特許第6211052号(P6211052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6211052創傷の分類及び予後のための方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211052
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】創傷の分類及び予後のための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20171002BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20171002BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20171002BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171002BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20171002BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20171002BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20171002BHJP
   A61P 9/14 20060101ALN20171002BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12M1/00 A
   G01N37/00 101
   G01N33/50 P
   G01N33/53 D
   G01N37/00 102
   !A61K45/00
   !A61P17/02
   !A61P9/14
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-502377(P2015-502377)
(86)(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公表番号】特表2015-513898(P2015-513898A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2013056830
(87)【国際公開番号】WO2013144348
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2012/000906
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】IB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514245133
【氏名又は名称】ビバテック
(73)【特許権者】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク セエヌエールエス
(73)【特許権者】
【識別番号】510162850
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ ディデロ−パリ 7
(73)【特許権者】
【識別番号】508192245
【氏名又は名称】エコル ノルマル スペリュール
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】デュガスト ダルザック クレール
(72)【発明者】
【氏名】ダルザック グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ノワゼ メーテ
(72)【発明者】
【氏名】ラグッテ エミリー
(72)【発明者】
【氏名】ルースト クロリス ユーグ
(72)【発明者】
【氏名】グラティニー マルレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブシュバシェ マリエル
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/033249(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0287535(US,A1)
【文献】 特表2011−506971(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0039163(US,A1)
【文献】 Journal of Investigative Dermatology,2008年,Vol. 128,p. 2526-2540
【文献】 Experimental and Therapeutic Medicine,2011年,Vol. 2,p. 641-645
【文献】 Journal of Investigative Dermatology,2007年,Vol. 127,p. 2645-2655
【文献】 Circulation Research,2004年,Vol. 95,p. 179-186
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,1997年,Vol. 272, No. 29,p. 18147-18154
【文献】 Journal of Cell Science,2012年 1月20日,Vol. 125,No. 121-132
【文献】 Molecular Biology of the Cell,2004年,Vol. 15,p. 5242-5254
【文献】 The American Journal of Pathology,2008年,Vol. 173, No. 5,p. 1528-1539
【文献】 Genes to Cells,2012年 3月 2日,Vol. 17,p. 302-315
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12M 1/00− 3/10
A61P 1/00−43/00
A61K 38/00−38/58、41/00−45/08、48/00
