特許第6211031号(P6211031)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6211031エクジョッの製造方法及びその製造方法によって製造されたエクジョッ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211031
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】エクジョッの製造方法及びその製造方法によって製造されたエクジョッ
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20171002BHJP
【FI】
   A23L27/50 B
   A23L27/50 103Z
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-84248(P2015-84248)
(22)【出願日】2015年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-204827(P2015-204827A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2015年4月16日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0046725
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ホ ウオオ レエ
(72)【発明者】
【氏名】ジ ヨウング オー
(72)【発明者】
【氏名】ダエ イク カング
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2003−0068972(KR,A)
【文献】 特開2009−213453(JP,A)
【文献】 特開2007−289145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 磨砕した水産物又は水産物原料に塩を添加し、混合均質化によって混合均質物を得る工程と、
(b)前記工程(a)の混合均質物を1日を越え3か月以内の期間1次発酵させる工程と、
(c)前記工程(b)の1次発酵物に、均質混合物の重量に対して1〜30%(w/w)の重量でエクジョッ原液を添加して混合する工程、及び
(d)前記工程(c)の混合物を15日〜か月間発酵熟成させる工程とを含む、エクジョッの製造方法。
【請求項2】
前記工程(d)が、恒温で行われることを特徴とする、請求項1に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項3】
前記工程(d)が、工程(c)の混合物を空気を通さない密閉容器において恒温で発酵熟成させることを特徴とする、請求項1に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項4】
前記工程(d)が、20〜60℃の恒温で行われることを特徴とする、請求項3に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)が、5〜30℃の恒温で行われることを特徴とする、請求項3に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項6】
前記エクジョッの製造方法が、工程(a)以前に、
(i)洗浄した水産物の水気を除去する工程、及び
(ii)前記水気を除去した水産物を磨砕するか、又は前記水気を除去した水産物をそのまま使用する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項7】
前記工程(ii)において、水産物を0.5〜1.5cmの大きさに磨砕する、請求項6に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、塩が、磨砕した水産物又は水産物原料の重量に対して17〜30%(w/w)の重量で添加される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)の1次発酵が、20〜30℃で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項10】
