(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211282
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、摩擦材及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 61/06 20060101AFI20171002BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20171002BHJP
C08J 5/14 20060101ALI20171002BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
C08L61/06
C08K3/24
C08J5/14CFB
C09K3/14 520C
C09K3/14 520J
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-65577(P2013-65577)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189612(P2014-189612A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】野本 琢也
【審査官】
柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−255051(JP,A)
【文献】
特開2010−235730(JP,A)
【文献】
特開2006−249206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08J 5/14
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤を含んでいない硬化前のノボラック型フェノール樹脂に、平均粒子径1〜50μmのチタン酸塩化合物を分散して含有させたことを特徴とする熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物。
【請求項2】
前記チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が、2質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物。
【請求項3】
前記チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が、2質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物。
【請求項4】
前記チタン酸塩化合物が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種の元素の塩であること特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物。
【請求項5】
摩擦材用樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の摩擦材用樹脂組成物を含有したことを特徴とする摩擦材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物を製造する方法であって、
液状の前記ノボラック型フェノール樹脂を準備する工程と、
液状の前記ノボラック型フェノール樹脂に、前記チタン酸塩化合物を混合して分散させる工程とを備えることを特徴とする熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
液状の前記ノボラック型フェノール樹脂を準備する工程が、前記ノボラック型フェノール樹脂を加熱溶融することにより液状にする工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の摩擦材を製造する方法であって、
請求項7または8に記載の方法で熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物を製造する工程と、
前記熱硬化性樹脂調製用樹脂組成物に硬化剤を添加した後、粉砕する工程と、
前記粉砕物を用いて、摩擦材組成物を調整する工程と、
前記摩擦材組成物を加熱成形することにより摩擦材を作製する工程とを備えることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、摩擦材及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種車両や産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等の摩擦材には、熱硬化性樹脂等の結合材、チタン酸塩化合物等の無機充填材、有機充填材等を乾式混合した混合物を用いられている。該混合物は、常温にて所定圧力で成形し、次いで所定温度にて熱成形し、熱処理及び仕上げ処理することにより摩擦材等の成形体に仕上げられている。
【0003】
チタン酸塩化合物として、一般式M
2O・nTiO
2(式中、Mはアルカリ金属元素)で表わされるチタン酸アルカリ金属塩が使用されている。しかし、n=2〜4のチタン酸アルカリ金属塩は、結晶構造が層状であるため、摩擦材の成形時に層間に存在するアルカリ成分が溶出して、摩擦材のマトリックス樹脂を劣化することがある。また、n≧6のチタン酸アルカリ金属塩は、アルカリ成分の溶出が少ないものの、耐摩耗性が十分ではない。
【0004】
