特許第6211076号(P6211076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6211076ドープされたSiO2スラリーの製造方法、ならびにそのSiO2スラリーの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211076
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】ドープされたSiO2スラリーの製造方法、ならびにそのSiO2スラリーの使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/146 20060101AFI20171002BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   C01B33/146
   C03B20/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-519041(P2015-519041)
(86)(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公表番号】特表2015-527962(P2015-527962A)
(43)【公表日】2015年9月24日
(86)【国際出願番号】EP2013063213
(87)【国際公開番号】WO2014001293
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月3日
(31)【優先権主張番号】102012012524.0
(32)【優先日】2012年6月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ズーフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート シェッツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ラングナー
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−205334(JP,A)
【文献】 特開2000−313618(JP,A)
【文献】 特開平09−151124(JP,A)
【文献】 特表2010−538961(JP,A)
【文献】 特表2008−504207(JP,A)
【文献】 特表2010−505734(JP,A)
【文献】 特開2008−254980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープされたSiO2スラリーの製造方法であって、SiO2粒子を水性液体中に含む懸濁液に、少なくとも1種のドープ溶液を連続して添加して前記ドープされたSiO2スラリーを形成させる前記方法において、生じるドープされたSiO2スラリーが絶え間なく動かされる間、前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液が、噴霧物として相互に作用し、該噴霧物の平均液滴径が、10μm〜100μmの範囲にあり、かつ前記SiO2懸濁液が、12より大きいpH値に調節されることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記平均液滴径が、10μm〜50μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SiO2懸濁液からの噴霧物、および前記少なくとも1種のドープ溶液からの噴霧物の場合に、該噴霧物が、霧状物の段階で互いに混合されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液が、1つまたは複数の噴霧ノズルを使用することによって噴霧されて噴霧物にされることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記噴霧物の生成において、0.5bar〜10barの範囲の作業圧力で実施されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記噴霧物の生成において、0.2l/h〜4.0l/hの範囲の流量で実施されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記SiO2懸濁液または前記ドープ溶液、または前記少なくとも部分的にドープされたSiO2スラリーが、1つまたは複数のプロペラ撹拌機を使用することにより動かされることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記噴霧物の生成の前に、前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液がろ過されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープされたSiO2スラリーの製造方法であって、SiO2粒子を水性液体中に含む懸濁液に、少なくとも1種のドープ溶液を連続して添加して、前記ドープされたSiO2スラリーを形成する前記方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、前記ドープされたSiO2スラリーの使用に関する。
【0003】
DE102004006017A1には、レーザー活性石英ガラスを製造するためのドープされたSiO2スラリーが記載されている。前記石英ガラスを希土類金属酸化物または遷移金属酸化物でドーピングするために、高純度の、均一にドープされたSiO2顆粒を使用する「粉末法(Pulver−Route)」が提案されている。ここで、SiO2ナノ粒子とドーパントとを含む水性懸濁液から出発される。前記ドーパントの場合の出発化合物は、水溶性の水和化合物のAlCl3・6H2OおよびNdCl3・6H2Oの形態で添加される。
