(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、前記回転軸の周方向に複数のシリンダボアを有し、前記回転軸と一体に回転するシリンダブロックと、前記複数のシリンダボア内のそれぞれに摺動自在に設けられたピストンと、前記ピストンの先端部が摺接可能であって前記回転軸に対して傾斜可能に支持された斜板と、を備え、前記ピストンが、斜板の傾角に応じたストロークで往復動することで、作動流体の吸入および吐出をおこなう可変容量型ポンプであって、
前記斜板を押圧する円柱状のピストン部を有し、前記作動流体の吐出容量が最大となる最大傾角と前記作動流体の吐出容量が最小となる最小傾角との間で前記斜板の傾角を調整するコントロールピストンと、
前記ハウジングに形成されていると共に、前記ピストン部を収容しているピストン収容部と、
前記斜板と前記ピストン部との間に配置されており、前記ピストン部により前記斜板側へ押圧される被押圧部と、を備え、
前記斜板の傾角が、前記作動流体の吐出容量が前記最大と前記最小との中間の量となる中間傾角であるときに、前記ピストン部と前記被押圧部との接点は、前記ピストン部の前記斜板側の端面における前記ピストン部の軸心上に位置し、
前記斜板の傾角が前記中間傾角であるときに、前記接点は、前記回転軸の軸心に直交し且つ前記斜板の回転中心を通る垂直基準線上に位置している、可変容量型ポンプ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載した可変容量型ポンプでは、斜板の傾角に応じて、ピストン部のコロ等に対する接点の位置ずれが生じる。この位置ずれ等によって、ピストン部には、ピストン収容部の軸心に沿った方向からピストン部の軸心方向が傾けられる向きの力が作用する。このような力が作用した状態でピストン部がピストン収容部内を摺動すると、ピストン収容部にピストン部が引っ掛かりやすく、ピストン収容部の摩耗、ひいてはハウジングの摩耗が生じやすい。
【0005】
本発明は、ハウジングの摩耗を抑制することができる可変容量型ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る可変容量型ポンプは、ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、回転軸の周方向に複数のシリンダボアを有し、回転軸と一体に回転するシリンダブロックと、複数のシリンダボア内のそれぞれに摺動自在に設けられたピストンと、ピストンの先端部が摺接可能であって回転軸に対して傾斜可能に支持された斜板と、を備え、ピストンが、斜板の傾角に応じたストロークで往復動することで、作動流体の吸入および吐出をおこなう可変容量型ポンプであって、斜板を押圧する円柱状のピストン部を有し、作動流体の吐出容量が最大となる最大傾角と作動流体の吐出容量が最小となる最小傾角との間で斜板の傾角を調整するコントロールピストンと、ハウジングに形成されていると共に、ピストン部を収容しているピストン収容部と、斜板とピストン部との間に配置されており、ピストン部により斜板側へ押圧される被押圧部と、を備え、斜板の傾角が、作動流体の吐出容量が最大と最小との中間の量となる中間傾角であるときに、ピストン部と被押圧部との接点は、ピストン部の斜板側の端面におけるピストン部の軸心を含む中央部分に位置している。
【0007】
本発明に係る可変容量型ポンプでは、斜板の傾角が中間傾角であるとき、コントロールピストンのピストン部と被押圧部との接点(以下、単に「接点」ともいう)が、ピストン部の斜板側の端面におけるピストン部の軸心を含む中央部分に位置している。すなわち、接点がピストン部の軸心上又は軸心付近に位置している。このような位置関係にすることにより、ピストン部の軸心上からの接点の位置ずれが、斜板の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなることが抑制される。これにより、ピストン部の軸心上からピストン部の外周側への接点の位置ずれが、斜板の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなり難い。ここで、接点の位置がピストン部の軸心上からピストン部の外周側へとずれるほど、ピストン部には、ピストン収容部の軸心に沿った方向からピストン部の軸心方向が傾けられる向きの力(以下、「傾力」ともいう)が大きく作用する。本発明では、ピストン部の軸心上からピストン部の外周側への接点の位置ずれが過剰に大きくなり難いため、ピストン部に作用する傾力を抑制することができる。よって、傾力が作用した状態でピストン部がピストン収容部内を摺動することによって生じるピストン収容部の摩耗を抑制することができ、ひいてはハウジングの摩耗を抑制することが可能となる。
