特許第6211223号(P6211223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6211223コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測方法、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置、コーヒー豆のハゼ検知方法、コーヒー豆のハゼ検知装置、及び焙煎コーヒー豆の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6211223
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測方法、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置、コーヒー豆のハゼ検知方法、コーヒー豆のハゼ検知装置、及び焙煎コーヒー豆の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/04 20060101AFI20171002BHJP
   G01H 11/08 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   A23F5/04
   G01H11/08 D
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-101858(P2017-101858)
(22)【出願日】2017年5月23日
【審査請求日】2017年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-37461(P2017-37461)
(32)【優先日】2017年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510195238
【氏名又は名称】山本 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕之
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 カナダ国特許出願公開第2267608(CA,A1)
【文献】 豪国特許出願公開第2004100812(AU,A1)
【文献】 WILSON, Preston S. et al.,Coffee roasting acoustics,The Journal of the Acoustical Society of America,2014年 5月13日,Vol.135, No.6,EL266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
G01H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定するに際し、
ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、
前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合に、コーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、を有する
コーヒー豆のハゼ検知方法。
【請求項2】
焙煎開始2分後から、前記音を継時的に測定することを開始する
請求項1に記載のコーヒー豆のハゼ検知方法。
【請求項3】
少なくとも焙煎開始2分後まで、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素量を測定する初期一酸化炭素量測定工程をさらに有する
請求項1又は2に記載のコーヒー豆のハゼ検知方法。
【請求項4】
前記音を継時的に測定するに際し、焙煎中の前記コーヒー豆から発生する音をサンプリング周期0.2ミリ秒以下で測定する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコーヒー豆のハゼ検知方法。
【請求項5】
前記ハゼ検知工程において、0.1kHz以上50kHz以下の半値幅を有する周波数の音圧に基づいて、コーヒー豆のハゼを検知する
請求項1乃至4のいずれか1項にコーヒー豆のハゼ検知方法。
【請求項6】
焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定する音測定部と、
ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出部と、
前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合にコーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知部と、を有する
コーヒー豆のハゼ検知装置。
【請求項7】
焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定するに際し、
ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、
前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合にコーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、
前記ハゼの検知に基づいて、焙煎条件を変更する制御工程と、を有する
焙煎コーヒー豆の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測方法、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置、コーヒー豆のハゼ検知方法、コーヒー豆のハゼ検知装置、及び焙煎コーヒー豆の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆は、焙煎することにより、その香味を引き出すことができる。しかしながら、コーヒー豆の香味は、焙煎条件によって変化する。したがって、所望のコーヒー豆の香味を引き出すためには、焙煎条件を制御する必要がある。
【0003】
ところで、コーヒー豆は、焙煎段階において、加熱に伴い2度、ハゼ音(「クラック音」とも言う。)を発生させる。所望の香味を得るため、この2度のハゼ音の少なくとも一方の発生時期を目安として、焙煎中の豆に与える熱量を変更する操作が行われている。また、オペレーターの経験や勘によりハゼ音の発生時期を予測して、ハゼ音の発生の1〜2分前に焙煎中のコーヒー豆に与える熱量を変更する操作が行われることもある。このように、焙煎段階におけるハゼ音の発生時期の検知又は予測が重要である。
【0004】
ここで、例えば、非特許文献1には、音圧レベル及び周波数スペクトラム解析によってコーヒー豆から発生するハゼ音を検知する方法が知られている。一つのコーヒー豆が発するハゼ音は、数ミリ秒から10数ミリ秒継続するが、このハゼ音のうち数百Hzから数十キロHzの帯域の音について頻繁に周波数スペクトラム解析し、焙煎装置から生ずる雑音やその他背景雑音を除去し、コーヒー豆から発生されたハゼ音のみを高感度で検知するためには、信号処理専用プロセッサ(DSP)が必要となり、コストを要する。また、この方法によれば、1度目のハゼ音と2度目のハゼ音と対比して両者を区別する必要があるため、両者を焙煎中リアルタイムに区別することは困難である。
【0005】
