(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6210588
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】可変指向性ダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/34 20060101AFI20171002BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
H04R1/34 320
H04R1/02 106
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-138564(P2013-138564)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-12552(P2015-12552A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−117027(JP,A)
【文献】
特開2010−114705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備え、前記マイクロホンユニットをケーシング内に収容する可変指向性ダイナミックマイクロホンであって、
前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの前方に設けられた前部音響端子と、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの後方に設けられた後部音響端子と、前記後部音響端子に対し、所定の音響質量を有する第1の連通路と所定の音響抵抗とを介して音波を入力する第1の後部音響入力手段と、指向性の切替を行う指向性切替手段とを備え、
前記指向性切替手段は、
前記ケーシングに対して所定の間隔を空けて着脱自在に設けられ、装着されることにより前記ケーシングの外周面との間に第2の連通路を形成するカバー部材と、前記ケーシングに形成され、前記後部音響端子に連通する開閉可能な貫通孔と、前記貫通孔を覆う音響抵抗材とを有し、
指向性を切り替える際、前記カバー部材を装着して前記貫通孔を開くことにより、前記第1の連通路の音響質量と並列に所定の音響質量を有する前記第2の連通路を形成し、
前記第1の連通路及び前記第2の連通路と所定の音響抵抗とを介して前記音波を前記後部音響端子に対し入力することにより、指向性の切り替えを行うことを特徴とする可変指向性ダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備え、前記マイクロホンユニットをケーシング内に収容する可変指向性ダイナミックマイクロホンであって、
前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの前方に設けられた前部音響端子と、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの後方に設けられた後部音響端子と、前記後部音響端子に対し、所定の音響質量を有する第1の連通路と所定の音響抵抗とを介して音波を入力する第1の後部音響入力手段と、指向性の切替を行う指向性切替手段とを備え、
前記指向性切替手段は、
前記ケーシングに対してスライド自在に設けられ、スライド移動することにより前記ケーシングの外周面との間に第2の連通路を形成するカバー部材と、前記ケーシングに形成され、前記後部音響端子に連通する開閉可能な貫通孔と、前記貫通孔を覆う音響抵抗材とを有し、
指向性を切り替える際、前記カバー部材をスライド移動させて前記貫通孔を開くことにより、前記第1の連通路の音響質量と並列に所定の音響質量を有する前記第2の連通路を形成し、
前記第1の連通路及び前記第2の連通路と所定の音響抵抗とを介して前記音波を前記後部音響端子に対し入力することにより、指向性の切り替えを行うことを特徴とする可変指向性ダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変指向性ダイナミックマイクロホンに関し、特に、その指向性をカージオイドとハイパーカージオイドとに切り替えることのできる可変指向性ダイナミックマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステージ用のハンドヘルド型のダイナミックマイクロホンにあっては、音声を拡声することから、一般に単一指向性のマイクロホンが用いられている。この単一指向性のマイクロホンにあっては、ハウリングの発生や音色を考慮し、その指向性がカージオイドのものと、ハイパーカージオイドのもののいずれかが選択され使用されている。
そのため、従来から1本のマイクロホンで、その指向性がカージオイドとハイパーカージオイドとに切り替えて使用可能な構成が求められていた。
【0003】
特許文献1には、ダイナミック型ではないが、第1と第2のコンデンサ型マイクロホンユニットが電気的に独立した状態で背中合わせに配置された可変指向性のコンデンサマイクロホンが開示されている。
具体的には、後側マイクロホンユニットにより得られる第2音声出力がインピーダンス変換されて前側マイクロホンユニットに供給される。前側マイクロホンユニットからは、当該ユニットにより得られる第1音声出力に、前記第2音声出力が加算された状態で出力を得ることができる。そして、前側マイクロホンユニットに加える成極電圧を一定にして、後側マイクロホンユニットに加える成極電圧の極性及びレベルを変化させることで、指向特性が変化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−65147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたマイクロホンの構造にあっては、コンデンサ型のマイクロホンであり、その構成をそのままダイナミックマイクロホンに適用できるものではない。