特許文献1は、摩擦界面におけるフリクションフィルム及びトランスファーフィルムの形成にアルカリ成分の溶出が寄与していることを開示している。そこで、特許文献1は、非晶質チタン酸アルカリ金属塩と、n≧6の結晶質チタン酸アルカリ金属塩を併用することで、摩擦によるチタン酸アルカリ金属の摩滅破壊、軟化、溶融等により適量のアルカリ成分を溶出させ、耐摩耗性を改善させることを提案している。特許文献2は、無機充填材の表面をフェノール樹脂で被覆することで、耐摩耗性を改善することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−235730号公報
【特許文献2】特開2007−126600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摩擦材用の樹脂組成物として、より耐摩耗性の優れたもの、成形性が優れたものが求められている。しかし、特許文献1は、作用の異なるチタン酸塩化合物を併用するため、摩擦界面へのアルカリ溶出が効率的ではないという問題がある。特許文献2は、フェノール樹脂を調製後、溶剤に溶解することで、無機充填材をフェノール樹脂で被覆しているため、多量の溶剤を使用する必要があることと、製造工程が多くなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、摩擦材等として用いた場合に、優れた成形性と耐摩耗性を付与することができる樹脂組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の樹脂組成物、摩擦材及びそれらの製造方法を提供する。
【0009】
項1 硬化前の熱硬化性樹脂に、チタン酸塩化合物を分散して含有させたことを特徴とする樹脂組成物。
【0010】
項2 熱硬化性樹脂が、硬化剤を含んでいないことを特徴とする項1に記載の樹脂組成物。
【0011】
項3 チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が、2質量%以上であることを特徴とする項1または2に記載の樹脂組成物。
【0012】
項4 チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が、2質量%未満であることを特徴とする項1または2に記載の樹脂組成物。
【0013】
項5 チタン酸塩化合物が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種の元素の塩であること特徴とする項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0014】
項6 熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることを特徴とする項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0015】
項7 摩擦材用樹脂組成物であることを特徴とする項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0016】
項8 項7に記載の摩擦材用樹脂組成物を含有したことを特徴とする摩擦材。
【0017】
項9 項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を製造する方法であって、液状の前記熱硬化性樹脂を準備する工程と、液状の前記熱硬化性樹脂に、前記チタン酸塩化合物を混合して分散させる工程とを備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【0018】
項10 液状の前記熱硬化性樹脂を準備する工程が、前記熱硬化性樹脂を加熱溶融することにより液状にする工程を含むことを特徴とする項9に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0019】
項11 項8に記載の摩擦材を製造する方法であって、項9または10に記載の方法で樹脂組成物を製造する工程と、前記樹脂組成物に硬化剤を添加した後、粉砕する工程と、前記粉砕物を用いて、摩擦材組成物を調整する工程と、前記摩擦材組成物を加熱成形することにより摩擦材を作製する工程とを備えることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の樹脂組成物は、摩擦材等に用いた場合、優れた成形性と耐摩耗性を付与することができる。本発明の摩擦材は、優れた成形性と耐摩耗性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、硬化前の熱硬化性樹脂に、チタン酸塩化合物を分散して含有させたことを特徴としている。硬化前の熱硬化性樹脂には、硬化剤が含まれていないことが好ましい。硬化剤が含まれていると、チタン酸塩化合物を混合するために熱硬化性樹脂を加熱溶融した際、熱硬化性樹脂が硬化してしまう場合がある。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、硬化前の熱硬化性樹脂に、硬化剤が含まれていてもよい。
【0023】
チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が多いと、摩擦材に用いた場合に耐摩耗性を高めることができる一方で、摩擦材が劣化する。本発明によれば、このようなアルカリ溶出率が多いチタン酸塩化合物の欠点を解消することができる。すなわち、本発明によれば、アルカリ溶出率が多いチタン酸塩化合物を用いた場合に生じる摩擦材の劣化を抑制することができる。アルカリ溶出率が多いチタン酸塩化合物としては、アルカリ溶出率が2質量%以上であるものが挙げられ、より好ましいものとしては2〜4質量%の範囲のものが挙げられ、さらに好ましいものとして2〜3質量%の範囲内のものが挙げられる。アルカリ溶出率は、4.5質量%以下であることが好ましい。
【0024】
