【実施例】
【0030】
本発明の導水パネルの構造とその製造方法について
図1及び
図2を用いて説明し、本発明の導水パネルを用いたトンネル内の氷柱防止方法について
図3及び
図4を用いて説明する。なお、
図1(b)では、パネル本体2のハッチングを省略している。
図1(a)に示すように、導水パネル1は、平面視矩形状をなすパネル本体2と、長尺帯状の金属箔ヒータ3と、この金属箔ヒータ3とともにパネル本体2に埋設される厚さ0.3mmのアルミニウム板からなる伝熱板4と、金属箔ヒータ3に接続される導線5と、パネル本体2の両面にそれぞれ接合される断熱材6及び緩衝材7からなる。なお、緩衝材7は、トンネルの内壁面に導水パネル1を設置する際に、内壁面とパネル本地2との隙間を埋めるためのものである。また、断熱材6には、導線5を内部に配置するための溝(図示せず)が長手方向に沿って形成されている。
【0031】
パネル本体2は厚さ3mmの繊維強化樹脂製の平板材で柔軟性を有しており、平面視して縦が2〜3m、横が0.3〜1.0mの矩形状をなしている。そして、幅方向の両端が同一方向へ曲折されるようにして、平面部2aの両端に曲折部2b,2bを介して取付部2c,2cがそれぞれ設けられている。なお、取付部2c,2cは平面部2aと略平行をなすように曲折部2b,2bから外側へ曲折され、互いの側面をトンネルの内壁面に対して同時に当接可能な構造となっている。また、曲折部2bの表面近傍には熱電対8の先端部8aが配置されるとともに、平面部2aの表面には先端部9aを接触させた状態で熱電対9が設置されており、熱電対8,9にはそれぞれ導線10,11が接続されている。
そして、
図1(b)に示すように、パネル本体2の高さと幅は、それぞれ30mm程度及び300〜1000mm程度となっている。
【0032】
図1(c)に示すように、金属箔ヒータ3は、厚さ30〜60μmで、幅3〜30mmのステンレス製の金属箔と、この金属箔を被覆する厚さ0.1mmのフィルム状の電気絶縁材12からなる。なお、電気絶縁材12は、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂、シリコン、合成ゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂等によって形成される。また、金属箔ヒータ3はアルミ箔テープ13で伝熱板4に貼り付けられた状態でパネル本体2の平面部2aに埋設されている。
【0033】
このような構造の導水パネル1は、金属箔ヒータ3が、剛性の高い繊維強化樹脂製のパネル本体2に埋設されており、破損等による故障のおそれがないため、耐用年数が長く、経済的である。また、電気絶縁材12及びパネル本体2は、漏水等の金属箔ヒータ
3への接触を阻み、短絡事故の発生を防ぐという作用を有する。さらに、断熱材6がパネル本体2の外側への熱移動を妨げ、伝熱板4が金属箔ヒータ3の発した熱を広範囲に拡散するという作用を有する。したがって、トンネルの内壁面の漏水箇所に設置した場合、後述するように内壁面とパネル本体2との間を流れる漏水を、金属箔ヒータ3の発熱により、消費電力を抑えて効率良く温めることができる。
加えて、金属箔ヒータ3は厚さや幅を変えることで断面積が変わることから、線状ヒータとは異なり、長さを自由に変更できない場合でも容易かつ正確に電気抵抗値を調節できるという特性を有している。そして、導水パネル1は、このような特性を備えた金属箔ヒータ3を熱源として用いていることから、パネル本体2の隅々まで配置する必要がある等の理由から金属箔ヒータ3の長さが予め決められている場合でも厚さや幅を変えることで所望の発熱量が得られるという作用を有する。すなわち、導水パネル1においては、所望の発熱性能を維持しつつ、パネル本体2の長手方向及び幅方向に対し隅々まで行き渡るように金属箔ヒータ3を配置することが可能である。
【0034】
本実施例では平面部2aの両端に曲折部2b,2b及び取付部2c,2cがそれぞれ設けられているが、本発明の導水パネルは、このような形状に限定されるものではなく、例えば、断面視略円弧状をなす形状のように、平面部2aや曲折部2b、2bを設けなくとも良い。なお、この場合でも、幅方向の両端には、トンネルの内壁面に対して当接可能に取付部を設けることが必要である。
