(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211246
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】EGRガス混合装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/17 20160101AFI20171002BHJP
【FI】
F02M26/17
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-24658(P2012-24658)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-160189(P2013-160189A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 永哉
【審査官】
中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−092592(JP,A)
【文献】
特開2006−132373(JP,A)
【文献】
特開2010−101191(JP,A)
【文献】
米国特許第05333456(US,A)
【文献】
特開平08−326609(JP,A)
【文献】
特開平11−324812(JP,A)
【文献】
特開2001−165002(JP,A)
【文献】
特開2001−173518(JP,A)
【文献】
米国特許第06267106(US,B1)
【文献】
特開2003−097361(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0180224(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0023018(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0066725(US,A1)
【文献】
特表2009−503334(JP,A)
【文献】
特開2009−299591(JP,A)
【文献】
特開2010−071127(JP,A)
【文献】
特開2011−220127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00−13/06
F02B 47/00−47/06
F02B 47/08−47/10
F02B 49/00
F02M 25/00−25/14
F02M 26/00−26/74
F02M 35/00−35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気管の途中にベンチュリ部を形成して該ベンチュリ部の外周に環状チャンバを設けると共に、該環状チャンバに対し排気側から排気ガスの一部を抜き出して導くEGRパイプを接続し、前記ベンチュリ部に環状チャンバ内部と吸気管内部とを連通する環状スリットを形成して前記ベンチュリ部を上流側の縮径部と下流側の拡張部とに分割したEGRガス混合装置であって、前記環状スリットが前記ベンチュリ部の軸心方向に間隔を空けて形成されていると共に、前記環状チャンバに前記EGRパイプを接続するにあたり、該EGRパイプの軸心が前記環状スリットの中間位置より縮径部側へオフセットされ且つ前記EGRパイプを延長した先が環状スリットに対し部分的に重複するように配置されており、しかも、ベンチュリ部の縮径部の終端に対し拡張部の始端を半径方向外側にずらして段差が形成されるようにしたことを特徴とするEGRガス混合装置。
【請求項2】
環状スリットの最下レベルより低い環状チャンバの領域を前記環状スリットの最下レベルまで底上げして形成したことを特徴とする請求項1に記載のEGRガス混合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRガス混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等では、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOxの発生を低減するようにした、いわゆる排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われており、一般的に、この種の排気ガス再循環を行う場合には、排気マニホールドから排気管に至る排気通路の適宜位置と、吸気マニホールドの入口付近の吸気管との間をEGRパイプにより接続し、該EGRパイプを通して排気ガスを再循環するようにしている。
【0003】
ただし、吸気管の側面に単純にEGRパイプを接続するだけでは、吸気管内を流れる吸気に対して排気ガスを均一に混合することが難しく、更には、吸気管に対するEGRパイプの接続部分における開口が狭いために吸気に対する排気ガスの混入割合を急激に高めることができないなどの不都合があった。
【0004】
このような不都合を改善するため、
図4〜
図7に示す如く、吸気管1の途中に吸気2の流れを絞り込むベンチュリ部3を形成して該ベンチュリ部3の外周に環状チャンバ4を設け、該環状チャンバ4に対し排気側から排気ガス5の一部を抜き出して導くEGRパイプ6を接続し、前記ベンチュリ部3のスロート部に環状チャンバ4と吸気管1内部とを連通する環状スリット7を形成して前記ベンチュリ部3を上流側の縮径部8と下流側の拡張部9とに分割したEGRガス混合装置が提案されている。
【0005】
即ち、このようにすれば、EGRパイプ6により環状チャンバ4に導かれた排気ガス5が、ベンチュリ部3に形成した環状スリット7を通して全周から吸気管1内部に流入し、しかも、前記ベンチュリ部3の拡張部9側に生じる負圧部により環状チャンバ4内の排気ガス5が良好に吸引されることになるので、大量の排気ガス5を吸気管1内の吸気2に対し良好に混合せしめて混合ガス2’とすることができる。
【0006】