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/MEDLINE(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物(ヒトを除く。)から単離された創傷のサンプルにおいて、分子マーカーPI16をコードする遺伝子の発現のレベルを測定するステップを含む、非治癒又は慢性の創傷組織の診断又は予後の予測の方法。
【請求項2】
対応するRNAの定量化によって、前記遺伝子の発現のレベルが測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNAがmRNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子の発現のレベルが、対応するコードされたタンパク質の定量化によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、抗体を用いることにより測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法を実施するためのキットであって、以下の(1)及び(2)を含むキット:
(1)PI16遺伝子の発現レベルを検出し、定量化するためのプローブ、
(2)前記プローブの使用に付属している試薬及び説明書。
【請求項7】
以下の(1)及び(2)を含む、哺乳動物の創傷の予後を決めるためのキット:
(1)PI16遺伝子のRNA又はタンパク質についての発現レベルを検出し、定量化するためのプローブ
(2)前記プローブの使用に付属している試薬及び説明書。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にヒトにおける、哺乳動物の創傷の分類及び予後のための方法及びキットに関する。この方法は、慢性又は非治癒の創傷のような病理学上の癒傷を特徴づけることができる分子サインを定義する。
【背景技術】
【0002】
自然の癒傷は、3つの連続的な段階;それぞれの段階は、特定の細胞活性によって特徴付けられる:炎症の段階、増殖の段階、及びリモデリングの段階、に分けられる。
【0003】
炎症の段階と呼ばれる、最初の段階は、損傷の後数分で始まる。血管の破裂は、主にフィブリン及びフィブロネクチンから構成される血塊形成を引き起こす。血塊は部分的に損傷を満たし、損傷内へ炎症細胞が移動し得る。炎症細胞は、創傷を清拭するために動員される。血小板は、癒傷に関与する細胞(好中球及びマクロファージ、線維芽細胞及び内皮細胞のような炎症細胞)の動員を引き起こす、成長因子又はサイトカインのような、因子を分泌する。
【0004】
第二の段階は、増殖の段階と呼ばれ、肉芽組織の発達に相当する。線維芽細胞は創傷エリアに移動し、増殖し、及び細胞外マトリクス(ECM)タンパク質の分泌によって、新しい仮の細胞外マトリクスを形成する。その際、内皮細胞は、損傷の血管化又は血管新生を促進するために移動する。肉芽組織の内部で、線維芽細胞は活性化し、α−平滑筋アクチン(平滑筋細胞中にあるものと類似する)のそれらの発現のおかげで、収縮性の特性を呈する筋線維芽細胞に分化する。筋線維芽細胞は、創傷の収縮をもたらすとして、癒傷において重要な役割を有する。最終的に、角化細胞は、創傷の端から移動し、表皮を再構成するために、増殖し、及び分化する。
【0005】
癒傷プロセスの最後の段階は、創傷が閉じた後に現れる。それは、肉芽組織のリモデリングに相当する。肉芽組織は再組織化され、正常な真皮が主にI型コラーゲンからなるように、III型コラーゲンがI型コラーゲンに取って代わられる。この段階の間、過剰の筋線維芽細胞は、アポトーシスにより除去される。この癒傷の最後の段階は長い。損傷の後1年、瘢痕は再構築され;若干の赤色を帯び、より薄い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このプロセスは複雑なだけではなく、脆弱でもあり;中断又は失敗に影響され、慢性又は非治癒の創傷の形成、又は異常な傷跡の形成がもたらされる。これに寄与するであろう要因は、疾患(糖尿病、静脈又は動脈の疾患のような)、年齢、感染、又は組織局在を含む。
【0007】
慢性又は非治癒の創傷
慢性の創傷は、部分的に、十分な処置の方法の不足のため、世界的な健康問題である。2010年には、世界中の7百万以上の人々が、慢性の創傷に苦しみ、少なくとも10%、1年で増加していると推測される。
【0008】
慢性の創傷は、時折、非治癒の創傷である。慢性の創傷の共通の型は、これらに限定されないが、静脈下腿潰瘍、糖尿病性下腿潰瘍、褥瘡性潰瘍、動脈下腿潰瘍、これらが混在した病因(静脈及び動脈)、又はこれらと未知の病因を含む。正しく治癒されないとき慢性となる、急性の創傷も発見し得る。
【0009】
非治癒の創傷又は慢性の創傷は、患者、医療関係者、及びヘルスケアシステムにとっての課題である。それらは、数百万の人々にとっての生活の質をかなり損ない、生産性の損失、及びヘルスケアにかかる金額の点で、社会に負担を与える。
【0010】
癒傷は、組織の完全性、及び機能の回復に導く、機能的な経路である。慢性の創傷又は非治癒の創傷は、正常な修復のプロセスが妨害されるとき、発生する。癒傷についての生物学を理解することで、医師は、適切な処置の選択によって、癒傷を最適化できる。
【0011】
慢性又は非治癒の創傷において、自然治癒のプロセスが変質し、それによって、治癒が長期化、不完全となり、時には創傷が閉じない。慢性の創傷は、いくつかの要因が正常な炎症及び増殖の段階の中断をもたらすとき、起こる。このように、創傷が閉じ、治癒される最良の処置を適合するための、非治癒又は慢性の創傷の診断にとっての、信頼性の高い方法が必要である。創傷のより良い治療、及び治療の期限の緩和も必要である。
【0012】
いくつかの病理学上の疾患、又は特定の解剖学的局在において、早期の創傷の潜在的な兆候、発症の診断は、創傷の発達を妨げるのを助け得る。創傷がすでに発達した状態において、創傷の診断又は予後の知識は、患者が、治療からの最大の利益を受けることを可能にするだろう。このように、この創傷の処置は、創傷の初期段階において、もし正しく治癒されないリスクがあるなら、とりわけ、その創傷に適合する。
【0013】
患者が慢性又は非治癒の創傷が発達しやすいかどうか、さらに、もし慢性の創傷が発達するなら、患者がどのように特定の治療に応じることになるかを知ることは有益である。このように、重要な目的は、早期及び改良された、処置の選択を提供するために、慢性又は非治癒の創傷のための診断又は予後の方法を見極めることである。
