特許第6210159号(P6210159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000002
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000003
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000004
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000005
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000006
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000007
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000008
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000009
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000010
  • 特許6210159-粒子荷電装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6210159
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】粒子荷電装置
(51)【国際特許分類】
   B03C 7/02 20060101AFI20171002BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20171002BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20171002BHJP
   G01N 27/60 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   B03C7/02 Z
   G01N15/02 F
   G01N15/06 D
   G01N27/60 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-539790(P2016-539790)
(86)(22)【出願日】2014年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2014071078
(87)【国際公開番号】WO2016021063
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2016年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 良弘
(72)【発明者】
【氏名】関 洋
(72)【発明者】
【氏名】奥田 浩史
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−070281(JP,A)
【文献】 特開2005−230651(JP,A)
【文献】 特開2007−305498(JP,A)
【文献】 特許第4905040(JP,B2)
【文献】 特開昭62−053753(JP,A)
【文献】 特開2003−326192(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0001184(US,A1)
【文献】 米国特許第6003389(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00−11/00
G01N 15/02
G01N 15/06
G01N 27/60−27/70
G01N 27/92
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)筐体と、
b)前記筐体内を第1空間と第2空間とに仕切る仮想的な面内で延伸する複数の電極から成るフィルタと、
c)前記第1空間に荷電対象の粒子を導入する粒子導入手段と、
d)前記第1空間にガスイオンを供給するガスイオン供給手段と、
e)前記ガスイオン及び該ガスイオンに前記粒子が接触することで生成された帯電粒子を前記第1空間から前記第2空間に向かって移動させるべく前記筐体内に電位勾配を形成する電位勾配形成手段と、
