(SW1〜SW7等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンシステムの各部を制御する。すなわち、ECU60は、インジェクタ10、点火プラグ11、スロットル弁25、吸気弁8(吸気弁8を駆動する駆動機構)、排気弁9(排気弁9を駆動する駆動機構)、エアポンプ44(エアポンプ44を駆動するポンプモータ)、パージバルブ45(パージバルブ45を駆動する駆動機構)等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
【0040】
(i)エンジン本体の制御
図2は、エンジンの運転中にECU60によって参照される燃焼形態に係る制御マップを概念的に示した図である。
【0041】
当実施形態では、この制御マップに示すように、エンジンの最低負荷から切替負荷T1までの第1運転領域A1では、ピストン4の圧縮作用により混合気を高温、高圧化して圧縮上死点付近で自己着火させるCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)が実施され、切替負荷T1から最高負荷までの第2運転領域A2では、点火プラグ11からの火花放電による強制点火をきっかけに混合気を火炎伝播により燃焼させるSI燃焼(火花点火燃焼)が実施される。
【0042】
また、当実施形態では、第1運転領域A1では、気筒2a内の混合気の空燃比が1より大きくされてリーンCI燃焼が実施される。
【0043】
ECU60は、エンジンの運転中、負荷(アクセル開度に基づくエンジン要求トルク)およびエンジン回転数の各値から、エンジンが図2のマップ中のどの運転領域で運転されているかを逐次判定し、運転領域に応じてインジェクタ10等を制御する。
【0044】
具体的には、第1運転領域A1では、点火プラグ11による点火を停止するとともにインジェクタ10によって吸気行程中に燃焼室内に燃料を噴射させる。一方、第2運転領域A2では、点火プラグ11による点火を実施する。
【0045】
また、当実施形態では、上記のように、ECU60は、ほぼ常時スロットル弁25を全開付近の開度とする。
【0046】
(ii)パージ制御
次に、キャニスタ42から吸気管23に導入されるパージガスの制御について説明する。
【0047】
まず、パージガスに含まれる蒸発燃料の濃度学習について簡単に説明する。
【0048】
当実施形態では、A/FセンサSW3で検出された気筒2a内の混合気の空燃比と、エアフローセンサSW2の検出値等から推定される気筒2aに導入された空気量とに基づいて、気筒2aに供給された燃料量を推定する。そして、この燃料量からインジェクタ10から気筒2aに噴射された燃料量を差し引くことで、気筒2aに供給された蒸発燃料量を推定する。そして、後述する要求パージ量と推定した蒸発燃料量とからパージガスに含まれる蒸発燃料の濃度を推定、学習する。
【0049】
当実施形態では、この蒸発燃料の濃度学習はエンジンの稼働中ほぼ常時行われており、常に更新される。なお、始動時等であってこの濃度学習が未だ行われていない場合には、まず、アイドル運転等のエンジン負荷の低い運転条件にて、少量のパージガスを吸気管23に供給して、このときのA/FセンサSW3の検出値等に基づいて蒸発燃料の濃度を推定する。
【0050】
次に、ECU60により行われるパージガスの流量制御について、図3のフローチャートを用いて説明する。なお、この図3のフローチャートは、少なくとも1回、上記蒸発燃料の濃度学習が行われた後の制御手順を示している。
【0051】
まず、ステップS1にて、車速センサSW6の検出値(車速)、アクセル開度センサSW5の検出値(アクセル開度)、変速段センサSW7の検出値(変速段)、ポンプ回転数センサSW4の検出値(ポンプ回転数Np)を読み込む。
【0052】
次に、ステップS2にて、ステップS1で読み込んだ車速、アクセル開度、変速段に基づいてエンジン要求トルクを計算する。
【0053】
次に、ステップS3にて、ステップS2で計算したエンジン要求トルクに基づいて、気筒2a内に供給する燃料量の目標値である要求燃料量を計算する。