前記密閉容器が、PE(polyethylene)タンク、ステンレス材質タンク、FRP(fiber reinforced plastics)タンク、陶器、ガラス容器及びプラスチックからなる群から選択されるものである、請求項3に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項11】
前記工程(d)が、熱風又は温風により恒温が維持される空間下で行われる、請求項2〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項12】
前記工程(a)において、水産物が、イカナゴ、カタクチイワシ、アジ(horse mackerel)、イカ、タコ、サンマ、イワシ、マグロ、マグロ煮熱液、エビ、アミ科甲殻類(Mysidae)、白魚、ニシン、コノシロ、サバ、マアジ(Trachurus japonicas)、ブリ、ワカサギ及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項13】
前記エクジョッ原液が、水産物原料に塩を添加混合して6か月〜12か月以上発酵熟成させて濾過した原液を用いて製造されたエクジョッ原液である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【請求項14】
工程(d)以降に、製造したエクジョッを60〜100℃で10〜30分間熱処理して冷却する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエクジョッの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短期間で風味豊かなエクジョッ(Fish sauce)を製造する方法及び前記方法によって製造されたエクジョッに関し、より具体的には、塩蔵原料にエクジョッ原液を一定の割合で混合した後、前記混合物を恒温条件下で発酵及び熟成させることを特徴とするエクジョッの製造方法及びこれより製造されたエクジョッに関する。
【背景技術】
【0002】
エクジョッは、カルシウムの良質の栄養である水産物を発酵させた食品であり、それ自体の摂取も可能で、キムチを漬ける際の必要不可欠な主材料として使用されてきた。東南アジアでは、エクジョッ(Fish sauce)が調味料及びソースとして広く使用されている。したがって、エクジョッは、韓国人の食生活だけでなく、東南アジアでは、非常に重要な位置を占める食材料であるといえる。また、エクジョッを含む塩辛(チョッカル)類は、韓国料理の材料となる韓国固有の伝統的な発酵食品である。従来のエクジョッは、水産物原料と塩分を混合し、長期間熟成させて製造するのが一般的である。このような従来のエクジョッは、熟成が長期間持続するほど水産物固有の生臭さが生じるため、不快なだけでなく、生臭さのためエクジョッを使用して調理する料理の種類も制限される。東南アジアの場合、エクジョッは様々な用途で使用されているが、韓国では主にキムチの副原料として使用されている。韓国では水産物を塩蔵、発酵させて、水産発酵食品として調味料又はキムチを漬ける際の副原料として用いており、このような水産発酵食品のほとんどは多量の食塩が添加され、原料自体のタンパク質分解酵素の作用により、原料のタンパク質が分解されて発酵及び熟成されたものをいい、このうちエクジョッは、塩辛(チョッカル)をより長期間発酵させて液汁を分離したものをいう。
【0003】
水産物を利用した塩辛(チョッカル)及びエクジョッは、酵素作用によって熟成された結果として作り出された旨味と濃厚な味、そして水産物特有の風味があり、主に食欲増進剤の役割を果たす調味食品として愛用されている。実際に、塩辛(チョッカル)及びエクジョッはワカメスープ、かぼちゃの和え物、キムチを漬ける際の副原料として使用されている。韓国では、地方によって様々な種類の塩辛(チョッカル)類が作られており、これを活用したキムチ類が活性化している。最近では、食品原料の国際化に伴い、東南アジアをはじめとする海外からも、味の類似したエクジョッなどが、食材として輸入されている。
【0004】
従来から製造されてきたエクジョッは、水分、塩分、少量のアミノ酸、窒素及びカルシウムなどを含有している。代表的なカタクチイワシのエクジョッは、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、又はリジンなどの各種アミノ酸と核酸などの呈味成分を多量に含有しており、昔からキムチ類(白菜キムチ、チョンガ(ミニ大根)キムチ、からし菜キムチなど)と炒め物類などの味付けに広く使用されている。