f)前記フィルタを構成する前記複数の電極の各々に交流電圧を印加するものであって、前記複数の電極のうち互いに隣接する電極に位相の相違する電圧を印加する交流電圧印加手段と、
g)前記第1空間から前記第2空間に向かって移動する前記帯電粒子及び前記ガスイオンのうち、前記帯電粒子は前記複数の電極の間を通過させ、前記ガスイオンは該複数の電極のいずれかによって捕捉するべく予め定められた電圧を前記複数の電極に印加するよう前記交流電圧印加手段を制御する制御手段と、
h)前記第2空間に移動してきた前記帯電粒子を前記筐体の外に取り出す帯電粒子取り出し手段と、
を有することを特徴とする粒子荷電装置。
【請求項2】
前記帯電粒子取り出し手段が、前記第2空間内にキャリアガスの流れを形成し、該キャリアガスの流れによって前記帯電粒子を前記筐体の外に押し流すものであることを特徴とする請求項1に記載の粒子荷電装置。
【請求項3】
前記帯電粒子取り出し手段が、前記第2空間内に前記電位勾配と交差する方向に電位勾配を形成し、該勾配に沿った前記帯電粒子の移動によって該帯電粒子を前記筐体の外に引き出すものであることを特徴とする請求項1に記載の粒子荷電装置。
【請求項4】
前記フィルタが、複数の棒状の電極を平行に並べて成るものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粒子荷電装置。
【請求項5】
前記フィルタが、複数の棒状の電極を格子状に配置して成るものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粒子荷電装置。
【請求項6】
前記フィルタが、複数の円形の電極を同心円状に配置して成るものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粒子荷電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中の微粒子を帯電させる粒子荷電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、気体中に浮遊する微小な液体又は固体の粒子をエアロゾルという。自動車の排気ガスや工場から排出される煤煙中の汚染物質の多くもエアロゾルであり、特に粒径1μmを下回る、いわゆるナノエアロゾルは、健康に対する影響が懸念されている。こうしたことから、その粒径の測定や粒径分布の測定は、環境測定・評価等の分野において非常に重要となっている。エアロゾルの粒径分布を測定する装置(粒子分級装置)としては、帯電した微粒子の電場内での移動速度(電気移動度)の相違を利用して微粒子を分級する微分型電気移動度測定装置(DMA=Differential Mobility Analyzer)が広く用いられている(特許文献1等参照)。
【0003】
DMAによる測定では、その測定に先立って測定対象である粒子(エアロゾル)を帯電させる必要があるが、そのために従来、幾つかの方式による粒子荷電装置が用いられている。比較的古くから用いられているのは、アメリシウム(Am)から発せられるα線やクリプトン(Kr)から発せられるβ線などの放射線をイオン源とし、このイオン源により発生したイオンと荷電対象である粒子とを接触させることで該粒子を帯電させる粒子荷電装置である(非特許文献1参照)。この装置は両極拡散中和器、又は単に中和器と称されることもある。
【0004】
しかしながら、この種の粒子荷電装置は放射線源を用いているため、安全上、取り扱いに細心の注意が必要である、可搬性に乏しい、といった問題がある。そこで、これに代わる粒子荷電装置として、近年、コロナ放電などの放電によるイオン源を利用した粒子荷電装置が使用されるようになってきている。この方式の粒子荷電装置では、例えば特許文献2に記載のように、コロナ放電等の放電により適宜のキャリアガス分子をイオン化し、生成されたイオンを荷電対象であるサンプル粒子に接触させることで該粒子を帯電させる。
【0005】
図8にこうした粒子荷電装置及び粒子分級装置を含んだ粒子分級・観察システムの構成の一例を示す。この粒子分級・観察システムでは、サンプリング装置100によって採取した測定対象の粒子(エアロゾル)を粒子荷電装置200に送り、そこで該粒子を帯電させた上で粒子分級装置300に送出する。粒子分級装置300に送られた帯電粒子はその電気移動度の相違を利用して分級された後、粒子カウンタ400に送られて粒径毎に計数されたり、捕集装置500で捕集されて観察装置600での観察に供されたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4905040号公報