【0054】
次に、ステップS4にて、ステップS3で計算した要求燃料量に基づいて、気筒2aおよび吸気管23に導入する蒸発燃料の量である要求蒸発燃料量を計算する。具体的には、要求燃料量の一定割合量を要求蒸発燃料量として算出する。このように、当実施形態では、要求燃料量ひいてはエンジン負荷と要求蒸発燃料量とが比例する。
【0055】
次に、ステップS5にて、ステップS4で算出した要求蒸発燃料量に基づいて、吸気管23に導入する単位時間あたりのパージガスの量すなわちパージガスの流量(以下、パージ量という場合がある)の目標値である要求パージ量を計算する。具体的には、要求蒸発燃料量と学習した蒸発燃料の濃度とから、要求蒸発燃料量を含むパージガスの量を要求パージ量として算出する。
【0056】
次に、ステップS6にて、ステップS5で計算した要求パージ量に基づいて、エアポンプ44の回転数の目標値である目標ポンプ回転数Npo、および、パージバルブ45のDUTY比の基本値である基本DUTY比を設定する。
【0057】
当実施形態では、目標ポンプ回転数Npoを、図4に示すように設定する。
【0058】
具体的には、要求パージ量が予め設定された基準パージ量Qp1未満の低流量領域(特定の運転領域)B1では、目標ポンプ回転数Npoを、予め設定された第1回転数(最低回転数)N1_minと第2回転数(最高回転数)N1_maxとの間で、要求パージ量が多いほど高くなるように設定する。当実施形態では、目標ポンプ回転数Npoは要求パージ量に比例して高くされている。
【0059】
基準パージ量Qp1は、エンジン負荷が切替負荷T1となるときの要求燃料量の一定割合量以下の値に設定されており、低流量領域B1は、リーンCI燃焼が実施される第1運転領域A1に含まれている。
【0060】
要求パージ量が基準パージ量Qp1以上の高流量領域B2では、目標ポンプ回転数Npoを、上記第2回転数N1_maxよりも低い値N2から要求パージ量に比例して高くなるように設定する。
【0061】
また、基本DUTY比を、図5に示すように設定する。
【0062】
具体的には、低流量領域B1では、パージバルブ45の基本的な開度が全閉と全開との間の中間開度になるように、基本DUTY比を、0%と100%との間の中間値に設定する。当実施形態では、この中間値は、要求パージ量によらず一定の値D1(以下、適宜、低流量基本DUTY比という)とされ、低流量領域B1において基本的なパージバルブ45の開度は要求パージ量によらず一定の開度とされる。また、この低流量基本DUTY比は、上記のように、パージバルブ45の開度とDUTY比とが比例する範囲(例えば、5%〜95%の間)内の値に設定されている。
【0063】
また、高流量領域B2では、基本DUTY比を、100%に設定し、パージバルブ45の基本的な開度を全開とする。
【0064】
ここで、第1回転数N1_minと低流量基本DUTY比D1とは、次のように設定されている。すなわち、エアポンプ44の回転数を第1回転数N1_minとしパージバルブ45のDUTY比を低流量基本DUTY比D1としたときにパージ量が要求パージ量の最小値となるように、かつ、エアポンプ44の回転数を第1回転数N1_minとしパージバルブ45を全開(DUTY比を100%に近い値であってバルブ開度とDUTY比とが比例する範囲の最大値(例えば95%))としたときに、パージ量が低流量領域B1の要求パージ量の最大値(基準パージ量Qp1)以上となるように設定されている。
【0065】
ステップS6の次に進むステップS7では、エアポンプ44の回転数をステップS6で設定した目標ポンプ回転数Npoに制御する。具体的には、エアポンプ44の回転数が目標ポンプ回転数Npoになるようにポンプモータの駆動力を変更する。
【0066】
ステップS7の次に進むステップS8では、ステップS5で計算した要求パージ量が基準パージ量Qp1未満か否かを判定する。すなわち、低流量領域B1での運転中であるか否かを判定する。
【0067】