【0005】
このようなエクジョッは、従来は主に家庭で製造して使用する自給自足型の消費形態がほとんどであったが、最近では大規模な工場において、衛生的で貯蔵性の増大したエクジョッを生産しており、その需要量も徐々に増加の趨勢にある。
【0006】
伝統的な従来のエクジョッの製造方法は、原料の水産物を丸ごと塩と混合し、タンクや容器に入れて一定期間(24か月以上)発酵させた後、水産物のタンパク質が分解されて生じる液汁を濾過することによって作る。水産物を原料として製造したエクジョッは動物性の天然調味料であって、キムチ製造時に必須の調味料として使用されており、一部の食品の調理の際に使用され、韓国国民の食文化には、欠かせない必須調味料の一つとして位置づけられている。
【0007】
伝統的な方法で発酵させる場合には、長時間の発酵熟成期間を要し、長時間発酵されるにつれ水産物の自己消化酵素によって水産物のタンパク質が分解され、また、高塩分で育つことのできる様々な微生物によって、水産物のタンパク質が分解される。この時関与する微生物の種類や状態によって発酵が異なり、時には雑菌の汚染により臭みと異味を伴うのが一般的である。
【0008】
最近では、生臭さの少ないイカナゴを用いたイカナゴエクジョッが多数生産されているのが実情である。しかし、イカナゴのエクジョッも、カタクチイワシのエクジョッのような伝統的な方法で製造される場合には、異臭と異味が生じるため、キムチのように臭いの強い食品にのみ使用が可能である。
【0009】
また、伝統的な従来の方法は、長期間を要するため、生産性及び競争力の確保が困難であり、関連産業の発展の障害にもなっているのが現状である。したがって、既存のエクジョッの発酵期間を短縮するための様々な方法が試みられてきた。例えば、特許文献1では、pHを調節して酵素剤を添加し、3次熟成した後に殺菌濾過するエクジョの製造方法を提案している。また、特許文献2では、磨砕肉に酵素活性促進剤としてカルシウム塩とタンパク質分解酵素を添加し、最適なpH及び温度で4時間撹拌して加水分解させた後、殺菌と冷却、濾過した液に食塩を添加するエクジョッの製造法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】大韓民国登録特許 第10-0467500号
【特許文献2】大韓民国登録特許 第10-0034142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑み、短期間内の速成によって競争力を備えた高品質及び風味の優れたエクジョッの製造方法を開発しようと努力した結果、磨砕した水産物に塩を添加混合して均質化した後、1次発酵期間を経てからエクジョッ原液を混合して密閉容器に漬け込み、空調システムの環境下で、一定の温度で2次発酵熟成させることによって、水産物の自己分解酵素が原料水産物のタンパク質を分解し、短期間(15日〜5か月)内の速成で高品質及び風味の優れたエクジョッの製造が可能であることを確認することによって、本発明を完成するに至った
【0012】
さらに、磨砕した水産物に塩を添加混合して、均質化した後、1次発酵期間を経た後、エクジョッ原液と混合して、密閉容器に浸け込み、空調システムの環境下、一定の温度で発酵熟成させることによって、高品質の原液の生産及び水産物の自己分解酵素が原料水産物のタンパク質を分解することにより、相対的に長期間(6か月〜12か月以上)発酵熟成をしても、高品質及び風味の優れたエクジョの製造が可能であることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、短期間に風味豊かなエクジョッを製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、前記方法によって製造されたエクジョッを提供することである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエクジョッの製造方法は、従来の1〜3年以上の長期にわたる発酵熟成期間を画期的に短縮することができ、エクジョッ原液の添加により栄養成分の含量及び味が改善されることから魚特有の生臭さを抑えて、官能的な味と品質を向上させるので、エクジョッ製造業界において高い競争力を持ち、広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施例によるエクジョッの製造方法を工程別に示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一つの態様は、短期間に風味豊かなエクジョッを製造する方法を提供する。特に、(a)磨砕した水産物又は水産物原料に塩を添加し、混合均質化によって混合均質物を得る工程と、(b)前記工程(a)の混合均質物を1次発酵させる工程と、(c)前記工程(b)の1次発酵物にエクジョッ原液を添加して混合する工程、及び(d)前記工程(c)の混合物を発酵熟成させる工程とを含む、エクジョッの製造方法を提供する。