【0014】
いくつか共通の臨床的/病理的要因は、創傷が「治癒」し得るか、若しくは「非治癒」であり得るか、又は急性の創傷が慢性になり得るかどうかを予め判断するのに役立ち得るが、創傷の種類を識別するための特定の臨床検査はない。Systagenixによって商品化されたWoundcheck status(登録商標)は、プロテアーゼ活性を測定できるようにするものであるが、治癒できなかった他の慢性の創傷より早く、良好に治癒できた慢性の創傷を識別するのに十分なほど明確ではない。
【0015】
例えば、創傷の臨床的観察のような現在の技術は、慢性又は非治癒の創傷の発達を予測するのに失敗し、患者を創傷の治癒の転帰で分類するのに不十分である。もし、慢性又は非治癒の創傷の発達のリスクにある患者が見極められなければ、好適な予防措置又は処置を、潜在的に優れた有効性のある対象となる計画で使用できない。
【0016】
国際公開公報第2011/033249は、分子マーカー又は遺伝子に基づく創傷の分類及び予後のための方法及びキットを開示する。
【0017】
しかしながら、創傷の行く末の早期の診断又は予後の方法が当該技術分野で必要とされたままである。特に、これらに限定されないが、静脈下腿潰瘍、糖尿病性下腿潰瘍、褥瘡性潰瘍、及び動脈下腿潰瘍、非治癒の急性の創傷のような、慢性又は非治癒の創傷の診断又は予後の感度が高い及び信頼性の高い方法が必要である。
【0018】
それゆえ、創傷の転帰の診断又は予後の方法を提供することが本発明の目的である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の態様において、非治癒又は慢性の創傷組織の診断又は予後の方法が提供され、前記方法は、哺乳動物からの創傷において、異なる分子マーカーをコードする遺伝子の発現のレベルを測定するステップを含み、前記遺伝子は以下のとおり定義される:
前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
POU2F2、AMIGO2、CCL11、CDC45L、CSF2、CSF3、FOXS1、GOS2、IF44L、INHBA、KPRP、LCP1、LPAR3、MICAL2、MT1F、MT1M、POLQ、RRM2、SERPINA9、SOX9、STC1、TFIP2、及びUCN2のうちの少なくとも1つが発現の増加を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、少なくとも以下のmiRNA:
AC084368.1が発現の減少を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
CNN1、及びKRT16のうちの少なくとも1つが正常な発現を示し、
又は、哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝:
ACTC1、ADAMTS7、CFB、COMP、ECM2、EDIL3、EFHD1、FOLR1、ITGA11、KIT、LBH、LGR5、MED12L、MFAP5、NR4A3、OMD、PALM、PHACTR3、PI16、PPARG、PTH1R、PTX3、RCAN2、RSPO1、SPON2、TAGLN、TMEM37、TMSB4Y、TXNIP、及びWFDC1のうちの少なくとも1つが発現の減少を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したときに、以下のmiRNA:
MIR147B、及びMIR1181のうちの少なくとも1つが発現の増加を示す。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、非治癒又は慢性の創傷組織の診断又は予後の方法も、哺乳動物からの創傷のサンプルにおいて、異なる分子マーカーをコードする遺伝子の発現のレベルを測定するステップを含み、前記遺伝子は以下のとおり定義される:
前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較するとき、以下の遺伝子:
ACTC1、ADAMTS7、COMP、ECM2、EDIL3、EFHD1、FOLR1、ITGA11、LBH、LGR5、MED12L、MFAP5、OMD、PALM、PHACTR3、PI16、PTH1R、RSPO1、SPON2、TAGLN、TMEM37、TMSB4Y、TXNIP、及びWFDC1のうちの少なくとも1つが発現の減少を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、少なくとも以下のmiRNA:
AC084368.1が発現の減少を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
CNN1、及びKRT16のうちの少なくとも1つが正常な発現を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
CCL11、CDC45L、CSF2、CSF3、GOS2、IF44L、KPRP、LCP1、LPAR3、MT1F、MT1M、POLQ、RRM2、SERPINA9、STC1、及びTFIP2のうちの少なくとも1つが発現の増加を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下のmiRNA:
MIR147B、及びMIR1181のうちの少なくとも1つが発現の増加を示す。
【0021】
本発明の具体的な実施態様において、非治癒又は慢性の創傷組織の診断又は予後の方法も、哺乳動物からの創傷のサンプルにおいて、異なる分子マーカーをコードする遺伝子の発現のレベルを測定するステップを含み、前記遺伝子が以下のとおり定義される:
前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
ACTA2、APOD、FGF9、ID4、POSTN、及びSMAD3のうちの少なくとも1つが発現の減少を示し、
CXCL1、CXCL5、CXCL6、MMP10、MMP3、SERPINB2、SPHK1、HALPN1、及びCTGFのうちの少なくとも1つが発現の増加を示す。
【0022】