ステップS8の判定がNOであって、要求パージ量が基準パージ量Qp1以上であり高流量領域B2で運転されている場合は、ステップS10に進み、DUTY比を基本DUTY比に制御する。上記のように、高流量領域B2では、基本DUTY比は100%に設定されており、ステップS10では、DUTY比が100%とされてパージバルブ45は全開とされる。ステップS10の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0068】
一方、ステップS8の判定がYESであって、要求パージ量が基準パージ量Qp1未満であり低流量領域B1で運転されている場合は、ステップS11に進む。
【0069】
ステップS11では、ステップS6で設定された目標ポンプ回転数NpoとステップS1で検出された現在のポンプ回転数Npとの偏差(これらの差の絶対値)が、予め設定された基準偏差未満か否かを判定する。基準偏差は例えば0に近い値に設定されている。
【0070】
ステップS11での判定がYESであって、目標ポンプ回転数Npoとのずれが基準偏差未満となる回転数にポンプ回転数Npが到達している場合には、ステップS12に進み、DUTY比を基本DUTY比に制御する。上記のように、低流量領域B1では、基本DUTY比は中間値である低流量基本DUTY比D1に設定されており、ステップS12では、DUTY比が低流量基本DUTY比D1とされてパージバルブ45の開度が中間開度とされる。ステップS12の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0071】
一方、ステップS11での判定がNOであって、目標ポンプ回転数Npoとのずれが基準偏差未満となる回転数にポンプ回転数Npが到達していない場合は、ステップS13に進む。
【0072】
ステップS13では、パージバルブ45のDUTY比を現在のポンプ回転数Np(ステップS1で検出されたポンプ回転数Np)とステップS5で設定された要求パージ量とに基づいて、要求パージ量が実現されるように補正する。すなわち、DUTY比が、現在のポンプ回転数Npでパージ量を要求パージ量とすることのできるDUTY比に補正される。当実施形態では、ポンプ回転数NpとDUTY比とパージ量との関係が予め実験等により求められてECU60にマップで記憶されており、ECU60は、このマップから、要求パージ量および現在のポンプ回転数Npに応じたDUTY比を抽出する。ステップS13の後は処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、当実施形態では、DUTY比は、DUTY比とバルブ開度とが比例する範囲内で補正される。
【0073】
(3)作用等
以上のように、当実施形態では、要求パージ量が基準パージ量Qp1未満の低流量領域B1では、基本的に、パージバルブ45のDUTY比が中間値である低流量基本DUTY比D1とされてパージバルブ45の開度が中間開度とされる。
【0074】
一方、加減速時に要求燃料量が変化することに伴って要求パージ量が変化し、この要求パージ量の変化に伴って目標ポンプ回転数Npoが変化したとき等において、目標ポンプ回転数Npoとのずれが基準偏差未満となる回転数にポンプ回転数Npが到達していない場合には、ポンプ回転数Npが目標ポンプ回転数Npoに向けて変更されつつ、DUTY比が補正されることで、パージ量が要求パージ量に制御される。
【0075】
そのため、低流量領域B1において、ポンプ回転数Npの変更によって適正量のパージガスすなわち蒸発燃料を吸気管23に導入することができるとともに、エアポンプ44の応答遅れに伴うパージ量の要求パージ量からのずれを抑制することができ、パージガスおよび蒸発燃料をより確実に適正量吸気管23に導入することができる。
【0076】
図6を用いて、具体的に説明する。図6は、加速等に伴い要求パージ量が増加した場合の、パージ量、ポンプ回転数、パージバルブ45のDUTY比の時間変化を模式的に示した図である。図6において、実線は当実施形態に係る上記制御を実施した場合の様子を示し、鎖線は、上記制御のうちステップS11、S13の制御を省略した比較例での様子を示している。