また、パネル本体2や断熱材6や緩衝材7の寸法は、本実施例に示した場合に限らず、適宜変更可能である。ただし、柔軟性を確保するため、パネル本体2の厚さは5mm以下にすることが望ましい。さらに、金属箔ヒータ3は曲折部2bに埋設されていても良いし、熱電対の本数や設置箇所も適宜変更可能である。そして、アルミニウム板の代わりに、熱伝導性の高い塗装を施した板や他の金属板を伝熱板4として用いることもできる。
【0035】
次に、導水パネル1の製造方法について
図2を用いて説明する。
まず、ステップS1において、金属箔ヒータ3をパネル本体2の長手方向両端近傍で複数回折り返し、かつ、互いに重ならないように伝熱板4の表面に配置する(
図1(a)参照)。さらに、金属箔ヒータ3を間に挟んだ状態で、幅50mm、厚さ0.1mmのアルミ箔テープ13を金属板4に貼り付ける。
次に、ステップS2では、幅方向の両端が同一方向へ曲折されるように形成された型枠(図示せず)の上にガラスクロス(図示せず)を布設し、ステップS3では、ガラスクロスの表面にローラ等の塗装治具を用いて不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を塗布する。なお、供給電力を制御することで金属箔ヒータ3の発熱量を調節できるため、パネル本体2は熱硬化性樹脂の耐熱温度を超えない範囲で安全に使用することができる。ただし、使用する熱硬化性樹脂は難燃性を有することが望ましい。
【0036】
ステップS4〜ステップS6では、熱硬化性樹脂が硬化する前にガラスクロスの上に、金属箔ヒータ3及び金属板4と熱電対8の先端部8a以外の部分を間に挟むようにして別のガラスクロスを布設し、このガラスクロスにも同様に熱硬化性樹脂を塗布する。なお、ガラスクロスに熱硬化性樹脂を塗布する作業は、ガラスクロス内に含まれる空気が完全に外部へ放出されるように、ローラで十分に加圧しながら行う。
そして、ステップS7では、この状態のまま、25℃の温度条件で30分放置して熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、金属箔ヒータ3、金属板4及び熱電対8が埋設された繊維強化樹脂からなるパネル本体2が形成される。
【0037】
このような方法によれば、金属箔ヒータ3を間に挟んだ状態で、既に硬化した2種類の繊維強化樹脂層を接合する場合と異なり、金属箔ヒータ3と繊維強化樹脂層の間に空気が混入するおそれがないため、熱効率の高い導水パネル1を製造することができる。また、2種類の繊維強化樹脂層の厚さを個々に管理せずとも、パネル本体2の厚さ方向の中央となる位置に、金属箔ヒータ3が伝熱板4とともに埋設された導水パネル1が容易に製造されるため、製造コストを安く抑えることができる。
さらに、第一のガラスクロスと熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂層を形成する際に、同時に取付部2c,2cが形成されるため、第二の繊維強化樹脂層は、取付部2c,2cを設けるために必要な形状とすべきことを特に気にすることなく、第一の繊維強化樹脂層の表面に布設した第二のガラスクロスに熱硬化性樹脂を含侵させるだけで良い。すなわち、簡単な作業で第二の繊維強化樹脂層が形成されるため、導水パネル1を安価に製造することができる。
なお、本実施例では、第二の繊維強化樹脂層を第一の繊維強化樹脂層と略同一形状としているが、金属箔ヒータ3と伝熱板4が露出しなければ良いため、第一の繊維強化樹脂層の表面の少なくとも一部に布設した第二のガラスクロスに熱硬化性樹脂を含侵させるようにして第二の繊維強化樹脂層を形成しても良い。
また、本実施例では、熱硬化性樹脂を含浸させる繊維シートとしてガラスクロスを用いているが、これに限らず、例えば、カーボンクロスを用いることもできる。
【0038】
ステップS8では、耐水性及び耐熱性を有するポリイミド樹脂製のテープ等を用い、熱電対9を平面部2aの表面に対し、金属箔ヒータ3に先端部9aをできるだけ近づけた状態で固定する。さらに、ステップS9では、厚さが20〜30mmの発泡スチロール製の板材にポリウレタン樹脂を吹き付けて表面をコーティングし、これを断熱材6としてパネル本体2の外面に接着する。そして、ステップS10では、厚さ5〜10mm、幅25〜30mmのエチレンプロピレンゴムを緩衝材7として、パネル本体2の取り付け部2cの内面に接着する。
