【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のMRI装置用ファントムでは、前記の信号むらの補正についてはなんら記載も示唆もされてない。また、MRI装置により頭部撮影を行う場合、ファントム内に頭部の向きを同定するためのマーカーがないため、撮影された画像上で頭部の向きを決定することが不可能な構造となっている等の課題がある。
【0010】
非特許文献1記載のファントムは、MRI装置及び画質の品質管理用として、米国The Phantom Laboratory社からMagphan(登録商標)Quantitative Imaging Phantomの商品名で販売されている。
これは球状筐体の内部に複数個の独立した中空構造(球形)を3次元に配列したファントムであり、その中空球部にMRI撮像可能な物質(硫酸銅水溶液や水等の液体)を封入して使用するものである。このファントムは前記の幾何的歪み補正及び信号むら補正に利用可能である。
しかしながら、前記中空球部は独立した構造であるため、そこに液体を封入する際には、個別に栓をする方式となることからわずらわしいこと、また封入後の気泡の除去が困難でさらに封入液の液漏れが頻繁に起こる構造となっている。
そして、前記中空球部中に気泡が含まれた場合には、気泡はMRI装置では撮像されず、画像の欠損部となり、その程度が大きいと、前記幾何的歪み及び信号むらの補正は不可能となる。
また、中空球部はそれぞれ独立したソケット型となっており、当該ソケットの交換や運搬時の外力や振動でソケット部分が破損しやすいこと、さらには、画像上で向きを決定するための中空球部が人体の向きで右側頭部と顎の部分に1つずつ存在するが、顎の部分は受信コイルの低感度部分にあたるため画質劣化を起こしやすく、当該中空球部の検出・位置測定精度の低下を起こす原因となり得る等の課題がある。
【0011】
本発明の目的は、上記課題を解決して、MRI装置における幾何的歪みと信号むらを3次元的に補正するためのファントムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じる。
[1]磁気共鳴イメージング装置により撮像可能な物質を保持する複数の基準球構造を具備し、当該複数の基準球構造は3次元格子状に配置しており、基準球構造同士は互いに流路で連結しており、
前記3次元格子状の配置は、前記ファントム本体頂部から中心を通って下端部まで至る中心軸上、及び当該中心軸を中心とする円柱殻上または前記ファントムの本体中心に対する球殻若しくは回転楕円体殻上の配置を含み、
前記中心軸に沿って貫通孔を具備し、当該貫通孔の両端は貫通孔口として前記ファントム本体の外殻を貫通し、前記ファントム本体頂部側の前記貫通孔口は前記磁気共鳴イメージング装置により撮像可能な物質を前記基準球構造にそれぞれ注入するための注入口となっており、
前記貫通孔と前記基準球構造が流路で連結しており、
前記基準球構造のうち1部が他の基準球構造の直径と異なる直径を有する方向決定用の基準球構造として配置されており、
前記基準球構造のうち別の1部が前記他の基準球構造及び前記方向決定用の基準球構造の直径と異なる直径を有する画像の信号雑音比の測定用の基準球構造として配置されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用ファントム。
[2]上記第[1]の発明において、前記ファントム本体は球形、回転楕円体形または砲弾形であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用ファントム。
【0013】
本発明の磁気共鳴イメージング装置用ファントムは、磁気共鳴イメージング装置により撮像可能な物質を保持するための複数の基準球構造を具備し、当該複数の基準球構造は3次元格子状に配置しており、基準球構造同士は互いに流路で連結していることを特徴とする。
このことによって、MRI装置により本発明のファントムを撮像して、当該ファントムの撮像画像を取得して、当該ファントム画像における基準球構造の位置情報と3次元的位置の相違に基づく輝度相違情報等と、実際の当該ファントムにおける基準球構造の位置情報等に基づき、MRI装置により撮像される撮像対象の撮像画像の幾何的歪み及び信号むらを3次元的に補正するためのパラメータを決定し、そのパラメータを用いて実際のMRI装置により撮像される撮像対象の撮像画像を補正するので、幾何的歪み及び信号むらを3次元的に補正することができる。