本発明の別の具体的な実施態様において、非治癒又は慢性の創傷組織の診断又は予後の方法も、哺乳動物からの創傷のサンプルにおいて、異なる分子マーカーをコードする遺伝子の発現のレベルを測定するステップを含み、前記遺伝子が以下のとおり定義される:
前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
ACTA2、FGF9、ID4、及びPOSTNのうちの少なくとも1つが発現の減少を示し、
又は、前記哺乳動物の正常な皮膚線維芽細胞における発現と比較したとき、以下の遺伝子:
CXCL1、CXCL5、CXCL6、MMP10、MMP3、及びSERPINB2のうちの少なくとも1つが発現の増加を示す。
【0023】
「慢性の創傷」又は「慢性の創傷組織」又は「非治癒の創傷」とは、例えば、静脈下腿潰瘍、糖尿病性下腿潰瘍、褥瘡性潰瘍、及び動脈下腿潰瘍から選ばれる疾患、又は非治癒の急性の創傷又は非治癒の創傷を意味する。
【0024】
本発明における、遺伝子の完全な同一性はNCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)で入手可能であり、又は当業者にとっては周知である。
【0025】
本発明の好ましい態様において、創傷組織はヒトの組織であり、正常な皮膚線維芽細胞は正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)である。
【0026】
本発明の好ましい態様において、正常な皮膚線維芽細胞は、前記哺乳動物の健康な皮膚に基づき、好ましくは、正常な皮膚線維芽細胞は、同じ動物又は個体の健康な皮膚に基づく。
【0027】
上で使用される用語「遺伝子の発現のレベルの測定」は、対照を参照した質的及び/又は量的な検出(レベルの測定)を意味する。典型的には、遺伝子の発現のレベルの測定は、例えば、サンプル又in situハイブリダイゼーションで実施されるRT−PCR、又は、Lynx Therapeutics’ Massively Parallel Signature Sequencing(MPSS)、Polonyシーケンシング、454パイロシーケンシング、Illumina(Solexa)シーケンシング、SOLiDシーケンシング、Ion半導体シーケンシング、DNAナノボールシーケンシング、Helioscope(登録商標)単分子シーケンシング、Single Moleculeリアルタイム(RNAP)、Single Molecule SMRT(登録商標)シーケンシング、Nanopore DNAシーケンシング、VisiGen Biotechnologiesアプローチのような、ハイスループットのシーケンシングで測定できる。
【0028】
典型的には、前記測定はサンプルを、プローブ、プライマー又はリガンドのような選択的な試薬と接触させること、及び、それによって、存在を検出すること、又はサンプルに元々存在する、注目する核酸の量を測定することを含む。接触は、プレート、マイクロタイターディッシュ、試験管、ウェル、ガラス、又はカラムのような、任意の好適な装置で実施させてもよい。特定の実施形態において、核酸アレイ又は特定のリガンドアレイのような試薬で覆われた基質上で接触は実施される。基質は、ガラス、プラスティック、ナイロン、紙、金属、ポリマー等を含む、任意の好適な支持体のような固体又は半固体の基質であってもよい。基質は、スライド、膜、ビーズ、カラム、又はゲルのような種々の形態及びサイズであってもよい。接触は、試薬及びサンプルの核酸の間で形成される、核酸ハイブリッドのような検出可能な複合体に好適な任意のコンディションの下で行ってもよい。
【0029】
特定の実施形態において、遺伝子の発現のレベルの測定は、前記遺伝子のRNAを定量化することにより測定される。前記RNAは、mRNA及びmiRNAから選ばれるのが好ましい。好ましくは、前記RNAがmRNAである。
【0030】
mRNAの量を測定するための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、サンプル(例えば、患者から用意された細胞又は組織)に含まれる核酸は、まず、標準の方法、例えば、製造業者の説明書に従い、溶解酵素若しくは薬液の使用、又は核酸結合樹脂による抽出、により抽出される。その後、抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(例えば、Northernブロット分析)によって検出されてよい。
【0031】
あるいは、抽出されたmRNAは、標的遺伝子における領域の増幅を可能にする、特定のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による逆転写及び増幅のような、一対の逆転写及び増幅に供されてもよい。好ましくは、定量的又は半定量的なRT−PCRが用いられる。リアルタイムの定量的又は半定量的なRT−PCRは特に有利である。抽出されたmRNAは、逆転写及び増幅されてもよく、その後、増幅されたシーケンスが、好適なプローブを用いるハイブリダイゼーションによって、又は直接シーケンス法、若しくはハイスループットシーケンシング、若しくは当該技術分野で公知の、任意の他の適切な方法によって検出されてもよい。
【0032】
他の増幅の方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(TMA)、鎖置換増幅(SDA)、及び核酸配列ベース増幅(NASBA)を含む。
【0033】
少なくとも10のヌクレオチドを有し、本願明細書の注目するRNA対する配列相補性又は相同性が存在する核酸は、ハイブリダイゼーションプローブ又は増幅プライマーとして役立つことが分かる。そのような核酸は同一である必要はないが、典型的には、同程度のサイズの相同領域に対して、少なくとも約80%が同一であり、より好ましくは少なくとも85%が同一であり、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%が同一であると理解される。ある実施形態において、ハイブリダイゼーション検出のための、検出可能なラベルのような適切な手段と組み合わせて核酸を使用することが有利であるだろう。実に様々な適切なラベルは、蛍光性、放射性、酵素、又は他のリガンド(例えば、アビジン/ビオチン)を含み、当該技術分野で公知である。
【0034】