また、特許文献1には、1度目のハゼ音及び2度目のハゼ音が、その間の期間に発生する音(装置音や環境雑音)に比べて音圧が大きいことを利用し、2度目のハゼ音の発生に基づき、焙煎条件を調整することが開示されている。しかしながら、このような方法では、1度目のハゼ音及び2度目のハゼ音の間の期間に発生する音の音圧と、2度目のハゼ音の音圧の程度に大きな差がなく、ハゼ音の発生を正確に区別して検出することは困難なことも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】カナダ国特許出願公開第2267608号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P.S.Wilson,J.Acoust.Soc.Am.,135(6),2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、コーヒー豆の焙煎に際し、ハゼの発生時期を簡易且つ正確に検知し、又は予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素の量と、ハゼ音の発生に相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定するに際し、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合に、コーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、を有するコーヒー豆のハゼ検知方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、焙煎開始2分後から、前記音を継時的に測定することを開始するコーヒー豆のハゼ検知方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、少なくとも焙煎開始2分後まで、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素量を測定する初期一酸化炭素量測定工程をさらに有するコーヒー豆のハゼ検知装置である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記音を継時的に測定するに際し焙煎中の前記コーヒー豆から発生する音をサンプリング周期0.2ミリ秒以下で測定するコーヒー豆のハゼ検知装置である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記ハゼ検知工程において、0.1kHz以上50kHz以下の半値幅を有する周波数の音圧に基づいて、コーヒー豆のハゼを検知するコーヒー豆のハゼ検知装置である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定する音測定部と、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出部と、前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合にコーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知部と、を有するコーヒー豆のハゼ検知装置である。
【0016】
(7)本発明の第7の発明は、焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定するに際し、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合にコーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、前記ハゼの検知に基づいて、焙煎条件を変更する制御工程と、を有する焙煎コーヒー豆の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コーヒー豆の焙煎に際し、ハゼの発生時期を簡易且つ正確に検知又は予測する、その結果に基づきコーヒー豆を焙煎する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】コーヒー豆のハゼ検知装置の概略図である。
図2】ハゼ検知部の一例の概略図である。
図3】コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置の概略図である。
図4】焙煎コーヒー豆製造装置の概略図である。
図5】焙煎装置の装置音及び環境雑音のマイクロフォンの出力波形(a)、10kHzバンドパスフィルタ通過後の波形(b)、ピークディテクタ出力の波形(c)である。
図6】ハゼ音のマイクロフォンの出力波形(a)、10kHzバンドパスフィルタ通過後の波形(b)、ピークディテクタ出力の波形(c)である。
図7】実施例2−1における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図8】実施例2−2における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図9】実施例2−3における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図10】実施例2−4における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図11】実施例2−5における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図12】実施例2−6における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図13】実施例2−7における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
図14】実施例2−8における焙煎開始からの各時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。
【0020】
<コーヒー豆のハゼ検知方法>
本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ検知方法は、焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の音を経時的に測定するに際し、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、前記音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が該閾値を超え、且つ該閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、該閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合にコーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、を有する。本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ検知方法は、このような構成を有することにより、ハゼの発生を正確に検知することができる。そして、その結果に基づき、コーヒー豆の焙煎条件を制御することができる。
【0021】
このように、音圧を測定する周波数の範囲は、5kHz以上80kHz以下に含まれるものである。このような範囲においては、コーヒー豆から発生するハゼ音が急峻に立ち上がる傾向があり、また、例えば装置から発生する音やコーヒーが流動する音等によって影響を受けにくい。したがって、このような周波数の範囲で音圧を測定し、所定の速度で立ち上がる音圧のパルスを測定することにより、他の雑音に左右されることなく、コーヒー豆のハゼを検知することができる。
【0022】
(焙煎工程)
焙煎工程は、例えば、コーヒー豆に対して熱を供給し、コーヒー豆を焙煎する工程である。