【0039】
導水パネル1をトンネル内に設置する方法について
図3を用いて説明する。
図3(a)に示すように、トンネル14の壁面15の一部に生じた亀裂16は、地下水等の漏出を招き、氷柱の原因となり易い。そこで、例えば、亀裂16として示された箇所、すなわち、既に漏水が発生し、若しくは、これから漏水が発生しそうな箇所を覆うように導水パネル1を設置する。
具体的には、導水パネル1の長手方向を壁面15の円周方向に一致させ、1つの導水パネル1の下端の一部に対し、他の導水パネル1の上端の一部を被せるようにしながら、壁面15の円周方向に沿って複数枚の導水パネル1を、最後の導水パネル1の下端が路面19の両脇に設けられた側溝17の近傍に達するまで順次設置する。
【0040】
このとき、導水パネル1と壁面15で囲まれた空間は、漏水の流路となる。すなわち、連続した状態に設置された複数枚の導水パネル1は、パネル本体2と壁面15との間に漏水の流路を形成し、この流路により漏水を壁面15の円周方向へ沿って亀裂16から側溝17へ誘導するという作用を有する。
また、繊維強化性樹脂の板材からなるパネル本体2は柔軟性を有するため、トンネル14の壁面15の形状に沿って容易に変形する。そのため、壁面15に取り付ける際に、パネル本体2の取付部2cとの間に隙間が生じ難い。従って、パネル本体2の曲折部2bと平面部2aで形成される流路内の空間で温められた空気は逃げることなく漏水や壁面15を加温して、その流路に漏水を導くことができるのである。
すなわち、金属箔ヒータ3の発熱により温められた漏水は、凍結することなく、速やかに側溝17へ誘導される。したがって、導水パネル1を用いることによれば、トンネル14の壁面15からの漏水による氷柱の発生を確実に防止することができる。
【0041】
さらに、繊維強化樹脂製のパネル本体2は薄肉軽量構造であって嵩張らないため、運搬や保管が容易である。また、トンネル14の壁面15にボルト等を用いて固定できるため、設置作業や撤去作業が容易である。したがって、施工費用を削減し、施工期間を大幅に短縮するとともに、点検や交換等の保守作業を効率良く行うことができる。
また、漏水箇所が点在する場合でも、導水パネル1は、従来技術のヒートパイプとは異なり、その箇所のみに設置すれば良いため、無駄な施工費用等が発生しない。加えて、全体の消費電力を抑えつつ、漏水が集中する箇所に設置された導水パネル1の発熱量を多くするなどして、氷柱の発生を効率良く防止することが可能である。さらに、新たに発見された漏水箇所に追加で導水パネル1を設置する際にも、設置済みの導水パネル1が邪魔になることはないため、設置作業を効率良く行うことができる。
【0042】
図3(b)に示すように、各導水パネル1の導線5は、トンネル14の出入口である開口部14aの付近に設置された電源制御部18を介して、発電機や太陽電池などの給電手段(図示せず)に接続されている。また、導水パネル1の下端から路面19の近傍に達した導線5は、電源制御部18に一端が接続された給電線20に接続されている。そして、電源制御部18は、壁面15の亀裂16からの漏水によって形成された氷柱を成長させないために必要な最小限度の電力を、各導水パネル1の金属箔ヒータ3に対して供給すべく、給電設備の出力をフィードバック制御している。すなわち、電源制御部18には、給電線20を流れる電流量を検出する電流検出手段(図示せず)が設置されている。
また、給電線20は給電線用ダクト21によって保護されている。さらに、熱電対8,9は導線10,11を介して温度検出部(図示せず)にそれぞれ接続されている。これにより、各導水パネル1では、漏水の流路となるパネル本体2の内側の空間の気温及び金属箔ヒータ3の温度をそれぞれ測定可能となっている。
【0043】
トンネル14の壁面15の円周方向に対して長手方向を一致させた状態で一列に配置された複数の導水パネル1からなるパネルユニット22は、
図4(a)に示すように、上下間で互いの導線5がそれぞれ接続され、給電線20に対し全体として直列に接続されている。そして、
図4(b)に示すように、トンネル14の壁面15に設置された導水パネル1に接続される導線5は、パネルユニット22ごとに給電線20を介して給電手段(図示せず)に対してそれぞれ並列接続されている。
【0044】