【0008】
本発明に係る可変容量型ポンプにおいて、斜板の傾角が中間傾角であるときに、接点は、ピストン部の軸心上に位置していてもよい。この場合、ピストン部の軸心上からピストン部の外周側への接点の位置ずれが、斜板の傾角が最大傾角のときと最小傾角のときとで略同じ程度になり、ピストン部に作用する傾力がより抑制される。よって、傾力が作用した状態でピストン部がピストン収容部内を摺動することによって生じるピストン収容部の摩耗をより抑制することができ、ひいてはハウジングの摩耗をより抑制することが可能となる。
【0009】
本発明に係る可変容量型ポンプにおいて、斜板の傾角が中間傾角であるときに、接点は、回転軸の軸心に直交し且つ斜板の回転中心を通る垂直基準線上に位置していてもよい。この場合、垂直基準線上からの接点の位置ずれが、斜板の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなることが抑制される。これにより、垂直基準線を基準とした斜板の傾きが、最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなり難い。すなわち、中間傾角を基準としたときの斜板の傾角の変位が小さい。よって、斜板の傾角の変位に応じた接点の位置ずれの度合いを小さくすることができ、接点の位置ずれによってピストン部に作用する傾力をさらに抑制することができる。その結果、ピストン収容部の摩耗、ひいてはハウジングの摩耗をさらに抑制することができる。
【0010】
本発明に係る可変容量型ポンプでは、ピストン部の斜板側の端面に形成された窪み部を更に備えていてもよい。ピストン部の斜板側の端面に形成された窪み部には、ピストン部又は斜板等の周囲に満たされている作動流体が溜まる。よって、窪み部に溜まった作動流体によって、ピストン部と被押圧部との間が確実に潤滑された状態となり、接点の位置ずれによって生じる摩擦力が低減される。当該摩擦力は、ピストン部に作用する傾力を生じさせる要因の一つであるため、当該摩擦力を低減することによりピストン部に作用する傾力をさらに抑制することができる。これにより、傾力が作用した状態でピストン部がピストン収容部内を摺動することによって生じるピストン収容部の摩耗を一層抑制することができ、ひいてはハウジングの摩耗を一層抑制することが可能となる。
【0011】
本発明に係る可変容量型ポンプにおいて、ピストン部の軸心は、回転軸の軸心に対して傾いていてもよい。この場合、例えば斜板等の大きさを変えなくても、ピストン部の斜板側の端面におけるピストン部の軸心を含む中央部分に、接点を容易に位置させることができる。その結果、小型化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハウジングの摩耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0015】
まず、本実施形態に係る可変容量型ポンプ1の構成について説明する。可変容量型ポンプ1について、
図1を参照しつつ説明する。
【0016】
可変容量型ポンプ1は、ポンプハウジング10(ハウジング)と、ポンプハウジング10に回転可能に支持されるとともにポンプハウジング10から突出する突出端部を有する回転軸20と、回転軸20の周方向に複数のシリンダボア14aを有し、回転軸20と一体に回転するシリンダブロック14と、複数のシリンダボア14a内のそれぞれに摺動自在に設けられたピストン16と、ピストン16の先端部が摺接可能であって、回転軸20に対して傾斜可能に支持された斜板30と、を備えている。可変容量型ポンプ1では、ピストン16が、斜板30の傾角に応じたストロークの往復動をおこなって、作動流体の吸入および吐出をおこなう。
【0017】
ポンプハウジング10は、フロントハウジング10aとメインハウジング10bとを備えており、これら両部材は図示しないネジ部材によって一体に形成されている。
【0018】
ポンプハウジング10には、一端部及び他端部が軸受部60A、60Bにより回転自在に支持された回転軸20が取り付けられている。回転軸20は、そのポンプハウジング10からの突出端部が、エンジンやモータなどの図示しない動力取出装置に連結されている。動力取出装置の駆動に伴い回転軸20は回転する。
