【文献】
社団法人 日本建築学会,「建築基礎構造設計指針」,日本,社団法人 日本建築学会,1990年 5月10日,第1版第4刷,P61-62,68-70,163-169
【文献】
村山弘樹、篠塚潤、奥野日出,スウェーデン式サウンディング試験による液状化地盤判定に関する基礎的研究,「地盤の環境・計測技術に関するシンポジウム2011」,日本,2011年11月11日,全文、全図
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の簡易法では、液状化危険度を判定することは可能であるが、必要な補強深度を設計することが困難である。詳細法は液状化危険度評価および必要な補強深度の設計が可能であるが、検討に要する費用が簡易法に比べて高額である。そのため、小規模建築物では、建築物全体の工費に対する地盤調査,土質試験に要する費用の割合が高くなりすぎ、地盤液状化の判定への適用が困難である。
【0005】
この発明の目的は、液状化の危険度が高い場合において、簡易な試験によってある程度精度良く必要な補強深度を求めることができる液状化を考慮した地盤補強深度の設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この液状化を考慮した地盤補強深度の設計方法は、地盤の液状化による対する安全率F
l値を用いて地盤の補強が必要な深さを設計する液状化考慮・地盤補強深度の設計方法で、
F
l=R/L …(式1)
ここで、R:液状化抵抗比
L:繰返しせん断応力比
とし、
前記液状化抵抗比Rを求める演算に用いるN値を、スウェーデン式サウンディング試験結果から得られる換算N値(N
SWS)から求めた値とし、
前記液状化抵抗比Rを求める演算に用いる土質を砂質土と仮定し、細粒分含有率に仮定値を用い、
前記繰返しせん断応力比Lは、地表面最大加速度αと地表面からの深さxを用いた換算式により求め、
前記繰返しせん断応力比Lの前記換算式で用いる土の単位体積重量に仮定値を用いる
ことを特徴とする。
なお、前記N値は、地盤の硬さを示す指標であり、標準貫入試験(SPT試験)において、一定力でパイプを300mm地中に貫入させるための打撃回数である。前記F
l値は抵抗率とも呼ばれる。
【0007】
この方法によると、基本的には詳細法であるFL法を用いるため、液状化危険度の判定だけでなく、液状化の発生する深度を確認することができる。FL法では、F
l値が1.0を下回る層については、液状化するものとみなす。
F
l値は、上記の(式1)で与えられるが、その計算に液状化抵抗比Rと、繰返しせん断応力比Lを求めることが必要である。
液状化抵抗比Rは、本来はN値を用いて計算される。このN値は標準貫入試験で求められる値であるが、スウェーデン式サウンディング試験により得られる換算N値(N
SWS)によると、前記N値に代わる値としてある程度精度良く見做せる値が得られる。そのため、前記N値の代わりに用いることで、標準貫入試験に比べて簡単なスウェーデン式サウンディング試験により、液状化抵抗比Rを精度良く求めることができる。
また、液状化抵抗比Rの計算には、この他に土質、細粒分含有率が必要であり、前記繰返しせん断応力比Lを求める前記換算式には、土の単位体積重量が必要である。これら土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量は、いずれも土質試験によって得られる値であるが、土質試験を実施しないこの発明方法から得られた必要補強深度を用いれば、液状化被害を免れる(建物の不同沈下量が6/1000未満)ことができることを実物件の調査結果から確認できた。
【0008】
このように、基本的にはFL法を用い、この方法を用いる場合の、地盤の補強必要深さの計算に必要な各値につき、N値にはスウェーデン式サウンディング試験により得られる値を用い、また土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量に仮定値を用いることで、地盤の補強深度を簡易な試験によって程度精度良く求めることができる。
【0009】
前記細粒分含有率は、10〜20%の範囲で適宜に設定した値とすれば良い。特に、10%と仮定することが好ましく、10%と仮定すれば、地盤の補強深度につき、実際に液状化被害を免れた実物件の補強深度に対して大きな誤差のない妥当な結果が得られた。
前記単位体積重量については、2.0tf/m
3と仮定することが好ましく、これにより、地盤の補強深度につき、実際に状化被害を免れた実物件の補強深度に対して大きな誤差のない妥当な結果が得られた。