【0023】
熱の供給手段としては、特に限定されず、従来のコーヒー豆の焙煎において使用される公知のいずれの手段を用いることもできる。具体的には、例えば、焙煎容器(例えば、コーヒー豆の焙煎用の回転ドラム)内に収容されたコーヒー豆に対して、電熱ヒーター等の熱源から発する熱を圧縮機(ブロワ)、送風機等により送風し、コーヒー豆に熱風をあてることにより、熱の供給を行うことができる。供給する熱の温度は、通常のコーヒー豆の焙煎に用いられる加熱の温度を用いることができ、例えば、100〜300℃の範囲の温度を用いることができる。また、熱風の送風量は、コーヒー豆1gあたり毎分0.1〜1Lの範囲内の風量を用いることができる。なお、焙煎工程における熱を供給する対象のコーヒー豆は、焙煎されたコーヒー豆の原料となるコーヒー豆のことを指す。
【0024】
コーヒー豆としては、特に限定されず、従来の公知のコーヒー豆の銘柄(例えば、ガテマラ、ブラジル(サントス、ダテーラ等)、エチオピア(モカイルガチェフ等)、コスタリカ、キリマンジャロ、ベトナム、コロンビア、タンザニア、モカ、ブルーマウンテン、クリスタルマウンテン、ケニア、マンデリン、メキシコ等)等を、1種単独で使用することも、2種以上をブレンドして用いることもできる。また、銘柄以外にも、ロット、産地、精製方法及び生産年について、いずれのコーヒー豆を用いることもできる。さらに、銘柄、ロット、産地、精製方法及び生産年のいずれかが異なる、2種以上のブレンドであっても、ハゼ発生時期を予測することができる点で、本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生予定時期予測方法は有用である。
【0025】
焙煎方法としては、例えば、焙煎容器(回転ドラム)を回転させて、コーヒー豆を混ぜながら、コーヒー豆を焙煎することができる。回転の条件としては、従来の公知の条件を用いることができ、例えば、5〜60rpmの条件を用いることができる。
【0026】
焙煎工程において、温度センサー等の温度測定手段を用いて、焙煎容器内の温度を測定してもよく、測定しなくてもよい。焙煎容器内の温度を測定することで、焙煎時の焙煎容器内の雰囲気温度を確認することができる。
【0027】
本発明における焙煎工程において、焙煎しながら、コーヒー豆のチャフ(いわゆる、シルバースキン)を除去するために、焙煎により発生したチャフを回収することができる。
【0028】
本発明における焙煎工程において、焙煎時間は、指標とする一酸化炭素の設定値に応じて、自ずと定まるものであるが、例えば、300〜1500秒の範囲内で行うことができる。
【0029】
(音測定工程)
音測定工程は、焙煎中のコーヒー豆及び測定装置から発生する音を経時的に測定する工程である。
【0030】
具体的に、音測定工程では、マイクロフォン等、例えば電気信号等の信号に変換する装置を用いて、音を測定する。
【0031】
測定箇所(測定対象)としては、焙煎中のコーヒー豆及び測定装置から発生する音のうち、上述した特定の範囲の周波数の範囲の音圧を測定可能な箇所であれば、特に限定されない。ただし、一般的に知られた回転ドラム式の焙煎装置は、その内部に円筒形耐熱ガラスを備えることがある。焙煎装置が、このような円筒形耐熱ガラスを備える場合、ハゼ音が透過せず、ハゼが十分に検出されないおそれもある。したがって、例えば、回転ドラム式の焙煎装置は、金属製(具体的には、真鍮製等)により構成されることが好ましい。
【0032】
音測定の開始時期としては、特に限定されず、例えば焙煎開始(加熱開始)2分後から開始することが好ましい。すなわち焙煎の初期(例えば、焙煎開始2分後、好ましくは3分後、より好ましくは4分後まで)の段階では、音圧測定工程を行わなくてもよい。焙煎の初期(例えば、焙煎開始2分後、好ましくは3分後、より好ましくは4分後まで)の段階では、焙煎の対象であるコーヒー豆が冷たく、その表面が硬い状態となっている。このような場合、コーヒー豆同士の衝突や、コーヒー豆と焙煎装置との衝突により、5kHz以上80kHz以下の範囲に音圧パルスが生じ、誤検知を生ずることがある。一方で、このようにコーヒー豆が硬い状態では、まだ十分に加熱された状態とはいえず、ハゼ音は発生し得ない。したがって、焙煎の初期の段階では、音圧の測定は必須ではない。
【0033】
なお、必須の態様ではないが、少なくとも焙煎開始2分後までの期間は、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素量を測定する初期一酸化炭素量測定工程を設けることができる。上述のとおり、焙煎の初期の段階では、コーヒー豆同士の衝突や、コーヒー豆と焙煎装置との衝突により、5kHz以上80kHz以下の範囲に音圧パルスが生じ、正確な焙煎の状態を把握することが難しい。そのため、一酸化炭素量を測定することにより、より確実に焙煎の状態を確認することも可能である。なお、初期一酸化炭素量測定工程の具体的な方法及びそれに用いる装置としては、例えば、後述する一酸化炭素量測定工程及び一酸化炭素量測定部を用いることができる。
【0034】
(平均値算出工程)
平均値算出工程は、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する工程である。
【0035】
ここで、「ハゼ未発生期間」とは、ハゼが発生していない期間であって、焙煎開始(加熱開始)2分後以降の任意の期間をいう。具体的な時期については、加熱条件やコーヒー豆の種類等によって異なるものであり特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。また、例えば焙煎対象のコーヒー豆を加熱し、ハゼを聴覚にて検出した時点から、所定時間前の期間(例えば、聴覚で最初にハゼを検出した時点から2分前〜1分前の期間等)をハゼ未発生期間とすることもできる。
【0036】
ハゼ未発生期間としては、特に限定されないが、例えば焙煎開始から540秒未満の任意の期間(例えば480〜540秒の間の60秒間)、閾値を設定すればよい。焙煎開始から540秒未満であれば、通常ハゼは発生しない。
【0037】
平均値としては、例えば、ハゼ未発生期間(例えば60秒間)を等分し、その等分した期間内(例えば60秒間を60等分して1秒ごと)の音圧のピーク値をハゼ未発生期間で平均したものを用いることができる。
【0038】
(ハゼ検知工程)
ハゼ検知工程は、平均値算出工程において算出した音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が閾値を超え、且つ閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合に、コーヒー豆のハゼを検知したと判断する工程である。
【0039】
具体的に、ハゼ検知工程において、パルス発生回数は、所定の期間(例えば、1秒、10秒等)内に、上述した閾値を超える音圧パルスが発生した回数を計数する。所定の期間内に計数された値が、閾値の値を超えた場合に、ハゼが発生したと判断する。
【0040】
ここで、閾値としては、平均値算出工程にて算出したハゼ未発生期間中の音圧の平均値を用いる。そして、コーヒー豆の焙煎中に、測定した音がこの閾値を超え、且つその音が発生した時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間内の0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、その閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合、ハゼが発生したと判断する。
【0041】