【0019】
ポンプハウジング10の内部には、回転軸20に一体回転可能にスプライン嵌合されたシリンダブロック14が収容されている。シリンダブロック14には、回転軸20の周方向に所定の間隔で配置された複数のシリンダボア14aが形成されている。各シリンダボア14a内にはそれぞれピストン16が摺動自在に挿入されている。各ピストン16の一端部(
図1の左端部)である頭部にはそれぞれシューが取り付けられており、それら複数のシューはリテーナプレート36により一括で保持されている。
【0020】
ポンプハウジング10の内部におけるフロントハウジング10a側には、斜板軸受30aを介して回動可能に支持され、かつ、回転軸20の軸線方向に揺動可能な斜板30が収容されている。シリンダブロック14と回転軸20との間に設けられたばね部材34の付勢力をピボット35を介してリテーナプレート36に伝えることで、リテーナプレート36が斜板30側に押し付けられ、各ピストン16はシューを介して斜板30に摺動自在に当接される。また、シリンダブロック14はメインハウジング10bのフロントハウジング10a側と反対側の内端壁面に止着されたバルブプレート40に押接される。
【0021】
斜板30は、ピストン16のストロークを規定する傾角を変更可能とするように回転中心X回りに回転可能に配置されている。斜板30は、その背面側(シリンダブロック14と対向する端面とは反対側)に配置された斜板軸受30aによってその位置が保持されている。斜板30は、斜板軸受30aの支持面30eに接するように配置されている。
斜板30は、斜板軸受30aの支持面30eの曲率に沿って揺動可能となっている。斜板30は、回転中心Xを基準に傾転又は回転する。すなわち、斜板30は、回転中心X回りに傾転又は回転する。回転中心Xは、支持面30eの曲率中心でもある。なお、
図1において、回転中心Xを点で示しているが、回転中心Xの先は奥行方向(紙面に垂直な方向)に延びている。
【0022】
斜板30は、その前面側(シリンダブロック14と対向する端面側)が平坦面30fとなっている。平坦面30fは、シリンダブロック14から突出する各ピストン16の一端部が、シューを介して摺接している。斜板30の傾角は、例えば回転軸20の軸心20aに直交する直線を基準とする斜板30の角度として定義される。本実施形態において、斜板30の傾角は、回転軸20の軸心20aに直交する直線に対する平坦面30fの角度として定義される。
【0023】
斜板30の縁部30bには、斜板30の平坦面30f側に凹部30cが形成されている。凹部30cには、円筒状のコロ32(被押圧部)が収容されている。斜板30の縁部30bには、平坦面30fとは反対側の前端面側に凹部30dが形成されている。凹部30dには、円筒状のコロ22が収容されている。
【0024】
フロントハウジング10aの内部には、斜板30の凹部30dに設けられたコロ22をシリンダブロック14側へ付勢する付勢機構41が設けられている。付勢機構41は、バネ受け凹部42と、バネ内蔵用中空ピストン27と、バネ28とを含んでいる。
【0025】
バネ受け凹部42は、フロントハウジング10aにおいて斜板30側に開口されている。バネ内蔵用中空ピストン27は、バネ受け凹部42内に挿入されている。バネ内蔵用中空ピストン27は、斜板30と当接すると共に、バネ受け凹部42の側面に対して摺動可能となるように設けられている。バネ内蔵用中空ピストン27は、斜板30と対向する端面と反対側が開放されている。バネ28は、バネ内蔵用中空ピストン27内に収容されている。バネ28の一端は、バネ受け凹部42の面に当接している。バネ28の他端は、バネ内蔵用中空ピストン27の内壁面に当接している。
【0026】
シリンダブロック14が回転軸20と一体的に回転されることにより、各ピストン16が斜板30の傾角により規定されたストロークを往復動されるとともに、シリンダボア14aがバルブプレート40に透設された円弧状をなす吸入ポート(不図示)および吐出ポート(不図示)と交互に連通される。これにより作動油が吸入ポートからシリンダボア14a内に吸入され、シリンダボア14a内の作動油はポンプ作用により吐出ポートから吐出される。なお、吸入通路(不図示)および吐出通路(不図示)はメインハウジング10bの他端部側の壁部に形成され、それぞれ吸入ポートおよび吐出ポートと連通されている。
【0027】
可変容量型ポンプ1は、さらにコントロールピストン50を備えている。コントロールピストン50は、斜板30を押圧するピストン部58を有し、斜板30の傾角を制御する。コントロールピストン50は、ポンプハウジング10のメインハウジング10bの側部に形成されたピストン収容部52に収容されている。