【0018】
具体的には、本発明は、前記工程(d)において工程(c)の混合物を恒温条件で発酵熟成させることを特徴とするエクジョッの製造方法を提供する。さらに、本発明は、前記工程(d)において工程(c)の混合物を、空気を通さない密閉容器において恒温条件で発酵熟成させることを特徴とするエクジョッの製造方法であってもよい。
【0019】
より具体的には、本発明は、(a)磨砕された水産又は水産物原料に塩を添加し、混合均質化によって混合均質物を得る工程と、(b)前記工程(a)の混合均質物を1次発酵させる工程と、(c)前記工程(b)の発酵物にエクジョッ原液を添加して混合する工程、及び(d)前記工程(c)の混合物を、空気を通さない密閉容器において中温(20〜60℃)条件で15日〜1年間2次発酵熟成させる工程とを含むエクジョッの製造方法であってもよい。
【0020】
また、本発明は、長期間の発酵熟成時にも優れた風味を維持するエクジョッの製造方法を提供する。具体的には、本発明は、(a)磨砕した水産物又は水産物原料に塩を添加し、混合均質化によって混合均質物を得る工程と、(b)前記工程(a)の混合均質物を1次発酵させる工程と、(c)前記工程(b)の発酵物にエクジョッ原液を添加して混合する工程、及び(d)前記工程(c)の混合物を、空気を通さない密閉容器において5〜30℃の恒温条件で6か月以上、又は12か月以上発酵熟成させる工程とを含むエクジョッの製造方法を提供する。
【0021】
特に、本発明のエクジョッの製造方法は、前記工程(a)以前に、(i)洗浄した水産物の水気を除去する工程、及び(ii)前記水気を除去した水産物を磨砕するか、又は前記の水気を除去した水産物をそのまま使用する工程をさらに含んでもよい。
【0022】
また、本発明のエクジョッの製造方法は、工程(d)以降に製造されたエクジョッを60〜100℃で10〜30分間熱処理して冷却する工程をさらに含んでもよい。
【0023】
本発明の「エクジョッ」とは、動物性タンパク質の発酵物であって、魚醤ともいう。前記動物性タンパク質は、海洋動物に由来するものが好ましい。本発明において、海洋動物とは、魚又は甲殻類、頭足類動物などを含んでもよく、イカナゴ、カタクチイワシ、アジ(horse mackerel)、イカ、タコ、サンマ、イワシ、マグロ、マグロ煮熱液、エビ、アミ科甲殻類(Mysidae)、ニシン、コノシロ、サバ、マアジ(Trachurus japonicas)、ブリ、ワカサギ又はこれらの組み合わせなどであってもよく、具体的にはイカナゴ又はカタクチイワシであるが、これに制限されるものではない。
【0024】
本発明の用語「エクジョッ原液」とは、塩蔵した水産物を発酵熟成させた原液、前記原液の濾過液、又は水産物原料に塩を混合して1次発酵させた後、これに前記の方法で製造されたエクジョッ原液を添加した混合物をいう。エクジョッ原液は、伝統的には、カタクチイワシ又はイカナゴを原料として使用するが、場合によっては、アジ、イカ、タコ、サンマ、イワシ、マグロ、マグロ煮熱液、エビ、アミ科甲殻類、白魚、ニシン、コノシロ、サバ、マアジ、ブリ、ワカサギ、又はこれらの組み合わせなどを原料として使用することもできるが、これに制限されるものではない。本発明の一実施例では、カタクチイワシ10kgと塩2.5kgを混合して容器に入れ、6か月〜12か月以上発酵させて濾過したカタクチイワシの原液を使用した。
【0025】
本発明のエクジョッの製造方法は、水産物と塩の均質混合物の1次発酵後のエクジョッ原液を添加して、空気を通さない密閉容器において恒温条件で発酵させ、伝統的なエクジョッの発酵期間を半分以下に短縮することができるという利点がある。
【0026】
具体的には、本発明の発酵は水産物、塩及びエクジョッ原液の混合物をタンク又は容器に漬け込み、空気を通さないように発酵熟成させることができる。具体的には、本発明による発酵の過程は、空気を通さないように発酵容器を管理して、空調システムの環境下において恒温条件で行ってもよい。
【0027】