【特許文献2】特開2007−305498号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤、桜井、榎原、「エアロゾル電荷中和器の荷電効率とイオン移動度の時間変化の関係」、静電気学会誌、Vol.35、No.1、2011年、pp.14-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の粒子荷電装置では、後段の粒子分級装置における分級精度を高めるため、サンプル粒子の荷電数(価数)を揃えることが求められる。しかし、一般にサイズの大きい粒子(重い粒子)では、多価荷電の発生頻度が高く価数のばらつきが生じやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多価荷電の発生頻度を抑え、帯電粒子の価数を揃えることのできる粒子荷電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のようなサイズの大きい粒子において多価荷電が生じやすい理由として、サイズの大きい粒子は表面積が大きく、サイズの小さい粒子に比べてイオンとの接触の機会が多いことが知られているが、これに加えて、サイズの大きい粒子はガス流中での動きが遅く、サイズの小さい粒子に比べて粒子荷電装置内での滞在時間が長くなってイオンとの接触機会が多くなることも理由の一つと考えられる。そこで、本発明者は粒子荷電装置内のガスイオンが存在する領域におけるサンプル粒子の滞在時間を短くするべく鋭意検討を重ね、本願発明に至った。
【0011】
すなわち本発明に係る粒子荷電装置は、
a)筐体と、
b)前記筐体内を第1空間と第2空間とに仕切る仮想的な面内で延伸する複数の電極から成るフィルタと、
c)前記第1空間に荷電対象の粒子を導入する粒子導入手段と、
d)前記第1空間にガスイオンを供給するガスイオン供給手段と、
e)前記ガスイオン及び該ガスイオンに前記粒子が接触することで生成された帯電粒子を前記第1空間から前記第2空間に向かって移動させるべく前記筐体内に電位勾配を形成する電位勾配形成手段と、
f)前記フィルタを構成する前記複数の電極の各々に交流電圧を印加するものであって、前記複数の電極のうち互いに隣接する電極に位相の相違する電圧を印加する交流電圧印加手段と、
g)前記第1空間から前記第2空間に向かって移動する前記帯電粒子及び前記ガスイオンのうち、前記帯電粒子は前記複数の電極の間を通過させ、前記ガスイオンは該複数の電極のいずれかによって捕捉するべく予め定められた電圧を前記複数の電極に印加するよう前記交流電圧印加手段を制御する制御手段と、
h)前記第2空間に移動してきた前記帯電粒子を前記筐体の外に取り出す帯電粒子取り出し手段と、
を有することを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、第1空間においてガスイオンとの接触により生成された帯電粒子は、前記電位勾配の作用により第1空間から第2空間に向かって移動し、前記フィルタを通過して第2空間に到達する。このとき、ガスイオンも第1空間から第2空間に向かって移動しようとするが、該ガスイオンは前記フィルタによって捕捉されるため、第2空間に到達することはできない。これにより、第1空間で生成された帯電粒子を速やかにガスイオンの存在しない空間、すなわち第2空間に移動させることができる。その結果、ガスイオンと荷電対象粒子との接触時間を減じることができ、多価荷電の発生を抑えることが可能となる。
【0013】
上記本発明に係る粒子荷電装置では、具体的には例えば、荷電対象の粒子の粒径と該粒子を通過させガスイオンは捕捉するのに適切なフィルタへの印加電圧(例えば振幅、周波数、隣接する電極間の位相差など)との関係を予め実験的に調べて記憶しておく。そして目的とする荷電対象粒子の粒径が指示されたときに、制御手段は上記記憶した情報を参照して目的とする粒径に対応した印加電圧を求め、該電圧が前記フィルタを構成する複数の電極に印加されるように交流電圧印加部を制御する。
【0014】
なお、前記本発明における「仮想的な面」は平面であっても曲面であってもよい。また、ガスイオン供給手段は、別の場所で生成したガスイオンを第1空間に導入するものであってもよく、あるいは第1空間内でガスイオンを生成するものであってもよい。更に、前記交流電圧印加手段は、前記交流電圧として正弦波電圧を各電極に印加するものであってもよく、あるいは非正弦波電圧、例えば矩形波電圧を印加するものであってもよい。矩形波電圧を印加するものとした場合、半導体スイッチング素子などにより直流電圧を切り替えることで矩形波電圧を生成できるため、前記交流電圧の周波数変更、デューティー比制御、位相制御などを容易に行えるという利点がある。