【0004】
DE102007045097A1に記載の相応の方法では、ドーパントは、溶解された形態で、およびドーパント水溶液を時間で制御して滴加して、絶えず撹拌ながら、均一化されたアルカリ性のSiO2懸濁液に供給される。
【0005】
しかし、滴下ドーピングの技術は、スラリーが動かされる場合も、局所的にしか作用しない、それというのは、前記ドープ溶液のイオンが、前記スラリーのSiO2粒子にきわめて迅速に結合されるからである。したがって、前記スラリー中のSiO2粒子のドーパント濃度は、局所的に異なっていることがあり、このことは、前記スラリーをさらに加工して焼結石英ガラスにした後に、この石英ガラス中の相応の不均一性により明らかである。
【0006】
したがって、本発明の基礎をなす課題は、最適なドーパント分布を保証する、ドープされたSiO2スラリーの製造方法を提供することである。
【0007】
さらに、本発明の基礎をなす課題は、前記ドープされたSiO2スラリーの好適な使用を提供することである。
【0008】
前記課題は、前記方法に関して、本発明によれば、生じるドープされたSiO2スラリーが絶え間なく動かされる間、前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液が、噴霧物(Spruehnebel)として相互に作用し、その平均液滴径が10μm〜100μmの範囲にあることにより解決される。
【0009】
本発明による方法によって、前記ドープ溶液の微細な分布が、前記ドーププロセスの間に達成される。基本成分である前記ドープ溶液または前記SiO2懸濁液は、噴霧物装置を用いて噴霧されるため、10μm〜100μmの範囲の平均液滴径を有する小さな液滴が生成される。作業圧力および流量に関しては、噴霧ノズルの調節によって平均液滴径を調節することができる。
【0010】
水性の霧状物(Nebel)という言葉は、通常、液滴径が10μm〜40μmの範囲の場合に用いられる。それと比べて、「標準の」雨滴の大きさは、約600μmであるため、ピペットを用いる先行技術による液体の液滴をドーピングする場合、約2〜5ミリメートルの液滴径が予想されうる。
【0011】
本発明の第一の代替方法では、噴霧物として噴霧されたドープ溶液は、前記SiO2懸濁液に向けられ、このSiO2懸濁液は、この懸濁液側で機械的な撹拌装置を用いて強く撹拌される。したがって、きわめて小さい液滴を有する噴霧物の範囲は、前記SiO2懸濁液の比較的大きい表面に広がり、これによって、前記スラリーにおける均一なドーパント分布が達成される。ドープ溶液の損失を最小限に抑えるために、前記ノズルは、前記SiO2スラリー表面上を制御して動かされる必要がある。
【0012】
代替的に、基本成分の前記SiO2懸濁液が噴霧されて噴霧物にされ、前記ドープ溶液に吹き付けられてもよい。ここで、前記ドープ溶液は絶え間なく撹拌される。
【0013】
前記両方の代替方法は、最適なドーパント分布を有するドープされたSiO2スラリーをもたらす。
【0014】
前記課題は、上述の別形の他に、前記SiO2懸濁液も前記ドープ溶液も噴霧物として相互に作用し、ここで、この両方の噴霧物が、10μm〜100μmの範囲の平均液滴径を有することによって解決することもできる。
【0015】
本発明による方法によって、前記SiO2懸濁液の液滴と前記ドープ溶液の液滴とが特に強く相互に作用する、それというのは、前記噴霧物中の前記両方の成分の表面積が最大になるからである。前記噴霧物中では、前記両方の成分は最適に混ざり合っており、ここで、最小液滴は集合して比較的大きな液滴になり、ドープされたSiO2スラリーとして受容器の下部に集まる。
【0016】
言及された、前記液滴同士の相互作用は、液滴の大きさが小さければ小さいほど強くなる。このことから、前記噴霧物の平均液滴径が、10μm〜40μmの範囲にある場合が特に適していることが分かった。
【0017】
前記SiO2懸濁液の噴霧物と前記少なくとも1種のドープ溶液の噴霧物との混合は、まだ霧状物の段階で、つまり、前記噴霧物の液滴が、生じるドープされたSiO2スラリーの表面と合する前に行われるのが好ましい。
【0018】
本発明のさらなる有利な実施態様は、前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液が、複数の噴霧ノズルを使用して噴霧されて噴霧物にされることにある。
【0019】
使用する噴霧ノズルが1つだけではないことによって、効率的な作業方法が保証される。さらに、複数の噴霧ノズルは、流量、作業圧力、および空間方向に関して異なる方法で調節されてよく、これによって、前記噴霧物の液滴同士およびそれぞれ噴霧されない成分との接触および相互作用が最適化される。
【0020】
さらに、前記噴霧物の生成において、0.5bar〜10barの範囲、好ましくは5bar未満の範囲の作業圧力で実施される場合が適していることが分かった。さらに、前記噴霧物の生成において、0.2l/h〜4.0l/hの範囲の流量で、好ましくは0.5l/h未満の流量で実施するのが有利である。
【0021】
作業圧力および流量の両方のパラメーターは、主として、液滴の大きさのスペクトルおよび前記方法全体の効率を決定づけるものである。
【0022】
さらに、均一なドーパント分布に関して、前記SiO2懸濁液または前記ドープ溶液または前記少なくとも部分的にドープされたSiO2スラリーが、1つまたは複数のプロペラ撹拌機を使用することによって動かされる場合が有利であることが分かった。
【0023】
前記措置によって、さらに均一化され、および場合によって、ドープされたSiO2粒子のSiO2スラリー中での沈殿が阻止される。
【0024】
前記SiO2懸濁液からの最適な噴霧物生成を保証するため、前記SiO2懸濁液および/または前記ドープ溶液を、前記噴霧物を生成する前にろ過するのが好ましい。
【0025】