一方、チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率が少ないと、摩擦材の劣化を抑制することができる。しかしながら、良好な耐摩耗性を得ることができない。本発明によれば、このようなアルカリ溶出率が少ないチタン酸塩化合物の欠点を解消することができる。すなわち、本発明によれば、耐摩耗性を改善することができる。アルカリ溶出率が少ないチタン酸塩化合物としては、アルカリ溶出率が2質量%未満であるものが挙げられ、より好ましいものとして0.1〜1.5質量%の範囲内のものが挙げられ、さらに好ましいものとして0.1〜1質量%の範囲内のものが挙げられる。アルカリ溶出率は、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0025】
本発明で使用するチタン酸塩化合物の水分散pHは、7〜11であることが好ましく、8〜10であることがより好ましく、9〜11であることがさらに好ましい。チタン酸塩化合物の水分散pHを、このような範囲内にすることにより、チタン酸塩化合物に含まれる酸性不純物による耐摩耗性の低下を抑制することができる。
【0026】
本発明においてアルカリ溶出率とは、80℃の水中においてチタン酸塩化合物から水中に溶出したアルカリ金属及びアルカリ土類金属の質量割合のことをいう。アルカリ溶出率は、例えばイオンクロマトグラフにて測定することができる。本発明において水分散pHとは、チタン酸塩化合物を20℃の水に分散させて得られるスラリーのpHのことをいう。
【0027】
本発明で使用するチタン酸塩化合物は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種の元素の塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムである。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが挙げられ、好ましくはマグネシウム、カルシウムである。
【0028】
チタン酸塩化合物としては、例えば、一般式M
2O・nTiO
2(式中、Mはアルカリ金属の1種又は2種以上、nは4〜11の数)で表わされるチタン酸アルカリ金属塩、一般式RO・TiO
2(式中、Rはアルカリ土類金属の1種又は2種以上)で表わされるチタン酸アルカリ土類金属塩、一般式M
xA
yTi
2−yO
4(式中、Mはリチウムを除くアルカリ金属、Aはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、マンガンより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5〜1.0、yは0.25〜1.0の数)で表わされるチタン酸塩化合物、一般式K
0.5〜0.8Li
0.27Ti
1.73O
3.85〜4で表わされるレピドクロサイト型チタン酸リチウムカリウム、一般式K
0.2〜0.8Mg
0.4Ti
1.6O
3.7〜4で表わされるレピドクロサイト型チタン酸マグネシウムカリウム等を挙げることができる。これらの中でも結晶構造がトンネル構造のチタン酸塩化合物が好ましく、具体的には、Na
2Ti
6O
13、Na
2Ti
8O
17、K
2Ti
6O
13、K
2Ti
8O
17、Li
4Ti
5O
12、CaTiO
3、MgTiO
3等を挙げることができる。トンネル構造にすることで、チタン酸塩化合物からのアルカリの溶出を抑えることできる。
【0029】
チタン酸塩化合物の形状は、繊維状や、球状、層状、板状、柱状、ブロック状、不定形状などの非繊維状の粒子があるが、摩擦摩耗特性向上の観点から非繊維状であることが好ましい。平均粒子径は0.1〜50μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、1〜20μmであることがさらに好ましい。本発明において平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0030】
本発明で使用する熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂の中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、例えばフェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等を挙げることができる。この中でもフェノール樹脂が好ましい。
【0031】
フェノール樹脂には、塩基性触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類を反応させて得ることができるレゾール型フェノール樹脂と、酸性触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類を反応させて得ることができるノボラック型フェノール樹脂等を例示できるが、機械的強度と耐熱性の観点からノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0032】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−フェニルフェノール等の1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等の2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物等の3価以上の多価フェノール類等が挙げられる。これらを1種または2種類以上組み合わせて使用することもできる。好ましくは1価フェノール類を用いるのがよい。
【0033】
前記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド等のモノアルデヒド類;グリオキザール等のジアルデヒド類等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。好ましくはモノアルデヒド類を用いるのがよい。