また、本発明は、一定割合のエクジョッ原液の添加によって、既存のエクジョッの品質(TN)よりも向上したエクジョッを生産することができるエクジョッの製造方法を提供する。さらに、相対的に長期間熟成させる場合においても、既存のエクジョッよりも品質の向上したエクジョッを生産することができる。
【0028】
熱風又は温風で加温して速成発酵させた本発明のエクジョッは、伝統的なエクジョッに比べて、味において旨味と甘み及びエクジョッの調和性において、既存の発酵方法よりも優れた味質を示し、速成発酵の短縮によって、味と栄養成分の差はないものと判断され、伝統的な水産発酵食品の競争力を一段階向上させることができるであろう。
【0029】
本発明によるエクジョッの製造方法は、具体的には下記の通りである。
A. 水産物を水洗いする工程
原料となる水産物を2〜3回水洗いする。本発明におけるエクジョッの製造に使用できる水産物の種類としては、これに限定されないが、イカナゴ、カタクチイワシ、アジ、イカ、タコ、サンマ、イワシ、マグロ、マグロ煮熱液、エビ、アミ科甲殻類、白魚、ニシン、コノシロ、サバ、マアジ、ブリ、ワカサギ又はこれらの組み合わせなどの水産物を使用することができ、具体的には、カタクチイワシ又はイカナゴであってもよい。
【0030】
前記水洗いは、エクジョッの原料となる水産物をきれいな精製水を用いて洗浄することができ、又は海水を用いて作業を行ってもよい。
【0031】
B. 水気を除去する工程
前記水洗いが完了した水産物の水気を除去する工程として、水切り作業を行うことができるが、30分以内の短時間で行うことが好ましい
【0032】
C. 水産物を磨砕する工程
前記工程で水気を除去した水産物は、混合機内で塩を混合する以前に0.5〜1.5cmの大きさに十分に磨砕する。このような磨砕工程は、酵素と微生物の作用を容易にさせることによって、タンパク質の分解速度を容易にすることが好ましいが、前記工程で磨砕を経ずに水産物原料をそのまま使用しても差し支えない。
【0033】
D. 水産物に塩を添加して混合均質化する工程
前記工程で磨砕した水産物又は水産物原料に塩を添加して混合均質化する。この時、添加される塩の量は、磨砕した水産物又は水産物原料の重量に対して17〜30%(w/w)の重量で添加することができる。これは、次の工程の中温発酵時に原料水産物が腐敗するのを防ぐためである。即ち、塩の量が前記17重量部未満の場合、塩の量が十分でないためエクジョッが腐敗する可能性があり、一方、30重量部を超過すると、あまりにも高塩分であるため食用としての嗜好度が低下するだけでなく、過剰な塩分の摂取量により健康上の問題が生ずることがある
【0034】
したがって、塩の量を磨砕した水産物又は水産物原料の重量に対して17〜30%(w/w)で添加する場合、腐敗の可能性を低くし、過剰な塩分の摂取を減らすことができるので好ましい。また、本発明において使用できる前記塩は、市販の精製塩、天日塩のいずれも使用可能であり、水分含量が90%以上除去された天日塩を使用するのが好ましい。
【0035】
前記水産物と塩の混合はスクリューを用いることによって混合均質化することができる。
【0036】
E. 塩蔵水産物を1次発酵させる工程
前記工程で均一に混合した水産物(均質混合物)を、空気を通さない容器(密閉容器)内に入れ、1次発酵させる工程である。本発明の1次発酵は、前記均質混合物を空気を通さない密閉容器に入れ、20〜30℃で1日以上、具体的には1日〜3か月間継続することができる。
【0037】
本発明の密閉容器は、空気を通さない任意の密閉容器であってもよく、例えば、PE(ポリエチレン)タンク、ステンレス材質のタンク、FRP(繊維強化プラステイック、fiber reinforced plastics)タンク、陶器、ガラス容器及びプラスチック容器からなる群から選択されるものであってもよい。
【0038】
F. 1次発酵した塩蔵水産物にエクジョッ原液を添加及び混合する工程
前記工程において1次発酵した塩蔵水産物にエクジョッ原液を添加して混合する。この時、添加されるエクジョッ原液の量は、均質混合物の重量に対して1〜30%(w/w)の重量で添加することができる。これは、次の工程である中温発酵時に水産物の自己酵素の分解とタンパク質の分解酵素により分解速度を促進させ、水産物が分解されるにつれて、特有の生臭さは少なくなり、風味の優れたエクジョッ原液が得られる。
【0039】
G. 2次発酵熟成させる工程