前述したように断熱材6には導線5を内部に配置可能な溝が形成されており、上流側(給電線20から遠い側)の導水パネル1の金属箔ヒータ3に接続された導線5は、下流側(給電線20に近い側)に配置された導水パネル1の断熱材6の溝の内部に配置されている。この場合、下流側のパネル本体2と断熱材6によって、上流側の導水パネル1の導線5が保護される。また、漏水していない箇所には、金属箔ヒータ3を備えていない導水パネルが設置されるため、通常、パネルユニット22には、導水パネル1以外に、金属箔ヒータ3を備えていない導水パネルが含まれる。すなわち、この導水パネルは、漏水の流路を形成するためだけに使用される。
なお、本実施例では、断熱材6に溝を設けて、その内部に導線5を配置しているが、導線5に防水対策が施されている場合には、このような構造に限らず、例えば、導線5をパネル本体2とトンネル14の壁面15との間に配置しても良い。
【0045】
このような構成によれば、導水パネル1を設置する際は、導線5を給電線20に接続し、導水パネル1を撤去する際は、給電線20との接続を解除して導線5を取り外すだけで良いため、導水パネル1を追加で設置する場合や導水パネル1を交換する場合の作業性に優れている。したがって、導水パネル1の設置や交換等の作業を短期間で安価に行うことができる。
また、各導水パネル1の金属箔ヒータ3の電気抵抗値を変更することで、パネルユニット22ごとに導線5を流れる電流値が調節される。このように、本発明のトンネル内の氷柱防止方法においては、パネルユニット22ごとに金属箔ヒータ33の発熱量を管理できるため、設計時の自由度が大きい。
【0046】
すなわち、本発明の方法によれば、外気の影響を受け易いトンネル14の開口端14aに近いパネルユニット22ほど、導線5に流れる電流値を大きくして金属箔ヒータ3からの発熱を増加させることも可能である。そして、予めパネルユニット22ごとに導線5に流れる電流量が異なるように設計しておけば、電流検出手段によって検出される給電線20の電流量に基づいて、パネルユニット22の通電状態を把握することができる。これにより、点検等の保守作業に要する費用が削減される。
【0047】
また、例えば、s個のパネルユニット22において、トンネル14の開口端14aに近い側から数えてk番目のパネルユニット22について、金属箔ヒータ3の電気抵抗値を調節することで、その導線5の電流値I
kが式(1)で表わされるような状態にすることができる。このとき、n番目とm番目のパネルユニット22において導線5が断線したと仮定すると、電源制御部18において検出される給電線20の電流値の減少量I
dは式(2)及び式(3)で表わされる。
【0048】
【数1】
【0049】
【数2】
【0050】
【数3】
【0051】
式(2)において、aとbは既知であるため、電流値の減少量I
dから直ちに、Xが求められる。そして、式(3)に示すように、Xは2のべき乗の和で表わされることから、2進数表記に直すことにより、容易にmとnの値が特定される。
なお、aとbは、この例に示す場合に限らず、電流検出手段の検出能力を考慮した上で、パネルユニット22の導線5に正常時に流れる電流の最大値と最小値に基づいて、所望の値に設定することが可能である。また、導線5が断線したパネルユニット22は2箇所以外でも同様にその箇所を容易に特定することが可能である。
【0052】
次に、5箇所のパネルユニット22のうち、いくつかの箇所において導線5が断線した場合について、表1を用いて説明する。ただし、パネルユニット22の導線5に正常時に流れる電流の最大値と最小値はそれぞれ100mA及び65mAであり、aとbはそれぞれ100及び−1とする。
このとき、各パネルユニット22の導線5に正常時に流れる電流値を表1の2行目に示す。今仮に、2番目と4番目と5番目のパネルユニット22において導線5が断線していると仮定すると、電源制御部18において検出される電流値の減少量I
dは248mAとなる。
【0053】
【表1】
【0054】
まず、I
dより大きく、かつ、I
dに最も近いaの整数倍の値は300であることから、I
dから300を引いてbで割ることにより、Xの値が求められる。次に、このXの値(52)を2進数で表わすと(110100)となるが、この2進数は、表1の4行目に示すように、導線5が断線したパネルユニット22の位置(トンネル14の開口端14aに近い側から数えて何番目であるか)を示す列に、「1」を記入したものと一致することがわかる(ただし、1桁目を除く)。