【0034】
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.5〜0.9とすることが好ましい。
【0035】
反応モル比を上記範囲にすることにより、反応中に樹脂がゲル化することなく、好適な分子量を有するノボラック型フェノール樹脂を合成することができる。反応モル比が上記下限値未満では、得られるノボラック型フェノール樹脂中に含有される未反応のフェノール類の量が多くなることがある。また、反応モル比が上記上限値を越えると、反応条件によってはノボラック型フェノール樹脂がゲル化することがある。
【0036】
前記酸性触媒としては、特に限定されないが、シュウ酸などの有機酸や塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを用いることができる。酸性触媒の使用量は特に限定はされないが、フェノール類(P)と触媒(A)を反応させる際の反応モル比[A/P]としては0.001〜0.2とすることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.1であることが好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物におけるチタン酸塩化合物の含有量は、樹脂組成物の合計に対して10〜90質量%の範囲とするのがよい。チタン酸塩化合物の上限値は、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。チタン酸塩化合物の下限値は10質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましい。
【0038】
本発明の製造方法では、液状の熱硬化性樹脂にチタン酸塩化合物を混合して分散させることを特徴としている。液状の熱硬化性樹脂にチタン酸塩化合物を混合して分散させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、(1)熱硬化性樹脂を加熱溶融し、溶融した熱硬化性樹脂とチタン酸塩化合物を混合する方法、(2)チタン酸塩化合物の存在下で熱硬化性樹脂原料モノマーを重合させる方法、(3)熱硬化性樹脂を溶剤に溶解し、これにチタン酸塩化合物を混合する方法等が挙げられる。これらの中でも、上記(1)の方法は特に好ましい。具体的には、溶融した熱硬化性樹脂にチタン酸塩化合物を添加して混合する方法、熱硬化性樹脂原料モノマーを重合させた後にチタン酸化合物を添加し混合する方法、チタン酸塩化合物に溶融した熱硬化性樹脂を添加して混合する方法、熱硬化性樹脂とチタン酸塩化合物を各々粉砕したものを乾式混合した後に加熱して熱硬化性樹脂を溶融させる方法、熱硬化性樹脂とチタン酸塩化合物を同時に粉砕して乾式混合した後に加熱して熱硬化性樹脂を溶融させる方法、などを例示することができる。熱硬化性樹脂を加熱溶融させるための温度としては、熱硬化性樹脂が流動性を有する温度を適宜選択することができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、その好ましい物性を損なわない範囲で、従来、摩擦材に一般に摩擦調整材として使用される添加材等を1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。このような摩擦調整材としては、例えば、研削材、潤滑材、有機ダスト、金属類、充填材などを挙げることができる。これらは、製品に要求される摩擦特性、例えば、摩擦係数、耐摩耗性、振動特性、鳴き特性等に応じて配合することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物を硬化することにより、優れた耐摩耗性を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることができる。この理由は定かではないが、従来の方法よりもチタン酸塩金属化合物を摩擦材中に均一に分散させることで耐摩耗性が向上し、さらにチタン酸塩金属化合物が熱硬化性樹脂中に存在することで熱硬化性樹脂の硬化阻害を抑制しつつ耐摩耗性も向上するものと考えられる。本発明の樹脂組成物の硬化は、公知の熱硬化性樹脂の硬化方法、例えば加熱処理などにより行うことができ、必要に応じて硬化剤を使用しても良い。熱硬化性樹脂がノボラック型フェノール樹脂である場合は、前記硬化剤として、ヘキサメチレンテトラミンを用いることができる。ヘキサメチレンテトラミンの使用量は特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、5〜20質量部であることが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの使用量を前記範囲とすることで、特に機械的強度や耐摩耗性に優れた硬化物を得ることができる。本発明の樹脂組成物は、硬化物を得る前に、粉砕、造粒等により、その使用目的に応じた粒子径を調節してもよい。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、耐摩耗性を必要とする製品に使用することができるが、特にブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等の摩擦材に好適に用いることができる。例えば、ブレーキパッドとして用いる場合は、本発明の樹脂組成物に研削材潤滑材、有機ダスト、金属類、充填材、熱硬化性樹脂、硬化剤を混合したものを、常温にて所定圧力で成形し、次いで所定温度にて熱成形し、熱処理及び仕上げ処理することにより摩擦材の成形体に仕上げることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、アルカリ溶出率及び水分散pHは、下記の方法に従って評価した。