測定した音がハゼ未発生期間中の音圧の平均値を超えたことは、背景雑音に比べ大きな音が発生したことを意味する。しかしながら、このような判断基準だけでは、発生した音がハゼの発生によるものであるのか、それとも機械音によるものであるのかは判断することができない。そこで、その音が発生した時点より特定の期間前の時間幅において閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していないことを確認する。上述したとおり、コーヒー豆から発生するハゼ音が急峻に立ち上がるため、ハゼ音の場合、その発生した時点より特定の期間前の時間幅において大きい音を発しない。これに対し、例えば装置音や環境雑音等は、それらが発生した時点より特定の期間前の時間幅においても大きい音を発することが多い。このようなハゼ音と装置音の発生前の期間における音の発生の挙動の相違を利用して、両者を区別することができる。
【0042】
閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知しているか、判断可能な期間としては、測定した音が発生した時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間内であれば特に限定されないが、例えば、測定した音が発生した時点より0.2ミリ秒前から50ミリ秒前までの期間内であることが好ましく、0.3ミリ秒前から30ミリ秒前までの期間内であることがより好ましく、0.4ミリ秒前から20ミリ秒前までの期間内であることがさらに好ましい。このような期間が所要の値であることにより、ハゼ音をより正確に検知することができる。
【0043】
また、その期間内において、実際に判断をする時間幅としては、0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅であれば特に限定されるものでないが、例えば0.5ミリ秒以上90ミリ秒以下であることが好ましく、1ミリ秒以上80ミリ秒以下であることがより好ましく、2ミリ秒以上70ミリ秒以下であることがさらに好ましい。当該時間幅が所要の値であることにより、ハゼ音をより正確に検知することができる。
【0044】
nの値としては、1/6超1/3未満であれば特に限定されないが、5/24以上7/24以下であることが好ましく、1/4であることがより好ましい。nが所要の値であることにより、ハゼ音をより正確に検知することができる。
【0045】
音圧を測定する周波数の範囲としては、上述の範囲内であれば特に限定されないが、例えば、7kHz以上であることが好ましく、8kHz以上であることがより好ましく、9kHz以上であることがさらに好ましく、9.5kHz以上であることが特に好ましい。また、周波数の範囲としては、70kHz以下であることが好ましく、50kHz以下であることがより好ましく、40kHz以下であることがさらに好ましく、30kHz以下であることがさらに好ましい。周波数の範囲が所要の範囲内にあることにより、ハゼ音と装置音との区別の精度を高めることができる。なお、「音圧を測定する周波数の範囲」とは、測定対象である所定の周波数の幅を有する音を包含する周波数の範囲をいう。具体的には、例えば後述する半値幅の範囲の音が全て含まれる範囲であってよい。測定時においては、上述の範囲を全て含むように測定すれば良く、他の周波数の範囲も併せて測定することを排除するものではない。なお、他の周波数の範囲も併せて測定した場合には、例えばバンドパスフィルタ等により、所要の周波数の範囲のみを抽出することもできる。
【0046】
音圧を測定する周波数における半値幅としては、特に限定されず、例えば、50kHz以下であることが好ましく、30kHz以下であることがより好ましく、20kHz以下であることがさらに好ましい。半値幅が所要値以下であることにより、ハゼ音と装置音との区別の精度を高めることができる。一方で、半値幅としては、例えば、0.1kHz以上であることが好ましく、0.2kHz以上であることがより好ましく、0.25kHz以上であることがさらに好ましい。半値幅が所要値以上であることにより、ハゼ音と装置音との区別の精度を高めることができる。
【0047】
音圧のピーク値(例えば、ピークディテクターの出力)を測定するサンプリング周期としては、特に限定されないが、例えば、0.2ミリ秒以下であることが好ましく、0.15ミリ秒以下であることがより好ましく、0.1ミリ秒以下であることがさらに好ましく、0.05ミリ秒以下であることが特に好ましい。サンプリング周期が0.2ミリ秒以下であることにより、ハゼ音と装置音との区別の精度を高めることができる。ハゼ音は急峻にピークが立ち上がるのに対し、装置音は急峻にピークが立ち上がらないという特徴を有する。
【0048】
具体的に、上述したような所定の周波数域及び半値幅を有する音を検出する手法としては、例えば、所定の周波数域及び半値幅を有するバンドパスフィルタを用いることができる。
【0049】
なお、このようにしてハゼを検出したと判断した場合、例えば、所定の期間、焙煎温度(例えば、火力)を増加・減少させるか、又は焙煎装置内の空気の送風量を変更させる等の操作を行う。送風量の調整は、例えば、焙煎装置に設けた排気ダンパーの開閉により調整することができる。これにより、所望の香味を有するコーヒー豆を精度良く製造することができる。
【0050】
<コーヒー豆のハゼ検知装置>
本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ検知装置は、例えば、上述のコーヒー豆のハゼ検知方法を実現することができる装置である。以下に本発明の一実施形態であるコーヒー豆のハゼ検知装置1について、図1を用いて説明する。
【0051】
図1は、コーヒー豆のハゼ検知装置の概略図である。図1に示すように、コーヒー豆のハゼ検知装置1は、音圧測定部10と、ハゼ検知部11と、制御部12と、を備える。音測定部10は、焙煎装置3の焙煎容器30の近傍に配置される。また、制御部12は、焙煎装置3の焙煎条件(温度、時間等)を調整する調整部36に接続される。
【0052】
〔焙煎装置3〕
必須の態様ではないが、まず、測定対象であるコーヒー豆の焙煎に用いる焙煎装置3について説明する。焙煎装置3は、コーヒー豆に対して熱を供給可能な熱源を有し、このコーヒー豆を焙煎可能な手段である。コーヒー豆の焙煎装置としては、特に限定されず、従来の公知のコーヒー豆の焙煎手段のいずれのものを使用することもできるが、本実施形態においては、焙煎装置3は、焙煎容器30と、熱源部31と、送風部32と、温度測定部33と、排気部34と、チャフコレクター35と、調整部36と、を備える。
【0053】
焙煎容器31は、コーヒー豆を収容するための容器である。焙煎容器31としては、特に限定されず、コーヒー豆を混合するために、回転可能に構成することが好ましい。また、焙煎容器31としては、上述したコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法と同様の回転条件とすることができるものを用いることができる。
【0054】
熱源部31は、熱を発生可能な手段であり、例えば、電熱ヒーター等を用いることができる。また、熱源部31としては、例えば、上述したコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法と同様の加熱温度とすることができるものを用いることができる。
【0055】
送風部32は、熱源部31から発する熱を焙煎容器30に収容されたコーヒー豆に対して送風可能な手段である。送風部32は、上述したコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法と同様の送風条件とすることができるものを用いることができる。送風部32としては、例えば、圧縮機(ブロワ)等を用いることができる。
【0056】