エクジョッ原液を添加して混合する工程が完了したら、混合物を恒温、特に中温で発酵熟成させる工程を実施する。本発明において、エクジョッの発酵は通常の場合よりも中温で行うことが特徴であるが、例えば、前記中温は20〜60℃、具体的には40〜50℃である。このような中温を一定に維持するために空調システムの環境下で熱風又は温風で温度を維持することができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
また、本発明において、前記中温での発酵は、15日〜1年間、具体的には15日〜5か月間、より具体的には、1か月〜3か月間行われる。これは、通常のエクジョッの製造期間である1年〜3年に比べて画期的に短い期間であるが、従来のエクジョッと栄養成分及び風味において全く違いを示さない。むしろエクジョッ原液の添加により、タンパク質の含量の増加及び旨味、甘みの向上、腐敗程度の減少、エクッジョ特有の生臭さの除去など、官能的な味と品質が向上することが確認された(表1〜3)。
【0041】
また、エクジョッ原液を添加して混合する工程が完了した後、混合物を前記中温よりも低い恒温条件、より具体的には、5〜30℃の恒温で6か月以上、具体的には6か月〜12か月間、発酵熟成させることができる。
【0042】
また、本発明において、前記発酵熟成後に製造されたエクジョッを60〜100℃で10〜30分間熱処理して冷却してもよい。
【0043】
H. 濾液の取得
その後、追加の工程として、発酵熟成タンク内で生成された発酵液は、沈殿物を除去し、上澄み液を分離して静置した後、濾過し、濾過された濾液を得ることによって、本発明によるエクジョッを製造する。前記濾過は、当業界で用いられる通常の方法であれば全て可能であり、具体的には1.0マイクロメートルのフィルターを使用して発酵液を濾過することによって行うことができる。
【0044】
本発明の一実施例によれば、伝統的な従来の製造方法で製造されたカタクチイワシのエクジョッと、本発明によって製造されたエクジョッを対象として、含有されるエクジョッの栄養成分である全窒素及びアミノ態窒素の含量を比較した結果、発酵期間が同一の場合でも、本発明によって製造されたエクジョッの場合、全窒素及びアミノ態窒素の含量がはるかに増加したことが分かった(表1)。したがって、前記の結果から、本発明者は、本発明によってエクジョッを製造する場合、エクジョッの製造に所要される時間を画期的に短縮できるだけでなく、同一期間発酵すると、栄養成分の含量を大幅に増加させうるという事実を見出した。
【0045】
また、本発明によって製造されたエクジョッは、従来の方法で製造されたエクジョッに比べて短期間で製造されたものであるにもかかわらず、風味においても優れていることが確認された。即ち、本発明の一実施例によれば、伝統的な従来の製造方法で製造されたエクジョッと、本発明によって製造されたエクジョッを比較した結果、塩味、旨味、エクジョッの香り、総合嗜好度などの官能評価要素において有意な違いを示すことが分かった(表3)。これは、恒温条件下でエクジョッ原液の添加により、エクジョッ特有の生臭さの除去、旨味向上、甘味向上、固有の風味向上などにより官能的な味もまた、従来のエクジョッより改善されたと見なすことができる。
【0046】
即ち、本発明によってエクジョッを製造する場合、エクジョッの製造に所要される期間を画期的に短縮することができるだけでなく、従来のエクジョッの風味よりも優れた品質のものを生産できるであろう。
【0047】
もう一つの態様として、本発明は、本発明のエクジョッを製造する方法によって製造されたエクジョッを提供する。本発明のエクジョッを製造する方法によって製造されたエクジョッは、短期間で製造できるという利点があるだけでなく、従来のエクジョッの風味よりも品質が優れているので、製品価値が高ことが確認された。
【0048】
一方、本発明のエクジョッは、一般的にエクジョッを含むキムチ、各種和え物、炒め物類、汁、ケジャン(蟹醤)、Fish sauce(魚醤)などの食品に制限なく添加することができる。即ち、キムチには一般的に本発明のエクジョッを使用することができ、各種おかず類を成す和え物、炒め物類においても本発明のエクジョッを使用することができる。本発明のエクジョッは、従来のエクジョッよりもエクジョッ特有の生臭さの除去、旨味向上、甘味向上などにより官能的な味が向上し、使用用途をキムチ製造及び限定食品に対する調味料として使用するというよりは、より汎用性の広い製品として使用しても差し支えない。それだけでなく、エクジョッを加工生産する漁民の所得増大及び伝統水産食品の発展と、さらには韓国の水産業及び食品産業の発展にも寄与しうる効果がある。
【0049】