【0015】
なお、前記フィルタの形状は特に限定されるものではなく、例えば、複数の棒状の電極を平行に並べて成るものであってもよく、あるいは複数の棒状の電極を格子状に配置して成るものであってもよい。また、複数の円形の電極を同心円状に配置して成るものとすることもできる。
【0016】
前記帯電粒子取り出し手段は、例えば、第1空間から第2空間に向かう方向と交差する方向にガスの流れを形成し、該ガスの流れによって帯電粒子を筐体外に取り出すものとすることができる。
【0017】
また、前記帯電粒子取り出し手段は、第1空間から第2空間に向かう方向と交差する方向に電位勾配を形成し、該電位勾配に沿った帯電粒子の移動によって該帯電粒子を筐体外に取り出すものとすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り、本発明に係る粒子荷電装置によれば、多価帯電を抑制し、1価帯電の粒子の割合を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る粒子荷電装置の縦断面を示す模式図(a)、及び(a)のA−A矢視断面図(b)。
図2】フィルタによる帯電粒子とガスイオンの選別の原理を説明する図。
図3】本発明の別の実施形態に係る粒子荷電装置の縦断面を示す模式図(a)、及び(a)のA−A矢視断面図(b)。
図4】フィルタを格子状にした例を示す平面図。
図5】フィルタを同心円状にした例を示す平面図。
図6】フィルタを二重の渦巻き状にした例を示す平面図。
図7】本発明において帯電粒子の取り出しを電位差により行う場合の構成を示す図。
図8】粒子分級・観察システムの一例を示すブロック図。
図9】本発明におけるガスイオンの軌道をシミュレーションした結果を示す図。
図10】本発明における帯電粒子の軌道をシミュレーションした結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る粒子荷電装置の概略構成図であり、(a)は粒子荷電装置の縦断面図を、(b)は(a)のA−A矢視断面図を示す。また、図2は該粒子荷電装置におけるフィルタの斜視図である。なお、以下では図1(a)中のX方向を左方、Y方向を前方、Z方向を上方として前後・上下・左右を定義する。
【0021】
本実施形態に係る粒子荷電装置は、図8に示すような粒子分級・観察システムにおいてサンプリング装置100と分級装置300の間に配置されるものであり、粒子帯電部20とその上部に配置されたガスイオン発生部10(本発明におけるガスイオン供給手段に相当)とを含んでいる。
【0022】
粒子帯電部20は略直方体状のチャンバ21(本発明における筐体に相当)を有しており、チャンバ21の左側面にはチャンバ21内に外部から気体を流入させるための開口部である上流側第1開口22(本発明における粒子導入手段に相当)及び上流側第2開口23が上下方向に並べて配置されている。また、チャンバ21の右側面にはチャンバ21から外部へ気体を排出するための開口部である下流側第1開口24及び下流側第2開口25が上下方向に並べて配置されている。チャンバ21の内部には、チャンバ21の上面に沿って配置された第1電極板26と、チャンバ21の下面に沿って配置された第2電極板27と、第1電極板26と第2電極板27の間に配置されたフィルタ28とが収容されている。フィルタ28は、第1電極板26及び第2電極板27に対して平行な面内で、前後方向に延伸する棒状の電極28a、28bを互いに平行且つ等間隔に複数個並べて成るものである。なお、フィルタ28は実際には図2に示すように多数の電極28a、28bで構成されるが、図1(a)、(b)では簡略化のため電極28a、28bを6本のみ図示している。以下、第1電極板26とフィルタ28の間の空間を第1空間29とよび、フィルタ28と第2電極板27の間の空間を第2空間30とよぶ。
【0023】