【発明の効果】
【0010】
この発明の液状化を考慮した地盤補強深度の設計方法は、基本的にはFL法を用い、この方法を用いる場合の、地盤の補強の必要な深さの計算に必要な各値につき、N値にはスウェーデン式サウンディング試験により得られる値を用い、また土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量に仮定値を用いるため、地盤の補強深度を簡易な試験によってある程度精度良く求めることができる。そのため、小規模建築物の基礎工法の選定、補強深度の設計等を、簡易な試験によって適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一実施形態に係る液状化を考慮した地盤補強深度の設計方法を示す流れ図である。
【
図2】同設計方法に用いる地盤補強深度設計装置の概念構成のブロック図である。
【
図4】この液状化を考慮した地盤補強深度の設計方法による、細粒分含有率が5%の場合の必要補強深度の計算例を示すグラフである。
【
図5】同じく細粒分含有率が10%の場合の必要補強深度の計算例を示すグラフである。
【
図6】同じく細粒分含有率が15%の場合の必要補強深度の計算例を示すグラフである。
【
図7】同じく細粒分含有率が20%の場合の必要補強深度の計算例を示すグラフである。
【
図8】同じく細粒分含有率が30%の場合の必要補強深度の計算例を示すグラフである。
【
図9】補正N値と液状化抵抗、動的せん断ひずみの関係を示すグラフである。
【
図10A】必要補強深度検討方法の一例を示す測点1の図表である。
【
図10B】必要補強深度検討方法の一例を示す測点2〜4の図表である。
【
図11】同必要補強深度検討方法における深度とF
l値の関係を示すグラフである。
【
図12】必要補強深度検討方法の他の例を示す図表である。
【
図14】同必要補強深度検討方法における深度とF
l値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の一実施形態を説明する。この液状化考慮・地盤補強深度の設計方法は、概要を説明すると、基本的にはFL法を用い、この方法を用いる場合の、地盤の補強必要深さの計算に必要な各値につき、N値にはスウェーデン式サウンディング試験により得られる値を用い、また土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量等に仮定値を用いる方法である。
【0013】
FL法は、検討対象とする地盤に対する液状化対象層を抽出し、液状化対象層のそれぞれについて、液状化に対する抵抗力と地震力強さとを比較し、液状化に対する安全率(F
l値)を求める手法である。F
l値が1.0を下回る層については、液状化するものとみなす。
スウェーデン式サウンディング試験は、JIS規格にも定められているが、ロッドを地面に貫入して、その貫入抵抗を測定することで、地盤の強さである換算N値(N
SWS)を求めることができる試験である。
【0014】
このスウェーデン式サウンディング試験結果からFL法による液状化判定を実施する方法の要点を箇条書きする。
(1) 計算方法には、既存のFL法を用いる。
(2) 地震動の設計条件は、M=8.0、γn=0.7、α(max)=150gal 、
(3) 土質条件は全て砂質土、単位体積重量2.0tf/m
3、細粒分含有率10〜20%(標準10%)とする。
(4) 上記設定条件と簡易な地盤調査の結果から安全率であるF
l値を算定する。
(5) この判定を地盤の補強設計、基礎形式の選択に必要な調査箇所分だけ実施し、調査箇所別に必要補強深度を設定する。
(6) 必要補強深度は、深さ方向に安全率であるF
l値が1未満の層がなくなる深度までを標準とする。
【0015】
以下、この実施形態を図面と共に説明する。
図1のステップS1に示すように、地盤補強を検討する対象地盤につき、スウェーデン式サウンディング試験を行い、地盤の強さである換算N値(N
SWS)を求める。
この求めた換算N値(N
SWS)を
図2の地盤補強深度設計装置1に、その入力手段4から入力する(S2)。
【0016】
地盤補強深度設計装置1は、補強深度計算手段3によってFL法に基づく所定の計算式による計算を行い、F
l値が1以上となる最も浅い深さxを求め、地盤の補強が必要な深さである補強深度xとして出力手段5に出力する(S3)。
FL法では、N値、土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量等が必要であるが、この実施形態の設計方法,装置では、上記N値に、上記の入力された換算N値(N