次に、3番目と5番目のパネルユニット22において導線5が断線した場合を想定すると、上記と同様の方法で求めた2進数(101000)は、表1の5行目に示すように、導線5が断線したパネルユニット22を示す列に、「1」を記入したものと一致することがわかる(ただし、1桁目を除く)。
すなわち、このような方法によれば、電源制御部18において検出される電流値の減少量I
dに基づいて、導線5が断線した導水パネル1が含まれるパネルユニット22を容易に特定することができる。
なお、本実施例では、トンネル14の開口端14aに近いパネルユニット22ほど導線5を流れる電流量が多くなるように設定しているが、これに限らず、例えば、開口端14aに近くなくとも漏水が集中している箇所に設置されたパネルユニット22については導線5を流れる電流量が多くなるように設定することもできる。この場合、各パネルユニット22にそれぞれ識別番号を付して、識別番号がkのパネルユニット22について、その導線5の電流値I
kが式(1)で表わされるような状態に金属箔ヒータ3の電気抵抗値を調節することによれば、電流値の減少量I
dに基づいて、導線5が断線した導水パネル1が含まれるパネルユニット22を容易に特定できるという上述の効果が同様に発揮される。
【0055】
本実施例の導水パネル1の試作品を製作し、氷柱に模した氷を融解させる実験を行った結果について
図5及び
図6を用いて説明する。
図5(a)及び
図5(b)はそれぞれ導水パネル1の実験装置を示す平面図及び側面図であり、
図5(c)は
図5(b)におけるC−C線矢視断面図である。なお、
図1に示した構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5(a)乃至
図5(c)に示すように、実験装置23は、トンネル14の壁面15を想定した平板24に導水パネル1が取り付けられ、この導水パネル1が支持台25によって断熱材6を下に向けて傾斜状態で支持された構造となっている。また、パネル本体2と平板24の間に形成される空間(以下、導水パネル1の内側の空間という。)に設置されたファイバースコープ26には制御部28が接続されている。
【0056】
平板24は2枚の部材が貼り合わされた構造であり、中央部には直径30mm程度の貫通孔24aが設けられている。そして、平板24の上面には、貫通孔24aを塞ぐように氷塊27が載置されている。また、金属箔ヒータ3は、厚さ60μm、幅6mmのステンレス箔がポリエチレンフィルムにラミネートされた構造であり、1回折り返された状態で伝熱板4とともにパネル本体2に埋設されている。そして、導線5,5には、金属箔ヒータ3に所定の電力を供給するための直流電源29が接続されている。
このように、実験装置23では、氷塊27の一部が溶けて貫通孔24aを通って平板24の下面側に滲み出した後、再び凍結することにより形成された氷柱27aの融解する様子が、ファイバースコープ26を通して観察され、金属箔ヒータ3の近傍の温度と、導水パネル1の内側の空間の気温が、熱電対8,9によって検出可能となっている。
【0057】
図6は、実験装置23を冷凍室に設置し、金属箔ヒータ3に供給する電力と冷凍室の室温を変えた場合の氷柱24aの溶解状態を示す写真である。
図6(a)及び
図6(b)は室温が−20℃、金属箔ヒータ3への供給電力が70%の場合であり、
図6(c)及び
図6(d)は室温が−20℃、金属箔ヒータ3への供給電力が100%の場合であり、
図6(e)及び
図6(f)は室温が−10℃、金属箔ヒータ3への供給電力が70%の場合である。なお、金属箔ヒータ3への供給電力は93Wを100%としている。また、
図6(a)、
図6(c)及び
図6(e)は実験開始直後の氷柱24aの状態を示し、
図6(b)、
図6(d)及び
図6(f)は実験開始から60分後の氷柱24aの状態を示している。
図6(a)乃至
図6(d)を見ると、冷凍室の室温が−20℃の場合、金属箔ヒータ3への供給電力が100%であれば、氷柱24aが溶解するが、供給電力が70%のときには、氷柱24aがほとんど溶解しないことがわかる。一方、
図6(e)及び