温度測定部33は、焙煎容器30内の雰囲気温度を測定する手段である。
【0057】
排気部34は、焙煎中のコーヒー豆から排出された気体を排気する部位である。
【0058】
チャフコレクター35は、コーヒー豆のチャフ(いわゆる、シルバースキン)を除去する手段である。
【0059】
調整部36は、コーヒー豆の焙煎条件を直接的に変更可能な手段である。例えば、制御部12からの指示に応じて、焙煎条件を変更し、調整することができる。例えば、制御部12からの指示に応じて、焙煎温度や焙煎時間等の焙煎条件を変更したり、焙煎を終了させ(つまり、熱源からの熱の供給を停止させ)、焙煎容器30内において冷却を開始したり、あるいは、冷却を開始してから、排出口の温度が一定温度になったことを指標として冷却を停止したりするように制御できる。
【0060】
〔ハゼ検出装置2〕
ハゼ検知装置2は、音圧測定部20と、ハゼ検知部21と、制御部22と、を備える。ハゼ検出装置2は、焙煎装置3の焙煎容器30内に格納されるコーヒー豆から発生する音のうち、5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音圧を経時的に測定することにより、ハゼの発生を検知する。以下、各部についてそれぞれ説明する。なお、制御部22は必須の態様ではない。
【0061】
(音測定部20)
本実施形態に係る音測定部20について説明する。音測定部20は、焙煎装置3の焙煎容器31に格納されたコーヒー豆から発生するハゼ音を測定可能に構成されるものである。そしてこのため、音測定部20は、焙煎容器30の近傍に配置されて用いられる。
【0062】
音測定部20は、焙煎中のコーヒー豆から発生するハゼ音を検出及び例えば電気信号等の信号に変換可能な手段である。具体的に、音測定部20としては、一般的なマイクロフォン等を用いることができる。より具体的には、Knowles社 SPU0410LR5H−QB 100Hz−80kHz等を用いることができる。音測定部20は、本実施形態においては、焙煎容器30の近傍に配置されているが、この例に限定されず、少なくとも5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音圧を経時的に測定することができるものであれば特に限定されない。
【0063】
(ハゼ検知部21)
ハゼ検知部21は、音測定部20により測定した音の信号から、ハゼ音を抽出し、計数するものである。
【0064】
以下、ハゼ検知部21のより具体的な実施形態について、図を参照して説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0065】
図2は、ハゼ検知部の一例の概略図である。ハゼ検知部21は、例えば、バンドパスフィルタ211、ピークディテクタ212、波形解析器213及び計数器214を備える。
【0066】
バンドパスフィルタ211は、音圧測定部20(例えば、マイクロフォン)により検出した音の電気信号のうち、所定の周波数の範囲を有する信号のみを抽出するものである。本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ検知方法においては、例えばこのようなバンドパスフィルタ211を用いることにより、5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音のみを抽出し、その周波数の範囲のみにおける音圧を測定することができる。
【0067】
ピークディテクタ212は、バンドパスフィルタ211を通過した所定の周波数の音の電気信号の交流成分のプラス側のピーク値を検出し、所定の期間保持する。
【0068】
波形解析器213は、ピークディテクタ212からの出力波形のうち、波形の立ち上がり前後を比較解析し、急峻に立ち上がった波形をハゼ音であると判定するものである。波形解析器213は、ハゼ音を判定した都度、計数器214に信号を送信する。
【0069】
計数器214は、波形解析器213から受信した信号を所定の期間ごとに計数し、所定の期間(例えば、1秒、10秒等)ごとに発生したハゼ音の数を制御部22に送信する。
【0070】
(制御部22)
必須の態様ではないが、制御部22は、ハゼ検出部21によるハゼ検出に基づいて、焙煎装置3における焙煎の条件を調整可能な手段である。
【0071】
制御部22は、ハゼ検出部21からハゼ発生の出力を受け取り、そのデータに基づいて、焙煎装置3の制御部に焙煎条件を変更するように指示をする。これにより、焙煎装置3における焙煎の条件を調整可能とする。そして、このようにして、焙煎条件を調整することにより、適切に焙煎条件が制御された焙煎コーヒー豆を製造することができる。
【0072】
制御部22において、焙煎条件の調整する具体的な方法としては、目的に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されないが、例えば、コーヒー豆の焙煎度に連動して、コーヒー豆に対する熱の供給の条件(例えば、焙煎温度、焙煎時間、送風の条件、回転ドラムの回転の条件等)を変更し、焙煎の進行速度等を調整することができる。また、コーヒー豆に対する熱の供給を停止することもできる。より具体的には、コーヒー豆に対する熱の供給を停止するように調整部36に指示することができる。
【0073】
また、本実施形態においては備えていないが、制御部22は、一酸化炭素量における気体ポンプのスイッチのオン・オフを指示することができる。また、制御部22は、データ(例えば、ハゼ音発生回数、焙煎開始からの経過時間、焙煎温度内の温度、気温等)を記録するために、例えば、別のコンピュータ(パソコン)にデータを送るように構成することもできる。
【0074】
なお、ハゼ検知部11及び制御部12は、それぞれが通信可能な状態で音圧測定部10及び調整部36に接続されていればよい。例えば、ハゼ検知部11及び制御部12をネットワーク上のサーバに設置することができる。
【0075】
<コーヒー豆のハゼ発生時期予測方法>
本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法は、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素量を測定する一酸化炭素量測定工程と、その一酸化炭素量に基づいて、コーヒー豆のハゼ発生予定時期を予測する予測工程と、を有する。本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法は、このような構成を有することにより、ハゼの発生予定時期を適切に予測することができる。そして、その結果に基づき、コーヒー豆の焙煎条件を制御することができる。なお、本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法によれば、その焙煎の過程においてコーヒー豆から発生する2度のハゼ音のうち、第1のハゼ及び第2のハゼいずれも予測することができる。
【0076】
〔焙煎工程〕
焙煎工程は、例えば、コーヒー豆に対して熱を供給し、コーヒー豆を焙煎する工程である。
【0077】
熱の供給手段としては、特に限定されず、従来のコーヒー豆の焙煎において使用される公知のいずれの手段を用いることもできる。例えば、焙煎容器(例えば、コーヒー豆の焙煎用の回転ドラム)内に収容されたコーヒー豆に対して、電熱ヒーター等の熱源から発する熱を圧縮機(ブロワ)、送風機等により送風し、コーヒー豆に熱風をあてることにより、熱の供給を行うことができる。供給する熱の温度は、通常のコーヒー豆の焙煎に用いられる加熱の温度を用いることができ、例えば、100〜300℃の範囲の温度を用いることができる。また、熱風の送風量は、コーヒー豆1gあたり毎分0.1〜1Lの範囲内の風量を用いることができる。なお、焙煎工程における熱を供給する対象のコーヒー豆は、焙煎されたコーヒー豆の原料となるコーヒー豆のことを指す。