SWS)から求めた値を用いる。また、土質は砂質と仮定し、細粒分含有率、土の単位体積重量、および他の必要な各値は、仮情報等設定手段2に設定された仮定値もしくは設定値を用い、または前記所定の計算式の式中に定数として設定しておいて用いる。ただし、地下水位は調査結果を用いる。
【0017】
この補強深度計算手段3によって計算された補強深度xを、出力手段5の画面等に出力する(S4)。
【0018】
図2において、地盤補強深度設計装置1は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータに、そのOS(オペレーションシステム)により実行可能なアプリケーションプログラムである地盤補強深度設計プログラム(図示せず)をインストールすることで、補強深度計算手段3および仮定情報等設定手段2を構成したものである。補強深度計算手段3は、以下に具体的に述べる計算方法で補強深度を計算する手段である。仮定情報等設定手段2は、上記のように、この地盤補強深度の設計方法で用いる各仮定値および設定値を記憶した手段である。入力手段4は、キーボード等のオペレータにより操作される手段、または記憶媒体やネットワーク等の通信手段から入力する手段である。出力手段5は、液晶表示装置等の画像を出力する表示装置、またはプリンタである。
【0019】
補強深度計算手段3による、
図1の補強深度の計算のステップS3につき、具体的に説明する。
FL法によるF
l値は、次の(式1)によって定められる。また、F
l値が1.0を下回る層については、液状化するものと見做す。
F
l=R/L …(式1)
ここで、R:液状化抵抗比
L:繰返しせん断応力比
そこで、補強深度の計算のステップS3では、前記F
l値が1以上となる最も浅い前記深さxを、地盤の補強が必要な深さとして計算する。
【0020】
上記液状化抵抗比Rは、以下の方法により与えられる。
図9中の臨界せん断ひずみ曲線5%を用いて、補正N値(Na)に対する飽和土層の液状化抵抗比R=τ
l/σ‘zを求める。ここにτ
lは、水平面における液状化抵抗である。
【0021】
上記のように、F
l値を求めるには液状化抵抗比Rの計算のためにN値が必要となる。このN値は、標準貫入試験によって求められる値であるが、この実施形態では、N値に替えて、スウェーデン式サウンディング試験により得られる換算N値(N
SWS)から求めた値を用いる。
この場合に、(N値)= 2×W
SW+0.067×N
SW
ここで、 W
SW:荷重(kN)
N
SW:1mあたりの半回転数(回)
とする。
なお、ここでいうN
SWとN
SWSは異なり、(N値=N
SWS)である。
【0022】
また、液状化抵抗比Rを求めるには、この他に、土質(砂質であるか礫質であるかの区別)と、細粒分含有率が必要となる。この実施形態では、土質については砂質であると仮定し、細粒分含有率は、10〜20%の範囲で適宜に設定した値とする。細粒分含有率は10%としても良い。
【0023】
上記繰返しせん断強度比Lの計算には、土の単位体積重量が必要であるが、この値は、2.0tf/m
3と仮定する。
【0024】
地震動の設定条件は、M(マグニチュード)=8.0、γn=0.7、a(地表面最大加速度)=150gal とする。
なお、
図3に示すように、地盤のマグニチュードMは、発生推定値である。γnは、等価な繰り返し回数に関する補正係数であり、γn=0.1×(M−1)である。地表面最大加速度αは、設計用水平加速度であり、設計者の設定値(検討地盤の地震の震度)である。地下水位の深さは、地盤調査または各種資料から求めた調査値を用いる。
上記のように仮定しまたは設定する各値を、仮定情報等設定手段2に設定しておく。
【0025】
必要補強深度xは、F
l値が1未満の層がなくなる深度までを標準とするが、一例を示すと、次のようにして必要補強深度xを求める。
図10〜
図14は、必要補強深度検討方法のパターンを示す。このうち、
図10A、
図10B、
図11は標準の場合、すなわち最下端の層の安全率F
lがF
l≧1の場合を示す(「パターンA」と称す)。
図12〜
図14は非標準の場合、すなわち、最下端の層の安全率F
lがF
l<1の場合を示す(「パターンB」と称す)。なお、
図12を測点別に拡大して
図13A〜
図13Cに示す。
【0026】
パターンA(標準の場合)では、上記手法でF
l値の判定を測点別に実施する(F
l≧1を「OK」、F
l<1を「NG」と判定)。各測点では、適宜定めた層厚の層ごとにF