更には、2つのマイクロホンユニットを内蔵するため、通常1つのマイクロホンユニットを備えるマイクロホンに比べ、構造も複雑となり、製造にかかるコストも高くなるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ダイナミックマイクロホンにおいて、その指向性を容易に変更することができ、製造にかかるコストの増加を抑制することのできる可変指向性ダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンは、到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備え、前記マイクロホンユニットをケーシング内に収容する可変指向性ダイナミックマイクロホンであって、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの前方に設けられた前部音響端子と、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの後方に設けられた後部音響端子と、前記後部音響端子に対し、所定の音響質量を有する第1の連通路と所定の音響抵抗とを介して音波を入力する第1の後部音響入力手段と、指向性の切替を行う指向性切替手段とを備え、前記指向性切替手段は、前記ケーシングに対して所定の間隔を空けて着脱自在に設けられ、装着されることにより前記ケーシングの外周面との間
に第2の連通路を形成するカバー部材と、前記ケーシングに形成され、前記後部音響端子に連通する開閉可能な貫通孔と、前記貫通孔を覆う音響抵抗材とを有し、指向性を切り替える際、前記カバー部材を装着して前記貫通孔を開くことにより、前記第1の連通路の音響質量と並列に所定の音響質量を有する
前記第2の連通路を形成し、前記第1の連通路及び前記第2の連通路と所定の音響抵抗とを介して前記音波を前記後部音響端子に対し入力することにより、指向性の切り替えを行うことに特徴を有する。
或いは、前記した課題を解決するために、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンは、到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備え、前記マイクロホンユニットをケーシング内に収容する可変指向性ダイナミックマイクロホンであって、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの前方に設けられた前部音響端子と、前記ケーシング内において前記マイクロホンユニットの後方に設けられた後部音響端子と、前記後部音響端子に対し、所定の音響質量を有する第1の連通路と所定の音響抵抗とを介して音波を入力する第1の後部音響入力手段と、指向性の切替を行う指向性切替手段とを備え、前記指向性切替手段は、前記ケーシングに対してスライド自在に設けられ、スライド移動することにより前記ケーシングの外周面との
間に第2の連通路を形成するカバー部材と、前記ケーシングに形成され、前記後部音響端子に連通する開閉可能な貫通孔と、前記貫通孔を覆う音響抵抗材とを有し、指向性を切り替える際、前記カバー部材をスライド移動させて前記貫通孔を開くことにより、前記第1の連通路の音響質量と並列に所定の音響質量を有する
前記第2の連通路を形成し、前記第1の連通路及び前記第2の連通路と所定の音響抵抗とを介して前記音波を前記後部音響端子に対し入力することにより、指向性の切り替えを行うことに特徴を有する。
【0008】
このような構成によれば、第1の連通路の音響質量と並列に、所定の音響質量を有する第2の連通路を形成すると共に、前記第2の連通路を通る音波を、所定の音響抵抗を介して後部音響端子に入力することにより、マイクの指向性をカージオイドからハイパーカージオイドに切り替えることができる。
即ち、従来のように指向性の切り替えを行うために2つのマイクロホンユニットを内蔵する必要がなく、シンプルな構造で実現でき、製造にかかるコストも低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイナミックマイクロホンにおいて、その指向性を容易に変更することができ、製造にかかるコストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンの断面図であって、その指向性をカージオイドに設定した構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の構成からの指向性をハイパーカージオイドに切り替えた構成を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1の可変指向性ダイナミックマイクロホンの等価回路である。
【
図4】
図4は、
図2の可変指向性ダイナミックマイクロホンの等価回路である。
【
図5】
図5は、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンの変形例を示す断面図であって、その指向性をカージオイドに設定した構成を示す図である。
【
図6】
図6は、
図5の構成からの指向性をハイパーカージオイドに切り替えた構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1、
図2は、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンの断面図であって、
図1の構成は、その指向性をカージオイドに設定した構成であり、
図2の構成は、その指向性をハイパーカージオイドに設定した構成を示している。
【0012】
図1に示す指向性をカージオイドに設定した可変指向性ダイナミックマイクロホン1(以下、ダイナミックマイクロホン1と称呼する)は、有底円筒形状の第1のケース2(ケーシング)と、この第1ケースの開放端部に嵌合された円筒形状の第2のケース3(ケーシング)とを有する。
前記第2のケース3内には、マイクロホンユニット3が収容されている。このマイクロホンユニット3は、環状のヨーク4と、その中央に配置されたマグネット5と、ヨーク4とマグネット5との間の隙間に配置されたボイスコイル6と、このボイスコイル6が取り付けられた振動板7とを有する周知のダイナミック(動電)型マイクロホンの構成である。
また、前記マグネット5の中央には、上下に貫通する貫通孔5aが形成されており、その上端開口が音響抵抗材r1によって覆われている。