図6(f)を見ると、冷凍室の室温が−10℃の場合には、金属箔ヒータ3への供給電力が70%のときでも、氷柱24aが溶解することがわかる。
【0058】
本発明の導水パネルについて、式(4)に示した熱伝導偏微分方程式に基づいて有限要素法による数値解析を行い、その温度分布を求めた結果について
図7乃至
図9を用いて説明する。
図7は本発明の導水パネルの数値解析に用いたモデルと解析条件及び数値解析により求めた温度分布を示す図である。
図8(a)は導水パネルの内側の空間における空気の最低温度及び最高温度に対する金属箔ヒータへの供給電力の影響を示したグラフであり、
図8(b)は導水パネルの内側の空間における空気の最低温度及び最高温度に対する断熱層の厚さの影響を示したグラフである。また、
図9(a)は導水パネルの内側の空間における空気の最低温度及び最高温度に対する伝熱板の厚さの影響を示したグラフであり、
図9(b)は導水パネルの内側の空間における空気の最低温度及び最高温度の時間的な変化を示したグラフである。なお、
図9(b)には比較のため、実験装置23を用いて行った実験結果も示している。
【0059】
【数4】
【0060】
図7に示すように、対称性により導水パネル1の右半分のみをモデル化し、トンネルの内壁面の温度を0℃、導水パネル1の断熱材6に接触する外気の温度を−20℃とした。また、断熱層の熱伝導率には、断熱材6として使用したポリウレタンの熱伝導率(0.03W/K/m)を用い、パネル本体2と伝熱板4の熱伝導率には、アルミニウムの熱伝導率(240W/K/m)を用いた。さらに、導水パネルの内側の空間の空気は自然対流を行うが、その影響を考慮して、この空気の熱伝導率を等価伝導率(0.074W/K/m)で置き換えた。そして、導水パネル1の端部より110mm及び220mmの箇所にそれぞれ配置された金属箔ヒータ3への供給電力を40W/m
2とした。
【0061】
図8(a)に示すように、金属箔ヒータ3を作動させない場合には、導水パネル1の内側の空間の気温が―7℃となり、漏水が凍結する可能性がある。また、この空間内の気温をいたるところで0℃以上とするには、金属箔ヒータ3への供給電力を32W/m
2にする必要があり、この気温をいたるところで2℃以上とするには、金属箔ヒータ3への供給電力を40W/m
2にする必要がある。したがって、幅1m、長さ2mの導水パネルであれば、金属箔ヒータ3への供給電力を80Wとし、給電設備の能力は、余裕を持たせて100Wとすれば良い。
通常、典型的な県道レベルのトンネルのように、片側一車線の対面通行となっている場合には、トンネルの内周は約16mである。また、トンネルの老朽度あるいは施工した山地の地質状況によって異なるが、トンネル1つあたり5〜50箇所程度で漏水が発生していると考えられる。この場合、漏水箇所ごとに導水パネル1を一枚ずつ割り当てるとしても、それらの金属箔ヒータ3に供給すべき電力の合計は500〜5000W程度で良いため、一般的な給電設備で十分対応可能である。
【0062】
図8(b)を見ると、導水パネル1の内側の空間の気温をいたるところで2℃以上とするには、断熱材6の厚さを25mm以上とすれば良いことがわかる。また、
図9(a)を見ると、導水パネル1の内側の空間の気温をいたるところで2℃以上とするには、伝熱板4の厚さを0.3mm以上とすれば良いことがわかる。
また、
図9(b)の「◇」及び「○」は、金属箔ヒータ3に93Wの電力を供給し、導水パネル1の内側の空間の気温を熱電対8,9で測定した結果を示しており、破線及び実線は、対応する箇所の温度を数値解析により求めた結果を示している。
図9(b)に示すように、実測値と計算値は、よく一致している。したがって、導水パネル1の内側の空間の気温を2℃以上とするには、金属箔ヒータ3に対して約40W/m
2の電力を供給する必要があるという前述の見積もりは、妥当であるといえる。
なお、トンネルの存在する寒冷地は、冬季であっても常に−20℃の強風にさらされているわけではないため、金属箔ヒータ3に対して、冬季中常時40W/m
2の電力を供給する必要はない。そこで、本発明の導水パネル1では、導水パネル1の内側の空間内の気温が約2℃以上となるように、電源制御部18が熱電対8,9の検出値に基づいてオンオフ制御又はPID制御を行い、金属箔ヒータ3へ供給する電力を調節している。