プローブは、典型的には、10〜1000、例えば10〜800、より好ましくは15〜700、典型的には20〜500のヌクレオチド長の1本鎖の核酸を含む。プライマーは、典型的には、増幅されるべき関心対象の核酸と完全又はほぼ完全に適合されるように設計された、10〜25のヌクレオチド長の、短い1本鎖の核酸である。プローブ及びプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に対して「特異的」になり、すなわち、好ましくは、ハイストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件(最高融解温度Tm、例えば、50%ホルムアミド、3x、5x又は6x SCCに対応する。SCCは0.15M NaCI、0.015M Na−クエン酸塩である)下でハイブリダイズする。
【0035】
本発明の方法において、RNAの存在、好ましくは全RNA、及びより好ましくはmRNAの量が、創傷組織の試験されたサンプルにおいて、分析される。RNAの含有を測定するために利用できる全ての技術が使用される。前記技術は、ノーザンブロット、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応、NanoString Technologies、マイクロアレイ技術、又はSerial Analysis of Gene Expression(SAGE)を含んでいてもよい。本発明において、Lynx Therapeutics’ Massively Parallel Signature Sequencing (MPSS)、Polonyシーケンシング、454パイロシーケンシング、Illumina(Solexa)シーケンシング、SOLiDシーケンシング、Ion半導体シーケンシング、DNAナノボールシーケンシング、Helioscope(登録商標)単分子シーケンシング、Single Moleculeリアルタイム(RNAP)、Single Molecule SMRT(登録商標)シーケンシング、Nanopore DNAシーケンシング、VisiGen Biotechnologiesアプローチ、のようなハイスループットシーケンシングも使用できる。
【0036】
本発明の別の実施形態において、サンプルにおける遺伝子の発現のレベルの測定も、対応するコードされたタンパク質を定量化することにより、実施されてもよい。タンパク質成分の測定のために利用できる全ての技術は、使用され得る。
【0037】
このような方法は、サンプル中に存在する目標のタンパク質と選択的に相互作用することができる結合パートナーとサンプルの接触を含む。結合パートナーは、一般に、ポリクローナル又はモノクローナル、好ましくはモノクローナルであってよい抗体である。
【0038】
タンパク質の存在は、競合法、直接反応、又はサンドイッチ型アッセイのような、イムノアッセイを含む標準の電気泳動及び免疫診断の技術を用いて検出され得る。そのような分析は、これらに限定されないが、ウェスタンブロット;凝集検査;ELISAのような酵素ラベル介在イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動法;免疫沈降などを含む。反応には、一般に、蛍光性、化学発光性、放射性、酵素によるラベル、若しくは染色分子のようなラベルを明らかにすること、又は抗原及び抗体若しくはそれらと反応する抗体の複合体の形成を検出するための他の方法を含む。
【0039】
上述のアッセイは、一般に、抗原−抗体複合体が結合している固相支持体から未結合のタンパク質を液相中に分離することを伴う。本発明の実施に使用することができる固体支持体には、ニトロセルロース(例えばメンブラン又はマイクロタイターウェルの形状のもの);ポリ塩化ビニル(例えば、シート又はマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズ又はマイクロタイタープレート);ポリフッ化ビニリデン;ジアゾ化紙;ナイロンメンブラン;活性化ビーズ、磁気応答性ビーズなどのような基質が含まれる。
【0040】
より具体的には、ELISA方法を用いることができ、マイクロタイタープレートのウェルが被験タンパク質に対する抗体のセットで被覆される。次いで、マーカータンパク質を含有する、又は含有する疑いのあるサンプルが、被覆後のウェルに添加される。抗体−抗原複合体を形成させるために十分なインキュベーション時間の後に、プレートを洗浄して未結合の部分を除去し、検出可能にラベルされた二次結合分子を添加することができる。二次結合分子は、捕捉された任意のサンプルマーカータンパク質と反応させられプレートが洗浄され、当技術分野で周知の方法を用いて、二次結合分子の存在が検出される。
【0041】
本発明の別の態様において、任意の1以上の上述の方法を実施するためのキットであって、少なくとも1つの標的遺伝子の発現レベルを検出し、定量化するためのプローブを含むキットが提供される。
【0042】
「プローブ」とは、ハイストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件(最高融解温度Tm、例えば、50%ホルムアミド、3x、5x又は6x SCCに対応する。SCCは0.15M NaCI、0.015M Na−クエン酸塩である)下で、標的遺伝子とハイブリダイズする、10〜1000、例えば10〜800、より好ましくは15〜700、典型的には20〜500ヌクレオチド長の1本鎖の核酸を示す。
【0043】
本発明のさらなる態様によれば、上述の方法の任意の一つを実施するためのキットであって、以下の(1)及び(2)を含むキットが提供される:
(1)表1に明示された全ての遺伝子の発現レベルを検出し、定量化するための複数のプローブ、
(2)任意に、前記プローブの使用に付属している試薬及び説明書。
【0044】
本発明のさらに一層好ましい態様では、以下の(1)及び(2)を含む、哺乳動物の創傷組織の予後を測定するためのキットが提供される:
(1)表1の遺伝子のそれぞれ1における、少なくとも1つのRNA又はタンパク質の発現レベルを検出し、定量化するための複数のプローブ、
(2)任意に、前記プローブの使用に付属している試薬及び説明書。
【0045】
理想的には、説明書は、前記遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する方法が記載されている。
【0046】