【0078】
コーヒー豆としては、特に限定されず、従来の公知のコーヒー豆の銘柄(例えば、ガテマラ、ブラジル(サントス、ダテーラ等)、エチオピア(モカイルガチェフ等)、コスタリカ、キリマンジャロ、ベトナム、コロンビア、タンザニア、モカ、ブルーマウンテン、クリスタルマウンテン、ケニア、マンデリン、メキシコ等)等を、1種単独で使用することも、2種以上をブレンドして用いることもできる。また、銘柄以外にも、ロット、産地、精製方法及び生産年について、いずれのコーヒー豆を用いることもできる。さらに、銘柄、ロット、産地、精製方法及び生産年のいずれかが異なる、2種以上のブレンドであっても、ハゼ発生時期を予測することができる点で、本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生予定時期予測方法は有用である。
【0079】
焙煎方法としては、例えば、焙煎容器(回転ドラム)を回転させて、コーヒー豆を混ぜながら、コーヒー豆を焙煎することができる。回転の条件としては、従来の公知の条件を用いることができ、例えば、5〜60rpmの条件を用いることができる。
【0080】
焙煎工程において、温度センサー等の温度測定手段を用いて、焙煎容器内の温度を測定してもよく、測定しなくてもよい。焙煎容器内の温度を測定することで、焙煎時の焙煎容器内の雰囲気温度を確認することができる。
【0081】
本発明における焙煎工程において、焙煎しながら、コーヒー豆のチャフ(いわゆる、シルバースキン)を除去するために、焙煎により発生したチャフを回収することができる。
【0082】
本発明における焙煎工程において、焙煎時間は、指標とする一酸化炭素の設定値に応じて、自ずと定まるものであるが、例えば、300〜1500秒の範囲内で行うことができる。
【0083】
〔一酸化炭素量測定工程〕
一酸化炭素量測定工程は、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素量を測定する工程である。
【0084】
測定対象の一酸化炭素の量としては、特に限定されず、発生した一酸化炭素の絶対量及び相対量(濃度)いずれを用いることもできる。
【0085】
一酸化炭素の測定手段(センサー)としては、特に限定されず、例えば、根本特殊化学社製のNAP−505等を用いることができる。
【0086】
測定箇所(測定対象)としては、特に限定されず、例えば、焙煎が行われる箇所(空間)、又は焙煎が行われる箇所から排気したものを測定することができる。排気したものを測定する場合、一酸化炭素を測定するための測定手段に一酸化炭素を送気する際に、より正確に測定を行うために、フィルター(例えば、チャフフィルター等)による異物の除去を行うことが好ましい。また、送気は、一酸化炭素の量を正確に測定するために、一定の速度で行うように行うことが好ましい。一酸化炭素の送気は、送気の速度を調整するために、気体ポンプにより行うことも、気体ポンプを用いずに行うこともできる。送気により、測定箇所の圧力が変化する場合、測定箇所の圧力を一定に保つために、圧力を測定箇所の外部に逃がすこともできる。
【0087】
測定頻度としては、特に限定されず、連続的に行うことも、断続的に行うこともできる。連続的又は断続的いずれであっても、経時的に測定を行うことが好ましい。経時的に測定を行うことにより、将来の一酸化炭素発生量をより正確に予測することができ、その結果として、ハゼ発生時期をより正確に予測することができる。
【0088】
〔予測工程〕
予測工程は、一酸化炭素量に基づいて、コーヒー豆のハゼ発生予定時期を予測する工程である。
【0089】
具体的に、予測工程では、一酸化炭素量測定工程で測定した一酸化炭素の量が閾値を超えた場合に、所定の期間後にハゼが発生することを予測する。閾値の決定方法としては、例えば予め複数種類(銘柄、生産年等)の豆で一酸化炭素量とハゼ発生時期の相関を記録し、ハゼ発生の所定期間前(例えば、1〜2分前)の一酸化炭素量を閾値とする。そして、予測工程では、測定した一酸化炭素量が閾値を超えた場合に、その時点をハゼ発生の所定期間前(例えば、1〜2分前)と判断し、その時点から所定期間後(例えば、1〜2分後)にハゼが発生すると予想する。
【0090】
また、ハゼ発生時又は発生中の一酸化炭素量を閾値としてハゼ発生時期を予想することもできる。さらに、実際の運用で制御装置等に学習させることもできる。
【0091】
なお、コーヒー豆のハゼ発生予定時期を測定した後、コーヒー豆の焙煎条件を変更して焙煎コーヒー豆を製造する場合、実際には、コーヒー豆のハゼ発生予定時期より所定期間前(例えば、1〜2分前)の条件変更時期を見積もる。このようにして条件変更時期を見積もって焙煎条件を変更することにより、所望の香味を有するコーヒー豆を得ることができる。
【0092】
そして、このようにしてハゼ発生を予測した場合、例えば、所定の期間、焙煎温度(例えば、火力)を増加・減少させるか、又は焙煎装置内の空気の送風量を変更させる等の操作を行う。送風量の調整は、例えば、焙煎装置に設けた排気ダンパーの開閉により調整することができる。これにより、所望の香味を有するコーヒー豆を精度良く製造することができる。
【0093】
<コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置>
本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置は、例えば、上述のコーヒー豆のハゼ発生時期予測方法を実現することができる装置である。以下に本発明の一実施形態であるコーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置について、図3を用いて説明する。
【0094】
図3は、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置の概略図である。図3に示すように、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置2は、一酸化炭素量測定部20と、予測部21と、制御部22と、を備える。一酸化炭素量測定部20は、焙煎装置3の排気部34に接続される。また、制御部22は、焙煎装置3の焙煎条件(温度、時間等)を調整する調整部36に接続される。
【0095】
〔焙煎装置3〕
必須の態様ではないが、測定対象であるコーヒー豆を焙煎するための焙煎装置としては、排気部34が、一酸化炭素量測定部20に一酸化炭素を送気可能に構成されること及び調整部36が予測部11と通信可能に接続されること以外、上述した焙煎装置3と同様のものを用いることができる。
【0096】
〔ハゼ発生予定時期予測装置2〕
ハゼ発生予測時期測定装置2は、一酸化炭素量計測部20と、予測部21と、制御部22を有する。ハゼ発生予測時期測定装置2は、上述した焙煎装置3内において焙煎されるコーヒー豆から発生する一酸化炭素量に基づき、ハゼの発生時期を予測する。以下、各部についてそれぞれ説明する。なお、制御部12は必須の態様ではない。
【0097】
(一酸化炭素量測定部20)
次に、本実施形態に係る一酸化炭素量測定部20について説明する。一酸化炭素量測定部20は、焙煎装置3から送られた一酸化炭素の量を測定可能に構成されるものである。なお、図示しないが、本実施形態に係るコーヒー豆のハゼ発生予定時期測定装置2は、一酸化炭素量測定部20と排気部34の間にフィルターをさらに備えるものである。
【0098】