粒子帯電部のチャンバ21の外部には、第1電極板26に電圧Vを印加し、第2電極板27に電圧Vを印加する直流電源31と、フィルタ28を構成する各電極に交流電圧を印加するための第1交流電源32及び第2交流電源33とが設けられている。なお、第1交流電源32及び第2交流電源33が本発明における交流電圧印加手段に相当する。また、第1電極板26、第2電極板27、及び直流電源31が協同して本発明に係る電位勾配形成手段として機能する。第1交流電源32はフィルタ28を構成する多数の電極28a、28bのうち、左から数えて奇数本目の電極28aに交流電圧Vsin(ωt)を供給するものである。これに対し、第2交流電源33は前記多数の電極のうち、左から数えて偶数本目の電極28bに、第1交流電源32が供給する交流電圧とは位相がδだけ相違する交流電圧Vsin(ωt+δ)を供給するものとなっている。なお、位相差δは特に限定されるものではないが、90°〜270°とすることが望ましい。これらの第1交流電源32及び第2交流電源33が供給する交流電圧の振幅V、V、周波数ω、及び位相差δは制御部35によって制御される。なお、制御部35は上述の直流電源31及び後述する放電用電源14も制御しているが、簡略化のため図中では制御線を省略している。
【0024】
ガスイオン発生部10も略直方体状のチャンバ11を有しており、その内部空間には、上面から垂直下方向に延伸する針状の放電電極12が設置され、またチャンバ11の内底部には、放電電極12と対になる、平板状の接地電極13が設置されている。また、チャンバ11の外部には、放電を生起させるための電圧を放電電極12に印加するための放電用電源14が設けられている。更に、チャンバ11の側面には、チャンバ11内にガスイオン生成用のガス(イオン化用ガス)を導入するためのガス導入口15が形成され、チャンバ11の下面にはチャンバ11内で生成されたイオン(以下「ガスイオン」とよぶ)を前記第1空間29に流出させるための開口部が形成されている。なお、接地電極13、並びに粒子帯電部20のチャンバ21の上面及び第1電極板26にも、前記開口部と対応する位置に貫通孔が設けられており、これらの開口部及び貫通孔によって構成されるガスイオン排出口16によって粒子帯電部20のチャンバ21の内部空間とガスイオン発生部10のチャンバ11の内部空間とが連通している。
【0025】
本実施形態に係る粒子荷電装置によって荷電粒子を生成する際には、まず、ガスイオン発生部10のチャンバ11にガス導入口15からイオン化用ガス(例えば空気)を導入し、更に放電用電源14から放電電極12に電圧を印加する。これにより、放電電極12と接地電極13の間で放電が発生し、チャンバ11内のイオン化用ガスがイオン化される。このとき生成されるガスイオンの極性は放電電極12に印加される電圧の極性に依存する。なお、以下では前記ガスイオンが正イオンであるものとして説明を行う。ガスイオン発生部10で生成されたガスイオンは、ガスイオン排出口16を介して粒子帯電部20内の第1空間29に流入する。
【0026】
更に、前記第1空間29には、前段のサンプリング装置100(図8)で採取された荷電対象の粒子がキャリアガス(例えば空気)に乗って上流側第1開口22から導入される。また、これと同時に、第2空間30へキャリアガス供給部34から供給されるキャリアガス(前記粒子を含まないもの)が上流側第2開口23を介して導入される。以上により、チャンバ11の第1空間29及び第2空間30にはそれぞれ左から右へと向かうキャリアガスの流れ(図1(a)中の太い黒矢印)が形成される。なお、キャリアガス供給部34、上流側第2開口23、及び下流側第2開口25が本発明における帯電粒子取り出し手段に相当する。
【0027】
第1空間29にはガスイオンが高い密度で存在するため、上流側第1開口22から第1空間29に導入された荷電対象の粒子は前記ガスイオンと接触し、該ガスイオンから電荷を授与されて正に帯電する。
【0028】
直流電源31による電圧印加により、第1電極板26の電位Vと第2電極板27の電位VはV>Vとなっており、これにより、両者の間には図1(a)中の白い太矢印で示す方向に沿って低くなるような電位の勾配が形成される。第1空間29に導入されたガスイオン及び第1空間29で帯電された粒子(以下「帯電粒子」とよぶ)は、いずれも正電荷を有しているため、前記電位勾配に従ってチャンバ21内を下向き(すなわち第2空間30に向かう方向)に移動する。
【0029】
一方、第1空間29と第2空間30の間に設けられたフィルタ28には、左右に隣接する電極28aと電極28bとの間で位相が互いに異なる交流電圧が印加されている。そのため、前記のようにチャンバ21内を下方に進行して2本の電極28a、28bの間を通過しようとするガスイオン及び帯電粒子は、左右の電極28a、28bから交互に引力と斥力とを受けることになる。ここで、移動度(電場中における荷電粒子の移動のしやすさを表す値)が比較的大きい物体は一方の電極に速やかに引き付けられて該電極に衝突するため、両電極の間を通過することはできない。これに対し、移動度が比較的小さい物体は一方の電極に衝突する前に他方の電極からの引力で逆方向に引きつけられるため、左右方向に安定に振動しながら2本の電極28a、28bの間を通過することができる。