本発明のさらなる態様によれば、任意の1以上の上述のプローブのセットを含む、又はからなるマイクロアレイが提供される。本発明に係るキットは、Ion Proton Sequencer(Life Technologies)のような装置を使用してもよい。
【0047】
本発明の別の態様において、患者における創傷型を測定するためのキットであって、少なくとも2つマイクロアレイを含み、それぞれ、上述の方法の一つにおいて明示された全ての遺伝子の発現レベルを検出し、定量化するための複数のプローブを含む前記キットが提供される。
【0048】
本発明のさらなる態様において、前記創傷組織が慢性又は非治癒であるかどうかを識別するための、創傷組織の分類、又は予後の測定、及び創傷組織の分類又は予後に基づく適切な処置の選択のために、任意の1以上の上述の方法を実施するステップを含む、創傷を処置するための方法が提供される。
【0049】
本発明の別の態様において、慢性の又は非治癒の創傷における、PI16の発現の増加による治療が提供される。前記治療は、慢性の又は非治癒の創傷の処置のためのPI16の活性化因子の使用によってもよい。
【0050】
癒傷における線維芽細胞の役割
線維芽細胞は、癒傷のプロセスに関与し、これは、筋線維芽細胞に変化し、最終的にアポトーシスに入り得る、動態化した線維芽細胞への無活動の線維芽細胞からの分化のいくつかのステップを伴う。慢性又は非治癒の創傷において、このプロセスは誤制御され、線維芽細胞は筋線維芽細胞の分化を開始し損ない、創傷において、疑似老化線維芽細胞と呼ばれる正常に機能しない線維芽細胞として見出される(Telgenhoff D, Shroot B(2005)慢性の癒傷における細胞老化のメカニズム、Cell Death Differ 12:695−698)。本発明の狙いは、全体のゲノムスケールで、このプロセスの間中、活性化又は非活性化し得る異なる遺伝子をマッピングすることであり、こうして、慢性又は非治癒の創傷の分子サインを供給する。
【0051】
制限された複製の細胞周期を可能にし、こうして、遺伝情報の欠損を回避するヒト線維芽細胞は、老化という生理学的なプロセスに入る能力を有する。それは、通常、細胞がすでに数回の複製(複製老化と呼ばれ、テロメア長に依存する)を行ったときに起こるが、環境ストレスに応答しても起こり得る(Muller M(2009)細胞老化:分子メカニズム、インビボ有意性、及びレドックス考慮事項、Antioxid Redox Signal 11:59−98)。老化細胞は、細胞周期を停止するが、代謝活性を維持する(Telgenhoff D,Shroot B(2005)慢性の癒傷における細胞老化メカニズム、Cell Death Differ 12:695−698)。
【0052】
慢性創傷の線維芽細胞は、自らの機能性のいくらかを失い、より具体的には、自らの複製機能の一部又は全てを失う(Telgenhoff D,Shroot B(2005)慢性の癒傷における細胞老化メカニズム、Cell Death Differ 12:695−698)。創傷において、ヒト線維芽細胞はまた、マトリクスリモデリングを誘導するタンパク質である、APA−1のアップレギュレーションと関連し、これは、偽老化線維芽細胞表現型がテロメア減少により誘導されないことを証明している(Benanti JA,Williams DK,Robinson KL,Ozer HL,Galloway DA(2002)細胞老化関連タンパク質APA−1による細胞外基質リモデリング遺伝子の導入、Mol Cell Biol 22:7385−7397)。このように、慢性創傷における老化線維芽細胞は、より具体的には、テロメア短縮よりも慢性炎症のために、現れるだろう(Telgenhoff D,Shroot B(2005)慢性の癒傷における細胞老化メカニズム、Cell Death Differ 12:695−698)。
【0053】
TAGLNのような、いくつかの生物学的マーカーは、先行技術に記載されている (Thweatt R,Lumpkin CK,Jr.,Goldstein S(1992)平滑筋タンパク質をエンコードする新規な遺伝子が、老化ヒト線維芽細胞において、過剰発現する。Biochem Biophys Res Commun 187:1−7)。この発表において、遺伝子の発現は老化細胞において増加するが、発明者らによって使用された慢性の又は非治癒の創傷モデルにおいて、TAGLNの遺伝子発現は、正常な線維芽細胞の遺伝子発現と比較する場合減少する。
【0054】
[Yoon IK,Kim HK,Kim YK,Song IH,Kim W,Kim S,Baek SH,Kim JH,Kim JR(2004)cDNAマイクロアレイ技術によるヒト皮膚線維芽細胞における複製の老化関連遺伝子の調査、Exp Gerontol 39:1369−1378]において、GOS2は、包皮線維芽老化細胞において過剰発現されることが記載されている。しかしながら、この文献において、線維芽細胞は複製老化であり、20より多い倍化の集団の後に得られるのに対して、本発明において、本発明者らが、慢性又は非治癒の創傷モデルで研究した場合、線維芽細胞は偽老化であり、複製老化ではない。
【0055】
皮膚線維芽細胞は、ヒトの細胞が異なるドナーから得られるため、よい実験材料である。ところで、線維芽細胞は、ECMタンパク質を分泌し、創傷収縮に導く筋線維芽細胞で分化するので、癒傷における重要な細胞を代表する。
【0056】
いくつかの生物学的マーカーは、異なる組織:例えば、肺におけるCCL11(Puxeddu I,Bader R,Piliponsky AM,Reich R,Levi−Schaffer F,Berkman N(2006)、CC型ケモカインエオタキシン/CCLllがヒト肺線維芽細胞に対する選択的な線維形成促進性の効果を有する、J Allergy Clin Immunol 117:103−110)又は滑膜線維芽細胞におけるTFIP2(Scaife S,Brown R,Kellie S,Filer A,Martin S,Thomas AM,Bradfield PF,Amft N,Salmon M,Buckley CD(2004)制限酵素断片ディファレンシャルディスプレイ法による、滑膜線維芽細胞において差異的に発現される遺伝子の検出、Rheumatology(Oxford)43:1346−1352)から、すでに線維芽細胞で説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて行った実験の略図である。