一酸化炭素量測定部20は、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素の量を測定可能な手段である。一酸化炭素量測定部20としては、例えば、根本特殊化学社製のNAP−505等を用いることができる。一酸化炭素量測定部20は、本実施形態においては、焙煎装置4から排気された一酸化炭素を測定するように、焙煎装置3とは別に(焙煎装置3の外部に)構成したが、焙煎装置3の内部に一酸化炭素量測定部20を設けることもできる。
【0099】
また、フィルターは、焙煎装置3から送気された一酸化炭素が一酸化炭素量測定部20に達するまでの間の一酸化炭素の通路に配置されるものである。このようなフィルターによって、一酸化炭素量測定部20に一酸化炭素を送気する際に、異物(例えば、チャフ)を除去することができるため、より正確な一酸化炭素量の測定を行うことができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、チャフフィルター等を用いることができる。
【0100】
また、コーヒー豆のハゼ発生予定時期予測装置1は、本発明の効果を損なわない範囲において、適宜他の構成要素を備えることができる。例えば、一酸化炭素を測定部1に送気するための気体ポンプをさらに備えることができる。
【0101】
(予測部21)
予測部21は、一酸化炭素量測定部20による一酸化炭素量の測定結果に基づいて、コーヒー豆のハゼ発生予定時期を予測する手段である。
【0102】
(制御部22)
必須の態様ではないが、制御部22は、予測部21によるハゼ発生予定時期の予測に基づいて、焙煎装置3における焙煎の条件を調整可能な手段である。
【0103】
制御部22は、予測部21からハゼ発生予定時期の出力を受け取り、そのデータに基づいて、焙煎装置3の制御部に焙煎条件を変更するように指示をする。これにより、焙煎装置3における焙煎の条件を調整可能とする。そして、このようにして、焙煎条件を調整することにより、適切に焙煎条件が制御された焙煎コーヒー豆を製造することができる。
【0104】
制御部22において、焙煎条件の調整する具体的な方法としては、目的に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されないが、例えば、コーヒー豆の焙煎度に連動して、コーヒー豆に対する熱の供給の条件(例えば、焙煎温度、焙煎時間、送風の条件、回転ドラムの回転の条件等)を変更し、焙煎の進行速度等を調整することができる。また、コーヒー豆に対する熱の供給を停止することもできる。
【0105】
また、本実施形態においては備えていないが、制御部22は、一酸化炭素量における気体ポンプのスイッチのオン・オフを指示することができる。また、制御部22は、データ(例えば、一酸化炭素濃度、焙煎開始からの経過時間、焙煎温度内の温度、気温等)を記録するために、例えば、別のコンピュータ(パソコン)にデータを送るように構成することもできる。
【0106】
なお、予測部21及び制御部22は、それぞれが通信可能な状態で一酸化炭素量測定部20及び調整部36に接続されていればよい。例えば、予測部21及び制御部22をネットワーク上のサーバに設置することができる。
【0107】
<ハゼ検知方法とハゼ発生時期予測方法を組み合わせ>
なお、上述したハゼ検知方法とハゼ発生時期予測方法を組み合わせて用いることができる。これにより、ハゼ発生をより高精度に検知することができる。
【実施例】
【0108】
<焙煎コーヒー豆製造装置の準備>
焙煎コーヒー豆製造装置4として、図1に示したハゼ検知装置1、図3に示したハゼ発生予定時期予測装置2、及び図1及び図3に示した焙煎装置3をいずれも備える装置を作製した(図4)。それぞれについて、以下に詳細に説明する。
【0109】
[焙煎装置3]
焙煎手段3は、GeneCafe CBR−101(GeneSys社製)を用いた。焙煎手段3は、焙煎容器30と、熱源部31としての電熱ヒーターと、送風部32としてのブラワと、温度測定部33としての温度センサーと、排気部34と、チャフコレクター35と、調整部36とを備えるものである。
【0110】
なお、GeneCafe CBR−101は、通常、焙煎容器30としての円筒形の耐熱ガラスを有する。本実施例においては、ハゼ音を透過させるため、0.1tの真鍮製の筒を製造し、変更して用いた。
【0111】
調整部36は、温度や焙煎時間のタイマーに応じてコーヒー豆の焙煎条件を直接変更可能なものである。
【0112】
排気部34は、ハゼ発生予定時期予測装置2の一酸化炭素量測定部10に排気ガスを供給するように設計した。
【0113】
本実施例において、具体的な焙煎条件としては、ドラム回転数10〜11rpmであり、風量約150L/分、温度調整範囲60〜250℃とした。
【0114】
[ハゼ検知装置1]
ハゼ検知装置1における各部の詳細は、以下のとおりである。
【0115】
(音圧測定部10)
音圧測定部10としては、マイクロフォン(Knowles社 SPU0410LR5H−QB)を用いた。
【0116】
(ハゼ検知部11)
ハゼ検知部11は、図3に示したように、バンドパスフィルタ111と、ピークディテクタ112と、波形解析器113と、計数器114と、を備えるものを構成した。
【0117】
バンドパスフィルタ111としては、アナログオペアンプによる2段増幅型バンドパスフィルタを用いた。ピークディテクタ112としては、アナログオペアンプとアナログコンパレータで構成した。波形解析器113としては、アナログコンパレータとマイクロコンピュータで構成した。計数器114としてはマイクロコンピュータを用いた。
(制御部12、22)
また、制御部12、22では、データを記録するために、10秒あたりのハゼ音の発生回数、COガス濃度、経過秒、設定温度、排気温度をコンピュータ(パソコン)へ送信するように設定した。
【0118】
[ハゼ発生予定時期予測装置2]
ハゼ発生予定時期予測装置2としてのセンサーユニットは、更に、フィルター、気体ポンプを備えるものとして設計した。ハゼ発生予定時期予測装置2における各部の詳細は、以下のとおりである。
【0119】
(一酸化炭素量測定部10)
一酸化炭素量測定部10としては、根本特殊化学社製のNAP−505(CO測定範囲:0−1000ppm)のセンサーデバイスを用いて、CO(一酸化炭素)を測定した。
【0120】
(チャフフィルター)
チャフフィルターは、焙煎装置3の排気部34から供給された排気ガスに混じったチャフ等の異物を除去するためのものである。チャフコレクターとしては、上述のGeneCafe CBR−101(GeneSys社製)の付属品を用いた。
【0121】
(気体ポンプ)
気体ポンプは、焙煎装置3における排気部34からの排気ガスをハゼ発生予定時期予測装置1へ送るものである。気体ポンプとしては、KNF社製のNF−11を用いた。この気体ポンプ能力は、100ml/分であった。
【0122】
<実施例1>
上述した焙煎コーヒー豆製造装置4を用いて、250gのコーヒー豆(モカシダモG4)を焙煎した。加熱温度を230℃で一定とした。このとき、ハゼ未発生時(焙煎開始から約440秒)の焙煎装置の装置音及び環境雑音を主とする音と、ハゼ発生時(焙煎開始から約620秒)のハゼ音を主とする音を測定し、バンドパスフィルタの入出力及びピークディテクタの出力の3チャネルを同時にデジタルオシロスコープで測定・記録した。
【0123】
図5(a)〜(c)は、焙煎装置の装置音及び環境雑音のマイクロフォンの出力波形(図5(a))、10kHzバンドパスフィルタ通過後の波形(図5(b))、ピークディテクタ出力の波形(図5(c))である。
【0124】
図6(a)〜(c)は、ハゼ音のマイクロフォンの出力波形(図6(a))、10kHzバンドパスフィルタ通過後の波形(図6(b))、ピークディテクタ出力の波形(図6(c))である。
【0125】
<実施例2>
(実施例2−1〜2−4)
上述した焙煎コーヒー豆製造装置4を用いて、250gのコーヒー豆を焙煎した。加熱温度を230℃で一定とした。また、一酸化炭素量測定部において測定された排出ガス中の一酸化炭素の濃度が600ppmとなったとき、調整部36にて加熱を停止した。