この際、ベンチュリ部3の縮径部8の終端に対し拡張部9の始端を半径方向外側にずらして段差を形成することが本発明と同じ出願人により既に提案されており(下記の特許文献1を参照)、このようにすれば、ベンチュリ部3の最小内径部位置(縮径部8の終端位置)よりも下流側(拡張部9側)に生じる負圧部が環状スリット7の内部に入り込み易くなり、縮径部8及び拡張部9の夫々の端面に傾斜面を後加工した場合と変わらない高い吸引作用が得られる。
【0007】
また、本発明と同じ出願人は、環状スリット7の最下レベルより低い環状チャンバ4の領域を前記環状スリット7の最下レベルまで底上げして形成することも提案しており(下記の特許文献2を参照)、このようにすれば、排気側から吸気側へ再循環される排気ガスが結露して凝縮水が生じても、その凝縮水が環状チャンバ4内に大量に溜まってしまう事態が起こらなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−92592号公報
【特許文献2】特開2010−101191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図4〜
図7に示す従来のEGRガス混合装置を以ってしても、エンジンにターボチャージャが搭載されている場合には、吸気側が過給されているために排気側との圧力差が少なくなってしまい、特に回転数の高い運転領域等で必要な量の排気ガス5を再循環させることが難しくなるため、ターボチャージャとして容量可変式のターボチャージャ(バリアブルジオメトリーターボチャージャ)を採用し、該ターボチャージャを制御することで排気圧力を強制的に高める措置を施し、これにより吸気側と排気側との圧力差を確保して必要な量の排気ガス5を再循環させるようにしているが、このようなターボチャージャによる排気圧力を上げる措置がポンピングロスを増加させて燃費の悪化を招いてしまっており、いかに少ない差圧で必要な排気ガスの再循環量を確保できるようにするかが未だに大きな課題として残っている。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑みて成したもので、従来よりも少ない差圧で必要な排気ガスの再循環量を確保し得るEGRガス混合装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、吸気管の途中にベンチュリ部を形成して該ベンチュリ部の外周に環状チャンバを設けると共に、該環状チャンバに対し排気側から排気ガスの一部を抜き出して導くEGRパイプを接続し、前記ベンチュリ部に環状チャンバ内部と吸気管内部とを連通する環状スリットを形成して前記ベンチュリ部を上流側の縮径部と下流側の拡張部とに分割したEGRガス混合装置であって、前記環状スリットが前記ベンチュリ部の軸心方向に間隔を空けて形成されていると共に、前記環状チャンバに前記EGRパイプを接続するにあたり、該EGRパイプの軸心が前記環状スリットの中間位置より縮径部側へオフセットされ且つ前記EGRパイプを延長した先が環状スリットに対し部分的に重複するように配置
されており、しかも、ベンチュリ部の縮径部の終端に対し拡張部の始端を半径方向外側にずらして段差が形成されるようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
而して、このようにすれば、EGRパイプを通して導かれた排気ガスが、ベンチュリ部の環状スリットに対し吸気の流れ方向の上流側から斜めに流入し、吸気の流れに沿うように円滑に吸気管内に流れ込むことになるため、EGRパイプの軸心を環状スリットの中間位置に合わせて配置していた時に生じていたような渦流が環状スリットへの流入時に形成されなくなり、EGRパイプからの排気ガスが吸気管に吸い込まれ易くなって高い吸引作用が得られ、同じ量の排気ガスを従来よりも少ない差圧で再循環させることが可能となる。
【0013】
ま
た、ベンチュリ部の縮径部の終端に対し拡張部の始端を半径方向外側にずらして段差
が形成されるようにしているので、ベンチュリ部の最小内径部位置(縮径部の終端位置)よりも下流側(拡張部側)に生じる負圧部が環状スリットの内部に入り込み易くなって更に高い吸引作用が得られる。
【0014】
更に、本発明においては、環状スリットの最下レベルより低い環状チャンバの領域を前記環状スリットの最下レベルまで底上げして形成することが好ましく、このようにすれば、排気側から吸気側へ再循環される排気ガスが結露して凝縮水が生じても、その凝縮水が環状チャンバ内に大量に溜まってしまう事態が起こらなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のEGRガス混合装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0016】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、従来よりも少ない差圧で必要な排気ガスの再循環量を確保することができるので、エンジンの回転数が高い運転領域等でターボチャージャを制御して強制的に排気圧力を上げる措置の度合を従来よりも軽減することができ、これによりポンピングロスを減少させて燃費の向上を図ることができる。
【0017】
(II)本発明の請求項
1に記載の発明によれば、ベンチュリ部の最小内径部位置(縮径部の終端位置)よりも下流側(拡張部側)に生じる負圧部を環状スリットの内部に入り込み易くして更に高い吸引作用を得ることができるので、エンジンの回転数が高い運転領域等でターボチャージャを制御して強制的に排気圧力を上げる措置の度合を更に軽減することができ、これによりポンピングロスを減少させてより一層の燃費の向上を図ることができる。
【0018】
(III)本発明の請求項