図2】αSMA mRNAのレベルの、異なる実験における定量RT−PCRによる測定である。
図3】αSMA及びチューブリンの発現の、異なる実験におけるウェスタンブロット法による測定である。
図4】リストII、IIIの定義である。
図5A】PI16 mRNAの発現(mock siRNA、又はPI16 siRNA)である。
図5B】αSMA mRNAの発現(mock siRNA、又はPI16 siRNA)である。
図6A】T+E−条件における異なる時間点でのPI16 mRNAの発現である。
図6B】T−E+条件における異なる時間点でのPI16 mRNAの発現である。
図6C】T+E+条件における異なる時間点でのPI16 mRNAの発現である。 (表1)非治癒又は慢性の創傷に対する遺伝子サインのリストである。 (表2)実施された全ての実験において同定された全ての遺伝子転写物のリスト(リストII及びIII)である。
【実施例】
【0058】
病変に応じて、線維芽細胞は、創傷に移動し、その創傷において、リモデリングの段階の間、最終的にアポトーシスに入り得る収縮性の筋線維芽細胞に分化する。この分化のプロセスは、環境的に調整された組織培養条件において体外で検討されなければならない、それゆえ、適時に、異なる遺伝子発現のパターンの調整された遷移がなされ得る。
【0059】
材料及び方法
慢性の創傷の体外モデルの形成
慢性又は非治癒の創傷の体外モデルを、病理を再現するために、培養した線維芽細胞上の慢性の創傷からの滲出物を加えることによって形成した。次いで、遺伝子発現を、慢性又は非治癒の創傷の分子サインを定義するために検討した。
【0060】
ヒトの外植片から分離した、NHDFをPromocellから購入した。NHDFを、DMEM−F12(Invitrogen)において培養し、10%FCS(Invitrogen、5μg/mLのインスリン、及び1ng/mLのb−FGF(PromoKine))を補充した。
【0061】
滲出物を収集するために、混合された潰瘍を有する4人の患者を募集した(平均年齢76歳;範囲57〜88歳)。患者の選択のために、創傷の病因:糖尿病、末梢動脈疾患、栄養失調、に潜在的に関連する、何れの他の併存疾患の要因を除外することを決定した。滲出物を、陰圧治療から収集した。細胞片を取り除くために、1,500×gで3分間、全ての滲出物を遠心分離した。上清をろ過し、使用するまでの間、−80℃で保存した。アリコートを、BCA方法(Sigma)に従って、タンパク質の濃度を測定するために使用した。
【0062】
実験のために、48時間に亘って、細胞をインスリン及びb−FGF欠乏の状態にした。次いで、その細胞を、4日間、10%FCS、lOng/mLのTGF−βΙ(Promocell)を補充した、DMEM−F12中のコラーゲンで覆われた培養プレート上で培養した。線維芽細胞分化に対する滲出物の効果を識別するために、4点を試験した:未処置の細胞(T−E−)、TGF−βΙ(T+E−)で処置された線維芽細胞、滲出物(T−E+)で処置された細胞、及び最終的に、同時にTGF−βΙ及び滲出物で処置された線維芽細胞(T+E+)。
【0063】
線維芽細胞分化の効率を、筋線維芽細胞マーカー、α平滑筋アクチン(αSMA)の発現を分析することにより見積もった。
【0064】
このαSMAの発現を、RT−qPCR(mRNAレベル)及びウェスタンブロット(タンパク質)によって評価した。
【0065】
ウェスタンブロット法アッセイ
全体のタンパク質を、溶解バッファー(TRIS、NaCI、NP40、EDTA、IMDTT)を有する細胞を剥がすことにより取り出し、氷の中で30分培養した。細胞片を取り除くため、サンプルを、13,000×gで、10分間、4℃で、遠心分離し、使用するまでの間、−20℃で保存した。タンパク質濃度を、BCA方法(Sigma)に従って測定した。全体のタンパク質の等量(20μg)をNuPAGE 10%BIS−Trisゲル(Invitrogen)に載せ、150Vでマイグレーションにより分離し、1時間30Vでニトロセルロース膜(Whatman)に移動した。次いで、α−SMA(Abcam)及びチューブリン(Abcam)のために、膜を染色した。インキュベーションの後、二次抗体、ヤギ抗ウサギIgG及びヤギ抗マウスIgGのそれぞれを、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Promega)にコンジュゲートさせた。シグナルを、HS WB Substrate(Uptima, Interchim)を使用したECL化学発光によって検出した。バンドを、スキャナーを用いてデジタル化し、同じブロットの全てのバンド密度間の比をソフトウェア(ImageJ 1.43u,64−bit)によって計算した。関連するα−SMAの発現を、チューブリンに対するそれぞれの値に正規化した。
【0066】
全RNAサンプルの調製
実験の4日後、処置された線維芽細胞をトリゾール試薬(Invitrogen)で溶解し、−80℃で保存した。次いで、RNAを、クロロホルムを用いて精製し、イソプロパノールによって沈殿させた。全RNAを、NanoDrop 2000c分光光度計(Thermo Scientific)で定量した。cDNAに対する500ng全RNAの逆転写を、Superscript III RT(Invitrogen)及びRNAse OUT(Invitrogen)を用いるオリゴdT(Invitrogen)で行った。cDNAを−20℃で保存した。
【0067】
定量的リアルタイムRT−PCR
定量的リアルタイムPCR(RT−qPCR)を、5μLの1:20希釈cDNAを用いて、Maxima SYBR Green qPCR Master Mix(Fermentas)を使用するLightCycler480 system(Roche)で行った。順方向及び逆方向プライマーを、Eurofins(MWG、αSMA順方向:CTGTTTTCCCATCCATTGTG、αSMA逆方向:CCATGTTCTATCGGGTACTT)によってデザインし、100μΜストックを−20℃で保存した。順方向及び逆方向プライマーのペアを、それぞれのRT−qPCR反応のために使用した。循環条件は以下のとおりであった:初期は95℃10分間、95℃15秒間の45サイクルに続いて、58℃30秒間、72℃20秒間。TM曲線を評価するため、Cpを測定するため、及びそれぞれの増幅反応に対する相対濃度を概算するため、LightCycler 480 SW 1.5を使用した。