【0030】
本実施形態の粒子荷電装置で生成される帯電粒子は前記ガスイオンに比べて移動度が十分に小さいため、第1交流電源32及び第2交流電源33によって印加する電圧の条件(振幅、周波数、位相差)を適当な値に調整することにより、帯電粒子のみがフィルタ28を通過して第2空間30に到達し、ガスイオンはフィルタ28で捕捉されて第2空間30に到達しないようにすることができる。すなわち、図2に示すように、移動度が相対的に小さい帯電粒子42は、安定に振動するため隣接する電極28a、28bの間を通り抜け、第2空間30に到達することができる。一方、移動度が相対的に大きなガスイオン41は、ある程度フィルタ28に接近したところで電極28a又は電極28bに引き寄せられて該電極に衝突するため、第2空間30に到達することができない。
【0031】
なお、このように帯電粒子のみを通過させるためにフィルタ28に印加される電圧の条件は、例えば、荷電対象粒子の条件(種類や粒径等)ごとに予め実験的に調べて記憶部36に記憶されている。そして、目的とする荷電対象粒子がユーザから指定された際に、制御部35が記憶部36に記憶された情報を参照して目的とする粒子に対応した電圧の条件を求め、該電圧がフィルタ28を構成する各電極28a、28bに印加されるように第1交流電源32及び第2交流電源33を制御する。
【0032】
第2空間30に到達した帯電粒子は、上流側第2開口23から下流側第2開口25へと向かうキャリアガスの流れによって第2空間30内で右方へと押し流される。そして、前記帯電粒子は、下流側第2開口25からチャンバ11の外に取り出され、後段に設けられた粒子分級装置300(図8)へと送出される。なお、フィルタ28を通過して第2空間30に到達した帯電粒子が第2電極板27に衝突することなくチャンバ11外に送出されるように、予め制御部35によって直流電源31より印加する電圧の大きさ及びキャリアガス供給部34から供給するキャリアガスの流量等が調整される。
【0033】
このように、本実施形態に係る粒子荷電装置によれば、ガスイオンとの接触によって生成された帯電粒子が、速やかにガスイオンの存在しない領域(第2空間30)に取り出されるため、多価荷電の発生を効果的に抑制し、1価帯電の粒子の割合を高めることができる。これにより、或る粒径の粒子を分級により取り出す際に、粒径が異なるものの多価に帯電しているために電気移動度がほぼ同じである不所望の粒子が混じることを抑制することができ、例えば粒径分布の精度を高めたり、特定の粒径の粒子について高い捕集効率を達成したりすることができる。
【0034】
なお、上記の例ではガスイオンを正イオンとし、該ガスイオンとの接触によって粒子を正に帯電させる構成としたが、逆にガスイオンを負イオンとし、該ガスイオンとの接触によって粒子を負に帯電させる構成としてもよい。この場合、第1電極板26の電位Vは第2電極板27の電位Vよりも低くなるようにする。
【0035】
また、上記の例では、フィルタ28を構成する電極28a、28bを左右方向、すなわちキャリアガスの流れと直交する方向に延伸するように配置したが、これに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、フィルタ51を構成する複数の電極51a、51bを前後方向、すなわちキャリアガスの流れと平行な方向に延伸するように配置した構成としてもよい。
【0036】
更に、フィルタは、図1及び図3に示すように直線状の電極を互いに平行に並べた構成とするほか、例えば、図4に示すフィルタ52のように複数の電極52a、52bを格子状に並べた構成とすることもできる。なお、格子状とする場合、縦方向に並んだ電極52a、52bから成る電極群と、横方向に並んだ電極52a、52bから成る電極群との間は第1電極板26及び第2電極板27により形成される電場の方向(図1の上下方向)に離間させるようにする。また、図5に示すように、フィルタ53を複数の円形の電極53a、53bを同心円状に並べた構成としたり、図6に示すように、フィルタ54を複数の渦状の電極54a、54bで構成したりすることも可能である。いずれの場合も、互いに隣接する電極52a、52bの間、電極53a、53bの間、又は電極54a、54bの間には、上記同様に位相が相違する交流電圧を印加する。