2に記載の発明によれば、排気側から吸気側へ再循環される排気ガスが結露して凝縮水が生じても、その凝縮水が環状チャンバ内に大量に溜まってしまう事態を未然に防止することができ、これによって、排気ガスの凝縮水が何らかの拍子で大量にエンジン側に導かれて該エンジンを損傷してしまったり、その溜まり部に凝縮水が濃縮されながら溜まり続けることで腐食が生じてしまったりする虞れを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を側方から見た断面図である。
【
図3】本形態例の効果について検証したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1及び
図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、先に説明した
図4〜
図7の従来例と同様に構成したEGRガス混合装置の場合と同様に、吸気管1の途中にベンチュリ部3が形成されており、該ベンチュリ部3の外周に環状チャンバ4が設けられていると共に、該環状チャンバ4に対し排気側から排気ガス5の一部を抜き出して導くEGRパイプ6が接続され、前記ベンチュリ部3に環状チャンバ4内部と吸気管1内部とを連通する環状スリット7が形成されて前記ベンチュリ部3が上流側の縮径部8と下流側の拡張部9とに分割されるようになっているが、本形態例においては、
前記環状スリット7が前記ベンチュリ部3の軸心方向に間隔を空けて形成されていると共に、前記環状チャンバ4に前記EGRパイプ6を接続するにあたり、該EGRパイプ6の軸心6a
が前記環状スリット7の中間位置Pより縮径部8側へオフセット
され且つ前記EGRパイプ6を延長した先が環状スリット7に対し部分的に重複するように配置したところを特徴としている。
【0022】
即ち、本発明者は、
図4〜
図7の従来例でEGRパイプ6の軸心6aが環状スリット7の中間位置Pに合わせて配置されていることに着目し、このような配置を採用した場合に、EGRパイプ6からの排気ガス5の流れが吸気管1内の吸気2の流れに対し直交する向きから流入し、ここで急激に曲げられて吸気2の流れに混合することで渦流(
図6参照)が生じて円滑な流れ込みが阻害されているという事実を見いだし、排気ガス5の円滑な合流を図るために、EGRパイプ6の軸心6aを環状スリット7の中間位置Pより縮径部8側へオフセットして配置することを創案するに到った。
【0023】
例えば、ここに図示している例では、環状スリット7の幅を約10mm程度に設定しているが、EGRパイプ6の軸心6aを前記環状スリット7の中間位置Pを基準として縮径部8側へ約5mm程度のずらし量でオフセットして配置することにより、後述する如き吸引作用の向上が図られることを確認している。
【0024】
また、特に本形態例においては、
図4〜
図7の従来例の場合と同様に、ベンチュリ部3の縮径部8の終端に対し拡張部9の始端を半径方向外側にずらして段差を形成するようしてあり、しかも、環状スリット7の最下レベルより低い環状チャンバ4の領域を前記環状スリット7の最下レベルまで底上げして形成するようにしてある。
【0025】
而して、このようにEGRガス混合装置を構成すれば、EGRパイプ6を通して導かれた排気ガス5が、ベンチュリ部3の環状スリット7に対し吸気2の流れ方向の上流側から斜めに流入し、吸気2の流れに沿うように円滑に吸気管1内に流れ込むことになるため、EGRパイプ6の軸心6aを環状スリット7の中間位置Pに合わせて配置していた時に生じていたような渦流が環状スリット7への流入時に形成されなくなり、EGRパイプ6からの排気ガス5が吸気管1に吸い込まれ易くなって高い吸引作用が得られ、同じ量の排気ガス5を従来よりも少ない差圧で再循環させることが可能となる。
【0026】
事実、
図3に検証結果をグラフで示している通り、EGRパイプ6の軸心6aを環状スリット7の中間位置Pに合わせて配置した「オフセットなし」の例において、所定量の排気ガス5を再循環するのに必要であった圧力に対し、EGRパイプ6の軸心6aを環状スリット7の中間位置Pより縮径部8側へ5mmオフセットして配置した「5mmオフセット」の例では、同じ量の排気ガス5を再循環するのに必要な圧力が大幅に低減されることが本発明者により確かめられている。
【0027】
従って、上記形態例によれば、従来よりも少ない差圧で必要な排気ガス5の再循環量を確保することができるので、エンジンの回転数が高い運転領域等でターボチャージャを制御して強制的に排気圧力を上げる措置の度合を従来よりも軽減することができ、これによりポンピングロスを減少させて燃費の向上を図ることができる。
【0028】
また、本形態例においては、ベンチュリ部3の縮径部8の終端に対し拡張部9の始端を半径方向外側にずらして段差を形成したことにより、ベンチュリ部3の最小内径部位置(縮径部8の終端位置)よりも下流側(拡張部9側)に生じる負圧部を環状スリット7の内部に入り込み易くして更に高い吸引作用を得ることができるので、エンジンの回転数が高い運転領域等でターボチャージャを制御して強制的に排気圧力を上げる措置の度合を更に軽減することができ、これによりポンピングロスを減少させてより一層の燃費の向上を図ることができる。
【0029】
更に、環状スリット7の最下レベルより低い環状チャンバ4の領域を前記環状スリット7の最下レベルまで底上げして形成したことにより、排気側から吸気2側へ再循環される排気ガス5が結露して凝縮水が生じても、その凝縮水が環状チャンバ4内に大量に溜まってしまう事態を未然に防止することができ、これによって、排気ガス5の凝縮水が何らかの拍子で大量にエンジン側に導かれて該エンジンを損傷してしまったり、その溜まり部に凝縮水が濃縮されながら溜まり続けることで腐食が生じてしまったりする虞れを未然に防止することができる。
【0030】
尚、本発明のEGRガス混合装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 吸気管
3 ベンチュリ部
4 環状チャンバ
5 排気ガス
6 EGRパイプ
6a EGRパイプの軸心
7 環状スリット
8 縮径部
9 拡張部
P 環状スリットの中間位置