特許第6211260号(P6211260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211260
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】冠形保持器および玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20171002BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20171002BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   F16C33/41
   F16C33/44
   F16C19/06
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-252355(P2012-252355)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101899(P2014-101899A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100101616
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 吉之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克明
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−74962(JP,A)
【文献】 特開2009−299705(JP,A)
【文献】 特開2007−146896(JP,A)
【文献】 特開2005−61509(JP,A)
【文献】 特開2001−82486(JP,A)
【文献】 特開2012−180886(JP,A)
【文献】 特開2008−190663(JP,A)
【文献】 実開昭54−156042(JP,U)
【文献】 特開2005−133893(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/067852(WO,A1)
【文献】 特開2012−177387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の基部と、保持器半径方向に貫通するとともに保持器軸方向の一方側に開口を有し、それぞれに玉が組み込まれる複数のポケットと、各ポケットの前記開口の円周方向両側に位置し、内周面が前記ポケットを形成する一対のつのとを有する冠形保持器において、
前記つのの内周面を含む前記ポケットの内周面は、保持器半径方向の内側に位置する球面状部分と、保持器半径方向の外側に位置する円筒状部分とからなり、前記球面状部分および円筒状部分の各内径は玉径よりも大きい、冠形保持器。
【請求項2】
前記保持器はダイカストにより成形した成形保持器である請求項1の冠形保持器。
【請求項3】
前記保持器の材料はマグネシウム合金、アルミニウム合金および亜鉛合金からなる群から選択した一つである請求項2の冠形保持器。
【請求項4】
dmn値が60万を超える玉軸受に使用する請求項1、2、または3の冠形保持器。
【請求項5】
トランスミッション用の玉軸受に使用する請求項1〜4のいずれか1項の冠形保持器。
【請求項6】
外周に軌道を有する内輪と、内輪に軌道を有する外輪と、内輪の軌道と外輪の軌道との間に介在させた複数の玉と、玉を円周方向で所定間隔に保持する請求項1〜5のいずれか1項に記載の冠形保持器とを有する玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は玉軸受に用いる冠形保持器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS 0104−1991転がり軸受用語によれば、冠形保持器とは、弾性変形によって転動体と保持器とを組み合わせることができる形のつのをもった保持器と定義される。環状の基部に軸方向に突出した複数のつのを配した外観形状に名称の由来がある。また、冠形保持器は、射出成形、ダイカスト、焼結などで成形した保持器すなわち成形保持器に属する。
【0003】
玉軸受は、転動体として玉を用いる転がり軸受であって、図2に示すように、外周に軌道12を有する内輪10と、内周に軌道16を有する外輪14と、内輪10の軌道12と外輪14の軌道16との間に介在させた複数の玉18と、玉18を円周方向で所定間隔に保持するための保持器20とを主要な構成要素としている。なお、潤滑剤やシールその他の付属品は図示を省略した。
【0004】
内輪10と外輪14はリング状で、同心円状の内輪10と外輪14との間に玉18を介在させることにより、玉18は内輪10の軌道12および外輪14の軌道16上を転動することができ、内輪10と外輪14は相対回転自在となる。内輪10および外輪14のいずれか一方を静止側とし、他方を回転側とする。通常、内輪10を回転軸に取り付け、外輪14をハウジングに取り付ける。