【0028】
ピストン収容部52は、回転軸20に対して傾いた方向に延在し、かつ、斜板30の縁部に向かって延びる略円筒状の形状を有している。すなわち、ピストン収容部52の軸心は、回転軸20の軸心20aに対して傾いている。
【0029】
ピストン収容部52の斜板30から遠い側の端部は、壁部52aによって塞がれている。それにより、ピストン収容部52内にはピストン収容室56が画成されている。なお、ピストン収容部52の斜板30から遠い側の端部は、例えばネジ等によって塞がれていてもよい。ピストン収容室56には、ピストン部58が収容されている。なお、ピストン収容室56のうち、ピストン部58と壁部52aとの間の空間は、作動油が流入する制御室56aとして機能する。
【0030】
ピストン部58は、円柱状の外形を有しており、その径は、ピストン収容室56の内壁面との間に隙間がないように、かつ、ピストン収容室56においてピストン部58が摺動できるように設計されている。ピストン部58の直径は、容積の縮小及び復帰速度等に影響し、用途によって適宜調整される。ピストン部58の軸心Aは、回転軸20の軸心20aに対して傾いている。すなわち、ピストン部58の軸心Aは、ピストン収容部52の軸心方向に沿っている。
【0031】
コントロールピストン50によれば、制御室56aへの作動油を制御することで、ピストン部58を斜板30の向きに往復動させることができる。そして、ピストン部58が斜板30の縁部30bに設けられたコロ32を押圧すると、斜板30の傾角が変更され、その結果、可変容量型ポンプ1の吐出容量が変更される。すなわち、コントロールピストン50は、斜板30の傾角を制御する。コントロールピストン50は、コロ32を押圧して、作動流体の吐出容量が最大となる最大傾角と作動流体の吐出容量が最小となる最小傾角との間で、斜板30の傾角を調整する。
【0032】
斜板30が最小傾角から最大傾角に変化するときは、バネ28の付勢力によってバネ内蔵用中空ピストン27がバネ受け凹部42に対して斜板30側に摺動する。すると、バネ内蔵用中空ピストン27がコロ22を介して斜板30を押圧し、斜板30がコロ32を介してピストン部58の端面58aを押圧する。これにより、斜板30が最大傾角となり、可変容量型ポンプ1の吐出量が最大となる(
図3参照)。
【0033】
一方、斜板30が最大傾角から最小傾角に変化するときは、不図示の制御弁によって流量が制御された作動油が制御室56aに流入する。なお、作動油の流入量は、不図示の制御弁によって制御されている。すると、ピストン部58の端面58aがコロ32を介して斜板30を押圧し、斜板30がコロ22を介してバネ内蔵用中空ピストン27を押圧する。このため、バネ28の付勢力に抗してバネ内蔵用中空ピストン27がバネ受け凹部42に対して斜板30の反対側に摺動する。これにより、斜板30の傾角が小さくなり、可変容量型ポンプ1の吐出量が減少する。そして、バネ内蔵用中空ピストン27の先端(開放端)がバネ受け凹部42の面に近接又は当接すると、斜板30が最小傾角となり、可変容量型ポンプ1の吐出量が最小となる。
【0034】
本実施形態の可変容量型ポンプ1では、斜板30の傾角が中間傾角であるときに、ピストン部58とコロ32との接点P(以下、単に「接点P」ともいう)が、ピストン部58の端面58aにおける中央部分58a
1(
図2参照)に位置している。中間傾角とは、可変容量型ポンプ1の吐出量が最大と最小との中間の量、すなわち最大と最小との間のちょうど真ん中の量となるときの斜板30の傾角である。接点Pとは、回転中心Xが延びている方向(紙面に垂直な方向)から見た場合に、ピストン部58とコロ32とが接している点である。換言すると、接点Pとは、回転中心Xと直交する仮想断面上におけるピストン部58とコロ32とが接している点である。
【0035】
図2は、中間傾角のときに接点Pが位置するピストン部58の端面58aの中央部分58a
1を示す図である。
図2に示すように、ピストン部58の端面58aは、軸心Aを含む中央部分58a
1と、中央部分58a
1を取り囲む外周部分58a
2と、を有している。中央部分58a
1は、軸心Aを含んだ所定の領域(図中の斜線で示す領域)をピストン部58の端面58a側から見た領域である。すなわち、中央部分58a
1とは、軸心Aを中心として、軸心Aを取り囲む所定の領域である。中央部分58a
1は、外周部分58a