ろ過することによって、噴霧物生成において妨害または別の不均一性をもたらしうる、場合によっては起こり得る比較的粗いSiO2粒子が分離される。例えば、前記噴霧ノズルは、粒子が過度に大きい場合、詰まることがあるか、または所望の液滴径を調節することができない。前記ドープ溶液中にも、製造に伴って、ろ過により除去される比較的粗い不純物が存在することがある。
【0026】
特に均一のSiO2懸濁液をベース材料として導入するためのさらなる好ましい措置は、前記SiO2懸濁液のpH値を12より大きくなるように調節することにある。これは、例えば、濃縮アンモニア溶液を添加することにより達成される。それにより、前記SiO2粒子の周りの電位が強まり、これによって、前記粒子が互いに反発して、沈降傾向が弱まる。
【0027】
本発明による方法による、ドープされたSiO2スラリーの主要適用分野は、ドープされた石英ガラス、特にレーザー活性石英ガラスの製造である。これには、ホスト材料の石英ガラス中で、レーザー照射の強化をもたらすドーパントが含まれている。これは、一般に、希土類カチオン(ランタノイド)および/またはいわゆる遷移金属のカチオンである。多くの場合、さらなるドーパント(例えば、アルミニウム、リン、およびホウ素の酸化物)が、石英ガラスの粘度および屈折率を調節するために導入される。ここで、失透および小こぶ形成(Knoetchenbildung)を回避して、それと同時に現れる、強化されるレーザー照射の可能な限り高い強化能力(Verstaerkungsleistung)および少ない減衰(Daempfung)を達成するために、ドーパント分布の均一性は特に高く要求される。レーザー活性石英ガラスは、いわゆるレーザーロッド、ファイバーレーザー、またはディスクレーザーで使用することができる。
【0028】
さらに、前記ドープされたSiO2スラリーは、さらにまた、特別な石英ガラスるつぼ、フィルターガラス、シンチレーション材料、蛍光石英ガラス、粘度または屈折率を調節された石英ガラス、偏波保持の光ファイバー(光伝送路)のための応力ロッド(Stressstaebe)の製造、ならびに、ドーパントそれぞれの作用に基づく、特別な磁気的または電気的な特性を有する石英ガラス材料の製造に好適である石英ガラス顆粒の製造で使用される。
【0029】
実施例
以下において、本発明を実施例に基づいて詳しく説明する。
【0030】
例1
Yb23およびAl23でドープされた石英ガラスを製造するため、超純水中にSiO2アグリゲートの形態として散在しているSiO2粒子の懸濁液を製造する。このSiO2アグリゲートは、平均粒径が10μmであり、5nm〜100nmの範囲の粒径を有するSiO2一次粒子からなっている。濃縮アンモニア溶液を添加することによって、pH値を14に調節する。このアルカリ性懸濁液の固体含有量は、16質量%である。
【0031】
前記均一化されたアルカリ性懸濁液に、ドーパントを、溶解された形態で、およびAlCl3およびYbCl3(モル比6:1)のドープ水溶液の噴霧物を添加することにより供給した。前記SiO2懸濁液は、その間、プロペラ撹拌機で強く撹拌する。噴霧物を生成するため、前記ドーパント溶液を、噴霧ノズルを用いて噴霧し、ここで、作業圧力2barおよび流量0.8l/hを調節する。このようにして生成された噴霧物は、10μm〜40μmの平均径を有する液滴を含んでいる。この方法により、最適に均一にドープされたSiO2スラリーが得られることが保証される。
【0032】
前記懸濁液のpH値が高いため、前記両方のドーパントの水酸化物がAl(OH)3およびYb(OH)3の形態で直ちに混合沈殿する。このようにして、前記懸濁液中で(この懸濁液のSiO2含有量に対して)Al23 1モル%およびYb23 0.25モル%のドーパント濃度が調節される。
【0033】
このようにしてドープされたSiO2スラリーをさらに加工して顆粒にし、この顆粒は、さらにまた、焼結させて石英ガラス材料にして、レーザー活性石英ガラスとして使用される。本発明による噴霧ドーピングに基づく、ドープされたSiO2スラリーを用いて製造されたドープされた石英ガラスは、先行技術による滴下ドーピングによる場合の不均一性よりもはるかに低い不均一性を示している。したがって、例えば、噴霧ドープされたSiO2スラリーを出発材料として有する、厚さ10cmの希土類ドープされた石英ガラス試料を通して、通常の大きさの文字はなおも判読可能である。そうでなければ、ドーパントの不均一な分布に起因する条痕による拡散のため判読は不可能である。
【0034】
例2
例1に記載の固体含有量16質量%のアルカリ性SiO2懸濁液から、例1のドープ溶液からと同じく噴霧物を生成する。噴霧する前に、このSiO2懸濁液および前記ドープ溶液から、15μmより大きい粗粒子または別の不純物を分離するために、成分をそれぞれ相応のメッシュ幅のプラスチックふるいに流し込んでろ過する。必要であれば、特に前記SiO2懸濁液をろ過する場合、プラスチックヘラを用いてふるいの通過が補助されてよい。次に、前記SiO2懸濁液を、作業圧力4〜5bar、および装入量約2.4l/hで噴霧する。ドープ溶液の場合、それに反して作業圧力を2barおよび流量を0.8l/hに調節する。複数の噴霧器ノズルを、前記ドープされたSiO2スラリーの受容器の上で斜め下向きにして、互いに約5〜10cmの間隔で位置調節する。このようにして生成された噴霧物は、10μm〜40μmの平均径を有する液滴を含んでいる。
【0035】
前記噴霧器ノズルは、ドープ工程の間、その角度を互いに調節されてよい。さらに、前記ノズルを、あらかじめ決められたパターンにしがたって動かすことも可能であり、それによって、噴霧物のより強い相互作用が可能である。SiO2懸濁液およびドープ溶液からの噴霧物の液滴は、前記受容器の上部範囲では互いに相互作用をして、最終的に受容器の底に沈む。前記受容器には、さらに、そこで集められたドープされたSiO2スラリーを動かす撹拌機が取り付けられている。このようにしてドープされたスラリーを、例1と同じようにさらに加工して、ドープされたSiO2顆粒にし、この顆粒は、続いて様々な方法で、ドープされた石英ガラス材料の製造に適用される。