【0077】
時刻t1にて要求パージ量が急増した場合、目標ポンプ回転数も急増する。しかしながら、エアポンプ44の回転には応答遅れがあるため、ポンプ回転数はすぐには増加しない。そのため、比較例の場合すなわちパージバルブ45のDUTY比がポンプ回転数等に基づいて補正されない場合では、パージ量が徐々にしか増加せず、パージ量の目標値(要求パージ量)からのずれが大きくなる。従って、この比較例の場合では、吸気管23に導入される蒸発燃料量が要求蒸発燃料量から大きくずれて、気筒2a内の混合気の空燃比が目標の空燃比から大きくずれてしまう。
【0078】
これに対して、当実施形態では、時刻t1にて要求パージ量および目標ポンプ回転数が急増すると、現在のポンプ回転数と要求パージ量に応じてパージバルブ45のDUTY比が補正される。図6に示す例では、時刻t1直後、パージバルブ45のDUTY比が低流量基本DUTY比D1よりも大きい100%に近い値とされてパージバルブ45が全開とされる。そして、ポンプ回転数が増大するのに合わせてパージバルブ45のDUTY比が低下されていく。そのため、パージ量を、早期に要求パージ量まで増大させ、かつ、要求パージ量に維持することができる。従って、気筒2a内の混合気の空燃比を適正な値にすることができる。
【0079】
特に、当実施形態では、上記のように、低流量領域B1が、リーンCI燃焼が実施される第1運転領域A1に含まれるように設定されている。そのため、仮に、この領域B1(A1)において混合気の空燃比がずれると、適正な燃焼が実現されず、エンジン性能が顕著に悪化するおそれがある。例えば、失火が生じたり排気性能が悪化するおそれがある。これに対して、上記のように、当実施形態では低流量領域B1において気筒2a内の混合気の空燃比を適正な値に維持することができるため、適正な燃焼を実現することができる。
【0080】
また、当実施形態では、上記のように、エアポンプ44の回転数を第1回転数N1_minとしパージバルブ45のDUTY比を低流量基本DUTY比D1としたときにパージ量が要求パージ量の最小値となり、かつ、ポンプ回転数を第1回転数N1_minとし、パージバルブ45を全開としたときに、パージ量が低流量領域B1の要求パージ量の最大値(基準パージ量Qp1)以上となるように、第1回転数N1_minと低流量基本DUTY比とが設定されている。そのため、要求パージ量が、低流量領域B1において最小量から最大量(基準パージ量Qp1)まで急増した場合であっても、パージバルブ45のDUTY比の補正によって、早期にパージ量を要求パージ量に変更することができる。
【0081】
(4)変形例
上記実施形態では、低流量領域B1における基本DUTY比を要求パージ量によらず一定にした場合について説明したが、基本DUTY比は、パージバルブ45の開度が全閉と全開との間の中間開度となる中間値であればよく、要求パージ量に応じて変化するように設定されてもよい。例えば、基本DUTY比を要求パージ量に応じて比例するように設定してもよい。ただし、低流量領域B1における基本DUTY比を要求パージ量によらず一定とすれば、パージバルブ45のDUTY比を頻繁に変更する必要がなく、制御構成を簡素化することができる。
【0082】
また、低流量領域B1での燃焼形態は上記に限らない。ただし、上記のようにこの領域B1にてリーンCI燃焼が実施される場合には、空燃比が適切に制御されることで適正な燃焼を実現することができ、高い効果を得ることができる。
【0083】
また、全運転領域を低流量領域B1(ステップS11〜S13の制御が実施される領域)としてもよい。すなわち、図3において、ステップS8およびS10を省略してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 エンジン本体
2a 気筒
42 キャニスタ
43 パージ管(パージ通路)
44 エアポンプ(ポンプ)
45 パージバルブ
60 ECU(制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6