【0068】
発現のタイミング
NHDF(正常ヒト皮膚線維芽細胞)を、異なる時間(l〜96時間)、これまでに記載されたとおりに、TGFbeta及び/又は滲出物で処置した。処置後mRNAを抽出し、PI16 mRNAのレベルをRTqPCRによって評価した。
【0069】
siRNAのトランスフェクション
PI16の発現を、特定の低分子干渉RNA(Qiagen)を用いて一時的にトランスフェクションしたヒト皮膚線維芽細胞によって、ノックダウンした。2つの異なるsiRNAを試験した。トランスフェクションのために、線維芽細胞をトリプシン処理し、コラーゲンが覆われた6ウェルプレート上に播種した。TGF−β1及び/又は滲出物を、先ほど説明したように培地に添加した。次いで、6日間、製造業者の説明書に従って、10nΜsiRNA及び4μLのINTERFERin試薬(PolyPlus)で、NHDFを処置した。十分なノックダウンを維持するために、二次トランスフェクションを、48時間で実施した。標的となるmRNAのノックダウンをRT−qPCRによって確認した。対照として、模擬のsiRNA(外因性及び非存在のGFP mRNAに対して向けられた)を、細胞へのsiRNAトランスフェクションの推定される影響を回避するために使用した。
【0070】
結果
慢性又は非治癒の創傷モデルのために、慢性の創傷の滲出物を、細胞培養(滲出物の全タンパク質500μg/mL)に添加した。その実施した実験を図1に示す:4日間、細胞を処置していないか(T−E−)、TGFβだけ(T+E−)、滲出物だけ(T−E+)又はTGFβ及び滲出物(T+E+)で処置しているか。これまでに説明したアッセイを、分化のレベルを評価するために使用した。慢性の創傷の滲出物は、αSMAの発現を減少させる(mRNA及びタンパク質、図2及び3)。これは、慢性の創傷の滲出物が明らかに線維芽細胞の分化を抑制していることを示している。これは、慢性の創傷において、偽の老化線維芽細胞とも呼ばれる、不機能の線維芽細胞を見出すことができたという事実と相関している。
【0071】
慢性又は非治癒の創傷モデルにおける線維芽細胞の異なる処置の際の、発現した遺伝子を分析するために、mRNA大規模シークエンシングを実現する。
【0072】
全RNAをトリゾールによって抽出した。異なる処置がされた細胞の全RNAの当量(5〜6μg)を、無水エタノールにより沈殿させ、RNAシーケンシングのための酢酸ナトリウムによって補充した。
【0073】
mRNAシーケンシングを、Fastens SA(Switzerland)により行った。RNAを、全RNAとして送り、ポリA精製の2ラウンド後、逆転写及びcDNAライブラリーを終えた。シーケンシングをHiSeq2000(Illumina)で行った。
【0074】
一つの遺伝子は異なるアイソフォームを含み、いくつかのアイソフォームは1以上のエクソンを共通に有し得る。残念ながら、それぞれのアイソフォームに存在するリードの数が数えられ、遺伝子全体において融合されるとき、時折、同じリードが数回数えられ、このように、たくさんのアイソフォームを用いる遺伝子のための分析を偏らせる。この問題を解決するために、エクソン被覆の最大部分に対応するそれぞれの遺伝子に対する架空の転写物を作ること、及びこれらの全体において存在するリードの数を数えることを決定した。正規化及び差次的発現ステップの分析後、1.10−3以下に調整したp値に関連する差次的発現のみを示す遺伝子を維持した。完全なリスト(logFCの絶対値が2以上である)を研究するために、logFC(Fold Change)に補助フィルターを適用した。
【0075】
病理的な癒傷分析:慢性又は非治癒の創傷
本発明の狙いは、創傷が慢性若しくは非治癒の創傷か、又はそうでないかを測定するために、遺伝子が2つの状態の間で差異的に発現されるかどうかを知ることであった。
【0076】
基準となるT−E−ポイント(正常皮膚線維芽細胞)で、2つの状態間の遺伝子転写物の存在量を比較する。2つのリスト(図4に定義されるように)は検討された:リストIIはT−E+及びT−E−を比較し、リストIIIはT+E+及びT−E−を比較した。正常な皮膚線維芽細胞とのリストII及びIIIの比較は、分化のプロセス中に慢性の滲出物による影響を受けた遺伝子のリストを提供し、実際、病理の状況に影響を受けた遺伝子が、慢性の癒傷において発見された。このように、リストII及びIIIは、慢性又は非治癒の創傷の状況を表す。調整されたP値、及び測定されたLogFCフィルターを用いて、409の遺伝子がリストIIにおいて異なって発現されたことが確認され、1006の遺伝子がリストIIIにおいて確認された。
【0077】
いくつかの遺伝子は、それらの高い増加又は減少する発現のおかげで、特に興味深い。例えば、PI16の発現は、非治癒又は慢性の創傷において、大きく減少する。
【0078】
TGFβ処置の後、PI16 mRNAは、通常、過剰発現するが、siRNA処置後、PI16 mRNAレベルの効率的なノックダウンに注目できる(図5A)。かなり興味深いことに、PI16をダウンレギュレートする際、αSMA(図5B)mRNAのTGFβが引き起こされたレベルの、全ての(siRNA PI16_7に対する)又は部分的な(siRNA PI16_5に対する)抑制に気付かされる。2種のsiRNAの効果におけるこれらの違いは、PI16 mRNAのノックダウンの効率と関連付けられる。これらの結果は、TGFβ処置後のPI16 mRNAの発現パターンの研究と、完全に一致している。確かに、TGFβ処置後、PI16 mRNAを大いにアップレギュレートし、滲出物の処置により、完全にダウンレギュレートする(徐々に拡大して)(図6)。
【0079】
結果として、我々は、PI16の過剰発現が線維芽細胞における筋線維芽細胞の分化への増加に関連することを示唆する。反対に、PI16のダウンレギュレーションは、線維芽細胞の非分化の作用と関係がある(滲出物の処置又はsiRNAのアプローチを用いる)。このように、PI16は、治療にとって本命の候補である。本発明も、慢性又は非治癒の創傷の状態において、それらの発現が増加することからなる治療に向けられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C