また、基準球構造は独立したソケット型ではなく固定されているので、基準球構造の交換は必要なく、また運搬時の外力や振動で基準球構造が破損することはない。
【0014】
ここで、基準球構造は完全な球構造であることが好ましいが、回転楕円体構造となっていてもよい。そのサイズ、個数については特に限定はなく、MRI画像に劣化があっても基準球構造を認識できる相対サイズ、個数に調整できる。例えば、サイズ(直径、長径等)に関してはファントム本体サイズ(直径、長径等)に対して、1/30〜1/5の範囲であることが好ましく、更に好ましくは1/15〜1/10の範囲である。個数に関しては、補正精度の観点からファントム本体に可能な限り配置することが好ましいが、その数はファントム本体と基準球構造のサイズの相対比から上限値が決定されるものである。
そして、基準球構造はMRI装置により撮像可能な物質を保持するが、その保持する方法は特に限定されない。例えば、中実体の内部に基準球構造を有する構造体を作成し、それを分割分離して、MRI装置により撮像可能な物質を前記基準球構造に充填し、その後分割パーツを組み合わせて、前記物質を密封することによって、保持することができる。
また、表面から内部の基準球構造まで穴を貫通させ、それを介して前記物質を充填し、その後、穴を塞ぐことによっても保持することができる。
また、MRI装置により撮像可能な物質についても特に限定するものではなく、脳等の生体組織と同程度の緩和時間を有し、MRI装置により撮像可能な物質であればよい。その中でも、脳組織と同程度の緩和時間に調整が可能な硫酸銅水溶液、及び塩化ニッケル水溶液等の液体が好適に用いられる。
【0015】
本発明のファントムは、前記3次元格子状の配置は、前記ファントム本体頂部から中心を通って下端部まで至る中心軸上、及び当該中心軸を中心とする円柱殻上または前記ファントムの本体中心に対する球殻若しくは回転楕円体殻上の配置を含む構成とすることができる。
このことによって、MRI撮像画像におけるさらに精度の高い基準球構造の位置情報及び3次元的位置の相違に基づく輝度相違情報等が得られるので、その結果、MRI撮像画像における幾何的歪み及び信号むらをさらに高い精度で3次元的に補正することができる。
【0016】
ここで、ファントム本体頂部から中心を通って下端部まで至る中心軸とは、例えば、ファントムの中心点を原点とする3次元座標において、当該原点を通りファントム本体頂部から下端部まで至る垂線等があげられる。
中心軸を中心とする円柱殻とは、前記中心軸を回転軸として所定の大きさの矩形を回転させて得られる回転体の円柱殻の面であり、ファントム本体の中心に対する球殻若しくは回転楕円体殻上とは、ファントムの本体中心に対する球殻若しくは回転楕円体殻の表面である。そして、その表面は、円柱、球または回転楕円体の殻の表面全体である必要はなく、例えば半球体、半回転楕円体の殻の表面等であってもよい。
また、いずれの基準球構造とそれらの中心軸または面は少なくとも点接触するように配置されていればよい。以下に、各基準球構造の配置の位置決め許容範囲を示す。
基準球構造は、前記中心軸に対しては、基準球の半径をr、基準回転楕円体の長半径をa、短半径をbとした場合、好ましくは(1/10)r以上、(1/10)a以上、若しくは(1/10)b以上の長さで線接触し、より好ましくは(1/2)r以上、(1/2)a以上、若しくは(1/2)b以上の長さで線接触し、更に好ましくは(4/5)r以上、(4/5)a以上、若しくは(4/5)b以上の長さで線接触するように配置させることができる。
また、基準球構造は、前記円柱殻、または球殻もしくは回転楕円体殻の面に対しては、好ましくは基準球構造の最大断面積の少なくとも1/10の面積で面接触し、より好ましくは少なくとも1/2の面積で面接触し、更に好ましくは少なくとも4/5の面積で面接触するように配置させることができる。
さらに、これら面の数、組み合わせについては特に制限はなく、例えば、2つ以上の同心円柱殻面上または2つ以上の同心球殻面上もしくは同心回転楕円体殻面に配置させ、あるいは1つ以上の円柱殻面と球殻面もしくは回転楕円体殻面上に配置させてもよい。さらに、同心の円柱殻と球殻もしくは回転楕円体殻の混成構造体表面上に配置させてもよい。
【0017】
本発明のファントムは、必要に応じて、ファントムの中心軸に沿って貫通孔を具備し、当該貫通孔と前記基準球構造を流路で連結し、さらに基準球構造のうち1部を方向決定用として配置する構成とすることができる。