【0013】
また、前記第2のケース3の上端側には、マイクロホンユニット3の上面側を覆うキャップ部材12が設けられている。このキャップ部材12には、複数の貫通孔12aが形成され、これらの貫通孔12aと振動板7との間の空間s0が前部音響端子13として機能する。
【0014】
また、前記マグネット5の下方には、筒状に形成されたキャビティスリーブ8が連結されている。また、前記第1ケース2内部において、前記キャビティスリーブ8の周囲には空気室s2が形成され、第2ケース3内の空気室s1とは、音響抵抗材r2によって仕切られている。
また、前記マグネット5において、前記貫通孔5aの下部には、この貫通孔5aとマグネット5の周面側とを連通する複数の貫通孔5bが形成されており、それにより振動板7の後側が、音響抵抗材r1を介し第2ケース3内の空気室s1と連通し、さらに音響抵抗材r2を介して第1ケース2内の空気室s2と連通している。
【0015】
また、第2ケース3の上部周側面には、振動板7の後側に位置する後部音響端子15を形成するために例えば2つの貫通孔3aが対称的に設けられ、その一方は音響抵抗材r3に覆われ、他方は第2ケース3と同じ材料(ダイカスト製、或いは合成樹脂)により形成された着脱可能な蓋11によって塞がれている。
また、第2ケース3の高さ方向中央付近には、貫通孔3bが形成され、この貫通孔3bは、ケース内部において前記後部音響端子15(振動板7の後側)に連通している。また、貫通孔3bは、ケース外に対して連通路3cを介して連通している(前記貫通孔3a、音響抵抗材r3、貫通孔3b、連通路3c等により第1の後部音響入力手段が構成される)。
また、キャビティスリーブ8の下方には、ピンホルダ17が設けられ、このピンホルダ17内には、信号ピン(図示せず)が保持され、前記マイクロホンユニット3とリード線(図示せず)により接続されている。
【0016】
このように構成されたダイナミックマイクロホン1は、その指向性がカージオイドに設定され、
図3に示す等価回路で表すことができる。
尚、
図3において、符号m0は、前部音響端子13(空間s0)における音響質量であり、符号m1は、前記後部音響端子15に連通する連通路3cにおける音響質量である。また、符号P1は前部音響端子13へ入力される音波、P2は後部音響端子15に貫通孔3aから入力される音波、P3は連通路3cを介して入力される音波である。
【0017】
このダイナミックマイクロホン1において、カージオイドからハイパーカージオイドに指向性の設定を変更する場合、
図2に示すように、蓋11に換えて音響抵抗材r4を配置して貫通孔3aを覆い、さらに前記音響抵抗材r4を覆うように所定の間隔を空けてカバー部材20を取り付ければよい。それにより第2ケース3周面とカバー部材20との間に連通路20aが形成され、前記音波P3は、連通路3cと並列に、前記連通路20aから後部入力端子15に入力される。
即ち、この
図2の構成は、
図4に示す等価回路で表すことができる。尚、
図4において、符号m2は、前記後部音響端子15に連通する連通路20aの音響質量である。
図4の回路に示すように、音波P3は、連通路3c(音響質量m1)と並列に連通路20a(音響質量m2)から後部音響端子15に加えられることになる。このように音響質量m2と音響抵抗r4の速度成分を並列に加えることによって、カージオイドの指向性をハイパーカージオイドに変更することができる(即ち、連通路20aを形成するためのカバー部材20、貫通孔3a、音響抵抗材r4により指向性切替手段が構成される)。
【0018】
以上のように本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンの実施の形態によれば、第1の連通路3cの音響質量m1と並列に、音響質量m2を有する第2の連通路20aを形成すると共に、前記第2の連通路20aを通る音波P3を、音響抵抗r4を介して後部音響端子15に入力することにより、マイクの指向性をカージオイドからハイパーカージオイドに切り替えることができる。
即ち、従来のように指向性の切り替えを行うために2つのマイクロホンユニットを内蔵する必要がなく、シンプルな構造で実現でき、製造にかかるコストも低く抑えることができる。
【0019】
尚、前記実施の形態にあっては、ダイナミックマイクロホン1の指向性をカージオイドからハイパーカージオイドに切り替えるために、貫通孔3aを塞ぐ蓋11を音響抵抗材r4に付け替えると共に、第2ケース3にカバー部材20を装着するものとした。
しかしながら、本発明に係る可変指向性ダイナミックマイクロホンにあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、
図5(カージオイドの設定)、
図6(ハイパーカージオイドの設定)に示すように、第2ケース3に対してカバー部材20をスライド自在に設け、カバー部材20をスライドさせてカバー部材20の一端部20bにより貫通孔3a(音響抵抗材r4)を開閉する構造とすれば、より容易に指向性の切り替えを行うことができ好ましい。
【0020】
また、前記
図2及び
図6に示した実施の形態にあっては、カバー部材20のマイクロホンの軸方向の長さに応じて前後の音響端子間距離が変化し、それにより音圧傾度が決まる。したがって、所望の音圧傾度に設定したい場合に、それに対応する長さのカバー部材20を用意して設ければよい。
また、カバー部材20自体の長さが可変となる(伸縮する)機構(例えば、複数の板部材が互いにスライド自在に重ねられてスライド方向に伸縮可能とされ、カバー部材20を構成するものなど)を備えてもよく、その場合には、1つのカバー部材20で、音圧傾度の調整が可能となる。
【符号の説明】
【0021】
1 可変指向性ダイナミックマイクロホン
2 第1ケース(ケーシング)
3 第2ケース(ケーシング)
4 ヨーク
5 マグネット
5a 貫通孔
5b 貫通孔
6 ボイスコイル
7 振動板
8 キャビティスリーブ
11 蓋
12 キャップ部材
12a 貫通孔
13 前部音響端子
15 後部音響端子
20 カバー部材
20a 連通路
m0 音響質量
m1 音響質量
m2 音響質量
r1 音響抵抗材
r2 音響抵抗材
r3 音響抵抗材
r4 音響抵抗材