l値の判定を行う。層厚は、この例では0.25mとしている。測点は、この例では4点とした。
このF
l値の判定結果を地表面から順に深度方向へ確認し、判定結果「NG」がなくなる深度の最も浅い深度(
図10A、
図10Bの太線枠内)を「必要補強深度」とする。
【0027】
パターンB(非標準の場合)においても、上記手法でF
l値の判定を測点別に実施すること(F
l≧1を「OK」、F
l<1を「NG」と判定)、及び、各測点では適宜定めた層厚の層ごとにF
l値の判定を行うについては、パターンAと同じである。測点は、この例では3点とした。
ただし、パターンBでは、F
l値の判定結果を地表面から順に深度方向へ確認し、判定結果「NG」が初めて「OK」に変わる深度(
図12、
図13A〜
図13Cの太線枠内)を「必要補強深度」とする。
なお、
図12の例の場合、測点2は、必要補強深度5.25mとなるが、最終判断としては、その他の測点を考慮し、必要補強深度は12.0mとなる。最終的には、設計者の判断に委ねている。
【0028】
この地盤補強深度の設計方法によると、基本的には詳細法であるFL法を用いるため、単に液状化危険度の判定だけでなく、地盤の液状化に対して補強が必要な深度xまで求めることができる。F
l値の計算には、標準貫入試験で求めるN値が必要であるが、このN値に代えて、スウェーデン式サウンディング試験により得られる値を用いるため、標準貫入試験に比べて簡単なスウェーデン式サウンディング試験により、F
l値をある程度と精度良く求めることができる。
また、F
l値の計算には、この他に土質、細粒分含有率、土の単位体積重量γが必要であり、これらはいずれも詳細な土質試験によって得られる値であるが、仮定値を用いるため、土質試験を行うことなく、F
l値を得ることができる。調査の結果、前記の各値につき、多くの地域では、前記各値につき、適切に仮定した値を用いることで、土質試験を実施しないこの発明方法から得られた必要補強深度を用いれば、液状化被害を免れる(建物の不同沈下量が6/1000未満)ことができることを実物件の調査結果から確認できた。
【0029】
このように、基本的にはFL法を用い、その計算に用いる各値につき、N値にはスウェーデン式サウンディング試験により得られる値を用い、また土質、細粒分含有率、および土の単位体積重量に仮定値を用いることで、地盤の補強深度を簡易なスウェーデン式サウンディング試験によって程度精度良く求めることができる。
【0030】
前記細粒分含有率は、10〜20%の範囲で仮定した場合、特に、10%と仮定した場合、地盤の補強深度につき、実際に土質検査を行った値を用いた場合に対して大きな誤差のない妥当な結果が得られた。また、単位体積重量については、2.0tf/m
3と仮定することにより、地盤の補強深度につき、土質試験を実施しないこの発明方法から得られた必要補強深度を用いれば、液状化被害を免れる(建物の不同沈下量が6/1000未満)ことができることを実物件の調査結果から確認できた。
【0031】
次に、この地盤補強深度の設計方法による判定結果の妥当性を、実物件の調査結果から確認する。この場合に、次の条件とした。
(1) 液状化被害を受けた地域において地盤補強工事を行い、かつ、建物の沈下量(最大傾斜角)が6/1000未満であった物件を抽出する(なお、後に掲載した表2の10物件は、このように抽出した物件)。
(2) 抽出した物件の補強深度とこの実施形態の手法で検討した必要補強深度とを比較する。
(3) 最適な土質状態(細粒分含有率)を設定する(10%を標準とした)。
【0032】
表1は、この実施形態の方法(スウェーデン式サウンディング試験結果によるFL法による判定例を示す。
【0034】
図4〜
図8は、各細粒分含有率の場合における、この実施形態の方法による必要補強深度の検討結果の例を示す。
【0035】
表2は、実物件の補強深度(実績)と、この実施形態の方法による細粒分含有率についての必要補強深度の判定結果の一覧を示す。
【表2】
【0036】
表2において、セル内をグレーとした例は、補強深度(実績)よりも+0.5m以上大きい例(過剰になっている例)である。その他の例は、いずれも補強深度(実績)に対して±0.5mの範囲であり、妥当な値となっている。特に、○印を施した例は、補強深度(実績)と同じ値となっている。
このように、この実施形態による地盤補強深度の設計方法によると、多くは補強深度(実績)に対して妥当な値となっており、残りは補強深度(実績)に対して過剰な値となっており、適切な地盤補強深度の設計が行えることが分かる。