【0005】
自動車のトランスミッションには深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受など各種の玉軸受が使用されている。電動車両やハイブリッド車両においては高速のモータ回転が入力されるため、回転軸などの回転部分は高回転となる傾向にある(特許文献1の段落0006参照)。その結果、従来の保持器材質であるPA46(ポリアミド46)やPA66(ポリアミド66)といったPA(ポリアミド)では高速回転に伴う遠心力による変形に対応できないため、機械的強度の高いPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いて対応しているのが現状である(特許文献1の段落0032参照)。たとえば、dmn値{dm(玉列の平均直径(mm))とn(玉軸受の回転速度(min-1))との積}が60万を超える高速回転で使用する場合、保持器材質にPEEKなどの機械的強度の高い高機能樹脂を用いることで遠心力による保持器変形を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−314561号公報
【特許文献2】特開2011−074962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PEEKは高機能樹脂であり、電動車両やハイブリッド車両といった高速回転環境下で使用する軸受の保持器材料としては適している。そして、PEEK材の機能を更に高める方法としてアニール処理が知られている。アニール処理を施すことで分子間の融合を更に高めることができる。しかしながら、そのためには高度な製造技術が必要になるという問題がある。すなわち、PEEK材の機能を最大限引き出すにはアニール処理を施す必要があるが、電動車両やハイブリッド車両に使用される大径軸受の場合、保持器自身も大径で、径の割に薄肉となるため、保持器の反りが発生する。そのため、保持器製造ではPEEK材の流動性を考慮した高度な設計とアニール処理が必要となる。
【0008】
また、樹脂製の冠形保持器では、図3および図4に示すように、ポケット入り口径(一対のつの26の離間距離)aを玉径dwよりも小さく設定してある(a<dw)。そして、樹脂材の弾性を利用して、一対のつの26を弾性的に拡開させて玉をポケット24に組み込むようにしている。しかし、PEEKのように機械的強度の高い保持器材料で従来保持器と同一形状、寸法にすると、玉18を組み込むときに保持器20にクラックが発生するという点が懸念される。
【0009】
なお、玉の組込みに関しては、内輪10、外輪14、玉18を組み付けた後、保持器20のつの26側を玉18に向けて軸方向に移動させる。そうすることにより、玉18が一対のつの26を弾性的に押し広げてポケット24に進入する(スナップイン)。このように、実際の組立の過程では保持器を玉に向けて移動させるものであるところ、ここでは、説明の便宜上、玉を保持器に組み込むと表現する。
【0010】
この発明の主要な目的は、クラックを発生させることなく玉を組み込むことができる玉軸受用冠形保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、従来球面状であったポケット24の内周面を、保持器半径方向の内側に位置する球面状部分28と、保持器半径方向の外側に位置する円筒状部分30とで構成し、円筒状部分30の内径φD2を玉18の径φdwよりも大きくすることによって課題を解決した。
【0012】
すなわち、この発明の冠形保持器20は、環状の基部22と、保持器半径方向に貫通するとともに保持器軸方向の一方側に開口を有し、それぞれに玉が組み込まれる複数のポケット24と、各ポケット24の前記開口の円周方向両側に位置し、内周面が前記ポケットを形成する一対のつの26とを有し、前記つのの内周面を含む前記ポケット24の内周面は、保持器半径方向の内側に位置する球面状部分28と、保持器半径方向の外側に位置する円筒状部分30とからなり、前記球面状部分30および円筒状部分の各内径は玉径dwよりも大きいことを特徴とする。
【0013】
ポケット24の保持器半径方向の外側に位置する円筒状部分30の内径φD2を玉径φdwよりも大きくすることにより、ポケット24に玉18を組み込むとき、保持器20が玉18に拘束されることなく内径側へ倒れ込み、玉18をポケット24の内経φD2の大きい側からの進入を許容する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、冠形保持器20のポケット24に玉18を組み込むとき、一対のつの26を無理に拡径することがないため、保持器20にクラックその他の損傷を与える心配がない。したがって、また、玉18の組み込み作業が容易である。
【0015】