以下、本発明を実施例により、より詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1:カタクチイワシのエクジョッの製造
1−1.原材料の準備
本発明のエクジョッを製造するために、代表的にエクジョッの製造に使用される魚であるカタクチイワシを用いた。具体的には、韓国慶尚南道固城郡に位置する南海岸で漁獲された、9〜13cmの新鮮なイワシを購入して用いた。
【0051】
また、本発明のエクジョッに使用するエクジョッ原液は、カタクチイワシ10kgを2〜3回洗浄して異物を選別し、漬け込み完了後、水気を除去して2.5kgの塩を混合して均質化した後、6か月〜12か月以上発酵熟成したエクジョッを濾過製造して使用した。
【0052】
1−2.エクジョッの製造過程
前記購入したカタクチイワシを海水で2回洗浄し、網の上で30分間静置して水気を除去した後、カタクチイワシを0.5〜1.0cm以上の大きさに磨砕した。その後、磨砕したカタクチイワシ30kgに対して天日塩9kgを添加して混合均質化した後、空気を通さない密閉容器に入れて20〜30℃で1日〜3か月間1次発酵させた。前記1次発酵物にエクジョッ原液11kgを入れて混合均質化した。
【0053】
前記均質化が完了したら、50LのFRP(fiber reinforced plastics)容器に漬け込みを完了し、外部から空気が混入して腐敗が起こらないように蓋をして、空調システム下において熱風で約40〜50℃の恒温にて4か月間発酵熟成させた。
【0054】
一方、本発明のエクジョッとの対照群のエクジョッを製造するために、前記磨砕したカタクチイワシ38.5kgに対して天日塩11.5kgを添加して、エクジョッ原液を添加せずに均質化した。前記均質化が完了したら、50LのFRP容器に漬け込みを完了し、外部から空気が混入して腐敗が起こらないように蓋をして、常温で12か月間発酵熟成させた。
【0055】
実施例2:カタクチイワシのエクジョッに存在する栄養成分の含量比較
前記実施例1で製造した実験群である本発明の速成発酵のカタクチイワシのエクジョッと対照群として製造した伝統的に発酵させたカタクチイワシのエクジョッについて、それぞれのカタクチイワシのエクジョッに含まれる栄養成分と発酵の程度を測定した。
【0056】
具体的には、エクジョッの栄養成分と発酵の程度を測定する判定基準となりうる全窒素(total nitrogen、TN)とアミノ態窒素(amino nitrogen、AN)の含量を測定し、この時、全窒素含量の測定はケルダール法を使用し、アミノ態窒素含量の測定はホルモール法で行った。
【0057】
前記ケルダール法は、試料に硫酸を加えて加熱濃縮して有機性窒素を分解した後、アルカリ溶液を投入してアンモニウム塩をNHで遊離し、酸性溶液に吸湿させた後、吸収されたNHを滴定によって定量し、窒素の含量を測定する原理で行う。
【0058】
また、前記ホルモール法はアミノ酸を約pH9に維持すると、「NH+CH(R)COO-(1状態)<=> NH+CH(R)COO-+H +(2状態)」状態に平衡化される。これにホルムアルデヒドを加えると、2状態のアミノ酸は、ホルムアルデヒドと反応してその他の化合物を作るため、前記平衡を維持するために1状態から2状態に反応が進行し、これによって水素イオンが放出される。したがって、pH9付近で発生する水素イオンをアルカリで滴定してアミノ酸を定量する原理で行われる。
【0059】
前記ケルダール法及びホルモール法で測定した全窒素及びアミノ態窒素の測定結果を下記表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
前記表1に示すように、本発明の製造方法により製造された速成発酵したカタクチイワシのエクジョッ(実験群)が、従来の伝統的な方法で製造されたカタクチイワシのエクジョッ(対照群)に比べて全窒素(TN)及びアミノ態窒素(AN)の含量が急速に増加することが分かる。
【0062】
具体的には、本発明の一定温度(45℃)下で速成発酵させたカタクチイワシのエクジョッ(実験群)は、発酵3か月で全窒素含量が2.20(g/100mL)、及びアミノ態窒素含量は1134.00(mg/100mL)に達し、伝統的に常温で12か月間発酵させたカタクチイワシのエクジョッの全窒素含量である2.13(g/100mL)、及びアミノ態窒素含量1092.56(mg/100mL)よりむしろ高いことが確認された。
【0063】