2よりも小さい面積を有している。中央部分58a
1の軸心Aに直交する方向での直径L1は、ピストン部58の軸心Aが伸びている方向での全長L2の0.1倍程度である。例えば、ピストン部58の全長L2が40mmである場合には、中央部分58a
1は直径L1が4mm程度となる。
【0036】
中間傾角のときの接点Pは、中央部分58a
1に含まれるように位置している。すなわち、中間傾角のときの接点Pは、ピストン部58の軸心A上又は軸心A付近に位置している。これにより、ピストン部58の軸心A上からの接点Pの位置ずれが、斜板30の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなることが抑制される。
【0037】
本実施形態の可変容量型ポンプ1では、斜板30の傾角が中間傾角であるときに、接点Pが、軸心A上に位置している(
図4参照)。接点Pがピストン部58の軸心A上に位置しているとは、接点Pの位置が軸心A上にちょうど重なっている場合だけでなく、接点Pの位置が軸心Aから多少ずれている場合も含む。例えば、接点Pの位置の軸心Aからのずれがピストン部58の全長L2の0.1倍程度以内である場合には、接点Pが軸心A上に位置しているとみなしてもよい。
【0038】
さらに、本実施形態の可変容量型ポンプ1では、斜板30の傾角が中間傾角であるときに、接点Pが、垂直基準線B上に位置している(
図4参照)。すなわち、斜板30の傾角が中間傾角であるときに、接点Pは、ピストン部58の軸心Aと垂直基準線Bとの交差点に略一致している。垂直基準線Bとは、回転軸20の軸心20a(
図1参照)直交し且つ回転中心Xを通る直線である。
【0039】
接点Pが垂直基準線B上に位置しているとは、接点Pの位置が垂直基準線B上にちょうど重なっている場合だけでなく、接点Pの位置が垂直基準線Bから多少ずれている場合も含む。例えば、接点Pの位置の垂直基準線Bからのずれが最大傾角と最小傾角との差αの1/10程度以内である場合には、接点Pが垂直基準線B上に位置しているとみなしてもよい。
【0040】
本実施形態の可変容量型ポンプ1では、斜板30の傾角が中間傾角であるときの接点Pが上記のような位置関係となるように、斜板30、コロ32、及びピストン部58等が配置されている。例えば、ピストン部58の軸心Aを回転軸20の軸心20aに対して傾斜させることにより、容易に上記のような位置関係とすることができる。
【0041】
ピストン部58の斜板30側の端面58aには、窪み部58bが形成されている。窪み部58bは、ピストン部58の端面58a上におけるコロ32の可動範囲内に形成されている。窪み部58bは、例えば端面58aにおけるピストン部58の軸心Aを通る中央部付近に形成されている。
【0042】
窪み部58bは、例えば略円形状に開口されている。窪み部58bは、例えばピストン部58の軸心Aを中心としてピストン部58の全長L2の0.1倍程度の直径を有している。窪み部58bは、例えば、窪み部58bは、コロ32と反対側に窪んでいる。窪み部58bは、ポンプハウジング10内のピストン部58又は斜板30等の周囲に満たされている作動油が溜まっている。窪み部58bに溜まっている作動油は、コロ32に供給され、ピストン部58とコロ32との間が確実に潤滑された状態となる。
【0043】
次に、
図3〜
図5を参照して、斜板30の傾角に応じた接点Pの変位について説明する。
図3は、最大傾角であるときの接点Pを示す概略断面図である。
図4は、中間傾角であるときの接点Pを示す概略断面図である。
図5は、最小傾角であるときの接点Pを示す概略断面図である。
【0044】
図4に示すように、斜板30の傾角が中間傾角(例えば10°)であるときの接点Pは、上述したように、軸心A上に位置しており、且つ、垂直基準線B上に位置している。このような位置関係を満たすように斜板30、コロ32、及びピストン部58等が配置されている場合に、斜板30の傾角は、最大傾角と最小傾角との間で変位すると、最大傾角、中間傾角、及び最小傾角の順で変位するのに応じて、接点Pの位置が
図3、
図4及び
図5に示すように変位する。
【0045】