【0037】
各電極の断面形状も特に限定されるものではなく、図1及び図3に示すような円形のほか、三角形や四角形などの多角形としてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、第2空間30に到達した帯電粒子をキャリアガスの流れによってチャンバ21の外部に取り出す構成としたが、このほか例えば、第2空間30内に形成した引き出し電場によって帯電粒子の取り出しを行う構成としてもよい。この場合、図7に示すように粒子帯電部20のチャンバ21の側面に第2空間30を挟むように引き出し電極62及び対向電極61を配置し、これらの電極間に直流電圧を印加することにより、対向電極61から引き出し電極62に向かう方向(図7中の網掛けの太矢印で示す方向)に沿って低くなるような電位勾配を有する引き出し電場を形成する。これにより、前記のようにフィルタ28を通過して第2空間30に到達した帯電粒子(正に帯電したもの)が対向電極61から引き出し電極62に向かって移動し、引き出し電極62に形成された開口部63からチャンバ11の外部に取り出される。引き出し電極は、図7に示すような開口部63を有する板状の電極とするほか、メッシュ状の電極とし、該メッシュの編目から帯電粒子を取り出す構成とすることもできる。なお、帯電粒子を負に帯電させる場合には、上記とは逆に対向電極61から引き出し電極に向かって高くなるような電位勾配を有する引き出し電場を形成する。
【0039】
更に、本発明における粒子取り出し手段は、キャリアガスの流れと引き出し電場の両方によって帯電粒子の取り出しを行うものとすることもできる。この場合、図7における対向電極61にも開口部を設け、該開口部からキャリアガスを導入することにより、該開口部から引き出し電極の開口部63へと向かうキャリアガスの流れを形成する。
【0040】
また、本発明に係る粒子荷電装置は、図8に示すような粒子分級・観察システムに適用するほか、例えば、質量分析装置のイオン化部として用いることもできる。
【実施例】
【0041】
本発明に係る粒子荷電装置の効果を確認するために行った、数値計算によるシミュレーションについて以下に説明する。このシミュレーションでは、図1に示すような装置において、第1電極板26の電位Vを1050 V、第2電極板27の電位V2を-1050 Vとし、第1交流電源32から供給する交流電圧Vsin(ωt)と第2交流電源33から供給する交流電圧Vsin(ωt+δ)をV=V=2000 V、ω=5, 25, 50, 250, 500 Hz、δ=πとするものとした。なお、電極28a、28bは直径1.0 mmのものを1.5 mm間隔で並べるものとした。また、ガスイオンを質量32 Da、移動度1.0E-04 m2/VSとし、帯電粒子を質量1.0E+08 Da、移動度2.7E-08 m2/VSとした。
【0042】
図9はガスイオンに関するシミュレーション結果を示しており、図10は帯電粒子に関するシミュレーション結果を示している。なお、図中の白丸は電極の断面を、図中の線はガスイオン又は帯電粒子の軌道を表している。図9に示す通り、電極上方の各位置から下向きに進行するガスイオンは、前記交流電圧を上記いずれの周波数とした場合でも電極に衝突し、二つの電極の間を通過することはできない。一方、図10に示す通り、電極上方の各位置から下向きに進行する帯電粒子は、一部が電極に衝突するものの、大部分が電極に衝突することなく二つの電極間を通過している。また、前記交流電圧の周波数が高くなるにつれて電極に衝突する帯電粒子の割合が小さくなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
10…ガスイオン発生部
11…チャンバ
12…放電電極
13…接地電極
14…放電用電源
15…ガス導入口
16…ガスイオン排出口
20…粒子帯電部
21…チャンバ
22…上流側第1開口
23…上流側第2開口
24…下流側第1開口
25…下流側第2開口
26…第1電極板
27…第2電極板
28…フィルタ
28a…電極
28b…電極
29…第1空間
30…第2空間
31…直流電源
32…第1交流電源
33…第2交流電源
34…キャリアガス供給部
35…制御部
36…記憶部
41…ガスイオン
42…帯電粒子
61…対向電極
62…引き出し電極
63…開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10