貫通孔及び流路を有することによって、液体のMRI撮像可能な物質(硫酸銅水溶液や水等の液体)をファントムの基準球構造に注入する際には、一方の貫通孔口から液体を注入するだけで全ての基準球構造に流路を介して前記物質を容易に充填することが可能となり且つその際の気泡の混入を低減できる。その結果、気泡のない液体が充填された基準球構造となることから、さらに精度の高い基準球構造の位置情報及び3次元的位置の相違に基づく輝度相違情報等が得られるので、その結果、MRI撮像画像における幾何的歪み及び信号むらをさらに高い精度で3次元的に補正することができる。
【0018】
さらに、方向決定用の基準球構造を配置することによって、MRI装置により頭部撮影を行う場合、ファントム内に頭部の向きを同定することが可能となり、撮影された画像上で頭部の向きを決定することができる。
【0019】
ここで、貫通孔はファントム本体表面では貫通孔口を形成し、ファントムの中心軸に沿ってファントム本体を貫通しており、貫通孔口から注入するMRI装置で撮像可能な物質の流路となる。貫通孔の形状、サイズに関して特に制限はなく、例えば、断面が円、楕円、矩形等で直線状のものであって、MRI装置で撮像可能な物質が移動・通過できるもので
あればよい。
【0020】
さらに、貫通孔と前記基準球構造、または前記基準球構造同士は流路で連結することができる。流路の形状、サイズに関して特に制限はなく、例えば、断面が円、楕円、矩形等で直線状又は曲線状の流路を基準球構造間等のそれぞれの任意位置に接続配置して、各基準球構造等にMRI装置で撮像可能な物質が移動・通過できるものであればよい。また、基準球構造が前記円柱殻面や球殻面もしくは楕円体殻面に配置される場合は、当該基準球構造と同様にこれらの同一面上に配置することが好ましい。
【0021】
流路の数についても特に制限はないが、一つの基準球構造に対して少なくとも2つの流路を設けることによって、全ての基準球構造は全てひとつながりに連結することができる。さらに、方向決定用の基準球構造を配置する方法等については特に限定はなく、例えば2つ以上の基準球構造のサイズや形状を変えて配置することによってなされる。その2つの方向決定用基準球構造の位置関係は、好ましくはMRI装置による頭部撮影時には1つを頭頂部側に、もう一つを側頭部側に位置するように設置する。顎部側は頭部コイルから遠くなり、信号値が低下して基準球構造の検出精度が低下する恐れがあるので避けるべきである。方向決定用基準球構造のサイズは他の幾何的歪み及び信号むらを補正するための基準球構造に比べて大きくすることが好ましい。例えば、そのサイズ(直径、長径等)は他の幾何的歪み及び信号むらを補正するための基準球構造に比べて1.1〜2.0倍程度が好ましく、1.2〜1.7倍程度がさらに好ましい。
尚、方向決定用の基準球構造は、方向決定のみならず他の基準球構造同様に幾何的歪み及び信号むらの補正のためにも利用できる。
【0022】
本発明のファントムは、必要に応じて、基準球構造のうち1部を画像の信号雑音比の測定用として配置する構成とすることができる。
画像信号の雑音比測定用の基準球構造を配置する方法等については特に限定はなく、例えば基準球構造のサイズや形状を変えて配置することによってなされる。通常はファントム本体中心部に前記検出用及び前記方向決定用基準球構造に比べて大きいサイズの基準球構造を配置してなされる。例えば、そのサイズ(直径、長径等)は他の幾何的歪み及び信号むらを補正するための基準球構造に比べて1.5〜2.5倍程度が好ましく、1.7〜2.2倍程度がさらに好ましい。
尚、画像信号の雑音比測定用の基準球構造は、他の基準球構造同様に幾何的歪み及び信号むらの補正のためにも利用できる。
【0023】
さらに、本発明のファントム本体の形状は特に限定されない。例えば、球形または楕円体形等の略球形、円柱形、円錐形、若しくは砲弾形等があげられる。
また、本発明のファントム本体は非磁性且つMRI装置で撮像可能な物質に対して変性しない材質で形成されており、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフイン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂等があげられる。そして、例えば、このような材質塊からの切削加工、又は押し出し成型、射出成型、3D造形等によって製造される。