図3に示すように、斜板30の傾角が中間傾角から最大傾角(例えば20°)になると、斜板30はピストン部58側により傾く。斜板30は、コロ32を介してピストン部58の端面58aを押圧する。ピストン部58は、斜板30の押圧によってピストン収容部52内を摺動し、ピストン部58の略全体がピストン収容部52内に収容される。このとき、接点Pの位置は、軸心Aに垂直な方向で、軸心A上の位置よりも下側(ピストン部58とは反対側)にずれる。これにより、接点Pの位置は、軸心Aに垂直な方向で、軸心A上の位置から例えばピストン部58の全長L2の0.1倍程度(より具体的には、ピストン部58の全長L2が40mmである場合には4mm程度)だけ下側に変位する。すなわち、接点Pの位置は、軸心A上の位置を基準として、ピストン部58の端面58aの外周側に例えばピストン部58の全長L2の0.1倍程度(より具体的には、ピストン部58の全長L2が40mmである場合には4mm程度)だけずれている。
【0046】
また、接点Pの位置は、垂直基準線Bに垂直な方向で、垂直基準線B上の位置よりも右側(ピストン部58側)にずれる。これにより、接点Pの位置は、垂直基準線Bに垂直な方向で、垂直基準線B上の位置から例えば最大傾角と最小傾角との差αの1/2程度だけ右側に変位する。
【0047】
図5に示すように、斜板30の傾角が中間傾角から最小傾角(例えば0°)になると、作動油が制御室56aに流入し、ピストン部58がピストン収容部52から斜板30側へ押し出される。すなわちピストン部58の端面58aがコロ32を介して斜板30を押圧する。このとき、接点Pの位置は、軸心Aに垂直な方向で、軸心A上の位置よりも下側(ピストン部58とは反対側)にずれる。これにより、接点Pの位置は、軸心Aに垂直な方向で、軸心Aの位置から例えばピストン部58の全長L2の0.1倍程度(より具体的には、ピストン部58の全長L2が40mmである場合には4mm程度)だけ変位する。すなわち、接点Pの位置は、軸心A上の位置を基準として、ピストン部58の端面58aの外周側に例えばピストン部58の全長L2の0.1倍程度(より具体的には、ピストン部58の全長L2が40mmである場合には4mm程度)だけずれている。
【0048】
また、接点Pの位置は、垂直基準線Bに垂直な方向で、垂直基準線B上の位置よりも左側(ピストン部58とは反対側)にずれる。これにより、接点Pの位置は、垂直基準線Bに垂直な方向で、垂直基準線B上の位置から例えば最大傾角と最小傾角との差αの1/2程度だけ左側に変位する。
【0049】
図3及び
図5に示すように、軸心Aからの接点Pの位置ずれの度合いが、斜板30の傾角が中間傾角から最大傾角になるときと、斜板30の傾角が中間傾角から最小傾角になるときとで略同じ程度となっている。すなわち、軸心A上の位置からの接点Pの位置ずれが、最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなることが抑制されている。これにより、軸心A上からピストン部58の外周側への接点Pの位置ずれが、斜板30の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなり難くなっている。
【0050】
さらに、垂直基準線Bからの接点Pの位置ずれの度合いが、斜板30の傾角が中間傾角から最大傾角になるときと、斜板30の傾角が中間傾角から最小傾角になるときとで略同じ程度となっている。すなわち、垂直基準線B上からの接点の位置ずれが、最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなることが抑制されている。これにより、垂直基準線Bを基準とした斜板30の傾きが、最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなり難くなっている。すなわち、中間傾角を基準としたときの斜板30の傾角の変位が小さくなっている。
【0051】
接点Pの位置ずれが生じると、ピストン部58とコロ32との間には摩擦力が生じる。この摩擦力は、ピストン部58の軸心Aが傾けられる向きの力(以下、「傾力」ともいう)を生じさせる要因の一つである。ピストン部58の軸心Aが傾けられる向きとは、例えばピストン部58の軸心Aがピストン収容部52の軸心に沿った方向から傾けられる向きである。接点Pが軸心A上の位置からのピストン部58の外周側への接点Pの位置ずれが大きいほど、ピストン部58の端面58aの一部で引き受ける荷重が大きくなり、端面58aの一部のみ摩耗が進む。端面58aの一部のみ摩耗が進むと、ピストン部58とコロ32とが面接触ではなく点接触し易くなり、ピストン部58とコロ32との接触部における圧力が上がってしまう。その結果、ピストン部58には、傾力が大きく作用する。
【0052】
本実施形態に係る可変容量型ポンプ1によれば、斜板30の傾角が中間傾角であるとき、接点Pがピストン部58の端面58aにおける中央部分58a