一方、同一期間について全窒素及びアミノ態窒素の含量を比較してみると、例えば3か月発酵時には、本発明の一定温度(45℃)下で速成発酵させたカタクチイワシのエクジョッ(実験群)は、全窒素含量が2.20(g/100mL)、及びアミノ態窒素含量は1134.00(mg/100mL)に達するのに対し、伝統的に常温で3か月発酵させたカタクチイワシのエクジョッ(対照群)の全窒素含量は1.78(g/100mL)及びアミノ態窒素含量は395.78(mg/100ml)に過ぎず、本発明によるカタクチイワシのエクジョッがはるかに高い値を示すことが確認された。
【0064】
このような結果は、本発明によって塩蔵水産物の1次発酵後、エクジョッ原液の添加後、一定温度下で発酵熟成させる方法が、従来の伝統的な方法により常温で発酵させる方法よりも、発酵期間を1/2以下に短縮でき、さらにエクジョッの重要な栄養成分である全窒素とアミノ態窒素の含量は、同一期間の発酵時に、より増加させうることを意味するものであり、本発明の優れた効果を示しており、これにより本発明は産業的に活用の価値が高いことを確認することができた。
【0065】
実施例3:カタクチイワシのエクジョッに存在するヒスタミンの含量比較
ヒスタミンは、人体に対して比較的危害程度は低いが、多量摂取又はこれらの代謝のための自然的メカニズムが阻害又は欠乏する場合には、健康を大きく損なう場合もあり、微生物による食品の腐敗時にヒスタミンが生成されるので、ヒスタミンは微生物による食品の腐敗の尺度として用いられている。よって、前記本発明の発酵熟成によるヒスタミン含量を分析し、その結果を表2に示した。
【0066】
【表2】

【0067】
前記表2に示すように、本発明の製造方法により製造された速成発酵のカタクチイワシのエクジョッ(実験群)が、従来の伝統的な方法で製造されたカタクチイワシのエクジョッ(対照群)に比べてヒスタミン含量が低いことが分かった。
【0068】
具体的には、本発明の実験群(3か月発酵熟成)は、ヒスタミン含量が109ppmであるのに対して、伝統的な発酵方法により常温で12か月間発酵させた対照群のカタクチイワシのエクジョッ(12か月発酵熟成)は、433.6ppmを示し、実験群よりも4倍以上ヒスタミン含量が高いことが分かった。
【0069】
このような結果は、本発明により塩蔵水産物を1次発酵し、エクジョッ原液を添加して混合した後、一定温度下で3か月間発酵熟成させる方法が、従来の伝統的な方法により常温で発酵させる方法よりも腐敗の程度が著しく低いエクジョッを製造することができ、短期間で製造できる利点があるだけでなく、品質面においても向上した、産業的に活用の価値が高い方法であることが分かった。
【0070】
実施例4:官能検査
前記実験群(3か月発酵熟成)と対照群(12か月発酵熟成)のカタクチイワシのエクジョッについて次のように官能的嗜好性の評価として、官能検査を実施したが、評価項目は外観的嗜好度、全般的嗜好度、香味嗜好度、咀嚼感嗜好度、後味嗜好度、辛味嗜好度、塩味嗜好度、塩辛香味嗜好度、旨味嗜好度、甘味嗜好度、異味/異臭の強度などとし、製品を実際に使用するターゲットの消費者パネル50名(性別:女性、年齢25〜40歳代のソウル、京畿居住の専業主婦)を対象に消費者受容性調査(Consumer acceptance test)方法に従い9点の尺度を用いて官能検査を実施した。その結果を下記の表3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
その結果、前記表3に示すように、本発明によって磨砕した魚にエクジョッ原液を添加して一定温度下で速成発酵させたカタクチイワシのエクジョッ(実験群)は、従来の伝統的な方法で発酵させたカタクチイワシのエクジョッ(対照群)と比較した時、外観的嗜好度、香味、塩辛香味、塩味及び全般的嗜好度において比較優位にあることを示した。
【0073】
前記のような結果を総合すると、本発明の製造方法によって製造されたエクジョッは、極めて短期間で製造されたものであるにもかかわらず、エクジョッの品質が全く劣っていないだけでなく、むしろ既存の伝統的な方法に比べて品質が優れていることが分かった。
【0074】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解することができる。これに関連し、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、前述した詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1