【0043】
<アルカリ溶出率>
チタン酸塩化合物の質量(X)を測定し、次いで該チタン酸塩化合物を蒸留水に加えて1質量%のスラリーを調製し、80℃で4時間撹拌後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで固形分を除去し、抽出液を得た。得られた抽出液のアルカリ金属とアルカリ土類金属の総質量(Y)をイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、ICS−1100)にて測定した。次いで、前記質量(X)及び(Y)の値を用い、式[(Y)/(X)]×100に基づいて、アルカリ溶出率を算出した。
【0044】
<水分散pH>
チタン酸塩化合物1gを蒸留水100mLに加えて1質量%のスラリーを調製し、得られたスラリーのpH(温度20℃)をpHメーター(堀場製作所社製、F21)にて測定し、水分散pHとした。
【0045】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
冷却器と撹拌機付きの反応容器に、フェノール150質量部、37%ホルマリン71質量部、次いで蓚酸2水和物2質量部を仕込んだ。徐々に昇温して温度95℃に達してから180分間還流反応を行った。次いで30Torrの減圧下で脱水反応を行い、温度150℃まで加熱した。その後、表1に記載のチタン酸塩化合物200質量部を加え均一な状態で撹拌した。続いて反応容器より排出して常温で固化させ、乳鉢で粉砕することにより、ノボラック型フェノール樹脂138g及びチタン酸塩化合物199gからなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物337質量部に対して、硬化剤としてのヘキサメチレンテトラミン14質量部を添加し、これを再度乳鉢で粉砕して、摩擦材用樹脂組成物を得た。
【0046】
(実施例2〜実施例7)
チタン酸塩化合物を表1に記載のチタン酸塩化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして摩擦材用樹脂組成物を得た。
【0047】
(比較例1)
冷却器と撹拌機付きの反応容器に、フェノール150質量部、37%ホルマリン71質量部、次いで蓚酸2水和物2質量部を仕込んだ。徐々に昇温して温度95℃に達してから180分間還流反応を行った。次いで30Torrの減圧下で脱水反応を行い、温度150℃まで加熱した。続いて反応容器より排出して常温で固化させ、乳鉢で粉砕することにより、ノボラック型フェノール樹脂141gを得た。続いて、ノボラック型フェノール樹脂141質量部にヘキサメチレンテトラミンを14質量部添加し、乳鉢で粉砕した。その後、表1に記載のチタン酸塩化合物200質量部を加え再度、乳鉢で粉砕した。
【0048】
(比較例2〜比較例7)
チタン酸塩化合物を表1に記載のチタン酸塩化合物に変更した以外は、比較例1と同様にして摩擦材用樹脂組成物を得た。
【0049】
<摩擦材の製造>
実施例1で得られた摩擦材用樹脂組成物27質量部に、アラミドパルプとフリクションダストの混合物8質量部、硫酸バリウム28質量部、無機充填材26質量部、黒鉛6質量部を配合し、レーディゲミキサーにて混合後、得られた混合物を仮成型(25MPa)、熱成型(150℃,20MPa)を行い、さらに熱処理(160〜210℃)を行い、ディスクブブレーキ用パッドを製造した。ディスクブレーキ用パッドとは、JIS D0107の
図20−152(番号152−4)に記載されている形状のものであり、ディスクブレーキシステムで使用される摩擦材である。
【0050】
実施例2〜実施例7、比較例1〜比較例7においても、実施例1と同様の方法で摩擦材を製造した。
【0051】
比較例7の摩擦材は膨れが生じた。
【0052】
<摩擦材の評価>
摩擦材の気孔率はJIS D4418に基づき測定した。摩擦材の摩耗量は、JASO C427に準拠し、ダイナモメーターにより測定した。摩擦後の摩擦材の外観は、比較例2より得られた摩擦材の摩擦面を基準の○とし、クラックの程度や白化した程度を比較し、状態の良いものから◎、○、△、×、××で表記した。結果を表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、アルカリ溶出率が比較的多いチタン酸塩化合物を用いた比較例4〜6では、耐摩耗性が優れているものの、気孔率が低く、摩擦後の摩擦材の外観が悪くなっている。これに対し、比較例4〜6と同じチタン酸塩化合物を用いた実施例4〜6では、耐摩耗性が優れており、気孔率が高く、さらに摩擦後の摩擦材の外観が改善されている。また、実施例7は、比較例7に比べ、耐摩耗性が優れており、摩擦後の摩擦材の外観も良くなっている。この理由としては、以下のことが考えられる。
【0055】
従来の場合、アルカリ溶出率が多いチタン酸塩化合物を用いると、フェノール樹脂の硬化が遅延し、3次元架橋の度合いが低下し、マトリックス強度が低下する。このため、摩擦材表面が脆くなり、摩擦後の摩擦材の外観が悪くなる。また、フェノール樹脂の硬化が遅延することで、成形中に硬化前のフェノール樹脂が流動しやすくなり気孔率が低下する。本発明によれば、チタン酸塩化合物から溶出するアルカリの影響を低減することができる。このため、気孔率を高めることができ、摩擦後の摩擦材の外観が改善することができる。
【0056】
本発明に従う実施例1〜3では、比較例1〜3に比べ、摩耗量が低減されていることがわかる。特に、400℃での摩耗量が低減されている。これは、本発明に従う樹脂組成物を用いることにより、樹脂組成物中でチタン酸塩化合物を均一に分散させることができ、またフェノール樹脂の硬化阻害を抑制できることによるものと考えられる。