このように、玉18の組込みによって保持器20に損傷を与える心配がないため、PEEKと同等以上の機械的強度を有する材料を採用することができる。そこで、保持器材質をPEEKからダイカスト製品にすることで、PEEKと同等以上の機械的強度を確保することができる。ダイカスト用合金としては、マグネシウム合金、アルミニウム合金、亜鉛合金といった周知のもののなかから任意に選択して採用することができる。
【0016】
しかも、ダイカスト製品であれば、PEEK材を用いる場合に必要となるほどの高度な製造技術を要することなく同機能の保持器を製造することができる。さらに、ダイカストで対応できるため、生産性が高く、コスト面でも効果が期待できる。
したがって、この発明の冠形保持器は、dmn値が60万を超える高速回転下でもPEEK材と同等の機械的強度を有し、軸受の円滑な回転を阻害する保持器変形は発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)(B)は実施例の保持器を示し、(A)は部分展開平面図、(B)は断面図である。
図2】玉軸受の断面図である。
図3】従来の技術を示す保持器の斜視図である。
図4】(A)は図3の保持器の展開平面図、(B)は断面図である。
図5】保持器材料の特性を一覧にして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
なお、図2〜4を参照してすでに説明した従来の冠形保持器と同じ部分または部品には同じ符号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
図1に冠形保持器20の実施例を示す。冠形保持器20の全体外観は、図4に示した従来の冠形保持器と類似しており、環状基部22と、複数のポケット24と、各ポケット24の開口部から保持器軸方向に突出した一対のつの26とを備えている。また、図1(A)から分かるように、ポケット24は保持器20の軸方向の一方に向かって開口している。なお、図1(A)は保持器20の部分展開平面図であって、同図の上下方向が保持器軸方向にあたる。一対のつの26の離間距離すなわちポケット入り口径aは、玉径dwよりも小さく設定してある(a<dw)。
しかし、次に述べるように、図4の冠形保持器とはポケット24の内周面形状が異なる。
【0020】
図1(A)のポケット24の中心を通る断面を示した図1(B)から分かるように、ポケット24は保持器20を半径方向に貫通している。そして、各ポケット24の内周面は、保持器半径方向の内側に位置する球面状部分28と、保持器半径方向の外側に位置する円筒状部分30とからなる。球面状部分28は従来の冠形保持器における球面状のポケット24の一部分に相当し、その内径は玉径dwよりもわずかに大きい程度である。球面状部分38の保持器半径方向の内側端部は、玉径dwよりも小さい内径φD1の開口となっている。
【0021】
円筒状部分30の内径φD2は玉径dwよりもわずかに大きい。このように、ポケット24の保持器外径側の内径φD2を玉径dwよりも大きくすることで、ポケット24に玉18を組み込むとき、図1(B)に破線矢印で示すように、保持器20が玉18に拘束されることなく内径側へ倒れ込む。すなわち、軸受を組み立てる過程で、内輪10と外輪14と玉18を組み立てた状態で、ポケット24の開口の位相を玉18に合わせて、保持器20を玉18に向けて軸方向に移動させると、玉18はポケット24の内径が大きい方(φD1<φD2)からポケット24内に進入しようとするが、玉18は内輪10と外輪14で半径方向に拘束されているため、結局、保持器20が内径側に倒れることとなる。なお、図1(B)は玉18の組み込みが完了した状態を示しているため、保持器20の倒れ(弾性変形)はすでに復元している。このようにして、玉18の組込みが容易となるため、保持器20にクラック等の損傷を与えることなく玉18の組込みを行うことができる。
【0022】
保持器20はダイカストにより製造する。ダイカスト用合金としては各種の非鉄合金が知られている。たとえば、JISに規定されている亜鉛合金ダイカスト(JIS H 5301)、アルミニウム合金ダイカスト(JIS H 5302)、マグネシウム合金ダイカスト(JIS H 5303)のほか、銅合金、鉛合金、錫合金なども使われている。図5に示すとおり、保持器材質をPEEKからダイカスト製品に変更しても、PEEKと同等以上の機械的強度を確保することができる。また、製造面でも、ダイカストのため生産性は高い。
【0023】
上記冠形保持器を使用した玉軸受は、従来PEEK製の冠形保持器が使用されていた、dmn値が60万を超える高速回転用途に適用することができる。そのような用途としては、たとえば、トランスミッションのギヤ支持用の玉軸受を挙げることができる。
【0024】
この発明の実施の形態を図面に例示した実施例に即して説明したが、この発明は、特許請求の範囲に悖ることなく、種々の改変を加えて実施をすることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 内輪
12 軌道
14 外輪
16 軌道
18 玉
20 保持器
22 環状基部
24 ポケット
26 つの
28 球面状部分
30 円筒状部分
図1
図2
図3
図4
図5