【0126】
ハゼ音未発生時の期間として、焙煎開始から480〜540秒の60秒間を選択し、その期間の装置音及び環境雑音を測定した。この60秒間の各秒のピーク値を記録し、60秒間の平均値を記録し、焙煎開始から541秒以降の閾値とした。焙煎開始から541秒以降では、測定した音圧がこの閾値を超えており、閾値を超えた時より0.5ミリ秒前からの3ミリ秒前の期間に閾値の1/4以上の電圧が記録されていない場合、ハゼ音と判断し、計数器に信号を送信する。一方で、この期間に閾値の1/4以上の電圧が記録されている場合、雑音と判断し、計数器に信号を送信しないものとした。
【0127】
コーヒー豆の銘柄としては、サントスNo.2(実施例2−1)、モカシダモG4(実施例2−2)、ガテマラSHB(実施例2−3)、ブラジルダテーラリザーブ(実施例2−4)を用いた。図7〜10は、焙煎開始からの時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
【0128】
表1に、実施例2−1〜2−4において、第1のハゼ音発生時の排出ガス中の一酸化炭素の濃度、第2のハゼ音発生時の排出ガス中の一酸化炭素の濃度、焙煎開始から4ppm、5ppm、30ppm、40ppm、50ppmまでの時間を示す。なお、表1においては、排出ガス中の一酸化炭素の濃度が3ppm以上30ppm未満の範囲で検知した最初のハゼ音を「第1のハゼ音の開始」、同50ppm以上で検知した最初のハゼ音を「第2のハゼ音の開始」としている。
【0129】
【表1】
【0130】
(実施例2−5〜2−8)
180℃で300秒、200℃で120秒、224℃で120秒、その後230℃で保持する温度プロファイルにおいて、排出ガス中の一酸化炭素の濃度が9ppmとなったとき20秒間そのときの設定温度を10℃低下させ、また、排出ガス中の一酸化炭素の濃度が80ppmとなったとき20秒間そのときの設定温度を30℃低下させるよう設定した以外、実施例2−1〜2−4と同様にして、コーヒー豆を焙煎した。図11〜14は、焙煎開始からの時間における排出ガス中の一酸化炭素の濃度、10秒ごとのハゼ発生回数、設定温度及び排気温度のプロファイルである。
【0131】
表2に、実施例2−5〜2−8において、第1のハゼ音発生時の排出ガス中の一酸化炭素の濃度、第2のハゼ音発生時の排出ガス中の一酸化炭素の濃度、焙煎開始から4ppm、5ppm、30ppm、40ppm、50ppmまでの時間を示す。なお、表2においては、排出ガス中の一酸化炭素の濃度が3ppm以上30ppm未満の範囲で検知した最初のハゼ音を「第1のハゼ音の開始」、同50ppm以上で検知した最初のハゼ音を「第2のハゼ音の開始」としている。
【0132】
【表2】
【0133】
表1及び表2を対比すると、焙煎温度のプロファイルに相違があるにも関わらず、実施例2−1〜2−8においてはいずれも、第1のハゼ音を検知したときの排出ガス中の一酸化炭素の濃度と、第2のハゼ音を検知したときの排出ガス中の一酸化炭素の濃度は、それぞれ5ppm〜9ppm、55ppm〜81ppmの範囲にある。したがって、ハゼ音の発生と、排出ガス中の一酸化炭素の濃度はコーヒー豆の個体差や焙煎温度にもかかわらず、対応関係があるものと示唆される。
【0134】
上述した焙煎コーヒー豆製造装置4を用いて、250gのコーヒー豆(モカシダモG4)を焙煎した。加熱温度を230℃で一定とした。解析の対象とする音の中心周波数(kHz)と半値幅(kHz)を表3のとおり変更して、第1のハゼ発生時(焙煎開始後549〜789秒)及び第2のハゼ発生時(焙煎開始後799秒〜999秒)それぞれにおける、ハゼ発生回数(各期間の総発生回数)、10秒あたりの平均のハゼ発生回数を測定するとともに、第1のハゼ発生時及び第2のハゼ発生時のハゼ発生回数の分布について、歪度及び尖度を計算した。その結果について、表3に併せて示す。
【0135】
【表3】
【0136】
<実施例3>
上述した焙煎コーヒー豆製造装置4を用いて、250gのコーヒー豆(モカシダモG4)を焙煎した。加熱温度を230℃で一定とした。
【0137】
ハゼ音未発生時の期間として、焙煎開始から480〜540秒の60秒間を選択し、その期間の装置音及び環境雑音を測定した。この60秒間の各秒のピーク値を記録し、60秒間の平均値を記録し、ハゼ音発生時の期間における閾値とした。
【0138】
ハゼ音発生時の期間として、焙煎開始から590〜620秒の30秒間を選択し、その期間のハゼ音を測定し、バンドパスフィルタの入出力及びピークディテクタの出力の3チャネルを同時にデジタルオシロスコープで測定・記録した。また、併せて聴覚でハゼ音、装置音及び豆のドラム内での流動音を測定した。なお、この条件及び時間においては、比較的ハゼ音の密度が小さく、聴覚でハゼ音を正確に判定することができる。
【0139】
そして、測定した音圧がこの閾値を超えており、閾値を超えた時より0.5ミリ秒前からの3ミリ秒前の期間に閾値の1/12以上の電圧が記録されていない場合、ハゼ音と判断し、計数器に信号を送信する。一方で、この期間に閾値の1/12以上の電圧が記録されている場合、雑音と判断し、計数器に信号を送信しないものとした。これにより、ハゼの検知を行った。
【0140】
次に、計数器に信号を送信する際の電圧値の基準を、閾値の2/12以上(1/6以上)、閾値の3/12以上(1/4以上)、閾値の4/12以上(1/3以上)、閾値の5/12以上、閾値の6/12以上(1/2以上)、閾値の7/12以上、閾値の8/12以上(2/3以上)、閾値の9/12以上(3/4以上)、閾値の10/12以上(5/6以上)、閾値の11/12以上、閾値の12/12以上(閾値以上)にそれぞれ変更し、同様にハゼの検知を行った。
【0141】
表4に、590秒〜619秒間の各秒ごとの聴覚によるハゼ検出回数と、計数器に信号を送信する際の電圧値の基準を上述のとおり変更して焙煎コーヒー豆製造装置4により測定したハゼ検知回数を示す。
【0142】
【表4】
※表中、小括弧(())は誤検知を、大括弧([])は聴覚により判定が不可能なものを意味している。
【0143】
計数器に信号を送信する際の電圧値の基準を、閾値の3/12以上(1/4以上)とした場合、誤検知数が最も少なく、且つ数多くハゼ音を検知できることが分かった。
【符号の説明】
【0144】
1 ハゼ検知装置
10 音圧測定部
11 ハゼ検知部
111 バンドパスフィルタ
112 ピークディテクタ
113 波形解析器
114 計数器
12 制御部
2 ハゼ発生予定時期予測装置
20 一酸化炭素量測定部
21 予測部
22 制御部
3 焙煎装置
30 焙煎容器
31 熱源部
32 送風部
33 温度測定部
34 排気部
35 チャフコレクター
36 調整部
4 焙煎コーヒー豆製造装置
【要約】
【課題】コーヒー豆の焙煎に際し、ハゼの発生時期を簡易且つ正確に検知又は予測する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るコーヒー豆のハゼ検知方法は、焙煎中のコーヒー豆及び焙煎装置から発生する5kHz以上80kHz以下の範囲に含まれる範囲の周波数の音を経時的に測定するに際し、ハゼ未発生期間中の音圧の平均値を算出する平均値算出工程と、音圧の平均値を閾値として用いて、測定した音圧が閾値を超え、且つ閾値を超えた時点より0.1ミリ秒前から100ミリ秒前までの期間から選択される0.1ミリ秒以上99ミリ秒以下の時間幅において、閾値のn倍以上(nは、1/6超1/3未満)の音圧を検知していない場合に、コーヒー豆のハゼを検知したと判断するハゼ検知工程と、を有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14