1に位置している。すなわち、接点Pがピストン部58の軸心A上又は軸心A付近に位置している。このような位置関係にすることにより、ピストン部58の軸心A上からピストン部58の外周側への接点Pの位置ずれが、斜板30の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方になるときに過剰に大きくなり難い。このため、ピストン部58に作用する傾力を抑制することができる。よって、傾力が作用した状態でピストン部58がピストン収容部52内を摺動することによって生じるピストン収容部52の摩耗を抑制することができ、ひいてはポンプハウジング10の摩耗を抑制することができる。
【0053】
可変容量型ポンプ1によれば、ピストン部58の軸心上からピストン部の外周側への接点の位置ずれが、斜板の傾角が最大傾角のときと最小傾角のときとで略同じ程度になり、ピストン部58に作用する傾力がより抑制される。よって、傾力が作用した状態でピストン部58がピストン収容部52内を摺動することによって生じるピストン収容部52の摩耗をより抑制することができ、ひいてはポンプハウジング10の摩耗をより抑制することが可能となる。
【0054】
可変容量型ポンプ1によれば、垂直基準線Bを基準とした斜板30の傾きが、斜板30の傾角が最大傾角及び最小傾角の何れか一方のときに過剰に大きくなり難い。すなわち、中間傾角を基準としたときの斜板30の傾角の変位が小さい。よって、斜板30の傾角の変位に応じた接点Pの位置ずれの度合いを小さくすることができ、接点Pの位置ずれによってピストン部58に作用する傾力をさらに抑制することができる。その結果、ピストン収容部52の摩耗、ひいてはポンプハウジング10の摩耗をさらに抑制することができる。
【0055】
ポンプハウジング10内のピストン部58又は斜板30等の周囲には、作動油が満たされている。しかしながら、例えばピストン部58の端面58aがコロ32によって摩耗されると、ピストン部58の端面58aとコロ32との間が、上記周囲の作動油によっては十分に潤滑されない場合がある。本実施形態に係る可変容量型ポンプ1によれば、ピストン部58の端面58aに形成された窪み部58bには、ピストン部58又は斜板30等の周囲に満たされている作動油が溜まる。よって、窪み部58bに溜まった作動油によって、ピストン部58とコロ32との間が確実に潤滑された状態となり、接点Pの位置ずれによって生じる摩擦力が低減される。当該摩擦力は、ピストン部58に作用する傾力を生じさせる要因の一つであるため、当該摩擦力を低減することによりピストン部58に作用する傾力をさらに抑制することができる。これにより、傾力が作用した状態でピストン部58がピストン収容部52内を摺動することによって生じるピストン収容部52の摩耗を一層抑制することができ、ひいてはポンプハウジング10の摩耗を一層抑制することが可能となる。
【0056】
可変容量型ポンプ1によれば、ピストン部58の軸心Aが回転軸20の軸心20aに対して傾いている。ピストン部58の軸心Aが回転軸20の軸心20aに対して平行である場合に、接点Pをピストン部58の端面58aにおける中央部分58a
1に位置させようとすると、例えば斜板30等の大きさを変える必要やピストン部58と回転中心Xとを近づけて配置する必要が生じる等、容易でない場合がある。ピストン部58の軸心Aが回転軸20の軸心20aに対して傾いた状態とすることで、斜板30等の大きさを変えなくても、ピストン部58の端面58aにおける中央部分58a
1に、接点Pを、容易に位置させることができる。その結果、小型化を図ることができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他に適用してもよい。
【0058】
上記実施形態では、斜板30の傾角が中間傾角であるときの接点Pが、軸心A上に位置しており、且つ、垂直基準線B上に位置しているとしたが、これに限られない。斜板30の傾角が中間傾角であるときの接点Pは、少なくともピストン部58の端面58aにおける中央部分58a
1に位置していればよく、軸心A上に位置していなくてもよく、垂直基準線B上に位置していなくてもよい。
【0059】
ピストン収容部52及びピストン部58は、回転軸20に対して傾いた方向に延在していなくてもよい。すなわち、ピストン収容部52の軸心及びピストン部58の軸心Aは、例えば回転軸20の軸心20aに平行な方向に延在していてもよい。
【0060】
窪み部58bは、略円形状でなくてもよく、例えば略矩形状及び又は略三角形状等の種々の形状に開口されていてもよい。